JP3913619B2 - 立毛マットの毛倒し加工方法、および立毛マット - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ベースとなる基布に対してその一表面側に立毛を形成して構成された立毛マットの、所望の部位の立毛を超音波加工によって倒伏した状態にする、立毛マットの毛倒し加工方法、およびそれによって加工された立毛マットに関する。
【0002】
【従来の技術】
超音波加工は、通常20000Hz以上の高周波数域の周波数で振動する振動子(ホーン)を用いて、樹脂や金属を相互に擦り合わせ、結果として生じる摩擦熱を利用して被加工物を熱加工する加工方法である。この超音波加工は、外部ヒーターなどを必要とせず、被加工物の限られた狭い範囲内だけを選択的に熱加工するのに適した加工方法として、樹脂や金属の溶着、切断などに多く用いられている。
【0003】
立毛マットへの超音波加工の適用例は、特開平6−226853号(特願平5−15628号)公報に開示されている。この方法は、導電性繊維を使用して形成した刺繍布と刺繍布裏側に貼り付けた熱可塑性樹脂シートからなるマークを、立毛マットからなる自動車用マットに溶着させる方法である。この方法では、立毛マットのパイルに熱可塑性樹脂シートが密接するように配置し、この状態で熱可塑性樹脂シートとパイルとに超音波振動を与え、それによって、熱可塑性樹脂シートを立毛マット上に溶着させている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように、従来、超音波加工は一般的にもっぱら狭い領域内を加工するのに用いられている。より大きな領域を加工するためには、より大きな振動子を用いることが考えられる。
【0005】
しかしながら、超音波加工では振動子を超高速で振動させる必要があるが、振動子を大型化すると振動子全体を均一に高速振動させる制御が難しくなるという問題が生じる。また、特に、凹凸がある被加工物に対して加工を行う場合には、振動子を大型化すると、振動子によって被加工部を均一に押圧することが難しくなる。このため、いわゆるびびり振動が生じ、これが良好な加工を妨げたり、加工機の故障の原因になったりするという問題が生じる。このように、超音波加工において、振動子の大きさを大きくすることには、様々な問題がある。
【0006】
また、特に、例えばパイルなどの立毛を有する立毛マットに対して超音波加工を行う場合には、柔軟な立毛によって加工子の振動が吸収されてしまう。また、振動子の被加工部に対する接触面が、立毛パイルがあるために平滑ではない。これらの理由から、立毛マットに対して、超音波加工を行おうとした場合には、安定して加工を行うのは困難である。このため、立毛マットに対して超音波加工が用いられる例は少なく、小さく限られた領域で立毛を熱潰し加工し、ロゴマークなどを入れるといった限られた用途にしか用いられていない。
【0007】
超音波加工によって、振動子を大きくすることなく広い領域に加工を行う方法としては、複数の分割された振動子を連ねて用いるマルチホーン方式がある。しかし、この方式では、加工機が大型化し、設備コストが上昇してしまうという問題がある。また、分割された振動子の間に、未加工部ができてしまうという問題もある。このため、元来、製品として意匠性を高める働きをすることが求められる立毛マットの加工方法しては、マルチホーン方式は適していない。
【0008】
また、前述した特開平6−226853号公報に記載された方法は、導電性繊維を用いる特殊な加工方法である。このため、やはり、広い領域の加工を行うのには不向きである。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、従来、広い領域にわたって超音波加工を行うのが困難と考えられていた、毛足の長い立毛マットに対して、超音波加工によって、長尺、大面積の領域に毛倒し加工を行うことができる加工方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上述の目的を達成するため、本発明による、立毛マットの毛倒し加工方法は、ベースとなる基布に対して基布の一表面側に立毛を形成して構成された立毛マットの、所望の部位の立毛を選択的に倒伏した状態にする、立毛マットの毛倒し加工方法であって、基布の、立毛が形成された面の上方に押圧子を配置する工程と、押圧子を基布の表面に垂直な方向に、立毛に接触する位置で高速に振動させつつ、押圧子または基布を基布の表面に平行な方向に移動させて、この方向に倒伏方向が揃うように立毛を倒伏させる工程とを有することを特徴とする。
【0011】
この加工方法では、立毛は、押圧子の振動の作用によって倒伏されるとともに、摩擦熱を生じてわずかに溶融し、倒伏されて押圧子の作用が伝わらなくなるにつれて、溶融された部分が冷却されて再固化され、それによって倒伏した状態に固定される。そして、押圧子または基布を基布の表面に平行な方向に移動させることによって、押圧子の、基布上での相対的な移動経路の立毛が次々に倒伏、固定され、結果として、立毛マットの、押圧子の移動経路上の領域が毛倒し加工される。したがって、この方法によれば、小さな押圧子を用いても、広い領域、特に長尺の領域に毛倒し加工を行うことができる。
【0012】
また、本発明の加工方法では、立毛は溶融、再固化されることによって立毛間で相互に、また基布との間で固着されるので、その後、裁断などの処理を行っても、立毛が抜け落ちるのを防止できる。また、立毛の溶融は微少なものとすることができるので、立毛を外部から加熱して潰す場合に見られるように、被加工部とその周りとで色が変化するのを抑制でき、意匠性を高く維持することができる。
【0013】
押圧子は、超音波周波数域にある周波数で振動させることが好ましく、それによって、立毛を容易に溶融させることができる。なお、超音波という用語は、人間の可聴域を超える周波数である20000Hz以上の周波数を指すものと定義される場合が多いが、工業的には、それより少し低い周波数であっても、便宜的に超音波という用語を用いることがある。本明細書においても、超音波という用語は、このように、超音波に比類する高周波数域の周波数を指すものとして、広い意味で用いる。
【0014】
本発明の毛倒し加工方法では、押圧子また基布の、基布表面に平行な方向の移動によって、立毛の倒伏方向をこの移動方向に沿った方向にほぼ揃えることができる。このように立毛の倒伏方向を揃えることによって、例えば、裁断やトリミングなどの加工をする際に、加工用の刃を倒伏方向に揃えた際、立毛による抵抗が刃にほとんど加わらないようにすることができ、加工時に刃に加わる抵抗を一定にすることができる。したがって、これらの加工を容易に安定して行えるようにすることができる。
【0015】
加工前の立毛マットは、その立毛の長さにある程度のばらつきがあったり、部分的にいくらか倒伏していたりなど、その状態は必ずしも一様ではない。そこで、本発明の毛倒し加工方法では、押圧子の振動周波数、振幅、押圧力、基布からの距離の少なくとも1つを、押圧子または立毛マットの、立毛マットの表面に平行な方向の移動に伴って変化させることが好ましい。それによって、立毛マットの立毛の状態にばらつきがあったとしても、ほぼ一様に加工を行うなど、好ましい加工制御を行うことができる。
【0016】
本発明の毛倒し加工方法によれば、上述のように、被加工部を容易に良好に裁断可能にすることができ、また、裁断した際に立毛が抜け落ちるのを抑制することができる。そこで、本発明の毛倒し加工方法は、それによって立毛を倒伏した状態にされた領域を形成され、該領域内を裁断して形成された縁部を有する立毛マットを作製する方法として好適であり、本発明の立毛マットはこのようにして構成されていることを特徴とする。
【0017】
このような本発明の立毛マットは、上述のように意匠性に優れており、自動車内に敷設される自動車用フロアマットとして好適である。また、特に、本発明の毛倒し加工方法は、上述のように、容易に長尺の領域に毛倒し加工を行うことができるので、座席をスライド可能に支持するスライドレールの周りに配置される長尺の縁部を、立毛を倒伏した状態にした領域を形成し、該領域内を裁断して形成した自動車用フロアマットの作製方法として好適であり、本発明の他の態様の立毛マットは、このように構成されていることを特徴とする。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適の実施形態について図面を参照して説明する。
【0019】
図1は、本実施形態の加工方法によって、立毛マット1の毛倒し加工を行っている様子を示す模式断面図である。本実施形態における被加工物である立毛マット1には、基布2の一方の面に、立毛3が立ち上がるように形成されている。
【0020】
本実施形態の毛倒し加工方法では、押圧子10を基布2の、立毛パイル3が形成された面上で、矢印Bで示すようにこの面に垂直な方向に高速で振動させつつ、矢印Cで示すようにこの面に平行な方向に移動させる。矢印Cで示す移動は、押圧子10を移動させる代わりに、立毛マット1を逆方向にスライド移動させることによって行ってもよい。押圧子10は、立毛3に接触するように、その基布2側の面と基布2の表面との間に所定の間隔をおいた所定の範囲内で振動させる。矢印Cで示す、押圧子10または基布2の移動は、基布2の表面に平行に行うので、この移動の間、押圧子10の基布2側の面と基布2の表面との間隔は一定に保たれる。
【0021】
高速で振動する押圧子10の作用を受けた立毛3は、基布2の表面に倒伏させられる。この際、立毛3の倒伏方向は、押圧子10または基布2の移動方向によって、この移動方向に沿った一定の方向に揃えることができる。立毛3は、このように倒伏されるとともに、振動に伴って生じる摩擦熱によってわずかに溶融され、倒伏して押圧子10の作用を受けないようになるにしたがって、溶融された部分が冷えて再固化する。これによって、立毛3は立毛3同士や基布2との間で固着され、倒伏した状態で固定される。そして、押圧子10を矢印C方向に移動させていくことによって、押圧子10が通る部分の立毛3が次々に倒伏され、押圧子10を移動させた部分に毛倒し加工部4が形成されていく。
【0022】
本実施形態の毛倒し加工方法は、基布2に対して立毛3としてパイルを植設形成して構成されたタフトカーペットや、基布2を構成する繊維の中からニードリングによって立毛3を突き出し形成して構成されたニードルパンチカーペットなどを立毛マット1として加工対象とすることができる。立毛(パイル)3の高さは、1〜20mmであるのが適している。立毛3は、ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレンなどの合成繊維からなり、加熱によって可塑化する熱可塑性の合成樹脂からなるものであるのが適している。
【0023】
本実施形態において、毛倒し加工をおこなう加工装置は、立毛マット1を支持する不図示の基板と、基板上に支持された立毛マット1の表面に垂直な方向に高速に振動可能に支持された押圧子10と、押圧子10を振動させる不図示の加振機構を有する構成とすることができる。この加工装置は、さらに、押圧子10を基板上に支持された立毛マット1の表面に平行な方向にスライド移動させる機構を含むことができる。あるいは、この加工装置は、立毛マット1を基板上でスライド移動させる機構を有していてもよい。
【0024】
押圧子10としては、低密度で、熱伝導率の高いアルミ合金を所要の形状に加工したものを用いるのが適している。このようなアルミ合金としては、例えば古河電気工業株式会社製のアルクイン(商品名)を用いることができる。さらに、押圧子1の表面に他の金属によって被膜を施し、それによって、耐摩擦性を向上させたり、立毛マット1に対する滑り性を良くしたりするのも好ましい。
【0025】
押圧子10の、立毛マット1に接する面の大きさは、立毛マット1の、毛倒し加工を行う領域の大きさに合わせて設定することができる。すなわち、例えば、押圧子10の、立毛マット1に接する面の、矢印Cで示す移動方向に垂直な方向の長さは、立毛マット1の被加工部の、この方向の所望の加工幅に合わせて設定する。押圧子10の、立毛マット1に接する面の形状は、この加工幅全体にわたって、ほぼ一様に押圧子10が作用し、安定して毛倒し加工を行うことができる形状にする。また、この面には、押圧子10または立毛マット1の、立毛マット1の表面に平行な方向の移動に伴って、押圧子10に立毛マット1の立毛3や毛羽などが引っ掛かるのを防止するために、面取り加工を施すことが好ましい。
【0026】
押圧子10の加振機構としては、押圧子10に連結した電磁加振装置を用いることができ、これによって、押圧子10を立毛マット1の基布2の表面に垂直な方向に、超音波周波数域の所要の周波数、所要の振幅、所要の押圧力で振動させることができる。立毛マット1に対して特に好ましい加工条件は、押圧子10の振動周波数が20〜40kHz、振幅が4.8〜12μm、押圧子10と基板とのクリアランスが2〜8mm、押圧子10の、立毛マット1の表面に垂直な方向の押圧力が0.2〜0.5MPaの範囲である。加工速度、すなわち押圧子10または立毛マット1の、立毛マット1の表面に平行な方向の移動速度は、30〜100mm/秒とすることができる。
【0027】
実際の加工においては、加工前の立毛マット1の立毛3の状態は必ずしも一様ではなく、部分的に多少倒伏するなどして、立毛3によって形成される表面に多少の凹凸がある場合がある。また、加工を行うにつれて、押圧子10は多少昇温する。そこで、同じ条件で加工を行った場合、立毛3の状態や押圧子10の温度などによって、加工むらが生じる場合がある。本発明者は、研究の結果、立毛3の状態や押圧子10の温度などの変化に応じて、押圧子10の振動周波数、振幅、押圧力、基布2からの距離の少なくとも1つを制御することによって、このような加工むらの発生を抑制し、加工を安定して行うことができることを見出した。特に、押圧子10の振幅の(自動)制御は、電磁加振装置の電気的な制御によって実施するのが容易であり、最も好ましい。一方、押圧子10と基板とのクリアランス、すなわち基布2との距離は、立毛3を毛倒しし、かつ、立毛3が完全に潰れないようにするために、制御するには注意が必要であり、一定以上の距離とし、その一定の距離に保つほうがよい場合が多い。
【0028】
以上説明した本実施形態の毛倒し加工方法では、押圧子10または立毛マット1を立毛マット1の表面に平行な方向に移動させることによって、押圧子10として比較的小さなものを用いても、比較的広い領域、特に長尺の領域に加工を行うことができる。押圧子10として、比較的小さなものを用いることによって、押圧子を容易に安定して振動させることができ、また、被加工面に多少の凹凸があっても、ほぼ一様に、良好に加工を行うことができる。
【0029】
また、本発明者は、本実施形態の毛倒し加工方法との比較のため、立毛マット1の立毛を倒伏した状態、または類似の状態にする、従来の代表的な加工方法として、2つの方法によって立毛マット1の加工を行った。
【0030】
まず、従来の1つの加工方法として、熱型を用いて、立毛3の潰し加工を行った。この場合、立毛3の溶融度合いが大きくなり、立毛3が樹脂化して変色する。このため、加工された部分と加工されていない部分では、かなり明瞭に色が異なり、境目がはっきりと見えるようになってしまい、見栄えが悪くなってしまう。これに対して、本実施形態の加工方法では、立毛3はわずかにしか溶融されないので、毛倒し加工部4と他の部分との色にはほとんど変化はなく、毛倒し加工部4は目立たない。
【0031】
また、熱型を用いた加工後には、被加工部は極端に硬く、脆くなってしまう。このため、加工後の、敷設などの処理時や、敷設後の使用の過程において、最悪の場合、被加工部の、一旦溶融して固化した立毛が割れて強度が低下したり、異音が生じたりする懸念がある。一方、本実施形態の加工方法によれば、毛倒し加工部4における立毛3が極端に硬くなることはなく、加工後の処理や使用過程で割れるなどする虞はほとんどない。
【0032】
また、熱型を用いた加工では、通常、被加工部のパターンに合わせて予め熱型を形成しておく必要がある。これに対して、本実施形態の毛倒し加工方法では、同じ押圧子10を用いても、押圧子10または立毛マット1の、立毛マット1の表面に平行な方向の移動パターンを変化させることによって様々なパターンで加工を行うことができる。移動パターンを曲線状にすることも可能である。また、押圧子10を立毛3に接触する加工位置と、立毛マット1から離れた非加工位置とに移動可能にし、所望の加工パターンに応じて加工をオン・オフさせてもよい。
【0033】
2つ目の従来の加工方法として、加工子を立毛マット1の基布2に平行な方向に低周波数振動させ、この加工子によって立毛マット1に加工を行ういわゆるバイブレーション加工を施した。この場合、被加工部の見栄えは熱型を用いた潰し加工の場合よりも良くすることができ、条件によっては本発明の実施形態の加工方法に近い見栄えに仕上げることも可能性であった。しかし、バイブレーション加工では、立毛3の倒伏方向を一定にすることは困難である。一方、本実施形態の加工方法では、倒伏方向は、前述のように、ほぼ一定の方向に揃えることができる。また、本実施形態の毛倒し加工方法では、加工速度もバイブレーション加工に比べて容易に速くすることができた。
【0034】
以上説明したように、本実施形態の毛倒し加工方法によれば、立毛3の溶融はわずかであるので、毛倒し加工部4を、その見た目を他の部分と大きく変化させることなく形成することができ、見栄えをよくすることができる。倒伏された立毛3は、ほとんど硬く、脆くなることはなく、立毛マット1の耐久性を低下させることもない。
【0035】
また、本実施形態の毛倒し加工方法では、押圧子10を立毛マット1の表面に垂直な方向に振動させると共に、押圧子10または立毛マット1を立毛マット1の表面に平行な方向に移動させることによって、倒伏方向を、この移動方向に沿ったほぼ一定の方向に揃えることができる。倒伏方向を揃えることによって、毛倒し加工自体を安定して実施可能とすることができ、加工後の見栄えも好ましいものとすることができる。
【0036】
また、立毛3の倒伏方向を揃えることによって、毛倒し加工部4内の裁断やトリミングなどの2次加工を容易にすることができる。すなわち、このような2次加工では、立毛3の倒伏方向に沿って加工用の刃をあててやれば、立毛3は刃に対する抵抗になることはほとんどないので、2次加工時の刃に対する抵抗がほぼ一定となり、安定して加工を行うことができる。逆に言えば、押圧子10または立毛マット1を、このように裁断する方向に沿って移動させて毛倒し加工を行うことによって、裁断やトリミングなどの2次加工を良好に実施可能にすることができる。また、立毛3は溶融、再固化されることによって立毛3同士で、また基布2に対して固着されるので、裁断を行ってもほとんど抜け落ちないようにすることができる。したがって、抜け落ちないようにするために、他の加工を行っておく必要もない。
【0037】
なお、本実施形態の毛倒し加工方法のさらに進んだ態様として、押圧子10を2つ以上設け、これらの押圧子10によって、2個所以上の場所で同時に加工を行ってもよい。これによって、効率的な加工を行うことが可能となる。特に、各押圧子10は所定の位置で振動させ、立毛マット1をスライド移動させることによって、平行な方向に延びる複数の毛倒し加工部4を容易に形成することができる。
【0038】
また、2つ以上の押圧子10を用いる場合、各押圧子10は、加工位置と非加工位置に独立して移動可能にしたり、立毛マット1の表面に平行な方向に独立して移動可能にしたりしてもよい。また、押圧子10の一部は移動させ、他は移動させないようにしてもよい。このようにすることによって、加工のバリエーションをさらに高め、より複雑なパターンで加工を行うこともできる。
【0039】
次に、上述のような毛倒し加工を行うのに適した、一例の立毛マットとして、図2,3に、自動車用フロアマットの模式図を示す。図2は、自動車用フロアマットの平面図であり、図3は、図2のA−A線に沿って切断した断面図である。
【0040】
図2,3に示す自動車用フロアマットは、ワンボックス形式、ワゴン形式の自動車用のフロアマットである。この自動車には、図2に示すように、自動車用フロアマットとしてフロントマット1aとリヤマット1bが並んで敷設される。フロントマット1aとリヤマット1bは、この例では、図3に示すように、フェルトなどからなる緩衝材8上に敷設され、自動車内部の意匠性を高めるなどの働きをする。
【0041】
この自動車には、後部座席を前後方向にスライド可能に支持するスライドレール6が設けられる。このため、フロントマット1aとリヤマット1bには、スライドレール6を入れるためのスライドレール用開口5が、両マットに亘って前後方向に延びている。
【0042】
このスライドレール用開口5の縁には、本実施形態の毛倒し加工方法によって、毛倒し加工部4aが形成されている。スライドレール6は、図3に示すように、その上端部に水平方向に外側の延びる部分を有しており、この部分が毛倒し加工部4a上に位置するように配置されている。この配設では、毛倒し加工部4aを形成していることによって、スライドレール6と立毛マット1は、スライドレール6が立毛マット1の表面から浮き上がり出っ張ったようになることなく、スライドレール6の上面と立毛マット1の上面とがほぼ揃うように配設することができる。このように、毛倒し加工部4aを設けることによって意匠性を高めることができる。
【0043】
また、フロントマット1aやリヤマット1bの外周にも、毛倒し加工部4bが設けられている。自動車内壁7には、このフロントマット1aやリヤマット1bの外周部が挿入される溝7aが設けられている。この構成では、毛倒し加工部4bを設けることによって、溝7aの高さを比較的低くすることが可能となり、加工されていない部分の立毛3によって、溝7aが目立たないようにして、意匠性を高めることができる。
【0044】
このように、4a,4bなどの毛倒し加工部を設けることによって、自動車内部の意匠性を高めることができる。この際、毛倒し加工部4a,4bと他の部分との境目がスライドレール6や溝7aから多少外れた位置にあっても、この境面はほとんど目立つこともない。
【0045】
スライドレール用開口5は、毛倒し加工部を先に形成し、その毛倒し加工部内を裁断して形成することができる。この際、前述のように、倒伏方向と裁断方向を揃えることによって、裁断加工時に、裁断刃に加わる抵抗を一定にすることができ、裁断を良好に安定して行うことができる。
【0046】
また、この適用例では、前後に長く延びる領域、すなわちスライドレール用開口5の縁に沿った領域に毛倒し加工部4aを形成している。本実施形態の毛倒し加工は、前述のように、このように長尺の領域に容易かつ良好に加工を行うことができ、したがって、このような毛倒し加工部4aを形成するのに、特に、好適である。また、前述のように、複数の押圧子10を用いることによって、スライドレール用開口5の縁に沿う複数の領域に、精度良く平行に、効率的に毛倒し加工を行うこともできる。
【0047】
また、自動車用フロアマットについては、車種のバリエーションによって、スライドレール用開口の位置が違ったり、開口が無いものがあったりすることが考えられる。この場合、前述のように、熱型を用いて加工を行う場合には、車種バリエーションに応じて、それぞれ異なる熱型を作製する必要がある。これに対して、本実施形態の毛倒し加工方法によれば、押圧子10のオン・オフや、押圧子10または立毛マット1の移動パターンを変化させることによって、同じ加工装置を用いて種々の車種バリエーションに対応することも可能である。
【0048】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の毛倒し加工方法によれば、高周波数、特に超音波周波数で振動する押圧子を用いて、立毛マットの比較的大面積の、特に長尺の領域に加工を行うことができる。この際、押圧子としては、大きなものを用いる必要はなく、したがって、振動させるのが容易であり、また、立毛マットの表面に多少の凹凸があったとしても、びびり振動を生じるなどの困難を生じることなく、良好に加工を行うことができる。
【0049】
本発明の毛倒し加工方法では、押圧子または立毛マットの移動パターンを変化させたり、複数の押圧子を設けたり、押圧子をオン・オフさせたり、複数の押圧子をそれぞれ独立して移動可能にしたりすることによって、様々なパターンで加工を行うことができる。したがって、本発明の毛倒し加工方法によって加工を行う加工装置は、加工パターンに応じて熱型を作製する必要がある、熱型を用いた熱潰し加工装置とは対照的に、汎用性の高いものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態の毛倒し加工方法によって加工を行っている様子を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態の毛倒し加工を行った自動車用フロアマットの平面図である。
【図3】図2のA−A線に沿って切断した断面図である。
【符号の説明】
1 立毛マット
2 基布
3 立毛
4,4a,4b 毛倒し加工部
5 スライドレール用開口
6 スライドレール
7 自動車内壁
7a 溝
8 緩衝材
10 押圧子
Claims (5)
- ベースとなる基布に対して該基布の一表面側に立毛を形成して構成された立毛マットの、所望の部位の前記立毛を選択的に倒伏した状態にする、立毛マットの毛倒し加工方法であって、
前記基布の、前記立毛が形成された面の上方に押圧子を配置する工程と、
前記押圧子を前記基布の表面に垂直な方向に、前記立毛に接触する位置で高速に振動させつつ、前記押圧子または前記基布を前記基布の表面に平行な方向に移動させて、この方向に倒伏方向が揃うように前記立毛を倒伏させる工程とを有する、立毛マットの毛倒し加工方法。 - 前記押圧子を超音波周波数域にある周波数で振動させることを特徴とする、請求項1に記載の、立毛マットの毛倒し加工方法。
- 前記押圧子の振動周波数、振幅、押圧力、前記基布からの距離の少なくとも1つを、前記押圧子または前記立毛マットの、前記立毛マットの表面に平行な方向の移動に伴って変化させることを特徴とする、請求項1または2に記載の、立毛マットの毛倒し加工方法。
- ベースとなる基布と、該基布の一表面側に形成された立毛とを有する立毛マットであって、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の加工方法によって前記立毛を倒伏した状態にされた領域を形成され、該領域内を裁断して形成された縁部を有する立毛マット。 - 座席をスライド可能に支持するスライドレールを床面に有する自動車内に敷設され、前記スライドレールの周りに配置される縁部が、前記立毛を倒伏した状態にされた領域を形成され、該領域内を裁断して形成されている、請求項4に記載の立毛マット。
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