JP4012725B2 - プリディストーション型増幅装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は増幅装置,特に無線送信機に関連し,電力増幅器を低歪かつ高効率で運転することを可能とするプリディストーション歪補償型増幅装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年,移動体通信基地局等に搭載される増幅装置では,装置の小型・低価格化を達成するため,できるだけ電力効率の高い大出力で電力増幅器を運転することが必要となっている。
【0003】
ところが,大出力運転時には非線形入出力特性の影響が大きくなることから,送信周波数帯域外に非線形歪が発生して他システムに対する妨害波となる。その発生量は電波法規によって厳しく規制されており,結果として大出力運転が困難となっている。この問題を解決するため,電力増幅器を高度に線形化することで非線形歪の発生量を減らして大出力運転を可能とする,いわゆる歪補償と呼ばれる技術が各種考案されている。
【0004】
歪補償技術の従来例として,特開平10-145146に記載されているようなディジタルプリディストーション型歪補償装置が考案されている。従来技術は,ベースバンドI,Q入力信号を複素信号とみなした場合の複素平面I+jQ上における振幅(パワー)情報に基づき複素補償係数を計算し,ベースバンド複素入力信号に複素乗算することで歪補償を行う方式であり,偏角情報は考慮していない。このような方式の場合,一般的な増幅器の非線形歪として知られる振幅対振幅歪(AM/AM変換)や,振幅対位相歪(AM/PM変換)のような,振幅にしか依存しないタイプの非線形歪に対しては有効である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
以上説明したように,従来技術では複素入力信号に関して振幅依存性のみを有する非線形歪しか存在しない場合においては有効であるが,例えば直交変調器の部分に実部,虚部ごとに独立した非線形性や利得偏差が存在するような場合を考えると,増幅器の入力振幅は複素入力信号の絶対値だけではなく偏角にも依存してしまうことになる。したがって,直交変調器と電力増幅器を合わせた全体で見れば複素数対複素数の対応関係に基づく補償が必要となり,振幅情報だけに基づく補償方式では補償が困難ということになる。
【0006】
また,電力増幅器が飽和出力を有し,さらに入力信号の分布関数が極めて大きい振幅の生起確率を有する,例えば正規分布に従うような信号である場合,大振幅信号が電力増幅器によって飽和することによって発生する歪を効果的に防止することが難しい。
【0007】
さらに従来技術の構成では,単一のベースバンド複素入力信号を補償の対象としており,複数の複素信号を異なる搬送波周波数で変調することによって得られる,いわゆるマルチキャリア信号を送信する際に発生する歪の補償は難しいと考えられる。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記従来技術の問題点を解決するため,本発明によるプリディストーション型増幅装置では,ベースバンド複素入力信号の振幅のみに基づいて歪補償を行うのではなく,複素入力信号の実部と虚部の2変数複素係数多項式を用いて歪補償演算を行うことで,正確な歪補償を可能とする。さらに,送信信号を復調することで得られる複素復調信号と,複素入力信号に基づき,歪補償演算に用いる複素係数を逐次更新することで,装置の経時特性変化にも自動的に追従し,常に良好な歪補償特性を得ることができる。
【0009】
また,本発明のプリディストーション型増幅装置の前段に,ベースバンド複素入力信号の瞬時振幅に基づき,所定値を超過する振幅を所定値まで減衰させるピークファクタ低減装置を備えることにより,信号振幅を所定値以下に収めることができるため,飽和による歪の発生を防止することが可能となる。
【0010】
さらに,複数のベースバンド複素入力信号を,離調周波数に依存して定まる複素搬送波で変調してそれぞれ加算し,単一の複素信号に合成して出力するマルチキャリア合成部を前段に追加することにより,マルチキャリア信号に対しても効果的な歪補償が可能となる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下,本発明の詳細を図に基づいて説明する。
図1は本発明の第1の実施例を示すブロック図である。まず,ベースバンド複素入力信号をSx=Ix+jQxで表す。Sxは,複素係数を有するIx,Qxの2変数多項式を演算する多項式演算部101へと入力される。多項式演算部101は, Ix,Qx信号に基づき数1に示すような単項式を要素とするベクトル信号Xvを生成するベクトル化部107と,複素数ckを要素とする数2に示すような係数ベクトルCvと前記ベクトル信号Xvとの内積を演算する内積演算器108とから構成される。内積演算を実行することにより,数3に示すような多項式に基づく複素信号Syが得られる。
【0012】
【数1】
Figure 0004012725
【数2】
Figure 0004012725
【数3】
Figure 0004012725
次に,直交変調器103では,多項式演算部出力信号Syの実部,虚部のそれぞれに互いに直交する搬送波に基づく直交変調を行う。さらに,電力増幅器104では,直交変調器103出力信号を所定の出力電力へ電力増幅し出力するのであるが,この際に非線形歪が出力に付加されることになる。次に,分配器105では電力増幅器出力信号の一部を分配する。直交復調器106は,分配器106出力信号を直交復調してベースバンド複素復調信号Szを生成する。
【0013】
ここで,ベースバンド複素復調信号Szは係数更新部102へと供給され,減算器109によって入力信号Sxからの残差信号Se=Sz-Sxが演算される。残差信号Seは定数倍器110によって‐μ倍される。このμは十分小さい正数であれば任意でよい。次に,乗算器110出力はベクトル信号Xvに乗算器111で乗算される。加算器112と遅延器113から成る積分回路では,乗算器111出力を更新量として数4に示すような係数ベクトルの逐次更新を行うと,時間の経過と共に係数ベクトルCvは残差信号Seの自乗平均値が小さくなるような値へと収束する。十分に収束した後にはSeがほぼゼロとなるため,係数ベクトルCvの更新量が極めて小さくなる。したがって係数ベクトルが更新されなくなり,この状態でバランスすることになる。
【0014】
【数4】
Figure 0004012725
なお,ベクトル信号Xvと複素係数ベクトルCvのサイズは,数3に示した2変数多項式の次数に依存して定まるものであり,多項式の最大次数を上げるほど補償精度は向上するが,ベクトルのサイズは大きくなるため,装置規模とのトレードオフの関係が発生する。そこで,所望の精度を実現するために必要な次数に応じた有限の値に設定すれば良いことになる。
【0015】
以上説明したように,本発明の第1の実施例によれば,ベースバンド複素入力信号の実部と虚部の2変数多項式関数として非線形歪補償を行うため,入力信号の絶対値だけでなく,偏角情報も考慮しないと補償が困難であるような性質の非線形歪に対しても,効果的に補償を行うことができる。
図2を用いて本発明の第2の実施例について説明する。図2は図1のプリディストーション型増幅装置の前段に,ベースバンド複素入力信号の瞬時振幅に基づき,所定値を超過する振幅を所定値まで減衰させる,ピークファクタ低減装置201を付加した構成となっている。
【0016】
ピークファクタ低減装置の実現方法は種々考えられるが,簡易な手段の一例として,ベースバンド帯域制限フィルタの前段にリミッタ回路を挿入し,大振幅に対して振幅制限を行った上で帯域制限を行うというような手段が挙げられる。
【0017】
いま,図1のプリディストーション型増幅装置の非線形入出力特性に,電力増幅器104の構成から定まる飽和出力が存在し,飽和出力を超える信号振幅を出力することが不可能であるものとする。一方,ベースバンド複素入力信号が,一例として正規分布に従うような信号であるとすると,生起確率は低いながらも,非常に大きな振幅が発生する場合がある。このような状況下では,プリディストーションでは飽和出力を超える大振幅信号部分についての線形化は原理的に困難であるため,出力振幅の飽和によって歪が発生することになる。
【0018】
ところが,大振幅信号は生起確率が低いので,大振幅部分の振幅情報が一部失われたとしても,全体の通信品質劣化への影響は僅かなものである。そこで,図2の構成を用いることで,ピークファクタ低減装置201によって所定値を超過した大振幅を所定値まで減衰させて,発生する振幅の全てを電力増幅器104の飽和振幅以内に収めることができる。従ってプリディストーションでは飽和振幅以下の領域で入出力特性を線形化すればよいから,その結果として飽和による歪を含めた非線形歪の発生を防止することができる。
【0019】
図3を用いて本発明の第3の実施例について説明する。図3は図1の実施例の前段に,3種類のベースバンド複素入力信号S1〜S3を,システム仕様から定まる離調周波数を有する複素搬送波で変調する複素変調器302〜304と,複素変調器302〜304出力信号を加算合成し,単一の複素信号に合成して出力するする加算器305とから成るマルチキャリア合成部301を付加した構成となっている。
【0020】
図1の実施例は単一の複素信号から成る,いわゆるシングルキャリア信号に対する歪補償しかできない構成であったが,前段に本実施例によるマルチキャリア合成部301を付加することにより,ベースバンド領域でマルチキャリア化された信号を単一の複素信号として取り扱うことができるため,マルチキャリア信号に対しても効果的に歪補償を行うことが可能となる。
【0021】
なお,本実施例では3キャリア信号の場合を説明したが,本発明は3キャリアに限定されるものではなく,同様にして複素変調器の数を増やすことにより任意のキャリア数のマルチキャリア信号に対する歪補償が可能となる。
【0022】
また,本実施例におけるマルチキャリア合成部301は,上記と全く同様にして第2の実施例の前段に付加することもでき,この構成は電力増幅器104の入出力特性に飽和出力が存在し,さらに入力信号に大振幅をとる確率が存在するような場合において非線形歪の発生防止に効果的である。
【0023】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の第1の実施例によれば,複素入力信号の振幅だけでなく偏角にも依存して定まる性質の非線形歪に対しても,効果的に補償を行うことができる。また,本発明の第2の実施例によれば,プリディストーションによる補償が困難な大振幅信号に対しても歪の発生を防止することができる。また,本発明の第3の実施例によれば,シングルキャリア信号だけでなくマルチキャリア信号に対しても,効果的に補償を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施例を示すブロック図。
【図2】第2の実施例を示すブロック図。
【図3】第3の実施例を示すブロック図。
【符号の説明】
101…多項式演算部、102…係数更新部、103…直交変調器、104…電力増幅器、105…分配器、106…直交復調器、107…ベクトル化部、108…内積演算部、109…加算器、110…定数倍器、111…乗算器、112…加算器、113…遅延器、201…ピークファクタ低減装置、301…マルチキャリア合成部,302〜304…複素変調器、305…加算器。

Claims (4)

  1. 入力されたベースバンド複素入力信号 Sx=Ix+jQx を演算して、複素係数を有する2変数多項式である複素信号 Sy=Iy+jQy を出力する多項式演算部と,
    該多項式演算部出力信号である複素信号 Syの実部と虚部を互いに直交する2つの搬送波を用いて直交変調する直交変調器と,
    該直交変調器出力信号を電力増幅する電力増幅器と,
    電力増幅器出力信号の一部を分配する分配器と,
    該分配器出力信号を直交復調してベースバンド複素復調信号Szを生成する直交復調器と,
    上記ベースバンド複素入力信号Sxと上記ベースバンド複素復調信号Szの残差信号Se=Sz-Sxに基づき前記多項式演算部の複素係数を逐次更新する係数更新部とを備え、
    上記多項式演算部は、上記ベースバンド複素入力信号の Ix 及び Qx 信号に基づきベクトル信号 Xv を生成するベクトル化部と、
    Figure 0004012725
    上記ベクトル信号 Xv と上記係数更新部で更新される複素係数のベクトル Cv
    Figure 0004012725
    との内積を演算して複素信号 Sy
    Figure 0004012725
    を得る内積演算部とを有することを特徴とするプリディストーション型増幅装置。
  2. 請求項1記載のプリディストーション型増幅装置の前段に,ベースバンド複素入力信号の瞬時振幅に基づき,所定値を超過する振幅を所定値まで減衰させる,ピークファクタ低減装置を備えることを特徴とするプリディストーション型増幅装置。
  3. 請求項1または2に記載のプリディストーション型増幅装置の前段に,複数のベースバンド複素入力信号を,離調周波数に依存して定まる複素搬送波で変調してそれぞれ加算し,単一の複素信号に合成して出力するマルチキャリア合成部を備えることを特徴とする増幅装置。
  4. 上記係数更新部では、係数ベクトルCvの逐次更新
    Figure 0004012725
    を行うことを特徴とする請求項1記載のプリディストーション型増幅装置。
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