JP4000370B2 - 各種陰イオン含有水溶液からの硝酸イオン除去方法及び硝酸イオン回収方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、硝酸イオンを含む各種陰イオン含有水溶液、例えば河川、湖沼、上下水等から、特に富栄養化の原因となる硝酸イオンを除去する方法及びその際に生じる硝酸イオンを吸着した吸着剤、すなわち結晶性複合金属水酸化物から硝酸イオンを脱着させる硝酸イオンの回収方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
これまで硝酸イオン含有溶液から硝酸イオンを除去する方法としては、黒鉛−硝酸化合物(特許文献1参照)、トリブチルアミノ基を有するイオン交換樹脂(特許文献2参照)、二級アミン置換基及び三級アミン置換基を有する樹脂(特許文献3参照)、リン酸エステル基とアミノ基を有する共重合体(特許文献4参照)などが知られている。しかし、黒鉛−硝酸化合物は吸着量が小さく欠点があり、トリブチルアミノ基を有するイオン交換樹脂は硝酸イオンに対する選択性は高いが、樹脂の再生が困難であった。二級アミン置換基及び三級アミン置換基を有する樹脂及びリン酸エステル基とアミノ基を有する共重合体は硝酸イオンに対する選択吸着性が十分ではなく他の陰イオンが大量に共存する溶液中では吸着量が不十分であった。
【0003】
【特許文献1】
特公昭60−18605号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】
米国特許第4,479,877号明細書(特許請求の範囲等)
【特許文献3】
特開平5−15776号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献4】
特開平7−238113号公報(特許請求の範囲等)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、硝酸イオン含有溶液、中でも他の陰イオンの共存する硝酸イオン含有溶液に対し、吸着容量が、硝酸イオンについての方が他の陰イオンについてよりも大きく、しかも共存する陰イオン、例えば硫酸イオン等の妨害を受けることなく硝酸イオンを優先的に除去することができ、また陰イオンを吸着した後で簡単に再生して繰り返し使用することができる硝酸イオンの除去方法、及びこの際に生成する硝酸イオンを吸着した吸着剤から硝酸イオンを効率的に回収する方法を提供することを目的としてなされたものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、海水や河川、湖沼、地下水の水中に、陰イオンとして含まれ、富栄養化の主な原因となっている硝酸イオンを選択的に除去しうる硝酸イオン選択的吸着剤を開発するために鋭意研究を重ねた結果、ある結晶性の複合金属水酸化物水熱処理物が硝酸イオンを選択的に吸着し、これを用いれば他の陰イオンと共存する硝酸イオンを効果的に水中から除去し得ること及び硝酸イオンを吸着した上記結晶性金属水酸化物水熱処理物から簡単に硝酸イオンを脱離し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、硝酸イオンを含む各種陰イオン含有水溶液に、一般式
Ni(II)1-xFe(III)x(OH)2 A - ・mH2O (1)
[式中のA - はCl - 、HCO 3 - 及びOH - の中から選ばれた少なくとも1種の陰イオンであり、xとmはそれぞれ0<x≦0.67及び0≦m≦2を満足する数である]
で表される結晶性の複合金属水酸化物水熱処理物を添加し、硝酸イオンを吸着させたのち、固液分離することにより硝酸イオンを含まない水溶液とすることを特徴とする硝酸イオンの除去方法、及び硝酸イオンを含む各種陰イオン含有水溶液に、一般式
Ni(II) 1-x Fe(III) x (OH) 2 A - ・mH 2 O (1)
[式中のA - はCl - 、HCO 3 - 及びOH - の中から選ばれた少なくとも1種の陰イオンであり、xとmはそれぞれ0<x≦0.67及び0≦m≦2を満足する数である]
で表される結晶性の複合金属水酸化物水熱処理物を添加し、硝酸イオンを吸着させたのち、固液分離し、硝酸イオンを吸着した上記の結晶性複合金属水酸化物の水熱処理物を、アルカリ水溶液で処理して硝酸イオンを脱着させることを特徴とする硝酸イオン回収方法を提供するものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明において、硝酸イオンを吸着させるために用いられる前記一般式(1)で表わされる結晶性の複合金属水酸化物中のNi(II)には、これがモル基準で過半量、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上を占めることを前提として、Ni(II)以外のもの、例えばMgやCaなどの二価金属を含んでいてもよい。
【0008】
次に一般式(1)の結晶性複合金属水酸化物は、上記のNi(II)とFe(III)との複合金属水酸化物であるが、このFe(III)についても、これが全三価金属に対するモル基準で過半量、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上占めることを前提として、Fe(III)以外にAl(III)、Mn(III)、Co(III)のような三価金属を含んでいてもよい。
【0009】
また、一般式(1)中のA - で表わされる陰イオンは、水溶液中における硝酸イオンとの交換がしやすい点を考慮して、OH-、HCO3 - 及びCl-の中から選ばれる。
【0010】
そして、この一般式(1)中のxは、0よりも大きく0.67以下であり、mは0以上、2以下の数であることが必要である。イオン交換容量、結晶構造の安定性を考慮すれば、xは0.1以上、0.5以下、mは0.1以上、1.5以下が好ましい。
この結晶性複合金属水酸化物中の二価金属の含有量は、良好な硝酸イオン選択的吸着性を発揮させるには、モル基準で20%以上、好ましくは40%以上にするのがよいし、Fe(III)の含有割合はモル基準で20%以上、特に30%以上にするのがよい。
【0011】
このような一般式(1)で示される結晶性複合金属水酸化物は、Ni(II)の二価金属の水溶性化合物又はこれと過半モル量未満の他の二価金属例えばMgやCaの水溶性化合物との混合物と、Fe(III)の水溶性化合物又はこれと過半モル量未満の他の三価金属例えばAl(III)、Mn(III)又はCo(III)の水溶性化合物をそれぞれ水溶液として混合し、これをアルカリに加えて沈殿させたのち、この沈殿を水熱処理することにより製造することができる。
【0012】
この際、使用する二価金属又は三価金属の水溶性化合物の例としては、これらの金属のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸水素塩などがあるが、後の処理が容易である点を考慮すると塩化物、硝酸塩、炭酸水素塩が好ましい。また、低濃度で用いる場合には、水酸化ニッケル、水酸化鉄、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムのような水酸化物を用いることもできる。
【0013】
上記のアルカリとしては、例えば水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩、アンモニアや、これらの溶液を用いることができるが、水酸化ナトリウムのようなアルカリ金属水酸化物の水溶液中で行うのが好ましい。反応を均一化させるために、二価金属の水溶性化合物と三価金属の水溶性化合物を混合水溶液とし、この水溶液を0〜90℃、好ましくは30〜70℃に保ったアルカリ金属水酸化物の水溶液中に滴下して反応させるのが有利である。
この沈殿時の溶液のpHは8〜12、特に9〜11にするのが好ましい。
このようにして沈殿を生成させたのち、その生成混合物を所望によりさらに熟成することができる。この生成混合物から沈殿をろ過又は遠心分離により分取し、中性になるまで水洗したのち、風乾することにより、結晶性複合金属水酸化物が粉末として得られる。
【0014】
このようにして得られた結晶性複合金属水酸化物は、次に水熱処理することが必要である。この水熱処理は、生成した沈殿を洗浄・乾燥することなく生成混合物のまま行ってもよい。この水熱処理により良好な硝酸イオン選択的吸着性を示す高結晶性の複合金属水酸化物が得られる。水熱処理は耐圧容器(オートクレーブ)中、通常0.11〜1MPaの範囲の加圧下、100〜250℃の範囲の温度、好ましくは0.15〜0.5MPaの範囲の加圧下、110〜180℃の範囲の温度で行われる。また、加熱処理は通常100〜600℃、好ましくは200〜500℃の範囲の温度で行われる。特に炭酸イオン、炭酸水素イオン、硝酸イオンを層間に含む結晶性複合金属水酸化物は、加熱処理することで層間の陰イオンが分解しガスとして逃散するため、層間に硝酸イオンが入りやすくなり吸着性が著しく上昇する。この場合の加熱処理温度は層間イオンの種類によって異なるが、200〜500℃の範囲が好ましい。
【0015】
本発明方法に従い、溶液中の硝酸イオンを除去するには、上記の結晶性の複合金属水酸化物水熱処理物すなわち吸着剤を硝酸イオン含有溶液に添加し、十分撹拌混合して硝酸イオンを吸着させ、さらにはほぼ吸着平衡に達しめたのち、固液分離する。それにより、溶液中の硝酸イオンは吸着剤に取り込まれ吸着剤ごと固体として液体より分別除去される。このような吸着処理において、溶液のpHは4〜10の範囲に調整するのが好ましい。処理時間は、吸着剤の粒径によっても異なってくるが、粉末の場合、通常30分〜2時間の範囲である。
【0016】
吸着剤に吸着された硝酸イオンは、吸着剤を適当な脱着剤、通常アルカリ、例えば水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩等や、塩化ナトリウムなどのハロゲン化アルカリ等の溶液、好ましくは水溶液で処理すれば、脱着されて溶液中に溶出してくる。脱着剤の溶液濃度は、硝酸イオン吸着量によっても異なるが、通常0.1〜5M、好ましくは1〜2Mの範囲で選ばれる。炭酸アルカリ溶液で脱着したときには、層間に硝酸イオンの代りに炭酸イオンが入り込むため、吸着剤を再生する際には脱着後に吸着剤を加熱処理して、層間の炭酸イオンをとり除くようにする。
【0017】
また、吸着剤に吸着された硝酸イオンは、吸着剤を加熱処理することで取り除くことができる。すなわち、硝酸イオンを吸着した吸着剤を100〜500℃、好ましくは200〜350℃で加熱処理すれば、層間の硝酸イオンは分解しガスとして放出されるので、硝酸イオンの脱着と吸着剤の再生を同時に行うことができる。
【0018】
【発明の効果】
本発明によれば、硝酸イオン含有溶液、中でも他の陰イオンの共存する硝酸イオン含有溶液に対し、吸着容量が、硝酸イオンについての方が他の陰イオンについてよりも大きく、ひいては共存する陰イオン、例えば硫酸イオン、塩化物イオン、リン酸イオン、炭酸イオンなど通常硝酸イオンの吸着を妨害すると考えられている陰イオンが共存していても、硝酸イオンを高い効率で吸着することができる。
また、既に吸着処理に使用済みの硝酸イオン吸着剤は簡単に硝酸イオンを脱着、再生して繰り返し使用することができる。
【0019】
【実施例】
次に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0020】
実施例1
塩化ニッケル12ミリモルと塩化鉄3ミリモルとを含む水溶液15mlと、1M水酸化ナトリウム水溶液とを、pH10の水酸化ナトリウム水溶液50mlにpH10に保ちながら30分かけて同時に滴下し、1時間撹拌し、析出物を生成させたのち、これを120℃で3日間水熱処理させた。沈殿生成物を遠心分離し、中性になるまで水洗いし、50℃で1日間乾燥した。生成物は粉末X線構造解析、組成分析、熱分析により、[Ni(II)0.79Fe(III)0.21(OH)2][(Cl)0.21・0.63H2O]の化学組成の結晶性の複合金属水酸化物と同定された。
【0021】
上記の結晶性の複合金属水酸化物水熱処理物0.1gを、濃度各2mMの、塩化物イオン、硝酸イオン、リン酸二水素イオン、硫酸イオン(何れもナトリウム塩として供用)を含む混合溶液10mlに加え、混合陰イオン吸着実験を27℃で3日間行った。次いで、上澄みの陰イオン濃度を陰イオンクロマトグラフィーで分析した。硝酸イオンは100%吸着されたのに対し、リン酸イオンは70%、硫酸イオンは50%しか吸着されず、また、塩化物イオンは全く吸着されなかった。
【0022】
また、上記の結晶性複合金属水酸化物の水熱処理物0.2gに対して0.1M硝酸ナトリウム水溶液100mlを加え、吸着実験を27℃で3日間行い、硝酸イオンの吸着容量を求めたところ、1.3ミリモル/gであった。
これに対し、同様な条件で、リン酸二水素ナトリウムを用いてリン酸イオンの吸着容量を求めたところ、0.3ミリモル/gにしかすぎなかった。
以上のことから、この結晶性複合金属水酸化物の水熱処理物が硝酸イオンを効率的に吸着することが分る。
【0023】
実施例2
実施例1において、硝酸イオンを1.3ミリモル/g吸着した結晶性複合金属水酸化物の水熱処理物0.1gを1M NaOH水溶液100ml中に入れ、室温で3日間振とうした。その後、この結晶性の複合金属水酸化物水熱処理物をろ別した後、ろ液中の硝酸イオン濃度をイオンクロマトグラフィーで測定し、硝酸イオン脱着量を求めた。脱着率は90%以上に達した。
【0024】
脱着処理後の結晶性複合金属水酸化物の水熱処理物0.2gを水洗した後、再度0.1M硝酸ナトリウム水溶液100mlに加え、吸着実験を27℃で3日間行ったところ、硝酸イオンの吸着容量は1.2ミリモル/gに達した。
【0025】
参考例
塩化コバルト12ミリモルと塩化鉄3ミリモルとを含む水溶液15mlと、1M水酸化ナトリウム水溶液とを、pH10の水酸化ナトリウム水溶液50mlにpH10に保ちながら30分かけて同時に滴下し、1時間撹拌し、析出物を生成させたのち、これを120℃で3日間水熱処理させた。沈殿生成物を遠心分離し、中性になるまで水洗いし、50℃で1日間乾燥した。生成物は粉末X線構造解析、組成分析、熱分析により、[Co(II)0.74Fe(III)0.26(OH)2][(Cl)0.26・0.80H2O]の化学組成の結晶性複合金属水酸化物と同定された。
【0026】
上記の結晶性複合金属水酸化物の水熱処理物0.1gを、濃度各2mMの、塩化物イオン、硝酸イオン、リン酸二水素イオン、硫酸イオン(何れもナトリウム塩として供用)を含む混合溶液10mlに加え、混合陰イオン吸着実験を27℃で3日間行った。次いで、上澄みの陰イオン濃度を陰イオンクロマトグラフィーで分析した。硝酸イオンは60%吸着されたのに対し、リン酸イオンは40%、硫酸イオンは40%しか吸着されず、また、塩化物イオンは全く吸着されなかった。
【0027】
また、上記の結晶性複合金属水酸化物の水熱処理物0.2gに対して0.1Mの硝酸ナトリウム水溶液100ml加え、吸着実験を27℃で3日間行い硝酸イオンの吸着容量を求めたところ、0.7ミリモル/gであった。
これに対し、同様な条件で、リン酸二水素ナトリウムを用いてリン酸イオンの吸着容量を求めたところ、0.3ミリモル/gにしかすぎなかった。
以上のことから、この結晶性複合金属水酸化物の水熱処理物が硝酸イオンを効率よく吸着することが分る。
Claims (2)
- 硝酸イオンを含む各種陰イオン含有水溶液に、一般式
Ni(II)1-xFe(III)x(OH)2 A - ・mH2O
[式中のA - はCl - 、HCO 3 - 及びOH - の中から選ばれた少なくとも1種の陰イオンであり、xとmはそれぞれ0<x≦0.67及び0≦m≦2を満足する数である]
で表される結晶性の複合金属水酸化物水熱処理物を添加し、硝酸イオンを吸着させたのち、固液分離することにより硝酸イオンを含まない水溶液とすることを特徴とする硝酸イオンの除去方法。 - 硝酸イオンを含む各種陰イオン含有水溶液に、一般式
Ni(II)1-xFe(III)x(OH)2 A - ・mH2O
[式中のA - はCl - 、HCO 3 - 及びOH - の中から選ばれた少なくとも1種の陰イオンであり、xとmはそれぞれ0<x≦0.67及び0≦m≦2を満足する数である]
で表される結晶性の複合金属水酸化物水熱処理物を添加し、硝酸イオンを吸着させたのち、固液分離し、硝酸イオンを吸着した上記の結晶性複合金属水酸化物の水熱処理物を、アルカリ水溶液で処理して硝酸イオンを脱着させることを特徴とする硝酸イオン回収方法。
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