JP3953356B2 - マイクロホンカプセル支承機構 - Google Patents
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Description
【発明の技術分野】
本発明は、マイクロホンケーシングに組み込まれ、マイクロホンに組み込まれたマイクロホンカプセルの弾性的な懸架部としての役目をするマイクロホンカプセルの支承機構に関する。
【0002】
【従来の技術】
すべてのマイクロホンでは、機械的にマイクロホンケーシングと連結したホーンカプセル(以下においては単にカプセルと呼ぶことが多い)の作動様式に関わりなく、グリップノイズから音響的に絶縁して分離することが必要である。
【0003】
こうした課題を解決するために、いわゆる弾性ゴム支承機構が従来技術から公知である。これは、弾性的なゴムまたはゴム状の材料から製作された鍔状またはスパイダー状の中に、カプセルが埋設される形成物であり、この形成物がマイクロホンケーシングの内部に貼り付け、挟み込まれ、もしくはその他の形式で恒久的に、または取外し可能に、マイクロホンケーシングと連結される。
【0004】
あらゆるマイクロホンカプセルは音圧変換器であって、このために1つの根本的な問題に直面することになる。すなわちマイクロホンカプセルが、有効音と望ましくないマイクロホンカプセルの振動運動とを区別できないことである。この両方の種類の励起には同じ作用がある。すなわち、マイクロホンカプセルのダイヤフラムが運動し、その当然の帰結として、マイクロホン出力部に電気信号を生じることにつながる。マイクロホンの振動によって発生する電気信号が望ましくないことは明白である。そこでマイクロホンメーカーは、振動ノイズやグリップノイズを設計的な方策によってできるだけ小さく抑えようと努力している。
【0005】
機械的なシステムとしては、マイクロホンカプセルと弾性的な懸架部または弾性的な支承機構を質量・ばね系とみなすことができる。このような系を機械的に分析すると微分方程式に行きつき、その解が機械システムを表す、完全な記述となる。純粋に数式から見ると、機械的な振動性回路(質量・ばね減衰)の前述した微分方程式は、電気的な振動性回路(インダクタンス・キャパシタンス抵抗)の微分方程式に完全に一致しているので、類推計算によって、電気分野の分析を行うことができる。
【0006】
このとき、質量(m)はインダクタンス(L)に対応し、ばね(c)はキャパシタンス(C)に対応し、減衰(k)はオーム抵抗(R)に対応する。
【0007】
電気工学には、数学的な手法を用いるほうが簡単なので(複素インピーダンスを用いた計算)、このようなやり方を使えば、機械的な基本式を解くよりも早く結果を得ることができる。次いで、電気分野から得られた結果を機械分野に移し変え、それによってマイクロホンカプセルの運動が、時間の経過につれて、および周波数全体にわたって完全に記述できることになる。
【0008】
マイクロホンが振動ノイズやグリップノイズにあまり敏感に反応しないようにするため、質量・ばね系をどのように調節すればよいかという問題に答えるにあたっては、まず最初に、マイクロホンの伝達範囲の限界に関わる問題に答えなくてはならない。マイクロホンは種々の用途に合わせて設計されており、それに応じて、上側および下側の周波数限界もケースごとに別様に選択される。一般的には、高品質のマイクロホンのほうが品質要求の低いマイクロホンよりも、低い周波数に向かう方向へも高い周波数に向かう方向へも、いずれも周波数限界について広い周波数領域を有している。振動ノイズやグリップノイズによるマイクロホンカプセルの励起は低周波領域で起こるので、マイクロホンが伝達する妨害励起に関わるマイクロホンの挙動にとっては、マイクロホンの下側の周波数限界が主要な役割を演じる。
【0009】
別の言い方をすれば、マイクロホンの周波数の推移が、人間の耳で聴取できるもっとも低い周波数にまで達していると、伝達されるべきもっとも低い周波数限界がこれよりも高く調整されているマイクロホンよりも、振動ノイズやグリップノイズに対するマイクロホンの挙動がはるかに敏感になる。つまり、マイクロホンの下側の限界周波数を高く調整することによって、振動ノイズやグリップノイズに対するマイクロホンの感度を下げることが可能である。
【0010】
上記に加えて、電気フィルタをマイクロホンに組み込んでいるマイクロホンメーカーもいくつかある。これは、マイクロホンが舞台用マイクスタンドに設置されていて、歩行音などの妨害音が舞台の床から生じると予想されるときにスイッチオンとされるべき、いわゆる歩行音フィルタである。このとき電気フィルタは、低い周波数が電気的にカットされるように調整されている。電気フィルタも、零信号と妨害信号を区別することはできないので、歩行音フィルタがオンになっていると、フィルタ特性曲線に基づいて、有効音も思いがけず周波数に依存して弱められることになる。簡単に言えば、そのために優れたマイクロホンが低価値なマイクロホンに格下げされてしまう。
【0011】
従来技術における開発の傾向は次のようになっている。すなわち、下側の周波数領域ではマイクロホンカプセルの伝達領域に制限を設けず、その目的のために、システムの機械的な共振周波数が伝達されるべき周波数領域の範囲外になる程度に低く調整されるように、マイクロホンカプセルの弾性的な支承機構を調整しようと尽力されている。これは、下側の周波数限界が200Hzのマイクロホンでは容易に可能であるが、これよりも品質的に高い、下側の周波数限界が20Hzのマイクロホンでははるかに困難である。
【0012】
上に述べた微分方程式の分析から周知となっているように、機械的な振動系の機械的な共振周波数のすぐ付近では、励起信号そのものの振幅よりもはるかに大きくなる可能性のある振幅が生じる。こうした望ましくない振幅増大を減らすために、高い程度の内部減衰を有しているゴムまたはゴム状の材料が支承機構に使用される。これらの材料は、マイクロホンケーシングの振動によって外部から供給される機械エネルギーを熱に変換する。
【0013】
使用される材料は、問題のない環境のもとでは目的を申し分なく果たすが、コストをかけたとしても一連の問題を生む。すなわち可撓性の高い材料は、さまざまな化学的、機械的な添加物によって高度の減衰をするように調整される。しかしその結果として、材料が、機械的特性(強度、弾性)の高い温度依存性を示すことになり、そのために、異なる気象状況に強く反応してしまう。たとえば高価値なマイクロホンの公知の支承機構は、低温側では0℃を少し越えた温度ですでに弾性をほぼ完全に失って硬化し、このことはカプセル支承機構が完全に効果を失うことにつながる。
【0014】
他方、ゴム支承機構は40℃前後の温度のときに、すでにカプセルがマイクロホンケーシングの内面に接触するほど自重のせいで垂れ下がる危険があるほどに軟化し、こうした接触も、同じくカプセル支承機構が完全に効果を失うことにつながる。
【0015】
しかしながら、ゴム支承機構の低い温度安定性ばかりでなく、その老化も利用時の深刻な問題である。ゴムは紫外線から強い作用を受け、いわゆる軟化剤(ゴムを軟質にするための化学添加剤)の不可避的な損失(気化)によって、脆く砕けやすくなる。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、従来技術に基づく支承機構のいろいろな不利な特性を有していない、マイクロホンカプセルのための新規な弾性的な支承機構を提供することである。この支承機構は、その都度のカプセルの型式や、その都度の利用分野に容易に適合可能である。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明は、機械的な振動性回路の3つの要素である、カプセルの質量mと、支承機構のコンプライアンスcと、支承機構の減衰k(電気的な対応物はR,CおよびL)とを、分離された要素として構成することによって、前述の課題を解決する。このことは、好ましくは、次のようにして実現される。
【0018】
カプセル(L)は2つのダイヤフラムによって取り付けられる。これらのダイヤフラムは、小さな内部減衰、またはきわめて小さな内部減衰を有している材料で製作されている。それによって、ダイヤフラムを純粋なばね部材(C)とみなして取り扱うことができる。このダイヤフラムは、従来技術とは異なり、内部減衰を有していなくてよいので(そして有していないほうが望ましいので)、ダイヤフラムの選択には、従来技術とは比較にならないほど多数の材料を対象とすることができる。
【0019】
本発明によれば減衰部材(R)も独自の構成部材として構成され、このことも同じくまったく新たな解決の可能性につながる。
【0020】
本発明は以下の態様を含む。
【0021】
1.上側と下側の環状ダイアフラムと、マイクロホンカプセルに環状ダイアフラムを介して連結する支持箱と、支持箱に少なくとも気密的に連結する蓋と、を備え、下側のダイアフラムと蓋とカプセルとによって閉じた容積部を形成し、蓋は、外部と閉じた容積部とを連通させる開口部を有し、支持箱と蓋の少なくとも一つは、ケーシングに連結し、さらに、蓋の、カプセルと反対を向いている方の側に、開口部と一直線上に並ばない位置に配置される少なくとも一つの貫通穴を有し、蓋に螺合する穴板を備えることを特徴とする支持機構。
【0022】
2.小さな開口部が、空気をあまり透過させない材料で被覆されており、もしくはこの材料で充填されていることを特徴とするところの第1項に記載の支承機構。
【0024】
3.蓋と穴板の間の領域は、弾性的に圧縮可能な、空気をあまり通さない材料が実質的に充填されていることを特徴とするところの第1項に記載の支承機構。
【0025】
4.開口部と貫通穴の少なくとも一つがカプセル中心軸から間隔をおいて配置されており、穴板は蓋に対して回転可能に支持されていることを特徴とするところの第1項または4項に記載の支承機構。
【0027】
【実施例】
次に、図面を参照しながら本発明を詳しく説明する。図1は、本発明の実施例によるカプセルを示す断面図である。図2は、本発明によるカプセルの周波数に対する振幅の推移を示し、また図3は、本発明の異なった実施例であり、図4は、図3の変形例である。
【0028】
まず、図1からわかるように、本発明によれば、マイクロホンカプセル1は2つの環状のダイヤフラム2,3によって、有利には接着によって支持箱4と連結されている。このとき有利にはカプセル1は、破線で図示されているように、上側のダイヤフラム2よりも突出しているのに対し、下側のダイヤフラム3は実質的にカプセルの下面と同一平面上で終わっている。
【0029】
図示した実施例では、破線の部分13は本来のカプセルに相当しており、それに対して太い実線の部分は音響調整のために必要な容積部であり、その壁部は本来のカプセルと不動に連結されているので、この容積部は本発明の意味においてはまだカプセルに属している。このような容積部が必要ないときは、当然ながらこれを省略することができる。
【0030】
支持箱4の下側端部には、少なくとも実質的に気密に支持箱4に着座し、少なくとも1つの小さな開口部7を備えている蓋5が螺合している。このようにして、下側のダイヤフラム3は蓋5とともに、底面にある小さな開口部7によってのみ外部に開いている1つの閉じた容積部6を形成している。開口部7は、空気を半透過させる(あまり透過させない)材料8で覆うか、または充填するのが好ましい。
【0031】
この材料8は、たとえばフェルト、PU発泡材、不織布、プラスチック繊維や天然繊維からなる織物、あるいは金属織物であってよい。この場合の織物とは、製織によってつくられる古典的な形成物であると解する必要はなく、いわゆる「不織ティシュー」であってもよい。
【0032】
マイクロホンカプセル1の質量と、環状ダイヤフラム2,3のばね特性とは、機械的な振動性回路を形成しており、その共振周波数は上に説明したように「選択」され、材料の選択および環状ダイヤフラム2,3の寸法の選択(および特殊ケースではカプセル1の重量化)によって調整される。ダイヤフラム2および3の材料としては、特にPCフィルム、アルミニウム、銅、鋼材、真鍮などであって、それぞれ有利には0.01mmから1mmの厚さのフィルムの形態のものが考慮の対象となる。
【0033】
この機械的な振動性回路の最大振幅を制限するためには、機械的な減衰部材、実際には摩擦部材を、振動性回路に導入することが必要である。
【0034】
この減衰は、空気を半透過させる(要するにあまり透過させない)開口部7と多孔性の材料8によって達成される。マイクロホンケーシングすなわち支持箱4に、軸方向を向いた機械的な励起が生じるたびに、マイクロホンカプセル1は静止状態を離れ、励起の種類と方向に応じて上方または下方へ向かって運動する。それによって空気が、閉じた容積部6から、開口部7および半透過性の材料8を通って押し出され、ないしは吸い込まれるのであり、このことは、この通路の流動特性に基づいて、貫流する空気の運動およびこれに伴うカプセル1の運動を減衰する顕著な機械的摩擦と結びついている。
【0035】
装置またはケーシングへの、このようなセットの組付けは、支持箱4または蓋5を通じて行われるが、いずれの場合でも、マイクロホンカプセル1の運動が妨げられないように行われる。
【0036】
図2は、たとえば異なる材料8および/または開口部7の異なる寸法によって得ることのできる異なる減衰定数(R)で、本発明により達成することができる振幅の推移の一例を、周波数を横軸として示している。曲線Rは摩擦が小さいときの振動挙動を示しており、曲線Gはこれに比べて摩擦が大きいときの振動挙動を示している。図2から明らかなように、摩擦の値を変えることによって、機械システムの共振周波数を大幅に変化させることなく、振動挙動を非常に広い範囲で変化させることができる。
【0037】
ばね力の調整に関わりなく摩擦の調整を行えるという事実は、マイクロホンカプセルの支承機構のきわめて大きな改良である。なぜなら、ダイヤフラムの材料を選択するときにいかなる妥協も必要なくなり、また逆に、支承機構のばね特性に思わぬ変化を起すことなく、支承機構の調整に必要な摩擦値を選択することができるからである。
【0038】
図3は、摩擦部材の考えられる別の実施形態を示している。これは、摩擦値の所望の変更を容易かつ単純に行うことを可能にする変形例である。これを可能にするために、図示した実施例では、蓋5がカプセル1と反対を向いている方の側に、少なくとも1つの貫通穴10を有する穴板9を備えている。蓋5の底面と穴板9との間には、空気をあまり透過させない材料8があり、この材料は、本実施例では蓋5にある開口部7を閉止ないし被覆するだけでなく、実質的に、蓋5と穴板9の間の全面を占めている。穴板9は蓋5と螺合しているので、穴板9を強くネジで締めたり弱く締めたりすることによって、小さな開口部7から、空気をあまり透過させない材料8と、1つまたは複数の貫通穴10とを通っていく通過空気の流動特性を変えることができる。このようにして、カプセル支承機構の減衰を簡単かつ細かい段階で、事実上無段階に変化させることによって、さまざまな用途や組付け状態に適合させることが可能である。
【0039】
図3の調整方法の変形例が、図4に示されている。ここでは、少なくとも1つの開口部7を偏心した位置に有している蓋5だけが図示されている。図示した実施例では、蓋5と穴板9の間に減衰材料(8)は設けられていないが、当然ながら、このような減衰材料を蓋5と穴板9の間の空間に挿入することも可能である。図4に図示した実施例では、図3の変形例では必要だった、状況によってはコストのかかるネジ山を省略することができ、ここでは穴板9が、たとえば蓋5の溝に係合する突起11によって回転可能に支承されている。開口部7と、貫通穴10の位置がそれぞれ中心軸12に対して偏心的に配置されているので、蓋5に対して穴板9を回す(回転方向に位置を変える)ことで、往復して振動する流動経路の長さaを変えることができ、それによって摩擦を変え、それに伴ってカプセルの振動の減衰も変えることができる。
【0040】
当然ながら、図示した種々の実施形態を組み合わせて改変することも可能である。本当に重要なのは、カプセル1の支承が、いかなる特殊な減衰特性も有していなくてよい2つの環状ダイヤフラム2によって行われることと、カプセルの振動の減衰が、カプセル、カプセルの支持箱、そして最後に環状ダイヤフラムの一方によって形成される中空スペースから、空気が減衰されて流出入することによって行われることである。
【0041】
ある実施形態は、たとえば、こうした空気の流動を追加の部材によって再現可能なやり方で減衰するという可能性を対象とするものである。また別の実施形態は、本発明による減衰装置との関連で、変換器の音響調整を行うためにマイクロホンケーシングを利用するという可能性を対象とするものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるカプセルを示す断面図である。
【図2】本発明によるカプセルの周波数に対する振幅の推移を示す説明図である。
【図3】本発明の異なる実施例を示す断面図である。
【図4】図3のさらに異なる実施例を示す図である。
【符号の説明】
1 マイクロホンカプセル
2,3 ダイヤフラム
4 支持箱
5 蓋
6 容積部
7 開口部
Claims (4)
- 上側と下側の環状ダイアフラムと、
マイクロホンカプセルに環状ダイアフラムを介して連結する支持箱と、
支持箱に少なくとも気密的に連結する蓋と、を備え、
下側のダイアフラムと蓋とカプセルとによって閉じた容積部を形成し、
蓋は、外部と閉じた容積部とを連通させる開口部を有し、
支持箱と蓋の少なくとも一つは、ケーシングに連結し、
さらに、蓋の、カプセルと反対を向いている方の側に、開口部と一直線上に並ばない位置に配置される少なくとも一つの貫通穴を有し、蓋に螺合する穴板を備えることを特徴とする支承機構。 - 小さな開口部が、空気をあまり透過させない材料で被覆されており、もしくはこの材料で充填されていることを特徴とするところの請求項1に記載の支承機構。
- 蓋と穴板の間の領域は、弾性的に圧縮可能な、空気をあまり通さない材料が実質的に充填されていることを特徴とするところの請求項1に記載の支承機構。
- 開口部と貫通穴の少なくとも一つがカプセル中心軸から間隔をおいて配置されており、穴板は蓋に対して回転可能に支持されていることを特徴とするところの請求項1に記載の支承機構。
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