JP3981567B2 - 炭素繊維の長さ調整方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は気相成長法による炭素繊維の長さ調整方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
気相成長法による炭素繊維が知られている。
この炭素繊維は、ベンゼンやメタンなどの炭化水素を700℃〜1000℃程度の温度で熱分解して得られる炭素が、超微粒の鉄やニッケルなどの触媒粒子を核として成長した短繊維である。
炭素繊維は、炭素網層が同心状に成長したもの、炭素網層が軸線に垂直に成長したものがあるが、触媒、温度領域、フローレート等の気相成長条件によっては、炭素網層の積層が繊維軸に対して一定の角度で傾斜したヘリンボン(herring-bone)構造をなすものもある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、このような炭素繊維は、樹脂などに混入して複合材として用いられることが多いが、一般的に樹脂との密着性がそれ程よくないとされている。
これは、炭素網面(AB面)がそのまま露出していて、表面の活性度が低いことが一因と考えられる。また、気相成長法による宿命であるが、気相成長法で製造された炭素繊維の表面には、十分に結晶化していない、アモルファス状の余剰炭素が堆積した、薄い堆積層が形成される。この堆積層も活性度が低く、そのために樹脂との密着性が劣ると考えられる。
【0004】
本発明は上記課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、端面および表面の活性度が高く、樹脂等との密着性が良好な気相成長法による炭素繊維の長さ調整方法を提供するにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明に係る炭素繊維の長さ調整方法は、底の無いカップ形 状をなす炭素網層が多数積層した、気相成長法による炭素繊維であって、炭素網層のずれた乱層構造をなして熱処理によっても黒鉛化しない炭素繊維をグラインディングし、炭素網層の形状を壊すことなく炭素網層を隣接するものから抜け出させることによって炭素繊維を所要長さのものに分断することを特徴とする。
炭素繊維の長さ調整方法。
【0006】
また、前記炭素繊維をボールミリングによりグラインディングすることを特徴とする。
【0007】
また、炭素繊維の前記炭素網層の端面が露出した炭素繊維を分断することを特徴とする。
【0008】
また、炭素繊維が、炭素網層が数個〜数百個積層したものに分断されることを特徴とする。
【0009】
また、気相成長法による炭素繊維が2500℃以上の高温で熱処理しても、黒鉛化しないことを特徴とする。
また、気相成長法による炭素繊維が2500℃以上の高温で熱処理しても、ラマンスペクトルのDピーク(1360cm -1 )が消失しないことを特徴とする。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
まず、気相成長法による炭素繊維(以下ヘリンボン構造の炭素繊維という)の製造方法の一例を説明する。
反応器は公知の縦型反応器を用いた。
原料にベンゼンを用い、ほぼ20℃の蒸気圧となる分圧で、水素気流により反応器に、流量0.3l/hでチャンバーに送り込んだ。触媒はフェロセンを用い、185℃で気化させ、ほぼ3×10-7mol/sの濃度でチャンバーに送り込んだ。反応温度は約1100℃、反応時間が約20分で、直径が平均約100nmのヘリンボン構造の炭素繊維が得られた。原料の流量、反応温度を調節する(反応器の大きさによって変更される)ことで、底の無いカップ形状をなす炭素網層が多数積層され、数十nm〜数十μmの範囲に亙って節(ブリッジ)の無い中空の炭素繊維が得られる。本発明では、後記するように、この底の無いカップ形状をなす炭素網層が多数積層された炭素繊維をグラインディングすることによって、底の無いカップ形状をなす炭素網層が数個〜数百個積層された炭素繊維に調整する。もちろん、炭素網層が数千個〜数万個等積層された任意の長さの炭素繊維に調整することも可能である。
【0011】
まず、炭素繊維の特性について説明する。
図1は、上記気相成長法によって製造したヘリンボン構造の炭素繊維の透過型電子顕微鏡写真の複写図、図2はその拡大図、図3はその模式図である。
図から明らかなように、傾斜した炭素網層10を覆って、アモルファス状の余剰炭素が堆積した堆積層12が形成されていることがわかる。14は中心孔である。
このような堆積層12が形成されている炭素繊維を、400℃以上、好ましくは500℃以上、一層好ましくは520℃以上530℃以下の温度で、大気中で1〜数時間加熱することにより、堆積層12が酸化されて熱分解し、除去されて炭素網層の端面(六員環端)が一部露出する。
あるいは、超臨界水により炭素繊維を洗浄することによっても堆積層12を除去でき、炭素網層の端面を露出させることができる。
あるいはまた上記炭素繊維を塩酸または硫酸中に浸漬し、スターラーで撹拌しつつ80℃程度に加熱しても堆積層12を除去できる。
【0012】
図4は、上記のように約530℃の温度で、大気中1時間熱処理したヘリンボン構造の炭素繊維の透過型電子顕微鏡写真の複写図、図5はその拡大図、図6はさらにその拡大図、図7はその模式図である。
図5〜図7から明らかなように、上記のように熱処理を行うことによって、堆積層12の一部が除去され、炭素網層10の端面(炭素六員環端)が露出していることがわかる。なお、残留している堆積層12もほとんど分解されていて、単に付着している程度のものと考えられる。熱処理を数時間行い、また超臨界水での洗浄を併用すれば、堆積層12を100%除去することも可能である。
また、図4に明らかなように、炭素繊維10は、底の無いカップ形状をなす炭素網面が多数積層しており、少なくとも数十nm〜数十μmの範囲で中空状をなしている。
中心線に対する炭素網層の傾斜角は25°〜35°位である。
【0013】
また、図6や図7に明確なように、炭素網層10の端面が露出している外表面および内表面の部位が、端面が不揃いで、nm(ナノメーター)、すなわち原子の大きさレベルでの微細な凹凸16を呈していることがわかる。図2に示すように、堆積層12の除去前は明確でないが、上記の熱処理により堆積層12を除去することによって、凹凸16が現れた。
露出している炭素網層10の端面は、他の原子と結びつきやすく、きわめて活性度の高いものである。これは大気中での熱処理により、堆積層12が除去されつつ、露出する炭素網層の端面に、フェノール性水酸基、カルボキシル基、キノン型カルボニル基、ラクトン基などの含酸素官能基が増大し、これら含酸素官能基が親水性、各種物質に対する親和性が高いからと考えられる。
また中空構造をなすこと、および凹凸16によるアンカー効果は大きい。
【0014】
図8は、ヘリンボン構造の炭素繊維(サンプルNO.24PS)を、大気中で、1時間、それぞれ500℃、520℃、530℃、540℃で熱処理した後の、炭素繊維のラマンスペクトルを示す。
上記熱処理を行うことによって、堆積層12が除去されることは図5〜図7で示したが、図8のラマンスペクトルから明らかなように、Dピーク(1360cm-1)およびGピーク(1580cm-1)が存在することから、このものは炭素繊維であるとともに、黒鉛化構造でない炭素繊維であることが示される。
【0015】
すなわち、上記ヘリンボン構造の炭素繊維は、炭素網面のずれた(グラインド)乱層構造(Turbostratic Structure)を有していると考えられる。
この乱層構造炭素繊維では、各炭素六角網面が平行な積層構造は有しているが各六角網面が平面方向にずれた、あるいは回転した積層構造となっていて、結晶学的規則性は有しない。
この乱層構造の特徴は、層間への他の原子等のインターカレーションが生じにくい点である。このことは1つの利点でもある。すなわち、層間へ物質が入りづらいことから、前記のように、露出され、活性度の高い炭素網層の端面に原子等が担持されやすく、したがって、効率的な担持体として機能することが期待される。
【0016】
図9は、上記熱処理を行って炭素網層の端面を露出させた、サンプルNO.19PSと、サンプルNO.24PSの炭素繊維のラマンスペクトルを示す。
また図10は、上記炭素網層の端面を露出させた、サンプルNO.19PSと、サンプルNO.24PSの炭素繊維に3000℃の熱処理(通常の黒鉛化処理)を行った後の炭素繊維のラマンスペクトルを示す。
図10に示すように、炭素網層の端面を露出させた炭素繊維に黒鉛化処理を行っても、Dピークが消失しないことがわかる。これは、黒鉛化処理を行っても黒鉛化していないことを示す。
図示しないが、X線回折を行っても、112面の回折線が出てこないことからも、上記炭素繊維は黒鉛化していないことが判明した。
【0017】
黒鉛化処理を行っても黒鉛化しないということは、黒鉛化しやすい堆積層12が除去されているからと考えられる。また、残ったヘリンボン構造の部位が黒鉛化しないということが明らかとなった。
上記のように、高温雰囲気下でも黒鉛化しないことは、熱的に安定であることを意味する。
【0018】
上記のようにして得られるヘリンボン構造をなす炭素繊維は、底の無いカップ形状、すなわち断面がハの字状をなす単位炭素網層が数万〜数十万個積層している短繊維(長さ数十μm)である。この短繊維は、分子量(長さ)が大きく不溶性である。
本発明に係る炭素繊維は、上記短繊維を、単位炭素網層が、数個〜数百個積層されたものに分断したものである。
【0019】
上記短繊維を分断するには、水あるいは溶媒を適宜量加えて、乳鉢を用いて乳棒により緩やかにすりつぶすことによって行える。
すなわち、上記短繊維(堆積層12が形成されたもの、堆積層12が一部あるいは全部除去されたもの、いずれでもよい)を乳鉢に入れ、乳棒により機械的に緩やかに短繊維をすりつぶすのである。
乳鉢での処理時間を経験的に制御することによって、単位炭素網層が数個〜数百個積層した炭素繊維を得ることができる。
【0020】
その際、環状の炭素網層は比較的強度が高く、各炭素網層間は弱いファンデアワールス力によって結合しているにすぎないので、環状炭素網層はつぶれることはなく、特に弱い結合部分の炭素網層間で分離されることとなる。
なお、上記短繊維を液体窒素中で乳鉢によりすりつぶすようにすると好適である。液体窒素が蒸発する際、空気中の水分が吸収され、氷となるので、氷とともに短繊維を乳棒によりすりつぶすことによって、機械的ストレスを軽減し、上記の単位繊維層間での分離が行える。
【0021】
工業的には、上記炭素繊維をボールミリングによってグラインディング処理するとよい。
以下にボールミリングによって炭素繊維の長さ調整をした実施例を説明する。
ボールミルはアサヒ理化製作所製のものを用いた。
使用ボールは直径5mmのアルミナ製である。上記炭素繊維を1g、アルミナボール200g、蒸留水50ccをセル中に入れ、350rpmの回転速度で処理をし、1、3、5,10、24の各時間経過毎にサンプリングした。
【0022】
図11は、レーザー粒度分布計を用いた計測した、各時間経過毎の炭素繊維の長さ分布を示す。
図11から明らかなように、ミリング時間が経過するにつれて、線長が短くなっていく。特に10時間経過後は、10μm以下に急激に線長が下がる。24時間経過後は、1μm前後に別のピークが発生しており、より細かい線長になっているのが明らかである。1μm前後にピークが現れたのは、長さと直径がほとんど等しくなり、直径分をダブルカウントした結果と考えられる。
【0023】
このことは図12〜図16の電子顕微鏡写真の複写図からも明らかである。
図12は、ミリング前の炭素繊維であり、数十μmの長さの炭素繊維が絡まり合っていて、嵩密度が極めて低いものになっている。
2時間経過後(図13)、5時間経過後(図14)、10時間経過後(図15)、24時間経過後(図16)と、ミリング時間が経過するにつれて線長が短くなり、24時間経過後はほとんど粒子状となり、繊維の絡まりはほとんどみられなくなり、嵩密度の高いものになっている。
【0024】
図17〜図19の透過型電子顕微鏡写真の複写図は、ミリング中に炭素繊維がまさに分断されようとしている状態が示されている。図18、図19は図17の拡大図となっている。
これらの図から明らかなように、炭素繊維の分断は、繊維が折れるのではなく、底の無いカップ形状をなす炭素網層が抜け出すことによってなされることが理解される。
図20は、上記のようにして、底のないカップ形状をなす炭素網層が数十個積層した状態に長さ調整された、非常に興味のある炭素繊維の透過型電子顕微鏡写真の複写図である。節の無い中空状をなしている。また中空部の外表面および内表面側の炭素網層の端面が露出している。もちろん、ミリングの条件によって任意の長さの炭素繊維に調整することができる。
【0025】
図20に示される炭素繊維は、長さおよび直径が約60nmで、肉厚の薄い、空洞部の大きなチューブ状をなしている。
このように、底の無いカップ形状をなす炭素網層が抜け出すようにして、分離され、炭素網層の形状が壊されていないことがわかる。
この点、通常の、同心状をなすカーボンナノチューブをグラインディングすると、チューブが割れ、外表面に軸方向に亀裂が生じたり、ささくれ立ちが生じ、また、いわゆる芯が抜けたような状態が生じたりして、長さ調整が困難であった。
【0026】
上記のように露出した炭素網層10の端面は、他の原子と結びつきやすく、きわめて活性度の高いものである。これは、前記したように、大気中での熱処理により、堆積層12が除去されつつ、露出する炭素網層の端面に、フェノール性水酸基、カルボキシル基、キノン型カルボニル基、ラクトン基などの含酸素官能基が増大し、これら含酸素官能基が親水性、各種物質に対する親和性が高いからと考えられる。
また中空構造をなすこと、および凹凸16によるアンカー効果は大きい。
実際、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロンや、FEP、PFA、PTFE等のフッ素樹脂、各種ポリエステル、各種ポリイミド、各種ポリ炭酸エステル等の樹脂材料に上記炭素繊維を混合し、複合材を製造したところ、これら複合材の強度は飛躍的に向上した。
また、上記炭素繊維は、樹脂材料だけでなく、アルミニウム、銅、マグネシウム等の金属材料とも密着性よく混合できる。
【0027】
図21は、ポリプロピレン(コンポジット材)に強化用ファイバーや各種フィラーを混合した複合材の引張強度(横軸)と引張弾性(縦軸)を示す。(4)が無処理のヘリンボン炭素繊維を、(7)が上記熱処理して堆積層を除去した上記炭素繊維を各々30wt%混合した場合を示す。
図から明らかなように、炭素繊維含有の複合材は、全体としてガラス繊維を混合した複合材と遜色のない強度を呈するが、(4)の無処理のヘリンボン炭素繊維を混合した場合に比して、(7)の堆積層を除去して炭素網層の端面を露出させた炭素繊維を混合した場合の方が、引張強度が格段に向上し、また引張弾性も緩やかに向上していることがわかる。
【0028】
通常は、樹脂材料等のコンポジット材料に炭素繊維を混入すると、混練り時に炭素繊維が折れてしまいやすい。このため、炭素繊維を大量(10wt%以上)に入れることで性能を向上させている。しかし、本炭素繊維は、樹脂等のコンポジット材料との密着性がよいから、強度的に、0.1wt%以上10wt%以下の範囲(特に0.3wt%程度が良好)でも十分である。
さらに、ヘリンボン構造の炭素繊維は、その構造上、混練り時にかけられる外力によって、S字、Z字、スパイラル状に変形し、回りのコンポジット材料にフィットし、よく絡み付く効果も期待できる。すなわち、折れにくく曲がりやすい、柔らかい、ねじれる、回転する等の性質を有する。この性質は、堆積層12を除去しない状態でも生じるが、堆積層12を除去した場合の方がより顕著に発現する。
【0029】
上記のように、本炭素繊維は、底の無いカップ形状の炭素網層が数十〜数百個積層した微細粒をなすため、樹脂への分散性が極めて良好であり、樹脂との複合材において、しなやかで、かつ強度が大きいばかりでなく、成形金型での成形性、金型表面の転写性に優れ、またナノ粒子の混入により、表面が平滑で低摩擦係数の摺動性に優れる複合材が得られる。
また上記炭素繊維は樹脂にがっちり食い込むので、樹脂の熱膨張、熱収縮を抑え、寸法安定性に優れる複合材が得られる。このように複合材は、寸法安定性に優れ、しかも導電性を有するので、薄型にしても反りや捩れが発生しないから、燃料電池のセパレータなどに良好に用いることができる。
またこのような複合材は、成形金型表面の転写性に優れ、寸法安定性にも優れるから、計測機器や時計用の微小歯車などの精度の必要とされる微小メカ部品用として好適に用いられる。
さらに、炭素繊維の中空孔内に潤滑油を含浸させ、樹脂と混合した摺動材とすることにより、摺動中にナノレベルで潤滑油が滲み出るので、摺動性を飛躍的に向上させることができる。
また樹脂との複合材として、剛性が高いのでゴルフクラブやテニスラケット用の素材としても好適である。
さらに、上記炭素繊維をナイロン等に混入させることにより、導電性繊維を得ることができる。この場合、炭素繊維は微細で、紡糸ノズルに詰まることがないので好適である。
また本炭素繊維は、カーボンブラックと違い、粉体ではなく、繊維状であるため、樹脂フイルム内に分散しても切れづらいという利点がある。これらの利点を生かし、薄型のブロック状のものでなく、極薄で導電性を有し、強度を保持したフイルムの製造が可能となる。フイルムの厚さは、数μm〜数百μmのものまで可能である。
その他の複合材としては、本炭素繊維をゴムの配合材料として用いることで、導電性ゴム、ゴムパッド等のクッション材・緩衝材、タイヤ等の複合材が得られる。特に、タイヤの場合、耐摩耗性に優れ、摩擦力、グリップ力が大きいので好適である。
また、コンクリート、セメントやガラスに混入させることで、割れにくい、強度の大きなコンクリート等が提供される。
さらには、各種めっき液に添加することで、めっき液の導電性を高めることもできる。
【0030】
上記のように、炭素繊維の、露出している炭素網層10の端面は、他の原子と結びつきやすく、きわめて活性度の高いものである。
この炭素繊維を用いて触媒金属を担持した炭素繊維を製造した。
以下に製法の一例を示す。
1.上記炭素繊維を、エタノール・塩化白金酸溶液に混合し、1時間撹拌した。
2.1時間後、上記溶液に水素化ホウ素ナトリウム水溶液を加え、塩化白金酸の還元を行った。
3.1分間、還元処理を行った後、塩酸水溶液を加え、過剰な水素化ホウ素ナトリウムの分解を行った。
4.5分後ろ過し、触媒金属が担持された炭素繊維を取り出した。
5.ろ過後、炭素繊維を重炭酸アンモニウム水溶液に浸漬し、触媒金属を中和し、次いで精製水で洗浄した。
6.水分を除去し、真空乾燥をして、触媒白金金属が担持された炭素繊維を得た。
【0031】
図22は、触媒金属(白金)が担持されている炭素繊維の状態を示す模式図である。
白金原子の大きさは概ね30Å、一方炭素網層の間隔は3.5Åであって、白金原子は、炭素網層10のほぼ10層分のエリアに担持される。
前記のように、端部が露出した炭素網層10の部位は凹凸が存在するが、白金原子は凹部にも凸部にも保持される。凹部は概ね周方向に伸びる凹溝を呈し、図23のように、白金金属は、凹溝内に保持されるときはこの凹溝にチエーン状に連なって多数保持される。
炭素繊維は直径100nm程度の超微細なものであるから、多数の白金金属が保持され、その触媒効果は絶大なものである。
【0032】
白金の触媒金属が担持された炭素繊維は、燃料電池等の触媒として好適に用いることができる。また、燃料電池のみでなく、他の用途の触媒として用いることができることはもちろんである。
また上記炭素繊維は、白金に限らず、白金合金、ルテニウム、パラジウム等の触媒金属の担持体ともなる。
【0033】
次に、上記炭素繊維の溶媒への可溶性について説明する。
炭素網層が1〜数個程度積層したものであれば、各種溶媒に溶解可能となる。
上記露出した単位炭素網層の環状端面は化学的に極めて活性である。
まず、この端面にカルボキル基を修飾する。次いで、SOCl2でカルボキシル基のヒドロキシル基を塩素置換する。さらにこの塩素をオクタデシルアミン[CH3(CH2)17NH2]とジクロロカルベンで修飾することによって、ベンゼンやトルエン等の芳香族溶媒、二硫化炭素等の各種溶媒に溶解する炭素繊維を得た。
【0034】
上記の、各種溶媒に溶解する炭素繊維を樹脂材料に混入することによって、導電性樹脂を得ることができる。
例えば、上記炭素繊維をトルエン等の溶媒に溶解し、これをエポキシ樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂等の樹脂材料に混入して導電性樹脂とすることができる。
この導電性樹脂を、例えばポリイミド等のフレキシブルな樹脂シート上に所要パターンでスクリーン印刷し、乾燥して溶媒を飛散させれば、FPC(フレキシブルプリントサーキッド)等の回路基板に形成できる。
【0035】
もちろん、通常の気相成長法による炭素繊維を、単に樹脂材料中に混入することにより導電性樹脂を形成できるが、繊維状炭素が含まれることから、この導電性樹脂により上記と同様にして回路パターンを形成した場合には、回路パターンの平坦度をだしにくく、また、FPCのように、常時屈曲が加わるものの場合には、特に屈曲している回路パターンの部位に切断個所が生じやすい。
この点、本発明の炭素繊維は微細であるから、回路パターンにした場合、平坦性にも優れ、また繰り返しの応力によっても、回路パターンが切断するという不具合を解消できる。
【0036】
また、カーボンブラックと同様にして、導電性インキや導電性塗料の材料としても好適に用いることができる。カーボンブラックよりも微細粒であることから、各種ビヒクルへの分散性が良好で、露出した炭素網層の端面に修飾される含酸素官能基により、インキや塗料の光沢が増し、また発色性も良好となる。
さらには接着剤中に混入することで、導電性接着剤の製造が可能となる。
【0037】
その他、上記炭素繊維を、リチウム一次、二次電池の負極材、燃料電池の各種部材(高分子電解質膜、触媒担持体、セパレータ等)等、種々の用途に用いることができる。
すなわち、上記のように、黒鉛化しないということは、上記炭素繊維をリチウムイオン電池の負極材もしくは負極材の添加材として有効に用いることができる。
従来、リチウムイオン電池の負極材として黒鉛材が用いられているが、黒鉛材の層間へリチウムイオンがドーピングされると、層間が広がり、負極材は膨張する。このような状態で充放電サイクルを繰り返すと、電極の変形をもたらしたり、金属リチウムの析出が起こりやすくなり、容量劣化や内部ショートの原因となる。また層間が伸縮を繰り返すと、黒鉛結晶構造の破壊原因となり、サイクル特性に悪影響を与える。
この点難黒鉛化材である上記炭素繊維は、AB面の層間が黒鉛材に比べて大きく開かれているから、リチウムイオンのドーピング後も層間の膨張、変形がなく、サイクル特性に極めて優れ、また黒鉛材料に比べ、電気エネルギー密度が向上するといえる。
【0038】
さらには、上記炭素繊維は、中心孔が一端側に大きく開口し、他端側は小径となっているから、細菌等の微小物を中心孔内に捕集する捕集材や、各種フィルターとしても用いることができる。
また、中空部内に、各種のガスや液体を吸蔵する吸蔵体、保水材などとしても用いることができる。
さらに、露出した炭素網層の、活性を有する端面に各種の物質が選択的に吸着されることから、吸着材や吸着フィルターとしても用いることができる。
【0039】
【発明の効果】
本発明に係る炭素繊維の長さ調整方法によれば、底の無いカップ形状をなす炭素網層が多数積層した、気相成長法による炭素繊維であって、炭素網層のずれた乱層構造をなして熱処理によっても黒鉛化しない炭素繊維をグラインディングし、炭素網層の形状を壊すことなく炭素網層を隣接するものから抜け出させることによって炭素繊維を所要長さのものに分断するものであるので、炭素網層の端面が露出し、該端面の活性度が高く、樹脂等の複合材料との密着性に優れる炭素繊維とすることができる。
また、微細粒をなすことから、樹脂への分散性に優れ、成形性も良好となる。
また、長さ調整された炭素繊維は、底の無いカップ形状をなす、ヘリンボン構造の傾斜した炭素網層の端面を、層状に露出させることにより、この露出した炭素網層の端面(六員環端)は、きわめて活性度が高く、樹脂等の複合材料との密着性に優れる。したがって、引張強度、圧縮強度、導電性に優れる複合材の材料として好適である。
また、堆積層が除去され、炭素網層の端面が層状に露出された表面は、各層の端面が不揃いで、原子の大きさレベルでの微細な凹凸を呈しており、このことがまた樹脂等の複合材料に対するアンカー効果となり、複合材料との密着性が一層優れるものとなり、強度的に極めて優れた複合材が提供される。
インキや塗料の材料としても、ビヒクルへの分散性が良好なことから、光沢、発色性に優れるインキ、塗料を提供できる。
また得られた炭素繊維は、2500℃以上の高温で熱処理しても、黒鉛化せず、熱的に安定である。
さらに、得られた炭素繊維は、各種の触媒金属の好適な担持体となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 気相成長法によって製造したヘリンボン構造の炭素繊維の透過型電子顕微鏡写真の複写図である。
【図2】 図1の拡大図である。
【図3】 図2の模式図である。
【図4】 約530℃の温度で、大気中1時間熱処理したヘリンボン構造の炭素繊維の透過型電子顕微鏡写真の複写図である。
【図5】 図4の拡大図である。
【図6】 図5のさらに拡大図である。
【図7】 図6の模式図である。
【図8】 ヘリンボン構造の炭素繊維(サンプルNO.24PS)を、大気中で、1時間、それぞれ500℃、520℃、530℃、540℃で熱処理した後の、炭素繊維のラマンスペクトルを示す。
【図9】 上記熱処理を行って炭素網層の端面を露出させた、サンプルNO.19PSと、サンプルNO.24PSの炭素繊維のラマンスペクトルを示す。
【図10】 上記炭素網層の端面を露出させた、サンプルNO.19PSと、サンプルNO.24PSの炭素繊維に3000℃の熱処理を行った後の炭素繊維のラマンスペクトルを示す。
【図11】 ボールミリングでグラインディングした際の、経過時間毎の炭素繊維長の分布を示すグラフである。
【図12】 ボールミリング開始前の炭素繊維の電子顕微鏡写真の複写図である。
【図13】 ボールミリング開始2時間後の炭素繊維の電子顕微鏡写真の複写図である。
【図14】 ボールミリング開始5時間後の炭素繊維の電子顕微鏡写真の複写図である。
【図15】 ボールミリング開始10時間後の炭素繊維の電子顕微鏡写真の複写図である。
【図16】 ボールミリング開始24時間後の炭素繊維の電子顕微鏡写真の複写図である。
【図17】 ボールミリング中、カップ状をなす炭素網層が離脱し始めている状態を示す透過型電子顕微鏡写真の複写図である。
【図18】 図17の拡大図である。
【図19】 図18のさらなる拡大図である。
【図20】 底の無いカップ形状をなす炭素網層が数十個積層された炭素繊維に分離された状態を示す透過型電子顕微鏡写真の複写図である。
【図21】 各種複合材の引張強度(横軸)と引張弾性(縦軸)を示す。
【図22】 触媒金属が担持されている状態を示す模式図である。
【図23】 触媒金属がチエーン状に保持されている状態を示す説明図である。
【符号の説明】
10 炭素網層
12 堆積層
14 中心孔
16 凹凸
Claims (6)
- 底の無いカップ形状をなす炭素網層が多数積層した、気相成長法による炭素繊維であって、炭素網層のずれた乱層構造をなして熱処理によっても黒鉛化しない炭素繊維をグラインディングし、炭素網層の形状を壊すことなく炭素網層を隣接するものから抜け出させることによって炭素繊維を所要長さのものに分断することを特徴とする炭素繊維の長さ調整方法。
- 前記炭素繊維をボールミリングによりグラインディングすることを特徴とする請求項1記載の炭素繊維の長さ調整方法。
- 炭素繊維の前記炭素網層の端面が露出した炭素繊維を分断することを特徴とする請求項1または2記載の炭素繊維の長さ調整方法。
- 炭素繊維が、炭素網層が数個〜数百個積層したものに分断されることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の炭素繊維の長さ調整方法。
- 気相成長法による炭素繊維が2500℃以上の高温で熱処理しても、黒鉛化しないことを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか1記載の炭素繊維の長さ調整方法。
- 気相成長法による炭素繊維が2500℃以上の高温で熱処理しても、ラマンスペクトルのDピーク(1360cm -1 )が消失しないことを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか1記載の炭素繊維の長さ調整方法。
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