JP3931322B2 - シリコンインゴット鋳造用鋳型およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、太陽光発電用電池のシリコン基板などに用いる柱状晶組織を持つ多結晶シリコンインゴットを製造するためのシリコンインゴット鋳造用鋳型およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
光電変換効率の優れた太陽光発電用電池のシリコン基板を作製するためのシリコンインゴット製造用鋳型として特開平11−244988号公報記載のシリコンインゴット製造用鋳型が知られている。
【0003】
この従来のシリコンインゴット製造用鋳型は、図3の断面図に示されているように、石英ガラス又は黒鉛からなる鋳型1の内側に粒径50〜300μmの微細溶融シリカ砂31をシリカで結合してなる内層4が被覆された構造を有している。前記内層4は、一層詳細に示すと、図3の一部拡大図Aに示されるように、微細溶融シリカ砂31をシリカ6´で結合してなる内層4で被覆されている。この微細溶融シリカ砂31を含む内層4は鋳型1の内壁から剥離しやすいところから、図4の断面図に示されるように、シリコン溶湯をシリコンインゴット鋳造用鋳型に注入し凝固させる際に、シリコンインゴット2の外周が鋳型内壁面に引っ張られることにより剥離Bが発生してシリコンインゴット2に内部応力が残留せず、従って、シリコンインゴット製造時の内部応力割れが発生することはないので歩留まりが向上し、さらにこの内部応力残留の少ないシリコンインゴットを用いて作製したシリコン基板を組み込んだ太陽光発電用電池の光変換効率は大幅に改善される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前記シリカ6´および溶融シリカ砂31を主体とした内層を石英ガラス又は黒鉛からなる鋳型1の内側に形成した従来のシリコンインゴット製造用鋳型は、これを用いてシリコンインゴットを製造すると、内層の主成分であるシリカおよび溶融シリカ砂が溶解シリコンと反応することにより酸素が溶け込みやすく、これ以上の太陽光発電用電池の性能を向上させるのは難しい。
【0005】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者らは、かかる課題を解決すべく研究を行なった結果、
(a)図1の鋳型断面図および図1の鋳型の一部を拡大した断面図である図1のAに示されるように、石英ガラス又は黒鉛からなる鋳型1の内側に、粒径50〜300μmの微細溶融シリカ砂31が、粒径0.2〜4.0μmの窒化ケイ素(Si3 N4 )粉末5およびナトリウム含有のシリカ6からなる混合体素地により結合された構造の内層3を形成した鋳型を作製し、この鋳型に溶解シリコンを鋳造して得られたシリコンインゴットは、溶解シリコンが接する内層3の最表面が窒化ケイ素粉末5で一部置換されているために溶解シリコンとの反応が軽減され、シリコン融液中の酸素濃度が低下する、
(b)前記窒化ケイ素(Si3 N4 )粉末はシリカに対して75〜90重量%添加することが好ましく、前記ナトリウム含有のシリカ6は、ナトリウム10〜6000ppm含有のシリカを使用することが好ましく、このナトリウム10〜6000ppm含有のシリカ6は窒化ケイ素粉末5に対する密着性が大幅に改善され、窒化ケイ素粉末5をしっかりと固定し、シリコンを溶解し鋳造する際に微細な窒化ケイ素粉末5がシリコン溶湯に巻き込まれることを防止する、
(c)このシリコンインゴット製造用鋳型を製造するには、鋳型内側に、ナトリウム10〜6000ppmを含有するコロイダルシリカに粒径0.2〜4.0μmの窒化ケイ素粉末を混合して得られた窒化ケイ素スラリーを塗布または吹き付けて窒化ケイ素スラリー層を形成し、この窒化ケイ素スラリー層の表面に粒径50〜300μmの微細溶融シリカ砂を散布してスタッコ層を形成し、このスタッコ層の上にさらに前記窒化ケイ素スラリーを塗布または吹き付けて最表面窒化ケイ素スラリー層を形成し、ついで乾燥し焼成することにより鋳型内側に粒径50〜300μmの微細溶融シリカ砂を含む内層を形成することにより得られる、
(d)このようにして得られた鋳型に溶解シリコンを注入し凝固させてシリコンインゴットを作製すると、図2の断面図に示されるように、内層3とシリコンインゴット2の境界に剥離Bが発生してシリコンインゴット2に内部応力が残留せず、またシリコンインゴット製造時の内部応力割れが発生することはないので歩留まりが向上する、
という研究結果が得られたのである。
【0006】
この発明は、かかる研究結果に基づいて成されたものであって、
(1)鋳型内側に内層を形成してなるシリコンインゴット鋳造用鋳型であって、
前記内層は、粒径50〜300μmの微細溶融シリカ砂が、粒径0.2〜4.0μmの窒化ケイ素粉末:75〜90重量%および残部:ナトリウム10〜6000ppm含有のシリカからなる混合体素地により結合された構造の層であるシリコンインゴット鋳造用鋳型、
(2)鋳型内側に内層を形成してなるシリコンインゴット鋳造用鋳型であって、
前記内層は、粒径50〜300μmの微細溶融シリカ砂が、粒径0.2〜4.0μmの窒化ケイ素粉末:75〜90重量%および残部:ナトリウム10〜6000ppm含有のシリカからなる混合体素地により結合された構造の層であり、
前記内層の最表面は、粒径0.2〜4.0μmの窒化ケイ素粉末:75〜90重量%および残部:ナトリウム10〜6000ppm含有のシリカからなる混合体素地にて覆われているシリコンインゴット鋳造用鋳型、
(3)鋳型内側に、ナトリウム10〜6000ppmを含有するコロイダルシリカに粒径0.2〜4.0μmの窒化ケイ素粉末を混合して得られた窒化ケイ素スラリーを塗布または吹き付けて窒化ケイ素スラリー層を形成し、この窒化ケイ素スラリー層の表面に粒径50〜300μmの微細溶融シリカ砂を散布してスタッコ層を形成し、このスタッコ層の上にさらに窒化ケイ素スラリーを塗布または吹き付けて最表面窒化ケイ素スラリー層を形成し、
ついで、乾燥し焼成することにより鋳型内側に粒径50〜300μmの微細溶融シリカ砂を含む内層を形成するシリコンインゴット鋳造用鋳型の製造方法、に特徴を有するものである。
【0007】
図1の一部拡大明図であるAに示されるように、この発明のシリコンインゴット鋳造用鋳型の内層は、粒径50〜300μmの微細溶融シリカ砂31が、粒径0.2〜4.0μmの窒化ケイ素粉末5およびナトリウム含有のシリカ6からなる混合体素地により結合された構造を有する。すなわち、微細溶融シリカ砂31の隙間を窒化ケイ素粉末5およびナトリウム含有のシリカ6の混合体素地で結合した組織を有し、内層の最表面はナトリウム含有のシリカ6および窒化ケイ素粉末5からなる混合体素地のみで構成されることが好ましい。
【0008】
この発明の鋳型内側に形成される内層の素地となるシリカがナトリウム:10〜6000ppmを含有する理由は、ナトリウム含有量が10ppm未満ではシリカの窒化ケイ素粉末に対する十分な密着性が得られず、一方、シリカに含まれるナトリウムが6000ppmを越えると、ナトリウムがシリコンインゴットに許容範囲以上の不純物として含まれるようになるので好ましくないことによるものである。シリカに含まれるナトリウム量の一層好ましい範囲は、500〜6000ppmである。
【0009】
前記内層3の厚さは1.0〜5.0mmの範囲内にあることが経済的に好ましい。さらに内層3に含まれる窒化ケイ素粉末の粒径を0.2〜4.0μmにしたのは、窒化ケイ素粉末の粒径が0.2μm未満では粉末がコロイダルシリカ中で凝集するので好ましくなく、一方、4.0μmを越える粒径の窒化ケイ素を作ることはコストがかかり過ぎるので好ましくない理由によるものである。
【0010】
また、この発明のシリコンインゴット鋳造用鋳型の内層に含まれる微細溶融シリカ砂の粒径を50〜300μmに限定したのは、微細溶融シリカ砂の粒径が300μmよりも粗い溶融シリカ砂であると、内層の表面粗さが大きくなって好ましくないことによるものであり、一方、内層に含まれる微細溶融シリカ砂の粒径が50μmよりも微細であると、内層と鋳型との間の剥離が不十分なものとなり、また十分な厚さを保つことができなくなるので好ましくない理由によるものである。
【0011】
この発明の鋳型内側に形成される内層は二層以上の積層であることが好ましいが、一層であっても良い。この発明のシリコンインゴット鋳造用鋳型を構成する内層は、石英ガラス又は黒鉛からなる鋳型の内側に粒径が0.2〜4.0μmの窒化ケイ素粉末とナトリウム:10〜6000ppmを含有するコロイダルシリカからなる窒化ケイ素スラリーを塗布または吹き付けて石英ガラス又は黒鉛からなる鋳型の内側表面に窒化ケイ素スラリー層を形成し、この窒化ケイ素スラリー層の表面に粒径が50〜300μmの微細溶融シリカ砂を散布してスタッコ層を形成する操作を複数繰り返したのち、乾燥し焼成することにより成形することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
実施例1
内径:170mm、外径:190mm、深さ:150mmの寸法を有する石英ガラス鋳型を用意した。
さらにナトリウムを表1に示される割合で含有する平均粒径:10nm以下のコロイド状シリカ:30容量%を含有し、残部:水からなるコロイダルシリカを用意し、このコロイダルシリカに対して平均粒径:1.0μmの窒化ケイ素粉末を混合して窒化ケイ素スラリーを作製した。
【0013】
この窒化ケイ素スラリーを前記石英ガラス鋳型の内側に塗布して窒化ケイ素スラリー層を形成し、この窒化ケイ素スラリー層の表面に平均粒径:150μmの微細溶融シリカ砂を散布してスタッコ層を形成し、この操作を3回繰り返したのち、最後に窒化ケイ素スラリー層を形成し、ついで大気雰囲気中、温度:1000℃で2時間加熱保持して乾燥し焼成することにより石英ガラス鋳型の内側に、合計厚さが3mmを有する内層を形成し、本発明シリコンインゴット鋳造用鋳型(以下、本発明鋳型という)1〜5を製造した。
【0014】
この本発明鋳型1〜5に、単結晶引き上げ時に出るスクラップ(例えば、ボトム、テイル等)を原料として装填し、その後、温度:1500℃に保持し、原料を溶解した。このようにして得られたシリコン溶湯を0.3℃/min.の冷却速度で鋳型下方より冷却し、一方向凝固シリコンインゴットを製造した。得られた一方向凝固シリコンインゴットの表面を検査することにより内部応力割れの有無を目視観察し、さらに得られた一方向凝固シリコンインゴットに含まれる格子間酸素量を測定し、さらに得られた一方向凝固シリコンインゴットをスライスして光発電用シリコン基板を作製し、その光電変換効率を測定してその結果を表1に示した。
【0015】
実施例2
鋳型を石英ガラス鋳型の代わりに黒鉛鋳型を用いる以外は実施例1と全く同様にして鋳型の内側に合計厚さが5mmを有する内層を形成し、本発明鋳型6〜10を製造した。
【0016】
この本発明鋳型6〜10に、単結晶引き上げ時に出るスクラップを原料として装填し、その後、温度:1500℃に保持し、原料を溶解した。このようにして得られたシリコン溶湯を0.3℃/min.の冷却速度で鋳型下方より冷却し、一方向凝固シリコンインゴットを製造した。得られた一方向凝固シリコンインゴットの表面を検査することにより内部応力割れの有無を観察し、さらに得られた一方向凝固シリコンインゴットに含まれる格子間酸素量を測定し、さらに得られた一方向凝固シリコンインゴットをスライスして光発電用シリコン基板を作製し、その光電変換効率を測定してその結果を表1に示した。
【0017】
従来例
平均粒径:10nm以下の超微細溶融シリカ粉末:30容量%を含有する市販のコロイダルシリカ100部に対して平均粒径:40μmの溶融シリカ粉末200部の割合で混合してスラリーを作製した。得られたスラリーを前記石英ガラス鋳型の内側に塗布してスラリー層を形成し、このスラリー層の表面に平均粒径:150μmの微細溶融シリカ砂を散布してスタッコ層を形成し、この操作を3回繰り返し、ついで大気雰囲気中、温度:1000℃で2時間加熱保持して乾燥し焼成することにより石英ガラス鋳型の内側に合計厚さ:3mmの内層シリカ層を形成し従来シリコンインゴット鋳造用鋳型(以下、従来鋳型という)を製造した
。
【0018】
この従来鋳型に、実施例1と同様にして単結晶引き上げ時に出るスクラップを溶解し、0.3℃/min.の冷却速度で冷却し、一方向凝固シリコンインゴットを製造した。得られた一方向凝固シリコンインゴットの表面を検査することにより内部応力割れの有無を目視観察し、さらに得られた一方向凝固シリコンインゴットに含まれる格子間酸素量を測定し、さらに得られた多結晶シリコンインゴットをスライスして光発電用シリコン基板を作製し、その光電変換効率を測定してその結果を表1に示した。
【0019】
【表1】
【0020】
【発明の効果】
表1に示される結果から、本発明鋳型1〜10および従来鋳型を用いて製造した一方向凝固シリコンインゴットは共に割れが発生することはないが、本発明鋳型1〜10を用いて製造した一方向凝固シリコンインゴットは、従来鋳型を用いて製造した一方向凝固シリコンインゴットに比べて、格子間酸素含有量が少なく、この一方向凝固シリコンインゴットから得られた光発電用シリコン基板の光電変換効率が一層優れていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明のシリコンインゴット鋳造用鋳型の断面説明図である。
【図2】この発明のシリコンインゴット鋳造用鋳型を用いてシリコンを溶解凝固させた後の断面説明図である。
【図3】従来のシリコンインゴット鋳造用鋳型の断面説明図である。
【図4】従来のシリコンインゴット鋳造用鋳型を用いてシリコンを溶解凝固させた後の断面説明図である。
【符号の説明】
1 石英ガラス又は黒鉛からなる鋳型
2 シリコンインゴット
3、4 内層
31 微細溶融シリカ砂
B 剥離
5 窒化ケイ素粉末
6 ナトリウム含有のシリカ
Claims (5)
- 鋳型内側に内層を形成してなるシリコンインゴット鋳造用鋳型であって、
前記内層は、粒径50〜300μmの微細溶融シリカ砂が、粒径0.2〜4.0μmの窒化ケイ素粉末:75〜90重量%および残部:ナトリウム10〜6000ppm含有のシリカからなる混合体素地により結合された構造の層であることを特徴とするシリコンインゴット鋳造用鋳型。 - 請求項1記載の内層は、単層または複数の積層からなることを特徴とするシリコンインゴット鋳造用鋳型。
- 前記内層の最表面は、粒径0.2〜4.0μmの窒化ケイ素粉末:75〜90重量%および残部:ナトリウム10〜6000ppm含有のシリカからなる混合体素地にて覆われていることを特徴とする請求項1または2記載のシリコンインゴット鋳造用鋳型。
- 鋳型内側に、ナトリウム:10〜6000ppmを含有するコロイダルシリカに粒径0.2〜4.0μmの窒化ケイ素粉末を混合して得られた窒化ケイ素スラリーを塗布または吹き付けて窒化ケイ素スラリー層を形成し、この窒化ケイ素スラリー層の表面に粒径50〜300μmの微細溶融シリカ砂を散布してスタッコ層を形成し、このスタッコ層の上にさらに窒化ケイ素スラリーを塗布または吹き付けて最表面に窒化ケイ素スラリー層を形成し、
ついで、乾燥し焼成することにより鋳型内側に粒径50〜300μmの微細溶融シリカ砂を含む内層を形成することを特徴とするシリコンインゴット鋳造用鋳型の製造方法。 - 前記スタッコ層を形成する操作を一回または複数回繰り返して行った後、最上スタッコ層の上にさらに窒化ケイ素スラリーを塗布または吹き付けて最表面に窒化ケイ素スラリー層を形成することを特徴とする請求項4記載のシリコンインゴット鋳造用鋳型の製造方法。
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