JP4392493B2 - リンの除去及び回収方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、河川、湖沼、海水、上下水道に含まれ汚染源となっているリンを効率よく除去し、浄化するとともにリンを回収する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
工場や家庭から排出される排水中のリンは、河川、湖沼、海水の富栄養化の原因となり、環境破壊を引き起すことから、これの除去、回収は大きな社会問題となっている。
【0003】
そのため、これまで多種多様の水中脱リン剤や水中脱リン方法が提案されている。すなわち、水中脱リン剤としては、例えば石灰質原料、ケイ酸質原料及びゼオライトの反応生成物からなる脱リン材(特許文献1参照)、アロフェンを主成分とする物質を成形し、300〜600℃で焼成してなる除去材(特許文献2参照)、産業廃棄物を溶融処理して得たスラグを微粉砕し、その中の酸化カルシウムをアルカリ処理して除去し、多孔状化したリン除去用無機吸着材(特許文献3参照)、流動床ボイラーから排出される灰を主成分とする脱リン材(特許文献4参照)、ハイドロタルサイト類を有効成分とした脱リン剤(特許文献5参照)などが知られているし、また水中脱リン方法としては、例えば、酸化アルミニウム及び酸化ナトリウムを含む活性アルミナに海水を接触させる海水の脱リン方法(特許文献6参照)、アンモニウムイオンを含有するリン酸塩排水にマグネシウムイオンを添加し、次いでpH値を8以上に調整したのち、リン酸マグネシウムアンモニウム含有粒状物の充填層に通し、排水中のリンをリン酸マグネシウムアンモニウム粒子として上記粒状物の表面層に析出させる方法(特許文献7参照)、リンを含む水溶液をカルシウムイオンの存在下で、リン除去能力を有する粒状物と接触させる際に、この水溶液中に塩類溶液を添加して液の電気伝導度を2000マイクロモー/cm以上に調整して接触脱リンする方法(特許文献8参照)、二価金属と三価金属とを含む複合金属水酸化物にリン含有排水を接触させてリン成分を吸着し、次いでリン成分を吸着したリン吸着剤をアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩の水溶液で処理して再生する方法(特許文献9参照)などが知られている。
【0004】
しかしながら、これらの脱リン剤や脱リン方法は、他の陰イオン、特に硫酸イオンが共存するとリンの除去率が低下し、海水域などで実際に富栄養化を完全に阻止することはできなかった。
【0005】
また、本発明者らは、リンを選択的に吸着する吸着剤として一般式
II 1-xIII x(OH)2n- y・mH2
(MIIは二価金属の中から選ばれた少なくとも1種、MIIIは三価金属の中から選ばれた少なくとも1種、An-はn価の陰イオン、x、y及びmは、0<x≦0.67、0<y≦1、0≦m≦2)
で表わされる複合金属水酸化物の結晶の加熱処理物を有効成分とし、かつ水に溶存しているリンの硫酸イオンに対する選択係数が5以上である高選択性脱リン剤を特許出願している(特許文献10参照)。
【0006】
【特許文献1】
特開2001−9470号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献2】
特開平3−68445号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献3】
特開昭63−39632号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献4】
特開平5−261378号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献5】
特開2000−24658号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献6】
特開平6−328067号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献7】
特開昭63−200888号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献8】
特開平3−207489号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献9】
特開平11−57695号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献10】
特開2004−89760号公報(特許請求の範囲その他)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような事情のもとで、水に溶存しているリンとその他の陰イオンとの選択係数を高めた吸着剤を用いて、大量のイオンが共存する水溶液からリンを効率的に除去し、さらに吸着したリンを脱着してリンを回収する方法を提供することを目的としてなされたものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、他の陰イオンが共存していても高い選択率によりリンを選択的に除去しうる脱リン剤を用いるリンの除去、回収方法を鋭意研究を重ねた結果、マグネシウム及びマンガン複合金属水酸化物結晶の加熱処理物を用いれば、溶液中のリンを効率よく吸着除去でき、さらに吸着したリンを効率的に脱着できることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、マグネシウム及びマンガンの複合金属水酸化物結晶の加熱処理物からなる吸着剤をpH4〜11のリン含有水溶液に添加し、リンを吸着除去させた後、吸着剤をアルカリ金属、アンモニウム若しくはアルカリ土類金属の水酸化物、塩化物、硫酸塩、炭酸塩又は有機カルボン酸塩の水溶液で処理し、リンを脱着させて回収し、
前記吸着剤が、一般式
Mg1-xMnx(OH)2n- y・mH2
(式中のAn-はn価の陰イオンを示し、x、y及びmは、それぞれ0<x≦0.67、0<y≦1、及び0≦m≦2を満足する数である)
で表わされる複合金属水酸化物結晶を、空気中、200〜500℃において加熱処理し、Mnの価数を3.5〜4.1に調整したものであることを特徴とするリンの除去、回収方法を提供するものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明方法で用いる吸着剤としては、一般式
Mg1-xMnx(OH)2n- y・mH2O (I)
(式中のAn-はn価の陰イオンを示し、x、y及びmは、それぞれ0<x≦0.67、0<y≦1、及び0≦m≦2を満足する数である)
で表わされる複合金属水酸化物結晶を、空気中、200〜500℃において加熱処理し、Mnの価数を3.5〜4.1に調整したものである。
【0011】
上記の一般式中の陰イオンAn-は、イオン交換性を有することが必要であり、例えば炭酸イオン、硫酸イオン、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオンなどが挙げられる。この中で加熱処理により容易に水酸化物イオンに変わるという点で炭酸イオン、炭酸水素イオンが好ましい。
【0012】
次に、一般式(I)中のxは、0よりも大きく0.67以下の範囲の数であり、mは0と2との間の範囲の数であることが必要である。
そして、陰イオンAn-の量yは、Mnを含む場合、原子価が単一でないため、このyは理論値(x/n)に対し、約30%の許容範囲を有している。特に好ましいのは、xが0.33付近でmが0≦m≦2の範囲内にあるものである。
【0013】
このような組成のマグネシウムとマンガンの複合金属水酸化物の結晶の炭酸水素塩あるいは炭酸塩は200〜500℃、好ましくは250〜350℃の範囲の温度で加熱することにより、脱炭酸反応が進行し、水酸化物型に変化する。そして、金属成分としてMnが含まれる場合、これらは複数の原子価を有するため、温度、雰囲気及び反応時間などを適切に制御して、必要な構成及び有効層空隙をもつものとすることが必要である。
【0014】
加熱処理物のマンガンの平均価数は、3から4の範囲で変化するが、マンガン価数が3.8〜4の範囲の複合酸化物が吸着剤として好ましい。マンガン価数を高く制御することにより化学的安定性が増し、リンの吸着、脱着の際の吸着剤の損失を抑制することができ、吸着剤の再生が良好に進む。
【0015】
上記一般式(I)で表わされる複合金属水酸化物は層状結晶構造をとっているが、加熱処理により、層状結晶構造を維持できず、層構造が崩れる。一部の加熱処理物では微結晶性のスピネル型マンガン酸マグネシウムの構造が認められるが、大部分は無定形状態に変化する。すなわち、加熱処理により層構造が乱れ、そのため、粉体内部に空隙が生じ、この空隙の大きさ(4〜6Å)がリン酸イオンの大きさに一致するため高いリン吸着性を示すものと考えられる。この空隙の大きさは、X線回折により求められる層間間隙dとは異なり、直接求めることはできず、選択吸着性などから間接的に求められるものである。そして、同じd値を示す物質でも、構成元素の種類、加熱処理条件により、この大きさは変化する。
【0016】
本発明のリン吸着剤を用いて溶液中のリンを除去するには、該吸着剤をpH4〜11に調節したリン含有溶液に添加し、十分撹拌混合してリンを吸着させ、さらにはほぼ吸着平衡に達しめたのち、固液分離すればよい。それにより、溶液中のリンは吸着剤に取り込まれ吸着剤ごと固体として液体より分別除去される処理時間は、吸着剤の粒径によっても異なってくるが、粉末の場合、通常30分〜12時間の範囲である。
【0017】
吸着剤に吸着されたリンは、吸着剤を所定の脱着剤、通常アルカリ、例えば水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩等や、塩化ナトリウムなどのハロゲン化アルカリ等の溶液、塩化マグネシウムなどのハロゲン化アルカリ土類金属の水溶液で処理すれば、脱着されて溶液中に溶出してくる。脱着剤の溶液濃度は、リン吸着量によっても異なるが、通常0.01〜5M、好ましくは0.05〜2Mの範囲で選ばれる。脱着液の試薬濃度が高いほど、脱着率が高くなり高濃度のリン溶液が得られるようになる。
【0018】
一般に、リンの吸着剤として用いられるアルミニウム系吸着剤は、アルカリで脱着するとアルミニウムの溶解が進み、脱着時の吸着剤の溶解損失が大きいことが技術的問題となっている。これに対し、本発明方法で用いる吸着剤は、4価のマンガンとマグネシウムを主成分としているため、アルカリに対する溶解性は極めて低く、脱着時の溶解損失がほとんどない利点がある。
脱着後の吸着剤は、溶解損失がほとんどないため元のリン吸着性能を保持している。脱着時に吸着剤の再生が進むために、脱着後の吸着剤をそのままリン含有溶液に添加すれば再びリン吸着性能を示すことになる。すなわち、本発明方法のように吸着、脱着処理を繰り返し利用すれば、処理時の排出物の量を最小限に押さえることができる。
【0019】
炭酸アルカリ溶液で脱着したときには、層間にリンの代りに炭酸イオンが入り込むため、吸着剤を再生する際には脱着後に吸着剤を加熱処理して、層間の炭酸イオンをとり除くことで再生ができる。
【0020】
このように本発明のリンの除去、回収方法は、リン溶存水溶液中において、塩化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、炭酸イオンなど、通常リンの吸着を阻害すると考えられている陰イオンが共存してもリンを選択的に高い効率で吸着し、回収することができる。また、吸着剤の再利用も可能である。
【0021】
【実施例】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0022】
実施例1
Mg0.75Mn0.25(OH)2CO3 2- 0.12・0.75H2Oなる組成の結晶性複水酸化物の粉末を空気中で300℃で4時間加熱処理し、Mg1.21Mn0.402(H2O)0.23(CO20.13なる組成の吸着剤を得た。この吸着剤中のマンガンの平均酸化数は3.95であった。この吸着剤0.2gを0.3ppmのリンを含む海水2リットルに添加し、室温で攪拌した。海水中のリン濃度を測定して、リンの吸着速度と除去率を求めた。リンの吸着量は攪拌24時間で平衡に達した。海水からの除去率は70%に達した。
【0023】
実施例2
実施例1で合成した吸着剤0.05gをリン濃度の異なる海水2リットルに添加し、2日間攪拌した。攪拌後、上澄みのリン濃度を測定し、リン吸着量を求めた。吸着剤1gあたりのリン吸着量はリンの初期濃度が0.3ppmでは7.5mg、0.6ppmで11mg、1.2ppmで12.5mgに達した。
【0024】
実施例3
実施例1で合成した吸着剤0.05gを塩酸あるいは水酸化ナトリウムを添加してpHを変えた0.3ppmのリン含有海水に添加し、室温で2日間攪拌した。攪拌後、上澄みのpHとリン濃度を測定した。リン濃度の変化からリン吸着量を計算した。吸着剤1gあたりのリン吸着量は、pH4で3.5mg、pH6で4mg、pH8で7.5mg、pH10で6mgに達した。
【0025】
実施例4
実施例1で合成した吸着剤に吸着剤1gあたりリンを30mg吸着させた吸着剤0.1gを0.2M水酸化ナトリウム溶液500ミリリットル中に添加し、8時間攪拌した。攪拌後、上澄みのリン濃度を測定し、吸着剤からのリン脱着量を求めた。リンの脱着率は75%に達した。
【0026】
実施例5
実施例1で合成した吸着剤0.2gを1ppmのリンを含む海水2リットルに添加し、室温で1日間攪拌した。上澄みのリン濃度を測定してリン吸着量を求めたところ、吸着剤1gあたりリン吸着量は7mgに達した。その後、吸着剤をろ過して、乾燥した後、0.2Mの水酸化ナトリウム溶液50ミリリットル中に入れ攪拌し、リンを脱着させた。脱着処理後の吸着剤0.1グラムを1ppmのリンを含む海水1リットル中に添加し、室温で1日間攪拌した。上澄みのリン濃度を測定してリン吸着量を求めたところ、吸着剤1gあたりリン吸着量は6.5mgに達した。
【0027】
以上の結果から、本発明方法を用いれば、極低濃度のリンでも効率よく吸着除去できること、また、リンの脱着による回収、及び吸着剤の再生も簡便に行うことができることは明らかである。
【0028】
【発明の効果】
本発明によれば、リン含有水溶液において、ハロゲンイオン、硝酸イオン、硫酸イオン、炭酸イオンなどの陰イオンが共存していても、リンを選択的に除去できるので、海水や排水中のリンの除去に有用である。また、吸着剤の再利用も可能であるので、汚泥の排出もなく新たな廃棄物の生成を最小限に抑えることができる。

Claims (1)

  1. マグネシウム及びマンガンの複合金属水酸化物結晶の加熱処理物からなる吸着剤をpH4〜11のリン含有水溶液に添加し、リンを吸着除去させた後、吸着剤をアルカリ金属、アンモニウム若しくはアルカリ土類金属の水酸化物、塩化物、硫酸塩、炭酸塩又は有機カルボン酸塩の水溶液で処理し、リンを脱着させて回収し、
    前記吸着剤が、一般式
    Mg 1-x Mn x (OH) 2 n- y ・mH 2
    (式中のA n- はn価の陰イオンを示し、x、y及びmは、それぞれ0<x≦0.67、0<y≦1、及び0≦m≦2を満足する数である)
    で表わされる複合金属水酸化物結晶を、空気中、200〜500℃において加熱処理し、Mnの価数を3.5〜4.1に調整したものであることを特徴とするリンの除去、回収方法。
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