JP4004756B2 - 高分子架橋体およびその製造方法並びに使用方法および架橋剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、3級アミンおよび/または4級アンモニウム塩を含有する高分子架橋体であって、少なくとも1つの架橋部位として4級アンモニウム塩構造を含む架橋構造を有する高分子架橋体およびその製造方法並びに使用方法、該高分子架橋体を使用するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートおよびグリコール類の製造方法、および該高分子架橋体の製造に用いられる架橋剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
強塩基性イオン交換樹脂の大半はスチレン系である。その製造方法は、例えば、スチレンとジビニルベンゼンとを懸濁重合にて球状化してポリ−スチレン−ジビニルベンゼン架橋体(スチレン−ジビニルベンゼン共重合体の架橋体)を合成し、次にルイス酸等を用いて該架橋体をクロロメチル化し、続いてアミン(3級アミン)等を付加させて製造するものである。
【0003】
このような強塩基性イオン交換樹脂は、全pH領域でイオン交換反応を行うことができるため好適に使用される。ところで、実際にイオン交換反応に寄与するのは付加されたアミンの部位(より一般には、3級アミンより誘導される4級アンモニウム塩)であるため、上記の強塩基性イオン交換樹脂による該アミンの安定的な保持は極めて重要な課題である。そして、該課題に関しては、(a)スペーサーとしてのクロロメチル化剤を選択することで強塩基性イオン交換樹脂からのアミンの脱離を低減する方法および/または(b)強塩基性イオン交換樹脂の分子量自体を増大させることで一定量以上のアミンを確実に保持する方法等を用いてなる好適な強塩基性イオン交換樹脂がすでに実現されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記例示の強塩基性イオン交換樹脂においては、4級アンモニウム塩(OH型)の熱分解は本質的に避けられず、高温下で使用されると強塩基性イオン交換樹脂の性能が低下するという問題がある。すなわち、耐用使用温度(言い換えれば、耐熱分解性)が従来のものと比較して向上されてなる強塩基性のイオン交換体を提供することが出来れば、その用途が大きく広がることが期待される。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、少なくとも1つの架橋部位として4級アンモニウム塩構造を含む架橋構造を有し、3級アミンおよび/または4級アンモニウム塩を含有する耐熱分解性に優れた新規な高分子架橋体およびその製造方法並びに使用方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、上記高分子架橋体の製造に好適に用いられる新規な架橋剤を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本願発明者等は、上記の目的を達成すべく鋭意検討した結果、3級アミンおよび/または4級アンモニウム塩を含有する高分子架橋体であって、少なくとも1つの架橋部位として、4級アンモニウム塩構造を含む、特定の新規な架橋構造を有する高分子架橋体が、耐熱分解性に優れ、優れたイオン交換能、および、活性水素を活性化させる反応における優れた触媒活性を示すことを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明の請求項1記載の高分子架橋体は、上記の課題を解決するために、3級アミンおよび/または4級アンモニウム塩を含有する高分子架橋体であって、一般式(1)
【0008】
【化6】
【0009】
(式中、R1およびR2 は各繰り返し単位内並びに各繰り返し単位毎にそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、または水酸基を表し、R3、R4 、R5 、およびR6 はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、メチル基、またはエチル基を表し、X1 - およびX2 - はハロゲン化物イオン、水酸化物イオンまたは有機酸、無機酸のアニオンを表し、aは0〜10の整数を表す)
で表される架橋構造と、一般式(1’)
【0010】
【化7】
【0011】
(式中、R 17 およびR 18 はそれぞれ独立して炭素数1〜10のアルキル基を表し、R 19 およびR 20 はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、メチル基、またはエチル基を表し、X 5 - はハロゲン化物イオン、水酸化物イオンまたは有機酸、無機酸のアニオンを表す)
で表される構造とを少なくとも1つ有することを特徴としている。
【0012】
本発明の請求項2記載の高分子架橋体の製造方法は、上記の課題を解決するために、3級アミンおよび/または4級アンモニウム塩を含有し、かつ、上記一般式(1)で表される架橋構造を少なくとも1つ有する高分子架橋体の製造方法であって、一般式(3)
【0013】
【化8】
【0014】
(式中、R17およびR18はそれぞれ独立して炭素数1〜10のアルキル基を表し、R19およびR20はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、メチル基、またはエチル基を表し、X5 - はハロゲン化物イオン、水酸化物イオンまたは有機酸、無機酸のアニオンを表す)
で表される単量体と、一般式(4)
【0015】
【化9】
【0016】
(式中、R21およびR22は各繰り返し単位内並びに各繰り返し単位毎にそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、または水酸基を表し、R23、R24、R25、およびR26はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、メチル基、またはエチル基を表し、X6 - およびX7 -はそれぞれ独立してハロゲン化物イオン、水酸化物イオンまたは有機酸、無機酸のアニオンを表し、dは0〜10の整数を表す)
で表される単量体とを含む単量体成分を懸濁重合する工程を含むことを特徴としている。
【0017】
本発明の請求項3記載の高分子架橋体の使用方法は、上記の課題を解決するために、上記の高分子架橋体を、イオン交換反応に使用することを特徴としている。
【0018】
また、本発明の請求項4記載の高分子架橋体の使用方法は、上記の課題を解決するために、上記の高分子架橋体を、活性水素含有化合物中の活性水素を活性化する活性化用触媒として使用することを特徴としている。
【0019】
本発明の請求項5記載のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法は、上記の課題を解決するために、(メタ)アクリル酸とオキシラン化合物とを反応させてヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造する方法であって、触媒として請求項1記載の高分子架橋体を使用することを特徴としている。
【0020】
本発明の請求項6記載のグリコール類の製造方法は、上記の課題を解決するために、水とオキシラン化合物とを反応させてグリコール類を製造する方法であって、触媒として請求項1または2記載の高分子架橋体を使用することを特徴としている。
【0021】
また、本発明の請求項7記載の架橋剤は、上記の課題を解決するために、一般式(4)
【0022】
【化10】
【0023】
(式中、R21およびR22は各繰り返し単位内並びに各繰り返し単位毎にそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、または水酸基を表し、R23、R24、R25、およびR26はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、メチル基、またはエチル基を表し、X6 - およびX7 -はそれぞれ独立してハロゲン化物イオン、水酸化物イオンまたは有機酸、無機酸のアニオンを表し、dは0〜10の整数を表す)
で表される構造を有することを特徴としている。
【0024】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の一形態について説明すれば以下の通りである。尚、本発明は、これにより何ら限定されるものではない。
【0025】
本実施の形態にかかる高分子架橋体は、3級アミンおよび/または4級アンモニウム塩を含有する高分子架橋体であって、少なくとも1つの架橋点が、一般式(1)
【0026】
【化11】
【0027】
(式中、R1およびR2 は各繰り返し単位内並びに各繰り返し単位毎にそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、または水酸基を表し、R3、R4 、R5 、およびR6 はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、メチル基、またはエチル基を表し、X1 - およびX2 - はハロゲン化物イオン、水酸化物イオンまたは有機酸、無機酸のアニオンを表し、aは0〜10の整数を表す)
または一般式(2)
【0028】
【化12】
【0029】
で表される架橋構造を有し、高分子化合物の分子内および/または分子間で架橋構造が形成される場合に、該架橋構造の両基点(端部)に位置する3分岐構造を有する部位(架橋部位)において飽和5員環からなる複素環基を形成する窒素原子に、置換基を構成する4つの炭素原子が直接結合されてなる4級アンモニウム塩構造を介して、高分子化合物間あるいは高分子化合物内が架橋されている。
【0030】
すなわち、上記一般式(1)で表される架橋構造を有する上記高分子架橋体は、上記架橋構造において3分岐構造を形成する一方の架橋部位が、一般式(6)
【0031】
【化13】
【0032】
(式中、R3およびR4 はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、メチル基、またはエチル基を表し、X1 -はハロゲン化物イオン、水酸化物イオンまたは有機酸、無機酸のアニオンを表す)
で表される4級アンモニウム塩構造を有し、他方の架橋部位が、一般式(7)
【0033】
【化14】
【0034】
(式中、R5およびR6 はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、メチル基、またはエチル基を表し、X2 -はハロゲン化物イオン、水酸化物イオンまたは有機酸、無機酸のアニオンを表す)
で表される4級アンモニウム塩構造を有している。上記一般式(1)で表される架橋構造において、−(CR1R2) −で示される繰り返し単位は互いに独立であり、上記R1 およびR2 で表される置換基は各繰り返し単位内並びに各繰り返し単位毎にそれぞれ独立して構成されていてもよい。また、各繰り返し単位は、ブロックあるいはランダムに結合されていてもよい。
【0035】
また、ハロゲン原子としては特に限定されず、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられ、炭素数1〜10のアルキル基としては特に限定されず、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。
【0036】
さらに、有機酸のアニオンまたは無機酸のアニオンとは、有機酸または無機酸より水素イオンが少なくとも1つ脱離したものを意味する。例えば、無機酸のアニオンとしては、硫酸イオン、ホスホン酸イオン(亜リン酸イオン)、ホウ酸イオン、シアン化物イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、チオシアン酸イオン、チオ硫酸イオン、亜硫酸イオン、亜硫酸水素イオン、硝酸イオン、シアン酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、メタレートイオン(例えばモリブデン酸イオン、タングステン酸イオン、メタバナジン酸イオン、ピロバナジン酸イオン、水素ピロバナジン酸イオン、ニオブ酸イオン、タンタル酸イオン、過レニウム酸イオン等)、テトラフルオロアルミン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、テトラクロロアルミン酸イオン、Al2 Cl7 - 等が挙げられる。また、有機酸のアニオンとしては、例えば、スルホン酸イオン、ギ酸イオン、シュウ酸イオン、酢酸イオン、(メタ)アクリル酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ビス(トリフルオロメタンスルホン酸)アミドイオン、(CF3 SO2)3 C- 等が挙げられる。
【0037】
上記一般式(1)で表される架橋構造を有する高分子架橋体のなかでも、式中、R1 、R2 、R3 、R4 、R5 、およびR6で示される置換基が水素原子であり、aが3である架橋構造を有する高分子架橋体が好ましく、さらに、X1 - 、X2 - で示されるカウンターアニオンが塩化物イオンである架橋構造を有する高分子架橋体が特に好ましい。
【0038】
また、上記一般式(2)で表される架橋構造を有する高分子架橋体は、上記架橋構造において3分岐構造を形成する一方の架橋部位が、一般式(8)
【0039】
【化15】
【0040】
で表される4級アンモニウム塩構造を有し、他方の架橋部位が、一般式(9)
【0041】
【化16】
【0042】
で表される4級アンモニウム塩構造を有している。上記一般式(2)で表される架橋構造において、−(CR7 R8 ) −で示される繰り返し単位並びに−(CR9R10) −で示される繰り返し単位はそれぞれ互いに独立であり、上記R7 、R8 、R9、R10で表される置換基は各繰り返し単位内並びに各繰り返し単位毎にそれぞれ独立して構成されていてもよい。また、各繰り返し単位は、それぞれブロックあるいはランダムに結合されていてもよい。
【0043】
上記一般式(2)で表される架橋構造を有する高分子架橋体のなかでも、式中、R7 、R8 、R9 、R10、R13、R14、R15、およびR16で示される置換基が水素原子であり、b、c、およびpが1であり、Zで示される置換基が−CH(OH)−である架橋構造を有する高分子架橋体が好ましく、さらに、X3 - 、X4 - で示されるカウンターアニオンが塩化物イオンである架橋構造を有する高分子架橋体が特に好ましい。
【0044】
本実施の形態において、上記架橋構造とは別に上記高分子架橋体が含有する3級アミンまたは4級アンモニウム塩は、該高分子架橋体がイオン交換反応に使用される場合にはイオン交換基として機能し、活性水素含有化合物中の活性水素を活性化する反応に使用される場合には触媒部位として機能する。本実施の形態にかかる高分子架橋体の耐熱分解性は、上記架橋構造を有するために著しく向上され、耐用使用温度が高く、優れたイオン交換能、並びに、活性水素を活性化させる反応における優れた触媒活性を示す。
【0045】
上記3級アミン構造および/または4級アンモニウム塩構造は、環状構造であることが好ましい。このような4級アンモニウム塩構造の場合、窒素原子がスピロ環構造を形成することが好ましい。上記環状構造は、脂肋族構造よりも酸化的分解を受け難いため、高分子架橋体の耐熱分解性により優れることになる。このような環状構造の形態としては、例えば、5員環、6員環等が挙げられ、そのなかでも、5員環であることが好ましい。また、アンモニウム塩構造を有する繰り返し単位を主成分として主鎖を形成させることが容易となることから、ジアリルジメチルアンモニウム塩により形成されてなることが好ましい。
【0046】
上記高分子架橋体における3級アミンまたは4級アンモニウム塩の含有量、並びに、上記一般式(1)または一般式(2)で表される架橋構造の含有量は、所望されるイオン交換能、活性水素の活性化触媒能や、耐熱分解性などに応じて適宜変更すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、3級アミンまたは4級アンモニウム塩と上記一般式(1)で表される架橋構造(構造単位)とのモル比(3級アミンまたは4級アンモニウム塩:一般式(1)で表される架橋構造)が、0.5:0.5〜0.99:0.01の範囲内であることが好ましく、0.80:0.20〜0.95:0.05の範囲内であることがより好ましい。
【0047】
上記3級アミンまたは4級アンモニウム塩に対する上記一般式(1)で表される架橋構造のモル比(一般式(1)で表される架橋構造/3級アミンまたは4級アンモニウム塩)が0.5/0.5よりも大きくなると、架橋密度が高くなりすぎるために、上記高分子架橋体を活性水素含有化合物の活性水素の活性化用触媒として用いたときに、反応速度が減少する場合がある。一方、上記3級アミンまたは4級アンモニウム塩に対する上記一般式(1)で表される架橋構造のモル比が0.01/0.99よりも小さくなると、架橋密度が小さすぎるために、上記高分子架橋体を活性水素含有化合物の活性水素の活性化用触媒として用いたときに、単位体積当たりの活性点密度が小さくなったり、上記高分子架橋体自体の物理強度が小さくなる等の不具合を生じることがある。
【0048】
また、3級アミンまたは4級アンモニウム塩と上記一般式(2)で表される架橋構造(構造単位)とのモル比は、0.5:0.5〜0.99:0.01の範囲内であることが好ましく、0.70:0.30〜0.90:0.10の範囲内であることがより好ましい。
【0049】
上記3級アミンまたは4級アンモニウム塩に対する上記一般式(2)で表される架橋構造のモル比(一般式(2)で表される架橋構造/3級アミンまたは4級アンモニウム塩)が0.5/0.5よりも大きくなると、架橋密度が高くなりすぎるために、上記高分子架橋体を活性水素含有化合物の活性水素の活性化用触媒として用いたときに、反応速度が減少する場合がある。一方、上記3級アミンまたは4級アンモニウム塩に対する上記一般式(2)で表される架橋構造のモル比が0.01/0.99よりも小さくなると、架橋密度が小さすぎるために、上記高分子架橋体を活性水素含有化合物の活性水素の活性化用触媒として用いたときに、単位体積当たりの活性点密度が小さくなったり、上記高分子架橋体自体の物理強度が小さくなる等の不具合を生じることがある。
【0050】
尚、上記したモル比の好適な範囲は、何れも、上記高分子架橋体が、3級アミンまたは4級アンモニウム塩と、一般式(1)または(2)で表される架橋構造との2種類の構造単位のみを含んで構成される場合の値である。
【0051】
3級アミンまたは4級アンモニウム塩を含有し、上記一般式(1)で表される架橋構造を少なくとも1つ有する上記高分子架橋体は、例えば、一般式(3)
【0052】
【化17】
【0053】
(式中、R17およびR18はそれぞれ独立して炭素数1〜10のアルキル基を表し、R19およびR20はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、メチル基、またはエチル基を表し、X5 - はハロゲン化物イオン、水酸化物イオンまたは有機酸、無機酸のアニオンを表す)
で表される単量体と、一般式(4)
【0054】
【化18】
【0055】
(式中、R21およびR22は各繰り返し単位内並びに各繰り返し単位毎にそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、または水酸基を表し、R23、R24、R25、およびR26はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、メチル基、またはエチル基を表し、X6 - およびX7 -はそれぞれ独立してハロゲン化物イオン、水酸化物イオンまたは有機酸、無機酸のアニオンを表し、dは0〜10の整数を表す)
で表される単量体とを含む単量体成分を懸濁重合させることにより容易に製造することができる。
【0056】
上記高分子架橋体の製造において原料として用いられる上記一般式(4)で表される単量体は、同一分子内にジアリルピペリジル基を2つ含むN,N,N’,N’−テトラアリルアンモニウム誘導体であり、ジアリルアンモニウム基(ジアリル4級アンモニウム塩構造)を構成する、アリル基に結合された窒素原子が、それぞれ複素環構造を形成している新規な含窒素架橋剤である。上記一般式(4)で表される単量体は、架橋構造が形成されるべき高分子化合物(重合体)の形成に寄与するとともに、上記ジアリル4級アンモニウム塩構造を構成する窒素原子に結合されたアリル基側、すなわち、ジアリルピペリジル基を構成するアリル基側に形成された高分子化合物同士を架橋する架橋剤としても機能し、本実施の形態にかかる高分子架橋体を与える。
【0057】
つまり、前記一般式(1)で表される架橋構造を少なくとも1つ有する高分子架橋体が有する4級アンモニウム塩構造をなす窒素原子に直接結合する4つの炭素原子は、それぞれ、高分子架橋体を構成する高分子化合物の一部であってもよく、上記一般式(4)で表される単量体(含窒素架橋剤)に由来するものであってもよい。
【0058】
上記一般式(4)で表される含窒素架橋剤において、−(CR21R22) −で示される繰り返し単位は互いに独立であり、上記R21およびR22で表される置換基は各繰り返し単位内並びに各繰り返し単位毎にそれぞれ独立して構成されていてもよい。また、各繰り返し単位は、ブロックあるいはランダムに結合されていてもよい。
【0059】
上記一般式(4)で表される含窒素架橋剤のうち、R21、R22、R23、R24、R25、およびR26で示される置換基が水素原子であり、dが3である化合物が好ましく、さらに、X6 - 、X7 -で示されるカウンターアニオンが塩化物イオンである化合物、すなわち、N,N,N’,N’−テトラアリルジピペリジルプロパニウムジクロリドが特に好ましい。
【0060】
上記一般式(4)で表される含窒素架橋剤は、一般式(10)
【0061】
【化19】
【0062】
(式中、R39およびR40は各繰り返し単位内並びに各繰り返し単位毎にそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、または水酸基を表し、gは0〜10の整数を表す)
で表される化合物を、反応溶媒の存在下、アリルハライドと反応させてピペリジル基を構成する窒素原子にそれぞれアリル基が1つ導入されてなる化合物を架橋剤前駆体として得た後、該架橋剤前駆体を、反応溶媒の存在下、再度、アリルハライドと反応させることにより容易に製造される。
【0063】
上記アリルハライドとしては、例えばアリルクロライドが好適に用いられるが、特に限定されるものではない。上記一般式(4)で表される単量体の製造方法、即ち、上記一般式(10)で表される化合物とアリルハライドとの反応方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の種々の方法を用いることができる。
また、上記反応におけるアリルハライドや反応溶媒の使用量、反応温度、反応時間などの反応条件は特に限定されるものではない。反応終了後、得られた高分子架橋体は、常法によって反応液から回収し、精製することができる。
【0064】
上記一般式(10)で表される化合物において、−(CR39R40) −で示される繰り返し単位は互いに独立であり、上記R39およびR40で表される置換基は各繰り返し単位内並びに各繰り返し単位毎にそれぞれ独立して構成されていてもよい。また、各繰り返し単位は、ブロックあるいはランダムに結合されていてもよい。
【0065】
上記一般式(10)で表される化合物のなかでも、R39、R40で示される置換基が水素原子であり、gが3である化合物、すなわち、1,3−ジ(4−ピペリジル)プロパンが特に好ましい。
【0066】
本実施の形態によれば、上記一般式(3)で表される単量体を含むと共に、上記一般式(4)で表される新規な含窒素架橋剤を含む単量体成分を懸濁重合させることにより、3級アミンおよび/または4級アンモニウム塩を含有し、かつ、4級アンモニウム塩構造をなす窒素原子がスピロ環構造をなす、前記一般式(1)で表される新規な架橋構造を少なくとも1つ有する高分子架橋体を得ることができる。
【0067】
上記一般式(3)で表される化合物、すなわち、上記高分子架橋体の原料として用いられ、高分子架橋体が含有する3級アミンおよび/または4級アンモニウム塩を構成する上記ジアリルジアルキルアンモニウム塩としては、特に限定されるものではないが、R17、R18で示される置換基がメチル基であり、X5 - で示されるカウンターアニオンが塩化物イオンである化合物、すなわち、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドが特に好ましい。
【0068】
上記一般式(3)で表される単量体と上記一般式(4)で表される単量体との使用割合は、所望されるイオン交換能、活性水素の活性化触媒能や、耐熱分解性などに応じて、好適には、上記高分子架橋体における前記一般式(1)で表される架橋構造(構造単位)と3級アミンまたは4級アンモニウム塩とのモル比が前記した範囲内となるように適宜設定すればよく、特に限定されるものではないが、例えば上記単量体成分中における上記一般式(3)で表される単量体と上記一般式(4)で表される単量体とのモル比(上記一般式(3)で表される単量体:上記一般式(4)で表される単量体)が、0.5:0.5〜0.99:0.01の範囲内となるように設定することが好ましく、0.80:0.20〜0.95:0.05の範囲内となるように設定することがより好ましい。
【0069】
上記一般式(3)で表される単量体に対する上記一般式(4)で表される単量体のモル比(一般式(4)で表される単量体/一般式(3)で表される単量体)が0.5/0.5よりも大きくなると、架橋密度が高くなりすぎるために、得られた高分子架橋体を活性水素含有化合物の活性水素の活性化用触媒として用いたときに、反応速度が減少する場合がある。一方、上記一般式(3)で表される単量体に対する上記一般式(4)で表される単量体のモル比が0.01/0.99よりも小さくなると、架橋密度が小さすぎるために、得られた高分子架橋体を活性水素含有化合物の活性水素の活性化用触媒として用いたときに、単位体積当たりの活性点密度が小さくなったり、上記高分子架橋体自体の物理強度が小さくなる等の不具合を生じることがある。
【0070】
本実施の形態の高分子架橋体を製造する際の各単量体の濃度、例えば一般式(3)・(4)で表される塩基性単量体の濃度は特に限定されないが、好ましくは30〜80重量%の範囲内であり、より好ましくは50〜60重量%の範囲内である。
【0071】
これにより、単量体を重合して得られる高分子架橋体の見かけ比重を充分に高めることができ、強度が大きく、イオン交換能や触媒能に優れた高分子架橋体を得ることができる。単量体の濃度が30重量%未満であると、見かけ比重を充分に高くすることができないため、イオン交換能や触媒能、強度が小さくなる。一方、単量体の濃度が80重量%を超えると、単量体溶液の濃度の調整が困難であったり、単量体を懸濁重合にて粒子化する際に単量体の液滴を安定して懸濁させることが困難であったりする等、高分子架橋体が造粒しにくくなる。
【0072】
上記の単量体成分は、必要に応じて、上記一般式(3)、一般式(4)で表される単量体と共重合可能な単量体(以下、共重合性単量体と記す)を、得られる高分子架橋体の性能を阻害しない範囲内で含んでいてもよい。該共重合性単量体としては、具体的には、例えば、アクリルアミド、アクリル酸、マレイン酸、スチレン、エチレン、ビニルエーテル類等を挙げることができる。これら共重合性単量体は、必要に応じて、一種類のみを用いてもよく、また、二種類以上を併用してもよい。尚、単量体成分に占める上記共重合性単量体の割合は、特に限定されるものではなく、最終的に製造される高分子架橋体に所望されるイオン交換能、活性水素の活性化触媒能や、耐熱分解性等に応じて適宜定めることができる。
【0073】
上記の単量体成分を懸濁重合させる際の反応条件等は、特に限定されるものではないが、例えば、上記の単量体成分を懸濁重合させる際に用いられる分散媒としては、具体的には、例えば、ペンタン、(n−)ヘキサン、ヘプタン等の飽和鎖式炭化水素;リグロイン、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;等が挙げられる。上記例示の分散媒の中では、工業的汎用性からトルエンが好ましい。尚、上記分散媒の使用量は特に限定されるものではない。
【0074】
また、上記懸濁重合を行う際の懸濁剤としては、具体的には、例えば、脂肪酸グリセリドに代表されるカルボン酸グリセリド、ソルビタンエステル類等が挙げられるが、その種類および使用量は特に限定されるものではない。さらに、上記単量体成分の懸濁状態を安定に保つために、ゼラチン、デキストリン、ポリビニルアルコール、エチルセルロース等から選択される沈澱防止剤を用いることもできる。
【0075】
上記の単量体成分を重合させる際には、重合開始剤を用いることができる。該重合開始剤としては、具体的には、例えば、過酸化水素、ベンゾイルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド等の過酸化物系開始剤;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩等のアゾ化合物(アゾ系開始剤);過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩(過硫酸系開始剤)等のラジカル重合開始剤等が挙げられるが、反応によっては触媒毒として作用する虞れのある硫黄の残存がないことから、過硫酸系開始剤よりもアゾ系開始剤を用いて重合反応を行うことが好ましい。これら重合開始剤は、単独で用いてもよく、また、二種類以上を適宜混合して用いてもよい。尚、上記重合開始剤を用いる代わりに、放射線や電子線、紫外線等を照射してもよく、また、重合開始剤とこれら放射線や電子線、紫外線等の照射とを併用してもよい。また、上記重合開始剤の使用量は、特に限定されるものではない。
【0076】
上記重合反応を行う際の反応温度は、単量体成分や分散媒の種類等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。また、反応時間は、上記重合反応が完結するように、反応温度、単量体成分、重合開始剤、および分散媒等の種類や組み合わせ、使用量等に応じて適宜設定すればよい。さらに、反応圧力も特に限定されるものではなく、常圧(大気圧)、減圧、加圧の何れであってもよい。
【0077】
このようにして得られた高分子架橋体は、耐熱性に優れ、活性水素含有化合物中の活性水素の活性化用触媒並びにイオン交換樹脂等のイオン交換体として高い処理能力を発揮するとともに所望の粒径を有する球状(パール状)を有している。
【0078】
また、上記高分子架橋体を上記活性化用触媒またはイオン交換体として用いる場合、溶媒に不溶で分離操作が可能であること、カラム充填時の通液性があること等が望ましく、上記方法により得られる球状の架橋体は、より望ましい形態である。
【0079】
また、3級アミンまたは4級アンモニウム塩を含有し、前記一般式(2)で表される架橋構造を少なくとも1つ有する高分子架橋体は、例えば、3級アミンまたは4級アンモニウム塩を含有し、少なくとも1つの架橋点が、一般式(5)
【0080】
【化20】
【0081】
で表される架橋構造を少なくとも1つ有する高分子架橋体を4級化すること、つまり、いわゆる3級アミンの4級アンモニウム塩化により、容易に製造することができる。
【0082】
より厳密には、本実施の形態において、上記一般式(5)で表される架橋構造を少なくとも1つ有する高分子架橋体を4級化するとは、上記一般式(5)で表される架橋構造において3分岐構造を形成する架橋部位における下記一般式(11)
【0083】
【化21】
【0084】
(式中、R31およびR32は各繰り返し単位内並びに各繰り返し単位毎にそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、または水酸基を表し、R35およびR36はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、メチル基、またはエチル基を表し、eは0〜10の整数を表す)
、一般式(12)
【0085】
【化22】
【0086】
(式中、R33およびR34は各繰り返し単位内並びに各繰り返し単位毎にそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、または水酸基を表し、R37およびR38はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、メチル基、またはエチル基を表し、fは0〜10の整数を表す)
で表される3級アミン構造から、それぞれ、前記一般式(8)、一般式(9)で表される4級アンモニウム塩構造を得る反応を行うことを示す。
【0087】
上記一般式(5)で表される架橋構造を少なくとも1つ有する高分子架橋体を4級化する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の種々の方法を採用することができる。例えば、4級化剤として有機ハロゲン化物を用いて、反応溶媒の存在下、該4級化剤と上記一般式(5)で表される架橋構造を少なくとも1つ有する高分子架橋体とを反応させることにより、上記一般式(5)で表される架橋構造を少なくとも1つ有する高分子架橋体を容易に4級化することができる。
【0088】
上記4級化剤として用いられる有機ハロゲン化物としては、特に限定されるものではないが、アルキルハライドが好ましく、ヨウ化メチル、ヨウ化エチルが特に好ましい。
【0089】
また、上記反応溶媒としては、例えば、アルコールなどの極性溶媒が用いられ、そのなかでも、メタノール、エタノールが好適に用いられる。尚、上記4級化反応における4級化剤や反応溶媒などの使用量や、反応温度、反応圧力、反応時間などの反応条件は、特に限定されるものではなく、上記反応が完結するように適宜設定すればよい。このとき、反応温度は、4級化反応に用いられる有機ハロゲン化物並びに反応溶媒の沸点以下に設定されることが好ましい。
【0090】
前記一般式(2)で表される架橋構造を有する高分子架橋体の原料(高分子架橋体前駆体)として用いられる上記一般式(5)で表される架橋構造を少なくとも1つ有する高分子架橋体は、上記したように、3級アミンまたは4級アンモニウム塩を含有し、少なくとも1つの架橋点における架橋構造の基点(端部)に位置する3分岐構造を有する両部位(架橋部位)が、共に、窒素原子に、置換基を構成する炭素原子が直接結合されてなる3級アミン構造を有する高分子架橋体である。上記3級アミン構造をなす窒素原子に直接結合する3つの炭素原子は、それぞれ、高分子架橋体を構成する高分子化合物の一部であってもよく、少なくともその一つ(通常一つ)が、以下に詳述する製造方法において説明する架橋剤に由来するものであってもよい。
【0091】
尚、ここでいう架橋剤とは、2官能以上の反応点を有する(すなわち、該高分子化合物と反応可能な部位を二つ以上有する)架橋剤であり、通常、高分子化合物の有する窒素原子(すなわち、架橋構造の基点に位置する3級アミン構造をなす窒素原子)、および/または、該窒素原子に直接または間接的に結合された炭素原子を、標的の少なくとも一つとして架橋構造の形成に寄与するものである。
【0092】
また場合によっては、架橋剤が窒素原子を含有してなる含窒素架橋剤であり、上記3級アミン構造をなす窒素原子が、該架橋剤により供されるものであってもよい。
【0093】
本実施の形態において用いられる上記一般式(5)で表される架橋構造を少なくとも1つ有する高分子架橋体は、特に限定されるものではないが、一般式(13)
【0094】
【化23】
【0095】
(式中、R27およびR28はそれぞれ独立して炭素数1〜10のアルキル基を表し、R29およびR30はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、メチル基、またはエチル基を表し、X8 - はハロゲン化物イオン、水酸化物イオンまたは有機酸、無機酸のアニオンを表す)
で表される構造単位を4級アンモニウム塩として含有し、該一般式(13)で表される構造単位と前記一般式(5)で表される構造単位(架橋構造)とのモル比(一般式(13)で表される構造単位:前記一般式(5)で表される架橋構造)が、0.5:0.5〜0.99:0.01の範囲内である高分子架橋体が好ましく、上記含有比が0.70:0.30〜0.90:0.10の範囲内である高分子架橋体がより好ましい。
【0096】
一般式(13)で表される構造単位に対する一般式(15)で表される架橋構造のモル比(一般式(15)で表される架橋構造/一般式(13)で表される構造単位)が0.5/0.5よりも大きくなると、架橋密度が高くなりすぎるために、最終的に得られる高分子架橋体を活性水素含有化合物の活性水素の活性化用触媒として用いたときに、反応速度が減少する場合がある。一方、一般式(13)で表される構造単位に対する一般式(15)で表される架橋構造のモル比が0.01/0.99よりも小さくなると、架橋密度が小さすぎるために、最終的に得られる高分子架橋体を活性水素含有化合物の活性水素の活性化用触媒として用いたときに、単位体積当たりの活性点密度が小さくなったり、該高分子架橋体自体の物理強度が小さくなる等の不具合を生じることがある。
【0097】
本実施の形態において用いられる上記一般式(5)で表される架橋構造を少なくとも1つ有する高分子架橋体の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、架橋構造が形成されるべき高分子化合物を、不活性有機溶媒中に懸濁させる工程と、該高分子化合物を架橋剤を用いて架橋させる工程とを含む製造方法により好適に製造することができる。
【0098】
上記の高分子化合物としては、具体的には、例えば、上記一般式(13)で表される構造単位と、一般式(14)
【0099】
【化24】
【0100】
(式中、R41およびR42はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、メチル基またはエチル基を表す)
で表される構造単位との双方を繰り返し単位として有する高分子化合物を挙げることができる。
【0101】
上記高分子化合物中における、上記一般式(13)で表される構造単位と一般式(14)で表される構造単位とのモル比は特に限定されるものではないが、上記高分子化合物が上記2種類の構造単位のみを含んで構成される場合、上記一般式(13)で表される構造単位と一般式(14)で表される構造単位とのモル比は、0.50:0.50〜0.99:0.01の範囲内であることが好ましく、0.70:0.30〜0.90:0.10の範囲内であることがより好ましい。
【0102】
上記一般式(13)で表される構造単位と一般式(14)で表される構造単位とを有する高分子化合物としては、例えば、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド(DADMAC)とジアリルアミン塩酸塩(DAAHC)とを共重合させることにより得られる共重合体( poly-DADMAC/DAAHC;以下、ポリジアリルアミン誘導体と称する)のアルカリ中和物等を挙げることができる。高分子化合物の前駆体としてのポリジアリルアミン誘導体が、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドとジアリルアミン塩酸塩とからのみ成る場合には、両者のモル比は、5:95〜95:5の範囲内であることがより好ましい。
【0103】
上記ポリジアリルアミン誘導体は、例えば、ランダム共重合体であってもよく、交互共重合体あるいはブロック共重合体等の各種構造を有していてもよい。また、例えば、単量体成分として、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジアリルアミン塩酸塩に加え、これら単量体と共重合可能なその他の単量体が含まれてなる共重合体のアルカリ中和物も上記高分子化合物として好適に使用することができる。これら単量体と共重合可能なその他の単量体としては、具体的には、例えば、アクリルアミド、アクリル酸、マレイン酸等を挙げることができる。
【0104】
尚、上記単量体成分に占める、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジアリルアミン塩酸塩、その他の単量体の含有量は、最終的に製造される高分子架橋体に所望されるイオン交換能、活性水素の活性化触媒能や、耐熱分解性などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。
【0105】
上記説明の高分子化合物を不活性有機溶媒中に懸濁させる方法は特に限定されるものではないが、一般には、溶媒としての水(または水酸化ナトリウム等を含む水溶液)中に高分子化合物を分散・溶解して高分子化合物溶液(水溶液)を調製し、この溶液を懸濁剤の存在下で不活性有機溶媒中に懸濁させることがより好ましい。また、高分子化合物を溶解するための上記水に、必要に応じてメチルアルコール等の水混和性有機溶媒を含ませて混合溶媒としてもよい。尚、この混合溶媒は、高分子化合物を溶解することが可能であり、かつ、高分子化合物を溶解した上記混合溶媒(すなわち、高分子化合物溶液)が、上記不活性有機溶媒と混合することがない(すなわち、該不活性有機溶媒中で高分子化合物溶液が懸濁粒子として存在する)という条件を満たす必要がある。
【0106】
上記高分子化合物溶液の濃度、すなわち該高分子化合物溶液における高分子化合物の溶解含有量は、最終的に得られる高分子架橋体の強度および性能(特にイオン交換強度)を左右する要因として極めて重要である。したがってこの濃度は、高分子化合物が上記溶媒(混合溶媒であってもよい)に溶解可能な範囲内でより高い方が好ましい。
【0107】
そして、高分子化合物溶液の濃度が所望するより低い場合には、例えば、(1)予めエバポレータなどを用いて高分子化合物溶液を濃縮した後に、濃縮後の高分子化合物溶液を不活性有機溶媒中に懸濁させる方法、(2)不活性有機溶媒と上記溶媒との共沸現象を利用して、高分子化合物溶液を不活性有機溶媒中に懸濁させた状態で濃縮する方法等により、高分子化合物溶液の高濃度化を図ることが可能である。
【0108】
例えば、上記ポリジアリルアミン誘導体のアルカリ中和物は、一般には、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液およびジアリルアミン塩酸塩水溶液を混合して重合した後、アルカリ中和することで水溶液として調製される。すなわち、原料が共に水溶液での入手となるため原料濃度に制限がある。その結果、調製された高分子化合物水溶液において、固形分としての上記アルカリ中和物の占める割合は、通常約30質量%程度にしかならない。一方、調製された高分子化合物水溶液の高濃度化を上記例示の方法等により図ると、上記アルカリ中和物の占める割合を約50質量%程度まで高めることが可能である。
【0109】
尚、場合によっては、高分子化合物の前駆体溶液や、高分子化合物の原料溶液(単量体成分を含んでなる溶液)を上記例示の方法により濃縮した後に、これら高分子化合物前駆体または原料より高分子化合物を調製することで、高濃度の高分子化合物溶液を得ることも可能である。
【0110】
上記高分子化合物を懸濁させる不活性有機溶媒は特に限定されるものではないが、例えば、ペンタン、(n−)ヘキサン、ヘプタン、等の飽和鎖式炭化水素;リグロイン、シクロヘキサン、等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、等の芳香族炭化水素;等を挙げることができる。上記例示の不活性有機溶媒のなかではトルエンがより好ましい。
【0111】
また、高分子化合物を不活性有機溶媒中に懸濁させるための上記懸濁剤は特に限定されるものではないが、例えば、グリセロールパルミテート、グリセロール(モノ)ステアレート、グリセロールオレエート、グリセロールリノレエート等の脂肪酸グリセリドに代表されるカルボン酸グリセリド;ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート等のソルビタンエステル類;等を挙げることができる。
【0112】
さらに、高分子化合物溶液の懸濁粒子を、上記不活性有機溶媒中で安定に保つために、通常、沈澱防止剤を用いることがより好ましい。このような沈澱防止剤としては、逆相懸濁重合に用いられる周知の沈澱防止剤を挙げることができる。
【0113】
より具体的には、澱粉;ゼラチン;エチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリビニルアルコール;等が挙げられ、なかでも、エチルセルロール、ポリビニルアルコールがより好適である。
【0114】
上記高分子化合物を架橋させる際に用いられる架橋剤としては、具体的には、例えば、エピクロロヒドリン、各種のジエポキシ化合物等のエポキシ化合物;1,4−ジクロロブタン、1,2−ビス(2クロロエトキシ)エタン等のジクロロ化合物;1,2−ジブロモブタン、1,4−ジクロロブタン等のジブロモ化合物;グリオキザール、グルタルアルデヒド等のジアルデヒド化合物;等が挙げられるが、特に限定されるものではない。前記ポリジアリルアミン誘導体のアルカリ中和物に対しては、上記例示の架橋剤の中でも特にエピクロロヒドリンを用いることで望ましい架橋構造を形成することが可能である。
【0115】
上記の架橋剤、不活性有機溶媒、懸濁剤、および沈澱防止剤の使用量等は特に限定されるものではない。また、架橋構造を形成する反応における反応温度等も特に限定されるものではないが、該反応温度としては、40℃〜90℃の範囲内が好適である。
【0116】
本実施の形態にかかる高分子架橋体前駆体としての上記一般式(5)で表される構造単位を少なくとも1つ有する高分子架橋体を上記の製造方法により得る場合、得られた高分子架橋体に対し、必要に応じて、「無機塩」が可溶な極性溶媒を用いて洗浄することも可能である。これにより、より高いイオン交換容量および強度を有する塩基性高分子架橋体を得ることが可能となる。
【0117】
上記「無機塩」とは例えば、上記ポリジアリルアミン誘導体に含まれるジアリルアミン塩酸塩部分をアルカリ中和することにより生成する無機塩を指す。例えば上記アルカリ中和を水酸化ナトリウム(NaOH)を用いて行う場合には、無機塩とは塩化ナトリウム(NaCl)を指す。
【0118】
高分子架橋体の洗浄に用いられる上記極性溶媒は、無機塩の種類によって異なるが、一般には、水;メチルアルコール、グリセリン等の親水性アルコール類;ジメチルホルムアミド;ジメチルアセトアミド;ジメチルスルホキシド;N−メチルピロリドン;等を挙げることができる。より具体的には、上記無機塩がNaClの場合、極性溶媒としては、水、グリセリン、メチルアルコール等が好ましく、溶解性の観点から、これらの中でも水が最も好ましい。
【0119】
尚、上記一般式(5)で表される構造単位を少なくとも1つ有する高分子架橋体の製造方法は、特に上記説明の製造方法に限定されるものではなく、製造方法の他の例として、例えば、一般式(15)
【0120】
【化25】
【0121】
(式中、R43およびR44はそれぞれ独立して炭素数1〜10のアルキル基を表し、R45およびR46はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、メチル基、またはエチル基を表し、Y- はハロゲン化物イオン、水酸化物イオンまたは有機酸、無機酸のアニオンを表す)
で表される単量体と、一般式(16)
【0122】
【化26】
【0123】
で表される単量体とを含んでなる単量体成分を、懸濁重合する方法を挙げることができる。
【0124】
より具体的に説明すると、上記一般式(16)で表される単量体は、ジアリルアミノ基を同一分子内に2つ含み、前記した3級アミン構造の形成に寄与する含窒素架橋剤であり、架橋構造が形成されるべき高分子化合物(重合体)の形成に寄与するとともに、それぞれのジアリルアミノ基側に形成された高分子化合物同士を架橋する架橋剤としても機能する。
【0125】
上記一般式(16)で表される単量体としては、具体的には、N,N,N’,N’−テトラアリル−1,4−ジアミノブタン、N,N,N’,N’−テトラアリルジアミノエタン等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0126】
上記一般式(16)で表される単量体は、例えば、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、1,2−ジアミノブタン、1,4−ジアミノブタン、1,9−ノナンジアミン、イミノ−ビス−プロピルアミン、メチルイミノ−ビス−プロピルアミン、N,N’−ビス−アミノプロピル−1,3−プロピレンジアミン、N,N’−ビス−アミノプロピル−1,4−ブチレンジアミン、ビス−(3−アミノプロピル)エーテル、1,2−ビス−(3−アミノプロポキシ)エタン、1,3−ビス−(3−アミノプロピル)−2,2−ジメチルプロパン、α,ω−ビス−(3−アミノプロピル)−ポリエチレングリコールエーテル、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、2,3−ジアミノピリジン、2,5−ジアミノピリジン、2,6−ジアミノピリジン、2,6−ジアミノ−4−メチル−ピリジン、等のジアミンをテトラアリル化することにより容易に得ることができる。
【0127】
なお、上記一般式(16)中のV、並びに前記一般式(2)中のZ、および一般式(5)中のWの例示の中で用いられる、kまたはnまたはmで示される繰り返し単位は、製法上、特に限定されるものではないが、これらの値が大きくなればなるほど架橋点間距離が大きくなり、架橋体の膨潤度は大きくなる傾向にある。このため、取り扱い性、並びに、イオン交換能や触媒作用の性能から見て、上記k、n、mは、0以上、14以下の整数であることが望ましく、0以上、4以下の整数であることがより望ましい。
【0128】
また、上記一般式(15)で表される化合物、すなわち、上記一般式(5)で表される構造単位を少なくとも1つ有する高分子架橋体の原料として用いられ、該一般式(5)で表される構造単位を少なくとも1つ有する高分子架橋体が含有する3級アミンおよび/または4級アンモニウム塩を構成する上記ジアリルジアルキルアンモニウム塩としては、特に限定されるものではないが、R43、R44で示される置換基がメチル基であり、Y- で示されるカウンターアニオンが塩化物イオンである化合物、すなわち、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドが特に好ましい。
【0129】
上記一般式(15)で表される単量体と上記一般式(16)で表される単量体との使用割合は、最終的に得られる高分子架橋体に所望されるイオン交換能、活性水素の活性化触媒能や、耐熱分解性などに応じて設定すればよく、特に限定されるものではないが、一般式(15)で表される単量体と一般式(16)で表される単量体とのモル比が、0.70:0.30〜0.90:0.10の範囲内となるように設定されることが好適である。
【0130】
上記の単量体成分は、必要に応じて、上記一般式(15)、一般式(16)で表される単量体と共重合可能な共重合性単量体を、得られる高分子架橋体の性能を阻害しない範囲内で含んでいてもよい。該共重合性単量体としては、具体的には、例えば、スチレン、エチレン、ビニルエーテル類等を挙げることができる。
【0131】
これら共重合性単量体は、必要に応じて、一種類のみを用いてもよく、また、二種類以上を併用してもよい。尚、単量体成分に占める上記共重合性単量体の割合は、特に限定されるものではない。
【0132】
上記の方法により、上記一般式(5)で表される構造単位を少なくとも1つ有する高分子架橋体を製造する場合における具体的な製造方法、すなわち、上記の単量体成分を懸濁重合させる際の重合条件としては、前記一般式(3)、一般式(4)で表される単量体を含む単量体成分を懸濁重合させる際と同様に設定することができる。尚、この場合の分散媒、懸濁剤、沈澱防止剤、重合開始剤などの使用量や、上記重合反応を行う際の反応温度、反応圧力、反応時間などの反応条件は、上記重合反応が完結するように適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。
【0133】
上述した高分子架橋体を製造する際に用いられる塩基性単量体の濃度、例えば一般式(15)・(16)で表される単量体の濃度は特に限定されないが、好ましくは30〜80重量%の範囲内であり、より好ましくは50〜60重量%の範囲内である。これにより、塩基性単量体を重合して得られる塩基性架橋体の見かけ比重を充分に高めることができ、強度が大きく、イオン交換能や触媒能に優れた塩基性架橋体を得ることができる。塩基性単量体の濃度が30重量%未満であると、見かけ比重を充分に高くすることができないため、イオン交換能や触媒能、強度が小さくなる。一方、塩基性単量体の濃度が80重量%を超えると、塩基性単量体溶液の濃度の調整が困難であったり、塩基性単量体を懸濁重合にて粒子化する際に塩基性単量体の液滴を安定して懸濁させることが困難であったりする等、塩基性架橋体が造粒しにくくなる。
【0134】
このようにして得られた、本実施の形態にかかる前記一般式(1)または一般式(2)で表される架橋構造を有する各高分子架橋体は、その架橋点の構造、特に、前記した架橋部位の構造により、優れた耐熱分解性が付与されている。従って、これら高分子架橋体が有する3級アミンや、4級アンモニウム塩等の脱離(熱分解)を防ぐことができる。
【0135】
本実施の形態において、耐熱分解性とは、高分子架橋体の熱分解温度の程度を示し、耐熱分解性が高い(または向上されている)とは、上記高分子架橋体の熱分解温度が、従来一般の高分子架橋体と比較して高い(または向上されている)ことを意味する。また、高分子架橋体の熱分解温度とは、高分子架橋体を熱分析測定装置を用いて窒素気流中で5℃/minで加熱昇温する際に、熱重量分析−示差熱分析(TG−DTA)曲線により求められる、高分子架橋体の分解に伴う吸熱ピーク温度を指すものとする。
【0136】
本実施の形態にかかる上記一般式(1)または(2)で表される架橋構造を少なくとも1つ有する高分子架橋体は、例えば、イオン交換反応におけるイオン交換物質(イオン交換体)として、また、活性水素を活性化する反応における活性化用触媒として、好適に使用される。さらに、該高分子架橋体の有する架橋部位の構造によって、その熱分解温度を300℃以上とすることが可能であり、高分子架橋体が有する3級アミンや、4級アンモニウム塩等の脱離(熱分解)を防ぐことができる。よって、幅広い温度条件下で長期間にわたり好適に使用されることが可能で、その用途を大きく広げることができる。
【0137】
特に、上記高分子架橋体が活性水素含有化合物の活性水素の活性化用触媒(活性水素活性化用触媒)として使用される場合、通常、高い反応温度に耐えうることが必要となるが、該高分子架橋体は耐熱分解性に優れているため、長期間にわたり好適な触媒活性を示すこととなる。尚、言うまでもないが、該高分子架橋体は架橋構造を有しているため、イオン交換反応や、活性水素を活性化する反応において、反応溶液中に溶出等するおそれがない。
【0138】
上記反応工程における反応実施形態は、その反応に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。本実施の形態で触媒として用いられる高分子架橋体は、公知の方法で様々の形状・サイズに成形することができ、その中でも、触媒としての機能を有効に発揮させる上で好ましいサイズ・形状は100μm〜10mmの粒状である。上記高分子架橋体は、必要により塊状、粉末状、繊維状、膜状等に成形して使用することもできる。また、上記高分子架橋体を用いた反応は、撹拌回分式反応器または固定床もしくは流動床反応器等を用いて行うことができ、反応方式もバッチ式および連続式の如何を問わない。さらに、該触媒反応とその反応で得られた反応物の精製を効率的に行う反応蒸留にも使用可能であり、プロセスによってその使用方法を何ら制限されるものではない。
【0139】
上記イオン交換物質(イオン交換体)としては、イオン交換樹脂、イオン交換膜など、種々の形態として用いることができる。本実施の形態におけるイオン交換反応とは、より具体的には陰イオンの交換反応を示す。すなわち、上記高分子架橋体が含有する3級アミンまたは4級アンモニウム塩がイオン交換基として機能し、該イオン交換基の有する水酸化物イオン、ハロゲンイオン、並びに、有機酸または無機酸のアニオンが、他の陰イオンと交換される。
【0140】
また、本実施の形態において「活性水素を活性化する」とは、本実施の形態の高分子架橋体が有する窒素原子(3級アミン、4級アンモニウム塩に由来するもの、また場合によっては前記4級アンモニウム塩構造に由来するもの)により、活性水素が活性化されることを示す。
【0141】
ところで、環状のアミン、または、環状の4級アンモニウム塩は脂肪族アミンよりも酸化的分解を受けにくいことが一般に知られている。よって、高分子架橋体の耐熱分解性の観点においては、高分子架橋体が有する3級アミン、または、4級アンモニウム塩が、環状の3級アミン、または、環状の4級アンモニウム塩であることがより好ましい。例えば、前記一般式(1)または(2)で表される架橋構造を少なくとも1つ有する上記の高分子架橋体が有する4級アンモニウム塩が、前記一般式(13)で表される構造単位を有していることが好ましい。
【0142】
本実施の形態において活性化される活性水素とは、化合物が有する全水素原子のうち、所望の反応に関与する水素原子を示す。従って、上記の活性水素は、特に限定されるものではないが、ヘテロ原子を含まない有機化合物中の炭素原子に直接結合した水素原子よりも反応性が高い水素原子であることが好ましい。上記活性水素としては、具体的には、例えば、ヘテロ原子に直接結合した水素原子;電子吸引基に隣接する炭素に結合した水素原子(α−水素原子);置換芳香族を構成する水素原子;アルデヒドやカルボン酸等の官能基を構成する水素原子が挙げられる。また、上記ヘテロ原子に直接結合した水素原子としては、具体的には、例えば、−NH2 基、−CONH基、−OH基、−SH基等の官能基を構成する水素原子が挙げられる。また、電子吸引基に隣接した炭素に結合した水素としては、例えば、カルボニル化合物のα位の水素原子等が挙げられる。
【0143】
従って、本実施の形態における活性水素含有化合物とは、上記活性水素を有する化合物を示す。尚、活性水素含有化合物は、活性水素を複数有していてもよい。また、活性水素含有化合物が活性水素を複数有している場合において、これら活性水素の種類は、互いに同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0144】
本実施の形態において、活性水素含有化合物の活性化とは、該活性水素含有化合物から、上記活性水素を引き抜く(或いは、より解離し易くする)こと、即ち、活性水素含有化合物が有する活性水素の活性化を意味する。つまり、本実施の形態にかかる上記一般式(1)または(2)で表される架橋構造を少なくとも1つ有する高分子架橋体は、活性水素含有化合物から、活性水素を引き抜くか、或いは活性水素をより解離し易くすることによって求核付加させる、活性水素の活性化を伴う種々の反応に好適に用いることができる。
【0145】
次に、上記高分子架橋体を用いた、活性水素含有化合物の活性化を伴う種々の反応例、即ち、上記高分子架橋体を活性水素活性化用触媒として好適に用いることができる種々の反応例を以下に示す。但し、以下の反応例は、上記高分子架橋体を活性水素活性化用触媒として適用可能な反応の一例であって、以下の反応にのみ限定されるものではない。尚、以下の反応例(反応式)中のR、R1 、R2は各々独立して水素原子またはアルキル基等の有機残基を表し、Arはアリール基を表し、XはF、Cl、Br、I等のハロゲン原子を表し、AはO、S、またはNHを表す。
【0146】
ヘテロ原子に直接結合した水素原子が関与する反応としては、例えば、
【0147】
【化27】
【0148】
等の反応例(反応式)で表される、アミン類(第1アミン類または第2アミン類)への環状ヘテロ化合物(例えばエチレンオキサイド、エチレンイミン、エチレンスルフィド等)の付加反応;
【0149】
【化28】
【0150】
等の反応例で表される、アミン類(第1アミン類または第2アミン類)からアミドへの変換反応;
【0151】
【化29】
【0152】
等の反応例で表される、アミド類の加水分解反応;
【0153】
【化30】
【0154】
等の反応例で表される、アミド類への環状ヘテロ化合物の付加反応、より具体的には、例えば、ピロリドン、イソシアヌル酸へのエチレンオキサイドの付加反応;
【0155】
【化31】
【0156】
等の反応例で表される、チオアミド類への環状ヘテロ化合物の付加反応;
【0157】
【化32】
【0158】
等の反応例で表される、水またはアルコール類(第1アルコール類、第2アルコール類、または第3アルコール類)への環状ヘテロ化合物の付加反応、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、もしくはブタノールへの、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド等のオキシラン化合物の付加反応;
【0159】
【化33】
【0160】
等の反応例で表される、アルコール類(第1アルコール類、第2アルコール類、または第3アルコール類)とハロゲン化水素との反応、より具体的には、例えば、イソプロピルアルコールと濃臭化水素とから臭化イソプロピルを合成する上記の反応;
【0161】
【化34】
【0162】
等の反応例で表される、アルコール類(第1アルコール類、第2アルコール類、または第3アルコール類)を用いたエステルの合成反応;
【0163】
【化35】
【0164】
等の反応例で表される、アルコール類(第1アルコール類、第2アルコール類、または第3アルコール類)の酸化反応;
【0165】
【化36】
【0166】
等の反応例で表される、フェノール類(具体的には、フェノール、ハイドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、BHPF(ビスヒドロキシフェニルフルオレン)、ジヒドロキシジフェニルメタン等)への環状ヘテロ化合物の付加反応;
【0167】
【化37】
【0168】
等の反応例で表される、フェノール類とハロゲン化アルキルとからエーテル類を合成する反応(ウィリアムソン(Williamson)合成反応)、より具体的には、例えば、p−クレゾールと臭化p−ニトロベンジルとからp−ニトロベンジル−p−トリルエーテルを合成する上記の反応;
【0169】
【化38】
【0170】
等の反応例で表される、フェノール類を用いたエステルの合成反応、より具体的には、例えば、p−ニトロフェノールと無水酢酸とから酢酸p−ニトロフェニルを合成する上記の反応、あるいは、o−ブロモフェノールと塩化p−トルエンスルホニルとからo−ブロモフェニル−p−トルエンスルホン酸を合成する上記の反応;
【0171】
【化39】
【0172】
等の反応例で表される、チオール類(第1チオール類、第2チオール類、または第3チオール類)への環状ヘテロ化合物の付加反応;
【0173】
【化40】
【0174】
等の反応例で表される、チオフェノール類への環状ヘテロ化合物の付加反応;等が挙げられる。尚、ヘテロ原子に直接結合した水素原子が関与する反応は、上記例示の反応にのみ限定されるものではない。
【0175】
また、電子吸引基に隣接する炭素原子に結合した水素原子が関与する反応としては、例えば、
【0176】
【化41】
【0177】
等の反応例で表される、ケトン類のハロゲン化反応、より具体的には、例えば、シクロヘキサノンに臭素原子を導入する上記の反応;
【0178】
【化42】
【0179】
等の反応例で表されるアルドール縮合反応、より具体的には、例えばアセトアルデヒドから3−ヒドロキシブタナールを合成する上記の反応や、アセトンからジアセトンアルコールを合成する上記の反応、
【0180】
【化43】
【0181】
等の反応例で表されるパーキン(Perkin)縮合反応、
【0182】
【化44】
【0183】
等の反応例で表されるクネーベナーゲル(Knoevenagel) 縮合反応、
【0184】
【化45】
【0185】
等の反応例で表されるコープ(Cope)反応、
【0186】
【化46】
【0187】
等の反応例で表されるウィッティヒ(Wittig)反応等の、カルボニル化合物(ケトン類)への各種求核付加反応;
【0188】
【化47】
【0189】
等の反応例で表されるクライゼン(Claisen) 縮合反応等の、ケトン類への求核アシル置換反応;
【0190】
【化48】
【0191】
等の反応例で表される、α,β−不飽和カルボニル化合物(ケトン類)への付加反応(マイケル(Michael) 付加反応);等が挙げられる。尚、電子吸引基に隣接する炭素原子に結合した水素原子が関与する反応は、上記例示の反応にのみ限定されるものではない。
【0192】
さらに、置換芳香族を構成する水素原子が関与する反応としては、例えば、
【0193】
【化49】
【0194】
等の反応例で表されるライマー・ティーマン(Reimer-Tiemann)反応;
【0195】
【化50】
【0196】
等の反応例で表されるフリーデルクラフツ(Friedel-Crafts)アシル化反応;等が挙げられる。尚、置換芳香族を構成する水素原子が関与する反応は、上記例示の反応にのみ限定されるものではない。
【0197】
また、アルデヒドやカルボン酸等の官能基を構成する水素原子が関与する反応としては、例えば、
【0198】
【化51】
【0199】
等の反応例で表される、カルボン酸類(具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、酢酸、プロピオン酸等)への環状ヘテロ化合物(具体的には、エチレンオキサイド、プロピオンオキサイド等)の付加反応、より具体的には、工業的に重要な反応として知られる、(メタ)アクリル酸とエチレンオキサイドとから(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルエステルを合成する反応や、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルエステルを合成する反応;
【0200】
【化52】
【0201】
等の反応例で表される、チオカルボン酸類への環状ヘテロ化合物の付加反応;
【0202】
【化53】
【0203】
等の反応例で表される、アルデヒド類へのアルコールの付加反応;
【0204】
【化54】
【0205】
等の反応例で表される、カニッツァーロ(Cannizzaro)反応、より具体的には、n−ブチルホルムアルデヒドにホルムアルデヒドを2回、アルドール縮合させた後、カニッツァーロ反応を行うことでトリメチロールプロパンを製造する反応;等が挙げられる。尚、アルデヒドやカルボン酸等の官能基を構成する水素原子が関与する反応は、上記例示の反応にのみ限定されるものではない。
【0206】
本実施の形態にかかる高分子架橋体は、これら活性水素含有化合物中の活性水素の活性化を伴う反応のなかでも、フェノール類、アミド類、水、アルコール類、カルボン酸類、マロン酸、シアノ酢酸およびそのエステルからなる群より選ばれる活性水素含有化合物に、環状ヘテロ化合物(好適にはオキシラン化合物、特に好適にはエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド)またはアルデヒド類を付加反応させる反応;マンニッヒ反応;芳香族化合物のアルキル化反応;特公昭41−13019号公報に記載の(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル化反応;シアノヒドリン生成反応;シアノエチル化反応;等により好適に用いられる。これらの中でも、水、アルコール類、カルボン酸類、およびそのエステルからなる群より選ばれる活性水素含有化合物(特に好適には水、炭素数1〜6のアルコール類、(メタ)アクリル酸)に、オキシラン化合物(特に好適にはエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド)を付加反応させる反応により好適に用いられる。
【0207】
このように、本実施の形態にかかる高分子架橋体は、活性水素含有化合物中の活性水素の活性化を伴う種々の反応における活性水素の活性化用樹脂触媒として好適に供することができる。
【0208】
次に、(メタ)アクリル酸とオキシラン化合物とを反応させてヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造する方法であって、触媒として本実施の形態の高分子架橋体を使用するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法について説明する。ここで(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸またはメタクリル酸を表し、(メタ)アクリレートとはアクリレートまたはメタクリレートを表す。
【0209】
この合成反応に使用されるオキシラン化合物は、炭索数が好ましくは2〜6、より好ましくは2〜4のアルキレンオキシドであり、代表例としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドが挙げられる。アルキレンオキシドは、(メタ)アクリル酸に対して等モル以上、好ましくは1.0〜5.0倍モルの範囲で用いられ、この反応は通常50〜130℃、好ましくは50〜100℃の温度範囲内で行われる。反応温度が50℃未満では、反応速度が遅すぎて実用的でなくなるおそれがあり、また、130℃を超える高温になると、反応原料や反応生成物が重合反応を起こし易くなるので好ましくない。
【0210】
この合成反応は、通常、加圧下で液状にて行われ、該圧力は反応混合物を液相に保つのに充分な圧力を採用することが望ましい。また反応を行う際の雰囲気条件は特に制限されないが、窒素等の不活性雰囲気下で行うのがよい。この反応に際し、(メタ)アクリル酸およびそのエステルの重合を防止する目的で通常は重合防止剤が使用されるが、その種類にも格別の制限はなく、この種の反応に一般に用いられる重合防止剤を適宜選択して使用すればよい。
【0211】
その代表例としては、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、フェノチアジン、ジブチルジチオカルバミン酸銅等が例示される。該重合防止剤の使用量は、通常、(メタ)アクリル酸に対して0.001重量%以上、より好ましくは0.01重量%以上で、1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下である。また、この反応は溶剤の存在下に行うこともできる。溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、石油エーテル等、上記反応に不活性の溶剤が適宜選択して使用される。
【0212】
そして本実施の形態では、これらの反応系に、触媒として一般式(1)または一般式(2)で表される架橋構造を少なくとも1つ有する高分子架橋体を共存させることにより、その作用効果を充分に発揮して、工業製品として有用なヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを高い収率で効率よく得ることができる。
【0213】
上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、アクリル酸ヒドロキシエチル(HEA)、メタクリル酸ヒドロキシエチル(HEMA)、アクリル酸ヒドロキシプロピル(HPA)、メタクリル酸ヒドロキシプロピル(HPMA)が特に好適である。
【0214】
本実施の形態の高分子架橋体の使用により製造されるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、好ましい実施形態の1つである。
【0215】
次に、水とオキシラン化合物とを反応させてグリコール類を製造する方法であって、触媒として本実施の形態の高分子架橋体を使用するグリコール類の製造方法について説明する。
【0216】
このような高分子架橋体の使用方法でも、本実施の形態の高分子架橋体が合成用触媒となり、その作用効果を充分に発揮して、工業製品として有用なグリコール類を製造することが可能である。
【0217】
上記グリコール類としては、例えば、エチレングリコールが特に好適である。本実施の形態の高分子架橋体の使用により製造されるグリコール類は、好ましい実施形態の1つである。
【0218】
上記オキシラン化合物としては、エポキシ基を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、イソブチレンオキサイド、1,2−ブチレンオキサイド、2,3−ブチレンオキサイド、ペンチレンオキサイド等の脂肪族アルキレンオキサイド;スチレンオキサイド等の芳香族アルキレンオキサイド;シクロヘキセンオキサイド等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、炭素数が2〜3の脂肪族アルキレンオキサイド、すなわち、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドが好ましい。より好ましくは、エチレンオキサイドである。従って、本実施の形態のグリコール類の製造方法は、エチレンオキサイドと水とを反応させてエチレングリコールを製造する際に最も好適に適用されることとなる。
【0219】
本実施の形態において、反応原料となるオキシラン化合物と水との比率としては特に限定されず、例えば、水/オキシラン化合物のモル比を1/1〜20/1とすることが好ましい。オキシラン化合物に対する水のモル比が1未満であると、モノグリコール類を選択性よく製造しようとするときに、ジグリコール類、トリグリコール類等の副生物の生成量が増加し、モノグリコール類の選択性が低下するおそれがある。オキシラン化合物に対する水のモル比が20を超えると、生成物を得た後の精製工程により、反応に用いた過剰の水を多大なエネルギーを用いて除去するブロセスが必要となるため、ユーティリティー削減効果が見込めず、プロセス的に好ましくなくなるおそれがある。プロセス的により好ましくは上記モル比が1/1〜10/1、さらに好ましくは1/1〜7/1の範囲内であり、モノグリコール類を高い選択率で得るためには、上記モル比が5/1〜20/1の範囲内であることがより好ましく、7/1〜20/1の範囲内であることがより一層好ましい。
【0220】
本実施の形態で使用される高分子架橋体に含まれるカウンターアニオンとしては特に限定されず、例えば、上述したアニオンと同様のもの等が挙げられる。これらカウンターアニオンは、高分子架橋体中に1種のみ含まれていても、2種以上含まれていてもよい。これらカウンターアニオンの中でも、炭酸水索イオン、亜硫酸水素イオン、ギ酸イオン、モリブデン酸イオンが好ましく、炭酸水素イオン、ギ酸イオンがより好ましく、炭酸水素イオンが最も好ましい。従って、本実施の形態のグリコールの製造方法においては、カウンターアニオンが、炭酸水索イオンを必須とすることが好ましい。これにより、触媒活性がより向上し、モノグリコール類の選択性がより向上することとなる。
【0221】
本実施の形態における高分子架橋体の形態としては特に限定されず、例えば、オキシラン化合物と水との反応後に反応溶液からの分離が容易となることから、粉末状、固形状であることが好ましい。
【0222】
本実施の形態のグリコール類の製造方法において、高分子架橋体の使用量や反応装置への供給方法、反応後に高分子架橋体を反応溶液から分離する方法としては、本実施の形態の製造方法が行われる形態等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。また、反応条件としては特に限定されず、例えば、反応温度は80〜200℃であることが好ましい。80℃未満であると、反応速度が遅くなり、単位時間当たりの収率が低くなるおそれがある。200℃を超えると、モノグリコール類の選択性が低くなるおそれがある。より好ましくは、80〜160℃であり、さらに好ましくは、90〜140℃である。反応圧力は、0.1〜5MPaであることが好ましい。より好ましくは、0.15〜3MPaであり、さらに好ましくは、0.2〜2MPaである。
【0223】
本実施の形態のグリコール類の製造方法は、二酸化炭索や、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスの存在下に行うこともでき、カウンターアニオンが炭酸水素イオン、ヒドロキシイオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンである場合には、二酸化炭素の存在下に行うことが好ましい。これらの中でも、カウンターアニオンに炭酸水素イオンを使用した場合、製造時における触媒活性の維持、アニオンのロスを考慮して、二酸化炭索の実質的存在下で行うことが好ましい。実質的存在下とは、意図的に除去しない、二酸化炭素ガスを気相部若しくは液相部に添加する、または、重炭酸塩、炭酸塩を使用することを意味する。この際、系中に添加される二酸化炭素ガスは、例えば、オキシラン化合物、水、二酸化炭素等の触媒が除かれた原料フィード中、二酸化炭素含有量が0.1重量%以上である。また、系中に添加される重炭酸塩、炭酸塩は、固体でも溶液の状態でもよく、例えば、水溶液中の重炭酸イオン、炭酸イオンが0.01〜15重量%、さらに好ましくは、0.2〜5重量%であることが好ましい。重炭酸塩、炭酸塩は、例えば、カリウムやナトリウムのアルカリ金属との塩等が挙げられる、また、本発明の作用効果を奏することになる限り、反応原料であるオキシラン化合物と水や、高分子架橋体以外の成分として、例えば、他の触媒等を必要に応じて添加してもよい。
【0224】
本実施の形態により製造されるグリコール類としては特に限定されず、各種のグリコール類が挙げられるが、本実施の形態では1分子のオキシラン化合物と水とが反応して生成するモノグリコール類を選択性と生産性とを両立させて製造することが可能である。例えば、オキシラン化合物としてエチレンオキシドを用いる場合には、ジエチレングリコールやトリエチレングリコール等の余剰副生成物を抑制してモノエチレングリコールの選択性を向上させることが可能であり、また、水の使用量を抑制してエチレンオキシドの濃度を高くしてもモノエチレングリコールを選択性よく製造することが可能である。このように製造されるモノグリコール類はそのまま用いてもよく、精製等の操作を施してもよいが、モノグリコール類の選択性が優れるために、そのまま工業用途に用いることができる。
【0225】
本実施の形態の高分子架橋体は、グリコールエーテル類の製造方法においても好適に適用される。すなわち、水の場合と同様にオキシラン化合物と水酸基含有化合物とを反応させてグリコールエーテル類を製造する場合にも好適に使用される。
【0226】
また、原料の水酸基含有化合物も限定されるものではなく、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール、n−オクタノール、n−ドデカノール、ベンジルアルコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等の脂肪族一価アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、キシリレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の脂肪族二価アルコール;フェノール、メチルフェノール、ハイドロキノン、レソシノール、カテコール等のフェノール類;等が挙げられる。そのなかでも、特に、炭素数1〜6の脂肪族一価アルコール、フェノール類が好ましい。
【0227】
上記グリコールエーテル類の製造において、反応原料となるオキシラン化合物と水酸基含有化合物との比率としては特に限定されるものではないが、例えば、水酸基含有化合物/オキシラン化合物のモル比を1/1〜20/1の範囲内とすることが好ましく、1/1〜10/1の範囲内とすることがより好ましく、2/1〜7/1の範囲内とすることがさらに好ましく、3/1〜5/1の範囲内とすることが最も好ましい。オキシラン化合物に対する水酸基含有化合物のモル比が1未満であると、グリコールエーテル類を選択性よく製造しようとするときに、ジグリコールエーテル類、トリグリコールエーテル類等の副生物の生成量が増加し、所望のグリコールエーテル類の選択性が低下するおそれがある。逆に、オキシラン化合物に対する水酸基含有化合物のモル比が20を超えると、生成物を得た後の精製工程により、反応に用いた過剰の水酸化物を多大なエネルギーを用いて除去するプロセスが必要となるため好ましくない。
【0228】
本実施の形態により製造されるグリコールエーテル類としては特に限定されず、各種のグリコールエーテル類が挙げられるが、本実施の形態では1分子のオキシラン化合物と水酸基含有化合物とが反応して生成するグリコールエーテル類を選択性と生産性とを両立させて製造することが可能である。
【0229】
本実施の形態の方法で製造されるグリコールエーテル類はそのまま用いてもよく、精製等の操作を施してもよいが、グリコールエーテル類の選択性が優れるために、そのまま工業用途に用いることができる。
【0230】
上記グリコールエーテル類の製造方法では、オキシラン化合物と水酸基含有化合物とを本実施の形態の高分子架橋体の存在下で反応させて行うことになるが、上記高分子架橋体の耐熱性が優れることから、触媒活性か安定的に保持されて無着色で高品質のグリコールエーテル類を生産性よく製造することができ、しかも、モノグリコールエーテル類を選択性と生産性とを両立させて製造することができることになる。また、上記高分子架橋体を上述したように粒状粒子とすると、生成物から分離することが容易となることから、工業的な製造方法として好適となる。
【0231】
【実施例】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。尚、特に言及しない限り、以下の各実施例において、「%」とは「重量%」を示す。
【0232】
〔実施例1〕
(第1工程)
先ず、温度計、攪拌装置および滴下装置を備えた反応容器に炭酸カリウム71.7g(519mmol)を水75mlに溶解してなる炭酸カリウム水溶液を仕込んだ。次に、この炭酸カリウム水溶液に、一般式(17)
【0233】
【化55】
【0234】
で表される1,3−ジ(4−ピペリジル)プロパン50.0g(238mol)を室温で添加した。尚、この時点で1,3−ジ(4−ピペリジル)プロパンは上記炭酸カリウム水溶液に溶解せず、攪拌は困難であった。このため、続いて、上記炭酸カリウム水溶液に、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)150mlを添加し、さらに、アリル化剤としてのアリルクロライド40.1g(524mmol)を30分間かけて滴下した。滴下中、発熱が見られたため、上記反応容器を氷水バスに浸け、上記反応容器中の溶液の温度を20℃〜25℃に保持し、その後、同温度で24時間反応させた。続いて、この反応液を、水1Lに投入し、酢酸エチル500mlで2回抽出した。その後、酢酸エチル相を500mlの水と500mlの飽和食塩水とにより洗浄し、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥させた。続いて、溶媒を留去後、142℃〜144℃、53.3Paにて減圧蒸留することにより、反応生成物として、一般式(18)
【0235】
【化56】
【0236】
で表される化合物58.7gを得た。該物質の同定は 1H−NMR並びにガスクロマトグラフィー(GC)により行った。GCの測定には、株式会社島津製作所製のガスクロマトグラフ装置(商品名:GC−17A型ガスクロマトグラフ装置)を使用し、カラムは、J & W Scientific社製のキャピラリーカラム( 商品名:DB−1、長さ30m、径0.25mm)を用いた。また、インジェクション温度は250℃であり、カラム温度は200℃〜300℃(10℃/分昇温)とした。キャリアガスには、ヘリウム(He)を使用し、その流量は1.0kg/cm2とした。
【0237】
上記反応生成物の 1H−NMRのチャートを図1に、ガスクロマトグラムを図2にそれぞれ示す。また、上記第1工程における反応を以下に示す。得られた反応生成物、すなわち、上記一般式(18)で表される化合物の収率は85%であった。
【0238】
【化57】
【0239】
(第2工程)
次いで、上記第1工程で得られた反応生成物、すなわち、上記一般式(18)で表される化合物52.3g(180mmol)と、アリル化剤としてのアリルクロライド41.3g(540mmol)と、溶媒としてのアセトン400mlを1Lオートクレーブに仕込み、87℃で72時間反応させた。
【0240】
反応終了後、上記反応液を冷却し、得られた結晶を濾過により取り出し、アセトン1Lで洗浄した。続いて、得られた結晶を真空乾燥することにより、反応生成物76.1gを得た。このようにして得た反応生成物について、 1H−NMRを測定することにより、物質の同定を行った。その結果、上記反応生成物が、一般式(19)
【0241】
【化58】
【0242】
で表されるテトラアリルジピペリジルプロパニウムジクロライド、すなわち、本発明にかかる新規な架橋剤であることを確認した。上記反応生成物の 1H−NMRのチャートを図3に、上記第2工程における反応を以下にそれぞれ示す。得られた反応生成物、すなわち、上記一般式(19)で表されるテトラアリルジピペリジルプロパニウムジクロライドの収率は95%であった。
【0243】
【化59】
【0244】
〔実施例2〕
ジアリルジメチルアンモニウムクロライド(DADMAC)の65重量%水溶液(アルドリッチ社製)8.35g、含窒素架橋剤としてのN,N,N’,N’−テトラアリルジピペリジルプロパニウムジクロライド(TADPPC)1.65g、アゾ系開始剤としての2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩(和光純薬工業株式会社製;商品名「V−50」)80mg、および水0.6gを耐圧ガラスビン中で混合して溶解させた(単量体濃度66.3%、DADMAC/TADPPC=90/10mol%)。次に、上記耐圧ガラスビンを55℃で4時間、続いて75℃で2時間加熱し、上記単量体成分の重合反応を行った。
【0245】
重合反応後、耐圧ガラスビンを冷却して得られた重合反応生成物を取り出した。次いで、該重合反応生成物を100mlのメチルアルコールで3回洗浄した後、60℃で1晩減圧乾燥した。これにより、生成した高分子架橋体の乾燥体を、収率100%で、本発明にかかる前記一般式(1)で表される架橋構造を有する高分子架橋体Aとして得た。上記高分子架橋体Aを試料とし、その熱分解温度を前記した方法により測定したところ386℃であった。
【0246】
〔実施例3〕
実施例2で得られた高分子架橋体Aを活性水素(α−水素原子)を活性化する活性化用触媒として用いたカルボン酸類への環状ヘテロ化合物の付加反応として、アクリル酸のヒドロキシプロピル化反応を行った。
【0247】
具体的には、温度計、及び攪拌装置等を備えた反応容器に、アクリル酸(カルボン酸類)とプロピレンオキシド(環状ヘテロ化合物、オキシラン化合物)とを、アクリル酸に対するプロピレンオキシドの仕込み量が、モル比で1.2倍となるように仕込んで反応溶液とした。次に、この反応溶液に、実施例2で得られた高分子架橋体Aを、アクリル酸に対して10重量%添加した。その後、該反応液を攪拌しながら、70℃で4時間反応させることにより、アクリル酸のヒドロキシプロピル化を行った。
【0248】
反応終了後、上記反応液を濾過し、回収した濾液をガスクロマトグラフィーにより分析した。その結果、アクリル酸の転化率は77.8%であり、アクリル酸1分子にプロピレンオキシドが1分子付加した付加体(反応生成物)の選択率は87.0%であり、アクリル酸1分子にプロピレンオキシドが2分子付加した付加体(反応副生成物)の選択率は8.9%であった。尚、反応基質である上記アクリル酸の転化率、及び、反応生成物や反応副生成物の選択率は、以下の定義に従って求めた。
【0249】
反応基質の転化率(%)
=(消費された反応基質のモル数/供給した反応基質のモル数)×100
反応生成物(または反応副生成物)の選択率(%)
=(反応生成物(または反応副生成物)に転化した反応基質のモル数
/消費された反応基質のモル数)×100
上記の結果より、実施例2で得られた高分子架橋体Aは、カルボン酸類への環状ヘテロ化合物の付加反応であるアクリル酸のヒドロキシプロピル化反応の触媒として作用することが判った。
【0250】
〔実施例4〕
実施例2で得られた高分子架橋体Aを用いて、その陰イオン交換能の有無を確認した。具体的には、ビーカー中に約0.01N水酸化ナトリウム水溶液(pH=11.83、24℃)10mlおよび上記高分子架橋体Aを200mg仕込み、30分間攪拌した。その結果、ビーカー中の水溶液のpHは11.46(23℃)に下がった。これは、上記高分子架橋体Aのアニオンである塩化物イオンと、上記水酸化ナトリウム水溶液中のアニオンである水酸化物イオンとが交換し、結果としてpHが下がったものである。以上の結果から、上記高分子架橋体Aは、陰イオン交換能を有することが明らかとなった。
【0251】
〔参考例1〕
ジアリルジメチルアンモニウムクロライドとジアリルアミン塩酸塩との含有率(モル比)が約70:30で、かつ、その分子量が約15万の線状の高分子共重合体(高分子化合物の前駆体)を固形分として42%含んでなる0.3重量%水酸化ナトリウム水溶液119.0gと、8.2%水酸化ナトリウム水溶液47.5gとを混合し、pH12.5の高分子化合物前駆体水溶液を調製した。尚、該高分子化合物前駆体水溶液中において上記線状の高分子共重合体は、水酸化ナトリウムによりアルカリ中和されている。
【0252】
続いて、温度計、いかり型攪拌翼、及び及び還流冷却器を備えた容量1Lのセパラブルフラスコに、分散媒(不活性有機溶媒)としてのトルエン500ml、懸濁剤としてのソルビタンモノパルミテート(和光純薬工業株式会社製;ICI社商標「Span60」相当品)1.25g、および沈澱防止剤としてのエチルセルロース(和光純薬工業株式会社製;abt.49%、ethoxy45cp)1.25gを仕込んだ。そしていかり型攪拌翼を回転数200rpmで回転させながら、上記高分子化合物前駆体水溶液を分散媒中に穏やかに混合・懸濁(分散)して懸濁液を調製し、40℃で1時間保持した。続いて、この懸濁液に、架橋剤としてのエピクロロヒドリン(和光純薬工業株式会社製;特級)4.52gを1時間かけて滴下後、90℃に昇温して4時間反応させた。
【0253】
続いて、容器中の反応液を冷却し、トルエンをデカンテーションにて除去した後、濾過することにより、ポリマービーズを得た。得られたポリマービーズは、メタノール(極性溶媒)600mlで3回洗浄した後、60℃で1晩減圧乾燥した。これにより、3級アミン架橋体としての高分子架橋体Bの乾燥体46.0gを得た。
【0254】
次いで、この高分子架橋体Bの乾燥体5gとメタノール31.8gとを100mlの4つ口フラスコに投入し、上記高分子架橋体Bの乾燥体をメタノールにて30分間膨潤させた。続いて、この膨潤した高分子架橋体Bに4級化剤としてのヨウ化メチル(和光純薬工業株式会社製;特級)13.6gをゆっくり滴下し、上記4つ口フラスコ内の温度を45℃に6時間保持することにより、上記高分子架橋体Bにおける架橋部位の3級アミンの4級化反応を行った。
【0255】
反応終了後、上記4つ口フラスコ内の反応液を濾過することによりポリマービーズを取り出し、該ポリマービーズをメタノール100mlで3回洗浄した後、60℃で1晩減圧乾燥することにより、前記一般式(2)で表される架橋構造を有する高分子架橋体Cとして、前記高分子架橋体Bを4級化してなる高分子架橋体7.5gを得た。元素分析のC/N比より、3級アミンのメチル化が確認された。また、上記高分子架橋体Cを試料とし、その熱分解温度を前記した方法により測定したところ312℃であった。
【0256】
〔参考例2〕
参考例1で得られた高分子架橋体Cを活性化用触媒として用いて、実施例3と同様にしてアクリル酸のヒドロキシプロピル化反応を行った。その結果、アクリル酸の転化率は61.6%であり、アクリル酸1分子にプロピレンオキシドが1分子付加した付加体(反応生成物)の選択率は82.4%であり、アクリル酸1分子にプロピレンオキシドが2分子付加した付加体(反応副生成物)の選択率は14.7%であった。
【0257】
これにより、参考例1によって得られた高分子架橋体Cは、カルボン酸への環状ヘテロ化合物の付加反応である、アクリル酸のヒドロキシプロピル化反応の触媒として作用することが判った。
【0258】
〔参考例3〕
参考例1で得られた高分子架橋体Cを用いて、その陰イオン交換容量を測定した。陰イオン交換容量の測定は、一般的なイオン交換容量の測定方法に従って行われた。測定の結果、高分子架橋体Cの陰イオン交換容量は約0.68meq/ml(Cl型水膨潤体積を基準)であることが判った。以上の結果から、上記高分子架橋体Cは、陰イオン交換能を有することが明らかとなった。
【0259】
〔実施例5〕
実施例2において、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド(DADMAC)の65重量%水溶液の使用量を8.35gから9.15gに変更すると共に、N,N,N’,N’−テトラアリルジピペリジルプロパニウムジクロライド(TADPPC)の使用量を1.65gから0.85gに変更し、イオン交換水の使用量を0.6gから2.36gに変更した(単量体濃度54.6%、DADMAC/TADPPC=95/5mol%)以外は、実施例2と同様の反応・操作を行って、本発明にかかる前記一般式(1)で表される架橋構造を有する高分子架橋体Dを合成した。
【0260】
得られた高分子架橋体Dを3%炭酸水素ナトリウム水溶液300gで3回洗浄した後、同量のイオン交換水で3回洗浄することにより、カウンターアニオンを塩素イオンから炭酸水素イオンに置換した高分子架橋体Eとして得た。
【0261】
〔実施例6〕
実施例5で得られた高分子架橋体Eを活性水素含有化合物の活性化用触媒として用いた、水への環状ヘテロ化合物の付加反応である、エチレンオキサイドの水和反応を行なった。
【0262】
具体的には、温度計、ガス供給管および攪拌装置等を備えたオートクレーブに、イオン交換水20g(活性水素含有化合物)と、上記高分子架橋体Eの水膨潤体2.6mlとを仕込んだ。次に、オートクレーブを密閉し、窒素ガスで加圧した後、内温を120℃に昇温させた。次いで、内容物を攪拌しながらエチレンオキサイド(環状ヘテロ化合物)4.9gを、ガス供給管を介して導入した。その後、該反応液を攪拌しながら、120℃でさらに2時間熟成させることにより、エチレンオキサイドの水和反応を行った。
【0263】
反応終了後、オートクレーブを冷却し、反応溶液を濾過し、濾液をGCにより分析した。その結果、エチレンオキサイドの転化率は99.9%であり、エチレングリコールの選択率は94.2%であった。
【0264】
上記の結果により、実施例5で得られた高分子架橋体Eは、水への環状ヘテロ化合物の付加反応であるエチレンオキサイドの水和反応の触媒として作用することが判った。
【0265】
〔実施例7〕
いかり型攪拌翼、還流冷却管、温度計、窒素ガス導入管および滴下ロートを備えた1Lのセパラブルフラスコに、トルエン350mlと流動パラフィン(和光純薬工業株式会社製;特級)50ml(媒体中12.5%)とを仕込み、分散安定剤としてソルビタンモノパルミテート0.071gおよびエチルセルロース0.213gを添加し、溶解させた。このとき、窒素ガスを吹き込んで溶存酸素を追い出した。
【0266】
一方、65%ジアリルジメチルアンモニウムクロライド(DADMAC)水溶液41.80gとN,N,N’,N’−テトラアリルジピペリジルプロパニウムジクロライド(TADPPC)8.26gおよび水5.36gを混合溶解し、さらに重合開始剤「V−50」0.319gと水3.52gとを混合した溶液を添加した(単量体濃度59.8%、DADMAC/TADPPC=90/10mo1%)。
【0267】
この混合溶液を220rpmで撹拌しながら室温で反応容器中に30分間かけて滴下し、滴下終丁後、55℃で4時間、60℃で16時間、さらに92〜95℃で6時間反応させた。途中、2時間経過した時点で攪拌速度を220rpmから250rpmに上昇させ、流動パラフィン50ml(媒体中22.2%)を滴下した。また、55℃から60℃への昇温時にトルエン50mlを追加した(媒体中の流動パラフィン濃度20.0%)。
【0268】
所定反応時問終了後、冷却し、生成した粒子を濾過により分離した。濾別した粒子をトルエン600ml、メタノール800mlで3回洗浄し、60℃で一晩減圧乾燥させ、乾燥粒子36.23gを得た。得られた乾燥粒子は、直径0.3mm程度の独立した粒子であり、これを高分子架橋体Fとした。
【0269】
〔実施例8〕
実施例7で得られた高分子架橋体Fを活性水素を活性化する活性化用触媒として用いたカルボン酸類への環状ヘテロ化合物の付加反応として、アクリル酸のヒドロキシプロピル化反応を行った。
【0270】
具体的には、温度計および攪拌装置等を備えた反応容器に、アクリル酸(カルボン酸類)とプロピレンオキシド(環状ヘテロ化合物、オキシラン化合物)とを、アクリル酸に対するプロピレンオキシドの仕込み量が、モル比で1.24倍となるように仕込んだ。
【0271】
次に、この反応容器に、実施例7で得られた高分子架橋体Fを、アクリル酸に対し10%添加した。その後、反応溶液を撹拌しながら、70℃で4時間反応させることにより、アクリル酸のヒドロキシプロピル化反応を行った。
【0272】
反応終了後、上記反応溶液をろ過し、回収したろ液をガスクロマトグラフィーにより分析した。その結果、アクリル酸の転化率は71.5%であり、アクリル酸1分子にプロピレンオキシドが1分子付加した付加体(反応生成物:HPA)の選択率は86.7%であり、アクリル酸1分子にプロピレンオキシドが2分子付加した付加体(反応副生成物:DPGA)の選択率は10.3%であった。尚、反応基質である上記アクリル酸の転化率、および、反応生成物や反応副生成物の選択率は、上述した定義に従って求めた。
【0273】
上記の結果より、実施例7で得られた高分子架橋体Fは、カルボン酸類への環状ヘテロ化合物の付加反応であるアクリル酸のヒドロキシプロビル化反応の触媒として有用であることが判った。また、上記反応後、反応溶液中の高分子架橋体Fの見かけ比重を前述の方法により測定したところ、0.206g/mlであった。
【0274】
〔実施例9〕
実施例7で得られた高分子架橋体Fを用いて、アクリル酸にエチレンオキサイドを付加してヒドロキシエチルアクリレートを合成する反応を行った。
【0275】
まず、カウンターアニオンが塩化物イオン型である高分子架橋体Fを、イオン交換樹脂等のイオン交換によく用いられる方法であるカラム法にしたがって、2Nの水酸化ナトリウム水溶液を通液して、水酸化物イオン型に交換した。
【0276】
上記水酸化物イオン型の高分子架橋体をアクリル酸で十分に置換した後、温度計および攪拌装置等を備えた500mlの反応容器に、全液量が300mlかつ高分子架橋体が70容量%になるようにアクリル酸と共に仕込んだ。反応中、反応液を攪拌しながら、内温が70℃となるように温度制御した。エチレンオキサイド/アクリル酸のモル比が1.5である原料液を115g/hrで反応容器に供給すると共に、反応液を115g/hrで連続的に抜き出した。
【0277】
反応中、抜き出した反応液をガスクロマトグラフィーにより分析し、組成が安定したところを定常値とした。定常値におけるアクリル酸の転化率は88.3%であり、アクリル酸にエチレンオキサイドが1分子付加した付加物(反応生成物:ヒドロキシエチルアクリレート(HEA))の選択率は96.8%であり、アクリル酸にエチレンオキサイドが2分子付加した付加物(反応副生成物:ジエチレングリコールモノアクリレート(DEGMA))の選択率は1.3%であった。また、アクリル酸2分子とエチレンオキサイドが1分子からなる付加物(反応副生成物:エチレングリコールジアクリレート(EGDA))の選択率は0.15%であった。
【0278】
上記の結果より、実施例7で得られた高分子架橋体Fは、アクリル酸にエチレンオキサイドを付加してヒドロキシエチルアクリレートを合成する反応に有用であることが判った。また、上記の反応を、反応形式として工業的にも有用な連続式流動床反応器を用いた方法で行っても、十分な転化率と反応選択性を発揮することが判った。
【0279】
〔参考例4〕
重合アンプル中に65%ジアリルジメチルアンモニウムクロライド(DADMAC)水溶液6.45gおよび72%N,N,N’,N’−テトラアリルジアミノブタン2塩酸塩(TeADAB)水溶液1.29gを混合して仕込み(DADMAC/TeADAB=90/10mo1%)、さらに重合開始剤「V−50」を0.064gと開始剤を溶解させるための水0.32gとを混合した溶液を添加した(単量体濃度63.0%)。
【0280】
この混合溶液を55℃で4時問、さらに昇温し、75℃で2時間反応させた。
所定時間反応後、冷却し、生成した樹脂を粉砕し、メタノール160ml中で30分間、3回洗浄し、60℃で一晩減圧乾燥させ、乾燥樹脂を得た。
【0281】
得られた架橋体2.0gを3%炭酸水素ナトリウム水溶液200gで3回に分けて撹拌洗浄し、その後、同量の水量で3回に分けて洗浄することにより、カウンターアニオンを塩素イオンから炭酸水素イオンに置換した高分子架橋体Gを得た。
【0282】
〔参考例5〕
参考例4で得られた高分子架橋体Gの水膨潤体5.2mlおよび水40.0gを100mlのオートクレーブに仕込み、窒素雰囲気下、120℃でエチレンオキサイド4.9gを反応系中にフィードし、1時間反応させた。尚、水は、架橋体中に含有される水の量も含めた全量が40.0gとなるように仕込んだ。得られた反応液を分析したところ、エチレンオキサイドの転化率は85.1%、モノエチレングリコールの選択率は98.l%であった。
【0283】
〔実施例10〕
重合アンプル中に65%ジアリルジメチルアンモニウムクロライド(DADMAC)水溶液8.34gとN,N,N’,N’−テトラアリルジピペリジルプロパニウムジクロライド(TADPPC)1.65gおよび水4.15gを混合溶解して仕込み(DADMAC/TADPPC=90/10mol%)、さらに重合開始剤「V−50」を0.113gと重合開始剤を溶解させるための水0.85gとを混合した溶液を添加した(単量体濃度46.8%)。
【0284】
この混合溶液を55℃で4時間、さらに昇温し、75℃で2時間反応させた。
所定時間反応後、冷却し、生成した樹脂を粉砕し、メタノール300ml中で30分間、3回洗浄し、60℃で一晩減圧乾燥させ、乾燥樹脂を得た。
【0285】
得られた架橋体のうち、5.0gを水で膨潤させた後、5%水酸化ナトリウム水溶液200gで3回に分けて攪拌洗浄し、その後、同量の水量で3回に分けて洗浄することにより、カウンターアニオンを塩化物イオンから水酸化物イオンに置換した高分子架橋体Hを得た。さらに、膨潤溶媒を水からメタノールに置換後、60℃で一晩乾燥させ、乾燥樹脂を得た。
【0286】
〔実施例11〕
実施例10で得られた高分子架橋体Hの乾燥樹脂1.0g、n−ブタノール30.0gおよびエチレンオキシド3.57gを100m1のオートクレーブに仕込み、窒素雰囲気下、100℃で1時間反応させた。得られた反応液を分析したところ、エチレンオキシドの転化率は64.5%、モノエチレングリコールモノブチルエーテル/ジエチレングリコールモノブチルエーテル/トリエチレングリコールモノブチルエーテルの選択率は、それぞれ84.7%/14.0%/1.3%であった。さらに、使用後の触媒の変色はなく、反応液は無色透明であった。
【0287】
〔参考例6〕
攪拌機、還流冷却管、水分離管、温度計、窒素ガス導入管および滴下ロートを備えた1Lのセパラブルフラスコに、トルエン350mlと流動パラフィン50mlとを仕込み、分散安定剤としてソルビタンモノパルミテート0.6gおよびエチルセルロース0.2gを添加して40℃で溶解させた。このとき、窒素ガスを吹き込んで溶存酸素を追い出した。
【0288】
一方、100m1ビーカーで65%ジアリルジメチルアンモニムクロライド(DADMAC)水溶液46.84gと1,1,4,4−テトラアリルピペラジニウムクロライド(TAPC)3.16gおよび水6.01gを溶解混合し(DADMAC/TAPC=95/5mol%)、さらに重合開始剤「V−50」0.20gと水1.5gとを混合した溶液を添加した。
【0289】
この混合溶液を30℃で反応容器中、30分間かけて滴下し、滴下終了後、常圧、55℃で4時間、さらに75℃に昇温し、減圧下にて脱水しながら3時間半反応させた。
【0290】
所定時間反応後、冷却し、生成した樹脂を減圧濾過により分離した。濾別した樹脂をメタノール800mlで30分間、3開洗浄し、60℃で一晩減圧乾燥させ、乾燥樹脂を得た。
【0291】
得られた架橋体のうち15.0gを水で膨潤させた後、5%水酸化ナトリウム水溶液500gで3回に分けて攪拌洗浄し、その後、同量の水量で3回に分けて洗浄することにより、カウンターアニオンを塩素イオンから水酸化物イオンに置換した高分子架橋体Iを得た。さらに、膨潤溶媒を水からメタノールに置換後、60℃で一晩乾燥させ、乾燥樹脂を得た。
【0292】
〔参考例7〕
参考例6で得られた高分子架橋体Iの乾燥樹脂1.0g、エタノール30.0gおよびエチレンオキシド5.74gを100mlのオートクレーブに仕込み、窒素雰囲気下、100℃で1時間反応させた。得られた反応液を分析したところ、エチレンオキシド転化率72.2%、モノエチレングルコールモノエチルエーテル/ジエチレングリコールモノエチルエーテル/トリエチレングリコールモノエチルエーテルの選択率はそれぞれ80.8%/16.3%/2.9%であった。さらに、使用後の触媒の変色はなく、反応液は無色透明であった。
【0293】
〔参考例8〕
参考例6で得られた高分子架橋体Iの乾燥樹脂1.0g、モノエチレングリコールモノエチルエーテル30.0gおよびエチレンオキシド2.93g(仕込モル比5/1)を100mlのオートクレーブに仕込み、窒素雰囲気下、100℃で1時間反応させた。得られた反応液を分析したところ、エチレンオキシドの転化率は71.9%、ジエチレングリコールモノエチルエーテル/トリエチレングリコールモノエチルエーテル/テトラエチレングリコールモノエチルエーテルの選択率はそれぞれ93.5%/6.2%/0.3%であった。さらに、使用後の触媒の変色はなく、反応液は無色透明であった。
【0294】
〔参考例9〕
モノエチレングリコールモノエチルエーテル30.0gに対し、エチレンオキシド4.89g(原料仕込モル比3/1)を使用し、反応温度を100℃から140℃に変更した以外は参考例8と同様に反応を行った。エチレンオキシドの転化率は71.1%、ジエチレングリコールモノエチルエーテル/トリエチレングリコールモノエチルエーテル/テトラエチレングリコールモノエチルエーテルの選択率はそれぞれ88.4%/10.6%/1.0%であった。さらに、使用後の触媒の変色はなく、反応液は無色透明であった。
【0295】
【発明の効果】
以上のように、本発明にかかる高分子架橋体は、3級アミンおよび/または4級アンモニウム塩を含有する高分子架橋体であって、前記一般式(1)で表される、4級アンモニウム塩構造を含む架橋構造を少なくとも1つ有する新規な高分子架橋体である。上記の高分子架橋体は、その架橋構造、より具体的には、その架橋部位の4級アンモニウム塩構造により、優れた耐熱分解性が付与されている。従って、高分子架橋体が有する3級アミンや、4級アンモニウム塩等の脱離(熱分解)を防ぐことができる。
【0296】
上記高分子架橋体は、例えば、イオン交換反応におけるイオン交換物質として、また、活性水素を活性化する反応における活性化用触媒として、好適に使用される。また、耐熱分解性に優れているため、幅広い温度条件下で長期間にわたり好適に使用可能となるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例1における第1工程で得られた反応生成物の 1H−NMRのチャートである。
【図2】 上記反応生成物のガスクロマトグラムである。
【図3】 本発明の実施例1における第2工程で得られた反応生成物の 1H−NMRのチャートである。
Claims (7)
- 3級アミンおよび/または4級アンモニウム塩を含有する高分子架橋体であって、一般式(1)
で表される架橋構造と、一般式(1’)
で表される構造とを有することを特徴とする高分子架橋体。 - 請求項1記載の高分子架橋体の製造方法であって、
一般式(3)
で表される単量体と、一般式(4)
で表される単量体とを含む単量体成分を懸濁重合する工程を含むことを特徴とする高分子架橋体の製造方法。 - 請求項1記載の高分子架橋体を、イオン交換反応に使用することを特徴とする高分子架橋体の使用方法。
- 請求項1記載の高分子架橋体を、活性水素含有化合物中の活性水素を活性化する活性化用触媒として使用することを特徴とする高分子架橋体の使用方法。
- (メタ)アクリル酸とオキシラン化合物とを反応させてヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造する方法であって、
触媒として請求項1記載の高分子架橋体を使用することを特徴とするヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法。 - 水とオキシラン化合物とを反応させてグリコール類を製造する方法であって、
触媒として請求項1記載の高分子架橋体を使用することを特徴とするグリコール類の製造方法。
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