JP3980113B2 - 電気二重層コンデンサ - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は電気二重層コンデンサに関し、特には一対の分極性電極を隔離するセパレータとして、微細な貫通孔を有して多孔質であるとともに、緻密性を有して気密度が高い、セルロースを原料とする新規なセパレータを用いることによって、ショート不良の低減、内部抵抗の低減等の諸特性を高いレベルで改善すると共に、電気二重層コンデンサを小型化するものである。
【0002】
【従来の技術】
電気二重層コンデンサは電極面積が大きく、アルミ電解コンデンサ等と比較して大容量が得られるため、主として半導体のバックアップ電源用等として使用されてきた。更に、近時はその大容量が着目されて電気自動車等の産業用電気製品からコードレスで給湯できる電気ポット等の民生用電気製品に到るまで用途が拡大してきている。
【0003】
この電気二重層コンデンサは活性炭繊維布、或いはアルミネットに活性炭やカーボンブラックを担持させてなる一対の分極性電極の間にセパレータを介在させ、かつ、これらに電解液を含浸させた後に封口して製作している。電解液としてはプロピレンカーボネート等の有機溶媒に、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレートやテトラエチルホスホニウムテトラフルオロボレート等を溶解したものが使用されている。この電気二重層コンデンサには封口形態によって、コイン型と捲回型とがある。コイン型は対向する一対の分極性電極とこの一対の分極性電極の間に平行して介在させたセパレータに電解液を含浸させた後に外装材を兼ねる金属ケースと金属蓋内に収納し、ガスケットを介してかしめることによって密封している。一方捲回型は一対の分極性電極とこの一対の分極性電極の間に介在させたセパレータを円柱状に素子巻きをしたものに電解液を含浸させた後に有底円筒状のアルミケースに収納し、かつ、アルミケースの開口部をゴム封口体で密封している。
【0004】
電気二重層コンデンサに求められているものの中に、ショート不良率が低いこと及びイオンの伝導を妨げることがないように電解液を含浸させたときの内部抵抗が低いことがあり、この2つはセパレータによって大きく左右される。
【0005】
一対の分極性電極となる活性炭がセパレータを貫通してショートする箇所はセパレータの弱い箇所であり、例えばピンホールがあればそこからショートする。そこで、ショート不良率を低減するにはできるだけ均一でピンホールなどの貫通孔が無い緻密性の高いセパレータ、換言すれば気密度の高いセパレータとすることが要求される。
【0006】
一方、内部抵抗を下げるためにはショート不良率の改善とは逆に、イオンが通る経路としての貫通孔を確保するために多孔質のセパレータ、換言すれば気密度の低いセパレータとすることが要求される。これは電気二重層コンデンサの伝導方式はイオン伝導であって、電荷を持ったイオンが移動することで電荷が移動するためである。このようにショート不良率を低減するには緻密性を高めて気密度を高くすることが、一方内部抵抗を低下させるためには多孔質なものとして気密度を低くするという相反する特性がセパレータには求められているのである。
【0007】
従来、コイン型の電気二重層コンデンサのセパレータとしてはメルトブロー方式により製造したポリプロピレン不織布(乾式不織布)が使用されている。これはコイン型の場合には金属ケースと金属蓋内をガスケットを介してかしめる際の衝撃にセパレータが耐える必要があり、ポリプロピレン不織布は溶融ポリマーの紡糸液がランダムウエブとして集積され、繊維が相互に結合することなく絡み合った状態であるため、この衝撃を吸収して耐えられる伸び性や弾性を有するためである。
【0008】
一方、捲回型の電気二重層コンデンサのセパレータとしては天然繊維であるマニラ麻パルプとガラス繊維の混抄紙が使用されている。この混抄紙は繊維が相互に結合しており、衝撃に対する耐性は少ないが、捲回型の場合はかしめる際の衝撃がないため、コイン型のように衝撃に対する耐性を考慮する必要がなく、ショート不良率の低減に寄与する緻密性に優れたマニラ麻パルプとガラス繊維の混抄紙が使用されているのである。なお、ガラス繊維を混抄しているのは、ガラスであるために乾燥時に水素結合が発生することがなく、マニラ麻パルプの繊維中に介在して空隙の保持に寄与するためである。しかしながら、ガラス繊維は嵩高であり、水素結合をしないことから強度がなく、配合割合は40重量%程度が限界である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ポリプロピレン不織布は多孔質であって内部抵抗は低いが、緻密性に欠けるため、一対の分極性電極としての活性炭が貫通してしまいショートすることが多い。そのため、ポリプロピレン不織布の厚さを厚くすることによって活性炭の貫通を防ぐ必要があり、従来120〜180μmの厚さでなければ使用することができなかった。
【0010】
一方、捲回型の電気二重層コンデンサにおいて使用されている天然セルロース繊維であるマニラ麻パルプにガラス繊維を混抄したセパレータはポリプロピレン不織布に比べて、緻密性、気密性に優れており、60〜100μm程度の厚さでセパレータとして使用できるが、多孔質の程度が小さく緻密性が高いことに起因して、内部抵抗が高くなってしまうという問題点がある。
【0011】
素材としてのセルロースは230℃までの耐熱性を有しており、セルロースを溶かす薬剤が今も探索されていることからも分るように薬品に対して安定であり、耐熱性も耐薬品性を合せ持っていると言える。一方、ポリプロピレン不織布は本質的に耐熱性に欠けている。そこで、再生産可能な安価な原料であるセルロースを原料として、ショート不良を防ぐために緻密性を有して気密度が高く、かつ、同時に内部抵抗を下げるために微細な貫通孔を有して多孔質のセパレータを実現できれば、電気二重層コンデンサに要求されているショート不良の低減、内部抵抗の低減と共に、セパレータを薄膜化して電気二重層コンデンサを小型化することができる。
【0012】
しかしながら、従来の抄紙法によって製造されたセルロースを原料とするセパレータでは多孔質と高気密度の双方を充足することはできなかった。電気二重層コンデンサのセパレータとして使用できる100μm以下の厚さで、活性炭の貫通を防止してショート不良率を低減するために気密度を1000秒/100cc程度まで高くしようとすると、セルロースパルプを叩解し、密度を0.75g/cm3程度に抄紙しなければならないが、そうするとセパレータはフィルム状となりイオンの経路としての貫通孔が無くなってしまい内部抵抗が高くなってしまうのである。
【0013】
そのため、セルロースを原料として電気二重層コンデンサのセパレータを製造しようとする場合にセパレータの性能を決定する重要な要素としてセパレータの気密度のコントロールがあり、ショート不良率と内部抵抗の双方を高いレベルで改善するには、微細な貫通孔を有する多孔質であって、かつ、高い気密度、具体的には1000秒/100cc以上の気密度を有するセパレータが望ましい。気密度が数百秒/100ccのレベルのセパレータでは全体としては緻密性を有していてもピンホールが存在するためである。
【0014】
従来、セルロースを原料とする紙の気密度のコントロールは次の二つの方法により行われている。一つは原料となるセルロース繊維の叩解の度合い進めて、より密度の高いセパレータを製造する方法であり、もう一つはセパレータを厚くする方法である。
【0015】
叩解の程度による気密度のコントロールでは、叩解の浅いセルロース繊維を用いて低密度のセパレータに抄紙すると気密度は低く、叩解を進めたセルロース繊維を用いて密度を高く抄紙すると気密度を高くすることができる。セルロース繊維の叩解の程度がJIS P8121に規定するCSF(カナダ標準形口水度、Canadian Standard Freeness、以下、JIS法CSFという)の値で770mlとほとんど叩解していないバージンパルプを用いて、密度を0.3g/cm3、厚さ50μm程度のセパレータを抄紙すれば、気密度を約1秒/100ccにコントロールすることができ、JIS法CSFの値で400ml程度まで叩解を進めて抄紙すれば、同一厚さのセパレータであっても叩解を進めることによって、密度を0.3g/cm3から0.55g/cm3に高めることができ、気密度を数百秒/100ccにコントロールすることができる。
【0016】
そこで、叩解を高度に進めていけば気密度を数千秒/100ccから数万秒/100ccまで、あるいはそれ以上までコントロールすることが可能ではないかと考えられる。しかしながら、ある程度以上叩解を進めた原料を使用した場合、セパレータの表裏間の貫通孔が存在しなくなってしまい、従来のセパレータでは1000秒/100cc以上の気密度をコントロールしながら実現することはできなかった。これはJIS法CSFの値で約200mlより叩解を進めて抄紙をすると、繊維間の空隙がなくなってしまい、セパレータにはもはや貫通孔が存在しなくなり、気密度は無限大となって実際上測定できなくなるからである。これはセパレータが自己接着力をもつセルロースで製造されることに起因する避け難い性質である。貫通孔が存在しなくなることはイオンが通る経路がなくなることであり、内部抵抗が極端に高くなってしまう。
【0017】
一般に繊維径が小さいほど水の表面張力による湿紙中の繊維間に働く力は大きくなる。このことはキャンプベル効果(Campbell効果)として知られている。キャンプベルの計算によると繊維径30μmの繊維間の引力は6.1Kg/cm2、であるのに対し、繊維径2μmでは繊維間の引力は38Kg/cm2となり、更に繊維径0.2μmとなると繊維間の引力は174Kg/cm2になる。高度に叩解された植物繊維は繊維径が元の大きさに比べ小さくなっており、その繊維間に働く力も大きく、繊維間の距離も小さくなっている。そこで、湿紙の状態から乾燥工程に入ると水が蒸発し、このとき水の表面張力が大きいため、隣同士の繊維を強力に引き付ける。繊維間距離が小さくなるとワンデルウァールス力が働き、更に繊維相互を引き付け、ついには水素結合により密着することとなり、繊維間の空隙が減少してしまう。そのため、JIS法CSFの値で200ml以下に叩解を進めると得られたセパレータの繊維間の空隙がなくなってしまうため、気密度が測定できなくなるのである。よって、イオンが通る経路としての貫通孔が無くなってしまうこととなる。一方、叩解の程度が浅く大きな繊維の形状が保持されている場合には、繊維の接触点で水素結合が発生しても全体としてみると空隙が多く存在するのである。
【0018】
また、JIS法CSFの値で200mlに到る前に、JIS法CSFの値の微調整を試みることによっても、1000秒/100cc以上の気密度をコントロールすることはできない。上記したように、繊維径が小さくなると、繊維間に働く力が急激に大きくなる。しかもセルロース繊維を叩解するとセルロース繊維は1/2や1/3に段階的に開裂して行くのではなく、直径0.4μm程度のフィブリルが繊維の外部から段階的にひげ状に発生して行く。即ち、叩解の程度は0.4μmのフィブリルの発生状況のことであり、叩解が進むことはフィブリルの比率が増加することを示している。一方、基となるセルロース繊維、例えば針葉樹パルプの繊維は長径40μm、短径10μm程度の楕円形であり、マニラ麻パルプの繊維は直径20μm程度のほぼ円形である。そのため、叩解の程度はマニラ麻パルプであれば、直径20μmの繊維と、直径0.4μmのフィブリルの比率の変化として捉えることができる。よって、JIS法CSFの値で200mlに到る前の微妙なJIS法CSFの値の調整で気密度をコントロールすることはできないのである。また、試みたとしても目標値に対し、±数千秒〜数万秒/100ccのバラツキが発生することとなると考えられる。
【0019】
そのため、叩解の程度を調節することによって、気密度として数百秒/100ccのセパレータを製造することはできても、イオンが通る経路としての貫通孔を維持して気密度を上げるために1000〜数万秒/100ccの気密度をコントロールしながら製造することはできなかった。即ち、セルロースを原料として微細な貫通孔を有する多孔質であって、かつ、高い気密度を有するセパレータを製造することはできなかったのである。
【0020】
また、もう一つの気密度を高くする方法としてセパレータを厚くする方法がある。理論的には空気の通過する距離が長くなればなるほど気密度は高くなり、セパレータを厚くすれば高気密度のセパレータを製造することが可能である。しかし、セルロースを原料とするセパレータとしては捲回型の電気二重層コンデンサにおいて60〜100μmが主に使われており、できるだけ薄い方が良い。特に現在ではより高容量化、小型軽量化が望まれており、従来より更に薄くすることが期待されている。よって、セパレータとして要求される100μm以下の厚さの範囲では、厚さを調整することによって、或は叩解の程度と厚さの調整を併用することによって気密度を1000秒/100cc以上でコントロールすることはできなかった。
【0021】
一方、内部抵抗を低減するためにセルロースを原料として貫通孔を有する多孔質のセパレータを得るためには、ショート不良率の改善とは逆にセパレータを薄く、その密度を低くする必要がある。しかしながら、セパレータを薄くしたり密度を低くすると必然的に気密度は低下してしまう。また、気密度を高めるためにセパレータを厚くすると一次式的に内部抵抗が高くなり、密度を高めると二次式的に内部抵抗が高くなるのである。
【0022】
以上のように、従来はセルロースを原料としてイオンが通る経路としての貫通孔を維持するために多孔質であって、かつ、高い気密度を有するセパレータを得ることはできず、ショート不良率と内部抵抗の双方を高いレベルで改善することはできなかった。
【0023】
そこで、叩解の程度を進めたセルロース原料で製造され、気密度が無限大となって測定不能となる高密度紙を多孔質のものとすることができれば、従来不可能とされていた高気密度であって低密度のセパレータを得ることができる。即ち、叩解を進めた原料を使用しても、空気が通過することのできる微細な貫通孔を有するセパレータを製造することができれば、高気密度であってもイオンが通る経路としての貫通孔を確保したセパレータをセルロースを原料として得ることができるのである。この高気密度であって低密度のセパレータによれば、気密度を高いレベルでコントロールすることができ、従来の気密度を上げると密度が高くなって内部抵抗が高くなり、密度を下げて内部抵抗を低下させると気密度が下がり緻密性に欠けてショート不良率が増加することとなって、ショート不良率と内部抵抗の双方を同時に高いレベルで満足させることが困難であったセパレータの欠点を解消することができる。また、セルロースは再生産可能な天然資源であり、産業廃棄物の問題も少ないため、石油資源の利用から再生産可能な天然資源への利用へと転換を図ることができて望ましい。
【0024】
更に、従来かしめる際の衝撃に対する耐性が不足するために、セルロースを原料とするセパレータを使用することができなかったコイン型の電気二重層コンデンサのセパレータとして、セルロースを原料とするセパレータを使用することが可能となれば、よりセパレータを薄くすることができ、薄くなった分電極を多く使用することができて、高容量化を図ることができる。
【0025】
そこで、本発明は上記従来の事情に基づき、耐熱性、耐薬品性に優れた再生産の可能な天然資源であるセルロースを原料として、微細な貫通孔を有する多孔質で低密度であるとともに、緻密性を有して気密度が高い新規なセパレータ、即ち、イオンが通る経路としての貫通孔を維持するために多孔質であって、かつ、高い気密度を有するセパレータを用いることによって、ショート不良の低減、内部抵抗の低減等の諸特性を高いレベルで改善すると共に、小型化した電気二重層コンデンサを提供することを課題とする。
【0026】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記課題を達成するために、一対の分極性電極をセパレータによって隔離してなる電気二重層コンデンサにおいて、前記セパレータは、セルロース繊維をJIS法CSFの値で200ml以下に叩解した繊維径が1μm以下の微細なセルロース(但し、JIS法CSFの値はJIS P8121の規定により測定した値とする)、又はセルロース繊維を変法CSFの値で700ml以下に叩解した繊維径が1μm以下の微細なセルロース(但し、変法CSFの値はJIS P8121に規定する測定法において、試料3gを試料0.3gとして測定した値とする)、或いはセルロース繊維を高圧下剪断力で解繊した繊維径が1μm以下のマイクロフィブリル化セルロースを水に分散させて、又は水より表面張力の小さい有機溶媒に分散させて湿紙を製造し、該湿紙中の水分を水と相溶性のある表面張力の小さい溶媒と置換させて、又は該湿紙中の水分を凍結乾燥させて、或いは該湿紙中の有機溶媒を揮発させることにより、該湿紙に存在する空隙構造を保持したまま乾燥させることにより、厚さが20〜100μm、気密度がが1000秒/100cc以上、密度が0.6g/cm3以下であって、微細な貫通孔を有する電気二重層コンデンサを提供する。
【0027】
上記本発明によれば、湿紙の状態においてセルロース繊維間の空隙構造に保持された水を溶媒置換又は凍結乾燥によって乾燥させ、或はセルロース繊維を有機溶媒に分散させて抄紙することにより湿紙を製造し、湿紙中の有機溶媒を揮発させることにより乾燥させるため、従来の抄紙法のように湿紙からの乾燥工程で水が蒸発するときに隣同士の繊維を強力に引き付けて水素結合により密着することがない。即ち、水素結合に関与する水を他の溶媒に置換すること等によってフィブリル間の水素結合を阻害することができる。そのため、湿紙に存在する空隙構造をそのまま保持することにより、微細な貫通孔を有する多孔質で低密度であるとともに、緻密性を有して気密度が高い新規なセパレータ、具体的には厚さが20〜100μm、気密度が1000秒/100cc以上、密度が0.6g/cm3以下であって、微細な貫通孔を有する多孔質高気密度のセパレータを得ることができる。即ち、ショート不良率を改善するために高い気密度を有し、かつ、内部抵抗を改善するためにイオンが通る経路としての貫通孔を維持した多孔質のセパレータを得ることができる。よって、このセパレータを用いることによって、ショート不良の低減、内部抵抗の低減等の諸特性を高いレベルで改善すると共に、セパレータを大幅に薄膜化することができて、電気二重層コンデンサを小型化することができる。
【0028】
更に、従来かしめる際の衝撃に対する耐性が不足するために、セルロースを原料とするセパレータを使用することができなかったコイン型の電気二重層コンデンサにおいても、柔軟性を有する本発明にかかるセパレータであれば従来のポリプロピレン不織布に代えてセパレータとして使用することができる。即ち、本発明によるセルロースを原料とするセパレータは、高度に叩解したセルロースが湿紙中の水分乾燥に起因しては水素結合を形成することがなく、セルロース繊維が相互に絡み合った状態であり柔軟性があるため、かしめる際の衝撃等の圧力が加わると空隙が容易に減少して衝撃を吸収することができるのである。また、押し付けられセルロース同士が密着すると、そこに繊維相互の圧着力が生じフィルム様を呈するようになるため、充分にかしめる際の衝撃に対する耐性を有しているのである。また、本発明にかかるセパレータはポリプロピレン不織布に比べ、電解液の濡れ性が良く、高気密度であることからセパレータを薄くすることができ、薄くなった分、電極を多く使用することができるため、高容量化を図ることができる。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、本発明にかかる電気二重層コンデンサの各実施形態を説明する。本発明にかかる電気二重層コンデンサは、一対の分極性電極を隔離するセパレータとして、セルロースを原料として湿紙を製造し、該湿紙に存在する空隙構造を保持したまま乾燥させることにより、イオンが通る経路としての微細な貫通孔を維持するために多孔質であって、かつ、高い気密度を有するセパレータを使用することに特徴を有する。
【0030】
従来の抄紙法においても、原料としてのセルロース繊維の叩解を進めていくと得られるセパレータの気密度は高くなるが、前記したようにJIS法CSFの値で約200ml以下に叩解を進めて密度0.75g/cm3以上に抄紙をすると繊維間の空隙がなくなってしまい、セパレータには貫通孔がもはや存在しなくなり、気密度は無限大となって実際上測定できなくなってしまう。しかしながら、その場合であっても湿紙の状態においては空隙構造を有する。即ち、乾燥したセパレータには貫通孔が存在しなくても、乾燥前の湿紙には貫通孔が存在する。乾燥することによって、水分が蒸発し、セルロース繊維相互の水素結合によって空隙が癒されて貫通孔が存在しなくなるが、湿紙の状態ではどんなに叩解の程度を進めたとしても水分が保持されている空隙が存在するのである。例えば、JIS法CSFの値で約200ml以下まで叩解を進めて抄紙したとしても、湿紙の状態ではプレスすることにより脱水することができる。このことは湿紙中に連続した水の流路が存在することを示しているに他ならない。本発明は乾燥時における湿紙の空隙構造に与える水の影響を極力小さくすることによって、換言すれば湿紙中の水分乾燥に起因する水素結合の発生を抑制することによって、この湿紙状態の空隙構造、即ち水の流路を保持したまま乾燥させて、微細な貫通孔を有する多孔質で高気密度のセパレータを使用した電気二重層コンデンサを提供するものである。
【0031】
先ず、本発明は耐熱性、耐薬品性に優れた再生産可能な天然資源であるセルロースを原料とする。使用するセルロースそのものには限定がなく、針葉樹木材パルプ、広葉樹木材パルプ、エスパルトパルプ、マニラ麻パルプ、サイザル麻パルプ、コットンパルプ等の天然セルロース繊維、或はこれら天然セルロース繊維を冷アルカリ処理して得たマーセル化パルプ、更には普通レーヨン繊維、ポリノジックレーヨン繊維、有機溶剤紡糸レーヨン繊維等の再生セルロース繊維などのいずれでもよい。なお、使用するセルロースは洗浄・脱水・除塵など公知の方法で不純物を除去しておく。
【0032】
更に、より高気密度のセパレータを得るためには繊維径が1μm以下の微細なセルロースを原料とする。具体的には高度に叩解したセルロース、或はマイクロフィブリル化セルロース(MFC)を使用する。高度に叩解したセルロースは、基のセルロースの繊維の形状が破壊されて、外部フィブリル化が進み、直径0.4μm程度のフィブリルの占有率が高くなっているものであり、繊維径としては1μm以下のものである。なお、本発明でいう繊維径が1μm以下の微細なセルロースは、フィブリルの占有率が高いもの、即ちフィブリルが繊維の主たる要素となっていればよく、フィブリルだけのものと共に、一部にフィブリル化されていない繊維径1μmを越える基の繊維が残存しているものであってもよい。
【0033】
前記したようにセルロース繊維を叩解するとセルロース繊維は1/2や1/3に段階的に開裂して行くのではなく、直径0.4μm程度のフィブリルが繊維の外部から段階的にひげ状に発生して行く。従って、天然セルロース繊維を叩解或は他の手段によって、開裂させて繊維径を小さくすることはできないのである。叩解の程度は0.4μmのフィブリルの発生状況のことであり、叩解が進むことはフィブリルの比率が増加することを示している。本発明ではこのフィブリルの占有率の高い微細な天然セルロースを原料とするものである。因に天然セルロース繊維で繊維径の小さいものとしてエスパルト繊維があるが、このエスパルト繊維でも繊維径は10μm程度である。
【0034】
また、この繊維径が1μm以下の微細なセルロースを原料とすることによって、得られるセパレータの緻密性が高まり地合が均一となって内部抵抗も低減される。従来は繊維径が1μm以下まで高度に叩解した原料を使用すると乾燥時の水素結合によって貫通孔が存在しなくなり、内部抵抗が極端に高くなるのである。本発明では従来より繊維径が小さい1μm以下の繊維径の微細なセルロースを原料としてもイオンが通る経路としての貫通孔を維持した多孔質のセパレータを製造することができるため、繊維径が小さいことと、多孔質であるとの相乗効果によって内部抵抗を低減することができるのである。
【0035】
これらのセルロースを繊維径が1μm以下の微細なセルロースとするための手段の一つとして、JIS法CSFの値で200ml以下に、或は変法CSFの値で700ml以下まで高度に叩解を行う。通常、叩解の程度はJIS法CSF(JIS P8121)の値で測定される。しかしながら、本発明ではより正確に気密度をコントロールするための叩解の程度の基準として、JIS法CSFとともに、JIS法CSFの変法として、変法CSFにより叩解の程度を特定する。そこで、JIS法CSFの内容及び本発明で基準とする変法CSFの内容について以下に説明する。
【0036】
〔JIS法CSF〕
JIS P8121に規定されている測定手段である。先ず測定するパルプ3gを水で良く離解して正確に1000mlの試料液とし、この試料液を図7(A)に示すカナダ標準型フリーネステスターのロ水筒31に入れて上蓋32を閉める。次に下蓋33を開けて、上蓋のコック34を開けると、ロ水筒31の下部に配置された80メッシュの網35を通じてロ水が流れ出る。このとき80メッシュの網35上には繊維がマット状に堆積して行く。試料液はこのマット状の繊維間を通過して、ロ水としては図7(B)に示すロ水筒31の下方に位置する漏斗36に入り下部排出口37から流出する。このとき漏斗36へ一度に多くのロ水が入れば、ロ水は排出口37だけでなく、漏斗36の横に取付けた側管38からも排水される。この側管38からの排水をメスシリンダーに受け、この排水の量をもってCSFの値とする。なお、図7(C)は架台39を示すものであり、上台40にロ水筒31を載置し、下台41に漏斗36を載置して、ロ水筒31と漏斗36の高さと中心を合わせて測定するものである。
【0037】
CSFの値は1000mlの試料液がロ水筒31からロ水として漏斗36に一度に流入する量によって決定される。漏斗36に一度に多量のロ水が流入した場合は、下部排出口37から全量を排出することができず、溜ったロ水が側管38からあふれ出ることとなる。一方、ロ水が少しずつ流出すると全量が下部排出口37から排出されることとなり、側管38から流出することはない。この場合CSFは0mlとなる。また、叩解の程度が浅いとマット状の繊維間を水が通過することができ、ロ水の量が多く流入速度も大きいため、CSFの値が高くなる。一方、叩解の程度が高いとマット状の繊維間を水が通過しにくくなり、ロ水の量が減り流入速度も小さくなるため、CSFの値が低くなるのである。
【0038】
JIS法CSFではパルプの採取量を3gと規定している。この方法は叩解度の低いパルプを想定しており、低気密度のセパレータを抄紙するには、JIS法CSFは叩解の程度の変化が値として判り易くて都合が良い。しかしながら、高気密度のセパレータを抄紙するため叩解を進めていくと、ある時点からJIS法CSFの値が0mlとなって、叩解の進行度を把握することができなくなる。本発明の課題とする多孔質高気密度のセパレータを得るためにはJIS法CSFで規定する0ml前後からそれ以降の原料叩解が重要である。そこで、本発明では、高度に叩解を進めた原料の叩解の程度をより正確に測定するために、JIS法CSFを基準として次のような変法を用いた。
【0039】
〔変法CSF〕
JIS P8121に規定する方法を基本とし、パルプ量のみを3gから0.3gに変更して測定した。採取パルプの量以外は全てJIS法CSFと同様とした。
【0040】
この変法CSFによれば、高度に叩解を進めた原料であっても叩解の程度の差をCSFの値として捉えることができる。このJIS法CSFによる測定値と変法CSFによる測定値を比較検討するため、図1に叩解を進めたときのJIS法CSFと変法CSFの値の変化をグラフとして示すと共に、図2に縦軸に変法CSFの値を、横軸にJIS法CSFの値を取って、両者の関係をグラフとして示す。図1に示すように、変法CSFで700mlの値は、JIS法CSFで略200mlの値となり、変法CSFで300mlの値はJIS法CSFでは0mlとなって、もはや叩解の程度をCSFの値として測定することができない。また、図2に示すように叩解の浅い初期の段階、即ちJIS法CSFの値で200ml以上の状態(200〜800ml)ではJIS法CSFの測定値が大きく変化するのに対し変法CSFの値の測定値は変化が乏しい。この段階ではJIS法CSFの方が叩解の深浅の程度を把握しやすい。逆に、叩解が進んだ段階、即ちJIS法CSFで200ml以下の値となると、変法CSFでの測定値の方が変化が大きくなって捉らえやすくなる。一方、JIS法CSFの値では0mlになった場合においても変法CSFの値では300mlであり、更に叩解を進めた場合JIS法CSFでは測定不可能であるが、変法CSFでは叩解の程度を数値として測定することができる。
【0041】
変法CSFの値は図2中の換算式を用いることにより、JIS法CSFの値から換算することができる。なお、換算式は図2に示すように、JIS法CSFの値で、200ml以下の値、200〜600mlの範囲の値、600〜800の範囲の値の3種類のゾーンにて係数を異にしている。なお、表3においてrは相関係数であり、JIS法CSFの値から換算式によって求めた変法CSFの値が実際の値と一致していることを示している。
【0042】
変法CSFではパルプ量をJIS法CSFの1/10である0.3gとすることによって、パルプの絶対量の減少と共に、試料液の濃度が低下することとなり、ロ水の流入量が増加し流入速度も大きくなる。そのため、JIS法CSFに比較してCSFの値が高くなるのである。例えばJIS法CSFの値で0mlまで叩解したパルプではJIS法CSFの測定方法である3gで測定すると、試料液の粘度が高くなり、80メッシュの網35の上に小量で緻密なマット状の繊維が形成されて、ロ水の流出が止まってしまうため、それ以上に叩解を進めたパルプのCSFの測定を行うことができなくなる。これに対し、変法CSFの0.3gでは試料液の粘度が低く、80メッシュの網35の上にマット状の繊維が形成される前に一定量のロ水がロ水筒31から漏斗36に流入するため、側管38からあふれ出たロ水の量を測定することができ、JIS法CSFで0ml以下に更に叩解を進めたパルプのCSFの値を変法CSFとして測定できるのである。
【0043】
そこで、フィブリルを発生させて本発明における繊維径が1μm以下の微細なセルロースとするためには、JIS法CSFの値で200ml以下に、或は変法CSFの値で700ml以下まで高度に叩解を行う必要があり、更に求める高気密度に応じて変法CSFの値で700ml〜0mlまでの叩解を行う。
【0044】
また、叩解することなく、繊維径が1μm以下の微細なセルロースとしてセルロース繊維を高圧下剪断力で解繊したマイクロフィブリル化セルロース(MFC)を使用することもできる。MFCとしては商品名:ダイセル化学株式会社製のセリッシュKY−110Sが市販されている。更に、現在工業的に使用はされていないが、バクテリアセルロースを使用することもできる。バクテリアセルロースとはバクテリアが生産するセルロースのことで、繊維径が数nm(ナノメーター)〜数十nmである。
【0045】
これら所定の叩解を行った繊維径が1μm以下の微細なセルロース或はマイクロフィブリル化セルロース等からなる原料を水に分散させて、抄紙機上で抄紙を行うことにより、湿紙を製造する。抄紙機としては、繊維径が1μm以下の微細なセルロースであるため長網抄紙機を用いる。なお、製造した多孔質高気密度紙の強度向上のため叩解の浅い原料を用い円網抄紙機で抄紙したものを抄き合せる長網円網コンビネーションマシンで抄紙することも有効であるが、少なくとも1層は高度に叩解した原料を長網抄紙機で抄紙した湿紙が含まれていることが必要である。
【0046】
更に、湿紙を製造する手段として抄紙機を使用することなく、平板上に原料としてのセルロース繊維の水系ドープ液をドクターブレード等でキャスティングして湿紙としての膜を形成することもできる。本発明における湿紙はキャスティング製膜による湿膜を含むものである。
【0047】
このようにして製造した湿紙中には、変法CSFの値で700ml〜0mlに叩解した繊維径が1μm以下のフィブリル化した微細なセルロースを原料としていても、水の存在するセルロース繊維間の空隙構造を有している。本発明はこの湿紙中の空隙構造を保持したまま乾燥させるものである。そのために、湿紙中の空隙構造に保持された水を表面張力の小さい他の溶媒で置換して乾燥させる。この溶媒置換乾燥に用いる溶媒としては水と相溶性があり、表面張力の小さいものが適している。一般にはメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類やアセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類などが適している。また、置換は浸漬・プレス脱液あるいは噴霧・脱液等の方法で行う。目的とする気密度により、置換操作は1回もしくは複数回行う。溶媒置換は抄紙機上で行ってもよいし、湿紙のまま巻き取り別途行ってもよい。なお、製造された湿紙は溶媒置換の前に予め、プレスロールにより余分な水分を脱水しておくとよい。
【0048】
この溶媒置換に際して留意すべきことは乾燥前の、即ち乾燥により繊維間に水素結合が形成する前に溶媒置換により水を取り除くことである。特に叩解を高度に進めた原料を使って抄紙し、フィルム状の外観を呈するような密度が0.75g/cm3以上の高密度のセパレータは一度乾紙になるとセルロース間の水素結合は強固であり、水に浸漬しても膨潤はするが、抄紙機上の湿紙の状態まで戻すことは困難である。乾紙を水に浸漬し、その後溶媒置換乾燥したものは未乾燥の湿紙、即ち抄紙機上で溶媒置換、あるいは湿紙のまま巻き取り別の装置で溶媒置換して乾燥したものに比べ内部抵抗が高くなってしまう。そのため、抄紙機から湿紙のまま巻き取り別途に溶媒置換を行う場合には特に乾燥により繊維間に水素結合が形成しない十分な水分を含んでおく必要がある。
【0049】
上記した溶媒置換乾燥に代えて、凍結乾燥を採用することもできる。この凍結乾燥は湿紙を凍結させた後に、減圧下の条件で凍結した水分を昇華させて乾燥させる方法である。なお、本発明において凍結後、減圧下で凍結した氷を昇華させるのは、凍結した水分が再度融け、水の状態になった後に乾燥したのでは水の影響によるセルロース繊維相互の水素結合を防止することができず湿紙の空隙構造を維持できないためである。
【0050】
溶媒置換された湿紙中、或は凍結乾燥した湿紙中に残っている溶媒及び水は乾燥することにより取り除く。乾燥は従来のドラム式ドライヤーでもよいし、送風や赤外線などを用いることもできる。
【0051】
更に本発明では湿紙を製造するのに水を当初から使用せずに、繊維径が1μm以下の微細なセルロースを水より表面張力の小さい有機溶剤に分散させて、抄紙又はキャスティング製膜により湿紙を製造し、該湿紙中の有機溶剤を揮発・乾燥させることにより、湿紙に存在する空隙構造を保持したまま乾燥させるようにしてもよい。
【0052】
また、本発明にかかる多孔質高気密度のセパレータにはセルロース繊維にホウ酸アルミニウム、チタン酸カリウム又はガラス繊維等の無機フィラーを添加することもできる。これは無機フィラーとセルロースはもともと水が介在しても水素結合を形成せず、湿紙中の空隙が大きいため、電気特性を改善することができるためである。
【0053】
以上説明した原料、湿紙製造方法、乾燥方法、セパレータの厚さ、密度等の組合わせにより気密度をコントロールして多孔質高気密度のセパレータを製造することができる。得られた多孔質高気密度のセパレータは湿紙の状態のときの空隙構造をそのまま維持しているため、微細な貫通孔を有しており、原料となるセルロース繊維の叩解の程度等に応じて高気密度を有する。また、原料としてのセルロース繊維の叩解の程度をJIS法CSFで200ml以下、変法CSFの値で700〜0mlとしても、叩解の程度に応じて微細な貫通孔を維持しており、気密度が無限大となることはない。即ち、従来製造できなかった厚さが100μm以下の紙で、1000秒/100ccの気密度を有する多孔質高気密度のセパレータを得ることができた。
【0054】
次に本発明にかかる多孔質高気密度のセパレータの製造方法について説明する。先ず、原料となるセルロース繊維をビーターあるいはダブルディスクリファイナー等の製紙用叩解機で所定のJIS法CSF又は変法CSFの値まで叩解し、これを原料紙料2として図4に示すように長網インレット1に収納し、長網インレット1の下部で回転する長網ワイヤー3の表面に供給して、長網ワイヤー3の表面に連続した湿紙4を形成する。形成された湿紙4はウェットフェルト5に移送されて搬送され、プレスロール6にて過剰の水分が取り除かれる。その後所定の溶媒8を収納した第1の溶媒バット7に湿紙4を浸漬して、湿紙4中の水分と溶媒8を置換し、その後プレスロール9により余分な溶媒8を取り除いて、再び溶媒8が収納された第2の溶媒バット10に湿紙4を浸漬して、湿紙4中に残存する水分と溶媒8を置換する。その後プレスロール11により余分な溶媒8を取り除くと共に、ドライフェルト12に移送されて搬送され、蒸気あるいは熱媒体によって加熱された円筒形状のドライヤー13の外表面に接触させて乾燥させて、巻取ロールに巻き取られて多孔質高気密度のセパレータ14が製造される。この乾燥工程において、セルロース繊維を水素結合させて空隙構造を癒してしまう水分が存在せず、溶媒に置換されているため、乾燥後にも湿紙の空隙構造がそのまま維持された多孔質で高気密度のセパレータを製造することができる。この図4の例は長網抄紙機で抄紙後に抄紙機上で溶媒置換し、乾燥させて巻き取る例である。
【0055】
図5は湿紙4を溶媒に浸漬することに代えて、湿紙4上に溶媒8を噴霧することによって、湿紙4中の水分と溶媒を置換するものである。前記図4と同一構成の部分については同一の符号を付して説明を省略する。なお、図5は図4と同様の長網抄紙機で抄紙された湿紙4を乾燥することなく巻き取り(ウエットワインディング)、長網抄紙機とは別の装置で溶媒置換する例を示している。即ち、ロール状に巻き取られた湿紙4はウェットフェルト5に移送されて搬送され、プレスロール6で過剰な水分が取り除かれ、その後湿紙4上に溶媒8が第1の溶媒噴霧器16により噴霧されて、湿紙4中の水分と溶媒8が置換される。噴霧された溶媒8は吸引脱液装置17によって吸引脱液されると共に、湿紙4から過剰な溶媒がプレスロール9にて取り除かれ、再び溶媒8が第2の溶媒噴霧器液18により噴霧され、湿紙4中に残存する水分と溶媒8が置換される。噴霧された溶媒8は吸引脱液装置19によって吸引脱液されると共に、その後湿紙4から過剰な溶媒がプレスロール11にて取り除かれる。以後は図4の例と同様である。このように溶媒置換は抄紙機上で行ってもよいし、又別途行ってもよい。なお、図4における浸漬による溶媒置換、及び図5における噴霧による溶媒置換は2回行ったが、その回数は溶媒の種類や、原料、製造された湿紙等に必要に応じて選択するものである。
【0056】
次に図6は溶媒置換に代えて、凍結乾燥によって湿紙中の空隙構造を保持したまま乾燥する例を示すものである。先ず湿紙4を冷凍庫21内にて−70℃の温度で凍結させて凍結湿紙4aとする。次に凍結湿紙4aを凍結乾燥器22内に収納し、凍結乾燥器22内の空気を脱気して減圧する。減圧によって凍結湿紙4a中の凍結した水分が昇華して脱水されて、多孔質高気密度のセパレータ14aが製造される。尚、昇華を促進するために凍結乾燥器22内に昇温棚23を設置して、該昇温棚23に凍結湿紙4aを載置することが好ましい。なお、この際、凍結した氷が水に戻ることなく、氷から昇華することで乾燥することが肝要である。
【0057】
従来の抄紙法では本発明に規定するほど叩解した原料を抄紙し乾燥する場合、多筒式のドライヤーが必要であるが、本発明のように湿紙中の水分を溶媒置換したものを乾燥する場合は、単筒式のドライヤーで十分である。これは従来の抄紙法では乾燥時の水分が蒸発する際、メニスカスの後退と同時に繊維を引きつけ合い、これがヒジワ(乾燥ジワ)となるため多筒式ドライヤーにより徐々に乾燥する必要があるからである。本発明の場合、乾燥時には、ヒジワ(乾燥ジワ)の原因となる水分がないため、又使用した溶媒が容易に飛散するため単筒式のドライヤーにより乾燥を行うことができる。更に、ドライヤーも従来のドラム式ドライヤーに限定することなく、赤外線ドライヤーや送風ドライヤーなど各種の乾燥方法が利用できる。
【0058】
このようにして得られるセパレータの厚さは20〜100μmの範囲が好ましい。20μm未満では機械的強度が低下して取扱が難しく、内部短絡の危険があり、100μmを超えると小型化ができず、厚くなる分電気抵抗も上昇するためである。また、コイン型の電気二重層コンデンサではセパレータにある程度の厚さがないとプレス成型時にショートする確率が高くなるため、コイン型の電気二重層コンデンサでは100μm迄の厚さが要求されている。一方、密度については特に制限はないが、実用的には密度0.3〜0.6g/cm3が好ましい。0.3g/cm3未満では引張強度が極端に低下し、電気二重層コンデンサ用のセパレータとして実用性に欠ける。また、本発明によるセパレータは空隙構造が保持されるため実質的に密度0.6g/cm3を超えることがない。なお、実用上セパレータの厚さが制限される場合にはキャレンダー加工を行うことによって厚さを薄くし、密度を0.6〜0.8g/cm3にすることも好ましい。
【0059】
【実施例】
そこで、本発明にかかる多孔質高気密度のセパレータ及び該セパレータを一対の分極性電極の間に介在させて製作したコイン型の電気二重層コンデンサ及び捲回型の電気二重層コンデンサの具体的な各種実施例と、比較のために製造した従来品の比較例を示す。電気二重層コンデンサの製作方法及び各実施例と比較例の各測定値の測定方法は次の通りである。なお、JIS法CSF及び変法CSFの測定法は前記した通りである。
【0060】
(1)コイン型の電気二重層コンデンサの製作方法
一対の分極性電極(比表面積約2500m2/gの活性炭繊維からなる125g/m2の布状物質,6mmφ)の間に平行して介在させたセパレータに電解液を含浸させた後に外装材を兼ねる金属ケースと金属蓋内に収納し、ガスケットを介してかしめることによって密封してコイン型の電気二重層コンデンサを製作した。なお、集電性向上のため、分極性電極の金属ケースに当る面にはアルミニウム層を形成した。
【0061】
(2)捲回型の電気二重層コンデンサの製作方法
一対の分極性電極(アルミネットに活性炭・カーボンブラックを担持させたもの)の間にセパレータを介在させて円柱状に素子巻きしたものに電解液を含浸させた後に有底円筒状のアルミケースに収納し、かつ、アルミケースの開口部をゴム封口体で密封して捲回型の電気二重層コンデンサを製作した。
【0062】
(3)セパレータの厚さ、密度、引張強度
厚さ、密度及び引張強度は旧JIS C2301(電解コンデンサ紙)に規定された方法で測定した。
【0063】
(4)セパレータの気密度
気密度に関してはJIS C2111(電気絶縁紙試験方法)に規定する“12.1 気密度”の項に従い、B型試験器(ガーレーデンソメータ)によって測定した。但し穴の部分の直径が6mmであるアダプターを使用した。
【0064】
(5) 電気二重層コンデンサの評価方法
ショート不良率は組立後ショートした個数を全体の個数に占める割合で表した。なお、測定個数は100個とした。また、コンデンサの初期特性として静電容量C,内部抵抗Z,漏れ電流LCを測定した。
【0065】
[実施例1〜6]
実施例1〜5はマニラ麻パルプをダブルディスクリファイナーを用いて変法CSFの値で700ml〜50mlまで叩解の程度を段階的に変化させた原料を水に分散させて、長網抄紙機により湿紙を製造し、該湿紙に図5に示すようにアセトンを噴霧して湿紙中の水分とアセトンとを置換する作業を2度繰り返した後に、ドライヤーでアセトン及び残渣としての水を乾燥させて、実施例1〜5の多孔質高気密度のセパレータを得た。実施例6は実施例5と同一の原料で同様に製造した湿紙を、実施例1〜5の溶媒置換乾燥に代えて、図6に示す凍結乾燥法によって湿紙を凍結させた後に、減圧下の条件で凍結した水分を昇華させて乾燥させ、残った水をドライヤーで乾燥させたものである。この実施例1〜6の厚さ、密度、気密度等を表1に示す。また、実施例1〜5の叩解の程度と気密度との関係をグラフ化したものを図3に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示すように、実施例1〜5は厚さ50μm前後、密度0.500g/cm3前後であって、叩解が進むにつれ、得られるセパレータが緻密となって1000秒/100ccの高気密度を実現している。しかし、叩解が高度に進んでも気密度は実際上測定できないほど大きくなることはない。実施例1は変法CSFの値で700ml(JIS法CSFで200ml)まで叩解した原料を使用したものであって、その気密度は1100秒/100ccであり、外観は不透明感が強く表われていた。これは湿紙中に存在した空隙構造がそのまま紙層内に残存しているため、光を乱反射するためである。変法CSFの値700ml(JIS法CSFで200ml)まで叩解を進めると基のセルロースの繊維の形状が破壊されて、外部フィブリル化が進み、直径0.4μm程度のフィブリルの占有率が高くなっているものであり、1000秒/100cc以上の気密度を実現するためには、基のセルロース繊維の形状が無くなるまで、即ち変法CSFの値700ml(JIS法CSFで200ml)まで叩解する必要があることが判る。
【0068】
また、実施例5は変法CSFの値で50ml(JIS法CSFでは測定不可)まで叩解しており、気密度は7000秒/100ccである。よって、従来気密度が測定不可能な無限大となるJIS法CSFの値で200ml以下まで叩解を進めても、イオンが通る経路としての貫通孔が存在していることが判る。このように本発明によれば、叩解の程度を進めても多孔質を維持することができて、気密度が無限大となることがないため、1000秒/100cc以上の気密度をコントロールすることができる。更に高気密度のセパレータが要求されれば原料叩解を進めたり、厚さを厚くしたり、密度を高くしたりすることでイオンが通る経路としての貫通孔を維持して気密度を上げたセパレータを容易に製造することが可能である。なお、叩解が進むにつれセパレータに不透明感が強く表れてくる。これは叩解が進むにつれ繊維間の空隙が小さくなり光の散乱が多くなり不透明感が強くなるからと考えられる。
【0069】
図3は実施例1〜5の叩解の程度と気密度との関係をグラフ化したものであり、横軸が叩解の程度を、左軸が変法CSFの値を、右軸が気密度を示している。例えば、変法CSFの値のグラフにおいて、実施例1は左軸に示すように変法CSFの値が700mlであり、気密度を示すグラフにおいて実施例1は右軸に示すように1100秒/100ccである。図に示すように、叩解が進むにつれ変法CSFの値が下がっている。一方、気密度は叩解が進むにつれ高くなることが判る。
【0070】
また、本発明によれば叩解を進めるに連れて、基のセルロースの繊維の形状が破壊されて、外部フィブリル化が進み、直径0.4μm程度のフィブリルの占有率が高くなって、繊維径が小さくなって行き、得られるセパレータの緻密性が高まり地合が均一となるとともに、イオンが通る経路としての微細な貫通孔を維持した多孔質のセパレータを得ることができる。
【0071】
実施例6は溶媒置換乾燥に代えて凍結乾燥を行った例であるが、この実施例6も外観は不透明感があって、光を乱反射しており、紙層内に多数の空隙を有していることが判る。この実施例6は同一原料を使用した実施例5に対して、気密度が17600秒/100ccと略2.5倍向上している。これは通常乾燥に比べると湿紙状態の空隙が保持されているものの、乾燥時に水が存在することから繊維同志の引き付けが起ったものと考えられる。更に高気密度のセパレータが要求されれば原料叩解を進めたり、厚さを厚くしたり、密度を高くしたりすることにより容易に製造することができる。
【0072】
次に電気二重層コンデンサを製作した結果について実施例及び比較例に基づいて説明する。
【0073】
[実施例7→コイン型の電気二重層コンデンサ]
実施例7は木材パルプ(NUKP:針葉樹未晒クラフトパルプ)をダブルディスクリファイナーを用いて変法CSFの値で100mlまで叩解したものを水に分散させて、長網抄紙機により湿紙を抄紙し、プレスロールにて過剰な水分を取り除いた後にロール状に巻き取った。このロール状の湿紙を繰り出して図4に示すように、エチルアルコールに浸漬して湿紙中の水分とエチルアルコールとを置換する作業を2度繰り返した後に、ドライヤーでエチルアルコール及び残渣としての水を乾燥させて、厚さ40.6μm、密度0.398g/cm3のセパレータを得た。この実施例7のセパレータを使用して前記した内容のコイン型の電気二重層コンデンサを製作した。
【0074】
[比較例1,2,3→コイン型の電気二重層コンデンサ]
比較例1,2は実施例8と同様の木材パルプ(NUKP:針葉樹未晒クラフトパルプ)を原料として、比較例1は実施例7と同様に変法CSFの値で100mlまで叩解した状態で抄紙し、又比較例2は変法CSFの値で800mlとほとんど叩解しない状態で抄紙し、共に湿紙中の水分をエチルアルコールで溶媒置換することなく、通常の抄紙法におけるドライヤーで乾燥させたものである。比較例1は厚さ21.3μm、密度0.751g/cm3となり、比較例2は実施例7と略同一の厚さ40.4μm、密度0.405g/cm3となった。また、比較例3は従来のコイン型の電気二重層コンデンサのセパレータとして使用されているポリプロピレン不織布であり、厚さ170μm、密度0.302g/cm3のものである。この比較例1,2,3のセパレータを使用して実施例8と同様のコイン型の電気二重層コンデンサを製作した。これら実施例7及び比較例1,2,3のセパレータの厚さ、密度、気密度等及び得られた電気二重層コンデンサの初期特性として静電容量C,内部抵抗Z,漏れ電流LCを表2に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
実施例7は原料セルロースとして未晒しクラフトパルプを使用しているため、本来ならば茶色の外観を呈するはずであるが、実際の外観は色目も白く、不透明感があった。このように白く不透明感があるのは溶媒置換乾燥を行っているために、湿紙中に存在した空隙構造がそのまま紙層内に残存しているため、光を乱反射するためである。実施例7の気密度は2200秒/100ccであって、極めて緻密ではあるが、空気が通り抜けることから貫通孔が存在していることが分る。よって、高い気密度であってもイオンが通る経路が確保されている。このように実施例7は従来製造できなかった1000秒/100cc以上の気密度を実現している。その結果得られた電気二重層コンデンサのショート不良率は0%である。しかも、厚さは40.6μmであり、密度も0.398g/cm3と変法CSFの値で100mlまで叩解しているにもかかわらず、比較例1より格段に低密度となっている。比較例1は溶媒置換を行っていないため、実施例7と同じ湿紙から製造したにもかかわらず、厚さが21.3μmであって、実施例7より薄くなり、密度も0.751g/cm3と高くなって、色は茶色でフィルム状になっている。また、貫通孔が存在せず気密度も無限大となって測定することができない。その結果ショート不良率は0%であるが、内部抵抗が高過ぎて電気二重層コンデンサを製作することができなかった。実施例7と比較例1は原料調成が同じ原料であるが、抄紙された紙の厚さ、密度には大きな差がある。これは溶媒置換を行わなかった比較例1が乾燥の際、表面張力の大きい水が蒸発し繊維同志をひき付け合い、繊維間に強固な結合ができたのに対し、溶媒置換した実施例7は水の蒸発に伴う繊維間のひき付け合いが弱く、密度の低い紙となったためである。よって、実施例7によれば、叩解の程度を進めた原料を使用しても貫通孔を有する多孔質で低密度であるとともに、緻密性を有して高気密度のセパレータを得ることができている。
【0077】
そこで、実施例7と略同じ厚さと密度である比較例2を実施例7を比較すると、比較例2の気密度は1.6秒/100mlであって、貫通孔は存在するが、緻密性がないことが判る。よって、目的とする気密度を達成することができない。これは表面張力の大きい水が乾燥時に蒸発することにより、繊維間を引合うが、原料叩解が浅いためフィブリル化が進んでおらず繊維径が大きく、繊維同志の密着度が低いためである。その結果活性炭の阻止ができず100%ショートしている。また、ショート不良率が高過ぎるため電気二重層コンデンサを製作することができなかった。
【0078】
比較例3は従来のポリプロピレン不織布を使用したセパレータであるが、厚さを170μmと厚くしたにもかかわらず、気密度が15秒/100ccであるため、ショート不良率が1%発生している。これに対し、実施例7は比較例3の1/4以下の厚さにもかかわらず、気密度は2200秒/100ccと極めて緻密であるため、ショート不良率は0%であって、かつ、静電容量も比較例3より良い2.25Fの値を示しており、内部抵抗も6.1Ωと比較例3よりも低下している。また、漏れ電流も110μAと改善が見られる。
【0079】
従来、コイン型の電気二重層コンデンサのセパレータとしてメルトブロー方式により製造したポリプロピレン不織布が使用されているのはかしめる際の衝撃に対する耐性があるためである。即ち、ポリプロピレン不織布は溶融ポリマーの紡糸液がランダムウエブとして集積され、繊維が相互に結合することなく絡み合った状態であるため、この衝撃を吸収して耐えられる伸び性や弾性を有するためである。このポリプロピレン不織布と同様に、本発明によるセルロースを原料とするセパレータは、高度に叩解したセルロースが湿紙中の水分乾燥に起因しては水素結合を形成することがなく、セルロース繊維が相互に絡み合った状態であり柔軟性があるため、圧力が加わると空隙が容易に減少して衝撃を吸収することができる。また、押し付けられセルロース同志が密着すると、そこに繊維相互の圧着力が生じフィルム様を呈するようになるため、充分にかしめる際の衝撃に対する耐性を有している。そのため、コイン型の電気二重層コンデンサにおいてもセルロースを原料とするセパレータを使用することができる。また、本発明にかかるセパレータはセルロースを原料としているため、従来のポリプロピレン不織布に比べ、電解液の濡れ性が良く、高気密度であることからセパレータを薄くすることができ、薄くなった分、電極を多く使用することができるため、高容量化を図ることができる。このように本発明は従来のポリプロピレン不織布からなるセパレータを用いた電気二重層コンデンサの特性を落とすことなく、ショート不良率を低減することができのである。
【0080】
[実施例8,9→捲回型の電気二重層コンデンサ]
実施例7はマニラ麻パルプをダブルディスクリファイナーを用いて変法CSFの値で50mlまで高度に叩解したものを水に分散させて、長網抄紙機により湿紙を抄紙し、プレスロールにて過剰な水分を取り除いた後にロール状に巻き取った。このロール状の湿紙を繰り出して図4に示すように、エチルアルコールに浸漬して湿紙中の水分とエチルアルコールとを置換する作業を2度繰り返した後に、ドライヤーでエチルアルコール及び残渣としての水を乾燥させて、厚さ40.2μm、密度0.445g/cm3のセパレータを得た。実施例9は実施例8と同一の原料の調成を行った後、無機フィラーであるホウ酸アルミニウムを10重量%添加して同一の製造方法により得た厚さ40.8μm、密度0.440g/cm3のセパレータである。なお、ホウ酸アルミニウムは直径が1μm以下のウイスカーを使用した。この実施例8,9のセパレータを使用して前記した内容の捲回型の電気二重層コンデンサを製作した。
【0081】
[比較例4→捲回型の電気二重層コンデンサ]
比較例4は従来より捲回型の電気二重層コンデンサのセパレータとして使用されているマニラ麻パルプ75重量%とガラス繊維25重量%を混抄してなる厚さ70.1μm、密度0.453g/cm3の混抄紙をセパレータとして使用し、前記した内容の捲回型の電気二重層コンデンサを製作したものである。これら実施例8,9及び比較例4のセパレータの厚さ、密度、気密度等及び得られた電気二重層コンデンサの初期特性として静電容量C,内部抵抗Z,漏れ電流LCを表3に示す。
【0082】
【表3】
【0083】
実施例8は厚さ40.2μmと比較例4の厚さ70.1μmより大幅に薄いにもかかわらず、気密度は比較例4が70秒/100ccであるのに対し、実施例8は4000秒/100ccと極めて気密度が高く、かつ、極めて緻密ではあるが、空気が通り抜けることから貫通孔が存在していることが分る。その結果、比較例4が1%のショート不良率があるのに対して実施例8は0%である。しかも内部抵抗も比較例4の0.56Ωに対して、0.48Ωと改善されており、ショート不良率と内部抵抗の双方を同時に改善すると共に、セパレータの厚さを薄くすることができるため、捲回された素子そのものが小さくなって電気二重層コンデンサそのものを小型化することができる。更に、静電容量、洩れ電流においても比較例4よりも良い値を示している。
【0084】
実施例9は気密度3200秒/100ccと極めて緻密ではあるが、実施例8には及ばない。これは無機フィラーを混抄したため、湿紙状態での無機フィラーとパルプ繊維の引き付けが弱かったためと考えられる。しかし、無機フィラーを混抄した分だけ更に内部抵抗が0.43Ωと改善されている。
【0085】
【発明の効果】
以上詳細に説明した如く、本発明によれば湿紙の状態においてセルロース繊維間の空隙構造に保持された水を溶媒置換又は凍結乾燥によって乾燥し、或はセルロース繊維を有機溶媒に分散させて抄紙することにより湿紙を製造し、湿紙中の有機溶媒を揮発させることにより乾燥させるため、従来の抄紙法のように湿紙からの乾燥工程で水が蒸発するときに隣同志の繊維を強力に引き付けて水素結合により密着することがない。即ち、水素結合に関与する水を他の溶媒に置換すること等によって乾燥時のフィブリル間の水素結合を阻害することができる。そのため、繊維径が1μm以下の微細なセルロース繊維を原料として、高気密度であって微細な貫通孔を有する多孔質のセパレータを、厚さを厚くすることなく得ることができる。具体的には厚さが20〜100μm、気密度が1000秒/100cc以上、密度が0.6g/cm3以下であって、微細な貫通孔を有する多孔質高気密度のセパレータを得ることができる。即ち、本発明にかかる多孔質高気密度のセパレータは叩解の程度を進めた原料を使用しても、貫通孔が存在するため、低密度であるとともに、緻密性を有して気密度が高いものである。外観的にも白色で不透明感があり、このことは紙中に多くの空隙を有していることを示している。
【0086】
そのため、ショート不良率を低減するために高い気密度を有し、かつ、内部抵抗を低減するためにイオンが通る経路としての貫通孔を維持してイオンの通過に対する抵抗も小さい多孔質のセパレータを得ることができる。この結果、近年用途が拡大しつつある電気二重層コンデンサの信頼性向上、普及促進を図ることができる。また、従来より大幅に薄いセパレータを使用してもショート不良率を上げることなく、更に従来の電気二重層コンデンサの特性を改善することができて、電気二重層コンデンサの小型化を実現することができる。
【0087】
更に、従来かしめる際の衝撃に対する耐性が不足するために、セルロースを原料とするセパレータを使用することができなかったコイン型の電気二重層コンデンサにおいても、本発明にかかるセパレータは柔軟性があるために従来のポリプロピレン不織布に代えてセパレータとして使用することができる。即ち、本発明によるセルロースを原料とするセパレータは、高度に叩解したセルロースが湿紙中の水分乾燥に起因しては水素結合を形成することがなく、セルロース繊維が相互に絡み合った状態であり柔軟性があるため、圧力が加わると空隙が容易に減少して衝撃を吸収することができる。また、押し付けられセルロース同志が密着すると、そこに繊維相互の圧着力が生じフィルム様を呈するようになるため、充分にかしめる際の衝撃に対する耐性を有している。また、本発明にかかるセパレータはポリプロピレン不織布に比べ、電解液の濡れ性が良く、高気密度であることからセパレータを薄くすることができ、薄くなった分、電極を多く使用することができるため、高容量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における変法CSFとJIS法CSFとの関係を示すグラフ。
【図2】本発明における変法CSFとJIS法CSFとの関係を示すグラフ。
【図3】変法CSFの値と気密度との関係を示すグラフ。
【図4】本発明にかかるセパレータの溶媒置換による製造方法の一例を示す説明図。
【図5】本発明にかかるセパレータの溶媒置換による製造方法の他例を示す説明図。
【図6】本発明にかかるセパレータの凍結乾燥による製造方法を示す説明図。
【図7】叩解度の測定装置のロ水筒を示す説明図(A)、漏斗を示す説明図(B)、架台を示す説明図(C)。
【符号の説明】
1…長網インレット
2…原料紙料
3…長網ワイヤー
4…湿紙
4a…凍結湿紙
5…ウェットフェルト
6,9,11…プレスロール
7…第1の溶媒バット
8…溶媒
10…第2の溶媒バット
12…ドライフェルト
13…ドライヤー
14,14a…多孔質高気密度紙
16…第1の溶媒噴霧器
17…第1の吸引脱液装置
18…第2の溶媒噴霧器
19…第2の吸引脱液装置
21…冷凍庫
22…凍結乾燥器
23…昇温棚
Claims (9)
- 一対の分極性電極をセパレータによって隔離してなる電気二重層コンデンサにおいて、前記セパレータは、セルロース繊維をJIS法CSFの値で200ml以下に叩解した繊維径が1μm以下の微細なセルロースを水に分散させて湿紙を製造し、該湿紙中の水分を水と相溶性のある表面張力の小さい溶媒と置換させて、該湿紙に存在する空隙構造を保持したまま乾燥させることにより、厚さが20〜100μm、気密度が1000秒/100cc以上、密度が0.6g/cm3以下であって、微細な貫通孔を有することを特徴とする電気二重層コンデンサ(但し、JIS法CSFの値はJIS P8121の規定により測定した値とする)。
- 一対の分極性電極をセパレータによって隔離してなる電気二重層コンデンサにおいて、前記セパレータは、セルロース繊維を変法CSFの値で700ml以下に叩解した繊維径が1μm以下の微細なセルロースを水に分散させて湿紙を製造し、該湿紙中の水分を水と相溶性のある表面張力の小さい溶媒と置換させて、該湿紙に存在する空隙構造を保持したまま乾燥させることにより、厚さが20〜100μm、気密度が1000秒/100cc以上、密度が0.6g/cm3以下であって、微細な貫通孔を有することを特徴とする電気二重層コンデンサ(但し、変法CSFの値はJIS P8121に規定する測定法において、試料3gを試料0.3gとして測定した値とする)。
- 一対の分極性電極をセパレータによって隔離してなる電気二重層コンデンサにおいて、前記セパレータは、セルロース繊維を高圧下剪断力で解繊した繊維径が1μm以下のマイクロフィブリル化セルロースを水に分散させて湿紙を製造し、該湿紙中の水分を水と相溶性のある表面張力の小さい溶媒と置換させて、該湿紙に存在する空隙構造を保持したまま乾燥させることにより、厚さが20〜100μm、気密度が1000秒/100cc以上、密度が0.6g/cm3以下であって、微細な貫通孔を有することを特徴とする電気二重層コンデンサ。
- 一対の分極性電極をセパレータによって隔離してなる電気二重層コンデンサにおいて、前記セパレータは、セルロース繊維をJIS法CSFの値で200ml以下に叩解した繊維径が1μm以下の微細なセルロースを水に分散させて湿紙を製造し、該湿紙中の水分を凍結乾燥させて、該湿紙に存在する空隙構造を保持したまま乾燥させることにより、厚さが20〜100μm、気密度が1000秒/100cc以上、密度が0.6g/cm3以下であって、微細な貫通孔を有することを特徴とする電気二重層コンデンサ(但し、JIS法CSFの値はJIS P8121の規定により測定した値とする)。
- 一対の分極性電極をセパレータによって隔離してなる電気二重層コンデンサにおいて、前記セパレータは、セルロース繊維を変法CSFの値で700ml以下に叩解した繊維径が1μm以下の微細なセルロースを水に分散させて湿紙を製造し、該湿紙中の水分を凍結乾燥させて、該湿紙に存在する空隙構造を保持したまま乾燥させることにより、厚さが20〜100μm、気密度が1000秒/100cc以上、密度が0.6g/cm3以下であって、微細な貫通孔を有することを特徴とする電気二重層コンデンサ(但し、変法CSFの値はJIS P8121に規定する測定法において、試料3gを試料0.3gとして測定した値とする)。
- 一対の分極性電極をセパレータによって隔離してなる電気二重層コンデンサにおいて、前記セパレータは、セルロース繊維を高圧下剪断力で解繊した繊維径が1μm以下のマイクロフィブリル化セルロースを水に分散させて湿紙を製造し、該湿紙中の水分を凍結乾燥させて、該湿紙に存在する空隙構造を保持したまま乾燥させることにより、厚さが20〜100μm、気密度が1000秒/100cc以上、密度が0.6g/cm3以下であって、微細な貫通孔を有することを特徴とする電気二重層コンデンサ。
- 一対の分極性電極をセパレータによって隔離してなる電気二重層コンデンサにおいて、前記セパレータは、セルロース繊維をJIS法CSFの値で200ml以下に叩解した繊維径が1μm以下の微細なセルロースを水より表面張力の小さい有機溶媒に分散させて湿紙を製造し、該湿紙中の有機溶媒を揮発させて、該湿紙に存在する空隙構造を保持したまま乾燥させることにより、厚さが20〜100μm、気密度が1000秒/100cc以上、密度が0.6g/cm3以下であって、微細な貫通孔を有することを特徴とする電気二重層コンデンサ(但し、JIS法CSFの値はJIS P8121の規定により測定した値とする)。
- 一対の分極性電極をセパレータによって隔離してなる電気二重層コンデンサにおいて、前記セパレータは、セルロース繊維を変法CSFの値で700ml以下に叩解した繊維径が1μm以下の微細なセルロースを水より表面張力の小さい有機溶媒に分散させて湿紙を製造し、該湿紙中の有機溶媒を揮発させて、該湿紙に存在する空隙構造を保持したまま乾燥させることにより、厚さが20〜100μm、気密度が1000秒/100cc以上、密度が0.6g/cm3以下であって、微細な貫通孔を有することを特徴とする電気二重層コンデンサ(但し、変法CSFの値はJIS P8121に規定する測定法において、試料3gを試料0.3gとして測定した値とする)。
- 一対の分極性電極をセパレータによって隔離してなる電気二重層コンデンサにおいて、前記セパレータは、セルロース繊維を高圧下剪断力で解繊した繊維径が1μm以下のマイクロフィブリル化セルロースを水より表面張力の小さい有機溶媒に分散させて湿紙を製造し、該湿紙中の有機溶媒を揮発させて、該湿紙に存在する空隙構造を保持したまま乾燥させることにより、厚さが20〜100μm、気密度が1000秒/100cc以上、密度が0.6g/cm3以下であって、微細な貫通孔を有することを特徴とする電気二重層コンデンサ。
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