JP2004067924A - ポリエステル、その製造方法及び繊維 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】アルカリ土類金属化合物の存在下にテレフタル酸ジアルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させ、次いでリン化合物を添加して実質的にエステル交換反応を終了させた後、ポリエステルに可溶なチタン化合物を添加した後、重縮合反応させてポリエステルを得る。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明はポリエステルに関し、更に詳しくは、アルカリ土類金属を用いてエステル交換反応させた後、チタン化合物及びリン化合物を含む重縮合反応触媒を用い、かつその時の量比を特定することによって得られた、色調に優れ、紡糸口金を通して長時間連続的に紡糸しても口金付着物の発生量が非常に少なく、成形性に優れているという優れた性能を有する、色相の改善されたポリエステルに関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート及びポリテトラメチレンテレフタレートは、その機械的、物理的、化学的性能が優れているため、繊維、フィルム、その他の成形物に広く利用されている。
【0003】
例えばポリエチレンテレフタレートは、通常テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルのようなテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるか又はテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応さて、テレフタル酸のエチレングリコールエステル及び/又はその低重合体を生成させ、次いでこの反応生成物を重合触媒の存在下で減圧加熱して所定の重合度になるまで重縮合反応させることによって製造されている。
【0004】
これらの重縮合反応段階で使用する触媒の種類によって、反応速度および得られるポリエステルの品質が大きく左右されることはよく知られている。ポリエチレンテレフタレートの重縮合触媒としては、アンチモン化合物が、優れた重縮合触媒性能を有し、かつ、色調の良好なポリエステルが得られるなどの理由から最も広く使用されている。
【0005】
しかしながら、アンチモン化合物を重縮合触媒として使用した場合、ポリエステルを長時間にわたって連続的に溶融紡糸すると、口金孔周辺に異物(以下、単に口金異物と称することがある。)が付着堆積し、溶融ポリマー流れの曲がり現象(ベンディング)が発生し、これが原因となって紡糸、延伸工程において毛羽及び/又は断糸などを発生するという成形性の問題がある。
【0006】
該アンチモン化合物以外の重縮合触媒として、チタンテトラブトキシドのようなチタン化合物を用いることも提案されているが、このようなチタン化合物を使用した場合、上記のような、口金異物堆積に起因する成形性の問題は解決できるが、得られたポリエステル自身が黄色く着色されており、また、溶融熱安定性も不良であるという新たな問題が発生する。
【0007】
上記着色問題を解決するために、コバルト化合物をポリエステルに添加して黄味を抑えることが一般的に行われている。確かにコバルト化合物を添加することによってポリエステルの色調(b値)は改善することができるが、コバルト化合物を添加することによってポリエステルの溶融熱安定性が低下し、ポリマーの分解も起こりやすくなるという問題がある。
【0008】
また、他のチタン化合物として、特公昭48−2229号公報には水酸化チタンを、また特公昭47−26597号公報にはα−チタン酸を、それぞれポリエステル製造用触媒として使用することが開示されている。しかしながら、前者の方法では水酸化チタンの粉末化が容易でなく、一方、後者の方法ではα−チタン酸が変質し易いため、その保存、取り扱いが容易でなく、したがっていずれも工業的に採用するには適当ではなく、更に、良好な色調(b値)のポリマーを得ることも困難である。
【0009】
また、特公昭59−46258号公報にはチタン化合物とトリメリット酸とを反応させて得られた生成物を、また特開昭58−38722号公報にはチタン化合物と亜リン酸エステルとを反応させて得られた生成物を、それぞれポリエステル製造用触媒として使用することが開示されている。確かに、この方法によれば、ポリエステルの溶融熱安定性はある程度向上しているものの、得られるポリマーの色調が十分なものではなく、したがってポリマー色調のさらなる改善が望まれている。
【0010】
口金異物を抑制するには、前記のように触媒としてアンチモンを使用しないことが有効な手段であるが、アンチモンを使用しない方法では、糸のカラーが低下してしまうため、従来は使用に供することができなかった。
【0011】
したがって触媒としてアンチモンを使用せず、かつ色相に優れたポリエステル繊維が求められていた。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記従来技術が有していた問題点を解消し、色調に優れ、紡糸口金を通して長時間連続的に紡糸しても口金付着物の発生量が非常に少なく、成形性に優れているという優れた性能を有し、色相の改善されたポリエステル繊維を得ることのできるポリエステルを提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、上記ポリエステルの製造方法を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち本発明の目的は、
エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエスルからなり、該ポリエステルに可溶なチタン化合物を、該ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分を基準としてチタン元素換算で2〜20ミリモル%含有し、アルカリ土類金属化合物を、該ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分を基準として30〜120ミリモル%含有し、更にリン化合物を含有すると共に、下記関係式(1)並びに、下記要件(a)及び(b)を同時に満足するポリエステルによって達成することができる。
【0016】
【数3】
【0017】
要件(a):ポリエステルのメチル末端基含有量が0.5〜7.0モル/106gの範囲にあること。
要件(b):示差走査型熱量測定における昇温結晶化ピーク温度と降温結晶化ピーク温度との差が40℃以内であること。
【0018】
更に本発明の他の目的は、
テレフタル酸ジアルキルエステルとエチレングリコールとに、全ジカルボン酸成分を基準として金属元素換算でアルカリ土類金属化合物を30〜120ミリモル%添加した後、常圧下ないし0.20MPaの加圧下でエステル交換反応させ、次いで、下記一般式(I)及び/又は(II)で表されるリン化合物を、アルカリ土類金属化合物の含有量とリン化合物の含有量とが下記関係式(1)を満足するように添加して実質的にエステル交換反応を終了させた後、ポリエステルに可溶なチタン化合物を、全ジカルボン酸成分を基準としてチタン元素換算で2〜20ミリモル%添加した後、重縮合反応させてポリエステルを得ることを特徴とする、ポリエステルの製造方法によって達成される。
【0019】
【化9】
【0020】
【化10】
【0021】
【数4】
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリエステルは、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルである。このポリエステルは、エチレンテレフタレート単位を構成する成分以外の第3成分を共重合した、共重合ポリエチレンテレフタレートであってもよい。上記第3成分(共重合成分)は、ジカルボン酸成分又はグリコール成分のいずれでもよい。第3成分として好ましく用いられるジカルボン酸成分としては、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、フタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等が例示でき、これらは一種を単独で用いても二種以上を併用してもどちらでもよい。
【0023】
本発明のポリエステルが含有するアルカリ土類金属化合物は、エステル交換反応触媒として使用するものであるが、該アルカリ土類金属化合物のポリエステル中の含有量は全ジカルボン酸成分を基準として、30〜120ミリモル%の範囲にある必要がある。
【0024】
該アルカリ土類金属化合物の含有量が30ミリモル%未満の場合、エステル交換反応速度が非常に遅くなる結果、得られるポリエステルの分子量が低くなり、また120ミリモル%を越える場合、得られるポリエステルの熱安定性や色相に悪影響を与える。該アルカリ土類金属化合物の含有量は35〜110ミリモル%の範囲にあることが好ましく、40〜100ミリモル%の範囲にあることが更に好ましい。
【0025】
本発明のポリエステルに使用するアルカリ土類金属化合物としてはカルシウム化合物、マグネシウム化合物、ストロンチウム化合物及びバリウム化合物を挙げられるが、これらの中でもカルシウム化合物、マグネシウム化合物が好ましい。
【0026】
カルシウム化合物としては酢酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、安息香酸カルシウム、蟻酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム及びこれらの水和物等を、マグネシウム化合物としては酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム、安息香酸マグネシウム、蟻酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム及びこれらの水和物等をそれぞれ挙げることができ、これらは一種を単独で用いても、また二種以上を併用してもよい。これらの中で特に、酢酸カルシウム一水和物、酢酸マグネシウム四水和物が特に好ましく用いられる。
【0027】
本発明におけるリン化合物は、リン元素が含まれる限りいずれのリン化合物を用いることができるが、下記一般式(I)で表されるリン化合物及び/又は下記一般式(II)で表されるリン化合物を用いることが好ましい。
【0028】
【化11】
【0029】
【化12】
【0030】
上記一般式(I)で表されるリン化合物としては式中のpが0の場合は、例えば、フェニルホスホン酸、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、イソプロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、トリルホスホン酸、キシリルホスホン酸、ビフェニルホスホン酸、ナフチルホスホン酸、アントリルホスホン酸、2−カルボキシフェニルホスホン酸、3−カルボキシフェニルホスホン酸、4−カルボキシフェニルホスホン酸、2,3−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,4−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,6−ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,4−ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,4−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,5−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,6−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,4,5−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,4,6−トリカルボキシフェニルホスホン酸等を挙げることができる、中でもモノアリールホスホン酸が好ましい。
【0031】
また、pが1の場合は例えば、モノメチルホスフェート、モノエチルホスフェート、モノトリメチルホスフェート、モノ−n−ブチルホスフェート、モノヘキシルホスフェート、モノヘプチルホスフェート、モノノニルホスフェート、モノデシルホスフェート、モノドデシルホスフェート、モノフェニルホスフェート、モノベンジルホスフェート、モノ(4−ドデシル)フェニルホスフェート、モノ(4−メチルフェニル)ホスフェート、モノ(4−エチルフェニル)ホスフェート、モノ(4−プロピルフェニル)ホスフェート、モノ(4−ドデシルフェニル)ホスフェート、モノトリルホスフェート、モノキシリルホスフェート、モノビフェニルホスフェート、モノナフチルホスフェート、モノアントリルホスフェート等が挙げられる。
【0032】
更に、上記一般式(II)で表されるリン化合物としてはカルボメトキシメタンホスホン酸、カルボエトキシメタンホスホン酸、カルボプロポキシメタンホスホン酸、カルボブトキシメタンホスホン酸、カルボメトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボエトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボプロトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボブトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸等の、ジメチルエステル、ジエチルエステル、ジプロピルエステル及びジブチルエステルを挙げることができる。
【0033】
本発明において含有させるチタン化合物は、触媒起因の異物低減の点で、ポリエステルに可溶なチタン化合物とすることが必要である。チタン化合物としては、ポリエステル可溶な限り特に限定されず、ポリエステルの重縮合触媒として一般的なチタン化合物、例えば、酢酸チタンやテトラ−n−ブトキシチタン等を挙げることができ、特に、下記一般式(III)で表される化合物、又は、一般式(III)で表される化合物と下記一般式(IV)で表される芳香族多価カルボン酸若しくはその無水物とを反応させた生成物とすることが好ましい。
【0034】
【化13】
【0035】
【化14】
【0036】
ここで、一般式(III)で表されるテトラアルコキサイドチタンとしては、R4〜R7がそれぞれ同一又は異なって、アルキル基又はフェニル基であれば特に限定されず、具体的には、テトライソプロポキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラフェノキシチタン等を好ましい例として挙げることができる。
【0037】
また、上記一般式(III)のチタン化合物と反応させる一般式(IV)で表される芳香族多価カルボン酸又はその無水物として、具体的にはトリメリット酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸及びこれらの無水物を好ましい例として挙げることができ、この反応をさせる場合には、溶媒に芳香族多価カルボン酸又はその無水物の一部とを溶解し、これにチタン化合物を滴下し、0〜200℃の温度で30分間以上反応させれば良い。
【0038】
本発明のポリエステルは、上述したようなポリエステル可溶なチタン化合物を、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分を基準として、チタン元素換算で2〜20ミリモル%含有している必要がある。
【0039】
該チタン元素含有量が2ミリモル%未満では重縮合反応速度が遅すぎてポリエステルの生産性が低下し、目標の分子量のポリエステルが得られない。また、該チタン元素が20ミリモル%を越える場合は熱安定性が逆に低下し、繊維製造時の分子量低下が大きくなり品質の優れたポリエステル繊維が得られない。該チタン元素含有量は2.5〜17ミリモル%の範囲にあることが好ましく、3〜15ミリモル%の範囲にあることが更に好ましい。
【0040】
本発明のポリエステルにおいては、アルカリ土類金属化合物とリン化合物とが下記関係式(1)を満足するような割合で含有されている必要がある。
【0041】
【数5】
【0042】
ここで、(P/M)が0.4未満の場合、得られるポリエステルの耐熱性、色相が低下する。一方、1.5を越える場合には、得られるポリマーの分子量が低くなる。該(P/M)の範囲は0.5〜1.3の範囲にあることが好ましく、0.6〜1.1の範囲にあることが更に好ましい。
【0043】
次いで、本発明のポリエステルは、ポリエステルのメチル末端基含有量が、0.5〜7.0モル/106gの範囲にある必要がある。該メチル末端基含有量が0.5モル/106g未満の場合には熱安定性が低下する。一方、7.0モル/106gを越える場合には、ポリマーの分子量が低すぎ、十分な強度を有するポリエステル繊維を得ることができない。該メチル末端基の量は0.6〜6.0モル/106gの範囲にあることが好ましく、0.7〜5.0モル/106gの範囲にあることが更に好ましい。
【0044】
更に、本発明のポリエステルは示差走査型熱量測定において、溶融状態から急速冷却し非晶状態にあるポリエステルポリマーを、昇温速度20℃/分で測定して求めた昇温結晶化ピーク温度と、溶融状態にあるポリエステルポリマーを、降温速度10℃/分で測定して求めた降温結晶化ピーク温度との差が40℃以内である必要がある。
【0045】
該結晶化ピーク温度の差が40℃を越えると、特に巻き取り速度3000m以上の高速で繊維化する際、繊維物性、特に収縮率の変動が大きくなりやすくなり、最終的に得られる繊維製品の品質変動が大きくなりやすくなり好ましくない。
【0046】
該結晶化ピーク温度の差は35℃以内であることが好ましく、30℃以内であることが更に好ましい。また本発明のポリエステルが艶消し剤や滑剤等の無機粒子を含有しないポリエステルの場合、該結晶化ピークの差は25℃以内であることが好ましく、20℃以内であることが更に好ましい。
【0047】
本発明のポリエステルは、その固有粘度(ο−クロロフェノール、35℃)は、0.40〜0.80の範囲にあることが好ましく、更に0.45〜0.75、特に0.50〜0.70の範囲にあることが好ましい。固有粘度が上記の範囲内にあるときには、繊維としたときの強度が十分なものになると共に、固有粘度を過剰に引き上げる必要もないため経済的にも有利となる。
【0048】
本発明のポリエステルは、必要に応じて少量の添加剤、例えば滑剤、顔料、染料、酸化防止剤、固相重合促進剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤、艶消剤等を含んだポリエステル組成物としてもよい。特に艶消剤としての酸化チタンは好ましく添加され、その場合平均粒径が0.01〜2μmの酸化チタンを最終的に得られるポリエステル組成物中に0.01〜10重量%含有させるよう添加することが好ましい。
【0049】
本発明のポリエステルを製造するに際し、一般的にエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルの製造方法のいずれも採り得ることができ、例えば、原料としてテレフタル酸に代表される芳香族ジカルボン酸とエチレングリコールとを用いて直接エステル化した後に重合反応を行う製造方法、原料としてテレフタル酸ジメチルに代表される芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体をエチレングリコールとエステル交換反応させた後に重縮合反応を行う製造方法等をいずれも採用することができるが、このうち、一般的にはテレフタル酸を用いた直接エステル化による製造方法の方が得られるポリマーの色相が良好であり、好ましく実施されるが、エステル交換反応を経由する場合に出発原料となるテレフタル酸ジメチルは、ポリエステルの解重合による回収プロセスから容易に得ることが出来ることから環境面において有利であることから、本発明の製造方法としては、テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとをエステル交換反応させたのち、重縮合反応させてポリエステルを得ることが好ましく、テレフタル酸ジメチルはポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分のうち80モル%以上を占めることが好ましい。
【0050】
ここで、該テレフタル酸ジメチルとして具体的には、ポリアルキレンテレフタレートを解重合することによって回収されたリサイクルされたテレフタル酸ジメチルを好ましく用いることができ、該ポリアルキレンテレフタレートとしてはポリエチレンテレフタレートが好ましく、特に回収されたPETボトル、回収されたポリエステル繊維製品、回収されたポリエステルフィルム製品、更にはこれら製品の製造工程において発生する屑ポリマーなど回収されたポリエステルが好ましく用いられる。
【0051】
上記の解重合方法及び回収方法については特に限定はないが、例えば、ポリエチレンテレフタレートをエチレングリコールで解重合した後、メタノールでエステル交換反応し、得られたテレフタル酸ジメチルを再結晶や蒸留で精製する方法が挙げられる。
【0052】
本発明のポリエステルの製造方法において、アルカリ土類金属化合物、リン化合物、ポリエステルに可溶なチタン化合物、の三者の反応系内への添加順序は、先ずエステル交換反応開始前にテレフタル酸ジアルキルエステルとエチレングリコールとともにアルカリ土類金属化合物を存在させて徐々に昇温し、発生するアルコールを除去させつつエステル交換反応を実施した後、リン化合物を添加して実質的にエステル交換反応を完了させ、次いで得られた反応生成物をポリエステルに可溶なチタン化合物を添加し高真空化で重縮合反応を行う。
【0053】
本発明のポリエステルの製造方法における、エステル交換反応時の反応系内の圧力については、常圧ないし0.20MPaの圧力下で行えばよく、通常は常圧での反応が好ましく実施されるが、必要に応じて加圧下での反応を実施してもよい。加圧下でのエステル交換反応を実施する場合、圧力を0.20MPaより高くすると、副生成物として発生するジエチレングリコールのポリマー中の含有量が著しく増加し、ポリマーの熱安定性等の特性が劣ってしまう為、0.20MPa以下、好ましくは0.06〜0.10MPaの範囲で実施することが好ましい。
【0054】
さらに、本発明の製造方法において、ポリエステルに可溶なチタン化合物としては、下記一般式(III)で表される化合物、又は、一般式(III)で表される化合物と下記一般式(IV)で表される芳香族多価カルボン酸若しくはその無水物とを反応させた生成物とすることが好ましい。
【0055】
【化15】
【0056】
【化16】
【0057】
本発明のポリエステル繊維を製造する時の製造方法としては特に限定はなく、従来公知の溶融紡糸方法が用いられるが、例えばポリエステルを270℃〜300℃の範囲で溶融紡糸して製造することが好ましく、溶融紡糸の速度は400〜5000m/分で紡糸することが好ましい。紡糸速度がこの範囲にあると、得られる繊維の強度も十分なものであると共に、安定して巻き取りを行うこともできる。また延伸はポリエステル繊維を巻き取ってから、あるいは一旦巻き取ることなく連続的に延伸処理することによって、延伸糸を得ることができる。更に本発明のポリエステル繊維は風合を高める為に、アルカリ減量処理も好ましく実施される。
【0058】
本発明のポリエステル繊維を製造する際において、紡糸時に使用する口金の形状について制限は無く、円形、異形、中実、中空等のいずれも採用することができる。
【0059】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれにより何ら限定を受けるものでは無い。尚、実施例中の各値については下記の方法に従って求めた。
【0060】
(1)固有粘度:
常法に従って、ポリエステルポリマーの固有粘度は、オルトクロロフェノール溶液について、35℃において測定した相対粘度の値から求めた。
【0061】
(2)色調(L値及びb値):
試料を290℃、真空下で10分間溶融し、これをアルミニウム板上で厚さ3.0±1.0mmのプレートに成形後ただちに氷水中で急冷し、該プレートを160℃、1時間乾燥結晶化処理後、色差計調整用の白色標準プレート上に置き、プレート表面のハンターL値及びb値を、ミノルタ社製ハンター型色差計CR−200を用いて測定した。L値は明度を示し、その数値が大きいほど明度が高いことを示し、b値はその値が大きいほど黄着色の度合いが大きいことを示す。
【0062】
(3)ポリマー中のチタン、リン、アンチモン含有量:
常法に従って、試料を加熱溶融して円形ディスクを作成し、リガク社製蛍光X線測定装置3270を用いて測定した。ただし、艶消し剤として酸化チタンを添加したもののチタン元素量についてはヘキサフルオロイソプロパノールに溶解し、遠心分離機で酸化チタン粒子を沈降させ、傾斜法により上澄み液のみを回収し、溶剤を蒸発させた後に測定した。
【0063】
(4)ポリマー中のカルシウム、マグネシウム含有量:
常法に従って、試料をオルトクロロフェノールに溶解した後、0.5規定塩酸で抽出操作を行った。この抽出液について日立製作所製Z−6100形偏光ゼーマン原子吸光光度計を用いてカルシウム、マグネシウムの定量を行った。
【0064】
(5)ポリマー中のメチル末端基含有量、ジエチレングリコール含有量:
抱水ヒドラジンを用いてポリマーを分解し、ガスクロマトグラフィ−(ヒューレットパッカード社製「HP6850」)を用い、含有メタノール量、ジエチレングリコール含有量を常法に従って測定した。
【0065】
(6)ポリマーの昇温結晶化ピーク温度、降温結晶化ピーク温度:
示差走査熱量計(DSC)としてTA Instruments社製 DSC2010 Differential Scanning Calorimeterを用いて、窒素雰囲気下、20℃/分の昇温速度で300℃まで昇温した試料を、一旦0℃の雰囲気下で5分間保持して非晶状態のポリマーとした後、再度20℃/分の昇温速度で300℃まで昇温し、JIS K7121に従い、昇温結晶化ピーク温度を測定した。更に同サンプルを10℃/分の降温速度で降温し、JIS K7121に従い、降温結晶化ピーク温度を測定した。
【0066】
(7)引張強度、引張伸度:
JIS L1013記載の方法に準拠して測定を行った。
【0067】
(8)紡糸口金に発生する付着物の層:
ポリエステルをチップとなし、これを290℃で溶融し、孔径0.15mmφ、孔数12個の紡糸口金から吐出し、紡糸速度600m/分にて2日間連続紡糸し、口金表面の吐出口外縁に発生する付着物層の高さを測定した。この付着物層の高さが大きいほど吐出されたフィラメント状ポリエステルポリマー流にベンディングが発生しやすく、結果としてポリエステルの成形性が悪化する。すなわち、紡糸口金に発生する付着物層の高さは、当該ポリエステルの成形性の指標である。
【0068】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100gとエチレングリコール70gとの混合物に、酢酸マグネシウム四水和物0.077gを撹拌機、精留塔及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、140℃から240℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを系外に留出させながら、エステル交換反応を行った。その後、モノ−n−ブチルホスフェート0.050gを添加し、エステル交換反応を終了させた。
【0069】
このエステル交換反応物を撹拌装置、窒素導入口、減圧口、蒸留装置を備えた反応容器に移し、重合触媒としてテトラブトキシチタネート0.0123gを添加して285℃まで昇温し、30Pa以下の高真空にて重縮合反応を行って、固有粘度0.63、ジエチレングリコール含有量が0.7wt%であるポリエステルを得た。
【0070】
得られたチップを常法により乾燥した後、孔径0.3mmの円形紡糸孔を36個備えた紡糸口金を有する押出紡糸機を用いて287℃で溶融し、引取速度1400m/分で紡糸し、333dtex/36filの未延伸糸を作り、次いで85℃の加熱ローラーと160℃のプレートヒーターとを有する延伸処理機に供し、4.0倍で延伸処理し、83dtex/36filの延伸糸を得た。結果を表2に示す。
【0071】
[参考例]トリメリット酸チタンの合成方法:
無水トリメリット酸のエチレングリコール溶液(0.2%)にテトラブトキシチタンを無水トリメリット酸に対して1/2モル添加し、空気中常圧下で80℃に保持して60分間反応させた後、常温に冷却し、10倍量のアセトンによって生成触媒を再結晶化させ、析出物を濾紙によって濾過し、100℃で2時間乾燥させて、目的とするトリメリット酸チタンを得た。
【0072】
[実施例2]
実施例1において、チタン化合物を上記参考例の方法にて合成したトリメリット酸チタン0.0221gに変更したこと以外は同様の操作を行って、ポリエステル及び繊維を得た。結果を表2に示す。
【0073】
[実施例3〜8、比較例1〜6]
実施例1において、チタン化合物及びリン化合物を表1に示す化合物及び値に変更したこと以外は同様の操作を行って、ポリエステル及び繊維を得た。ただし、比較例1に関してはエステル交換反応が十分に進行しなかった為、重縮合反応は実施しなかった。結果を表2に示す。
【0074】
[実施例9〜12、比較例7]
実施例1において、酢酸マグネシウム四水和物の代わりに酢酸カルシウム一水和物を表1に示す値とし、チタン化合物及びリン化合物を表1に示す化合物及び値に変更したこと以外は同様の操作を行ってポリエステル及び繊維を得た。結果を表2に示す。
【0075】
[実施例13〜14]
実施例1において、酢酸マグネシウム四水和物、酢酸カルシウム一水和物、チタン化合物及びリン化合物を表1に示す化合物及び値とし、エステル交換反応終了後、平均粒径0.3μmの酸化チタンの20重量%エチレングリコールスラリーを1.5g添加したこと以外は同様の操作を行って、ポリエステル及び繊維を得た。結果を表2に示す。
【0076】
[実施例15]
実施例1において、酢酸マグネシウム四水和物、酢酸カルシウム一水和物、チタン化合物及びリン化合物を表1に示す化合物及び値とし、テレフタル酸ジメチルとして、ポリエチレンテレフタレートを解重合して得られた回収されたテレフタル酸ジメチルを用いたこと以外は同様の操作を行ってポリエステル及び繊維を得た。結果を表2に示す。
【0077】
[比較例8〜9]
実施例1において、酢酸マグネシウム四水和物、酢酸カルシウム一水和物及びリン化合物を表1に示す化合物及び値とし、重合触媒としてチタン化合物の代わりに三酸化二アンチモンを表1に示す量使用したこと以外は同様の操作を行ってポリエステル及び繊維を得た。結果を表2に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
表2からも明らかなように、本発明のポリエステル繊維は良好な性能が得られたが、アルカリ土類金属触媒、有機リン化合物、ポリマー可溶性チタン化合物の添加量及び比率が本発明の範囲を外れる場合(比較例1〜7)は、色相が不良であるか、固有粘度が上昇しなかった。また、アンチモン化合物を触媒として用いたもの(比較8〜9)は、口金異物量が非常に多いものであった。
【0081】
【発明の効果】
本発明によれば、チタン化合物を重縮合触媒として使用しつつ従来技術の欠点であった色相の悪化を解消し、ポリエステルが持つ、優れた特性を保持しながら、色相が優れたポリエステル繊維を提供することができる。
Claims (10)
- アルカリ土類金属化合物がカルシウム化合物及び/又はマグネシウム化合物である請求項1記載のポリエステル。
- 請求項1〜4のいずれか記載のポリエステルを溶融紡糸することによって得られる、ポリエステル繊維。
- テレフタル酸ジアルキルエステルがテレフタル酸ジメチルである、請求項6記載の製造方法。
- テレフタル酸ジメチルがポリアルキレンテレフタレートを解重合して回収されたものである、請求項8記載のポリエステルの製造方法。
- 請求項6〜9のいずれか記載の製造方法によって得られたポリエステルを溶融紡糸する、ポリエステル繊維の製造方法。
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