JP3948273B2 - 免震構造、免震方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、免震ゴムで免震対象物を免震する免震構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、建築物と基礎部との間に免震ゴムを介装した構成の免震構造が一般的に用いられている。このような免震構造において、大きな地震の発生時等に建築物全体が左右に揺れるような動き(ロッキング)が生ずると、建築物が基礎部から浮き上がった部分において免震ゴムに引抜き力が作用する(図5を参照)。そして、免震ゴムは圧縮力に対しては大きな強度を有するが、引抜き力(引張り力)に対する強度は小さい。このため、免震ゴムに大きな引抜き力が作用すると、免震ゴムによる所期の免震性能が得られなくなってしまう。
【0003】
そこで、例えば特開平10−28072号公報には、免震ゴムに作用する引抜き力を低減することを目的とした免震構造が開示されている。この免震構造では、基礎部側および建築物側に互いに直角関係をもって対向配置された下部ガイドレールおよび上部ガイドレールが固定され、これらガイドレールの間に、上下に伸縮可能な材料からなる引抜拘束部が設けられている。かかる構成によれば、建築部が基礎部から浮き上がるように変位して引抜き力が発生した場合に、この引抜き力に対して引抜拘束部が抵抗することにより、免震ゴムに作用する引抜き力が低減される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の免震構造では、上部および下部のガイドレールを設けることによって建築物の水平変位を許容する構成としているため、構成が複雑化してコスト増を招いてしまう。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、簡単な構成で、大きな引抜き力が発生した場合にも免震性能を維持することが可能な免震構造を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、請求項1に記載された発明は、基礎部に免震ゴムを介して免震対象物を支持する免震構造であって、前記基礎部に対して固定された保持部材と、該保持部材により保持され、前記免震ゴムの下部フランジ板を前記基礎部へ向けて付勢する弾性部材と、前記基礎部に設けられた開口部と、前記下フランジ板の下面に固定されると共に前記開口部に収容されたガイド部材とにより構成され、前記下部フランジ板の上下方向の変位を許容すると共に水平方向の変位及び傾斜を阻止するガイド機構と、を設けたことを特徴とする。
【0007】
請求項1記載の発明によれば、免震ゴムに引抜き力が作用することにより、免震ゴムが基礎部から浮き上がるように変位すると、その引抜き力は免震ゴムの下部フランジ板を介して弾性部材に伝達される。この場合、弾性部材には伝達された力に応じた弾性変形が生ずる。したがって、免震対象物が上向きに変位すると、その変位の一部は弾性部材の弾性変形で吸収されることとなり、これにより、免震ゴムに作用する引抜き力が低減される。このように、本発明によれば、下部フランジ板を付勢する弾性部材と、これを保持する保持部材とを設けるだけの簡単な構成で、免震ゴムに作用する引抜き力を低減して、免震性能を維持することができる。また、ガイド機構により、免震ゴムの下部フランジ板の水平方向の変位及び傾斜が拘束される。このため、免震対象物から免震ゴムに回転力や水平力が作用した場合にも、免震ゴムが傾斜したり水平方向にずれたりするのを防止して、免震ゴムの免震性能を維持することができる。
【0008】
また、請求項2に記載された発明は、請求項1記載の免震構造において、前記弾性部材は、前記免震ゴムの弾性係数よりも小さな弾性係数を有することを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明によれば、弾性体は免震ゴムよりも小さな弾性係数を有しているので、弾性体には免震ゴムよりも大きな弾性変形が生ずる。したがって、免震対象物が上向きに変位した場合に、その変位の大半は弾性体の弾性変形で吸収されることとなり、これにより、免震ゴムに作用する引抜き力はより効果的に低減される。
【0010】
また、請求項3に記載された発明は、請求項1または2記載の免震構造において、前記保持部材は前記基礎部に対する上下方向の位置を調整可能に構成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の発明によれば、保持部材の基礎部に対する上下方向の位置に応じて、弾性体の初期弾性変形量を調整することができる。そして、この初期弾性変形量に応じた初期荷重が免震ゴムを基礎部に付勢する力として作用する。したがって、免震対象物に上向き変位が生じた場合、免震ゴムに作用する引抜き力が上記初期荷重を超えると、免震ゴムが基礎部から浮き上がるように変位することとなる。したがって、本発明によれば、免震対象物の上向き変位に応じて弾性体が弾性変形を始めるタイミングを調整することができる。
【0012】
また、請求項4に記載された発明は、基礎部に免震ゴムを介して免震対象物を支持する免震方法であって、前記基礎部に対して保持部材を固定し、該保持部材により保持され、前記免震ゴムの下部フランジ板を前記基礎部へ向けて付勢する弾性部材を設け、前記基礎部に設けられた開口部と、前記下フランジ板の下面に固定されると共に前記開口部に収容されたガイド部材とにより構成され、前記下部フランジ板の上下方向の変位を許容すると共に水平方向の変位及び傾斜を阻止するガイド機構を設けることを特徴とする。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態である免震構造10が適用された免震対象物である構造物12の基礎部分を示す正面図である。また、図2は、図1に示す免震構造10の直線II-IIに沿った断面図であり、図3は、免震構造10の要部を拡大して示す鉛直方向断面図である。
【0015】
図1〜図3に示す如く、免震構造10は、積層ゴムからなる免震ゴム14を含んで構成されている。免震ゴム14の上下端部には夫々上部フランジ板14aおよび下部フランジ板14bが固定されており、上部フランジ板14aが構造物12の下底面に取り付けられている。
【0016】
図3に示す如く、下部フランジ板14bの下面には、取付ボルト16により、ガイド部材18が固定されている。ガイド部材18は、その上端部に設けられた支持プレート18aと、支持プレート18aの下面に固定されたガイド部18bとにより構成されており、支持プレート18aが下部フランジ板14bに固定されている。ガイド部18bは、例えば、支持プレート18aに溶接固定された環状鋼板18cの内側にモルタル等の充填材18dを充填すること等により構成されている。
【0017】
ガイド部材18は、そのガイド部18bが基礎板20に設けられた円筒状の開口部22に収容され、かつ、支持プレート18aの周縁部下面が基礎板20上に設置されたベースプレート23に当接するように設置されている。ガイド部18bの周囲には、ゴムシート24等の潤滑用材料が張り付けられており、このゴムシート24の外周面が、開口部22の内周面に沿って固定された鋼板等からなるガイド面26と摺動するように構成されている。これにより、ガイド部材18は開口部22により上下に移動可能に支持されつつ、水平方向の変位が阻止されるようになっている。なお、ゴムシート22をガイド部18b側ではなく、ガイド面26側に設けてもよい。
【0018】
下部フランジ板14bの外周縁部の下面と、ベースプレート23との間にはシールゴム等のシール部材27が装着されている。このシール部材27により、後述するように下部フランジ板14bが基礎板20から浮き上がった場合にも、開口部22へ雨水等が浸入することが防止される。
【0019】
免震構造10は、また、引抜力低減機構28を備えている。図2に示される如く、引抜力低減機構28は、免震ゴム14を取り囲むように、1つの免震ゴム14に対して数個(図2の例では、12個)設けられている。
【0020】
引抜力低減機構28は、アンカーボルト30と皿ばね32とにより構成されている。アンカーボルト30は、下部フランジ板14bの外周縁近傍に設けられた貫通穴34を貫通して、基礎板20へ締め込まれている。また、皿ばね32は、アンカーボルト30の頭部30aと下部フランジ板14bの上面との間に装着されている。皿ばね32はその弾性係数が免震ゴム14の弾性係数よりも十分小さくなるように構成されている。かかる引抜力低減機構28の構成によれば、アンカーボルト30の締め込み量に応じて、皿ばね32を圧縮変形させ、これにより、皿ばね32に導入される予荷重P0を調整することができる。そして、この予荷重P0が初期状態において下部フランジ板14bを基礎板20へ付勢する力となる。なお、皿ばね32に代えて、ゴム製部材等の他の弾性体を用いてもよい。
【0021】
図4は、免震ゴム14の取付位置における構造物12の上向き変位δと、当該免震ゴム14に作用する引抜き力Pとの関係を示す。なお、図4には、引抜力低減機構28が設けられない場合の上記関係を一点鎖線で示している。
【0022】
ロッキング等に伴って構造物12が上向きに変位すると、免震ゴム14には引抜き力Pが作用する。この引抜き力Pが、皿ばね32に付与された予荷重P0に達するまでは、下部フランジ板14bが皿ばね32により基礎板20に押し付けられた状態が維持される。このため、図4の区間Iに示すように、上向き変位δの進行に応じて、引抜き力Pは免震ゴム14の弾性係数に応じた比較的大きな勾配で増大する。
【0023】
一方、免震ゴム14に作用する引抜き力Pが予荷重P0を超えると、下部フランジ板14bには皿ばね32による下向きの押し付け力を超える上向きの力が作用することとなるから、下部フランジ板14bが上向きに変位するようになる。この場合、皿ばね32はその上端部がアンカーボルト30の頭部30aで拘束されているから、下部フランジ板14bにより下から圧縮されて、予荷重P0が導入された初期状態から更に圧縮変形する。そして、皿ばね32の弾性係数は免震ゴム14の弾性係数に比べて十分に小さいため、引抜き力Pが予荷重P0を超えた後は、主として皿ばね32の圧縮変形のみが進行する。したがって、図4の区間IIに示すように、引抜き力Pは、上向き変位δの進行に応じて、主に皿ばね32の小さな弾性係数に応じた小さな勾配で増大する。すなわち、構造物12から大きな上向き変位が入力されても、それに伴って生ずる引抜き力Pには、主として皿ばね32の弾性力で抵抗することとなり、免震ゴム14に過大な引抜き力が作用するのを防止することができる。
【0024】
これを、引抜力低減機構28が設けられない場合と比較すると以下の通りである。すなわち、図4に一点鎖線で示すように、引抜力低減機構28が設けられない場合には、引抜き力Pを全て免震ゴム14で受けることになるから、引抜き力Pは、弾性限界P1に達するまで、免震ゴム14の弾性係数に応じた大きな勾配で増加する。そして、変位δ1において免震ゴム14の弾性限界P1に達すると、それ以上の変位では免震ゴム14に塑性変形が生じるために所期の免震性能が得られなくなる。これに対して、引抜力低減機構28が設けられた場合には、上記の如く、引抜き力Pが予荷重P0を超えた後は、引抜き力Pの増加勾配が小さくなるから、変位δ1よりも十分に大きな変位δ2で弾性限界P1に達することになる。このように、引抜力低減機構28が設けられることで、より大きな引抜き変位δ2まで、免震ゴム14をその弾性限界内で作動させて免震性能を維持することができる。
【0025】
以上説明したように、本実施形態によれば、アンカーボルト30および皿ばね32からなる簡単な構成の引抜力低減機構28を設けるだけで、免震ゴム14に過大な引抜荷重が作用するのを防止することができる。したがって、本実施形態によれば、構造物12が、例えば高層ビルのようにアスペクト比が大きく、ロッキング時に大きな引抜き力が発生しやすい場合であっても、コスト増を招くことなく免震構造10を適用して免震を行なうことができる。
【0026】
また、免震ゴム14に作用する引抜き力が低減されることにより、構造物12に入力される水平力によって柱に生ずる軸力を抑えるべくラーメン構造を用いて水平力を構造物12全体に分散させることが不要になる。このため、構造物12を比較的低コストのブレース架構や耐震壁構造で構築することが可能となり、構造物12の構築コストを低減することもできる。
【0027】
また、免震ゴム14には構造物12から引抜き力のほかに回転力や水平方向のせん断力も作用するが、本実施形態では、上記のように、ガイド部材18のガイド部18bが開口部22に保持されていることで、回転力やせん断力が作用した場合にも、免震ゴム14が傾斜したり水平に移動したりするのを確実に防止して、免震性能を維持することができる。
【0028】
なお、上記実施形態では、ガイド部材18のガイド部18aおよび開口部22が円筒状に構成されているものとしたが、円筒状に限らず、これらを矩形や十字型に構成してもよい。要するに、ガイド部材18を、その上下方向の変位のみを許容し、水平方向の変位及び傾斜を阻止するように保持できる構成であればよい。
【0029】
【発明の効果】
本発明によれば、免震ゴムを供える免震構造において、簡単な構成で、大きな引抜き力が発生した場合にも免震ゴムによる免震性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態である免震構造10が適用された構造物12の基礎部分を示す正面図である。
【図2】図1に示す免震構造の直線II-IIに沿った断面図である。
【図3】図1に示す免震構造10の要部を拡大して示す鉛直方向断面図である
【図4】免震ゴムの取付位置における構造物の上向き変位量δと、当該免震ゴムに作用する引抜き力との関係を示す図である。
【図5】建築物のロッキングに伴って引抜き力が生ずる様子を示す図である。
【符号の説明】
10 免震構造
12 構造物
14 免震ゴム
14b 下部フランジ板
18 ガイド部材
20 基礎板
22 開口部
28 引抜力低減機構
30 アンカーボルト
30a 頭部
32 皿ばね

Claims (4)

  1. 基礎部に免震ゴムを介して免震対象物を支持する免震構造であって、
    前記基礎部に対して固定された保持部材と、該保持部材により保持され、前記免震ゴムの下部フランジ板を前記基礎部へ向けて付勢する弾性部材と、
    前記基礎部に設けられた開口部と、前記下フランジ板の下面に固定されると共に前記開口部に収容されたガイド部材とにより構成され、前記下部フランジ板の上下方向の変位を許容すると共に水平方向の変位及び傾斜を阻止するガイド機構と、を設けたことを特徴とする免震構造。
  2. 請求項1記載の免震構造において、前記弾性部材は、前記免震ゴムの弾性係数よりも小さな弾性係数を有することを特徴とする免震構造。
  3. 請求項1または2記載の免震構造において、前記保持部材は前記基礎部に対する上下方向の位置を調整可能に構成されていることを特徴とする免震構造。
  4. 基礎部に免震ゴムを介して免震対象物を支持する免震方法であって、
    前記基礎部に対して保持部材を固定し、
    該保持部材により保持され、前記免震ゴムの下部フランジ板を前記基礎部へ向けて付勢する弾性部材を設け、
    前記基礎部に設けられた開口部と、前記下フランジ板の下面に固定されると共に前記開口部に収容されたガイド部材とにより構成され、前記下部フランジ板の上下方向の変位を許容すると共に水平方向の変位及び傾斜を阻止するガイド機構を設けることを特徴とする免震方法。
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