JP3953408B2 - 交流エッチングに供する中・低圧電解コンデンサ用軟質アルミニウム箔およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、最終焼鈍でO材ではなく、最終調質焼鈍処理により所期強度を付与されるFe含有量の多い低廉なアルミニウム箔であって、交流エッチング処理で高静電容量が得られる中・低圧用の電解コンデンサ用軟質アルミニウム箔およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
本明細書中において含有量を表す「%」および「ppm」 は、ただし書きのある場合を除き、それぞれ「質量%」および「質量ppm」である。
【0003】
電解コンデンサ用のアルミニウム箔に共通して求められる特性として、高静電容量が重要である。静電容量を付与するために、箔に電解エッチングして箔の表面積を拡大することも共通する方法である。一方、電解コンデンサの用途には、使用時の印加電圧により高、中、低圧用に分けられる。
【0004】
高圧用電解コンデンサは、化成処理により厚い皮膜を形成する必要から化成電圧が高いので、箔面に大径かつ直線状の穿孔を行なうべく直流でエッチングされる。この場合、箔表面全体に渡って均等に大径かつ直線状の穿孔を確保できるように、箔表面に立方晶面が多く現われるように結晶方位が配向される。
【0005】
また、中・低圧用電解コンデンサは、化成処理により薄い皮膜が形成されればよく、箔表面積が拡大されればよいため化成電圧が中、低圧であり、箔面に枝分かれした穿孔を開けるべく交流でエッチングされる。この中・低圧用アルミニウム箔に高い静電容量を付与するには、エッチング起点となるFe含有化合物の大きさと数が決め手になる。一般的に中・低圧とは化成電圧で略200V以下を言う。
【0006】
ところで、家電製品やAV機器等の電子電気機器の電気回路には、化成電圧の低い中・低圧用のアルミニウム製電解コンデンサが多数使用されている。そしてこのような電解コンデンサには、製造コスト低減を目的として、Fe含有量の多いアルミニウム箔が使用され、かつ使用者目的に応じて求められる引張強度が異なる。即ち中・低圧用の箔としては、硬質箔と各種強度に調質焼鈍処理された軟質箔とが使用されているが、このうち本発明は、最終の工程で調質焼鈍処理された引張強度40〜70Mpaの軟質箔に関する。
【0007】
従来、Fe含有量の多い前記の軟質アルミニウム箔の静電容量は、Fe含有量の少ない高純度軟質アルミニウム箔の中・低圧用の静電容量より低いという欠点があった。
【0008】
特開昭63−265415号公報(特許文献1)には、Fe含有量の多い低純度溶湯を用いて急冷凝固させて固溶量を多くし、或いは高温に加熱して固溶させ、その後に析出処理して析出物の小さい1μm以下サイズの化合物を多く析出させ、そのような箔に直流を印加してトンネルピットを穿孔することによって、静電容量の高い電解コンデンサが得られることが開示されている。
【0009】
特開平6−65665号公報(特許文献2)には、0.1〜2.0μmの大きさのFe析出物の数的割合を規定したアルミニウム箔に直流を印加してエッチングし、穿孔を箔表面に垂直に穿った後、375Vもの高圧で化成処理することによって、静電容量の高い電解コンデンサが得られることが開示されている。
【0010】
特開平9−260219号公報(特許文献3)には、ソーキング条件(温度・時間)、熱延条件(熱延開始温度、同終了温度、熱間圧延時の1パス当たりの圧下量)、冷延条件、熱処理等を設定することによって、Fe+Si+Cuの合計が0.040%以下であるようなアルミニウム箔において、そこに析出している直径0.1〜1.0μmの析出物中に存在するFe含有量を0.0004%以下としたアルミニウム箔を用いることによって、静電容量の高い電解コンデンサが得られることが開示されている。
【0011】
【特許文献1】
特開昭63−265415号公報(特許請求の範囲、2頁左下欄〜4頁左下欄)
【特許文献2】
特開平6−65665号公報(特許請求の範囲、段落0021)
【特許文献3】
特開平9−260219号公報(特許請求の範囲)
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記特開昭63−265415号公報(特許文献1)で開示されている箔は、1μm以下のサイズの小さい化合物を多く析出させた箔であるから、エッチングによる穿孔起点となる析出物の数が多く、交流エッチングを行なって海綿状に穿孔すると、穿孔部分が近接して生じ相互に合体してしまい表面積拡大効果が不十分になるため、静電容量の高い中・低圧用の電解コンデンサは得られない。
【0013】
特開平6−65665号公報(特許文献2)で開示されている箔に交流を印加して海綿状に穿孔すると、やはり隣接する穿孔部分が合体してしまい表面積拡大効果が不十分になるため、静電容量の高い中・低圧用の電解コンデンサは得られない。同公報の実施例では、Fe含有量の多い箔の製造方法において均質化処理温度を、Feを含有する化合物を固溶させる範囲で行なっている。その結果その後の中間焼鈍処理で0.1μm以下のサイズの化合物が新たに析出してその数が増加する。このことは、直流エッチングにより大径かつ直線状の穿孔を行なう同公報の技術では不都合ではない。しかし、このような0.1μm以下のサイズの化合物が新たに析出してその数が増加するような製造方法を採用した箔に交流エッチングを行なって海綿状に穿孔すると、隣接する穿孔部分が合体してしまい表面積拡大効果が不十分になるため、静電容量の高い中・低圧用の電解コンデンサは得られない。
【0014】
前記特開平9−260219号公報(特許文献3)で開示されている方法で得られる静電容量では不足で、更に容量の向上した電解コンデンサが求められている。
【0015】
本発明の目的は、最終焼鈍で調質処理される所期の強度を有する低廉なFe含有量の多いアルミニウム箔であって、交流エッチング処理で静電容量が高い中・低圧電解コンデンサ用の軟質アルミニウム箔およびその製造方法を提供することである。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、Fe含有量の多いアルミニウム溶湯の鋳造工程、製板および製箔工程を詳細に検証すると共に、最終焼鈍で調質焼鈍処理された軟質アルミニウム箔の交流エッチングにおける析出物および晶出物の寄与度を考察した。
【0017】
その結果、鋳塊中の析出物および晶出物を固溶という観点から鋳造ままの状態で製板および製箔することにより、エッチング起点として必要な化合物を確保できると同時に、過度にエッチングされる化合物が最終の調質焼鈍処理で析出することを抑制できて、高純度箔と同等の高静電容量、即ちエッチング条件と化成電圧を後述の実施例中で説明する本発明例の箔Aと同一としたときに、290μF/5cm2 程度の静電容量の電解コンデンサが得られるとの知見を得た。
【0018】
本発明は上記の知見に基づいて完成したものである。
【0019】
即ち第1の発明は、Fe含有量が50〜120ppm 、Si含有量が500 ppm 以下、Cu含有量が130 ppm 以下、残部Alおよびその他の不純物、Al純度が99.94%以上である組成を有する電解コンデンサ用軟質アルミニウム箔であって、該箔中の金属間化合物のうち、長径が0.1μm未満である金属間化合物(本明細書中では便宜的に「極微細化合物」とも呼ぶ)のFe含有量の合計が、該箔のFe含有量の5%以下であり、かつ長径が0.1〜1.0μmである金属間化合物(本明細書中では便宜的に「微細化合物量」とも呼ぶ)のFe含有量の合計が、該箔のFe含有量の10%以下であり、かつ長径が1.0μmを超える金属間化合物(本明細書中では便宜的に「粗大化合物」とも呼ぶ)のFe含有量の合計が、該箔のFe含有量の40〜80%であって、引張強度が40〜70MPa であることを特徴とする交流エッチングに供する中・低圧電解コンデンサ用軟質アルミニウム箔である。
【0020】
第1発明においては、Fe含有量の多い前記組成の軟質アルミニウム箔において、極微細化合物量および微細化合物量を可及的に少量とし、かつ粗大化合物を所定量存在させたことにより、交流エッチングにおいて、必要なエッチング起点が確保されると同時に、隣接するエッチング部同士が干渉し難く、相互の合体が防止されるので、静電容量の高い電解コンデンサが得られる。
【0021】
第2の発明は、前記組成のアルミニウム溶湯をDC鋳造法により、鋳造速度30〜70mm/minにて厚さ400〜600mmのスラブに鋳造し、得られた鋳塊を鋳造時晶出したFe含有化合物が固溶しない温度領域で、最終調質焼鈍処理前まで製板および製箔し、得られた箔を280〜350℃の温度範囲で最終調質焼鈍処理することを特徴とする交流エッチングに供する中・低圧電解コンデンサ用軟質アルミニウム箔の製造方法である。
【0022】
第2発明においては、鋳造時晶出したFe含有化合物を再固溶させないから、箔の最終調質焼鈍処理におけるFe含有化合物の新たな極微細析出物の増加を抑制でき、交流エッチングにおいて隣接するエッチング部同士が干渉し難く、相互の合体が防止されるので、静電容量の高い電解コンデンサ用のアルミニウム軟質箔が得られる。
【0023】
第3の発明は、前記の固溶しない温度領域が500℃以下400℃以上であることを特徴とする電解コンデンサ用軟質アルミニウム箔の製造方法である。
【0024】
第3発明においては、鋳造時晶出したFe含有化合物が固溶しない温度領域を具体的に500℃以下400℃以上とすることにより、圧延による製板および製箔を可能としつつ、同時に、箔の最終調質焼鈍処理でFe含有化合物の極微細析出物の増加を抑制でき、交流エッチングにおいて隣接するエッチング部同士が合体することなく、静電容量の高い電解コンデンサ用のアルミニウム軟質箔が得られる。鋳造時晶出したFe含有化合物の非固溶温度は、好ましくは490℃以下である。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明における種々の限定理由を説明する。
【0026】
本発明の箔は、Fe含有量を50〜120ppm と多くし、Al純度99.94%以上とした。Fe含有量が50ppm 未満であれば、従来から使用されている箔と純度的に変わらず、コスト高となってしまい、本発明の目的とする低廉化が達成できない。低廉化達成の観点から、好ましくはFe含有量は55ppm 以上である。一方、Fe含有量が上限値120ppmを超えると、本発明の製造方法であっても、析出物および晶出物が多くなって、Fe含有化合物の好ましい分布状態の箔が得られない。
【0027】
Fe以外の成分は主としてSiおよびCuであり、Siは500ppm まで、Cuは130ppm までが許容される。本発明においては、交流エッチングを採用した場合に得られる静電容量がFe含有化合物の大きさと分布によって定まり、これに影響を及ぼさない限りSiおよびCuの存在が許容されるからである。
【0028】
その他の元素は不純物元素と見なすこともでき、或いはまた地金、返り材等を選択あるいは添加することによって、本発明の効果を保つ範囲で含有してもよい。目安として、各元素について200ppm 以下、好ましくは150ppm 以下、更に好ましくは100ppm 以下である。不純物元素は少なければ少ないほど好ましいが、コスト高になる。
【0029】
Al純度は、Al純度≧99.94%である。Al純度が99.94%未満では、SiまたはCuの含有量が多くなり、本発明の製造方法であっても、交流エッチング処理で高静電容量のアルミニウム軟質箔が得られない。
【0030】
長径が0.1μm未満である金属間化合物(極微細化合物)のFe含有量の合計が、可及的に少量であることが好ましい。これは交流エッチングに際して、隣接する開口部が干渉しないようにするためである。その量が箔のFe含有量の5%を超えると、極微細化合物の数量が多くなり、前述のように交流エッチング時に穿孔部分同士の干渉が発生し、穿孔部が相互に合体して箔表面積拡大効果が損なわれる。
【0031】
そして更に、長径が0.1〜1.0μmである金属間化合物(微細化合物)のFe含有量の合計は、箔のFe含有量の10%以下とする。これも上記の極微細化合物の場合と同様に、交流エッチングに際して、隣接する穿孔部同士が干渉して合体しないようにするためである。その量が箔のFe含有量の10%を超えると、微細化合物の数量が多くなり、穿孔部同士が干渉、合体して箔表面積拡大効果が損なわれる。
【0032】
このように極微細化合物および微細化合物の数量を低減しただけでは、交流エッチングに際して、箔表面積拡大効果を得るのに必要なエッチング起点が確保できない。そこで、長径が1.0μmを超える金属間化合物(粗大化合物)のFe含有量の合計を、箔のFe含有量の40〜80%の範囲内に規定することにより、エッチング起点を確保する必要がある。粗大化合物のFe含有量合計値が上記規定範囲の下限値すなわち箔のFe含有量の40%より少ないと、エッチング起点が少なくなって必要な表面積拡大効果が得られず、静電容量の高い箔が得られない。逆に、粗大化合物のFe含有量合計値が上記規定範囲の上限値すなわち箔のFe含有量の80%を超えるとエッチング起点が多くなりすぎて穿孔部同士が合体し、やはり静電容量の高い箔が得られない。
【0033】
このような化合物の分布条件を満たした箔を交流エッチングすると、必要なエッチング起点を確保しつつ穿孔部同士の合体を抑止できるので、箔表面積拡大効果が十分に確保され、静電容量の高い箔が得られる。
【0034】
直流エッチングでは、基本的に個々の起点から箔厚さ方向に沿って単一の穿孔が直線状に進行する。これに対して交流エッチングでは、個々の起点から開始した穿孔が交番電圧の繰返しに対応して枝分かれして進行し、結果的に海面状に入り組んだ穿孔部が形成される。このような穿孔挙動が得られる交流としては、極性の変わる波形部分が必要である。交流波形の陽極時間帯で穿孔され、次の陰極時間帯で穿孔部内壁にAlの水和物が生成し、次の陽極時間帯で穿孔部内壁の一部が更に穿孔され、これを繰り返すことにより最終的に海綿状にエッチングされる。
【0035】
交流エッチングの電流は正弦波、矩形波または交直重量波形等の常法の波形でよく限定するものではないが、上記の理由で極性の変わる波形部分が必要である。またエッチングに用いる酸は、塩酸または塩酸硫酸の混酸等の常法の酸でよく、特に限定しない。電流密度も常法の条件でよく、特に限定しないが、例えば10〜1000mA/cm2 の範囲内で設定することが好ましい。
【0036】
エッチングは1条件で処理することもあるが、条件を変えて複数段でエッチングすることもある。本発明の交流エッチングは1条件で処理してもよいし、複数段でエッチングする場合は、多段のうちの少なくとも一段が前記条件を満たしていればよいが、全段が交流エッチングであると一層好ましい。
【0037】
エッチング後は目的の電圧で常法に従って化成処理する。
【0038】
次に、本発明のアルミニウム箔を製造するための好ましい方法について説明する。
【0039】
本発明の規定範囲内であるFe含有量50〜120ppm 、Al純度99.94%以上の組成を有するアルミニウム溶湯を脱ガス処理し、フィルタを通してDC鋳造する。
【0040】
箔中のFe含有化合物のサイズ分布(サイズ区分毎の数量)は、箔の製造条件によって大きく異なるが、本発明の組成範囲の箔においては、第一義的には溶湯の鋳造速度で決まる。即ち、水冷鋳型を用いるDC鋳造法で鋳造速度30〜70mm/minで、厚さ400〜600mmの鋳塊に鋳造する。(ここで「鋳造速度」は「下型引出し速度」であり、この値が小さくなるほど鋳型内での冷却作用を強く受ける。したがって、鋳造速度または鋳塊厚さのどちらか一方でも上記範囲の下限値より小さいと、長径が1μm未満の化合物(極微細および微細化合物)が増加し、逆に、どちらか一方でも上限値より大きいと、長径が1μmを超える化合物(粗大化合物)が過剰になり、いずれも好ましくない。鋳型から引き出された鋳塊に適用する冷却水量は1〜6リットル/cm分の範囲内で適宜選択すればよい。
【0041】
長径が1.0μmを超える粗大な金属間化合物は鋳造時の晶出物と考えられるから、鋳造時に晶出したFe含有化合物が固溶しない温度領域で最終調質焼鈍処理前まで製板および製箔することで、粗大化合物の数量を本発明の範囲内に制御する。得られた鋳塊はソーキング、熱間圧延、冷間圧延、必要に応じて中間焼鈍し、箔圧延後280〜350℃の温度範囲で最終調質焼鈍処理して軟質箔とする。箔厚さは一般的に110乃至90μmである。
【0042】
ここで、得られた鋳塊は、Fe含有量が50ppm以上と多く偏析を生じるので均質化のためにソーキングが必須であり、また厚さが400〜600mmと厚いので冷間圧延に適した厚さとするために熱間圧延が必須である。
【0043】
ソーキングは、具体的には保持温度500℃以下400℃以上、好ましくは490℃以下で、保持時間1時間以上、上限は経済的理由で48時間以内で処理する。
【0044】
熱間圧延の開始温度は、前記の理由から500℃以下400℃以上であり、好ましくは490℃以下で開始して厚さ10mm以下の熱延板とする。一般に、ソーキング処理を熱間圧延のための加熱として利用することが加熱コストおよび処理効率の観点で有利である。ただし、特にこれに限定する必要はなく、ソーキング温度から一旦降温した鋳塊を熱間圧延のために再加熱してもよい。
【0045】
熱間圧延の後、冷間圧延して箔地とし、さらに冷間圧延して箔とする。必要により冷間圧延途中で中間焼鈍処理をしてもよい。
【0046】
ソーキング、熱間圧延、冷間圧延途中の中間焼鈍処理のいずれの処理についても、加熱処理温度条件は、鋳造時晶出したAl−Fe系、Al−Fe−Si系等のFe含有化合物が固溶しない温度領域で最終調質焼鈍処理前まで製板および製箔する。上記処理のいずれかで加熱温度が500℃を超えると一部のFe含有化合物が固溶し、280〜350℃の温度範囲の最終調質焼鈍処理でFeが化合物として新たに析出し、特に極微細析出物の個数が著しく増加して、爾後の交流エッチングで隣接するエッチング部が合体し、静電容量の高い電解コンデンサが得られない。
【0047】
この280〜350℃の温度範囲の最終調質焼鈍処理は、需要者の目的に応じて箔に求められる強度付与のためのもので、この調質焼鈍処理によって、引張強度が40〜70MPa の需要者の目的を満たす箔を提供できる。即ちこの調質焼鈍処理温度が下限値未満であれば強度が高すぎ、上限値を超えると低すぎて使用者目的を満足しない。最終調質焼鈍処理の処理時間は0.1〜24時間とすることが適当であり、下限値未満では強度が安定せず、また上限値を超えても顕在的効果なく、経済的に不利である。
【0048】
【実施例】
表1に示した2種類の組成のアルミニウム溶湯を、鋳造速度40および60mm/min.の二水準でDC鋳造した。鋳型は水冷のAl鋳型を用いた。鋳塊の厚さは450,500mmである。鋳塊に塗布する水量は鋳型周囲1cm当たり2.8リットル/分とした。
【0049】
次いで、鋳塊をソーキングし、ソーキング終了後鋳塊を降温させず直ちに熱延を開始し、厚さ6mmで終了した。この6mm板を冷延で厚さ100μmの箔とし、真空度10-3Paの条件で300℃×10時間の最終焼鈍処理を施して調質した。鋳塊厚、鋳造速度およびソーキング条件を表2に示す。
【0050】
Fe含有化合物は径の異なる2種類のテフロン(登録商標)フィルターを用いて篩い分けし、熱フェノールで分解した溶液を分析した。分析手順の詳細を図1に、分析結果を表3にそれぞれ示す。
【0051】
次いで、下記の3段階処理により電解エッチングし、アジピン酸系溶液中で20V化成処理した。静電容量はLCRメーターで測定した。測定結果を表3に示す。
【0052】
表3の結果から、上記製造過程における最高温処理であるソーキングを500℃以下の温度範囲で行なって製板および製箔されたもの(試料番号3,4,5,6,7,8)は、長径が0.1μm未満および0.1〜1μmの化合物のFe含有量の合計量の全Fe量に対する割合がそれぞれ5%以下および10%以下と少なく、かつ長径が1μmを超える化合物のFe含有量の合計量の全Fe量に対する割合が所定範囲40〜80%にあって、静電容量の高いことが判る。
【0053】
一方、ソーキングを500℃より高い温度範囲で行なって製板および製箔されたもの(試料番号1,2)は、長径が0.1μm未満および0.1〜1μmの化合物の全Fe量に対する割合が5%以上および10%以上と多く、かつ1μmの化合物の全Fe量に対する割合が所定範囲以下であって、静電容量の低いことが判る。
【0054】
<電解エッチングの条件>
第1段階処理
箔A,B共通
16wt%塩酸、1wt%硫酸混合溶液、50℃
正弦波交流50Hz、電流密度500mA/cm2 、時間45秒
第2段階処理
箔A
16wt%塩酸、1wt%硫酸混合溶液、25℃
交直重量波形、50Hz、デューティー比0.80、
電流密度150mA/cm2 、時間60秒
箔B
12wt%塩酸、1wt%硫酸混合溶液、25℃
交直重量波形、50Hz、デューティー比0.80、
電流密度150mA/cm2 、時間60秒
第3段階処理
箔A
16wt%塩酸、1wt%硫酸混合溶液、25℃
正弦波交流、50Hz、電流密度250mA/cm2 、時間300秒
箔B
12wt%塩酸、1wt%硫酸混合溶液、25℃
正弦波交流、50Hz、電流密度250mA/cm2 、時間300秒
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、Fe含有量の多い低廉な軟質箔でも高純度箔なみの静電容量が得られる中・低圧電界コンデンサ用軟質アルミニウム箔が提供される。また、本発明の製造方法によれば、高温に加熱することなく高純度箔なみの静電容量の得られる軟質箔を製造できるので低コストで製造できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、Feを含有する化合物の分析手順を示すフローチャートである。
Claims (3)
- Fe含有量が50〜120ppm 、Si含有量が500 ppm 以下、Cu含有量が130 ppm 以下、残部Alおよびその他の不純物、Al純度が99.94%以上である組成を有する電解コンデンサ用軟質アルミニウム箔であって、該箔中の金属間化合物のうち、長径が0.1μm未満である金属間化合物のFe含有量の合計が、該箔のFe含有量の5%以下であり、かつ長径が0.1〜1.0μmである金属間化合物のFe含有量の合計が、該箔のFe含有量の10%以下であり、更に長径が1.0μmを超える金属間化合物のFe含有量の合計が、該箔のFe含有量の40〜80%であって、引張強度が40〜70MPa であることを特徴とする交流エッチングに供する中・低圧電解コンデンサ用軟質アルミニウム箔。
- 請求項1記載の組成のアルミニウム溶湯をDC鋳造法により鋳造速度30〜70mm/minにて厚さ400〜600mmの鋳塊に鋳造し、得られた鋳塊を鋳造時晶出したFe含有化合物が固溶しない温度領域で、最終調質焼鈍処理前まで製板および製箔し、得られた箔を280〜350℃の温度範囲で最終調質焼鈍処理することを特徴とする交流エッチングに供する中・低圧電解コンデンサ用軟質アルミニウム箔の製造方法。
- 請求項2記載の製造方法において、前記固溶しない温度領域は500℃以下400℃以上であることを特徴とする製造方法。
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