JP3962235B2 - ポリエステル繊維及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はポリエステル繊維及びその製造方法に関する。更に詳しくは、特定のチタン化合物及びリン化合物を含むポリエステル製造用触媒を用いた、ポリエステル良好な色調(b値)を有し、かつ特殊な微細孔を有し、ドライ感に優れたポリエステル繊維及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート及びポリテトラメチレンテレフタレートは、その機械的、物理的、化学的性能が優れているため、繊維、フィルム、その他の成形物に広く利用されている。
【0003】
例えばポリエチレンテレフタレートは、通常テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルのようなテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるか又はテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応さて、テレフタル酸のエチレングリコールエステル及び/又はその低重合体を生成させ、次いでこの反応生成物を重合触媒の存在下で減圧加熱して所定の重合度になるまで重縮合反応させることによって製造されている。また、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレートも上記と同様の方法によって製造されている。
【0004】
これらの重縮合反応段階で使用する触媒の種類によって、反応速度および得られるポリエステルの品質が大きく左右されることはよく知られている。ポリエチレンテレフタレートの重縮合触媒としては、アンチモン化合物が、優れた重縮合触媒性能を有し、かつ、色調の良好なポリエステルが得られるなどの理由から最も広く使用されている。
【0005】
しかしながら、アンチモン化合物を重縮合触媒として使用した場合、ポリエステルを長時間にわたって連続的に溶融紡糸すると、口金孔周辺に異物(以下、単に口金異物と称することがある。)が付着堆積し、溶融ポリマー流れの曲がり現象(ベンディング)が発生し、これが原因となって紡糸、延伸工程において毛羽及び/又は断糸などを発生するという成形性の問題がある。
【0006】
該アンチモン化合物以外の重縮合触媒として、チタンテトラブトキシドのようなチタン化合物を用いることも提案されているが、このようなチタン化合物を使用した場合、上記のような、口金異物堆積に起因する成形性の問題は解決できるが、得られたポリエステル自身が黄色く着色されており、また、溶融熱安定性も不良であるという新たな問題が発生する。
【0007】
上記着色問題を解決するために、コバルト化合物をポリエステルに添加して黄味を抑えることが一般的に行われている。確かにコバルト化合物を添加することによってポリエステルの色調(b値)は改善することができるが、コバルト化合物を添加することによってポリエステルの溶融熱安定性が低下し、ポリマーの分解も起こりやすくなるという問題がある。
【0008】
また、他のチタン化合物として、特公昭48−2229号公報には水酸化チタンを、また特公昭47−26597号公報にはα−チタン酸を、それぞれポリエステル製造用触媒として使用することが開示されている。しかしながら、前者の方法では水酸化チタンの粉末化が容易でなく、一方、後者の方法ではα−チタン酸が変質し易いため、その保存、取り扱いが容易でなく、したがっていずれも工業的に採用するには適当ではなく、更に、良好な色調(b値)のポリマーを得ることも困難である。
【0009】
また、特公昭59−46258号公報にはチタン化合物とトリメリット酸とを反応させて得られた生成物を、また特開昭58−38722号公報にはチタン化合物と亜リン酸エステルとを反応させて得られた生成物を、それぞれポリエステル製造用触媒として使用することが開示されている。確かに、この方法によれば、ポリエステルの溶融熱安定性はある程度向上しているものの、得られるポリマーの色調が十分なものではなく、したがってポリマー色調のさらなる改善が望まれている。
【0010】
更に、特開平7−138354号公報においては、チタン化合物とリン化合物との錯体をポリエステル製造用触媒とすることが提案されており、この方法によれば溶融熱安定性もある程度は向上するものの、得られるポリマーの色調は十分なものではない。
【0011】
なお、これらのチタン−リン系触媒は、その触媒自身がポリエステルポリマー中に異物として残留することが多く、この問題についても解決されることが望まれていた。
【0012】
また、一般にポリエステル繊維は疎水性であるために、吸水性や吸湿性が要求される分野での使用は制限されている。特に発汗時のべとつきにより不快な着心感を与えるため、シャツやブラウス等の中衣分野や肌着等の内衣分野では、ポリエステル繊維の100%使いは殆んど行われず、木綿や麻と混合して使用されているにすぎない。
【0013】
特公昭63−00545号公報によれば、ポリエステル繊維が本来有している、優れたイージーケア性を維持したまま、発汗による湿潤状態でもべとつきが少なく、優れたドライ感を呈するポリエステル繊維を提供することを目的とし、特定のスルホン酸金属塩を配合したポリエステル繊維にアルカリ減量処理を施すことによって、ポリエステル繊維にその表面のみでなく、繊維内部にも連通した多数の微細孔を設け、これによって木綿を上回るドライ感を有する繊維が得られることが報告されている。
【0014】
しかしながら、このようなポリエチレンテレフタレートを用いた繊維は、その化学的な改質ゆえに繊維自身が柔らかいため、前記の口金異物による影響を受けやすい。前記のように重合触媒としてアンチモンを使用しない方法を用いれば、この問題は解決できるが、重合触媒としてアンチモンを使用しない方法では、糸のカラーが低下してしまうため、実際に使用に供することは難しい。そこで重合触媒としてアンチモンを使用せず、かつ色相、吸湿性、吸水性、ドライ感に優れているうえ、更に紡糸口金を通して長時間連続的に紡糸しても口金付着物の発生量が非常に少なく、成形性に優れているポリエステル繊維及びその製造方法が求められていた。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、特定のチタン化合物及びリン化合物を含むポリエステル製造用触媒を用いた、良好な色調(b値)を有し、かつ特殊な微細孔を有し、吸湿性、吸水性、ドライ感に優れているうえ、更に紡糸口金を通して長時間連続的に紡糸しても口金付着物の発生量が非常に少なく、成形性に優れているポリエステル繊維及びその製造方法を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、上記目的は、特定のポリエステル製造用触媒を用いたとき達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明の目的は、
二官能性芳香族カルボン酸のアルキレングリコールエステル及びその低重合体から選ばれた少なくとも一種からなる重合出発原料を、触媒の存在下に重縮合する工程を含み、前記触媒が、(A)
下記一般式(I)により表されるチタン化合物(1):
【0018】
【化5】
【0019】
及び、前記式(I)のチタン化合物(1)と下記一般式(II)で表される多価カルボン酸又はその無水物とを反応させて得られたチタン化合物(2):
【0020】
【化6】
から選ばれた少なくとも一種からなるチタン化合物成分と、
(B)下記一般式(III)により表されるリン化合物(3):
【0021】
【化7】
【0022】
の少なくとも一種からなるリン化合物成分とを反応させて得られた反応生成物からなるものであること、並びに、
前記触媒のチタン原子換算量が、前記重合出発原料中に含まれる前記二官能性芳香族カルボン酸成分の合計量に対して、10〜40ミリモル%であって、
更には、該重縮合する工程により得られたポリエステルの溶融紡糸が終了するまでの任意の段階で、0.1〜25モル%の量の下記一般式(IV)
【0023】
【化8】
【0024】
で表されるスルホン酸金属塩を配合し、得られた繊維をアルカリ化合物の水溶液で処理して該スルホン酸金属塩の少なくとも一部を除去することを特徴とするポリエステル繊維の製造方法によって達成することができる。
【0025】
更に本発明の他の目的は、
本発明のポリエステル繊維の製造方法によって得られた繊維によって達成される。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下本発明について更に詳細に説明する。
【0027】
本発明のポリエステル製造用触媒は、下記に詳しく説明するチタン化合物成分(A)と、リン化合物成分(B)との反応生成物を含むものである。
【0028】
本発明の触媒に用いられるチタン化合物成分(A)は、下記一般式(I)により表されるチタン化合物(1):
【0029】
【化9】
【0030】
及び、前記一般式(I)のチタン化合物(1)と下記一般式(II)で表される多価カルボン酸又はその無水物とを反応させて得られたチタン化合物(2):
【0031】
【化10】
から選ばれた少なくとも一種からなるものである。
【0032】
また本発明の触媒に用いられるリン化合物成分(B)は、下記一般式(III)で表されるリン化合物(3):
【0033】
【化11】
の少なくとも一種からなるものである。
【0034】
本発明のポリエステル製造用触媒に用いられる、前記チタン化合物成分(A)と、前記リン化合物成分(B)との反応生成物において、前記チタン化合物成分(A)のチタン原子換算モル量(mTi)の、前記リン化合物成分(B)のリン原子換算モル量(mP)に対する反応モル比mTi/mPが、1:1〜1:4の範囲内にあることが好ましく、1:1.5〜1:2.5の範囲内にあることがより好ましい。
【0035】
前記チタン化合物成分(A)のチタン原子換算モル量とは、前記チタン化合物成分(A)に含まれる各チタン化合物のモル量と、当該チタン化合物の1分子に含まれるチタン原子の個数との積の合計値であり、前記リン化合物成分(B)のリン原子換算モル量とは、前記リン化合物成分(B)に含まれる各リン化合物のモル量と、当該リン化合物の1分子に含まれるリン原子の個数との積の合計値である。ただし、式(III)のリン化合物は1分子当たり1個のリン原子を含むものであるから、リン化合物のリン原子換算モル量は当該リン化合物のモル量に等しい。
【0036】
反応モル比mTi/mPが1:1より大きくなると、すなわち、チタン化合物成分(A)の量が過多になると得られる触媒を用いて得られるポリエステルの色調(b値)が、不良になり、かつその耐熱性が低下することがある。また、前記反応モル比が、1:4未満になると、すなわちチタン化合物成分(A)の量が過少になると、得られる触媒のポリエステル生成反応に対する触媒活性が不十分になることがある。
【0037】
チタン化合物成分(A)に用いられる一般式(I)のチタン化合物(1)としては、チタンテトラブトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトラエトキシドなどのチタンテトラアルコキシドや、オクタアルキルトリチタネート、ヘキサアルキルジチタネートなどのアルキルチタネートを挙げることができるが、なかでも本発明において使用されるリン化合物成分との反応性の良好なチタンテトラアルコキシドを用いることが好ましく、特にチタンテトラブトキシドを用いることがより好ましい。
【0038】
チタン化合物成分(A)に用いられるチタン化合物(2)は一般式(I)のチタン化合物(1)と、一般式(II)の多価カルボン酸又はその無水物との反応により得られる。一般式(II)の多価カルボン酸及びその無水物としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ヘミメリット酸、フタル酸又はそれらの無水物を好ましく用いることができ、特にチタン化合物(1)との反応性がよいトリメリット酸酸無水物、フタル酸無水物を用いることが好ましい。
【0039】
チタン化合物(1)と一般式(II)の多価カルボン酸又はその無水物との反応は、前記多価カルボン酸又はその無水物を溶媒に混合してその一部又は全部を溶媒中に溶解し、この混合液にチタン化合物(1)を滴下し、0℃〜200℃の温度で30分以上、好ましくは30〜150℃の温度に40〜90分間加熱することによって行われる。この際の反応圧力には特に制限はなく、常圧で充分である。なお、前記溶媒としては、式(II)の化合物又はその無水物の一部又は全部を溶解し得るものから適宜に選択することができるが、好ましくは、エタノール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ベンゼン、キシレン等から選ばれる。
【0040】
この反応におけるチタン化合物(1)と式(II)の化合物又はその無水物とのモル比は適宜に選択することができるが、チタン化合物(1)の割合が多すぎると、得られるポリエステルの色調が悪化したり、軟化点が低下したりする傾向があり、逆にチタン化合物(1)の量が少なすぎると重縮合反応が進みにくくなる傾向があるため、チタン化合物(1)と式(II)の化合物又はその無水物との反応モル比は、(2/1)〜(2/5)とすることが好ましい。この反応によって得られる反応生成物は、そのまま前述のリン化合物(3)との反応に供してもよく、或はこれをアセトン、メチルアルコール及び/又は酢酸エチルなどによって再結晶して精製した後、これをリン化合物(3)と反応させてよい。
【0041】
リン化合物成分(B)に用いられる一般式(III)のリン化合物(3)において、R3により表されるC6〜C20アリール基、又はC1〜C20アルキル基は、未置換であってもよく、或は1個以上の置換基により置換されていてもよく、この置換基としては、例えば、カルボキシル基、アルキル基、ヒドロキシル基及びアミノ基などを包含する。
【0042】
一般式(III)のリン化合物(3)は、例えば、フェニルホスホン酸、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、イソプロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、トリルホスホン酸、キシリルホスホン酸、ビフェニルホスホン酸、ナフチルホスホン酸、アントリルホスホン酸、2−カルボキシフェニルホスホン酸、3−カルボキシフェニルホスホン酸、4−カルボキシフェニルホスホン酸、2,3−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,4−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,6−ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,4−ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,4−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,5−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,6−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,4,5−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,4,6−トリカルボキシフェニルホスホン酸、フェニルホスフィン酸、メチルホスフィン酸、エチルホスフィン酸、プロピルホスフィン酸、イソプロピルホスフィン酸、ブチルホスフィン酸、トリルホスフィン酸、キシリルホスフィン酸、ビフェニリルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ジメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジプロピルホスフィン酸、ジイソプロピルホスフィン酸、ジブチルホスフィン酸、ジトリルホスフィン酸、ジキシリルホスフィン酸、ジビフェニリルホスフィン酸、ナフチルホスフィン酸、アントリルホスフィン酸、2−カルボキシフェニルホスフィン酸、3−カルボキシフェニルホスフィン酸、4−カルボキシフェニルホスフィン酸、2,3−ジカルボキシフェニルホスフィン酸、2,4−ジカルボキシフェニルホスフィン酸、2,5−ジカルボキシフェニルホスフィン酸、2,6−ジカルボキシフェニルホスフィン酸、3,4−ジカルボキシフェニルホスフィン酸、3,5−ジカルボキシフェニルホスフィン酸、2,3,4−トリカルボキシフェニルホスフィン酸、2,3,5−トリカルボキシフェニルホスフィン酸、2,3,6−トリカルボキフェニルホスフィン酸、2,4,5−トリカルボキシフェニルホスフィン酸、2,4,6−トリカルボキシフェニルホスフィン酸、ビス(2−カルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(3−カルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(4−カルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(2,3−ジカルボキシルフェニル)ホスフィン酸、ビス(2,4−ジカルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(2,5−ジカルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(2,6−ジカルボキシルフェニル)ホスフィン酸、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(3,5−ジカルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(2,3,4−トリカルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(2,3,5−トリカルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(2,3,6−トリカルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(2,4,5−トリカルボキシフェニル)ホスフィン酸、及びビス(2,4,6−トリカルボキシフェニル)ホスフィン酸などから選ばれるが、中でもフェニルホスホン酸、2,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、フェニルホスフィン酸、ジメチルホスフィン酸が好ましく用いられる。
【0043】
チタン化合物成分(A)とリン化合物成分(B)との触媒調製は、例えば、式(III)の少なくとも一種のリン化合物(3)からなる成分(B)と溶媒とを混合して、リン化合物成分(B)の一部又は全部を溶媒中に溶解し、この混合液にチタン化合物成分(A)を滴下し、反応系を0℃〜200℃の温度に30分間以上、好ましくは60〜150℃の温度に40〜90分間、加熱することによって行われる。この反応において、反応圧力については格別の制限はなく、加圧下(0.1〜0.5MPa)、常圧下、又は減圧下(0.001〜0.1MPa)のいずれであってもよく、通常常圧下が行われる。
【0044】
また上記触媒調製反応に用いられる式(III)のリン化合物成分(B)用溶媒は、前記リン化合物成分(B)の少なくとも一部を溶解し得る限り格別の制限はないが、例えば、エタノール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ベンゼン、及びキシレン等から選ばれた少なくとも一種からなる溶媒が好ましく用いられる。特に、最終的に得ようとするポリエステルを構成しているグリコール成分と同一の化合物を溶媒として用いることが好ましい。
【0045】
この触媒調製反応において、反応系中のチタン化合物成分(A)とリン化合物成分(B)との配合割合は、得られる触媒に含まれる、チタン化合物成分(A)と、リン化合物成分との反応生成物において、チタン化合物成分(A)のチタン原子換算モル量(mTi)の、リン化合物成分(B)のリン原子換算モル量(mP)に対する反応モル比mTi/mPが1:1〜1:4の範囲になるように設定される。好ましい反応モル比mTi/mPは1:1〜1:3である。
【0046】
チタン化合物成分(A)と、リン化合物成分(B)との反応生成物は、それを反応系から、遠心沈降処理又は濾過などの手段により分離した後、又は分離することなくそれをそのままポリエステル製造用触媒として用いてもよく、或は、この分離された反応生成物を、再結晶剤、例えばアセトン、メチルアルコール及び/又は水などにより再結晶し精製した後、この精製物を触媒として用いてもよい。 本発明のポリエステル製造方法において、二官能性芳香族カルボン酸のアルキレングリコールエステル、及びその低重合体(オリゴマー)から選ばれた少なくとも一種からなる重合出発原料が、前記触媒の存在下に重縮合される。このとき、触媒のチタン原子換算量は、前記重合出発原料中に含まれる二官能性芳香族カルボン酸成分の合計量に対して、10〜40ミリモル%に設定される。この触媒量は、10〜25ミリモル%であることが好ましい。触媒量が、10ミリモル%未満であると、重合出発原料の重縮合反応に対する触媒の促進効果が不十分になり、ポリエステル製造効率が不十分になり、かつ所望の重合度を有するポリエステルを得ることができない。また、触媒量が40ミリモル%を越えると、得られるポリエステルの色調(b値)が、不十分になり黄味を帯びるようになり、その実用性が低下する。
【0047】
本発明のポリエステル製造方法に用いられる、重合出発原料として用いられる二官能性芳香族カルボン酸のアルキレングリコールエステルにおいて、前記二官能性芳香族カルボン酸はテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルメタンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、及びβ−ヒドロキシエトキシ安息香酸から選ばれることが好ましく、特にテレフタル酸及びナフタレンジカルボン酸が好ましく用いられる。前記アルキレングリコールは、エチレングリコール、トリメチレングリコート、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、及びヘキサメチレングリコールから選ばれることが好ましい。
【0048】
上記の二官能性芳香族カルボン酸のアルキレングリコールエステル及び/又はその低重合体は、いかなる方法によって製造されたものであってもよいが、通常、二官能性芳香族カルボン酸又はそのエステル形成性誘導体とアルキレングリコール又はそのエステル形成性誘導体とを加熱反応させることによって製造される。
【0049】
例えばポリエチレンテレフタレートの原料であるテレフタル酸のエチレングリコールエステル及び/又はその低重合体について説明すると、テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるか、又はテレフタル酸にエチレンオキサイドを付加反応させる方法が一般に採用される。
【0050】
また、ポリトリメチレンテレフタレートの原料であるテレフタル酸のトリメチレングリコールエステル及び/又はその低重合体について説明すると、テレフタル酸とトリメチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸の低級アルキルエステルとトリメチレングリコールとをエステル交換反応させるか、又はテレフタル酸にトリメチレンオキサイドを付加反応させる方法が一般に採用される。
【0051】
なお、上記の二官能性芳香族カルボン酸のアルキレングリコールエステル及び/又はその低重合体には、本発明方法の効果が実質的に損なわれない範囲内において、具体的には酸成分合計モル量を基準として10モル%以下、好ましくは5モル%以下の範囲で、それと共重合可能な他の二官能性カルボン酸エステルが追加成分として含まれていてもよい。
【0052】
好ましく用いられる共重合可能な追加成分は、酸成分として、例えば、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂肪族及び脂環式の二官能性ジカルボン酸、並びにヒドロキシカルボン酸、例えば、β−ヒドロキシエトキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸などの一種以上とグリコール成分として、例えば、構成炭素数が2個以上のアルキレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールSのような脂肪族、脂環式、芳香族のジオール化合物及びポリオキシアルキレングリコール、の一種以上とのエステル又はその無水物から選ぶことができる。上記追加成分は一種を単独で用いてもよく、或は二種以上を併用してもよい。ただし共重合は上記の範囲内であることが必要である。
【0053】
本発明のポリエステル製造方法において、触媒を重合出発原料に添加する時期は、二官能性芳香族カルボン酸アルキレングリコールエステル及び/又はその低重合体の重縮合反応が開始される以前の任意の段階であればよく、更に、その添加方法は従来公知の任意の方法をいずれも採用することができ、例えば、二官能性芳香族カルボン酸エステルの調製後に、この反応系内に触媒の溶液又はスラリーを添加して重縮合反応を開始してもよいし、或は、当該二官能性芳香族カルボン酸エステルの調製前に、触媒溶液又はスラリーを出発原料と同時に、又はその仕込み後に反応系に添加してもよい。
【0054】
本発明方法におけるポリエステル製造反応条件には格別の制限はないが、重縮合反応は一般に230〜320℃の温度において、常圧下、又は減圧下(0.1Pa〜0.1MPa)において、或はこれらの条件を組み合わせて、15〜300分間重縮合することが好ましい。
【0055】
本発明方法において、反応系に、必要に応じてトリメチルホスフェートなどの安定剤をポリエステル製造における任意の段階で加えてもよく、更に酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、蛍光増白剤、艶消剤、整色剤、消泡剤その他の添加剤などを配合してもよい。
【0056】
更に、得られるポリエステルのカラーを微調整するために、反応系にポリエステルの製造段階において、アゾ系、トリフェニルメタン系、キノリン系、アントラキノン系、フタロシアニン系等の有機青色顔料及び無機青色顔料の一種以上からなる整色剤を添加することができる。なお、本発明の製造方法においては、当然のことながらポリエステルの溶融熱安定性を低下させるコバルト等を含む無機青色顔料を整色剤としては用いる必要はなく、したがって得られるポリエステルには実質的にコバルトを含まないことが好ましい。
【0057】
本発明で使用するスルホン酸金属塩を示す下記一般式(IV)中、Arは芳香族基であり、なかでもベンゼン環又はナフタレン環が好ましい。R4はエステル形成性官能基であり、−COOR’(但し、R’は水素原子、炭素原子1〜4のアルキル基又はフェニル基)又は−CO−(O−CH2)l}−pOH(但し、lは2以上の整数、Pは1以上の整数)等が好ましい。M及びM’は金属であり、Mとしてはアルカリ金属又はアルカリ土類金属が好ましく、なかでもLi,Na,K,Ca1/2,Mg1/2が特に好ましい。M′としてはアルカリ金属、アルカリ土類金属、Mn1/2,Zn1/2が好ましく、なかでもLi,Na,K,Ca1/2,Mg1/2,Ba1/2,が特に好ましい。M及びM′は同一でも異なっていてもよい。mは0〜4の整数、nは1〜5の整数であって、且つm+nが1〜5になる整数である。
【0058】
【化12】
【0059】
かかるスルホン酸金属塩の好ましい具体例としては、3−カルボメトキシ・ベンゼンスルホン酸Na−5−カルボン酸Na、3−カルボメトキシ・ベンゼンスルホン酸Na−5一カルボン酸K、3−カルボメトキシ・ベンゼンスルホン酸K−5−カルボン酸K、3−ヒドロキシエトキシカルボニル・ベンゼンスルホン酸Na−5−カルボン酸Na、3−カルボキシ・ベンゼンスルホン酸Na−5−カルボン酸Na、3−ヒドロキシエトキシカルボニル・ベンゼンスルホン酸Na−5−カルボン酸Mg1/2、ベンゼンスルホン酸Na−3,5−ジ(カルボン酸Na)、ベンゼンスルホン酸Na−3,5−ジ(カルボン酸Mg1/2)、ベンゼンスルホン酸Na−3−カルボン酸Na、3−カルボメトキシ・ナフタレン−1−スルホン酸Na−7−カルボン酸Na、ナフタレン−1−スルホン酸Na−3,7−ジ(カルボン酸Mg1/2)等をあげることができる。
【0060】
上記スルホン酸金属塩は一種のみ単独で使用しても、また二種以上併用してもよい。その添加時期は、ポリエステルを溶融紡糸する紡糸工程が終了する以前の任意の段階でよく、例えばポリエステルの原料中に添加混合しても、ポリエステルの合成中に添加しても、また合成終了から溶融紡糸するまでの問に添加してもよい。いずれにしても、添加後溶融状態で混合されるようにするのが好ましい。
【0061】
上記スルホン酸金属塩の配合量は、余りに少ないと最終的に得られるポリエステル繊維のドライ感が不充分になり、逆に余りに多いとその添加時期がポリエステルの合成が終了する以前では、充分な重合度のポリエステルが得られ難く、またその添加時期が合成終了後から溶融紡糸終了以前のときは紡糸時にトラブルを発生し易い。このため、添加量は添加すべきポリエステルを構成する酸成分に対し0.1〜25モル%の範囲にすべきであり、0.3〜15モル%の範囲が好ましく、なかでも0.5〜5モル%の範囲が特に好ましい。
【0062】
上記スルホン酸金属塩を配合した変性ポリエステルを溶融紡糸して中実繊維とするには、格別な方法を採用する必要はなく、ポリエステルの中実繊維の溶融紡糸方法が任意に採用される。ここで紡出する繊維の横断面における形状は円形であっても異形であってもよく、また、単繊維繊度についても特に制限する必要はないが、約1dtex以下になるとドライ感のみならず、吸水性にも優れるようになったり、肌を刺さないようになったりするため、用途によっては約1dtex以下が好ましい。
【0063】
更に、紡糸するに際して、上記のスルホン酸金属塩を配合した変性ポリエステルとスルホン酸金属塩を配合しない未変性ポリエステルとを使用し、変性ポリエステルを鞘成分とし、未変性ポリエステルを芯成分とする芯鞘型複合繊維にしても、変性ポリエステルと未変性ポリエステルとを用いて2層又はそれ以上の多層のサイド・バイ・サイド型複合繊維にしてもよい。
【0064】
かくして得られるポリエステル繊維から、上記スルホン酸金属塩の少なくとも一部を除去するには、必要に応じて廷伸熱処理又は仮撚加工等を施した後、又は更に布帛にした後アルカリ化合物の水溶液に浸漬処理することにより容易に行うことができる。
【0065】
ここで使用するアルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等をあげることができる。なかでも水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが特に好ましい。
【0066】
かかるアルカリ化合物の水溶液の濃度は、アルカリ化合物の種類、処理条件等によって異なるが、通常、0.01〜40重量%の範囲が好ましく、特に0.1〜30重量%の範囲が好ましい。処理温度は常温〜100℃の範囲が好ましく、処理時間は1分〜4時間の範囲で通常行われる。このようにアルカリ化合物の水溶液で処理することによって、上記スルホン酸金属塩と共にポリエステルが選択的に溶出し、繊維表面のみならず繊維内面にまで外部に連通した多数の微細孔を形成せしめることができ、優れたドライ感を呈するようになる。
【0067】
本発明方法によって得られるポリエステルは、通常、ハンター型色差計より得られるL値が80.0以上、b値が−2.0〜5.0の範囲にあるものである。ポリエステルのL値が80.0未満であると、白色度が低くなるため実用に供し得る高白色度成形物を得ることができないことがある。また、b値が−2.0未満であると、このポリエステルの黄味は少ないが、青味が増し、一方、b値が5.0を越えると、得られるポリエステルの黄味が強くなるため、実用上有用な成形物の製造に供することができないことがある。本発明方法により得られるポリエステルのL値は好ましくは82以上、特に好ましくは83以上であり、b値の好ましい範囲は−1.0〜4.5であり、特に好ましくは0.0〜4.0である。
【0068】
本発明のポリエステルは、実質的に、整色用コバルト化合物に由来するコバルト原子を含まないものである。コバルト原子を含むポリエステルには、溶融熱安定性が低く、分解が起こりやすくなるという欠点がある。なお、ここで“実質的に含まない”とは、整色剤若しくは重縮合触媒としてコバルト化合物を使用せず、したがって、得られるポリエステルが、上記コバルト化合物に由来するコバルト原子を含まないことを意味する。したがって、本発明のポリエステルは、整色剤及び触媒以外の目的をもって添加されたコバルト化合物に由来するコバルト原子を含むことがあってもよい。
【0069】
本発明におけるポリエステルの固有粘度は適宜選択すればよいが、0.55〜1.0の範囲にあることが好ましい。該固有粘度がこの範囲内にあると、溶融成形が容易でかつ成形物の強度も高いものとなる。該固有粘度の更に好ましい範囲は、0.60〜0.90であり、特に好ましくは0.62〜0.80である。
【0070】
【実施例】
本発明を更に下記実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。ただし上述の通り、固有粘度、色相、チタン含有量、異物数、溶融熱安定性及び紡糸口金に発生する付着物の層については、下記記載の方法により測定された。
【0071】
(1)固有粘度:
ポリエステルポリマーの固有粘度は、オルソクロロフェノール溶液について、35℃において測定した粘度の値から求めた。
【0072】
(2)色調(L値及びb値):
ポリマー試料を290℃、真空下で10分間溶融し、これをアルミニウム板上で厚さ3.0±1.0mmのプレートに成形後ただちに氷水中で急冷し、該プレートを160℃、1時間乾燥結晶化処理後、色差計調整用の白色標準プレート上に置き、プレート表面のハンターL値及びb値を、ミノルタ社製ハンター型色差計CR−200を用いて測定した。L値は明度を示し、その数値が大きいほど明度が高いことを示し、b値はその値が大きいほど黄着色の度合いが大きいことを示す。
【0073】
(3)触媒のチタン含有量:
触媒化合物中のチタン濃度は、リガク社製蛍光X線測定装置3270を用いて測定した。
【0074】
(4)動摩擦孫数比の測定方法
温度20℃、相対湿度80%に調温調湿したボックス内に設置したテーブル上に水平に張った牛皮上に、帽10cm、長さ10cmの試験布(重量Wグラム)を板状台座(重量60グラム)の底面に固定した状態で置き、更に板状台座上に50グラムの荷重をかける。台座の先端に連結した紐を水平方向からベアリングを介して垂直上方へ紐の他端に取り付けたストレインゲージまで導き、ストレインゲージを一定速度で上昇させることによって、試験布を10mm/分の速度で牛皮上を滑走せしめて引張応力を自動記録し、付着(stick)−滑り(slip)の平均の引張応力F(グラム)を読み取り、下式によって動摩擦係数μを求める。
【0075】
【数1】
【0076】
試験布に一定量の水分を保水させて上記方法により測定した湿潤状態における動摩擦係数と、試験布を絶乾状態にして同様に測定した乾燥状態における動摩擦係数との比として動摩擦係数比を定める。
【0077】
図1は本方法によって測定した動摩擦係数比と保水率の関係の例を示す図であって、曲線Aは本発明の方法によって製造したポリエステル繊維を使用した編物(実施例1)、曲線Bは本発明における共重合を行っていないポリトリメチレンテレフタレート繊維を使用した編物(比較例1)、曲線Cは40番手綿糸を使用した布帛、曲線Dは通常のポリエチレンテレフタレート繊維を使用した布帛(比較例3)についての測定結果を示したものである。
【0078】
図1から明らかなように、本発明の方法になるポリエステル繊維は通常のポリエステル繊維や木綿に比較して、動摩擦係数比値の1.0からの隔たりが小さく、かつ約100%の保水率においてさえなお、ほぼ絶乾時の動摩擦係数の水準を維持しており、木綿を凌駕する、優れたドライ感を有していることがわかる。なお、ここで言う保水率とは下式から得たものである。
【0079】
【数2】
【0080】
(5)紡糸口金に発生する付着物の層:
ポリエステルをチップとなし、これを290℃で溶融し、孔径0.15mmφ、孔数12個の紡糸口金から吐出し、600m/分で2日間紡糸し、口金の吐出口外縁に発生する付着物の層の高さを測定した。この付着物層の高さが大きいほど吐出されたポリエステルメルトのフィラメント状流にベンディングが発生しやすく、このポリエステルの成形性は低くなる。すなわち、紡糸口金に発生する付着物層の高さは、当該ポリエステルの成形性の指標である。
【0081】
[実施例1]
触媒(A)の調製:
エチレングリコール2.5重量部に無水トリメリット酸0.8重量部を溶解し、この溶液にチタンテトラブトキシド0.7重量部(後記ポリエステルの製造に用いられる無水トリメリット酸のモル量を基準として0.5mol%)を滴下し、この反応系を空気中、常圧下、80℃に60分間保持してチタンテトラブトキシドと無水トリメリット酸とを反応させ、反応生成物を熟成させた。その後反応系を常温に冷却し、これにアセトン15重量部を加え、析出物をNo.5ろ紙で濾過し、採取し、これを100℃の温度で2時間乾燥した。得られた反応生成物(チタン化合物(2))のチタン含有量は11.2重量%であった。
【0082】
次に、エチレングリコール131重量部中にフェニルホスホン酸3.6重量部を120℃に10分間加熱して溶解した。このエチレングリコール溶液134.5重量部に、更にエチレングリコール40重量部を加えた後、これに上記チタン化合物(2)5.0重量部を溶解させた。得られた反応系を120℃で60分間撹拌し、チタン化合物(2)とフェニルホスホン酸とを反応させ、反応生成物を含む触媒(A)の白色スラリーを得た。この触媒(A)スラリーのチタン含量は0.3重量%であった。
【0083】
ポリエステル繊維の製造:
テレフタル酸166重量部とエチレングリコール75重量部とを240℃においてエステル化反応させ、次いで得られた反応生成物を精留塔付き重縮合用フラスコへ入れ、重縮合触媒として上記触媒(A)スラリー0.95重量部(テレフタル酸量を基準として、チタン原子の量換算で20ミリモル%)及び整色剤としてテラゾールブルー0.0002重量部、3−ヒドロキシカルボニル・ベンゼンスルホン酸Na−5−カルボン酸Naの25%エチレングリコール溶液7.7部及び二酸化チタンの20%エチレングリコールスラリー2.9部を添加した。次いで1時間かけて101kPaから0.1kPaまで減圧し、同時に1時間30分かけて230℃から280℃まで昇温した。0.1kPa以下の減圧下、重合温度280℃で更に3時間、合計4時間30分重合して固有粘度0.640のポリマーを得、常法に従いチップ化した。
【0084】
このチップを常法により乾燥し、孔径0.3mmの円型紡糸孔を36個設けた紡糸口金を使用し、常法に従って溶融紡糸して340dtex/36フィラメントの未延伸糸を得た。次いでこの未延伸糸を常法に従って4.2倍に延伸して81dtex/36フィラメントを得た。
【0085】
得られたマルチフィラメントを密度52本/インチ×34本/インチの28Gトリコットハーフ編物に製編し、常法に従って精練、プリセットを施した後、減量率が20%になるように1%の水酸化ナトリウム水溶液で沸騰温度にて処理した。この布帛の保水率と動摩擦係数比の関係は第1図の曲線Aで示した通りであり、優れたドライ感を有していた。その他の結果は表1に示した。
【0086】
[実施例2]
ポリエステルの製造:
テレフタル酸ジメチル194重量部、エチレングリコール124重量部及び酢酸カルシウム0.12重量部を精留塔付き反応槽に投入し、220℃においてエステル交換反応を行い、生成した理論量のメタノールを留出除去した後、この反応混合物にリン酸0.09重量部を加えて第1段階の反応を終了した。
【0087】
次いで前記反応混合物を精留塔付き重縮合用フラスコへ入れ、この反応混合物に、重縮合触媒として、実施例1と同じ方法により得られた触媒(A)スラリー3.2重量部(テレフタル酸ジメチルの量を基準として、チタン化合物(2)の含有量はチタン原子換算で20ミリモル%)、及び整色剤としてテラゾールブルー0.0002重量部、3−ヒドロキシカルボニル・ベンゼンスルホン酸Na−5−カルボン酸Naの25%エチレングリコール溶液7.7部及び二酸化チタンの20%エチレングリコールスラリー2.9部を添加した。
【0088】
次いで1時間かけて101kPaから0.1kPaまで減圧し、同時に1時間30分かけて230℃から280℃まで昇温した。0.1kPa以下の減圧下、重合温度280℃で更に3時間、合計4時間30分重合して固有粘度0.640のポリマーを得、常法に従いチップ化した。
【0089】
このチップを常法により乾燥し、孔径0.3mmの円型紡糸孔を36個設けた紡糸口金を使用し、常法に従って溶融紡糸して340dtex/36フィラメントの未延伸糸を得た。次いでこの未延伸糸を常法に従って4.2倍に延伸して81dtex/36フィラメントを得た。
【0090】
得られたマルチフィラメントを密度52本/インチ×34本/インチの28Gトリコットハーフ編物に製編し、常法に従って精練、プリセットを施した後、減量率が20%になるように1%の水酸化ナトリウム水溶液で沸騰温度にて処理した。この布帛の保水率と動摩擦係数比の関係は図1の曲線Bで示した通りであり、優れたドライ感を有していた。その他の結果は表1に示した。
【0091】
[比較例1]
実施例1のポリエステルの製造法と同様にしてポリエステルを製造した。ただし、重縮合触媒として、チタンテトラブトキシドのみを用い、この触媒の添加量を、テレフタル酸の量を基準として、チタン原子量換算で20ミリモル%となるように、触媒スラリーの濃度及び添加量を調整した。結果を表1に示す。なおこの布帛の保水率と動摩擦係数比の関係は実施例1の結果と同等であった。
【0092】
[比較例2]
触媒(B)の調製:
無水トリメリット酸0.80重量部をエタノールに溶解し、この溶液にチタンテトラブトキシド0.64重量部を滴下し、得られた反応系を空気中、常圧の下、80℃の温度に60分間保持して、チタンテトラブトキシドとトリメリット酸無水物とを反応させ、熟成した。反応熟成後、反応系を常温に冷却し、これにアセトン15重量部を加え、生成した沈殿を濾取した。このようにして得られた触媒(B)のチタン含量は11.4重量%であった。
【0093】
ポリエステルの製造:
実施例1のポリエステルの製造法と同様にしてポリエステルを製造した。ただし、重縮合触媒として、上記触媒(B)を用い、この触媒(B)の添加量が、テレフタル酸の量を基準としてチタン原子量換算で20ミリモル%となるようスラリーの触媒濃度及び添加量を調整した。結果を表1に示す。なおこの布帛の保水率と動摩擦係数比の関係は実施例1の結果と同等であった。
【0094】
[比較例3]
実施例1のポリエステルの製造法と同様にして、ポリエステルを製造した。ただし、重縮合触媒として、三酸化アンチモンを用い、この触媒の添加量を、テレフタル酸の量を基準として、アンチモン原子量換算で25ミリモル%となるようスラリーの濃度及び添加量を調整した。この布帛の保水率と動摩擦係数比の関係は図1の曲線Dで示した通りであり、優れたドライ感を有していた。その他の結果を表1に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
【発明の効果】
本発明のポリエステル繊維及びその製造方法によれば、色調に優れ、かつ特殊な微細孔を有し、吸湿性、吸水性、ドライ感に優れているうえ、更に紡糸口金を通して長時間連続的に紡糸しても口金付着物の発生量が非常に少なく、成形性に優れているポリエステル繊維及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本方法によって測定した動摩擦係数比と保水率との関係を示す図である。
【符号の説明】
A:本発明の方法によって製造したポリエステル繊維を使用した編物(実施例1)について測定した動摩擦係数比と保水率との関係を表す曲線。
B:本発明における共重合を行っていないポリトリメチレンテレフタレート繊維を使用した編物(比較例1)について測定した動摩擦係数比と保水率との関係を表す曲線。
C:40番手綿糸を使用した布帛について測定した動摩擦係数比と保水率との関係を表す曲線。
D:通常のポリエチレンテレフタレート繊維を使用した布帛(比較例3)について測定した動摩擦係数比と保水率との関係を表す曲線。
Claims (11)
- 二官能性芳香族カルボン酸のアルキレングリコールエステル及びその低重合体から選ばれた少なくとも一種からなる重合出発原料を、触媒の存在下に重縮合する工程を含み、前記触媒が、
(A)下記一般式(I)により表されるチタン化合物(1):
(B)下記一般式(III)により表されるリン化合物(3):
前記触媒のチタン原子換算量が、前記重合出発原料中に含まれる前記二官能性芳香族カルボン酸成分の合計量に対して、10〜40ミリモル%であって、
更には、該重縮合する工程により得られたポリエステルの溶融紡糸が終了するまでの任意の段階で、0.1〜25モル%の量の下記一般式(IV)
- 前記チタン化合物成分と、前記リン化合物との反応生成物において、前記チタン化合物成分のチタン原子換算モル量(mTi)の、前記リン化合物成分のリン原子換算モル量(mP)に対する反応モル比mTi/mPが、1:1〜1:4の範囲内にあるポリエステル製造用触媒を用いた請求項1記載のポリエステル繊維の製造方法。
- 前記式(I)のチタン化合物(1)が、チタンテトラアルコキシド類、オクタアルキルトリチタネート類、及びヘキサアルキルジチタネート類から選ばれるポリエステル製造用触媒を用いた請求項1記載のポリエステル繊維の製造方法。
- 前記式(II)の多価カルボン酸又はその無水物が、トリメリット酸、フタル酸又はそれらの無水物から選ばれるポリエステル製造用触媒を用いた請求項1記載のポリエステル繊維の製造方法。
- 前記チタン化合物(2)が、前記式(I)のチタン化合物(1)と、式(II)の多価カルボン酸又はその無水物との、反応モル比2:1〜2:5における反応生成物であるポリエステル製造用触媒を用いた請求項1記載のポリエステル繊維の製造方法。
- 前記式(III)のリン化合物(3)が、フェニルホスホン酸、2,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、フェニルホスフィン酸、ジメチルホスフィン酸から選ばれるポリエステル製造用触媒を用いた請求項1記載のポリエステル繊維の製造方法。
- 前記チタン化合物成分と前記リン化合物成分との反応生成物が、0〜200℃の反応温度で生成したものであるポリエステル製造用触媒を用いた請求項1記載のポリエステル繊維の製造方法。
- 前記二官能性芳香族カルボン酸がテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルメタンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、及びβ−ヒドロキシエトキシ安息香酸から選ばれる、請求項1記載のポリエステル繊維の製造方法。
- 前記アルキレングリコールが、エチレングリコール、トリメチレングリコート、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、及びヘキサメチレングリコールから選ばれる、請求項1記載のポリエステル繊維の製造方法。
- 前記重縮合反応が、230〜320℃の温度において行われる、請求項1記載のポリエステル繊維の製造方法。
- 請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法により製造されたポリエステル繊維。
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