JP3933731B2 - 金属薄膜型磁気記録媒体及びその製造方法 - Google Patents

金属薄膜型磁気記録媒体及びその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ハードディスク等の磁気ディスク装置に使用される磁気記録媒体に関し、より具体的には、保磁力及び記録再生特性にすぐれた金属薄膜型磁気記録媒体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ハードディスクに用いられる金属薄膜型磁気記録媒体は、一般に図4に示す如く、Al合金からなる非磁性のサブストレート(21)上に非晶質のNiP層(22)が形成された媒体基板(2)に、実質的にCrからなる下地層(4)、Co合金の磁性層(5)、カーボン等の保護膜(6)を順次積層成膜して形成されている。
【0003】
金属薄膜型磁気記録媒体には、記録密度、即ち線記録密度とトラック密度の向上が望まれている。
しかしながら、線記録密度を向上させると、線形等価によって除去できない非線形な波形干渉が生じ、記録分解能の劣化の原因となる。この非線形波形干渉は、円周方向の磁気的異方性が大きくなるほど増大する傾向にある。
トラック密度の向上には、トラック全体に占めるトラックエッジでの媒体ノイズの低減が非常に重要となる。トラックエッジでの媒体ノイズの増加は、円周方向の磁気的異方性に起因する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
媒体基板の表面には、ヘッドと媒体との間の摩擦を軽減するために、テキスチャーと呼ばれる微細な凹凸が円周方向に形成されることが多い。このテキスチャーはCo合金磁性層の周方向の磁気的異方性を高めることになるため、保磁力の向上に対しても有効であることが知られている。しかしながら、円周方向の磁気異方性の向上は、上述のとおり、媒体ノイズの増加に繋がる。
非線形波形干渉を軽減し、かつ媒体ノイズの増加を防ぐために、円周方向のテキスチャーを施さずに、媒体基板の表面に超平滑加工を施した金属薄膜型磁気記録媒体もある。しかしながら、テキスチャーの形成を省略すると、磁性層の磁気的異方性はなくなるが、所望レベルの保磁力を得られない不都合がある。
保磁力の向上には、磁性層のCo合金にPtを添加することが有効であるが、Ptの添加はスパッタリング装置のターゲットが高価になること、さらに媒体ノイズが大きくなる問題がある。
【0005】
本発明の目的は、高保磁力化と媒体ノイズの低減を同時に達成できる金属薄膜型磁気記録媒体及びその製造方法を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明の金属薄膜型磁気記録媒体は、媒体基板と下地層の間に結晶質合金のシード層を設けたもので、該シード層は媒体基板に負のバイアス電圧を印加しながら形成されたものである。
結晶質シード層の成分として、原子%にて、Niを36〜46%、残部実質的にCrからなる合金、または、Niを36〜46%、W、Moの一種又は二種を合計量で0.5〜3%、残部実質的にCrからなる合金を挙げることができる。
【0007】
本発明の金属薄膜型磁気記録媒体の製造方法は、非磁性の媒体基板に下地層を成膜する前に、望ましくはArガス等の不活性ガス雰囲気中で、媒体基板に負のバイアス電圧を印加しながら、媒体基板の上に結晶質合金のシード層を形成するようにしたものである。
【0008】
【作用】
媒体基板に負のバイアス電圧を印加しながら、結晶質合金のシード層を形成することにより、バイアス電圧を印加せずにシード層を形成する場合に比べて、シード層の結晶性は更に高められる。これにより、結晶質合金のシード層の上に成膜されるCr下地層の主たる結晶配向である(211)配向が向上し、ひいては該下地層の上に成膜されるCo合金磁性層の主たる結晶配向である(100)配向が向上する。また、Cr下地層の結晶が微細化され、ひいてはCo合金磁性層の結晶が微細化される。
このように、Co合金磁性層の結晶配向が向上し、結晶が微細化されることにより、磁気記録媒体の高保磁力化と媒体ノイズの低減化が同時に達成される。
【0009】
なお、結晶質合金のシード層を形成する前の媒体基板のNiP層表面には不純物ガスが吸着し易く、不純物ガスが吸着した媒体基板の上にシード層を形成すると、不純物ガスがシード層に取り込まれて、シード層の結晶配向性が乱れる。
ところが、Arガス等の不活性ガス雰囲気中で媒体基板に負のバイアス電圧を印加すると、不活性ガスがNiP層の表面に衝突して不純物ガスは取り除かれる。このNiP層表面へのクリーニング作用によって、NiP層表面に吸着していた不純物ガスを取り込むことなく、シード層は形成される。
【0010】
Crを主体とするシード層の中に適量のNiを含有すると、磁気記録媒体の高保磁力化に有効である。このため、シード層にはNiを36〜46原子%含有させるものとし、38〜44原子%がより望ましい。
W、Moは、Co合金磁性層の主たる結晶配向である(100)配向をさらに向上させ、また微細化を促進する作用を有する。このため、W及び/又はMoを合計量で0.5原子%以上含有させるが、あまりに多く含有すると、シード層がアモルファス化するので、上限は合計量で3原子%とする。
【0011】
媒体基板にテキスチャーを施した場合であっても、Cr下地層との間に上述の結晶質シード層を設けたことにより、磁性層の磁気的異方性は低減される。従って、磁気的異方性に起因する媒体ノイズの増加は抑制され、かつ非線形波形干渉を低減することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の金属薄膜型磁気記録媒体(1)の部分断面図を示しており、Al合金またはガラスからなるサブストレート(21)にNiP層(22)を形成した媒体基板(2)上に、結晶質シード層(3)、下地層(4)、磁性層(5)及び保護膜(6)を、この順序で積層成膜している。
結晶質シード層(3)は、媒体基板(2)に負のバイアス電圧を印加しながらスパッタリングにより、媒体基板(2)のNiP層(22)の上に形成される。
図1では、NiP層(22)、シード層(3)、下地層(4)、磁性層(5)及び保護膜(6)がサブストレート(21)に関して対称に成膜されており、両面で書込み/読出しを行なえる構成としているが、各層を片面にのみ成膜して、片面のみで書込み/読出しを行なう構成とすることもできる。
【0013】
媒体基板(2)のNiP層(22)には、ヘッドと媒体との間の摩擦を軽減するために、円周方向にテキスチャーを施してもよい。一方、ヘッドの低浮上化のために磁気記録媒体(1)に平坦度が要求される場合には、スーパーフィニッシュ加工を施して表面を超平滑化させることができる。
【0014】
前述したように、結晶質シード層(3)の形成は、Arガス等の不活性ガス雰囲気中で、媒体基板(2)に負のバイアス電圧を印加しながら、公知のDCスパッタリング法により行なわれるが、シード層(3)の形成時に、媒体基板(2)に印加される負のバイアス電圧は、シード層の結晶性向上効果を十分に得るために、−100V以上とすることが望ましい。
シード層(3)の厚さは約100〜1000Åが望ましい。シード層(3)の厚さが薄すぎるとシード層(3)の効果が十分に発揮されず、あまり厚くなりすぎると、その上に形成されるCr下地層(4)及びCo合金磁性層(5)の粒子の粗大化を招き、ノイズが増大するおそれがあるからである。
また、シード層(3)の上に成膜されるCr下地層(4)の厚さは、200〜1000Åが望ましく、400〜800Åがより望ましい。これは、下地層(4)の層厚を約800Åより厚くしても、磁気記録媒体(1)の保磁力のさらなる向上は期待できないためであり、1000Åよりも厚くすると、その上に形成されるCo合金磁性層(5)の粒子の粗大化を招き、ノイズが増大するおそれがあるためである。
【0015】
下地層(4)は、公知の如く、実質的にCrから形成する。実質的にCrとは、必ずしも100%Crである必要はなく、Crを約95原子%以上含有しておればよい。
磁性層(5)は、Coを主成分とする公知のCo合金から形成する。
【0016】
NiP層(22)、下地層(4)、磁性層(5)及び保護膜(6)の形成は、公知の如く、DCスパッタリング法、メッキ法又は真空蒸着法等の方法により行なうことができる。
【0017】
なお、下地層(4)をシード層(3)の上に成膜する際、Cr下地層(4)を所望の結晶配向とするために、シード層(3)及びNiP層(22)を赤外線ヒーター等によって約250〜300℃に加熱した状態で実施することが望ましい。
【0018】
【実施例】
実施例1
この実施例は、シード層を形成する際に印加するバイアス電圧と保磁力(Hc)との関係を調べるものであり、下記条件でDCスパッタリング装置を用いて各層を順に成膜した。
・媒体基板
サブストレート:Al合金製(3.5inch−31.5mil)
NiP層 :厚さ10μm
表面処理 :円周方向の機械的テキスチャー
粗さ :Ra=28Å
・シード層
組成:表1参照
厚さ:400Å
組織:結晶質
成膜時のバイアス電圧:表1参照
【0019】
【表1】
Figure 0003933731
【0020】
・下地層
組成:実質的にCr
厚さ:600Å
成膜時の基板加熱温度:260℃
成膜時のバイアス電圧:−200V
・磁性層
組成:原子%にて、Cr14%、Ta6%、残部実質的にCo
厚さ:400Å
成膜時のバイアス電圧:−200V
・保護膜
厚さ:120Å
組成:実質的にC
【0021】
上記各磁気記録媒体の保磁力Hcの測定結果を図2に示す。
何れの磁気記録媒体についても、バイアス電圧を印加してシード層を形成することにより、保磁力Hcが上昇していることが判る。特に、シード層にWを2原子%、またはMoを1原子%含有する磁気記録媒体は、印加するバイアス電圧の大きさにほぼ比例して、保磁力Hcが上昇している。
保磁力Hcが向上したのは、シード層の結晶性が、バイアス電圧の印加により更に高められ、Cr下地層の主たる結晶配向である(211)配向、Co磁性層の主たる結晶配向である(100)配向が向上すると共に、下地層及び磁性層がより微細化されたためと考えられる。
【0022】
実施例2
この実施例は、記録再生特性を調べるものである。なお、磁気特性が異なると記録再生特性も異なるため、磁気記録媒体は、Br・δが約220Gμとなるように調整し、各媒体の保磁力Hcが約2200Oeとなるように磁性層の成膜時のバイアス電圧及び基板温度を変えて作製した。
記録再生特性の測定は、Silmag社製のPHSヘッドを用いて行なった。測定結果を表2に示す。
【0023】
【表2】
Figure 0003933731
【0024】
表2中、SNmは媒体ノイズと信号強度との比、Nmは媒体のノイズを表わす。NLTSは、Non Linear Transition Shiftの略語で、既に書き込まれた記録パターン上の漏洩磁場がヘッドの記録磁界に影響を及ぼした結果、次にディスクに書き込まれる磁化遷移領域の位置がずれる量を表わしている。
表2の記録再生特性結果を参照すると、SNm、Nm、NLTSの全ての特性に関して、バイアス電圧を印加して結晶質シード層を形成した磁気記録媒体は、バイアス電圧を印加せずに結晶質シード層を形成した磁気記録媒体よりもすぐれており、記録再生特性が改善されていることを示している。Wを含むCr−Ni合金にバイアス電圧を印加して形成した結晶質シード層は、特に記録再生特性がすぐれていることが判る。
【0025】
実施例3
実施例1で得られたCr60Ni40の結晶質シード層を有する磁気記録媒体についてX線回析を行なった。測定結果を図3に示す。図3を参照すると、印加するバイアス電圧が大きくなるにつれて、Cr−Niのピークが左側へ移動していることがわかる(図中一点鎖線で示す)。これは、Cr−Niの結晶格子が膨れ、シード層の結晶配向性が高まっていることを意味している。なお、図3中、縦軸の強さを示す数値は任意目盛(arbitrary unit)である。
【0026】
【発明の効果】
媒体基板に負のバイアス電圧を印加しながら、Ni:36〜46原子%、残部実質Crからなる結晶質合金、またはNiを36〜46原子%、W、Moの一種又は二種を合計量で0.5〜3原子%、残部実質的にCrからなる結晶質合金のシード層を設けたことにより、高保磁力及び低ノイズ特性を具えた磁気記録媒体を得ることができ、記録密度の向上に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】結晶質Cr−Niのシード層を形成した金属薄膜型磁気記録媒体の部分断面図である。
【図2】シード層形成時に印加するバイアス電圧と保磁力の関係を示すグラフである。
【図3】磁気記録媒体のX線回折結果を示すグラフである。
【図4】従来の金属薄膜型磁気記録媒体の部分断面図である。
【符号の説明】
(1) 金属薄膜型磁気記録媒体
(2) 媒体基板
(3) 結晶質シード層
(4) 下地層
(5) 磁性層
(6) 保護膜

Claims (3)

  1. 非磁性の媒体基板上に、下地層、磁性層及び保護膜を順次積層成膜してなる金属薄膜型磁気記録媒体において、磁気記録媒体の高保磁力化と媒体ノイズの低減化のために、媒体基板と下地層の間に、原子%にて、Ni:36〜46%、残部実質的にCrからなる結晶質合金のシード層が設けられ、該シード層は媒体基板に負のバイアス電圧を印加しながら形成されたものであることを特徴とする金属薄膜型磁気記録媒体。
  2. 非磁性の媒体基板上に、下地層、磁性層及び保護膜を順次積層成膜してなる金属薄膜型磁気記録媒体において、磁気記録媒体の高保磁力化と媒体ノイズの低減化のために、媒体基板と下地層の間に、原子%にて、Ni:36〜46%、W、Moの一種又は二種を合計量で0 . 5〜3%、残部実質的にCrからなる結晶質合金のシード層が設けられ、該シード層は媒体基板に負のバイアス電圧を印加しながら形成されたものであることを特徴とする金属薄膜型磁気記録媒体。
  3. 非磁性の媒体基板上に、下地層、磁性層及び保護膜を順次積層成膜する金属薄膜型磁気記録媒体の製造方法において、磁気記録媒体の高保磁力化と媒体ノイズの低減化のために、原子%にて、Ni:36〜46%、残部実質的にCrからなる結晶質合金のシード層を、下地層を成膜する前に、媒体基板に負のバイアス電圧を印加しながら、媒体基板の上に形成する工程を有することを特徴とする金属薄膜型磁気記録媒体の製造方法。
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