JP3970502B2 - 電解コンデンサ駆動用電解液およびそれを用いた電解コンデンサ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は電解コンデンサ駆動用電解液およびそれを用いた電解コンデンサに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の電解コンデンサに用いられる駆動用電解液は、エチレングリコール(以下、EGと称す)等の有機化合物を主溶媒とし、これに放電電圧を高くできることから、ほう酸等の無機酸を溶質としたものが一般的に用いられていたが、100℃を超える環境下ではほう酸中の結晶水が水蒸気となって蒸発し、電解コンデンサのパッケージ内の内圧が上昇するために破壊させてしまうという問題があった。これを解決するための手段として、安息香酸、フタル酸等の芳香族カルボン酸やアジピン酸、アゼライン酸、ブチルオクタン二酸(特公昭60−13293号公報)、5,6−デカンジカルボン酸(特公昭63−15738号公報)、側鎖を有する二塩基酸(特許登録第2681202号公報)等の脂肪族カルボン酸及びそれらの塩を溶質とした駆動用電解液が知られている。
【0003】
そして、これらの有機カルボン酸は駆動用電解液の水分を低減できるために100℃を超える環境下でも水蒸気による電解コンデンサ内の内圧上昇を抑えることができるものである。
【0004】
また、ポリエチレングリコール(特公平3−76776号公報)、ポリグリセリン(特公平7−70443号公報)、アルキレンブロックポリマー(特許登録第2731241号公報)等を添加することにより、火花発生電圧および化成性を改善する界面活性剤も知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら近年の使用機器における電解コンデンサの使用環境として、高密度実装、高リップル化に伴い、高温度および長時間での使用が多くなってきており、このような環境下では上記従来の有機カルボン酸および界面活性剤を使用した駆動用電解液は、種類により程度の差はあるが、溶媒とのエステル化反応による水分の増加を抑制できず、水分の増加により高温度環境下で長時間電解コンデンサが晒されることで、特に化成皮膜を施していない陰極箔の劣化が促進されるという問題がある。この陰極箔の劣化によりガス発生が加速されたり、直流抵抗成分であるESRが高くなったり、電解コンデンサの合成容量が低下することによる過リップル負荷により弁作動等の不具合が発生するという課題があった。
【0006】
本発明は上記のような問題点を解決するためになされたものであり、高温度で長寿命の電解コンデンサ駆動用電解液およびそれを用いた電解コンデンサを提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、(a)有機溶媒と無機酸、有機酸もしくはこれらの塩のいずれか1種以上の溶質からなり、これに分子内に2個以上の窒素原子を含むポリアルキレングリコール誘導体を添加して溶解した電解コンデンサ駆動用電解液。
【0008】
(b)分子内に2個以上の窒素原子を含むポリアルキレングリコール誘導体の添加量を0.1〜30wt%とした(a)記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
【0009】
(c)分子内に2個以上の窒素原子を含むポリアルキレングリコール誘導体が(化3)で示される(a)または(b)に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
【0010】
【化3】
【0011】
(d)分子内に2個以上の窒素原子を含むポリアルキレングリコール誘導体が(化4)で示される(a)または(b)に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
【0012】
【化4】
【0013】
(e)(a)〜(d)のいずれか一つに記載の電解コンデンサ駆動用電解液を用いた電解コンデンサである。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の請求項1に記載の発明は、有機溶媒と無機酸、有機酸もしくはこれらの塩のいずれか1種以上の溶質からなり、これに分子内に2個以上の窒素原子を含む(化3)または(化4)で示されるポリアルキレングリコール誘導体を添加して溶解した構成の電解コンデンサ駆動用電解液というものであり、これにより、窒素原子の非共有電子対にプロトンが付加して電解コンデンサの陰極箔の表面に電気的な影響で吸着し易くなって表面を被覆することができ、さらにポリアルキレングリコールに窒素原子を2つ以上有するポリアミンを用いることにより、2つ以上の窒素原子が電荷を帯びることでカチオン性が増して更に電気的吸着性を向上することになり、水分から陰極箔を保護するために高温中に長時間晒されても安定な電解コンデンサを供給することができるという作用効果が得られる。
【0015】
なお、上記有機溶媒としては、エチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、γ−ブチロラクトン、アセトニトリル、プロピレンカーボネート等が挙げられ、これらの中でも、エチレングリコール、グリセリンおよびγ−ブチロラクトンが入手性等から好適である。
【0016】
また、有機酸および無機酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、タルトロン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、リンゴ酸、酒石酸、フタル酸、ニトロフタル酸、クエン酸、トリカルバリル酸、ピロメット酸、ほう酸、りん酸、けいタングステン酸、けいモリブテン酸、りんタングステン酸、りんモリブテン酸等であり、また、これらのアンモニウム塩もしくは、モノエチルアミン、ジエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン等の塩も挙げられる。
【0017】
上記、分子内に2個以上の窒素原子を含むポリアルキレングリコール誘導体の添加量を0.1〜30wt%とした。
【0018】
なお、上記添加量は好ましくは1〜20wt%の範囲であり、添加量が0.1wt%より少ないと著しい効果が見られず、また、30wt%より多いと電圧印加時にショート等の不具合を引き起こしやすいため、この範囲の添加量が効果的である。
【0019】
また、分子内に2個以上の窒素原子を含むポリアルキレングリコール誘導体における分子量は、炭素数2〜4のオキシアルキレン基の重合度や分子内の窒素原子数により決定されるが、250〜20,000が好ましく、より好ましくは400〜12,000であり、陰極箔の保護効果を得るためには250以上が望ましく、作業性等を考慮すると20,000以下が望ましい。
【0020】
上記分子内に2個以上の窒素原子を含むポリアルキレングリコール誘導体が(化3)で示される構成としたものである。
【0021】
なお、ここでR1は炭素数2〜20の2〜6価のアルコール残基であり、炭素数2〜20の2〜6価のアルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ソルビタン等が挙げられ、好ましくは入手性の点からエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ソルビタンである。
【0022】
また、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、炭素数2〜4のオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基(以下EOと称す)、オキシプロピレン基(以下POと称す)、オキシブチレン基(以下BOと称す)、オキシテトラメチレン基(以下TMOと称す)等が挙げられる。ポリオキシアルキレン基はこれらのオキシアルキレン基の1種の単独重合または2種以上の共重合体でも良いが、EOを10wt%以上含むものはEGに対する溶解性が向上し、駆動用電解液の温度による特性変化が少なくなるためより好ましい。また、2種以上のオキシアルキレン基を含むポリオキシアルキレン基は、ブロック状に付加したものを添加すると駆動用電解液の表面張力が低くなり、電解コンデンサ素子に駆動用電解液を含浸する際に発泡し、作業性が悪くなるため、ランダム状に付加されていることがより好ましい。
【0023】
n1は炭素数2〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1〜200、好ましくは1〜140である。
【0024】
また、R2は炭素数2〜3のアルキレン基であり、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基等が挙げられ、好ましくはエチレン基、トリメチレン基である。
【0025】
また、R3は水素原子または−(AO2)n2−R4で表されるポリオキシアルキレン基である。
【0026】
また、n2は炭素数2〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数であり0〜200、好ましくは0〜50である。
【0027】
また、R4は水素原子または炭素数1〜3のアルキル基もしくはアルケニル基であり、炭素数1〜3のアルキル基もしくはアルケニル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、アリル基等が挙げられる。
【0028】
また、pは2〜6の整数であり、6を越えると化合物の粘度が高くなるため、取り扱い上好ましくない。
【0029】
また上記分子内に2個以上の窒素原子を含むポリアルキレングリコール誘導体を(化4)で示される構成としたものである。
【0030】
なお、ここでR5は水素原子または炭素数1〜20のアルキル基であり、炭素数1〜20のアルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、オクタデセニル基等が挙げられる。
【0031】
また、n3は炭素数2〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数で、0〜200、好ましくは0〜100である。
【0032】
また、n4は炭素数2〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数で、1〜200、好ましくは2〜100である。
【0033】
また、R6は水素原子または炭素数1〜3のアルキルもしくはアルケニル基であり、メチル基、エチル基、プロピル基およびアリル基が挙げられる。好ましくはエチル基およびアリル基である。
【0034】
またR7は炭素数2〜4のアルキレン基であり、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、ブチレン基、テトラメチレン基等が挙げられる。好ましくはエチレン基、プロピレン基である。
【0035】
また、qは1〜8の自然数であり、8を越えると化合物の粘度が高くなるため、取り扱い上好ましくない。
【0036】
なお、ここで上記(化1),(化2)において、分子内に2個以上の窒素原子を含むポリアルキレングリコール誘導体を構成する、AO1とAO2、AO3とAO4からなるポリオキシアルキレン基はそれぞれ同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0037】
このように本発明の分子内に2個以上の窒素原子を含むポリアルキレングリコール誘導体は、末端官能基の組み合せや選択で様々な構造をとることができるため、形状や液体の粘度を要求特性に応じて選択できる。
【0038】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電解コンデンサ駆動用電解液を用いた電解コンデンサという構成のものであり、これにより、高温度の環境下でも長時間安定した性能を維持することができる優れた電解コンデンサを提供することができるという作用効果が得られる。
【0039】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
【0040】
図1は本実施の形態による電解コンデンサの構成を示した要部の斜視図であり、同図に示すように、アルミニウムよりなる陽極電極としての陽極箔1と、同じくアルミニウムよりなる陰極電極としての陰極箔2とを、その間にセパレータ3を介在させて対向するように巻き取ることで素子を構成している。また、この素子の陽極箔1および陰極箔2のそれぞれには引き出しリード4が接続されている。そしてこのような構成の素子に駆動用電解液を含浸させた後、図示しないアルミニウムケースなどのケース内に上記素子を封入してゴムもしくはフェノール樹脂等の封止材で封止することにより電解コンデンサが構成されているものである。
【0041】
次に、本実施の形態で用いる分子内に2個以上の窒素原子を含むポリアルキレングリコール誘導体の構造を(表1)及び(表2)に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
次に、本発明の各実施例と比較例としての従来例の電解コンデンサ駆動用電解液の組成と特性を(表3)に示す。なお、この時の駆動用電解液中の水分は2wt%に調整した。
【0045】
【表3】
【0046】
(表3)の結果から、本発明の各実施例は分子内に2個以上の窒素原子を含むポリアルキレングリコール誘導体を用いているため、電導度は多少低下するが、火花発生電圧を向上させることができる。これにより、ショート性改善効果も認められる。
【0047】
次に、(表3)に示した駆動用電解液を用いた電解コンデンサを各20個用意し、寿命試験を行った結果を(表4)に示す。なお、ここで使用した電解コンデンサの定格はいずれも400WV470μFであり、試験温度は105℃でリップル負荷試験を行った。
【0048】
【表4】
【0049】
(表4)の結果から、比較例では105℃リップル負荷試験5,000時間後に30%以上が開弁したのに比べ、各実施例の結果から本発明の電解コンデンサ駆動用電解液を用いた電解コンデンサは特性が安定し、かつ開弁等の不具合も発生していない。これにより、本発明の分子内に2個以上の窒素原子を含むポリアルキレングリコール誘導体が耐熱性に大きな効果があることが判った。
【0050】
次に、同様の検討を有機カルボン酸を変えてかつ比較例に公知の界面活性剤を添加した駆動用電解液を用いて実施した。本発明のポリアルキレングリコール誘導体を用いた駆動用電解液と従来の界面活性剤を用いた駆動用電解液との対比を(表5)に示す。
【0051】
なお、この時の駆動用電解液の水分は2wt%に調整した。ただし、ほう酸を含む実施例13,14,15,16および比較例4では、水分を25wt%に調整した。
【0052】
【表5】
【0053】
次に、これらの電解コンデンサ駆動用電解液を用いた電解コンデンサを各20個試作し、その寿命試験を行った結果を(表6)および(表7)に示す。なお、ここで使用した電解コンデンサの定格は、いずれも400V330μFであり、試験温度は有機カルボン酸系(実施例9,10,11,12および比較例3)では125℃中で行い、ほう酸系(実施例13,14,15,16および比較例4)では95℃中でDC負荷試験を行った。また、有機カルボン酸系(実施例9,10,11,12および比較例3)では、水分の影響を顕著にするために、駆動用電解液の水分を5wt%に調製し、評価を行った。
【0054】
【表6】
【0055】
【表7】
【0056】
(表6)および(表7)の結果から、本発明の各実施例は、比較例と比べて駆動用電解液の電気的な特性は同等であったが、高温中での長時間の安定性については比較例では全数開弁が発生したのに対し、本発明の各実施例では非常に安定であり、歴然とした差があることが判る。
【0057】
この効果をより明確なものにするために、比較例3と実施例9の電解コンデンサについて、試験終了後、分解し、陰極箔の容量と外観を調査した。その結果を(表8)に示す。
【0058】
【表8】
【0059】
(表8)の結果より明らかなように、比較例3の試験後の陰極箔は初期容量比が1/2以下まで減少し、かつ表面が黒色に変色していたが、本発明の実施例9の陰極箔は容量変化は殆ど観察されず、変色も見当たらなかった。これにより、本発明の分子内に2個以上の窒素原子を含むポリアルキレングリコール誘導体は、高温環境下においても陰極箔表面を保護することができる特性を有することが確認されたため、高温で長寿命の安定性を有する電解コンデンサを供給することができるものである。
【0060】
なお、上記実施例では示さなかったが、100WV以下の電解コンデンサにおいても陰極箔を実施例と同様な陰極箔を使用する関係上、4WV〜100WV用の駆動用電解液においても同様の効果が期待できるものである。
【0061】
なお、上記本発明の実施の形態の説明は、電解コンデンサを対象として説明を行ったが、本発明はこれに限定されるものではなく、電気二重層コンデンサ駆動用電解液としても有用なものである。
【0062】
【発明の効果】
以上のように本発明は、有機溶媒と無機酸、無機酸もしくはこれらの塩のいずれか1種以上を溶質とした電解コンデンサ駆動用電解液に、分子内に2個以上の窒素原子を含むポリアルキレングリコール誘導体を添加した構成とすることにより、化成皮膜を施していない陰極箔の表面を水分や高温度環境下から保護でき、本発明の電解コンデンサ駆動用電解液を用いた電解コンデンサは安定した特性を示すものであり、工業的価値の大なるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態による電解コンデンサの構成を示す要部の斜視図
【符号の説明】
1 陽極箔
2 陰極箔
3 セパレータ
4 引き出しリード
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