JP3983435B2 - 動圧型軸受ユニット - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、動圧型軸受ユニットに関する。この軸受ユニットは、特に情報機器、例えばHDD、FDD等の磁気ディスク装置、CD−ROM、DVD−ROM等の光ディスク装置、MD、MO等の光磁気ディスク装置などのスピンドルモータ、あるいはレーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータなどのスピンドル支持用として好適なものである。
【0002】
【従来の技術】
上記各種情報機器のスピンドルモータには、高回転精度の他、高速化、低コスト化、低騒音化などが求められている。これらの要求性能を決定づける構成要素の一つに当該モータのスピンドルを支持する軸受があり、近年では、この種の軸受として、上記要求性能に優れた特性を有する動圧型軸受の使用が検討され、あるいは実際に使用されている。
【0003】
例えば、情報機器の一種であるHDD(ハードディスクドライブ)の軸受ユニットでは、図5に概略図示するように、軸部材2’をラジアル方向で支持するラジアル軸受部10’、および軸部材2’をスラスト方向で支持するスラスト軸受部11’をそれぞれ動圧型軸受で構成する場合がある。この図示例において、軸部材2’は、軸2a’と軸2a’の先端に固定したスラスト円盤2b’とで構成される。軸部材2’が回転すると、ラジアル軸受部10’の軸受すきまCr’やスラスト軸受部11’の軸受すきまCS2’、CS2’に油や気体等の流体動圧が形成され、軸部材2’がラジアルおよびスラストの両方向で回転自在に非接触支持される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
近年、例えばノート型パソコンへの搭載等を考慮し、上記軸受ユニット1’のさらなるコンパクト化、特に軸方向寸法の短縮化(薄型化)の要求が高まっている。この対策としては、ラジアル軸受部10’の軸方向長さL’を短くすることが有効であるが、その場合には軸方向長さL’の短縮に伴ってラジアル軸受部10の軸受スパン(軸方向に離隔して設けられた動圧軸受間の距離)が減少するため、モーメント負荷に対する軸受支持力が低下する点が問題となる。
【0005】
特に従来では、スラスト円盤2b’と軸2a’との間の直角度等の成形誤差が避けられず、この誤差に起因したスラスト円盤2b’とスラスト軸受面11a',11b'との接触を避けるため、スラスト軸受すきまCS1’、CS2’をかなり大きめに形成している。ところが、この場合にはモーメント荷重によりスピンドル2’が傾いた際に(図5に二点鎖線で示す)、モーメント荷重のほとんどがラジアル軸受部10’(特にその上端)で支持され、スラスト軸受部11’ではほとんどモーメント支持力を生じないため、軸受ユニット全体のモーメント負荷容量が小さくなる。
【0006】
また、上記のように軸受ユニット1’を薄型化した場合、ラジアル軸受部10’の軸方向長さL’よりもスラスト円盤2b’の直径D’が相対的に大きくなるため、軸受ユニット全体のモーメント負荷容量は、スラスト軸受部11’のモーメント負荷性能によって大きく左右される。これに対して従来ではスラスト軸受部11’のモーメント支持力が十分に生じず、この点がモーメント負荷容量の増大を図る上で大きな障害となっていた。
【0007】
以上の問題点に鑑み、本発明は、特にスラスト軸受部でのモーメント支持力を増大させ、動圧型軸受ユニット全体でのモーメント負荷容量の増大を図ることを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明にかかる動圧型軸受ユニットは、軸およびフランジ部からなる軸部材と、軸の外周面とこれに対向するラジアル軸受面との間のラジアル軸受すきまに生じた動圧で軸部材をラジアル方向で非接触支持するラジアル軸受部と、フランジ部の端面とこれに対向する二つのスラスト軸受面との間の二つのスラスト軸受すきまに生じた動圧で軸部材をスラスト方向で非接触支持するスラスト軸受部とを具備するものにおいて、ラジアル軸受すきまの幅δRとスラスト軸受すきまの幅δAが、以下の関係式を満たすものである。
(DδR/L)+ε≧δA≧DδR/L
但し、Dはフランジ部の直径、Lはラジアル軸受部の軸方向長さLを表す。εは加工誤差であって、軸とフランジ部の直角度の誤差と、二つのスラスト軸受面の平行度の誤差とにより生じるスラスト軸受隙間の減少量を表す。
【0009】
これにより、ラジアル軸受部およびスラスト軸受部の双方で実用上十分なモーメント支持力を確保することができる。
【0010】
この場合、加工誤差εは4μmとすることができ、また、フランジ部の直径Dは10mm以下とすることができる。
【0011】
以上の何れの構成においても、フランジ部の直径は、ラジアル軸受部の軸方向長さよりも大きくするのがよい。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図1乃至図4に基いて説明する。
【0013】
図3は、本発明にかかる動圧型軸受ユニット1を備える情報機器用スピンドルモータの断面図で、一例としてHDD(ハードディスクドライブ)スピンドルモータを示している。このスピンドルモータは、軸部材2を回転自在に支持する軸受ユニット1と、軸部材2に取付けられ、磁気ディスクDを一又は複数枚保持するディスクハブ3と、半径方向のギャップを介して対向させたモータステータ4およびモータロータ5とを有する。ステータ4は、軸受ユニット1を保持するケーシング9の円筒状外周部に取付けられ、ロータ5はディスクハブ3の内周面に取付けられている。ステータ4に通電すると、ステータ4とロータ5との間の励磁力でロータ5が回転し、ディスクハブ3および軸部材2が回転する。
【0014】
軸受ユニット1は、軸部材2と、有底円筒状のいわゆる袋型ハウジング6と、ハウジング6の内周面に固定された厚肉円筒状の軸受部材7と、軸受部材7の一端側(ハウジング6の開口側)を密封するシールワッシャ等のシール部材8とを主な構成要素とする。軸部材2は、軸2aと軸2aの下端部に設けられ、外径側に突出するスラスト円盤2b(フランジ部)とで構成される。この軸部材2は、軸2aを軸受部材7の内周部に、フランジ部2bを軸受部材7とハウジング6の底部との間に収容して配置される。
【0015】
軸受部材7は、例えば銅や真鍮等の軟質金属、あるいは焼結金属等で形成される。軸受部材7の内周面には、一あるいは複数(本実施形態では2つ)の動圧発生部を有するラジアル軸受面10aが形成され、これより軸部材2と軸受部材7の相対回転時(本実施形態では軸部材2の回転時)には、ラジアル軸受面10aと軸2aの外周面との間のラジアル軸受隙間Crに動圧が発生し、軸2aをラジアル方向で非接触支持するラジアル軸受部10が構成される。なお、図中のラジアル軸受隙間Crの幅は誇張して描かれている(後述のスラスト軸受隙間Cs1、Cs2についても同様)。
【0016】
軸受部材7を焼結金属で形成した場合の動圧溝は、圧縮成形、すなわち、コアロッドの外周面にラジアル軸受面10aの動圧溝形状(図4(a)参照)に対応した凹凸形状の溝型を形成し、コアロッドの外周に焼結金属を供給して焼結金属を圧迫し、焼結金属の内周部に溝型形状に対応した動圧溝を転写することによって、低コストにかつ高精度に成形することができる。この場合、焼結金属の脱型は、圧迫力を解除することによる焼結金属のスプリングバックを利用して簡単に行える。このように軸受部材7の素材として焼結金属を用いる場合、軸受部材7に潤滑油や潤滑グリースを含浸させた動圧型含油軸受として使用することができる。
【0017】
フランジ部2bの軸方向両側には、軸方向の隙間であるスラスト軸受隙間Cs1、Cs2が設けられる。スラスト軸受隙間Cs1は、フランジ部2bの上端面とこれに対向する軸受部材7の端面との間に形成され、他方のスラスト軸受隙間Cs2は、フランジ部2bの下端面と、これに対向するスラスト支持部13の上面との間に形成される。本実施形態は、スラスト支持部13をハウジング6の他端開口を封口する底部とし、かつハウジング6と一体に形成した場合を例示しているが、スラスト支持部13をハウジング6と別体に構成してもよい。一方のスラスト軸受隙間Cs1を臨む軸受部材7の下端面、および他方のスラスト軸受隙間Cs2を臨むスラスト支持部13の上面には、それぞれ動圧溝を有するスラスト軸受面11a、11bが形成され、これより上記回転時には、スラスト軸受隙間Cs1、Cs2に動圧が発生し、フランジ部2bをスラスト方向両側から非接触支持するスラスト軸受部11が構成される。
【0018】
上記ラジアル軸受面10aおよびスラスト軸受面11a、11bの動圧溝形状は任意に選択することができ、公知のへリングボーン型、スパイラル型、ステップ型、多円弧型等の何れかを選択し、あるいはこれらを適宜組合わせて使用することができる。図4は動圧溝形状の一例としてへリングボーン型を示すもので、同図(A)はラジアル軸受面10aを、同図(B)は、スラスト支持部13のスラスト軸受面11bを示す。図示のように、本実施形態のラジアル軸受面10aは、一方に傾斜する動圧溝14が形成された第1の溝領域m1と、第1の溝領域m1から軸方向に離隔し、他方に傾斜する動圧溝14が配列された第2の溝領域m2と、2つの溝領域間m1、m2間に位置する環状の平滑部nとからなる動圧発生部を2つ備える。各動圧発生部では、平滑部nと動圧溝13間の背の部分15とは同一レベルにある。スラスト軸受面11bの動圧溝16は、半径方向のほぼ中心部に屈曲部分を有するほぼV字状をなしている。
【0019】
上記軸受ユニット1は、ハウジング6内にフランジ部2bを下にして軸部材2を挿入し、さらに所定幅(10〜20μm程度)のスラスト軸受隙間Cs1、Cs2が形成されるようにハウジング6内周部の所定位置に、軸受部材7を圧入あるいは接着することにより組立てられる。そして、この軸受ユニット1をケーシング9の円筒状内周部に圧入あるいは接着し、さらにロータ5やディスクハブ3からなるアッセンブリ(モータロータ)を軸2aの上端に圧入することにより、図1に示すスピンドルモータが組立てられる。
【0020】
本発明においては、ラジアル軸受部10とスラスト軸受部11の双方でモーメント荷重を支持できるよう、ラジアル軸受すきまCrおよびスラスト軸受すきまCs1、Cs2の幅が設定される。すなわち、図1および図2に概略図示するように、傾斜した軸部材2のうち、軸2aの外周面がこれに対向するラジアル軸受面10aの軸方向両側で接触すると同時に、フランジ部2bの両端面外径端もそれぞれに対向するスラスト軸受面11a、11bと接触できるよう各軸受すきまCr、Cs1・Cs2の幅が設定される。
【0021】
図1は加工誤差がないと仮定し、ラジアル軸受部10内で軸2aがとり得る可動傾斜角θ1 とスラスト軸受部11内でフランジ部2bがとり得る可動傾斜角θ2 とを等しく設定して(θ1 =θ2 )、両軸受部10、11内での上記同時接触を実現したものである。この時、フランジ部2bの直径をD、ラジアル軸受部10の軸方向長さをL、ラジアル軸受すきまCrの幅をδR とすると、スラスト軸受すきまCs1、Cs2の幅δA (すきまCs1、Cs2の幅の和)は、θ1 、θ2 が微小であるから、
δA =DδR /L …▲1▼
で表わされる。この関係を満たすように各軸受すきまCr、Cs1・Cs2を設定すれば、モーメント負荷により軸部材2が傾いたとしても、ラジアル軸受部10およびスラスト軸受部11で同程度のモーメント支持力が生じるため、ラジアル軸受部10のみでモーメント荷重を支持する従来品(図5参照)に比べて軸受ユニット1全体のモーメント負荷容量を増大させることができる。
【0022】
図2は加工誤差εを考慮したものであり、この場合、上記▲1▼式の右辺に、経験的に見出される加工誤差ε(現状では4μm程度)を加算したものをスラスト軸受すきまCS1、CS2の幅δA とすればよい(δA =DδR /L+ε …▲2▼)。ここでの加工誤差εは、軸2aとフランジ部2bとの直角度の誤差と、スラスト軸受面11a、11bの平行度の誤差とにより生じる軸方向すきまの減少量を意味する。
【0023】
実際の加工誤差εは、加工方法が決まればある分布内で一義的に定まる。上記▲1▼および▲2▼式より、(DδR /L)+ε≧δA ≧DδR /Lの範囲でδA を設定しておけば、ラジアル軸受部10とスラスト軸受部11でほぼ同程度のモーメント支持力を確保することができ、実用上十分な効果が得られる。
【0024】
フランジ部2bの直径Dが、ラジアル軸受部10の軸方向長さLよりも大きい場合(D>L)、軸受ユニット1全体のモーメント負荷容量は、スラスト軸受部11でのモーメント支持力に大きく左右されることになるが、本発明によりスラスト軸受部11で十分なモーメント支持力が確保される結果、かかる条件下でのモーメント負荷容量を大幅に増大させることが可能となる。この場合、フランジ部2bの直径Dは10mm以下とする。
【0025】
なお、図1および図2では軸2aおよびフランジ部2bが軸受面10a、11a・11bと接触した状態を図示しているが、実際の軸受運転時には、このような接触状態の発生を回避できるようモーメント負荷容量が決定される。当然ではあるが、動圧溝14、16の形状や深さは、上記の条件から定められたラジアル軸受すきまCrおよびスラスト軸受すきまCS1、CS2の幅δR 、δA に適応して形成される。
【0026】
【発明の効果】
このように本発明によれば、ラジアル軸受部のみならず、スラスト軸受部でも十分なモーメント支持力を確保することができる。従って、動圧型軸受ユニット全体のモーメント負荷容量を増大させることができ、これより動圧型軸受ユニットのさらなる薄型化も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる動圧型軸受ユニットの概略構造を示す断面図である。
【図2】本発明にかかる動圧型軸受ユニットの概略構造を示す断面図である。
【図3】動圧型軸受ユニットを有するスピンドルモータの断面図である。
【図4】(A)図は軸受部材の断面図、(B)図はスラスト軸受部の平面図である
【図5】従来の動圧型軸受ユニットの概略構造を示す断面図である。
【符号の説明】
1 軸受ユニット
2 軸部材
2a 軸
2b フランジ部
7 軸受部材
10 ラジアル軸受部
10a ラジアル軸受面
11 スラスト軸受部
11a スラスト軸受面
11b スラスト軸受面
Cr ラジアル軸受すきま
Cs1 スラスト軸受すきま
Cs2 スラスト軸受すきま

Claims (4)

  1. 軸およびフランジ部からなる軸部材と、軸の外周面とこれに対向するラジアル軸受面との間のラジアル軸受すきまに生じた動圧で軸部材をラジアル方向で非接触支持するラジアル軸受部と、フランジ部の端面とこれに対向する二つのスラスト軸受面との間の二つのスラスト軸受すきまに生じた動圧で軸部材を両スラスト方向で非接触支持するスラスト軸受部とを具備するものにおいて、
    ラジアル軸受すきまの幅δRとスラスト軸受すきまの幅δAが、以下の関係式を満たす動圧型軸受ユニット
    (DδR/L)+ε≧δA≧DδR/L
    但し、Dはフランジ部の直径、Lはラジアル軸受部の軸方向長さLを表す。εは加工誤差であって、軸とフランジ部の直角度の誤差と、二つのスラスト軸受面の平行度の誤差とにより生じるスラスト軸受隙間の減少量を表わす。
  2. 加工誤差εを4μmにした請求項1記載の動圧型軸受ユニット。
  3. フランジ部の直径Dを10mm以下にした請求項2記載の動圧型軸受ユニット。
  4. フランジ部の直径が、ラジアル軸受部の軸方向長さよりも大きい請求項1乃至3何れか1項に記載の動圧型軸受ユニット。
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