JP4011265B2 - ポリプロピレン繊維及びその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリプロピレン繊維、特に不織布製造用原料として用いるのに好適なポリプロピレン繊維であって、製造された不織布が柔らかく且つ高強度を有するとともに、不織布製造後の加工時に優れた作業性及び物性を有するようなポリプロピレン繊維に関すると共に、その製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、ポリオレフィンポリマーからステープル繊維を製造するにあたっては、ポリマーと一定量の添加剤とを混合し、これを通常の工業的工程にて溶融押出して繊維を生産した後、溶融押出しされた繊維にクリンプを付与し、一定の長さに切断するという一連の工程を経ている。
【0003】
また、ポリオレフィンステープルから不織布を製造する一般的な工程は、ステープルをカーディング機(carding machine)により不織布状態のウェブ(web)を形成し、これを熱結合させるというものである。
【0004】
このとき、ウェブを熱結合させるために、一対のカレンダーローラー(calender roller)を用いる方法、超音波を用いる方法及び熱風を用いる方法などが主に用いられている。
【0005】
特に、ポリプロピレン繊維又はステープルから不織布を製造する場合には、オープニング(opening)及びカーディング(carding:梳綿)工程により繊維が配列、交絡されてウェブ形態に整形され、これがダイヤモンド形又はデルタ形柄を有するカレンダーローラーによって熱結合されることにより色々な産業的用途に使用できる不織布が製造されるか、又は、カレンダーローラーではなく熱風を用いる方法であってカーディング工程を経たウェブを還流させる多孔性ドラムにおいて加熱空気にて結合させる方法により不織布が製造される。
【0006】
ここで、ポリプロピレン不織布は、使い捨ておむつ、尿失禁者用おむつ、マスク、衛生用不織布、医療用不織布などの用途に使用される。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
このような用途に使用される不織布は、織物程度の強度は必要とはされないが2次加工及び使用可能な程度の強度が必要とされ、特に皮膚に直接接触する製品である場合には、柔らかく皮膚の安全性という面で適合するものでなければならない。
【0008】
ここで、不織布の強度は、不織布の製造原料である繊維の物性に従って変化するのと同様に、不織布を製造する技術に従って変化する。
【0009】
一方で、不織布の製造工場では、生産性を向上させるため生産速度を高速化が進められているが、生産速度を高速化するだけでなく、不織布製造用の繊維にも更に優れた物性が要求されている。
【0010】
本発明の目的は、高速のカーディング機用としても好適であり、熱融着後に優れた強度と柔軟性を発現する不織布用ポリプロピレン繊維を提供することにある。
【0011】
また、本発明の他の目的は、前記特性を有する不織布用ポリプロピレン繊維を製造する方法を提供することにある。
【0012】
本発明の更に他の目的は、前記不織布用ポリプロピレン繊維から製造された不織布を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
前述したような不織布産業における要求に応じるために、本発明者らは長年の研究開発の経験に基づいて、それに合致するポリプロピレン繊維又はステープルを製造できる方法を発明した。
【0014】
前記目的を達成するための本発明者らの研究において、視差走査熱量計(DSC:Differential Scanning Colorimeter)で測定したとき2つの吸熱ピークを有するポリプロピレンホモポリマー(ポリプロピレン単独重合体)繊維は、従来の関連分野で全く報告されていない新構造の繊維であり、前記目的とする特性を有するという驚くべき事実が見出された。
【0015】
加えて、前記のような構造の繊維は、繊維製造工程の全般を通じて各工程のメルトフローレート(溶融指数、Melt Index:MI)と多分散性指数(多分散指数、Polydispersity Index:PI)を特定の水準となるように管理することによって製造することができるということが見出された。ここで、本明細書において、MIは原料となるアイソタクチックポリプロピレンのメルトフローレートを、MIは前記ホモポリマーを溶融して得られる溶融ポリマーのメルトフローレートを、MIは前記溶融ポリマーから得られる繊維のメルトフローレートをそれぞれ示す。また、PIは原料となるアイソタクチックポリプロピレンの多分散指数を、MIは前記ホモポリマーを溶融して得られる溶融ポリマーの多分散指数を、MIは前記溶融ポリマーから得られる繊維の多分散指数をそれぞれ示す。
【0016】
本発明によれば、ホモポリマーであってアイソタクチック指数(Isotactic Index)が90〜99%であるアイソタクチックポリプロピレンを溶融紡糸するか又は溶融紡糸及び延伸をした繊維であり、DSC吸熱ピークが155〜170℃で2つ存在することを特徴とするポリプロピレン繊維が提供される。
【0017】
具体的には、本発明の前記特性を有するポリプロピレン繊維は、(a)アイソタクチック指数が90〜99%、メルトフローレートMIが10〜40(より好ましくは10〜30)、多分散指数PIが2.5〜6.0(より好ましくは2.8〜5.0、最も好ましくは3.5〜4.3)であるアイソタクチックポリプロピレンホモポリマーを、メルトフローレートMIが10.1〜41.0、多分散指数PIが多分散指数PIより10%以下の狭さに、メルトフローレートMI、MIの比(MI/MI)が1.10〜1.50の範囲となるように溶融させる段階と、(b)メルトフローレートMIが16.5〜80.0、多分散指数PIが多分散指数PIより20%以下の狭さに、メルトフローレートMI、MIの比(MI/MI)が1.65〜7.50の範囲にある繊維を製造するために前記溶融ポリマーを紡糸(又は紡糸及び延伸)する段階と、を含む方法により製造することができる。
【0018】
即ち、本発明による前記特性のポリプロピレン繊維は、(a)ホモポリマーで、アイソタクチック指数が90〜99%であり、溶融指数MIが10〜40、より好ましくは10〜30であり、多分散指数PIは2.5〜6.0、より好ましくは2.8〜5.0、最も好ましくは3.5〜4.3であるアイソタクチックポリプロピレンを溶融させることにおいて、得られる溶融ポリマーの溶融指数と原料の溶融指数の比(MI/MI)が1.10〜1.50であり、多分散指数(PI)がPIより10%以下に狭くなるように溶融させる段階と、(b)前記溶融ポリマーを紡糸するか、又は紡糸及び延伸して繊維化することにおいて、得られる繊維の溶融指数MIが16.5〜80.0であり、MI/MI=1.65〜7.50であり、多分散指数PIがPIより20%以下に狭くなるように、紡糸するか又は紡糸及び延伸する段階とを含む方法により製造できる。
【0019】
より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0020】
(1) ホモポリマーであってアイソタクチック指数が90〜99%であるアイソタクチックポリプロピレンを溶融紡糸した繊維又は溶融紡糸及び延伸をした繊維であり、155〜170℃で2つのDSC吸熱ピークを有することを特徴とするポリプロピレン繊維。
【0021】
(2) 1次吸熱ピークが160±3℃で現れ、2次吸熱ピークが165±3℃で現れることを特徴とする(1)記載のポリプロピレン繊維。
【0022】
(3) 前記繊維のメルトフローレート(MI)が16.5〜80.0であることを特徴とする(1)記載のポリプロピレン繊維。
【0023】
(4) 前記繊維の多分散指数(PI)が2.1〜5.7であることを特徴とする(1)記載のポリプロピレン繊維。
【0024】
(5) 前記繊維の繊度が1.0〜80.0デニール/フィラメントであることを特徴とする(1)記載のポリプロピレン繊維。
【0025】
(6) 前記繊維の多分散指数(PI)が2.3〜4.5であることを特徴とする(1)記載のポリプロピレン繊維。
【0026】
(7) 安定剤及び/又は酸化防止剤を0.03〜2.0重量%含有することを特徴とする(1)記載のポリプロピレン繊維。
【0027】
(8) 安定化剤及び/又は酸化防止剤を0.03〜0.7重量%含有することを特徴とする(7)記載のポリプロピレン繊維。
【0028】
(9) 安定化剤及び/又は酸化防止剤を0.03〜0.4重量%含有することを特徴とする(8)記載のポリプロピレン繊維。
【0029】
(10) ポリプロピレン繊維の製造方法であって、(a)アイソタクチック指数が90〜99%、メルトフローレート(MI)が10.0〜40.0、多分散指数(PI)が2.5〜6.0であるアイソタクチックポリプロピレンホモポリマーを、前記ホモポリマーを溶融して得られる溶融ポリマーのメルトフローレート(MI)と前記ホモポリマーのメルトフローレート(MI)の比(MI/MI)が1.01〜1.50となり、前記溶融ポリマーの多分散指数(PI)が前記ホモポリマーの多分散指数(PI)より10%以下に狭くなるように溶融させる段階と、(b)得られる繊維のメルトフローレート(MI)が16.5〜80.0となり、得られる繊維のメルトフローレート(MI)と前記ホモポリマーのメルトフローレート(MI)の比(MI/MI)が1.65〜7.50となり、多分散指数(PI)が前記ホモポリマーの多分散指数(PI)より20%以下に狭くなるような繊維を製造するために前記溶融ポリマーを紡糸するか又は紡糸してから延伸する段階と、を含むことを特徴とするポリプロピレン繊維の製造方法。
【0030】
(11) 前記段階(a)で、ポリプロピレンに安定剤及び/又は酸化防止剤を0.03〜2.0重量%配合することを特徴とする(10)記載のポリプロピレン繊維の製造方法。
【0031】
(12) 前記メルトフローレート(MI)が10〜30であることを特徴とする(10)記載のポリプロピレン繊維の製造方法。
【0032】
(13) 前記多分散指数(PI)が2.8〜5.0であることを特徴とする(10)記載のポリプロピレン繊維の製造方法。
【0033】
(14) 前記多分散指数(PI)が3.5〜4.3であることを特徴とする(13)記載のポリプロピレン繊維の製造方法。
【0034】
(15) 前記繊維の繊度が1.0〜80.0デニール/フィラメントであることを特徴とする(10)記載のポリプロピレン繊維の製造方法。
【0035】
(16) 前記多分散指数(PI)が10.1〜41.0であることを特徴とする(10)記載のポリプロピレン繊維の製造方法。
【0036】
(17) 前記多分散指数(PI)が2.1〜5.7であることを特徴とする(10)記載のポリプロピレン繊維の製造方法。
【0037】
(18) 前記多分散指数(PI)が2.3〜4.5であることを特徴とする(17)記載のポリプロピレン繊維の製造方法。
【0038】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0039】
本発明のポリプロピレン繊維は、アイソタクチック指数が90〜99%であるアイソタクチックポリプロピレンホモポリマーを溶融紡糸又は溶融紡糸及び延伸して得られる繊維であり、155〜170℃で2つのDSC吸熱ピークを有している。好ましくは、本発明のポリプロピレン繊維は、160±3℃で1次吸熱ピークを示し、165±3℃で2次吸熱ピークを示すものである。
【0040】
ここで、本発明による繊維を熱融着方式による不織布の製造に用いれば、熱融着後に優れた強度と柔軟性を表すようになる。これは、熱融着時に、熱又は熱及びロール間の圧力により熱溶融された繊維が再び固化する過程で、溶融温度の高い部分が早く再結晶することによる瞬間的な固化(速くなった固化速度)のためであると推定される。
【0041】
本発明の繊維の製造において、原料として使用されるポリプロピレンホモポリマーは、アイソタクチック指数が90〜99%であるアイソタクチックポリプロピレンである。
【0042】
本発明のポリプロピレン繊維は、メルトフローレートMIが16.5〜80.0、原料であるアイソタクチックポリプロピレンのメルトフローレートMIより1.65〜7.50倍程度大きいものであるのが好ましい。
【0043】
また、本発明のポリプロピレン繊維は、メルトフローレートMIが16.5〜80.0であり、多分散指数PIが2.1〜5.7(より好ましくは3.5〜4.3)であるのが好ましい。また、繊維の多分散指数PIが原料であるアイソタクチックポリプロピレンの多分散指数PIより20%以下に狭いものが好ましい。
【0044】
本発明のポリプロピレン繊維は繊度が1.0〜80.0デニールであることが好ましい。
【0045】
ここで、前記アイソタクチックポリプロピレンは、メルトフローレートMIが10〜40であり、多分散指数PIが2.5〜6.0であるのが好ましい。
【0046】
上記のようなポリプロピレンを押出機内で溶融させるときは、安定剤又は酸化防止剤を0.03〜2.0重量%(好ましくは0.03〜0.7重量%、より好ましくは0.03〜0.2重量%)の量で配合することが好ましい。
【0047】
本発明の繊維を製造する際には、前記安定剤又は酸化防止剤の他にも、還元剤、着色剤、カルボン酸金属塩(metal carboxylates)などのような一般的な添加剤を配合してもよい。
【0048】
ここで、前記カルボン酸金属塩としては、「2−エチルヘキサン酸、カプリル酸、デカン酸及びドデカン酸」のニッケル塩及びFe、Co、Ca及びBaの2−エチルヘキサン酸塩から構成される群の中から選択されたものを用いることができる。
【0049】
また、還元剤及び着色剤としては、石油化学工場でポリプロピレンホモポリマーを製造する工程で使用されるカルシウムステアレートのような物質を選択して用いることができる。
【0050】
なお、ヨーロッパ特許第279,511号には、本発明に使用可能な多様な種類の添加剤が記載されている。
【0051】
ここで、本発明で用いるポリプロピレンホモポリマーについて更に説明すると、メルトフローレートMIが10未満であるポリプロピレンホモポリマーの場合には、紡糸時に口金圧力が上昇して生産性が低下し、溶融紡糸時に高温の熱を加えなければならないためエネルギー消耗が増大し、繊維の強直性(剛直性)が増大するため柔軟性が要求される不織布の用途には適さない。
【0052】
従って、メルトフローレートMIが10以上であるポリプロピレンを使用することが好ましいが、メルトフローレートMIが無限に大きいものを使用することもできない。
【0053】
メルトフローレートMIが40を超えるポリプロピレンホモポリマーの場合には、繊維の強度が不織布用に適さないものとなり、紡糸後の冷却工程で不完全冷却が頻繁に発生し、不完全な冷却が起こると近接繊維との融着現象が発生することもある。
【0054】
本発明の繊維とは、「原料の溶融、紡糸、固化及び巻き取りの工程だけによって製造される溶融紡糸した繊維」、又は、「原料の溶融、紡糸、延伸、場合によっては、クリンピング、熱固定、ステープルへの切断などの一連の工程が連続又は不連続的に行われることにより製造される溶融紡糸及び延伸後の繊維」のことを意味している。なお、溶融紡糸した繊維と溶融紡糸及び延伸した繊維とでは、メルトフローレートMI、多分散指数PI及びDSC吸熱ピークの違いは殆どない。
【0055】
本発明によるポリプロピレン繊維又はステープルを製造するための一方法においては、前記原料ポリマーを押出機内で溶融して溶融ポリマーにする際に、メルトフローレートMI、MIの比(MI/MI)が1.01〜1.50、多分散指数PIが多分散指数PIより10%以下、好ましくは5%以下に狭くなるようにすることが好ましい。より好ましいのは、多分散指数PIは2.4〜5.0の範囲内にあるように管理することである。
【0056】
例えば、メルトフローレートMIがメルトフローレートMIの1.5倍を超えた場合には、分子鎖が切断するため固有の強度を維持できなくなり、紡糸工程で多く分解すると、粘度が低下し、口金で分子鎖が配向するのに十分でなくなることもある。
【0057】
また、紡糸に適した圧力を維持し得ないだけでなく、製造された繊維の強度が低下する。このような繊維を用いた不織布は触感が荒くなり、その結果生産性が低下することとなる。
【0058】
さらに押出工程時に、1%以上のメルトフローレート変化(MI変化)が自然に発生し、メルトフローレートMIより1.01倍以下にまで変化すると、繊維製造工程が非常に困難になる。特に、紡糸口金での粘度が非常に高くなるため口金の圧力が上昇し、紡糸工程が非常に不安定になる。また、生産性が低下し、繊維品質の偏りも著しくなる。
【0059】
次に、紡糸後の冷却条件を調節して、押出工程で変化したポリマーのメルトフローレートを2次的に変化させる。冷却段階でのMI変化は、遅延冷却部の温度、雰囲気、冷却空気の温度、速度、量を調整することにより行われる。ここで、遅延冷却と冷却空気の利用については、米国特許第4,193,961号公報及びそのほかの文献(例えば、ソサイエティ オブ プラスティックス エンジニアーズ インク(SOCIETY OF PLASTICS ENGINEERS, Inc.)がスポンサーとなったM.アーメッド(M.AHMED)の“ポリプロピレン繊維の科学と技術(POLYPROPYLENE FIBERS-SCIENCE AND TECHNOLOGY)”というタイトルの論文)などに記述されている。
【0060】
本発明の製造方法において、冷却段階を経た繊維は、そのメルトフローレートMIがメルトフローレートMIより1.65〜7.50倍高く、多分散指数PIが原料ポリマーの多分散指数PIより20以下に狭くなるように(つまり、0.80×PIよりは広くなるように)管理することが好ましい。好ましい多分散指数PIの範囲は2.1〜5.7、より好ましくは2.3〜4.5、より好ましくは3.0〜4.0である。
【0061】
メルトフローレートMIが前記範囲を外れると原糸強度が低下し、そのような原糸を用いて不織布を製造した場合には、カード・クロージング(card clothing:針布)に汚染されやすく、カレンダーロール上で部分的に溶融するなどの問題が発生し、生産性が悪くなる。即ち、分子量が大きく低下して繊維強度が低下し、口金で紡糸後の冷却効果が低下して繊維間の融着現象が発生し、繊維を製造してから不織布を製造した場合には、開繊、カーディング工程において破損した繊維粉末が多く発生し、工程に悪影響を及ぼす。また、最終的に熱結合させるカレンダーロールの表面で熱に弱い部分が溶融することもあり、カレンダーロールの表面が汚れやすい。
【0062】
また、メルトフローレートMIが前記範囲を下回ると、原糸の強度は増大するが、このような原糸を用いて不織布を製造した場合には、不織布の熱接着指数(Thermal Bonding Index、以下“TBI”と略称する)を所望の大きさに改良することが困難になる。即ち、不織布の製造後にTBIの値が低下し、不織布のタッチが荒く感じられるようになる(この性質を「ハーシュ(harsh)な性質と言う」)。なお、不織布の製造時に、カレンダーロールの温度を上昇させるか熱結合面積を増大させる方法などにより、強度を向上させるかTBI値を向上させることもできるが、依然としてタッチは荒く感じられることとなる。
【0063】
不織布の製造においては、カーディング機の種類及び配列により、カーディング機を経た繊維の機械方向の配向と横方向の強度が変化する。即ち、カーディング機の製造会社によって不織布の機械方向の強度と横方向の強度との間に差があり、更に同一製造会社のカーディング機であっても、カード・クロージングの形状や材質、ランダムロール(random roll)の有無などによって物性の差が発生する。また、加工後の要求に従って、不織布の平面重量(plan weight)にも差が発生する。このような不織布の強度測定値はシンプルな引っ張り強さ(テナシティ)で表され、各会社毎に要求される単位(ユニット)が特徴的に異なる。従って、互いに比較して優位なものを選べない場合が発生するので、シンプルな引っ張り強さの比較だけで不織布の物性が向上したことを判断するのは適切ではない。しかし、前記カーディング機の種類又は機械配列に違いがあったとしても、製造した不織布の接着指数(bonding indexes)を参照することにより、繊維又はステープルの構造及び固有の物性が不織布に及ぼす影響を比較することができる。
【0064】
上述したように、不織布における繊維又はステープルの固有の物性による影響を正確に判断するためには、TBIの単位概念を用いるのが好適であることがわかる。ここで、TBIは、文献(プラスティック・ゴム学会(The Plastics and Rubber Institute)で開催した第4回国際会議(Fourth International Conference)で発表されたポリプロピレン繊維と織物(Polypropylene Fibers and Textiles)に関する論文)に詳細に説明されている。実際に、本発明において、繊維又はステープルの固有の性質による不織布の評価を相対比較し得るために研究した結果、TIBの概念を導入することが最も好ましいことがわかった。
【0065】
本発明の繊維を用いれば、TBI2.0以上の優れた物性を有し、柔軟性
が非常に良好な不織布を製造することができる。
【0066】
【実施例】
上述したような本発明の特徴及びその他の特徴は、後述する実施例から明らかになるものである。但し、以下の実施例は本発明を具現するための好適な例として示されるものであって、本発明はこれに制限されるものではない。
【0067】
本明細書に提示される繊維及び不織布の特性は、以下のような分析方法により測定した。
【0068】
[DSC吸熱ピーク]
繊維試料はメタノールで十分に洗浄して油剤を除去し、30分間大気中で乾燥させた後、デシケーターで1時間真空乾燥して準備し、準備した試料を2〜4mmの長さに切断し、5mgを測定用パン(pan)に入れ、パーキン・エルマー・7シリーズ熱分析システム(Perkin Elmer 7series Thermal Analysis System)で熱分析を行った。この際に、温度は30℃から190℃まで上昇させ、昇温速度は5℃/minにして吸熱曲線を得た。その他の測定条件はASTM3418−82の方法によった。
【0069】
既存のポリプロピレンホモポリマー繊維の吸熱曲線では1つのピークが現れるが、本発明による繊維では2つの吸熱ピークが現れる。ここで、図1は著しい2つのDSC吸熱ピークが現れたものを、図2は2次DSC吸熱ピークが1次DSC吸熱ピークのショルダー形状で現れるものを、図3は1つのDSC吸熱ピークのみが現れるものをそれぞれ示すDSC吸熱ピーク曲線図である。
【0070】
[繊維及びステープルのデニール]
バイブロスコップ(Vibroskop;Lenzing社製)を使用して測定した。
【0071】
[繊維及びステープルの強伸度]
バイブロジン(Vibrodyn;Lenzing社製)を使用してASTM D 638の方法により測定した。
【0072】
[メルトフローレート(MI)]
Tinius Olsen社のMODEL MP 993を使用してASTM D 1238に基づいて測定した。メルトフローレート測定に使用する繊維試料は十分に水で洗浄し、遠心分離後に105℃のオーブンで15分間乾燥させた繊維を1cmの長さに細断して準備したものを使用した。
【0073】
[多分散指数(PI)]
米国のRheometrics社のRMS−800モデル(Disk:parallel plate)を使用して、10%ストレイン(strain)、剪断速度(shear rate)0.1〜100、200℃の条件下でG(後述)を求め、これを以下の式(I)に代入して計算した。
【0074】
PI=10/G ・・・・・・(I)
【0075】
ここで、Gは、周波数範囲5〜250Hzでの2〜6種の周波数で貯蔵モジュラス(G’)と損失モジュラス(G”)とを測定し、交点が発生した地点のモジュラス(G)であるが、交点が発生しない場合には外挿法を用いてG値を求めた。
【0076】
[原料のアイソタクチック指数(Isotactic Index:I.I.)]
ポリプロピレンホモポリマー試料を5mmの大きさに切断した後、水で洗浄し、105℃のオーブンで1時間乾燥し、乾燥した試料を約5g程度採取して正確な重量を測定した。その後、このポリプロピレンホモポリマー試料をヘプタン中で沸騰させながら約5時間抽出し、抽出後、試料を水で十分に洗浄し、105℃のオーブンで1時間乾燥させた後、重量を測定した。このようにして得た抽出前後の重量を以下の式(II)に代入してアイソタクチック指数を算出する。
【0077】
アイソタクチック指数(%)=(抽出後の重量÷抽出前の重量)×100・・(II)
【0078】
[不織布の接着指数(TBI)]
以下の式(III)によって計算した。
【0079】
TBI=(MD×CD)1/2×(20/平面重量)・・・・・(III)
【0080】
なお、この式(III)において、MDは不織布の機械方向の強度(kg/50mm)であり、CDは不織布の横方向の強度(kg/50mm)であり、平面重量は不織布の単位面積当たりの重量(g/m)である。
【0081】
[不織布の強度]
幅50mm、長さ140mmに切断した試料をインストロンを使用して100mm/分の引っ張り速度で測定した。
【0082】
[柔軟性(softness)]
人の感覚を等級で表示した。ここで、「1」は非常に粗い、「2」は粗い、「3」は普通、「4」はソフト、「5」は非常にソフトなものをそれぞれ示す。
【0083】
【実施例・比較例】
添加剤として酸化防止剤及び安定剤が0.09重量%を含有し、アイソタクチック指数が97%であり、下記表1に示されるようなメルトフローレートのアイソタクチックポリプロピレンポリマーを溶融紡糸した。このとき、押出機の温度を250〜290℃に調整し、押出機から口金までの範囲の加熱は熱媒体を用いて285〜310℃の範囲に調整して、溶融物のメルトフローレートMIが表1のようになるように管理した。
【0084】
原料と口金直前の溶融物のメルトフローレートを比較するため、圧力の低下を最小限にしながら試料を得られるようにすべく、溶融物を口金に定量的に供給するギヤポンプの入口の直前にバイパスを設けて試料を採取した。
【0085】
次に、溶融物を1500m/minの紡糸速度で紡糸口金を通じて押し出し、保温槽を通過させ遅延冷却した後、急冷して、表1に示すようなメルトフローレートと多分散指数を有する2.4デニールの1次繊維(primary yarn)製造した。製造された1次繊維のメルトフローレート、多分散指数、DSC吸熱ピークを下記の表1に示す。
【0086】
このようにして製造した1次繊維を集束し、延伸工程でクリンパーでクリンプしながら1.5倍の延伸倍率に延伸して、これを40mmに切断してステープルを製造した。製造されたステープルのメルトフローレート、多分散指数、繊維強度、クリンプ数及びDSC吸熱ピークを下記の表2に示す。
【0087】
このようにして製造したステープルを、カーディング機に製作会社毎に適用させて不織布を製造した。不織布の製造時に使用した上端ロールの結合面積(sealing area)は22%であり、上端ロールの形態はダイヤモンドタイプであり、カレンダーロールの温度は147℃であり、カレンダーロールの圧力は95kg/cmであった。製造した不織布の平面重量、機械方向(MD)及び横方向(CD)の強度、TBI及びソフトネスを下記の表3に示す。
【0088】
【表1】
Figure 0004011265
【0089】
【表2】
Figure 0004011265
【0090】
【表3】
Figure 0004011265
【0091】
【発明の効果】
前述した実験結果からわかるように、2つのDSC吸熱ピークを有するアイソタクチックポリプロピレンホモポリマー繊維を熱融着して製造した不織布は、強度が優れ、柔らかいなどの利点がある。また、高速のカーディング機を用いても前記特性の不織布を製造することができるので、高品質の不織布を生産性良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるポリプロピレンホモポリマー繊維を、示差走査熱量計(DSC)で熱分析したときに、2つのDSC吸熱ピークが顕著に現れることを示したDSC吸熱ピーク曲線図である。
【図2】本発明によるポリプロピレン繊維を示差走査熱量計(DSC)で熱分析したときに、2つのDSC吸熱ピークが現れ、2次DSC吸熱ピークが1次DSC吸熱ピークのショルダー形態として現れることを示したDSC吸熱ピーク曲線図である。
【図3】従来のポリプロピレンホモポリマー繊維では、1つのDSC吸熱ピークのみが現れることを示したDSC吸熱ピーク曲線図である。

Claims (8)

  1. ポリプロピレン繊維の製造方法であって、
    (a)アイソタクチック指数が90〜99%、メルトフローレート(MI)が10.0〜40.0、多分散指数(PI)が2.5〜6.0であるアイソタクチックポリプロピレンホモポリマーを、溶融紡糸において押出機の温度を250℃〜290℃に調整し、押出機から口金までの範囲においては、加熱により285℃〜310℃に調整した状態で溶融させる段階と、
    (b)得られる繊維のメルトフローレート(MI)が16.5〜80.0となり、得られる繊維のメルトフローレート(MI)と前記ホモポリマーのメルトフローレート(MI)の比(MI/MI)が1.65〜7.50となり、多分散指数(PI)が前記ホモポリマーの多分散指数(PI)より20%以下に狭くなるような繊維を製造するために前記溶融ポリマーを紡糸するか又は紡糸してから延伸する段階と、を含むことを特徴とするポリプロピレン繊維の製造方法。
  2. 前記段階(a)で、ポリプロピレンに安定剤及び/又は酸化防止剤を0.03〜2.0重量%配合することを特徴とする請求項記載のポリプロピレン繊維の製造方法。
  3. 前記メルトフローレート(MI)が10〜30であることを特徴とする請求項記載のポリプロピレン繊維の製造方法。
  4. 前記多分散指数(PI)が2.8〜5.0であることを特徴とする請求項記載のポリプロピレン繊維の製造方法。
  5. 前記多分散指数(PI)が3.5〜4.3であることを特徴とする請求項記載のポリプロピレン繊維の製造方法。
  6. 前記繊維の繊度が1.0〜80.0デニール/フィラメントであることを特徴とする請求項記載のポリプロピレン繊維の製造方法。
  7. 前記多分散指数(PI)が2.1〜5.7であることを特徴とする請求項記載のポリプロピレン繊維の製造方法。
  8. 前記多分散指数(PI)が2.3〜4.5であることを特徴とする請求項記載のポリプロピレン繊維の製造方法。
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