JP3933732B2 - 金属薄膜型磁気記録媒体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ハードディスク等の磁気ディスク装置に使用される磁気記録媒体に関し、より具体的には、保磁力及び記録再生特性にすぐれた金属薄膜型磁気記録媒体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ハードディスクに用いられる金属薄膜型磁気記録媒体は、一般に図4に示す如く、Al合金からなる非磁性のサブストレート(21)上に非晶質のNiP層(22)が形成された媒体基板(2)に、実質的にCrからなる下地層(4)、Co合金の磁性層(5)、カーボン等の保護膜(6)を順次積層成膜して形成されている。
【0003】
金属薄膜型磁気記録媒体には、記録密度、即ち線記録密度とトラック密度の向上が望まれている。
しかしながら、線記録密度を向上させると、線形等価によって除去できない非線形な波形干渉が生じ、記録分解能の劣化の原因となる。この非線形波形干渉は、円周方向の磁気的異方性が大きくなるほど増大する傾向にある。
トラック密度の向上には、トラック全体に占めるトラックエッジでの媒体ノイズの低減が非常に重要となる。トラックエッジでの媒体ノイズの増加は、円周方向の磁気的異方性に起因する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
媒体基板の表面には、ヘッドと媒体との間の摩擦を軽減するために、テキスチャーと呼ばれる微細な凹凸が円周方向に形成されることが多い。このテキスチャーはCo合金磁性層の周方向の磁気的異方性を高めることになるため、保磁力の向上に対しても有効であることが知られている。しかしながら、円周方向の磁気異方性の向上は、上述のとおり、媒体ノイズの増加に繋がる。
非線形波形干渉を軽減し、かつ媒体ノイズの増加を防ぐために、円周方向のテキスチャーを施さずに、媒体基板の表面に超平滑加工を施した金属薄膜型磁気記録媒体もある。しかしながら、テキスチャーの形成を省略すると、磁性層の磁気的異方性はなくなるが、所望レベルの保磁力を得られない不都合がある。
保磁力の向上には、磁性層のCo合金にPtを添加することが有効であるが、Ptの添加はスパッタリング装置のターゲットが高価になること、さらに媒体ノイズが大きくなる問題がある。
【0005】
本発明の目的は、高保磁力化と媒体ノイズの低減を同時に達成できる金属薄膜型磁気記録媒体を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明の金属薄膜型磁気記録媒体は、媒体基板と下地層の間に、原子%にて、Ni:36〜46%、Cu:0.5〜6%、残部実質的にCrからなる結晶質合金のシード層を設けたものであり、該シード層は、媒体基板に負のバイアス電圧を印加しながら形成される。
【0007】
【作用】
シード層を構成する結晶質合金には難固溶性のCuが含まれており、媒体基板に負のバイアス電圧を印加しながら、前記組成の結晶質合金のシード層を媒体基板の上に形成すると、Cuが結晶粒界に偏析として析出し、Ni−Crの母相の結晶成長を抑制し結晶が微細化される結果、シード層の上に成膜されるCr下地層の主たる結晶配向である(211)配向が向上し、ひいては該下地層の上に成膜されるCo合金磁性層の主たる結晶配向である(100)配向が向上する。また、Cr下地層の結晶が微細化されて、ひいてはCo合金磁性層の結晶が微細化される。
このように、Co合金磁性層の結晶配向が向上し、結晶が微細化されることにより、磁気記録媒体の高保磁力化と媒体ノイズの低減化が同時に達成される。
【0008】
Crを主体とするシード層の中に適量のNiを含有すると、磁気記録媒体の高保磁力化に有効である。このため、シード層にはNiを36〜46原子%含有させるものとし、38〜44原子%がより望ましい。
Cuは、シード層を形成する際、媒体基板に負のバイアス電圧を印加したとき、シード層の結晶を微細化する作用を有しており、Co合金磁性層の主たる結晶配向である(100)配向をさらに向上させて、また微細化を促進する作用を有する。このため、0.5原子%以上含有させるが、あまりに多く含有すると、Cuの偏析量が多くなりすぎるので上限は6原子%とする。
【0009】
媒体基板にテキスチャーを施した場合であっても、Cr下地層との間に前記組成の結晶質シード層を設けたことにより、磁性層の磁気的異方性は低減される。従って、磁気的異方性に起因する媒体ノイズの増加は抑制され、かつ非線形波形干渉を低減することができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の金属薄膜型磁気記録媒体(1)の部分断面図を示しており、Al合金またはガラスからなるサブストレート(21)にNiP層(22)を形成した媒体基板(2)上に、結晶質シード層(3)、下地層(4)、磁性層(5)及び保護膜(6)を、この順序で積層成膜している。
結晶質シード層(3)は、望ましくはArガス等の不活性ガス雰囲気中で、媒体基板(2)に負のバイアス電圧を印加しながらスパッタリングにより、媒体基板(2)のNiP層(22)の上に形成される。
図1では、NiP層(22)、シード層(3)、下地層(4)、磁性層(5)及び保護膜(6)がサブストレート(21)に関して対称に成膜されており、両面で書込み/読出しを行なえる構成としているが、各層を片面にのみ成膜して、片面のみで書込み/読出しを行なう構成とすることもできる。
【0011】
媒体基板(2)のNiP層(22)には、ヘッドと媒体との間の摩擦を軽減するために、円周方向にテキスチャーを施してもよい。一方、ヘッドの低浮上化のために磁気記録媒体(1)に平坦度が要求される場合には、スーパーフィニッシュ加工を施して表面を超平滑化させることができる。
【0012】
シード層(3)の厚さは約100〜1000Åが望ましい。シード層(3)の厚さが薄すぎるとシード層(3)の効果が十分に発揮されず、あまり厚くなりすぎると、その上に形成されるCr下地層(4)及びCo合金磁性層(5)の粒子の粗大化を招き、ノイズが増大するおそれがあるからである。
また、シード層(3)の上に成膜されるCr下地層(4)の厚さは、200〜1000Åが望ましく、400〜800Åがより望ましい。これは、下地層(4)の層厚を約800Åより厚くしても、磁気記録媒体(1)の保磁力のさらなる向上は期待できないためであり、1000Åよりも厚くすると、その上に形成されるCo合金磁性層(5)の粒子の粗大化を招き、ノイズが増大するおそれがあるためである。
【0013】
下地層(4)は、公知の如く、実質的にCrから形成する。実質的にCrとは、必ずしも100%Crである必要はなく、Crを約95原子%以上含有しておればよい。
なお、下地層(4)をシード層(3)の上に成膜する際、Cr下地層(4)を所望の結晶配向とするために、シード層(3)及びNiP層(22)を赤外線ヒーター等によって約250〜300℃に加熱した状態で実施することが望ましい。
【0014】
磁性層(5)は、Coを主成分とする公知のCo合金から形成する。
NiP層(22)、下地層(4)、磁性層(5)及び保護膜(6)の形成は、公知の如く、DCスパッタリング法、メッキ法又は真空蒸着法等の方法により行なうことができる。
【0015】
【実施例】
実施例1
この実施例は、シード層を形成する際に印加するバイアス電圧と保磁力(Hc)との関係を調べるものであり、下記条件でDCスパッタリング装置を用いて各層を順に成膜した。
・媒体基板
サブストレート:Al合金製(3.5inch−31.5mil)
NiP層 :厚さ10μm
表面処理 :円周方向の機械的テキスチャー
粗さ :Ra=28Å
・シード層
組成:Ni40原子%、Cu2原子%、残部実質Cr(Cr58Ni40Cu2)
厚さ:600Å
組織:結晶質
成膜時のバイアス電圧:0V、−100V、−200V、−300V
・下地層
組成:実質的にCr
厚さ:600Å
成膜時の基板加熱温度:260℃
成膜時のバイアス電圧:−200V
・磁性層
組成:原子%にて、Cr14%、Ta6%、残部実質的にCo
厚さ:400Å
成膜時のバイアス電圧:−200V
・保護膜
厚さ:120Å
組成:実質的にC
【0016】
各磁気記録媒体の保磁力Hcの測定結果を図2に示す。
図2を参照すると、媒体基板に印加する負のバイアス電圧が大きくなるにつれて、磁気記録媒体の保磁力Hcが上昇しており、難固溶性のCuによるNi−Crの母相の結晶成長抑制と結晶微細化効果は、負のバイアス電圧の印加により高められることを示している。
【0017】
図2の結果より、約1900Oe以上の保磁力を得るためには、シード層の形成時に媒体基板に印加するバイアス電圧を約−150V以上にすることが望ましく、約2100Oe以上の保磁力を得るためには、約−200V以上のバイアス電圧を印加することがより望ましい。
【0018】
実施例2
この実施例は、記録再生特性を調べるものである。
上記磁気記録媒体に加えて、組成が原子%にて、Ni:42%、Cu:3%、残部実質的にCr(Cr55Ni42Cu3)である合金を、媒体基板にバイアス電圧−300Vを印加しつつスパッタリングして、結晶質シード層を形成した磁気記録媒体を作製した。なお、シード層の成分及び印加するバイアス電圧以外は、実施例1の磁気記録媒体と同様である。
得られた磁気記録媒体は、磁気特性が異なると記録再生特性も異なるため、磁気記録媒体は、磁性層の成膜時のバイアス電圧及び基板温度を調整して、Br・δが約220Gμとなるように作製した。
記録再生特性の測定は、Silmag社製のPHSヘッドを用いて行なった。測定結果を表1に示す。
【0019】
【表1】
【0020】
表1中、SNmは媒体ノイズと信号強度との比、Nmは媒体のノイズを表わす。NLTSは、Non Linear Transition Shiftの略語で、既に書き込まれた記録パターン上の漏洩磁場がヘッドの記録磁界に影響を及ぼした結果、次にディスクに書き込まれる磁化遷移領域の位置がずれる量を表わしている。
表1の記録再生特性結果を参照すると、SNm、Nm、NLTSの全ての特性に関して、バイアス電圧を印加して結晶質シード層を形成した磁気記録媒体は、バイアス電圧を印加せずに結晶質シード層を形成した磁気記録媒体、またはシード層を形成していない磁気記録媒体よりもすぐれており、記録再生特性が改善されていることを示している。
【0021】
実施例3
実施例1で作製された磁気記録媒体についてX線回析を行ない、結晶配向を調べた。
測定には、バイアス電圧−300Vで結晶質Cr58Ni40Cu2のシード層を形成した磁気記録媒体と、バイアス電圧を印加せずに結晶質Cr58Ni40Cu2のシード層を形成した磁気記録媒体を用いた。
測定結果を図3に示す。なお、図3中、縦軸の強さを示す数値は任意目盛(arbitrary unit)である。
図3を参照すると、バイアス電圧を印加しつつシード層を形成した本発明の磁気記録媒体は、Cr−Ni−Cuのピークが左に大きく移動しており、シード層の結晶配向性が高まっていることが判る。また、バイアス電圧を印加せずにシード層を形成した磁気記録媒体は、Cr下地層、Co磁性層の主たる結晶配向が夫々(002)、(110)であり、磁性層に垂直方向の磁界が形成されやすくなっているのに対し、バイアス電圧を印加しつつシード層を形成した磁気記録媒体は、Cr下地層の結晶配向が(211)、Co磁性層の結晶配向が(100)であり、各層が微細化され、面内保磁力が高められていることが判る。
【0022】
【発明の効果】
媒体基板のNiP層の上に、Ni:36〜46原子%、Cu:0.5〜6%、残部実質的にCrからなる結晶質合金のシード層を設けたことにより、保磁力が高く、記録再生特性に優れる磁気記録媒体を得ることができる。特に、シード層の形成時、媒体基板に印加する負のバイアス電圧を大きくするほど、すぐれた保磁力、記録再生特性を具えた磁気記録媒体を得ることができる。
このように、本発明により作製された金属薄膜型磁気記録媒体は、高保磁力と高記録再生特性を同時に得ることができ、記録密度の向上に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】結晶質Cr−Ni−Cuのシード層を形成した金属薄膜型磁気記録媒体の部分断面図である。
【図2】シード層形成時に印加するバイアス電圧と保磁力の関係を示すグラフである。
【図3】磁気記録媒体のX線回折結果を示すグラフである。
【図4】従来の金属薄膜型磁気記録媒体の部分断面図である。
【符号の説明】
(1) 金属薄膜型磁気記録媒体
(2) 媒体基板
(3) 結晶質シード層
(4) 下地層
(5) 磁性層
(6) 保護膜
Claims (2)
- 非磁性の媒体基板上に、下地層、磁性層及び保護膜を順次積層成膜してなる金属薄膜型磁気記録媒体において、磁気記録媒体の高保磁力化と媒体ノイズの低減化のために、媒体基板と下地層の間に、原子%にて、Ni:36〜46%、Cu:0.5〜6%、残部実質的にCrからなる結晶質合金のシード層が形成されていることを特徴とする金属薄膜型磁気記録媒体。
- シード層は、媒体基板に負のバイアス電圧を印加しながら形成されたものである請求項1に記載の金属薄膜型磁気記録媒体。
Priority Applications (1)
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JP22961796A JP3933732B2 (ja) | 1996-08-30 | 1996-08-30 | 金属薄膜型磁気記録媒体 |
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JP22961796A JP3933732B2 (ja) | 1996-08-30 | 1996-08-30 | 金属薄膜型磁気記録媒体 |
Publications (2)
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-
1996
- 1996-08-30 JP JP22961796A patent/JP3933732B2/ja not_active Expired - Fee Related
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