JP3942333B2 - シャンブレー調の外観を呈する立毛布帛の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はシャンブレー調の外観を呈する立毛布帛に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、いわゆるシャンブレー調や玉虫調と呼ばれる、特異な外観効果を呈する布帛が知られており、これらの布帛は異色に染め分けた経糸及び緯糸を平織又は綾織する(吉川和志著「新しい繊維の知識 改訂第3版」、1994年4月15日鎌倉書房発行など)、或いは染色性を異にする2種以上のポリマーからなる複合繊維を用いて製織する(特開平7−166430号公報)等の方法により製造される。
【0003】
一方、立毛布帛においては、パイル組織と地組織とを異色に染め分けることにより、同様の効果が奏されることも知られている。しかしながら、該方法においては、パイル密度が高くなると地組織の色相が視認し難くなり、その効果が充分に発現しなくなるので、用途が自ずと限定されるという問題があった。
【0004】
このような問題を解決するため、パイル組織として、易染性、或いはカチオン染料可染性の共重合ポリエステル繊維とポリエチレンテレフタレート繊維との複合糸を用い、パイルを構成する繊維のみで異色効果を得ることも検討されているが、染色する際、共重合ポリエステル繊維へ染料が過度に分配されるので、染色の色相が限定されるという問題があり、特に、収縮差によるパイル長差を付与するための熱処理などを行うと、この傾向が顕著になる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記従来技術の有する問題点を解消し、カーシート用途など、パイル密度が極めて高い用途であっても、毛倒れがなく、良好なシャンブレー調の外観効果を呈する立毛布帛及びその製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、カチオン染料可染性ポリエステルからなる捲縮フイラメントがパイル高さの低いパイル面を、また、非捲縮ポリエステルフイラメントがパイル高さの高いパイル面を形成してなる立毛布帛において、該非捲縮ポリエステルフイラメントとして低配向の熱処理糸を使用し、捲縮フィラメントと異色に染め分けるとき、所望の立毛布帛が得られることを究明した。
【0007】
すなわち本発明によれば、カチオン染料可染性ポリエステルからなり、その捲縮率が15%以上の捲縮フイラメントと、沸水収縮率が3.0%以下、複屈折率が0.12以下の非捲縮ポリエステルフイラメントとの混繊糸をパイル糸として用いて立毛布帛を形成させ、引き続いて該パイル糸をカットした後、該立毛布帛を熱処理し、カチオン染料と分散染料とを併用して染色することを特徴とするシャンブレー調外観を呈する立毛布帛の製造方法が提供される。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の立毛布帛にはそのパイル高さを異にする少なくとも2種のパイル面が形成されており、パイル高さの低い第1のパイル面はカチオン染料可染性ポリエステルからなる捲縮フイラメントから、また、該第1のパイル面よりパイル高さの高い第2のパイル面は非捲縮ポリエステルフイラメントから形成されている。
【0009】
ここで、上記の第1のパイル面が非捲縮フィラメントから形成されている場合は、パイル糸の毛倒れが起こりやすくなる。また、上記の第1のパイル面、第2のパイル面共に捲縮フィラメントから形成されている場合は、本発明の目的とするシャンブレー調の外観効果が奏されなくなる。
【0010】
上記の第2のパイル面を形成する非捲縮ポリエステルフイラメントは、第1のパイル面を形成する捲縮フィラメントとは異なった色相に染色されていることが必要である。例えば、該非捲縮ポリエステルフイラメントが捲縮フィラメントと同じポリマーからなる場合は、染色した際、該非捲縮ポリエステルフィラメントと捲縮フィラメントとが同じ色相に染色されてしまう。また、該非捲縮ポリエステルフイラメントが、後述する沸水収縮率(以下BWSと称する)やΔnの値を共に満足しない場合は、捲縮フイラメントに染料が過度に分配され、非捲縮のポリエステルフィラメントは実質的に染色されなくなり、本発明の目的とするシャンブレー調の外観効果が奏されなくなる。
【0011】
上記の立毛布帛のパイル密度は34000〜220000dtex/cm2の範囲にあることが好ましい。該パイル密度が34000dtex/cm2未満の場合は、毛倒れが起こりやすくなり、特にカーシート用布帛のような過酷な条件では使用できなくなる場合がある。一方、該密度が220000dtex/cm2を越えると、第1のパイル面の色相が見えにくくなり、シャンブレー効果が著しく劣ると共に、風合いが硬化し、製造コストが高くなる場合がある。
【0012】
上記の立毛布帛は以下に例示する方法により製造することができる。先ず、第1のパイル面を形成する捲縮フイラメントとしては、カチオン染料可染性ポリエステルからなり、その捲縮率が15%以上、好ましくは20〜40%の捲縮フイラメントを使用することが必要である。ここで、カチオン染料可染性ポリエステルとは、従来公知のカチオン染料可染性ポリエステルが任意に選択可能であり、具体的には、ナトリウムスルホイソフタル酸成分が全酸成分に対して1.0〜5.0モル%共重合されたカチオン染料可染性ポリエステル繊維が好ましく例示される。
【0013】
該捲縮フイラメントの捲縮率が15%未満の場合は、熱処理による捲縮が充分に発現せず、後述するように、立毛布帛を形成させた後、熱処理を施した際、パイル高さの低い第1のパイル面が形成されないので、シャンブレー調外観を示さない。
【0014】
次に、第2のパイル面を形成する非捲縮フイラメントとしては、そのBWSが3.0%以下である非捲縮フイラメントを使用することが必要である。該BWSの値が3.0%を越える場合は、後述するように、立毛布帛に熱処理を施した際、収縮し過ぎて第1のパイル面と第2のパイル面のパイル高さに差がなくなり、シャンブレー調の外観効果を示さない。
【0015】
上記BWSの値を3%以下にするためには、通常、フイラメント糸を熱処理するが、この際、配向性の高いフィラメント糸を熱処理すると繊維のヤング率が高くなり、繊維の剛直性が増して風合いが粗硬になる上、染着性が低下するので、立毛布帛を染色した際、捲縮フイラメントに染料が過度に分配され、非捲縮のフィラメントが染色されないので、シャンブレー調の外観効果を示さなくなる。
【0016】
従って、本発明においては、配向性を高めることなく熱収縮を抑えるため、例えばポリエステルの半延伸糸や部分配向糸(POY)を180℃〜220℃で熱処理することにより、得られる非捲縮ポリエステルフイラメントの複屈折率(以下Δnと称する)を0.12以下とすることが肝要である。
【0017】
次いで、上記捲縮フィラメントと非捲縮ポリエステルフィラメントとは混繊され、立毛布帛のパイル糸として用いられて布帛が形成される。混繊の手段としては、引き揃え合糸、インターレースノズルによる抱合、合撚等の手段が用いられるが、インターレースノズルによる抱合がパイルの形成には最適である。
【0018】
カットパイルを形成させるには、上記の混繊糸を用い、シンカーパイル、ポールトリコット、ダブルラッセルなどのパイル組織を製編してそのパイルをカットするか、或いは、トリコットのパイル編みを起毛機を使ってパイル組織とした後、ループ状のパイルをカットして形成させる。また、織物の場合はモケット組織を製織してセンターカットすれば良い。
【0019】
次に、上記立毛布帛は熱処理され、この熱処理によって捲縮フィラメントの捲縮が発現し、第1のパイル面が形成されると共に、非捲縮フィラメントはわずかしか収縮せず、第1のパイル面よりパイル高さの高い第2のパイル面が形成される。
【0020】
この熱処理は、湿熱処理の場合は80〜130℃の範囲で実施するのが好ましく、100〜110℃の範囲がより好ましい。湿熱処理温度が80℃未満の場合は捲縮フィラメントの捲縮発現が不十分となり、一方、湿熱処理温度が130℃を越える場合は捲縮フィラメントの捲縮のへタリが起こると共に、布帛全体が収縮を起こし風合いが硬くなることがある。また、乾熱処理の場合、熱処理は150〜200℃の範囲で実施するのが好ましく、160〜180℃の範囲がより好ましい。
【0021】
さらに、上記熱処理された立毛布帛は、カチオン染料と分散染料とを併存させた染液により染色されることにより、第1のパイル面を形成する捲縮フイラメントが、該第2のパイル面を形成する非捲縮ポリエステルフイラメントとは異なった色相に着色され、シャンブレー調の外観効果を呈する。
【0022】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら制限されるものではない。尚、実施例中の各物性は下記の方法により測定した。
【0023】
(1)沸水収縮率(BWS)
周長1.125mの検尺機を用い、試料を10回転サンプリングしてかせを作り、そのかせをスケール板の吊るし釘に掛けた後、下部にかせの総繊度の1/30の荷重を吊るし、処理前のかせの長さL1を読む。次に荷重を外し、かせを木綿袋に入れて沸騰水に30分浸ける。その後かせを取り出し、濾紙で水分を切って24時間風乾した後、再びスケール板の吊るし釘に掛け、下部に上記と同じ荷重を吊るし処理後のかせの長さL2を読み取る。
沸水収縮率(BWS)は下記の式により算出した。
【0024】
【数1】
Figure 0003942333
【0025】
(2)複屈折率(△n)
1−ブロモナフタレンを浸透液として用い、偏光顕微鏡にて波長530nmの単色光下で、干渉縞の数:n、コンペンセーターの回転角度:θ、繊維直径:X(nm)を測定し、下記式により△nを算出する。
【0026】
【数2】
Figure 0003942333
【0027】
(3)捲縮率
周長1.125mの検尺機を用いて総繊度3333dtexのかせを作り、そのかせをスケール板の吊るし釘に掛け下部に6gの初荷重と600gの重荷重を吊るし、かせの長さL0を読み取った後、速やかに重荷重を外すと共にスケール板より外し、沸騰水に30分漬けて、捲縮発現処理を行う。その後かせを取り出し、濾紙で水分を切って24時間風乾した後、再びスケール板に吊るし、重荷重を掛けて1分後のかせの長さL1を読み取り、次いで、速やかに重荷重を外し1分後のかせの長さL2を読み取る。
捲縮率は下記の式により算出した。
【0028】
【数3】
Figure 0003942333
【0029】
[実施例1]
ポリエチレンテレフタレートチップを紡糸温度275℃、第一引き取りローラー速度6000m/分、第二引き取りローラ速度6000m/分の条件で紡糸して伸度が150%、総繊度が250dtex/48フイラメントの中間配向マルチフィラメント糸を得た後、該マルチフィラメント糸を、ヒーター長2m、熱処理温度200℃、熱処理速度500m/分、オーバーフィード率5%の条件で熱処理して、BWSが1.2%、Δnが0.094の非捲縮のポリエステルフイラメント糸を得た。
【0030】
一方、ポリエチレンテレフタレートに、ナトリウムスルホイソフタル酸成分が全酸成分に対して2.6モル%共重合されたカチオン染料可染性ポリエステル繊維(総繊度は167dtex/48フイラメント)を常法にて仮撚捲縮加工し、捲縮率が35%の捲縮フィラメント糸を得た。
【0031】
上記の非捲縮フィラメント糸と捲縮フィラメント糸とをインターレースノズルを用いて、オーバーフイード率3%、混繊速度400m/分で混繊し、総繊度が417dtex/96フイラメントの混繊糸を得た。
【0032】
次いで、カールマイヤー製28ゲージポールシンカーを備えた経編機を用い、地組織に167dtex/48フィラメントの非捲縮のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸、パイル組織に上記混繊糸を各筬にフルセット配列し、コース/ウエールが1cmあたり23.6/11.0の編密度で編み立てを行い、混繊糸が2.5mmのループパイルを形成した立毛編地を得た。
【0033】
次いで、日機(株)製シャーリング機にてパイルの先端部を0.2mmカットし、カットパイル状の立毛布帛とした。該布帛を乾熱セッターを用いて180℃の温度にて45秒間拡布状態で熱処理した。
【0034】
次いで、上記編地を(株)日阪製作所製液流染色機にて130℃×45分間染色した。この際の染料配合は下記の通りであった。
Teratop Pink 2GLA 1.8%owf
Teratop Blue HLB 0.4%owf
Aizen Cathilon Black CD-BLH 5.8%owf
Irgasol DAM 1g/l
酢酸 0.5g/l
【0035】
ここで、Teratop及びIrgasol DAMはチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、Aizen Cathilonは保土谷化学工業(株)の染料である。
【0036】
染色後、布帛を(株)ヒラノテクシード製ショートループドライヤーにて120℃×2分の条件で乾燥し、乾燥後、染色中に発生した皺の除去のために、(株)ヒラノテクシード製乾熱セッターにて、160℃×1分の熱処理を行った。
【0037】
得られた布帛は図1に示す如く、捲縮フィラメントが第1のパイル面を形成し、非捲縮ポリエステルフイラメントが第1のパイル面よりパイル高さの高い第2のパイル面を形成しており、捲縮フィラメントが非捲縮フィラメントとは異なった色相に、且つ濃色に染められており、シャンブレー調の外観効果が顕著に発現した立毛布帛であった。また、該布帛のパイル密度は194821dtex/cm2であった。
【0038】
[比較例1]
実施例1において、非捲縮のポリエステルフィラメントとして、BWSが3.2%、Δnが0.138のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント延伸熱処理糸を使用した以外は実施例1と同様に実施した。
【0039】
得られた布帛は、第1のパイル面と第2のパイル面のパイル高さにほとんど差がなく、第2のパイル面を形成する非捲縮のポリエステルフィラメントの剛直性が高いために風合いが粗硬である上、非捲縮のポリエステルフイラメントがほとんど染色されておらず、シャンブレー調の外観効果を示さなかった。
【0040】
【発明の効果】
本発明によれば、カーシート用途など、パイル密度が極めて高い用途であっても、毛倒れがなく、良好なシャンブレー調の外観効果を呈する立毛布帛が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のパイル布帛の一例を示す断面図。
【符号の説明】
1 捲縮フイラメント
2 非捲縮ポリエステルフイラメント
3 地糸

Claims (2)

  1. カチオン染料可染性ポリエステルからなり、その捲縮率が15%以上の捲縮フイラメントと、沸水収縮率が3.0%以下、複屈折率が0.12以下の非捲縮ポリエステルフイラメントとの混繊糸をパイル糸として用いて立毛布帛を形成させ、引き続いて該パイル糸をカットした後、該立毛布帛を熱処理し、カチオン染料と分散染料とを併用して染色することを特徴とするシャンブレー調外観を呈する立毛布帛の製造方法。
  2. パイル密度が34000〜220000dtex/cm2である請求項1記載のシャンブレー調の外観を呈する立毛布帛の製造方法。
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