JP3991557B2 - 固体電解コンデンサおよびその製造方法 - Google Patents

固体電解コンデンサおよびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は電子導電性高分子を電解質に用いた固体電解コンデンサおよびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
電子機器の高周波化に伴い、電子部品である電解コンデンサにも従来よりも高周波領域でのインピーダンス特性に優れた大容量の電解コンデンサが求められてきている。最近では、この高周波領域のインピーダンス低減のために、電気伝導度の高いポリピロール、ポリアニリン、ポリエチレンジオキシチオフェン等の電子導電性高分子を電解質に用いた固体電解コンデンサが検討されてきている。また、大容量化の要求に対しては電極箔を積層させる場合と比較して、構造的に大容量化が容易な巻回形(陽極箔と陰極箔をセパレータを介して巻回した構造のもの)の固体電解コンデンサへの導電性高分子電解質の応用が成されてきている。
【0003】
上記巻回形の構造を取るためには陽極箔と陰極箔との接触を避けるためにセパレータを介在させることが必須となるものであるが、従来の電解液を電解質とする電解コンデンサではマニラ麻やクラフト紙からなるいわゆる電解質をセパレータとして用いることが知られている。また、導電性高分子を電解質とする巻回形の固体電解コンデンサ用のセパレータとしては、ガラス繊維不織布、メルトブロー法により調整した樹脂を主成分とする不織布、上記電解紙を用いたコンデンサ素子を巻回した後に加熱等の方法によりこの電解紙を炭化処理した炭化状態の電解紙等をセパレータとして用いることが知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら上記電子導電性高分子はイオン導電性を有しないために誘電体酸化皮膜の修復能力がほとんどなく、電子導電性高分子を電解質として固体電解コンデンサを構成した場合、コンデンサの漏れ電流が高くなりやすい上、エージング工程中にショートしやすいという欠点を有していた。
【0005】
また、上記ガラス繊維不織布を巻回式の構造のコンデンサに適用する場合、巻回に伴う屈曲時の強度が脆いために屈曲部が誘電体酸化皮膜を損傷させることでコンデンサの漏れ電流が高くなりやすい上、エージング工程中にショートしやすいという欠点を有していた。また、ガラス繊維不織布は裁断や巻回の際に針状ガラス繊維が周囲に飛散することにより作業環境上の問題が大きいという問題点も有していた。
【0006】
また、炭化状態の電解紙は、コンデンサ素子250℃を超えるほどの熱を加えなければ導電性高分子を保持させて高周波領域でのインピーダンスを低減させるに十分な炭化状態を作ることが難しく、この加熱により誘電体酸化皮膜が損傷して漏れ電流が高くなりやすい上、この加熱により電解コンデンサの引き出しリード線のメッキ層(例えばスズ/鉛層)が酸化を受けるために通常のメッキ線では完成後の製品のリード線部での半田濡れ性が著しく低下するため、耐酸化性の強い高価な銀メッキリード線を使用しなければならない等の問題を有していた。
【0007】
また、電解質に用いられる電子導電性高分子としては、エチレンジオキシチオフェンを適当な酸化剤により化学酸化重合して形成するポリエチレンジオキシチオフェンやポリピロール等が知られているが、これらを樹脂製のセパレータに保持させることは困難であり、容量の引き出し率が悪いために、電解液を電解質とした場合のコンデンサに比べて、容量当たりのサイズが大きくなる等の欠点を有していた。
【0008】
本発明は従来のこのような課題を解決し、漏れ電流に優れた大容量の固体電解コンデンサおよびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明は、弁作用金属からなる陽極の誘電体酸化皮膜上に電子導電性高分子と導電性の乏しい高分子とを含有する層を設け、この層に接するように陰極箔との間に電子電導性高分子を含有する層を形成した構成としたものである。
【0010】
また、この構成からなる固体電解コンデンサの1つとして、巻回構造を有する固体電解コンデンサを得るための製造方法としては、誘電体酸化皮膜を形成した陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に、少なくとも導電性高分子と導電性の乏しい高分子(=非導電性高分子)を含有する溶液を含浸させ、続いてこのコンデンサ素子を加熱することにより上記溶液の溶剤成分を蒸発させて陽極箔の誘電体酸化皮膜上に電子導電性高分子と導電性の乏しい高分子とを含有する層を設け、上記コンデンサ素子を複素環式モノマーを含有する溶液と酸化剤を含有する溶液に個々に含浸、または複素環式モノマーと酸化剤を含有する混合液に含浸することにより化学重合性導電性高分子を電極箔間に形成して保持する工程を設けた製造方法としたものである。
【0011】
これらの本発明により、漏れ電流に優れた大容量の固体電解コンデンサを得ることができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の請求項1に記載の発明は、弁作用金属からなる陽極の誘電体酸化皮膜上に電子導電性高分子と導電性の乏しい高分子とを含有する層を設け、この層に接するように陰極箔との間に電子電導性高分子を含有する層を形成した構成とした固体電解コンデンサというものであり、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、固体電解コンデンサの構造を、誘電体酸化皮膜を形成した陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回する巻回構造とした構成のものであり、この構成によれば、抵抗率の低い電子導電性高分子を誘電体酸化皮膜上に設け、これを電解質として利用することで、コンデンサの抵抗率を低くすることができるので、コンデンサのインピーダンスを低くすることができる上、誘電体酸化皮膜上に抵抗率の非常に高い(場合によっては絶縁性であっても良い)非電子伝導性の高分子を併せて設けているため、誘電体酸化皮膜の損傷部より電子なだれ現象が生じ、著しい漏れ電流の増大が生じた際にも、非電子伝導性の高分子を誘電体酸化皮膜上に設けているためにその部位で電子なだれ現象を止めることができ、誘電体破壊(ショート)に至るまでにその現象を局所的な範囲に止めることができるので、漏れ電流が小さく、かつエージング中にショートの発生しにくい固体電解コンデンサを構成することができるという作用を有する。
【0013】
また、誘電体酸化皮膜上の非電子伝導性の高分子の構成を選定することで、誘電体酸化皮膜上へ電子導電性高分子の被覆率を向上する効果が得られ、これにより容量引き出し率の高い大容量の固体電解コンデンサを構成することができるものである。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、陽極の誘電体酸化皮膜上に設けた層の電子導電性高分子の抵抗率を1.0×1010Ω/□以下とし、かつ導電性の乏しい高分子の抵抗率を1.0×1010Ω/□を超える値に限定するものであり、この構成によれば、電子導電性高分子の抵抗率を1.0×1010Ω/□以下に設定することでコンデンサのインピーダンス性能を損なうことがなく、かつ導電性の乏しい高分子の抵抗率を1.0×1010Ω/□を超える値に設定することで、電子なだれ現象を局所的な範囲に止めるに十分な絶縁性能を誘電体酸化皮膜上の層に具備できるので、インピーダンス性能を損なうことなく、漏れ電流が小さく、かつエージング中にショートの発生しにくい固体電解コンデンサを構成することができるという作用を有する。
【0015】
なお、電子導電性高分子の抵抗率が1.0×1010Ω/□を超える範囲では電解質の抵抗率が高くなるため、コンデンサのインピーダンス性能が悪化するので好ましくない。また、導電性の乏しい高分子の抵抗率が1.0×1010Ω/□以下の範囲では電子なだれ現象を局所的な範囲に止めるに十分な絶縁性能を誘電体酸化皮膜上の層に具備することが困難となるので好ましくない。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一つに記載の発明において、陽極の誘電体酸化皮膜上に設けた層の導電性の乏しい高分子を、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメタアクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリエーテル、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリイミド、ブチラール樹脂、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、セルロース、ニトロセルロース、ビスフェノールA型エポキシ、ビスフェノールF型エポキシ、脂環式エポキシおよびこれらの誘導体よりなる群より選ばれる1つ以上を含有する高分子または共重合体の1つ以上に限定するものであり、この構成によれば、これらの高分子または共重合体は導電性の乏しい高分子であり、かつこれらの抵抗率を1.0×1010Ω/□を超える値に設定することで容易であるため、電子なだれ現象を局所的な範囲に止めるに十分な絶縁性能を有する誘電体酸化皮膜上の層を構成できるので、漏れ電流が非常に小さく、かつエージング中にショートの発生しにくい固体電解コンデンサを構成することができるという作用を有する。なお、ナイロン類は導電性の乏しい高分子ではあるが、吸水率が高いため、電子なだれ現象が生じた際に吸水した水の影響により、電子なだれ現象の阻止率が低下するので好ましくない。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、陽極の誘電体酸化皮膜上に設けた層の導電性の乏しい高分子を、グリシジル変性ポリエステル、スルホン酸変性ポリエステル、カルボン酸変性ポリエステルよりなる群より選ばれる1つ以上を含有する高分子に限定するものであり、この構成によれば、これらの高分子または共重合体は導電性の乏しい高分子であり、かつこれらの抵抗率を1.0×1010Ω/□を超える値に設定することで容易であるため、電子なだれ現象を局所的な範囲に止めるに十分な絶縁性能を有する誘電体酸化皮膜上の層を構成できる上、変性置換基の効果により、誘電体酸化皮膜上への電子導電性高分子の被覆率を向上する効果を有するので、漏れ電流が非常に小さく、かつエージング中にショートが発生しにくい上、容量引き出し率の高い大容量の固体電解コンデンサを構成することができるという作用を有する。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一つに記載の発明において、陽極の誘電体酸化皮膜上に設けた層の電子導電性高分子を、ポリピロール、ポリアニリン、スルホン化ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリスチレンスルホン酸および以上の化合物の誘導体からなる群より選ばれる1つ以上に限定するものであり、この構成によれば、これらの電子導電性高分子は導電率が非常に高いため、陽極誘電体酸化皮膜上に設けた層の電子導電性高分子の抵抗率を1.0×1010Ω/□以下に設定しやすい上、前記した導電性の乏しい高分子、例えば、グリシジル変性ポリエステル、スルホン酸変性ポリエステル、カルボン酸変性ポリエステル等との相溶性が極めて高いので、これらの非電子伝導性高分子との併用により、誘電体酸化皮膜上へこれらの電子導電性高分子の被覆率が高められるという効果を有するので、漏れ電流が非常に小さく、かつエージング中にショートが発生しにくい上、容量引き出し率の高い大容量の固体電解コンデンサを構成することができるという作用を有する。
【0019】
請求項7および8に記載の発明は、請求項2〜6のいずれか一つに記載の発明において、セパレータをポリエチレンテレフタレート樹脂および/またはポリブチレンテレフタレート樹脂を含有するスパンボンド法により作製された不織布と湿式法により作製された不織布に限定するものであり、この構成によれば、合成樹脂の中でもとりわけポリアルキレンテレフタレート樹脂(更に好ましくはポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂)と請求項4〜6のいずれか一つに記載の導電性の乏しい高分子(より具体的には、グリシジル変性ポリエステル、スルホン酸変性ポリエステル、カルボン酸変性ポリエステル等)や電子導電性高分子(より具体的には、ポリピロール、ポリアニリン、スルホン化ポリアニリン、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリエチレンジオキシシオフェンポリスチレンスルフォネート)との密着性・接着性が極めて良いため、他の合成樹脂からなるセパレータ材質を使用した場合と比較して高周波領域でのインピーダンスをより一層低くすることができる。
【0020】
また、スパンボンド法により作製された不織布と湿式法により作製された不織布はその他の合成樹脂不織布と異なり、シート化の際に繊維どうしを接着するための接着剤を用いることなく熱接着法や機械的交絡法によりシート化することができるので、接着剤成分の影響による化学重合阻害や剥離が生じ難いため、化学重合性の電子導電性高分子をセパレータに保持させ易く、高周波領域でのインピーダンスの低い固体電解コンデンサを構成することができるという作用を有する。
【0021】
また、スパンボンド法により作製されたものはメルトブロー法やトウ開繊法のものと比較して1本の繊維長が長いため、同じ厚み、秤量で比較した場合、引っ張り強度が強くなり、コンデンサ素子の巻回時にセパレータ切れの頻度が少なくなるので好ましい。
【0022】
請求項9に記載の発明は、誘電体酸化皮膜を形成した陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に、少なくとも請求項6に記載の電子導電性高分子と請求項4または5に記載の導電性の乏しい高分子を含有する溶液を含浸させ、続いてこのコンデンサ素子を加熱することにより上記溶液の溶剤成分を蒸発させて陽極箔の誘電体酸化皮膜上に電子導電性高分子と導電性の乏しい高分子とを含有する層を設け、上記コンデンサ素子を複素環式モノマーを含有する溶液と酸化剤を含有する溶液に個々に含浸、または複素環式モノマーと酸化剤を含有する混合液に含浸することにより化学重合性導電性高分子を電極箔間に形成して保持する工程を設けた固体電解コンデンサの製造方法というものであり、この方法により、漏れ電流に優れた大容量の固体電解コンデンサを安定して製造することができるという作用を有する。
【0023】
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の発明において、導電性高分子と非導電性高分子を含有する溶液が少なくとも水溶媒を含有するものである製造方法としたものであり、この方法によれば、特に合成樹脂を主体とするセパレータと組み合わせた場合(ほとんどの合成樹脂は疎水性であるため)、溶液中に水を存在させることで溶液中の溶剤成分を乾燥させ、電子導電性高分子と導電性の乏しい高分子を含有する層を誘電体酸化皮膜上に形成させる際、層を疎水性のセパレータ繊維上よりもむしろ親水性の誘電体酸化皮膜上に多く分布させるように分布制御を行うことができるので、特に誘電体酸化皮膜への電子導電性高分子と導電性の乏しい高分子の被覆率をより一層高め、誘電体酸化皮膜より高効率に静電容量を取り出すことで大容量の固体電解コンデンサを得ようとする際に好ましいという作用を有する。
【0024】
また、電子導電性高分子と非導電性高分子を含有する溶液中の水の含有率としては好ましくは1重量%以上、更に好ましくは10重量%以上である。
【0025】
なお、上記溶液中の含水率が1重量%未満の場合では、この分布制御が困難となるものである。
【0026】
請求項11に記載の発明は、請求項9または10に記載の発明において、複素環式モノマーを含有する溶液、酸化剤を含有する溶液、複素環式モノマーと酸化剤を含有する混合液の少なくとも1つに、導電性の乏しい高分子を含有させるようにした製造方法というものであり、この方法によれば、誘電体酸化皮膜上だけでなく、これに加えて陽極と陰極の間に形成された電解質層(この場合は、複素環式モノマーを含有する溶液と酸化剤を含有する溶液との反応の結果得られる化学重合性の電子導電性高分子、または複素環式モノマーと酸化剤を含有する混合溶液中での反応の結果得られる化学重合性の電子導電性高分子)中においても、電子なだれ現象を抑制する効果を具備できるので、前記方法と比較して更に漏れ電流に優れた大容量の固体電解コンデンサを安定して製造することができるという作用を有する。
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面に基づいて説明する。
【0028】
図1、図2は本発明の固体電解コンデンサの構成を示した部分断面斜視図および同素子の要部を拡大した概念図であり、同図に示すように、エッチング処理により表面を粗面化した後に酸化処理により誘電体酸化皮膜11を形成したアルミニウム箔からなる陽極体としての陽極箔1と、アルミニウム箔をエッチング処理した陰極体としての陰極箔2とをセパレータ3を介して巻き取ることによりコンデンサ素子12を作製し、上記誘電体酸化皮膜11の上に電子導電性高分子と導電性の乏しい高分子とを含有する層4が形成されている。また、上記陽極箔1と陰極箔2との間に(電子導電性高分子と導電性の乏しい高分子とを含有する層4に接するようにして)化学重合性電子導電性高分子を含有する層5を形成してコンデンサ素子12が構成されている。
【0029】
このコンデンサ素子12を有底円筒状のアルミニウムケース9内に収納すると共に、アルミニウムケース9の解放端をゴム製の封口材8により陽極箔1及び陰極箔2のそれぞれから導出した外部導出用の陽極リード6と陰極リード7を封口材8を貫通するように封止して構成したものである。
【0030】
なお、上記電子導電性高分子と導電性の乏しい高分子とを含有する層4は、少なくとも誘電体酸化皮膜11の上に形成されていれば良いが、同時に陰極箔2の上やセパレータ3の表面に形成されていても良い。これにより本発明の効果は影響されないものである。
【0031】
次に、本発明の具体的な実施の形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下、部はすべて重量部を示す。
【0032】
(実施の形態1)
陽極箔と陰極箔との間にポリエチレンテレフタレート製スパンボンド不織布のセパレータ(厚さ50μm、秤量25g/m2)を介在させて巻回することにより巻回形のコンデンサ素子を構成した(このコンデンサ素子にアジピン酸アンモニウムの10重量%エチレングリコール溶液を含浸させた際の周波数120Hzにおける静電容量は670μFであった)。
【0033】
続いて、このコンデンサ素子をポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルホン酸(導電性の高い電子導電性高分子)の濃度が1.0重量%でグリシジル変性ポリエステル(導電性の乏しい高分子)の濃度3.0重量%の水溶液(合計の溶液中固形分濃度4.0重量%、以下この溶液を下地液Aと呼ぶ)中に浸漬して引き上げた後、150℃で5分間乾燥処理を行い、少なくとも誘電体酸化皮膜上に電子導電性高分子であるポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルホン酸と導電性の乏しい高分子であるグリシジル変性ポリエステルを含有する層を形成した。
【0034】
ガラス板上に膜厚10μmのポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルホン酸の層を形成して測定した場合の抵抗率は、1.0×1045Ω/□であった。また、ガラス板上に膜厚10μmのグリシジル変性ポリエステル層を形成して測定した場合の抵抗率は、抵抗率測定器の測定限界である1.0×1010Ω/□を超える値であった。
【0035】
続いて、このコンデンサ素子を複素環式モノマーであるエチレンジオキシチオフェン1部と酸化剤であるp−トルエンスルホン酸第二鉄2部と重合溶剤であるn−ブタノール4部を含む溶液(以下この溶液を重合液Aと呼ぶ)に浸漬して引き上げた後、85℃で60分間放置することにより化学重合性の電子導電性高分子であるポリエチレンジオキシチオフェンを電極箔間に形成した。
【0036】
続いて、このコンデンサ素子を水洗−乾燥した後、樹脂加硫ブチルゴム封口材(ブチルゴムポリマー30部、カーボン20部、無機充填剤50部から構成、封口体硬度:70IRHD[国際ゴム硬さ単位])と共にアルミニウム製の外装ケースに封入した後、カーリング処理により開口部を封止し、更に陽極箔、陰極箔から夫々導出された両リード端子をポリフェニレンサルファイド製の座板に通し、リード線部を扁平に折り曲げ加工することにより面実装型の固体電解コンデンサを構成した(サイズ:直径10mm×高さ10mm)。
【0037】
(実施の形態2)
上記実施の形態1において、重合液Aの代わりに、複素環式モノマーにエチレンジオキシチオフェン1部、酸化剤にナフタレンスルホン酸第二鉄1部とトリイソプロピルナフタレンスルホン酸第二鉄1部とを用い、重合溶剤にエタノール4部を用いた。
【0038】
また、ポリエチレンテレフタレート製スパンボンド不織布のセパレータの代わりにポリエチレンテレフタレート樹脂を湿式法により作製した不織布のセパレータ(厚さ50μm、秤量22.5g/m2)を用いた以外は実施の形態1と同様に作製した。
【0039】
(実施の形態3)
上記実施の形態1において、重合液Aの代わりに、複素環式モノマーにピロール1部、酸化剤に過硫酸アンモニウム2部、重合溶剤にメタノール1部と水3部との混合溶剤を用いた以外は実施の形態1と同様に作製した。
【0040】
(実施の形態4)
上記実施の形態1において、セパレータにポリブチレンテレフタレート樹脂を湿式法により作製したセパレータ(厚さ50μm、秤量22.5g/m2)を用いた以外は実施の形態1と同様に作製した。
【0041】
(実施の形態5)
上記実施の形態1において、セパレータにガラス繊維を含有する不織布(厚み80μm、秤量10g/m2)を用いた以外は実施の形態1と同様に作製した。
【0042】
(実施の形態6)
上記実施の形態1において、陽極箔と陰極箔との間にマニラ麻からなる電解紙(厚さ50μm)を介在させて巻回し、このコンデンサ素子を窒素雰囲気中、275℃で2時間加熱することで電極箔間に介在する電解紙を炭化させてコンデンサ素子を構成した以外は実施の形態1と同様に作製した。
【0043】
(実施の形態7)
上記実施の形態1において、下地液Aの代わりに電子導電性高分子であるスルホン化ポリアニリンの濃度が1.0重量%で、グリシジル変性ポリエステルの濃度が3.0重量%の水溶液(合計の溶液中固形分濃度4.0重量%)を用いた以外は実施の形態1と同様に作製した。
【0044】
これをガラス板上に膜厚10μmのスルホン化ポリアニリン層を形成して測定した場合の抵抗率は、1.0×1089Ω/□であった。
【0045】
(実施の形態8)
上記実施の形態1において、下地液Aの代わりにポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルホン酸の濃度が1.0重量%で、導電性の乏しい高分子であるスルホン酸変性ポリエステルの濃度が1.5重量%で、導電性の乏しい高分子であるカルボン酸変性ポリエステルの濃度が1.5重量%の水溶液(合計の溶液中固形分濃度4.0重量%)を用いた以外は実施の形態1と同様に作製した。
【0046】
ガラス板上に膜厚10μmのスルホン酸変性ポリエステル層を形成して測定した場合の抵抗率は、抵抗率測定器の測定限界である1.0×1010Ω/□を超えるものであった。また、ガラス板上に膜厚10μmのカルボン酸変性ポリエステル層を形成して測定した場合の抵抗率は、抵抗率測定器の測定限界である1.0×1010Ω/□を超えるものであった。
【0047】
(実施の形態9)
上記実施の形態1において、重合液Aの代わりに複素環式モノマーであるエチレンジオキシチオフェン1部と、酸化剤であるp−トルエンスルホン酸第二鉄2部と重合溶剤であるn−ブタノール4部と導電性の乏しい高分子であるグリシジル変性ポリエステル(下地液A中の成分と同一のもの)0.5部からなる溶液を用いた以外は実施の形態1と同様に作製した。
【0048】
(比較例1)
上記実施の形態1において、下地液Aの代わりに電子導電性高分子であるポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルホン酸の濃度が4.0重量%の水溶液を用いた以外は実施の形態1と同様に作製した。
【0049】
(比較例2)
上記実施の形態1において、下地液Aの代わりに、導電性の乏しい高分子であるグリシジル変性ポリエステルの濃度が4.0重量%の水溶液を用いた以外は実施の形態1と同様に作製した。
【0050】
以上のように作製した本発明の実施の形態1〜9と比較例1〜2の固体電解コンデンサについて、その静電容量(測定周波数120Hz)、インピーダンス(測定周波数100kHz)、漏れ電流(定格電圧6.3V印加後2分値)、エージング処理中のショート発生(不良)を比較した結果を(表1)に示す。
【0051】
なお、試験個数はいずれも50個であり、静電容量、インピーダンス、漏れ電流は、ショート品を除いたサンプルについての平均値で示した。
【0052】
【表1】
Figure 0003991557
【0053】
(表1)より明らかなように、本発明の実施の形態1〜9の固体電解コンデンサは、弁作用金属からなる陽極体の誘電体酸化皮膜上に電子導電性高分子と導電性の乏しい高分子とを含有する層を設けた構成としているため、抵抗率の低い電子導電性高分子を誘電体酸化皮膜上に設け、これを電解質として利用することでコンデンサの抵抗率(インピーダンス)を低くすることができる。また、誘電体酸化皮膜上に抵抗率の非常に高い非電子伝導性の高分子を併せて設けているため、誘電体酸化皮膜の損傷部より電子なだれ現象が生じ、著しい漏れ電流の増大が生じた際にも、非電子伝導性の高分子を誘電体酸化皮膜上に設けているため、その部位で電子なだれ現象を止めることができ、誘電体破壊(ショート)に至るまでにその現象を局所的な範囲に止めることができるので、比較例1の固体電解コンデンサと比較して、漏れ電流が小さく、かつエージング中にショートの発生しにくい固体電解コンデンサが構成できるものである。
【0054】
更には、グリシジル変性ポリエステル等の導電性の乏しい高分子が誘電体酸化皮膜上に設けられている効果により、電子導電性高分子の誘電体酸化皮膜上への被覆率が高められているので、グリシジル変性ポリエステル等の導電性の乏しい高分子を誘電体酸化皮膜上に設けていない比較例1と比較して、静電容量の高い大容量の固体電解コンデンサを構成することができる。
【0055】
一方、比較例2の固体電解コンデンサでは、誘電体酸化皮膜上に抵抗率の大きな導電性の乏しい高分子のみしか設けていないために、電子なだれ現象の抑制効果は大きく、ショート発生数は0である一方、電子導電性高分子と導電性の乏しい高分子を併せて設けた場合の本発明の実施の形態1〜9と比較して著しくインピーダンスも高く、また誘電体酸化皮膜上からの容量引き出し率も悪いために静電容量値も小さい。
【0056】
【発明の効果】
以上のように本発明の固体電解コンデンサは、弁作用金属からなる陽極体の誘電体酸化皮膜上に電子導電性高分子と導電性の乏しい高分子とを含有する層を設け、この層に接するように陰極箔との間に電子電導性高分子を含有する層を形成した構成としているため、抵抗率の低い電子導電性高分子を誘電体酸化皮膜上に設け、これを電解質として利用することで、コンデンサの抵抗率(インピーダンス)を低くすることができる。また、誘電体酸化皮膜上に抵抗率の非常に高い非電子伝導性の高分子を併せて設けているため、誘電体酸化皮膜の損傷部より電子なだれ現象が生じ、著しい漏れ電流の増大が生じた際にも、非電子伝導性の高分子を誘電体酸化皮膜上に設けているため、その部位で電子なだれ現象を止めることができ、誘電体破壊(ショート)に至るまでにその現象を局所的な範囲に止めることができるので、漏れ電流が小さく、かつエージング中にショートの発生しにくい固体電解コンデンサを得ることができるものであり、この工業的価値は大なるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態による固体電解コンデンサの構成を示した部分断面斜視図
【図2】 同コンデンサ素子の要部を拡大した概念図
【符号の説明】
1 陽極箔
2 陰極箔
3 セパレータ
4 電子導電性高分子と導電性の乏しい高分子とを含有する層
5 化学重合性電子導電性高分子を含有する層
6 陽極リード
7 陰極リード
8 封口材
9 アルミニウムケース
11 誘電体酸化皮膜
12 コンデンサ素子

Claims (11)

  1. 弁作用金属からなる陽極の誘電体酸化皮膜上に電子導電性高分子と導電性の乏しい高分子とを含有する層を設け、この層に接するように陰極箔との間に電子電導性高分子を含有する層を形成した固体電解コンデンサ。
  2. 誘電体酸化皮膜を形成した陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子の少なくとも陽極箔の誘電体酸化皮膜上に、電子導電性高分子と導電性の乏しい高分子とを含有する層を設けた請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
  3. 陽極体の誘電体酸化皮膜上に設けた層の電子導電性高分子成分単体の抵抗率が1.0×1010Ω/□以下であり、かつ導電性の乏しい高分子成分単体の抵抗率が1.0×1010Ω/□を超えるものである請求項1または2に記載の固体電解コンデンサ。
  4. 陽極体の誘電体酸化皮膜上に設けた層の導電性の乏しい高分子の成分が、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメタアクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリエーテル、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリイミド、ブチラール樹脂、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、セルロース、ニトロセルロース、ビスフェノールA型エポキシ、ビスフェノールF型エポキシ、脂環式エポキシおよびこれらの誘導体よりなる群より選ばれる少なくとも1つ以上を含有する高分子または共重合体の1つ以上である請求項1〜3のいずれか一つに記載の固体電解コンデンサ。
  5. 陽極体の誘電体酸化皮膜上に設けた層の導電性の乏しい高分子が、グリシジル変性ポリエステル、スルホン酸変性ポリエステル、カルボン酸変性ポリエステルよりなる群より選ばれる1つ以上を含有する高分子または共重合体の1つ以上である請求項4に記載の固体電解コンデンサ。
  6. 陽極体の誘電体酸化皮膜上に設けた層の電子導電性高分子が、ポリピロール、ポリアニリン、スルホン化ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリスチレンスルホン酸およびこれらの化合物の誘導体からなる群より選ばれる1つ以上である請求項1〜5のいずれか一つに記載の固体電解コンデンサ。
  7. セパレータがポリエチレンテレフタレート樹脂および/またはポリブチレンテレフタレート樹脂を含有するスパンボンド法により作製された不織布である請求項2〜6のいずれか一つに記載の固体電解コンデンサ。
  8. セパレータがポリエチレンテレフタレート樹脂および/またはポリブチレンテレフタレート樹脂を含有する湿式法により作製された不織布である請求項2〜6のいずれか一つに記載の固体電解コンデンサ。
  9. 誘電体酸化皮膜を形成した陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に少なくとも請求項6に記載の導電性高分子と請求項4または5に記載の導電性の乏しい高分子を含有する溶液を含浸させ、続いてこのコンデンサ素子を加熱することにより上記溶液の溶剤成分を蒸発させて陽極箔の誘電体酸化皮膜上に電子導電性高分子と導電性の乏しい高分子とを含有する層を設け、上記コンデンサ素子を複素環式モノマーを含有する溶液と酸化剤を含有する溶液に個々に含浸、または複素環式モノマーと酸化剤を含有する混合液に含浸することにより化学重合性導電性高分子を電極箔間に形成して保持する工程を有した固体電解コンデンサの製造方法。
  10. 導電性高分子と導電性の乏しい高分子を含有する溶液が少なくとも水溶媒を含有するものである請求項9に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
  11. 複素環式モノマーを含有する溶液、酸化剤を含有する溶液、複素環式モノマーと酸化剤を含有する混合液の少なくとも1つに、導電性の乏しい高分子を含有するようにした請求項9または10に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
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