JP2004175912A - ポリエステルフィルム及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】ポリエステルフィルム表面上に触媒金属に起因する析出粗大突起数が極めて少ないポリエステルフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】メチル末端基を0.5〜7.0モル/106gの範囲で有し、アルカリ土類金属化合物、リン化合物およびポリマー中に可溶なチタン化合物を式(1)〜(3)
30≦M≦120 ・・・(1)
0.4≦P/M≦1.5 ・・・(2)
2≦Ti≦20 ・・・(3)
(Mはアルカリ土類金属元素、Pはリン化合物中のリン元素およびTiはチタン化合物中のチタン金属元素の全ジカルボン酸成分に対するモル濃度(ミリモル%)を示す。)の範囲で含有し、昇温速度20℃/分で測定した昇温結晶化ピーク温度と溶融状態から降温速度10℃/分で測定した降温結晶化ピーク温度との差が40℃以内であるポリエチレンテレフタレート樹脂組成物からなるポリエステルフィルム。
【選択図】 なし
【解決手段】メチル末端基を0.5〜7.0モル/106gの範囲で有し、アルカリ土類金属化合物、リン化合物およびポリマー中に可溶なチタン化合物を式(1)〜(3)
30≦M≦120 ・・・(1)
0.4≦P/M≦1.5 ・・・(2)
2≦Ti≦20 ・・・(3)
(Mはアルカリ土類金属元素、Pはリン化合物中のリン元素およびTiはチタン化合物中のチタン金属元素の全ジカルボン酸成分に対するモル濃度(ミリモル%)を示す。)の範囲で含有し、昇温速度20℃/分で測定した昇温結晶化ピーク温度と溶融状態から降温速度10℃/分で測定した降温結晶化ピーク温度との差が40℃以内であるポリエチレンテレフタレート樹脂組成物からなるポリエステルフィルム。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はポリエステルフィルム及びポリエステルフィルムの製造方法に関する。さらに詳しくは、重合触媒として実質的にチタン化合物を用いたポリエステルフィルムにおいて、色相,触媒金属に起因する析出異物の抑制性およびポリエステル再溶融時の熱劣化抑制性に優れたポリエステル樹脂組成物からなり、ポリエステルフィルム表面上の粗大突起数が極めて少ないことを特徴とするポリエステルフィルムおよびポリエステルフィルムの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエチレンテレフタレートは、その機械的、物理的、化学的性能が優れているため、繊維、フィルム、その他の成形物に広く利用されている。
【0003】
ポリエチレンテレフタレートは、通常テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルのようなテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるか又はテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させて、テレフタル酸のエチレングリコールエステル及び/又はその低重合体を生成させ、次いでこの反応生成物を重合触媒の存在下で減圧加熱して所定の重合度になるまで重縮合反応させることによって製造されている。
【0004】
これらの重縮合反応段階で使用する触媒の種類によって、反応速度および得られるポリエステルの品質が大きく左右されることはよく知られている。ポリエチレンテレフタレートの重縮合触媒としては、アンチモン化合物が優れた重縮合触媒性能を有し、かつ色調の良好なポリエステルが得られるなどの理由から最も広く使用されている。
【0005】
しかしながら、アンチモン化合物を重縮合触媒として使用した場合、ポリエステル樹脂組成物中でアンチモン化合物に起因した析出粒子が出来やすく、フィルム製膜時に表面欠点およびダイ筋と呼ばれる表面筋が形成される為、得られるフィルム品質が損なわれるといった問題がある。
【0006】
アンチモン化合物以外の重縮合触媒として、チタンテトラブトキシドのようなチタン化合物を用いることも提案されているが、このようなチタン化合物を使用した場合、上記のような、表面欠点・表面筋に起因する問題は解決できるが、得られるポリエステル自身が黄色く着色し、また、溶融熱安定性も不良であるという新たな問題が発生する。
【0007】
このような着色に関する問題を解決するために、コバルト化合物をポリエステルに添加して黄味を抑えることが一般的に行われている。確かにコバルト化合物を添加することによってポリエステルの色調(b値)は改善されるが、コバルト化合物を添加することによってポリエステルの溶融熱安定性が低下し、ポリマーの分解も起こりやすくなるという問題がある。
【0008】
また、他のチタン化合物として、特公昭48−2229号公報には水酸化チタンをポリエステル製造用の触媒として使用しているものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0009】
また特公昭47−26597号公報にはα−チタン酸をポリエステル製造用の触媒として使用している場合もある(例えば特許文献2参照。)。
しかしながら、前者の方法では水酸化チタンの粉末化が容易でなく、一方、後者の方法ではα−チタン酸が変質し易いため、その保存、取り扱いが容易でなく、したがっていずれも工業的に採用するには適当ではなく、さらに良好な色調(b値)を得ることも困難であった。
【0010】
また、特公昭59−46258号公報では、チタン化合物として、チタン化合物とトリメリット酸とを反応させて得られた生成物をポリエステル製造用の触媒として使用している(例えば、特許文献3参照。)。
【0011】
さらに、特開昭58−38722号公報ではチタン化合物と亜リン酸エステルとを反応させて得られた生成物を、ポリエステル製造用の触媒として使用している(例えば、特許文献4参照。)。
【0012】
さらにまた特開平7―138354号公報では、リン化合物とチタン化合物との錯体をそれぞれポリエステル製造用触媒として使用することが開示されている(例えば、特許文献5参照。)。
【0013】
これらの方法によれば、ポリエステルの溶融熱安定性は向上するものの、得られるポリマーの色調は、いまだ十分なものではなかった。したがって触媒としてアンチモン化合物を使用せずに、熱安定性,色相およびフィルム表面特性に優れたポリエステルフィルムはいまだ提供されていないのが現状である。
【0014】
【特許文献1】
特公昭48−2229号公報
【0015】
【特許文献2】
特公昭47−26597号公報
【0016】
【特許文献3】
特公昭59−46258号公報
【0017】
【特許文献4】
特開昭58−38722号公報
【0018】
【特許文献5】
特開平7−138354号公報
【0019】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、重合触媒として実質的にチタン化合物を用いたポリエステルフィルムにおいて、色相,触媒金属に起因する析出異物の抑制性およびポリエステル再溶融時の熱劣化抑制性に優れたポリエステル樹脂組成物からなり、該ポリエステルフィルム表面上の触媒金属に起因する析出粗大突起数が極めて少ないポリエステルフィルムおよびポリエステルフィルムの製造方法を提供することにある。
【0020】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、アルカリ土類金属化合物、リン化合物およびポリマー中に可溶なチタン化合物を特定の範囲で含有し、さらに得られたポリマーのメチル末端基量、および昇温時と降温時の結晶化ピーク温度差を特定範囲とすることによって、析出異物および熱劣化を抑制し、優れた色相を維持しつつ、フィルム表面上に触媒金属に起因する析出粗大突起数が極めて少ないポリエステルフィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
かくして本発明によれば、メチル末端基を0.5〜7.0モル/106gの範囲で有し、アルカリ土類金属化合物、リン化合物およびポリマー中に可溶なチタン化合物を下記式(1)〜(3)
【0022】
【数4】
30≦M≦120 ・・・(1)
【0023】
【数5】
0.4≦P/M≦1.5 ・・・(2)
【0024】
【数6】
2≦Ti≦20 ・・・(3)
(ここで、上記式(1)〜(3)中の、Mはアルカリ土類金属元素、Pはリン化合物中のリン元素およびTiはチタン化合物中のチタン金属元素の全ジカルボン酸成分に対するモル濃度(ミリモル%)を示す。)
の範囲で含有し、かつ示差走査型熱量測定における急速冷却後のポリマーの非晶状態から昇温速度20℃/分で測定した昇温結晶化ピーク温度と溶融状態から降温速度10℃/分で測定した降温結晶化ピーク温度との差が40℃以内であるポリエチレンテレフタレート樹脂組成物であるポリエステルフィルムが提供される。
【0025】
また、本発明のポリエステルフィルムは、その好ましい態様として、(1)リン化合物が下記一般式(I)で表わされる化合物
【0026】
【化9】
(ここで、式中、R1は炭素数2〜18のアルキル基、または炭素数6〜20のアリール基であり、nは1または2の整数、pは0または1の整数を示す。)
および下記一般式(II)で表わされる化合物
【0027】
【化10】
(ここで、式中、R2及びR3は、水素または炭素数1〜4のアルキル基を示し、それぞれ同一でも異なっていてもよい。Xは−CH2−または―CH(Y)−(Yはフェニル基を示す)を示す。)
からなる群より選ばれた少なくとも1種であること、
(2)チタン化合物が、下記一般式(III)で表わされる化合物および下記一般式(III)で表わされる化合物と下記一般式(IV)で表わされる芳香族多価カルボン酸またはその無水物との反応生成物からなる群より選ばれた少なくとも1種であること、および
【0028】
【化11】
R4O−[Ti(OR5)(OR6)]m−OR7 (III)
(上式中、R4、R5、R6およびR7はそれぞれ炭素数2〜10個のアルキル基、またmは1〜3の整数を表す。)
【0029】
【化12】
(ここで、式中、qは2〜4の整数を表す。)
(3)アルカリ土類金属化合物がカルシウム化合物およびマグネシウム化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種であることのいずれかを具備するポリエチレンテレフタレート樹脂組成物から得られるポリエステルフィルムも包含される。
【0030】
また、本発明によれば、ポリエステルフィルムが二軸配向ポリエステルフィルムであること、およびポリエステルフィルムの一方の表面にある長径10μm以上の粗大突起が10個/cm2未満であることのいずれかを具備するポリエステルフィルムも包含される。
【0031】
また、本発明の他の目的は、テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとを、常圧〜0.2MPa以下の加圧下で、全ジカルボン酸成分に対して30〜120ミリモル%のアルカリ土類金属化合物を用いてエステル交換反応させる工程、前記一般式(I)で表わされる化合物および前記一般式(II)で表わされる化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種のリン化合物を、アルカリ土類金属化合物に対して0.4〜1.5のモル比でエステル交換反応中の反応系に添加して、エステル交換反応を終了させる工程、および前記一般式(III)で表わされる化合物および前記一般式(III)で表わされる化合物と前記一般式(IV)で表わされる芳香族多価カルボン酸またはその無水物とを反応させて得られた生成物からなる群より選ばれた少なくとも1種のポリエチレンテレフタレートに可溶なチタン化合物を、全ジカルボン酸成分に対して、チタン金属元素量で2〜20ミリモル%用いて重合反応させる工程から製造されたポリエチレンテレフタレートを溶融状態でシート状に押出し、少なくとも1軸方向に延伸するポリエステルフィルムの製造方法によって達成される。
【0032】
さらに、該テレフタル酸ジメチルが、ポリエチレンテレフタレートを解重合して得られた、リサイクルされたテレフタル酸ジメチルであるポリエステルフィルムの製造方法も本発明に包含される。
【0033】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明のポリエステルフィルムは、ポリエチレンテレフタレートからなる。本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は、80重量%以上、好ましくは85重量%以上がポリエチレンテレフタレート樹脂からなるものであり、ポリエチレンテレフタレート樹脂以外の他の樹脂を、混合したものであっても良い。また、本発明におけるポリエチレンテレフタレートとは、エチレンテレフタレート成分を主たる繰返し単位とするポリエステルである。なおここでいう主たる繰り返し単位とは、全繰り返し単位の80モル%以上、好ましくは85モル%以上を意味する。
【0034】
また、本発明のポリエチレンテレフタレートは、エチレンテレフタレート単位を構成する成分以外の第3成分を共重合した、共重合ポリエチレンテレフタレートであってもよい。かかる第3成分(共重合成分)としては、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、フタル酸等の如きテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の如き脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の如き脂環族ジカルボン酸、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等のグリコールが挙げられ、これらは単独で使用しても二種以上を併用してもよい。
【0035】
本発明のポリエチレンテレフタレートは、芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体であるテレフタル酸ジメチルを出発原料として、全芳香族ジカルボン酸成分100モル%に対して80モル%以上、好ましくは85モル%以上用いることが好ましい。
【0036】
さらに、本発明において原料として使用されるテレフタル酸ジメチルとしては、ポリエチレンテレフタレートを解重合することによってリサイクルされたテレフタル酸ジメチルが好ましく使用され、特に回収されたPET(ポリエチレンテレフタレート)ボトル、回収されたポリエステル繊維製品、回収されたポリエステルフィルム製品、更にはこれら製品の製造工程において発生する屑ポリマーなどといった、回収されたポリエチレンテレフタレートを用いることが好ましい。本発明において、テレフタル酸ジメチルとして、ポリエチレンテレフタレートを解重合することによってリサイクルされたテレフタル酸ジメチルが好ましく使用される理由としては、本発明のポリエステルの製造方法を用いることによって、リサイクルされたテレフタル酸ジメチルであっても析出粗大突起の少ないポリエステルフィルムを得ることが可能となったためである。
【0037】
本発明に用いられる、ポリエチレンテレフタレートの解重合によるテレフタル酸ジメチルの製造方法は特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレートをエチレングリコールで解重合した後、メタノールでエステル交換反応し、得られたテレフタル酸ジメチルを再結晶や蒸留で精製する方法が挙げられる。
【0038】
本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエチレンテレフタレートは、ポリマー中のメチル末端基の量が0.5〜7.0モル/106gの範囲にあることが必要である。メチル末端基の量が下限未満の場合は、熱安定性が低下し、一方上限を超える場合、エステル交換反応後に実施される重合反応の速度が遅くなる。メチル末端基の量は0.6〜6.0モル/106gの範囲が好ましく、0.7〜5.0モル/106gの範囲が更に好ましい。
【0039】
本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエチレンテレフタレートの固有粘度は、ο−クロロフェノール中、35℃において、0.40〜0.80の範囲にあることが好ましく、さらに0.45〜0.75、特に0.50〜0.70の範囲であることが好ましい。固有粘度が下限未満であると、フィルムの強度が不足するため好ましくない。他方、固有粘度が上限を超えると、原料ポリマーの固有粘度を過剰に引き上げる必要があり不経済である。
【0040】
本発明のポリエステルフィルムは、アルカリ土類金属化合物を含有する。該アルカリ土類金属化合物は、エステル交換反応触媒として使用される。該アルカリ土類金属化合物の含有量は、全ジカルボン酸成分に対してアルカリ土類金属元素量で30〜120ミリモル%の範囲である。アルカリ土類金属化合物の含有量が下限未満の場合、エステル交換反応が非常に遅くなる結果、得られるポリマーの分子量が低くなる。一方、アルカリ土類金属化合物の含有量が上限より多い場合、得られるポリエステルの熱安定性や色相が低下する。該アルカリ土類金属化合物の含有量は、35〜110ミリモル%の範囲が好ましく、40〜100ミリモル%の範囲が更に好ましい。
【0041】
本発明において用いられるアルカリ土類金属化合物としては、例えばカルシウム化合物、マグネシウム化合物、ストロンチウム化合物、バリウム化合物が挙げられ、これらの中でもカルシウム化合物、マグネシウム化合物が好ましい。カルシウム化合物としては、酢酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、安息香酸カルシウム、蟻酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム等、及びこれらの水和物が挙げられる。また、マグネシウム化合物としては酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム、安息香酸マグネシウム、蟻酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム等、及びこれらの水和物が挙げられる。これらの中でも、酢酸カルシウム一水和物、酢酸マグネシウム四水和物が特に好ましく用いられる。これらのアルカリ土類金属化合物は、単独で使用してもよく、また二種以上併用してもよい。
【0042】
本発明のポリエステルフィルムは、安定剤として下記一般式(I)で表されるリン化合物および下記一般式(II)で表されるリン化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0043】
【化13】
(ここで、式中、R1は炭素数2〜18のアルキル基、または炭素数6〜20のアリール基であり、nは1または2の整数、pは0または1の整数を示す。)
【0044】
【化14】
(ここで、式中、R2及びR3は、水素または炭素数1〜4のアルキル基を示し、それぞれ同一でも異なっていてもよい。Xは−CH2−または―CH(Y)−(Yはフェニル基を示す)を示す。)
上記の式(I)で表されるリン化合物としては、式中のpが0の場合は、フェニルホスホン酸、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、イソプロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、トリルホスホン酸、キシリルホスホン酸、ビフェニルホスホン酸、ナフチルホスホン酸、アントリルホスホン酸、2−カルボキシフェニルホスホン酸、3−カルボキシフェニルホスホン酸、4−カルボキシフェニルホスホン酸、2,3−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,4−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,6−ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,4−ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,4−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,5−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,6−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,4,5−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,4,6−トリカルボキシフェニルホスホン酸が例示され、中でもモノアリールホスホン酸が好ましい。
【0045】
また、pが1の場合は、モノメチルホスフェート、モノエチルホスフェート、モノトリメチルホスフェート、モノ−n−ブチルホスフェート、モノヘキシルホスフェート、モノヘプチルホスフェート、モノノニルホスフェート、モノデシルホスフェート、モノドデシルホスフェート、モノフェニルホスフェート、モノベンジルホスフェート、モノ(4−ドデシル)フェニルホスフェート、モノ(4−メチルフェニル)ホスフェート、モノ(4−エチルフェニル)ホスフェート、モノ(4−プロピルフェニル)ホスフェート、モノ(4−ドデシルフェニル)ホスフェート、モノトリルホスフェート、モノキシリルホスフェート、モノビフェニルホスフェート、モノナフチルホスフェート、モノアントリルホスフェートが例示される。
【0046】
上記の式(II)で表されるリン化合物としては、例えばカルボメトキシメタンホスホン酸、カルボエトキシメタンホスホン酸、カルボプロポキシメタンホスホン酸、カルボブトキシメタンホスホン酸、カルボメトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボエトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボプロトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸およびカルボブトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、および、上記例示化合物のヒドロキシル基が炭素数1〜4のアルキル基で置換されたエステル化合物が挙げられるが、中でもトリエチルホスホノアセテートが好ましい。
【0047】
本発明において、これらのリン化合物が好ましい理由は、エチレングリコールやポリエステルへの溶解性が良く、また触媒の活性を失活させることなく適度なポリマーの熱安定性を付与させることが可能なことも、好ましい理由として挙げられる。
【0048】
本発明において用いられるリン化合物の含有量は、全ジカルボン酸成分に対してリン元素量で、12〜180ミリモル%の範囲であることが好ましく、さらに14〜90ミリモル%であることが好ましい。リン化合物の含有量が下限未満の場合は、得られるポリエステルの色調が不良となり、かつその耐熱性が低下することがあるといった点から好ましくない。一方リン化合物の含有量が上限を超える場合は、ポリエステル生成反応に対する触媒活性が不十分となる。
これらリン化合物の添加時期は、特に制限されず、重縮合反応が終了するまでならいつでもよく、エステル交換反応開始前でもよい。また複数回に分けて添加することもできる。
【0049】
本発明のポリエステルフィルムは、アルカリ土類金属化合物中のアルカリ土類金属元素のモル数でリン化合物のリン元素のモル数を割った値(P/M)が、0.4〜1.5の範囲にあることが必要である。(P/M)が下限未満の場合、フィルムを構成するポリエチレンテレフタレートの耐熱性や色相が低下し、一方上限を超える場合、フィルムを構成するポリエチレンテレフタレートの分子量が低下し、十分な力学特性が得られない。(P/M)の範囲は0.5〜1.3の範囲が好ましく、0.6〜1.1の範囲がさらに好ましい。
【0050】
本発明のポリエステルフィルムは、重合触媒としてチタン化合物を含有する。チタン化合物は、触媒に起因する異物低減の点で、ポリエチレンテレフタレートに可溶なチタン化合物を使用する必要がある。ポリエチレンテレフタレートに可溶なチタン化合物であれば特に制限されず、ポリエステルの重縮合触媒として一般的なチタン化合物、例えば、酢酸チタンやテトラ−n−ブトキシチタンなどが挙げられる。これらの中でも、下記一般式(III)で表わされる化合物、および下記一般式(III)で表わされる化合物と下記一般式(IV)で表わされる芳香族多価カルボン酸またはその無水物との反応生成物が好ましい。
【0051】
【化15】
R4O−[Ti(OR5)(OR6)]m−OR7 (III)
(ここで、式中、R4、R5、R6およびR7はそれぞれ炭素数2〜10個のアルキル基、またmは1〜3の整数を表す。)
【0052】
【化16】
(ここで、式中、qは2〜4の整数を表す。)
一般式(III)で表わされるテトラアルコキサイドチタンとしては、R4〜R7が炭素数2〜10のアルキル基であれば特に限定されないが、特にテトライソプロポキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラエトキシチタンなどが好ましく用いられる。また、R4〜R7がフェニル基であってもよく、テトラフェノキシチタンが例示される。
【0053】
また、一般式(IV)で表わされる芳香族多価カルボン酸またはその酸無水物としては、フタル酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸およびこれらの酸無水物が好ましく用いられ、これらの中でも特に無水トリメリット酸が好ましく例示される。上記チタン化合物と芳香族多価カルボン酸またはその酸無水物とを反応させる場合には、溶媒に芳香族多価カルボン酸またはその酸無水物の一部とを溶解し、これにチタン化合物を滴下し、0〜200℃の温度で30分以上反応させれば良い。
【0054】
本発明で用いられるポリエステルには、ポリマー中に可溶なチタン化合物を全ジカルボン酸成分に対し、チタン金属元素量で2〜20ミリモル%含有している必要がある。該チタン化合物が下限未満ではポリエステルの生産性が低下し、目標の分子量のポリエステルが得られない。また、該チタン化合物が上限を超える場合は熱安定性が低下し、フィルム製造時の分子量低下が大きくなり、品質の優れたポリエステルフィルムが得られない。チタン化合物の含有量は2.5〜17ミリモル%の範囲が好ましく、3〜15ミリモル%の範囲がさらに好ましい。
【0055】
これらチタン化合物の添加時期については特に制限されず、重縮合反応開始前であればいつでもよく、エステル交換反応開始前であってもよい。また複数回に分けて添加することもできる。
【0056】
本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエチレンテレフタレートは、示差走査型熱量測定における急速冷却後のポリマーの非晶状態から昇温速度20℃/分で測定した昇温結晶化ピーク温度と、溶融状態から降温速度10℃/分で測定した降温結晶化ピーク温度との差(以下、△Tと称することがある。)が40℃以内である必要がある。該結晶化ピーク温度の差(△T)が範囲をはずれる場合、製膜工程において、部分結晶化により均一な延伸が難しく、切断等の工程トラブルを引き起こすばかりでなく、最終的に得られるフィルム製品の品質変動が大きくなる。該結晶化ピーク温度の差は35℃以内であることが好ましく、30℃以内であることがさらに好ましい。また本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエチレンテレフタレートが艶消し剤や滑剤等の無機粒子を含有しない場合、該結晶化ピーク温度の差は25℃以内であることが好ましく、20℃以内であることが更に好ましい。
【0057】
本発明におけるポリエステルフィルムは、フィルム表面上に存在する長径10μm以上の粗大突起数が10個/cm2未満であることが好ましい。粗大突起数が上限を超える場合は、フィルム表面の平坦性が低下し、ベースフィルムに対し、特に平坦な表面性が要求される磁気記録媒体において好適に使用することができない。ここで長径とは、フィルム表面の平坦な面に沿って粗大突起の断面を特定し、断面部における粒径の最大値を指す。本発明において、フィルム表面上に存在する長径10μm以上の粗大突起数を10個/cm2未満に達成できる最大の理由は、異物が析出しにくいチタン化合物を用いている点にある。
【0058】
本発明で用いられるポリエステルフィルムを構成するポリエチレンテレフタレートは、必要に応じて少量の添加剤、例えば滑剤、顔料、染料、酸化防止剤、固相重合促進剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤、艶消剤を含んでいてもよい。特に製膜時の巻き取り性を付与する為に、滑剤として平均粒径が0.001〜5μmの不活性粒子を、最終的に得られるポリエステルフィルム中に0.01〜10重量%含有するように添加することが好ましい。添加する不活性粒子としては、例えばコロイダルシリカ、多孔質シリカ、酸化チタン、酸化アルミナ、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化ジルコニウム、カオリン、複合酸化物粒子等の無機粒子や、シリコーン粒子、架橋ポリスチレン、架橋アクリルポリマー、架橋ポリエステルなどの有機粒子が好ましく用いられる。
【0059】
一般的にエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエチレンテレフタレートの製造方法には、原料としてテレフタル酸に代表される芳香族ジカルボン酸とエチレングリコールとを用いて直接エステル化した後に重合反応を行う製造方法と、原料としてテレフタル酸ジメチルに代表される芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体をエチレングリコールとエステル交換反応せしめた後に重合反応を行う製造方法の二つの方法が知られている。一般的にはテレフタル酸を用いた直接エステル化による製造方法の方が、得られるポリマーの色相が良好であり、好ましく実施される。しかし、エステル交換反応は原料であるテレフタル酸ジメチルがポリエステルの解重合による回収プロセスから容易に得ることが出来、環境面からその必要性が高まってきている。そのため、本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエチレンテレフタレートは、テレフタル酸のエステル形成性誘導体をエステル交換反応せしめることによって製造することが好ましい。この出発原料であるテレフタル酸ジメチルは全ジカルボン酸成分の80モル%以上であることが好ましい。
【0060】
本発明で用いられるポリエステルの製造方法において、エステル交換反応触媒であるアルカリ土類金属化合物、エステル交換反応失活剤であるリン化合物、重合触媒であるポリマーに可溶性なチタン化合物の添加順序は、まずエステル交換反応開始前にテレフタル酸ジメチルとともにエステル交換反応触媒であるアルカリ土類金属化合物を添加して徐々に昇温し、発生するアルコールを除去させながらエステル交換反応を実施し、エステル交換反応後にエステル交換反応失活剤であるリン化合物を添加して実質的にエステル交換反応を完了させる。その後反応生成物を減圧装置が設けられた重合反応器に移し替える前後に重合触媒であるポリマーに可溶性なチタン化合物を添加して高真空下での重合反応を行う。
【0061】
本発明におけるポリエステルの製造方法では、エステル交換反応時の反応系内の圧力については、通常は常圧での反応が好ましく実施されるが、必要に応じて0.2MPa以下の加圧下での反応を実施してもよい。加圧下でエステル交換反応を実施する場合、圧力が上限より高いと、副生成物として発生するジエチレングリコールのポリマー中の含有量が著しく増加し、ポリマーの熱安定性等の特性が低下することがある。本発明における好ましいエステル交換反応時の反応系内の圧力は、0.06〜0.10MPaの範囲である。
【0062】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法としては特に限定はなく、従来公知の技術を用いる事が出来る。以下に、ポリエチレンテレフタレート組成物を用いた場合を代表例として例示する。
【0063】
重縮合反応により得られたポリエステルチップを(Tc)〜(Tc+40)℃(ここで、Tcはポリエステルの昇温時の結晶化温度を示す)の温度範囲で1〜3時間乾燥した後、(Tm)〜(Tm+70)℃(ここで、Tmはポリエステルの融点を示す)の温度範囲内でシート状に溶融押出し、次いで表面温度20〜40℃の回転冷却ドラム上に密着固化させて、実質的に非晶質のポリエステルシート(未延伸フィルム)を得る。次いで未延伸フィルムを縦方向に延伸した後、横方向に延伸する、いわゆる縦・横逐次二軸延伸法、あるいは、この順序を逆にして延伸する方法などにより延伸する。延伸する際の温度は(Tg−10)〜(Tg+70)℃( ここで、Tgはポリエチレンテレフタレートの二次転移点温度を示す)であって、延伸倍率は少なくとも一軸方向に2.5倍以上、さらには3倍以上で、かつ面積倍率が8倍以上、さらには10〜30倍の範囲から選ぶのが好ましい。
【0064】
本発明のポリエステルフィルムを製造する際において、使用するスリット状ダイの形状や、溶融温度、延伸倍率、熱固定温度等の条件について制限は無く、また単層フィルムや共押出し技術等を用いた積層フィルムのいずれも採用することができる。
【0065】
このようにして、固有粘度0.40〜0.80、厚さ2〜100μmのポリエステルフィルムが得られ、磁気フィルムなどに好適に使用される。
【0066】
【実施例】
本発明を実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。尚、実施例中の固有粘度、色相、チタン、リン、カルシウム、マグネシウム含有量及び触媒金属に起因する製膜フィルム表面欠点については、下記の方法により測定および評価した。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を意味する。
【0067】
(1)ポリエチレンテレフタレートの固有粘度(IV):
ポリエチレンテレフタレートの固有粘度(IV)は、チップ、フィルムそれぞれを用いてオルトクロロフェノール溶液中、35℃の雰囲気下で測定した粘度の値から求めた。
【0068】
(2)ポリエチレンテレフタレートの色調(L値及びb値):
ポリエチレンテレフタレートのカラーは、フィルムを用いて、ミノルタ社製ハンター型色差計CR−200にて測定した。L値は明度の指標であり、数値が大きいほど明度が高いことを、b値はその値が大きいほど黄着色の度合いが大きいことを示す。b値に関しては以下の判断基準を設け、○以上の評価を合格とした。
◎:b値が4未満
○:b値が4以上8未満
△:b値が8以上12未満
×:b値が12以上
【0069】
(3)ポリエチレンテレフタレート中のチタン、リン、アンチモン含有量:
ポリエチレンテレフタレート中のチタン元素量、リン元素量、アンチモン元素量は、フィルムを加熱溶融して円形ディスクを作成し、リガク社製蛍光X線測定装置3270を用いて測定した。なお、滑剤を含む場合は、予め溶媒中で遠心分離処理により滑剤を除去した上で同様の測定を行った。
【0070】
(4)ポリエチレンテレフタレート中のカルシウム、マグネシウム含有量:
ポリエチレンテレフタレートのフィルムをオルトクロロフェノールに溶解した後、0.5規定塩酸で抽出操作を行った。この抽出液について日立製作所製Z−6100形偏光ゼーマン原子吸光光度計を用いてカルシウム、マグネシウムの定量を行った。
【0071】
(5)ポリエチレンテレフタレート中のジエチレングリコール(DEG)量:
ポリエチレンテレフタレートのチップをCDCl3/CF3COOD混合溶媒にて溶解し、1H−NMRにて測定した。
【0072】
(6)ポリエチレンテレフタレート中のメチル末端基量:
抱水ヒドラジンを用いてポリエチレンテレフタレートフィルムを分解し、ガスクロマトグラフィ−(ヒューレットパッカード社製「HP6850」)を用い、含有メタノール量を常法に従って測定した。
【0073】
(7)ポリエチレンテレフタレートの昇温結晶化ピーク温度、降温結晶化ピーク温度:
示差走査型熱量計(DSC)としてTA Instruments社製 DSC2010 Differential Scanning Calorimeterを用いて、窒素雰囲気下、20℃/分の昇温速度で300℃まで昇温したポリエチレンテレフタレートのフィルムを、一旦0℃の雰囲気下で5分間冷却保持して非晶状態のポリマーとした後、再度20℃/分の昇温速度で300℃まで昇温して、JIS K7121に従い、昇温結晶化ピーク温度を測定した。更に同サンプルを10℃/分の降温速度で降温し、JIS K7121に従い、降温結晶化ピーク温度を測定した。
【0074】
(8)ポリエチレンテレフタレートの熱安定性:
170℃で3時間乾燥したポリエチレンテレフタレートのフィルムを、ガラス製フラスコへ入れ、次いで290℃に保持されたソルトバスにフラスコを浸漬後、窒素気流下で20分間溶融状態で攪拌保持したポリエチレンテレフタレートの固有粘度(IV)を測定し、溶融保持後の固有粘度とした。そして、前述の乾燥処理に供する前のポリエチレンテレフタレートフィルムの固有粘度から、該溶融保持後の固有粘度を差し引いた値(IV差)(表2中、△IVと略記する)を求めた。得られたIV差を、以下の判断基準によって評価し、○以上の評価を合格とした。
◎:IV差が0.003未満
○:IV差が0.003以上0.006未満
△:IV差が0.006以上0.009未満
×:IV差が0.009以上
【0075】
(9)フィルム表面欠点:
2軸延伸フィルム表面にアルミニウムを0.5μm厚みで蒸着し、日立製作所製走査型電子顕微鏡(S−3100)によりフィルム1cm×1cmの範囲内にある、長径10μm以上の粗大突起数をカウントした。評価には以下の判断基準を設け、○以上の評価を合格とした。
◎:粗大突起数が5個/cm2未満
○:粗大突起数が5個/cm2以上10個/cm2未満
△:粗大突起数が10個/cm2以上20個/cm2未満
×:粗大突起数が20個/cm2以上
【0076】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100部とエチレングリコール70部の混合物に、酢酸マグネシウム四水和物0.077部を撹拌機、精留塔及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、140℃から240℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを系外に留出させながら、エステル交換反応を行った。この際、反応器内の圧力は0.1MPaであった。その後、モノ−n−ブチルホスフェート0.050部を添加し、エステル交換反応を終了させた。
このエステル交換反応物を撹拌装置、窒素導入口、減圧口、蒸留装置を備えた反応容器に移し、重合触媒としてテトラブトキシチタネート0.0123部を添加して285℃まで昇温し、30Pa以下の高真空にて重縮合反応を行って、固有粘度0.63、ジエチレングリコール量が0.7モル%であるポリエステルを得た。
【0077】
得られたポリエステルを常法により170℃で3時間乾燥後、溶融温度290℃で1mmのスリット状ダイを通して200μm厚に溶融押出し、表面温度20℃の回転冷却ドラム上に密着させ固化した。次いで、得られた未延伸フィルムを75℃に予熱し、低速、高速のロール間で15mm上方より900℃の表面温度のIRヒータ1本にて加熱して縦方向に3.6倍に延伸し、続いてステンターに供給し、105℃に予熱して横方向に3.9倍に延伸した。得られた二軸延伸フィルムを230℃の温度で5秒間熱固定処理し、厚み14μmの熱固定二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0078】
[実施例2]
実施例1において、チタン化合物を下記参考例の方法にて合成したトリメリット酸チタン0.0221部に変更する以外は同様な操作を繰り返した。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0079】
[参考例]トリメリット酸チタンの合成方法
無水トリメリット酸のエチレングリコール溶液(0.2%)にテトラブトキシチタンを無水トリメリット酸に対して1/2モル添加し、空気中常圧下で80℃に保持して60分間反応せしめ、その後、常温に冷却し、10倍量のアセトンによって生成触媒を再結晶化させ、析出物を濾紙によって濾過し、100℃で2時間乾燥せしめ、目的の化合物を得た。
【0080】
[実施例3〜8、比較例1〜6]
酢酸マグネシウム四水和物を表1に示す添加量とし、チタン化合物及びリン化合物を表1に示す化合物及び添加量に変更する以外は、実施例1と同様の操作を繰り返した。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0081】
[実施例9〜11、比較例7]
アルカリ土類金属化合物を、酢酸マグネシウム四水和物の代わりに酢酸カルシウム一水和物に変更し、表1に示す添加量とし、チタン化合物及びリン化合物を表1に示す化合物及び添加量に変更する以外は、実施例1と同様の操作を繰り返した。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0082】
[実施例12]
酢酸マグネシウム四水和物、酢酸カルシウム一水和物、チタン化合物およびリン化合物を表1に示す化合物および添加量に変更する以外は、実施例1と同様の操作を繰り返した。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0083】
[実施例13〜14]
酢酸マグネシウム四水和物、酢酸カルシウム一水和物、チタン化合物及びリン化合物を表1に示す化合物及び添加量とし、エステル交換反応終了後、表1に示す不活性粒子を添加したこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返した。なお、不活性粒子は、日本触媒製の「シーホスターKE−E10」を用い、10%エチレングリコールスラリーとして添加した。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0084】
[実施例15]
酢酸マグネシウム四水和物、チタン化合物及びリン化合物を表1に示す化合物及び添加量とし、テレフタル酸ジメチルとしてポリエチレンテレフタレートを解重合して得られた、回収されたテレフタル酸ジメチルを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返した。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0085】
[比較例8〜9]
酢酸マグネシウム四水和物、酢酸カルシウム一水和物及びリン化合物を表1に示す化合物及び添加量とし、重合触媒としてチタン化合物の代わりに三酸化二アンチモンを表1に示す量を使用した以外は、実施例1と同様の操作を繰り返した。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
ここで、表1中の、DMTはテレフタル酸ジメチル、酢酸Mgは酢酸マグネシウム四水和物、酢酸Caは酢酸カルシウム一水和物、MBPはモノ−n−ブチルホスフェート、TEPAはトリエチルホスホノアセテート、PPAはフェニルホスホン酸、TBTはテトラ−n−ブトキシチタン、TMTはトリメリット酸チタン、Sb2O3は三酸化二アンチモンを示す。また、新品のDMTとは、リサイクル工程を経ていないDMTを指し、回収品のDMTとは、リサイクル工程を経たDMTを指す。
【0089】
また、表2中のP/Mは、アルカリ土類金属化合物中のアルカリ土類金属元素のモル数(M)でリン化合物のリン元素のモル数(P)を割った値を示す。
【0090】
表2からも明らかなように、チタン化合物を重合触媒として用い、アルカリ土類金属やリン化合物およびチタン化合物が特定の範囲にあるポリエステルフィルムは、色相,触媒金属に起因する析出異物の抑制性、およびポリエステル再溶融時の熱劣化抑制性において良好な性能が得られ、フィルム表面上の粗大突起数が少なく、表面欠点に優れたポリエステルフィルムが得られた。また昇温結晶化ピーク温度と降温結晶化ピーク温度との差も40℃以内であるポリエステルが得られたが、アルカリ土類金属化合物、リン化合物、ポリマー可溶性チタン化合物の含有量及び比率のいずれかが本発明の範囲を外れる比較例のフィルム(比較例1〜7)は、色相が不良であるか、固有粘度が上昇しないか、あるいは熱安定性が劣っていた。また、アンチモン化合物を触媒として用いたもの(比較例8〜9)は、結晶化ピーク温度差が40℃を超え、また粗大突起数が非常に多いものであった。
【0091】
【発明の効果】
本発明によれば、重合触媒として実質的にチタン化合物を用いたポリエステルフィルムにおいて、アルカリ土類金属化合物、リン化合物およびポリマー中に可溶なチタン化合物を特定の範囲で含有することによって、チタン触媒を使用した場合に従来技術の欠点であった色相の悪化を解消し、ポリエステルが持つ優れた特性を保持しながら、触媒金属に起因する析出異物の抑制性およびポリエステル再溶融時の熱劣化抑制性に優れ、フィルム表面上に触媒金属に起因する析出粗大突起数が極めて少ないポリエステルフィルムおよびポリエステルフィルムの製造方法を提供することができる。
【発明の属する技術分野】
本発明はポリエステルフィルム及びポリエステルフィルムの製造方法に関する。さらに詳しくは、重合触媒として実質的にチタン化合物を用いたポリエステルフィルムにおいて、色相,触媒金属に起因する析出異物の抑制性およびポリエステル再溶融時の熱劣化抑制性に優れたポリエステル樹脂組成物からなり、ポリエステルフィルム表面上の粗大突起数が極めて少ないことを特徴とするポリエステルフィルムおよびポリエステルフィルムの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエチレンテレフタレートは、その機械的、物理的、化学的性能が優れているため、繊維、フィルム、その他の成形物に広く利用されている。
【0003】
ポリエチレンテレフタレートは、通常テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルのようなテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるか又はテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させて、テレフタル酸のエチレングリコールエステル及び/又はその低重合体を生成させ、次いでこの反応生成物を重合触媒の存在下で減圧加熱して所定の重合度になるまで重縮合反応させることによって製造されている。
【0004】
これらの重縮合反応段階で使用する触媒の種類によって、反応速度および得られるポリエステルの品質が大きく左右されることはよく知られている。ポリエチレンテレフタレートの重縮合触媒としては、アンチモン化合物が優れた重縮合触媒性能を有し、かつ色調の良好なポリエステルが得られるなどの理由から最も広く使用されている。
【0005】
しかしながら、アンチモン化合物を重縮合触媒として使用した場合、ポリエステル樹脂組成物中でアンチモン化合物に起因した析出粒子が出来やすく、フィルム製膜時に表面欠点およびダイ筋と呼ばれる表面筋が形成される為、得られるフィルム品質が損なわれるといった問題がある。
【0006】
アンチモン化合物以外の重縮合触媒として、チタンテトラブトキシドのようなチタン化合物を用いることも提案されているが、このようなチタン化合物を使用した場合、上記のような、表面欠点・表面筋に起因する問題は解決できるが、得られるポリエステル自身が黄色く着色し、また、溶融熱安定性も不良であるという新たな問題が発生する。
【0007】
このような着色に関する問題を解決するために、コバルト化合物をポリエステルに添加して黄味を抑えることが一般的に行われている。確かにコバルト化合物を添加することによってポリエステルの色調(b値)は改善されるが、コバルト化合物を添加することによってポリエステルの溶融熱安定性が低下し、ポリマーの分解も起こりやすくなるという問題がある。
【0008】
また、他のチタン化合物として、特公昭48−2229号公報には水酸化チタンをポリエステル製造用の触媒として使用しているものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0009】
また特公昭47−26597号公報にはα−チタン酸をポリエステル製造用の触媒として使用している場合もある(例えば特許文献2参照。)。
しかしながら、前者の方法では水酸化チタンの粉末化が容易でなく、一方、後者の方法ではα−チタン酸が変質し易いため、その保存、取り扱いが容易でなく、したがっていずれも工業的に採用するには適当ではなく、さらに良好な色調(b値)を得ることも困難であった。
【0010】
また、特公昭59−46258号公報では、チタン化合物として、チタン化合物とトリメリット酸とを反応させて得られた生成物をポリエステル製造用の触媒として使用している(例えば、特許文献3参照。)。
【0011】
さらに、特開昭58−38722号公報ではチタン化合物と亜リン酸エステルとを反応させて得られた生成物を、ポリエステル製造用の触媒として使用している(例えば、特許文献4参照。)。
【0012】
さらにまた特開平7―138354号公報では、リン化合物とチタン化合物との錯体をそれぞれポリエステル製造用触媒として使用することが開示されている(例えば、特許文献5参照。)。
【0013】
これらの方法によれば、ポリエステルの溶融熱安定性は向上するものの、得られるポリマーの色調は、いまだ十分なものではなかった。したがって触媒としてアンチモン化合物を使用せずに、熱安定性,色相およびフィルム表面特性に優れたポリエステルフィルムはいまだ提供されていないのが現状である。
【0014】
【特許文献1】
特公昭48−2229号公報
【0015】
【特許文献2】
特公昭47−26597号公報
【0016】
【特許文献3】
特公昭59−46258号公報
【0017】
【特許文献4】
特開昭58−38722号公報
【0018】
【特許文献5】
特開平7−138354号公報
【0019】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、重合触媒として実質的にチタン化合物を用いたポリエステルフィルムにおいて、色相,触媒金属に起因する析出異物の抑制性およびポリエステル再溶融時の熱劣化抑制性に優れたポリエステル樹脂組成物からなり、該ポリエステルフィルム表面上の触媒金属に起因する析出粗大突起数が極めて少ないポリエステルフィルムおよびポリエステルフィルムの製造方法を提供することにある。
【0020】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、アルカリ土類金属化合物、リン化合物およびポリマー中に可溶なチタン化合物を特定の範囲で含有し、さらに得られたポリマーのメチル末端基量、および昇温時と降温時の結晶化ピーク温度差を特定範囲とすることによって、析出異物および熱劣化を抑制し、優れた色相を維持しつつ、フィルム表面上に触媒金属に起因する析出粗大突起数が極めて少ないポリエステルフィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
かくして本発明によれば、メチル末端基を0.5〜7.0モル/106gの範囲で有し、アルカリ土類金属化合物、リン化合物およびポリマー中に可溶なチタン化合物を下記式(1)〜(3)
【0022】
【数4】
30≦M≦120 ・・・(1)
【0023】
【数5】
0.4≦P/M≦1.5 ・・・(2)
【0024】
【数6】
2≦Ti≦20 ・・・(3)
(ここで、上記式(1)〜(3)中の、Mはアルカリ土類金属元素、Pはリン化合物中のリン元素およびTiはチタン化合物中のチタン金属元素の全ジカルボン酸成分に対するモル濃度(ミリモル%)を示す。)
の範囲で含有し、かつ示差走査型熱量測定における急速冷却後のポリマーの非晶状態から昇温速度20℃/分で測定した昇温結晶化ピーク温度と溶融状態から降温速度10℃/分で測定した降温結晶化ピーク温度との差が40℃以内であるポリエチレンテレフタレート樹脂組成物であるポリエステルフィルムが提供される。
【0025】
また、本発明のポリエステルフィルムは、その好ましい態様として、(1)リン化合物が下記一般式(I)で表わされる化合物
【0026】
【化9】
(ここで、式中、R1は炭素数2〜18のアルキル基、または炭素数6〜20のアリール基であり、nは1または2の整数、pは0または1の整数を示す。)
および下記一般式(II)で表わされる化合物
【0027】
【化10】
(ここで、式中、R2及びR3は、水素または炭素数1〜4のアルキル基を示し、それぞれ同一でも異なっていてもよい。Xは−CH2−または―CH(Y)−(Yはフェニル基を示す)を示す。)
からなる群より選ばれた少なくとも1種であること、
(2)チタン化合物が、下記一般式(III)で表わされる化合物および下記一般式(III)で表わされる化合物と下記一般式(IV)で表わされる芳香族多価カルボン酸またはその無水物との反応生成物からなる群より選ばれた少なくとも1種であること、および
【0028】
【化11】
R4O−[Ti(OR5)(OR6)]m−OR7 (III)
(上式中、R4、R5、R6およびR7はそれぞれ炭素数2〜10個のアルキル基、またmは1〜3の整数を表す。)
【0029】
【化12】
(ここで、式中、qは2〜4の整数を表す。)
(3)アルカリ土類金属化合物がカルシウム化合物およびマグネシウム化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種であることのいずれかを具備するポリエチレンテレフタレート樹脂組成物から得られるポリエステルフィルムも包含される。
【0030】
また、本発明によれば、ポリエステルフィルムが二軸配向ポリエステルフィルムであること、およびポリエステルフィルムの一方の表面にある長径10μm以上の粗大突起が10個/cm2未満であることのいずれかを具備するポリエステルフィルムも包含される。
【0031】
また、本発明の他の目的は、テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとを、常圧〜0.2MPa以下の加圧下で、全ジカルボン酸成分に対して30〜120ミリモル%のアルカリ土類金属化合物を用いてエステル交換反応させる工程、前記一般式(I)で表わされる化合物および前記一般式(II)で表わされる化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種のリン化合物を、アルカリ土類金属化合物に対して0.4〜1.5のモル比でエステル交換反応中の反応系に添加して、エステル交換反応を終了させる工程、および前記一般式(III)で表わされる化合物および前記一般式(III)で表わされる化合物と前記一般式(IV)で表わされる芳香族多価カルボン酸またはその無水物とを反応させて得られた生成物からなる群より選ばれた少なくとも1種のポリエチレンテレフタレートに可溶なチタン化合物を、全ジカルボン酸成分に対して、チタン金属元素量で2〜20ミリモル%用いて重合反応させる工程から製造されたポリエチレンテレフタレートを溶融状態でシート状に押出し、少なくとも1軸方向に延伸するポリエステルフィルムの製造方法によって達成される。
【0032】
さらに、該テレフタル酸ジメチルが、ポリエチレンテレフタレートを解重合して得られた、リサイクルされたテレフタル酸ジメチルであるポリエステルフィルムの製造方法も本発明に包含される。
【0033】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明のポリエステルフィルムは、ポリエチレンテレフタレートからなる。本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は、80重量%以上、好ましくは85重量%以上がポリエチレンテレフタレート樹脂からなるものであり、ポリエチレンテレフタレート樹脂以外の他の樹脂を、混合したものであっても良い。また、本発明におけるポリエチレンテレフタレートとは、エチレンテレフタレート成分を主たる繰返し単位とするポリエステルである。なおここでいう主たる繰り返し単位とは、全繰り返し単位の80モル%以上、好ましくは85モル%以上を意味する。
【0034】
また、本発明のポリエチレンテレフタレートは、エチレンテレフタレート単位を構成する成分以外の第3成分を共重合した、共重合ポリエチレンテレフタレートであってもよい。かかる第3成分(共重合成分)としては、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、フタル酸等の如きテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の如き脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の如き脂環族ジカルボン酸、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等のグリコールが挙げられ、これらは単独で使用しても二種以上を併用してもよい。
【0035】
本発明のポリエチレンテレフタレートは、芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体であるテレフタル酸ジメチルを出発原料として、全芳香族ジカルボン酸成分100モル%に対して80モル%以上、好ましくは85モル%以上用いることが好ましい。
【0036】
さらに、本発明において原料として使用されるテレフタル酸ジメチルとしては、ポリエチレンテレフタレートを解重合することによってリサイクルされたテレフタル酸ジメチルが好ましく使用され、特に回収されたPET(ポリエチレンテレフタレート)ボトル、回収されたポリエステル繊維製品、回収されたポリエステルフィルム製品、更にはこれら製品の製造工程において発生する屑ポリマーなどといった、回収されたポリエチレンテレフタレートを用いることが好ましい。本発明において、テレフタル酸ジメチルとして、ポリエチレンテレフタレートを解重合することによってリサイクルされたテレフタル酸ジメチルが好ましく使用される理由としては、本発明のポリエステルの製造方法を用いることによって、リサイクルされたテレフタル酸ジメチルであっても析出粗大突起の少ないポリエステルフィルムを得ることが可能となったためである。
【0037】
本発明に用いられる、ポリエチレンテレフタレートの解重合によるテレフタル酸ジメチルの製造方法は特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレートをエチレングリコールで解重合した後、メタノールでエステル交換反応し、得られたテレフタル酸ジメチルを再結晶や蒸留で精製する方法が挙げられる。
【0038】
本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエチレンテレフタレートは、ポリマー中のメチル末端基の量が0.5〜7.0モル/106gの範囲にあることが必要である。メチル末端基の量が下限未満の場合は、熱安定性が低下し、一方上限を超える場合、エステル交換反応後に実施される重合反応の速度が遅くなる。メチル末端基の量は0.6〜6.0モル/106gの範囲が好ましく、0.7〜5.0モル/106gの範囲が更に好ましい。
【0039】
本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエチレンテレフタレートの固有粘度は、ο−クロロフェノール中、35℃において、0.40〜0.80の範囲にあることが好ましく、さらに0.45〜0.75、特に0.50〜0.70の範囲であることが好ましい。固有粘度が下限未満であると、フィルムの強度が不足するため好ましくない。他方、固有粘度が上限を超えると、原料ポリマーの固有粘度を過剰に引き上げる必要があり不経済である。
【0040】
本発明のポリエステルフィルムは、アルカリ土類金属化合物を含有する。該アルカリ土類金属化合物は、エステル交換反応触媒として使用される。該アルカリ土類金属化合物の含有量は、全ジカルボン酸成分に対してアルカリ土類金属元素量で30〜120ミリモル%の範囲である。アルカリ土類金属化合物の含有量が下限未満の場合、エステル交換反応が非常に遅くなる結果、得られるポリマーの分子量が低くなる。一方、アルカリ土類金属化合物の含有量が上限より多い場合、得られるポリエステルの熱安定性や色相が低下する。該アルカリ土類金属化合物の含有量は、35〜110ミリモル%の範囲が好ましく、40〜100ミリモル%の範囲が更に好ましい。
【0041】
本発明において用いられるアルカリ土類金属化合物としては、例えばカルシウム化合物、マグネシウム化合物、ストロンチウム化合物、バリウム化合物が挙げられ、これらの中でもカルシウム化合物、マグネシウム化合物が好ましい。カルシウム化合物としては、酢酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、安息香酸カルシウム、蟻酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム等、及びこれらの水和物が挙げられる。また、マグネシウム化合物としては酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム、安息香酸マグネシウム、蟻酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム等、及びこれらの水和物が挙げられる。これらの中でも、酢酸カルシウム一水和物、酢酸マグネシウム四水和物が特に好ましく用いられる。これらのアルカリ土類金属化合物は、単独で使用してもよく、また二種以上併用してもよい。
【0042】
本発明のポリエステルフィルムは、安定剤として下記一般式(I)で表されるリン化合物および下記一般式(II)で表されるリン化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0043】
【化13】
(ここで、式中、R1は炭素数2〜18のアルキル基、または炭素数6〜20のアリール基であり、nは1または2の整数、pは0または1の整数を示す。)
【0044】
【化14】
(ここで、式中、R2及びR3は、水素または炭素数1〜4のアルキル基を示し、それぞれ同一でも異なっていてもよい。Xは−CH2−または―CH(Y)−(Yはフェニル基を示す)を示す。)
上記の式(I)で表されるリン化合物としては、式中のpが0の場合は、フェニルホスホン酸、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、イソプロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、トリルホスホン酸、キシリルホスホン酸、ビフェニルホスホン酸、ナフチルホスホン酸、アントリルホスホン酸、2−カルボキシフェニルホスホン酸、3−カルボキシフェニルホスホン酸、4−カルボキシフェニルホスホン酸、2,3−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,4−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,6−ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,4−ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,4−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,5−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,6−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,4,5−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,4,6−トリカルボキシフェニルホスホン酸が例示され、中でもモノアリールホスホン酸が好ましい。
【0045】
また、pが1の場合は、モノメチルホスフェート、モノエチルホスフェート、モノトリメチルホスフェート、モノ−n−ブチルホスフェート、モノヘキシルホスフェート、モノヘプチルホスフェート、モノノニルホスフェート、モノデシルホスフェート、モノドデシルホスフェート、モノフェニルホスフェート、モノベンジルホスフェート、モノ(4−ドデシル)フェニルホスフェート、モノ(4−メチルフェニル)ホスフェート、モノ(4−エチルフェニル)ホスフェート、モノ(4−プロピルフェニル)ホスフェート、モノ(4−ドデシルフェニル)ホスフェート、モノトリルホスフェート、モノキシリルホスフェート、モノビフェニルホスフェート、モノナフチルホスフェート、モノアントリルホスフェートが例示される。
【0046】
上記の式(II)で表されるリン化合物としては、例えばカルボメトキシメタンホスホン酸、カルボエトキシメタンホスホン酸、カルボプロポキシメタンホスホン酸、カルボブトキシメタンホスホン酸、カルボメトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボエトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボプロトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸およびカルボブトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、および、上記例示化合物のヒドロキシル基が炭素数1〜4のアルキル基で置換されたエステル化合物が挙げられるが、中でもトリエチルホスホノアセテートが好ましい。
【0047】
本発明において、これらのリン化合物が好ましい理由は、エチレングリコールやポリエステルへの溶解性が良く、また触媒の活性を失活させることなく適度なポリマーの熱安定性を付与させることが可能なことも、好ましい理由として挙げられる。
【0048】
本発明において用いられるリン化合物の含有量は、全ジカルボン酸成分に対してリン元素量で、12〜180ミリモル%の範囲であることが好ましく、さらに14〜90ミリモル%であることが好ましい。リン化合物の含有量が下限未満の場合は、得られるポリエステルの色調が不良となり、かつその耐熱性が低下することがあるといった点から好ましくない。一方リン化合物の含有量が上限を超える場合は、ポリエステル生成反応に対する触媒活性が不十分となる。
これらリン化合物の添加時期は、特に制限されず、重縮合反応が終了するまでならいつでもよく、エステル交換反応開始前でもよい。また複数回に分けて添加することもできる。
【0049】
本発明のポリエステルフィルムは、アルカリ土類金属化合物中のアルカリ土類金属元素のモル数でリン化合物のリン元素のモル数を割った値(P/M)が、0.4〜1.5の範囲にあることが必要である。(P/M)が下限未満の場合、フィルムを構成するポリエチレンテレフタレートの耐熱性や色相が低下し、一方上限を超える場合、フィルムを構成するポリエチレンテレフタレートの分子量が低下し、十分な力学特性が得られない。(P/M)の範囲は0.5〜1.3の範囲が好ましく、0.6〜1.1の範囲がさらに好ましい。
【0050】
本発明のポリエステルフィルムは、重合触媒としてチタン化合物を含有する。チタン化合物は、触媒に起因する異物低減の点で、ポリエチレンテレフタレートに可溶なチタン化合物を使用する必要がある。ポリエチレンテレフタレートに可溶なチタン化合物であれば特に制限されず、ポリエステルの重縮合触媒として一般的なチタン化合物、例えば、酢酸チタンやテトラ−n−ブトキシチタンなどが挙げられる。これらの中でも、下記一般式(III)で表わされる化合物、および下記一般式(III)で表わされる化合物と下記一般式(IV)で表わされる芳香族多価カルボン酸またはその無水物との反応生成物が好ましい。
【0051】
【化15】
R4O−[Ti(OR5)(OR6)]m−OR7 (III)
(ここで、式中、R4、R5、R6およびR7はそれぞれ炭素数2〜10個のアルキル基、またmは1〜3の整数を表す。)
【0052】
【化16】
(ここで、式中、qは2〜4の整数を表す。)
一般式(III)で表わされるテトラアルコキサイドチタンとしては、R4〜R7が炭素数2〜10のアルキル基であれば特に限定されないが、特にテトライソプロポキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラエトキシチタンなどが好ましく用いられる。また、R4〜R7がフェニル基であってもよく、テトラフェノキシチタンが例示される。
【0053】
また、一般式(IV)で表わされる芳香族多価カルボン酸またはその酸無水物としては、フタル酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸およびこれらの酸無水物が好ましく用いられ、これらの中でも特に無水トリメリット酸が好ましく例示される。上記チタン化合物と芳香族多価カルボン酸またはその酸無水物とを反応させる場合には、溶媒に芳香族多価カルボン酸またはその酸無水物の一部とを溶解し、これにチタン化合物を滴下し、0〜200℃の温度で30分以上反応させれば良い。
【0054】
本発明で用いられるポリエステルには、ポリマー中に可溶なチタン化合物を全ジカルボン酸成分に対し、チタン金属元素量で2〜20ミリモル%含有している必要がある。該チタン化合物が下限未満ではポリエステルの生産性が低下し、目標の分子量のポリエステルが得られない。また、該チタン化合物が上限を超える場合は熱安定性が低下し、フィルム製造時の分子量低下が大きくなり、品質の優れたポリエステルフィルムが得られない。チタン化合物の含有量は2.5〜17ミリモル%の範囲が好ましく、3〜15ミリモル%の範囲がさらに好ましい。
【0055】
これらチタン化合物の添加時期については特に制限されず、重縮合反応開始前であればいつでもよく、エステル交換反応開始前であってもよい。また複数回に分けて添加することもできる。
【0056】
本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエチレンテレフタレートは、示差走査型熱量測定における急速冷却後のポリマーの非晶状態から昇温速度20℃/分で測定した昇温結晶化ピーク温度と、溶融状態から降温速度10℃/分で測定した降温結晶化ピーク温度との差(以下、△Tと称することがある。)が40℃以内である必要がある。該結晶化ピーク温度の差(△T)が範囲をはずれる場合、製膜工程において、部分結晶化により均一な延伸が難しく、切断等の工程トラブルを引き起こすばかりでなく、最終的に得られるフィルム製品の品質変動が大きくなる。該結晶化ピーク温度の差は35℃以内であることが好ましく、30℃以内であることがさらに好ましい。また本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエチレンテレフタレートが艶消し剤や滑剤等の無機粒子を含有しない場合、該結晶化ピーク温度の差は25℃以内であることが好ましく、20℃以内であることが更に好ましい。
【0057】
本発明におけるポリエステルフィルムは、フィルム表面上に存在する長径10μm以上の粗大突起数が10個/cm2未満であることが好ましい。粗大突起数が上限を超える場合は、フィルム表面の平坦性が低下し、ベースフィルムに対し、特に平坦な表面性が要求される磁気記録媒体において好適に使用することができない。ここで長径とは、フィルム表面の平坦な面に沿って粗大突起の断面を特定し、断面部における粒径の最大値を指す。本発明において、フィルム表面上に存在する長径10μm以上の粗大突起数を10個/cm2未満に達成できる最大の理由は、異物が析出しにくいチタン化合物を用いている点にある。
【0058】
本発明で用いられるポリエステルフィルムを構成するポリエチレンテレフタレートは、必要に応じて少量の添加剤、例えば滑剤、顔料、染料、酸化防止剤、固相重合促進剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤、艶消剤を含んでいてもよい。特に製膜時の巻き取り性を付与する為に、滑剤として平均粒径が0.001〜5μmの不活性粒子を、最終的に得られるポリエステルフィルム中に0.01〜10重量%含有するように添加することが好ましい。添加する不活性粒子としては、例えばコロイダルシリカ、多孔質シリカ、酸化チタン、酸化アルミナ、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化ジルコニウム、カオリン、複合酸化物粒子等の無機粒子や、シリコーン粒子、架橋ポリスチレン、架橋アクリルポリマー、架橋ポリエステルなどの有機粒子が好ましく用いられる。
【0059】
一般的にエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエチレンテレフタレートの製造方法には、原料としてテレフタル酸に代表される芳香族ジカルボン酸とエチレングリコールとを用いて直接エステル化した後に重合反応を行う製造方法と、原料としてテレフタル酸ジメチルに代表される芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体をエチレングリコールとエステル交換反応せしめた後に重合反応を行う製造方法の二つの方法が知られている。一般的にはテレフタル酸を用いた直接エステル化による製造方法の方が、得られるポリマーの色相が良好であり、好ましく実施される。しかし、エステル交換反応は原料であるテレフタル酸ジメチルがポリエステルの解重合による回収プロセスから容易に得ることが出来、環境面からその必要性が高まってきている。そのため、本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエチレンテレフタレートは、テレフタル酸のエステル形成性誘導体をエステル交換反応せしめることによって製造することが好ましい。この出発原料であるテレフタル酸ジメチルは全ジカルボン酸成分の80モル%以上であることが好ましい。
【0060】
本発明で用いられるポリエステルの製造方法において、エステル交換反応触媒であるアルカリ土類金属化合物、エステル交換反応失活剤であるリン化合物、重合触媒であるポリマーに可溶性なチタン化合物の添加順序は、まずエステル交換反応開始前にテレフタル酸ジメチルとともにエステル交換反応触媒であるアルカリ土類金属化合物を添加して徐々に昇温し、発生するアルコールを除去させながらエステル交換反応を実施し、エステル交換反応後にエステル交換反応失活剤であるリン化合物を添加して実質的にエステル交換反応を完了させる。その後反応生成物を減圧装置が設けられた重合反応器に移し替える前後に重合触媒であるポリマーに可溶性なチタン化合物を添加して高真空下での重合反応を行う。
【0061】
本発明におけるポリエステルの製造方法では、エステル交換反応時の反応系内の圧力については、通常は常圧での反応が好ましく実施されるが、必要に応じて0.2MPa以下の加圧下での反応を実施してもよい。加圧下でエステル交換反応を実施する場合、圧力が上限より高いと、副生成物として発生するジエチレングリコールのポリマー中の含有量が著しく増加し、ポリマーの熱安定性等の特性が低下することがある。本発明における好ましいエステル交換反応時の反応系内の圧力は、0.06〜0.10MPaの範囲である。
【0062】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法としては特に限定はなく、従来公知の技術を用いる事が出来る。以下に、ポリエチレンテレフタレート組成物を用いた場合を代表例として例示する。
【0063】
重縮合反応により得られたポリエステルチップを(Tc)〜(Tc+40)℃(ここで、Tcはポリエステルの昇温時の結晶化温度を示す)の温度範囲で1〜3時間乾燥した後、(Tm)〜(Tm+70)℃(ここで、Tmはポリエステルの融点を示す)の温度範囲内でシート状に溶融押出し、次いで表面温度20〜40℃の回転冷却ドラム上に密着固化させて、実質的に非晶質のポリエステルシート(未延伸フィルム)を得る。次いで未延伸フィルムを縦方向に延伸した後、横方向に延伸する、いわゆる縦・横逐次二軸延伸法、あるいは、この順序を逆にして延伸する方法などにより延伸する。延伸する際の温度は(Tg−10)〜(Tg+70)℃( ここで、Tgはポリエチレンテレフタレートの二次転移点温度を示す)であって、延伸倍率は少なくとも一軸方向に2.5倍以上、さらには3倍以上で、かつ面積倍率が8倍以上、さらには10〜30倍の範囲から選ぶのが好ましい。
【0064】
本発明のポリエステルフィルムを製造する際において、使用するスリット状ダイの形状や、溶融温度、延伸倍率、熱固定温度等の条件について制限は無く、また単層フィルムや共押出し技術等を用いた積層フィルムのいずれも採用することができる。
【0065】
このようにして、固有粘度0.40〜0.80、厚さ2〜100μmのポリエステルフィルムが得られ、磁気フィルムなどに好適に使用される。
【0066】
【実施例】
本発明を実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。尚、実施例中の固有粘度、色相、チタン、リン、カルシウム、マグネシウム含有量及び触媒金属に起因する製膜フィルム表面欠点については、下記の方法により測定および評価した。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を意味する。
【0067】
(1)ポリエチレンテレフタレートの固有粘度(IV):
ポリエチレンテレフタレートの固有粘度(IV)は、チップ、フィルムそれぞれを用いてオルトクロロフェノール溶液中、35℃の雰囲気下で測定した粘度の値から求めた。
【0068】
(2)ポリエチレンテレフタレートの色調(L値及びb値):
ポリエチレンテレフタレートのカラーは、フィルムを用いて、ミノルタ社製ハンター型色差計CR−200にて測定した。L値は明度の指標であり、数値が大きいほど明度が高いことを、b値はその値が大きいほど黄着色の度合いが大きいことを示す。b値に関しては以下の判断基準を設け、○以上の評価を合格とした。
◎:b値が4未満
○:b値が4以上8未満
△:b値が8以上12未満
×:b値が12以上
【0069】
(3)ポリエチレンテレフタレート中のチタン、リン、アンチモン含有量:
ポリエチレンテレフタレート中のチタン元素量、リン元素量、アンチモン元素量は、フィルムを加熱溶融して円形ディスクを作成し、リガク社製蛍光X線測定装置3270を用いて測定した。なお、滑剤を含む場合は、予め溶媒中で遠心分離処理により滑剤を除去した上で同様の測定を行った。
【0070】
(4)ポリエチレンテレフタレート中のカルシウム、マグネシウム含有量:
ポリエチレンテレフタレートのフィルムをオルトクロロフェノールに溶解した後、0.5規定塩酸で抽出操作を行った。この抽出液について日立製作所製Z−6100形偏光ゼーマン原子吸光光度計を用いてカルシウム、マグネシウムの定量を行った。
【0071】
(5)ポリエチレンテレフタレート中のジエチレングリコール(DEG)量:
ポリエチレンテレフタレートのチップをCDCl3/CF3COOD混合溶媒にて溶解し、1H−NMRにて測定した。
【0072】
(6)ポリエチレンテレフタレート中のメチル末端基量:
抱水ヒドラジンを用いてポリエチレンテレフタレートフィルムを分解し、ガスクロマトグラフィ−(ヒューレットパッカード社製「HP6850」)を用い、含有メタノール量を常法に従って測定した。
【0073】
(7)ポリエチレンテレフタレートの昇温結晶化ピーク温度、降温結晶化ピーク温度:
示差走査型熱量計(DSC)としてTA Instruments社製 DSC2010 Differential Scanning Calorimeterを用いて、窒素雰囲気下、20℃/分の昇温速度で300℃まで昇温したポリエチレンテレフタレートのフィルムを、一旦0℃の雰囲気下で5分間冷却保持して非晶状態のポリマーとした後、再度20℃/分の昇温速度で300℃まで昇温して、JIS K7121に従い、昇温結晶化ピーク温度を測定した。更に同サンプルを10℃/分の降温速度で降温し、JIS K7121に従い、降温結晶化ピーク温度を測定した。
【0074】
(8)ポリエチレンテレフタレートの熱安定性:
170℃で3時間乾燥したポリエチレンテレフタレートのフィルムを、ガラス製フラスコへ入れ、次いで290℃に保持されたソルトバスにフラスコを浸漬後、窒素気流下で20分間溶融状態で攪拌保持したポリエチレンテレフタレートの固有粘度(IV)を測定し、溶融保持後の固有粘度とした。そして、前述の乾燥処理に供する前のポリエチレンテレフタレートフィルムの固有粘度から、該溶融保持後の固有粘度を差し引いた値(IV差)(表2中、△IVと略記する)を求めた。得られたIV差を、以下の判断基準によって評価し、○以上の評価を合格とした。
◎:IV差が0.003未満
○:IV差が0.003以上0.006未満
△:IV差が0.006以上0.009未満
×:IV差が0.009以上
【0075】
(9)フィルム表面欠点:
2軸延伸フィルム表面にアルミニウムを0.5μm厚みで蒸着し、日立製作所製走査型電子顕微鏡(S−3100)によりフィルム1cm×1cmの範囲内にある、長径10μm以上の粗大突起数をカウントした。評価には以下の判断基準を設け、○以上の評価を合格とした。
◎:粗大突起数が5個/cm2未満
○:粗大突起数が5個/cm2以上10個/cm2未満
△:粗大突起数が10個/cm2以上20個/cm2未満
×:粗大突起数が20個/cm2以上
【0076】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100部とエチレングリコール70部の混合物に、酢酸マグネシウム四水和物0.077部を撹拌機、精留塔及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、140℃から240℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを系外に留出させながら、エステル交換反応を行った。この際、反応器内の圧力は0.1MPaであった。その後、モノ−n−ブチルホスフェート0.050部を添加し、エステル交換反応を終了させた。
このエステル交換反応物を撹拌装置、窒素導入口、減圧口、蒸留装置を備えた反応容器に移し、重合触媒としてテトラブトキシチタネート0.0123部を添加して285℃まで昇温し、30Pa以下の高真空にて重縮合反応を行って、固有粘度0.63、ジエチレングリコール量が0.7モル%であるポリエステルを得た。
【0077】
得られたポリエステルを常法により170℃で3時間乾燥後、溶融温度290℃で1mmのスリット状ダイを通して200μm厚に溶融押出し、表面温度20℃の回転冷却ドラム上に密着させ固化した。次いで、得られた未延伸フィルムを75℃に予熱し、低速、高速のロール間で15mm上方より900℃の表面温度のIRヒータ1本にて加熱して縦方向に3.6倍に延伸し、続いてステンターに供給し、105℃に予熱して横方向に3.9倍に延伸した。得られた二軸延伸フィルムを230℃の温度で5秒間熱固定処理し、厚み14μmの熱固定二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0078】
[実施例2]
実施例1において、チタン化合物を下記参考例の方法にて合成したトリメリット酸チタン0.0221部に変更する以外は同様な操作を繰り返した。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0079】
[参考例]トリメリット酸チタンの合成方法
無水トリメリット酸のエチレングリコール溶液(0.2%)にテトラブトキシチタンを無水トリメリット酸に対して1/2モル添加し、空気中常圧下で80℃に保持して60分間反応せしめ、その後、常温に冷却し、10倍量のアセトンによって生成触媒を再結晶化させ、析出物を濾紙によって濾過し、100℃で2時間乾燥せしめ、目的の化合物を得た。
【0080】
[実施例3〜8、比較例1〜6]
酢酸マグネシウム四水和物を表1に示す添加量とし、チタン化合物及びリン化合物を表1に示す化合物及び添加量に変更する以外は、実施例1と同様の操作を繰り返した。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0081】
[実施例9〜11、比較例7]
アルカリ土類金属化合物を、酢酸マグネシウム四水和物の代わりに酢酸カルシウム一水和物に変更し、表1に示す添加量とし、チタン化合物及びリン化合物を表1に示す化合物及び添加量に変更する以外は、実施例1と同様の操作を繰り返した。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0082】
[実施例12]
酢酸マグネシウム四水和物、酢酸カルシウム一水和物、チタン化合物およびリン化合物を表1に示す化合物および添加量に変更する以外は、実施例1と同様の操作を繰り返した。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0083】
[実施例13〜14]
酢酸マグネシウム四水和物、酢酸カルシウム一水和物、チタン化合物及びリン化合物を表1に示す化合物及び添加量とし、エステル交換反応終了後、表1に示す不活性粒子を添加したこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返した。なお、不活性粒子は、日本触媒製の「シーホスターKE−E10」を用い、10%エチレングリコールスラリーとして添加した。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0084】
[実施例15]
酢酸マグネシウム四水和物、チタン化合物及びリン化合物を表1に示す化合物及び添加量とし、テレフタル酸ジメチルとしてポリエチレンテレフタレートを解重合して得られた、回収されたテレフタル酸ジメチルを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返した。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0085】
[比較例8〜9]
酢酸マグネシウム四水和物、酢酸カルシウム一水和物及びリン化合物を表1に示す化合物及び添加量とし、重合触媒としてチタン化合物の代わりに三酸化二アンチモンを表1に示す量を使用した以外は、実施例1と同様の操作を繰り返した。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
ここで、表1中の、DMTはテレフタル酸ジメチル、酢酸Mgは酢酸マグネシウム四水和物、酢酸Caは酢酸カルシウム一水和物、MBPはモノ−n−ブチルホスフェート、TEPAはトリエチルホスホノアセテート、PPAはフェニルホスホン酸、TBTはテトラ−n−ブトキシチタン、TMTはトリメリット酸チタン、Sb2O3は三酸化二アンチモンを示す。また、新品のDMTとは、リサイクル工程を経ていないDMTを指し、回収品のDMTとは、リサイクル工程を経たDMTを指す。
【0089】
また、表2中のP/Mは、アルカリ土類金属化合物中のアルカリ土類金属元素のモル数(M)でリン化合物のリン元素のモル数(P)を割った値を示す。
【0090】
表2からも明らかなように、チタン化合物を重合触媒として用い、アルカリ土類金属やリン化合物およびチタン化合物が特定の範囲にあるポリエステルフィルムは、色相,触媒金属に起因する析出異物の抑制性、およびポリエステル再溶融時の熱劣化抑制性において良好な性能が得られ、フィルム表面上の粗大突起数が少なく、表面欠点に優れたポリエステルフィルムが得られた。また昇温結晶化ピーク温度と降温結晶化ピーク温度との差も40℃以内であるポリエステルが得られたが、アルカリ土類金属化合物、リン化合物、ポリマー可溶性チタン化合物の含有量及び比率のいずれかが本発明の範囲を外れる比較例のフィルム(比較例1〜7)は、色相が不良であるか、固有粘度が上昇しないか、あるいは熱安定性が劣っていた。また、アンチモン化合物を触媒として用いたもの(比較例8〜9)は、結晶化ピーク温度差が40℃を超え、また粗大突起数が非常に多いものであった。
【0091】
【発明の効果】
本発明によれば、重合触媒として実質的にチタン化合物を用いたポリエステルフィルムにおいて、アルカリ土類金属化合物、リン化合物およびポリマー中に可溶なチタン化合物を特定の範囲で含有することによって、チタン触媒を使用した場合に従来技術の欠点であった色相の悪化を解消し、ポリエステルが持つ優れた特性を保持しながら、触媒金属に起因する析出異物の抑制性およびポリエステル再溶融時の熱劣化抑制性に優れ、フィルム表面上に触媒金属に起因する析出粗大突起数が極めて少ないポリエステルフィルムおよびポリエステルフィルムの製造方法を提供することができる。
Claims (8)
- メチル末端基を0.5〜7.0モル/106gの範囲で有し、アルカリ土類金属化合物、リン化合物およびポリマー中に可溶なチタン化合物を下記式(1)〜(3)
の範囲で含有し、かつ示差走査型熱量測定における急速冷却後のポリマーの非晶状態から昇温速度20℃/分で測定した昇温結晶化ピーク温度と溶融状態から降温速度10℃/分で測定した降温結晶化ピーク温度との差が40℃以内であるポリエチレンテレフタレート樹脂組成物からなることを特徴とするポリエステルフィルム。 - アルカリ土類金属化合物がカルシウム化合物およびマグネシウム化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載のポリエステルフィルム。
- ポリエステルフィルムが二軸配向ポリエステルフィルムである請求項1に記載のポリエステルフィルム。
- ポリエステルフィルムの一方の表面にある長径10μm以上の粗大突起が10個/cm2未満である請求項1に記載のポリエステルフィルム。
- (1)テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとを、常圧〜0.2MPa以下の加圧下で、全ジカルボン酸成分に対して30〜120ミリモル%のアルカリ土類金属化合物を用いてエステル交換反応させる工程、
(2)下記一般式(I)で表わされる化合物および下記一般式(II)で表わされる化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種のリン化合物を、アルカリ土類金属化合物に対して0.4〜1.5のモル比でエステル交換反応中の反応系に添加して、エステル交換反応を終了させる工程、および
(3)下記一般式(III)で表わされる化合物および下記一般式(III)で表わされる化合物と下記一般式(IV)で表わされる芳香族多価カルボン酸またはその無水物とを反応させて得られた生成物からなる群より選ばれた少なくとも1種のポリエチレンテレフタレートに可溶なチタン化合物を、全ジカルボン酸成分に対して、チタン金属元素量で2〜20ミリモル%用いて重合反応させる工程から製造されたポリエチレンテレフタレートを溶融状態でシート状に押出し、少なくとも1軸方向に延伸することを特徴とするポリエステルフィルムの製造方法。
- テレフタル酸ジメチルが、ポリエチレンテレフタレートを解重合して得られた、リサイクルされたテレフタル酸ジメチルである請求項7に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
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