JP3911217B2 - 水素転化反応触媒及びプロセス - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はナフサなどの炭化水素原料の水素転化反応において有利な触媒システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
多くの国は環境保護法や省エネルギー政策を施行しており、これらは硫黄などの汚染物質の排出を劇的に低減するために厳しい規則を設けている。
【0003】
クリーンエア法修正案およびその他の法律は、汚染レベルに貢献すると考えられる硫黄、オレフィン類、芳香族などにおける排出レベルの低下を要求している。
【0004】
ガソリンプール即ちガソリン油層体積における供給源の一つはナフサ、特にFCCナフサであるが、これはガソリンプールにおいて体積比で硫黄の約80%の供給元である。またこのようなFCCナフサはガソリンプールの全量の約40%(容積)に相当している。
【0005】
明らかにFCCナフサは硫黄を低減するために処理するべき重要な原料である。
【0006】
硫黄を低減する目的でこのような供給原料を処理するための、様々な水素転化反応プロセスが開発されている。このようなプロセスの一つにおいては、第一段階で硫黄と窒素が実質的に除去されるが、同時に供給原料中のオレフィンが大いに飽和される。このようなプロセスにおいては、オレフィン類の飽和はオクタン価の損失をもたらすので、オクタン価の損失を取り戻すために第二段階の処理が用いられる。
【0007】
ガソリンの再配合においては、オクタン価の損失は特にオレフィン類の水素化(HDO)によって起こるものと考えられている。この損失は前述の第二段階において実施されるクラッキング反応、異性体化、芳香族化等によって補償、あるいは回復される。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
従来の水素転化反応触媒は供給原料中の窒素に敏感なので、窒素を取り除くために前処理を必要とする場合があり、これがまた段階数と、調製プロセスのコストを付加する。
【0009】
いかなる第二段階、または工程であっても、それが必要であればナフサなどの留分のコストが余分にかかるのは当然であるから、オクタン価(RON、MON)に悪影響を与えることなく硫黄と窒素の含量を低減するような、改良された方法が求められている。
【0010】
したがって本発明の第一の目的は、付加的な反応ゾーンを必要としないような、触媒およびこれを用いるプロセスを提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、水素化脱硫および水素化脱窒素が達成されるような、触媒およびこれを用いるプロセスを提供することである。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、窒素に対して抵抗性があり、したがって供給原料の脱窒素前処理を必要としない、触媒を提供することである。
【0013】
本発明の他の目的および利点は、以下において明らかとなる。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明によって、前述の目的および利点は容易に達成されている。
【0015】
本発明によれば、オクタン価を保持しつつ供給原料を効果的に水素化脱硫する水素転化反応触媒が提供される。
前記触媒は担持体と該担持体上の活性層からなり、前記担持体はゼオライトおよびアルミナの混合物からなり、前記ゼオライトは11.7のSi/Al比を有するMFIゼオライトであるST−5ゼオライトであり、前記活性相は元素周期表の第6族から選ばれる第一の金属と、元素周期表の第8族、第9族、および第10族からなる群から選ばれ且つ白金族元素を除く第二の金属と、元素周期表の第15族から選ばれる第三の元素とを有する。
【0016】
さらに本発明によれば、炭化水素供給原料の水素転化反応のためのプロセスが提供される。
該プロセスは初期硫黄含量と初期オレフィン含量を有する炭化水素原料を準備する工程と、水素転化反応触媒を準備する工程とを有する。水素転化触媒は担持体と該担持体上の活性層からなり、前記担持体はゼオライトおよびアルミナの混合物からなり、前記ゼオライトは11.7のSi/Al比を有するMFIゼオライトであるST−5ゼオライトであり、前記活性相は元素周期表の第6族から選ばれる第一の金属と、元素周期表の第8族、第9族、および第10族からなる群から選ばれ且つ白金族元素を除く第二の金属と、元素周期表の第15族から選ばれる第三の元素とを有する。前記プロセスはさらに、前記原料を水素転化反応条件のもとに前記触媒に暴露して、前記初期硫黄含量より低い最終硫黄含量を有する生産物を得る工程を有する。最終生産物のオレフィン含量は、供給原料を処理するのに用いられた作動条件に依存して変化する。オレフィン残留量が非常に高い場合もあれば、オレフィン含量が初期オレフィン含量より実質的に低い場合もある。しかしながら、有利なことには、本発明の触媒によれば、イソパラフィン類対n−パラフィン類比を増加させ、n−パラフィン類の分子量を低下させる。これは生産物のオクタン評価を改善してオレフィン損失を埋め合わせる。そのオレフィン損失自体も、いずれにしても低下する。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下において本発明の好ましい実施例を添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0018】
本発明はナフサ等の炭化水素供給原料の水素転化反応のための触媒および触媒システムに関するものであり、本発明によれば、従来の触媒を用いる水素化処理において一般的なオクタン価の実質的な低下を起こすことなく、ナフサ供給原料中の硫黄を低減することができる。
【0019】
ナフサ留分等の特定の炭化水素留分のオクタン価は、そのなかに含まれる様々な炭化水素留分の炭素原子の数に依存することが分かっている。重要な留分の一つはオレフィン留分であるが、この留分は従来の水素化脱硫(HDS)触媒を受けたときに、著しく水素化に敏感であることが分かっている。その結果、ナフサ等の、HDS触媒処理を必要とする様々なガソリンプール添加物においてオクタン価の低下が起こり、オクタン価を回復するための第二の処理段階が必要になる。
図1は代表的なガソリンプール留分の様々な炭化水素留分について、リサーチオクタン価(RON)と炭素原子数との関係を示している。図からわかるように、オレフィン類を含めて各留分とも、炭素原子数が増加するにつれてRON価が実質的に低下する。
【0020】
本発明によれば、有利なことに優れたHDS活性が可能な触媒システムが考案され、該触媒システムはまた優れた水素転化反応活性を提供し、かつ従来の水素化処理触媒システムが引き起こすオクタン価の実質的な低下を回避する。これに加えて、本発明の触媒システムは窒素に対して耐性があり、したがって単一の処理段階または反応容器にこのシステム用いて、硫黄、窒素等を有する供給原料を処理することができ、かつ実質的に低減された硫黄および窒素含量と、不変またはわずかに低下した、あるいは場合により改善されたオクタン価を有する生産物を提供する。
【0021】
本発明によれば、触媒システムは担持体成分と、該担持体成分上の活性相とを包含する。本発明による担持体成分は好ましくはシリコンとアルミニウムの構造であり、例えばゼオライト、アルミノシリケート、シリカとアルミナの混合物等である。本発明によれば、ゼオライト中のシリコン対アルミニウムの比が1ないし20であれば、十分な水素転化反応活性によって、優れたHDS活性とともに、窒素に対する耐性や優れたHDN活性が達成されることがわかった。Si/Al比がより高くなると水素転化反応活性が低下し、オクタン価損失が起こるので、この比は重要である。11.7のSi/Al比を有するST−5ゼオライトは本発明に適している。
【0022】
担持体はゼオライトとアルミナの混合物であり、ゼオライトはMFIゼオライトであるST−5ゼオライトである。適当なST−5ゼオライトは米国特許第5,254,327号に開示されている。このようなゼオライトを適切な量のアルミナと組み合わせることによって、所望の酸触媒作用を得ることができる。このようなゼオライトは優れた選択的クラッキングおよび異性体化活性を与える一方、オクタン価損失を回避することがわかった。
【0023】
担持体上に沈着されるか、またはその他の方法で担持体とともに準備される活性金属相は、元素周期表の第6族(CASのVIB族)から選ばれる第一の金属、好ましくはモリブデンを含む。活性金属相はまた元素周期表の第8族、第9族、第10族(CASのVIII族)からなる群から選ばれ且つ白金族元素を除く第二の金属、好ましくはニッケル、コバルトまたはその混合物、最も好ましくはコバルト、および、第15族(CASのVA族)から選ばれる第三の元素、最も好ましくは燐を含む。
【0024】
本発明によれば、触媒は少なくとも約1%(重量)の第一の金属(第6族)と、少なくとも約0.5%(重量)の第二の金属(第8、9、および10族)、および少なくとも0.2%(重量)の第三の元素(第15族)を含む。より好ましくは、触媒は約2ないし約15%(重量)の第一の金属、好ましくはモリブデンと、約0.5ないし約8.0%(重量)の第二の金属、好ましくはニッケルまたはコバルトと、約0.5ないし5.0%(重量)の第三の元素、好ましくは燐を含む。本発明によれば、このような組み合わせの活性金属および元素を上述の担持体に担持させれば、所望のHDSおよびHDN活性と、併せてオレフィン水素化(HDO)を補償するような他の活性が得られ、かくして許容範囲のオクタン価を有する最終生産物が得られることがわかった。
【0025】
実施例に示されるように、本発明による触媒は、イソパラフィン対n−パラフィンの比を増加させるという利点を有し、かつn−パラフィン留分の分子量を低下させる。これらはいずれも最終生産物のオクタン価を改善し、それによって触媒のHDO活性を補償する。
【0026】
また本発明によれば、所望の窒素に対する耐性および、選択的クラッキングや異性体化反応などの酸触媒活性との関連において、触媒の酸性度が重要であることがわかった。
【0027】
本発明による適当な触媒は、既知の技術を用い、通常の当業者に周知のプロセスにしたがって調製することが可能である。好ましくはゼオライトはプロトン型の状態でアルミナと、いずれも粉末の形で、混合される。ゼオライトとアルミナの混合比率は好ましくは、ゼオライトが約10ないし約90%(重量)に対してアルミナが約90ないし約10%(重量)の割合である。ゼオライトとアルミナの混合物に対して、例えば酢酸などのコロイド化剤が、好ましくは約0.5ないし約3.0%(重量)の量で添加されてもよく、得られたペースト状の混合物は適当な形に、例えば1/16インチの押出物に押出される。その後、押出物は好ましくは室温で、次いで120℃の温度で乾燥され、乾燥された押出物は次いで例えば約550℃の温度でおおよそ2〜4時間、焼成される。焼成は好ましくは毎時60℃の昇温速度で、所望の温度に到達するまで実施することができる。
【0028】
焼成の後、押出物は第15族の活性元素(好ましくは燐)と第6族の活性金属(好ましくはモリブデン)で含浸される。この含浸段階の後、含浸された押出物は例えば同じ方法を用いて、好ましくは室温で、次いで約120℃の温度で乾燥される。乾燥の後、押出物はさらに第8、9、または10族の金属、好ましくはニッケルおよび/またはコバルトで含浸され、かくして担持体構造への活性金属相の含浸が完了する。もちろん、触媒は異なる方法で含浸されてもよく、任意の既知の技術またはプロセスを用いて調製されてよい。
【0029】
含浸された押出物は次いで再び室温で、次いで120℃で乾燥され、約550℃で適当な持続時間および上述の昇温速度で焼成され、かくして触媒が完成する。
【0030】
触媒はまたゼオライト、アルミナ、および活性金属を共押出しすることによって調製されてもよい。押出物は成形と同時に含浸され、上述と類似のプロセスで乾燥、次いで焼成される。
【0031】
使用以前に、触媒は当業者に知られている方法で活性化、予備硫化その他の工程が施されてもよく、このとき触媒を本発明による水素転化反応のプロセスに用いる準備が整う。
【0032】
本発明の触媒を用いるのに特に適した供給原料は、好ましくは少なくとも約5%(重量)のオレフィン類を有する未水素化処理FCCナフサ(C9+)である。このようなナフサは例えばアムアイその他の精油所から得られる。代表的な組成の特徴を下の表1に示した。
【0033】
【表1】
【0034】
もちろん、本発明による触媒は広い範囲の供給原料に対して有利に用いることができ、表1に示される供給原料は適当な供給原料の一例に過ぎない。しかしながら、本発明の触媒による処理に特に望ましい供給原料の特徴は、少なくともHDSを必要とし、場合によりまたHDNを必要とすること、オレフィン留分を含むこと、およびガソリンプールに合体されるものであること、である。供給原料はさらに少なくとも約1ppm重量の窒素を含んでもよい。このような供給原料であれば、本発明の触媒は優れた水素転化反応活性とともにHDSおよびHDN活性を提供し、有利である。
【0035】
本発明によれば、このような供給原料を本発明の触媒を用いて処理するプロセスは、適当な触媒および供給原料を準備することと、供給原料を水素化処理条件のもとに触媒に暴露することを包含する。前記水素化処理条件は約230℃ないし約450℃の温度、約100psiないし約1000psiの圧力、約0.5h−1ないし約20.0h−1の空間速度(LHSV)、および約100ないし約650Nv/vの水素/供給原料比を包含する。
【0036】
これに関連して、本発明の触媒は単一の反応容器に用いても、また要すれば形状の異なる二つまたはそれ以上の反応容器に用いても、また特定の供給原料、または当該の同じ供給原料において所望される他の活性が得られるように設計された他の触媒と組み合わせて用いても、いずれも有利である。しかしながら、特に有利なのは、本発明の触媒は単一の反応容器において所望の結果が得られることである。
【0037】
このようにして処理される供給原料は、初期硫黄含量および初期オレフィン留分を有するとともに、通常は初期窒素含量を有する。得られる生産物は実質的に低減された硫黄含量と、好ましくは実質的に低減された窒素含量と、要すれば実質的に低減されたオレフィン含量、あるいは用いられた作動条件によって変わる所望のオレフィン残存量を有するが、従来の触媒を用いる水素化において普通であるような低下したオクタン価を有することはない。
【0038】
プロセスは同一の反応容器または異なる反応容器中で、多段反応床を用いて実施することができる。また本発明の触媒に用いられる温度は好ましくは約250℃ないし約410℃であり、これより高い温度は液体収率の損失をもたらすことがわかった。
【0039】
以下に示す実施例で実証されるように、本発明の触媒によれば、HDS活性、窒素の存在に対する耐性、HDN活性、所望のHDO活性を提供し、かつ高い水素転化反応活性を有利に提供し、これによって従来の水素価処理触媒を用いるときに現在見られるオクタン価への悪影響が低減される。
【0040】
窒素への耐性および良好な水素転化反応活性によって、本発明の触媒は単一反応容器によるプロセスに首尾よく用いられ、この際、最終生産物は許容範囲の硫黄含量を有し、オクタン価回復を必要とせず、さらに触媒が急速に失活しないので脱窒素前処理を必要としない。
【0041】
以下の実施例はナフサ供給原料に用いられた本発明の触媒の有効性を実証するものである。このデータは10〜40cc容積の反応容器を有する高圧プラントを用いて得られたものであり、以下の一般的な方法を用いている。
【0042】
一定容積の乾燥済み触媒を、43cmの長さと3.5cmの内径を有するステンレススチールの反応容器に入れた。0.9ccの二硫化炭素または二硫化ジメチル(DMDS)(1.5%v/v)を各60ccのナフサに添加して、予備硫化用供給原料を調製した。この予備硫化用供給原料を用いて、以下の作動条件のもとに触媒床を活性化および/または予備硫化した。
【0043】
40ccの触媒に対して:
圧力: 400PSIG
H2流量: 195cc/min
予備硫化用供給原料流量: 25.6cc/h
温度: 159℃(1時間) 240℃(1時間) 280℃(2時間)
30ccの触媒に対して:
圧力: 400PSIG
H2流量: 146cc/min
予備硫化用供給原料流量: 19.2cc/h
温度: 150℃(1時間) 240℃(1時間) 280℃(2時間)
20ccの触媒に対して:
圧力: 400PSIG
H2流量: 97.33cc/min
予備硫化用供給原料流量: 12.8cc/h
温度: 150℃(1時間) 240℃(1時間) 280℃(2時間)
10ccの触媒に対して:
圧力: 400PSIG
H2流量: 36cc/min
予備硫化用供給原料流量: 6.4cc/h
温度: 150℃(1時間) 240℃(1時間) 280℃(2時間)
【0044】
いずれの場合も、LHSVは0.64l/hであり、H2/供給原料比は365Nv/vであった。活性化温度はプロセスの要求に応じて330℃または280℃の最終温度を与えるように用いた。
【0045】
触媒の活性化の後、触媒評価を行った。ベンチスケールで用いられた代表的な作動条件は温度が280℃ないし380℃、固定圧力が600psig、空間速度が1ないし3h−1、およびH2/供給原料比が440Nv/vであった。
【0046】
【実施例1】
(比較例)
Ni、Mo、およびP(18%重量)を含む市販の水素化処理触媒(HDT1)10ccをアルミナに担持させ、280℃で活性化して、アムアイ精油所(Amuay Refinery)からのFCCのC9+ナフサを用いて上述の方法で評価した。結果を表2に示した。
【0047】
【表2】
【0048】
オレフィン類に対する非常に高い水素化活性(HDOは93.0ないし94.2%重量)が得られた。温度が300℃から360℃に上昇すると、予期されるようにHDS活性(水素化脱硫)は温度とともに92.1から97%重量に増加し、同様にHDN(水素化脱窒素)は93.5から97%重量以上に変化している。しかしながら、n−パラフィン類の平均分子量は供給原料中のn−パラフィン類の平均分子量に非常に近く、酸触媒作用が非常に弱いことを示している。
【0049】
【実施例2】
市販の分散性アルミナB(コンデアTM)を、11.7のSi/Al比を有する(化学組成は表3参照)プロトン型のMFIゼオライト(ST−5)と混合した。両者とも粉末であり、混合比はST−5が50%(重量)とアルミナが50%(重量)であった。
【0050】
【表3】
【0051】
両固体の混合プロセスにおいて、2.5%重量の酢酸を、2.4グラムの固体に対して酸1mlの割合で添加した。混合の後、固体を二軸押出しのプレスミキサーに通して、材料を均一化した。混合によって得られたペーストを押出して1/16インチの押出物とした。
【0052】
押出物を室温で乾燥し、次いで120℃の温度をかけた。乾燥の後、押出物を炉に入れて550℃で少なくとも2時間、焼成した。この温度に達するのに、毎時60℃の昇温速度を用いた。焼成の後、含浸に用いられるアンモニウムヘプタモリブデートに85%(重量)の燐酸を足した溶液の含浸容量を測るために、水分計を用いた。アンモニウムヘプタモリブデートと燐酸の量を計測して、最終触媒中の堆積量がモリブデン12〜13%重量、燐2.7〜3.0%重量となるようにした。
【0053】
この含浸の後、押出物を室温と120℃とで乾燥した。乾燥の後、水分計を用いて、最終触媒に堆積したニッケルを2.1〜2.3%重量とするのに必要な硝酸ニッケルの量を計測して、含浸を実施した。
【0054】
最後に、押出物を再度室温と120℃とで乾燥し、前と同じ毎時60℃の昇温速度を用いて550℃で2時間焼成した。この触媒を以下においてHYC1触媒(NiMoP/ST−5+Al2O3)と呼ぶ。これは本発明による触媒である。
【0055】
【実施例3】
表4は、実施例2によって調製されたHYC1触媒10ccを用いて得られた結果を示している。触媒は実施例1に説明した手順で評価された。
【0056】
【表4】
【0057】
HYC1触媒が水素化脱硫(HDS)において適度な活性を有し、これは温度が300℃から360℃に上昇するとともに増加する(86.3%から96.3%に)ことがわかる。HDS活性は市販の触媒(HDT1)で得られたものより特に低温において劣るが、高温においては同等である。この触媒におけるオレフィン類の水素化は適度であり、初期オレフィン含量の約40重量%が保持された。HYC1触媒におけるn−パラフィン類の平均分子量はHDT1触媒におけるそれと比較して低く、温度が300℃から360℃に上昇するとともに低下する。これはHYC1触媒が非常に重要な酸としての機能を有することを示している。もう一つの重要な様相はイソパラフィン類/n−パラフィン類の比であり、これはHYC1触媒を用いるときに実質的により高くなる。
【0058】
この例が実証することは次の通りである。すなわち、この触媒のHDS活性はHDT1触媒と比較して低温においてわずかに低いが、HDS活性は高温においては非常に近似しており、一方でHYC1触媒はHDOが低く、n−パラフィン類の平均分子量が実質的に低くなり、イソパラフィン類/n−パラフィン類の比が高くなるという利点を有する。これらはHDT1触媒においては起こらないことである。 HDT1触媒においては、これらの炭化水素の水素化は、高オクタン価を与えるのに役立っていた重要な成分の減少につながる。さらにHDT1触媒は、オクタン価損失を避けるのに有用な他の重要な成分を生成するために非常に重要な、酸としての機能を示さない。
【0059】
【実施例4】
実施例2の手段にしたがって、アルミナおよび同じ11.7のSi/Al比を有するST−5ゼオライトを用いて、類似の触媒を調製した。ただし含浸はニッケルのかわりにコバルトを用いて行った(硝酸コバルトから)。得られた触媒(HYC2と呼ぶ)中のコバルト、モリブデン、燐等の元素の含量を表5に示した。
【0060】
【表5】
【0061】
【実施例5】
実施例1と類似の方法を用いてHYC2触媒を評価した。相違点は30ccの触媒を、150℃(1時間)、240℃(1時間)、280℃(2時間)という異なる温度で活性化したこと、および3種類の異なるナフサを用いたことである。すなわちHVNナフサ、 FCCの水素化処理C9+(これに対しては硫化された触媒のCoMoP相を維持するために二硫化ジメチルを添加した)、およびFCCの未水素化処理C9+ナフサである。供給原料の特性は作動条件および結果とともに表6に示した。
【0062】
【表6】
【0063】
表6に示すように、この実施例はHYC2触媒が未水素化処理FCCナフサを効果的に水素化脱硫することができ、その結果320℃ないし370℃において、適度なHDO活性とともに、96.6ないし98.2%のHDS活性に達し、オクタン価損失はほとんどないことを実証している。HYC2触媒において、RON損失はわずか0.9であり、MONについては利得が得られる(供給原料3では1.3に達する)ことが観察された。
【0064】
HVNナフサ(ヘビーバージンナフサ、供給原料1)の場合は、この触媒はイソパラフィン類/n−パラフィン類の比を1.59から2.35まで上げることができ、水素化処理FCCナフサ(供給原料2)の場合は4.51から6.01まで上げることができた。このイソパラフィン類/n−パラフィン類比の増加は水素化処理されていないFCCでも起こっている。
【0065】
【実施例6】
(比較例)
米国特許第5,576,256号に相当する触媒(以下、「HYCPA1触媒」と称する。)を得て評価した。この触媒を調製するのに用いたMFIゼオライトの化学組成と、いくつかの物理的特性を表7に示した。
【0066】
【表7】
【0067】
HYCPA1触媒の各元素の含量を表8に示した。
【0068】
【表8】
【0069】
30ccのHYCPA1触媒を、実施例1の触媒評価手順を用いて評価した。結果およびこの触媒を評価するのに用いた作動条件を表9に示した。
【0070】
【表9】
【0071】
表9に示されるように、この実施例は、水素化処理されていないFCCナフサにおいてはHYCPA1触媒のHDS活性が一定に保たれないことを実証している。すなわちHDS活性は、300℃と370℃との間で重量で94.1から87.4%に変化して、重大な活性低下を起こしており、さらに370℃では77.2%まで低下している。一方で供給原料3では大きなオクタン価損失が起こっており(RON=−4.9、MON=−1.9)、供給原料4でも同様である(RON=−3.5、MON=−2.5)。
【0072】
HVN(供給原料1)の場合は、この触媒はイソパラフィン類/n−パラフィン類の比を1.59から2.21に効果的に増加させることが可能であり、水素化処理されたFCCナフサ(供給原料2)の場合も4.51から5.18に増加させている。イソパラフィン類/n−パラフィン類比の増加はHYC2触媒で得られるそれより小さい。
【0073】
なお、 HYCPA1触媒は107時間の作動時間の後に若干の活性低下を示している。これはHDS活性が360℃、62時間の97.4%重量から370℃、107時間の89.0%重量に低下しており、HDO活性度もまた低下していることから明瞭に観察される。
【0074】
【実施例7】
この実施例では、実施例5のHYC2触媒、実施例6のHYCPA1触媒、および従来のHDT1触媒を用いて得られた生産物の平均分子量を測定した。異なる温度で実施されたプロセスの生産物について、平均分子量およびi−P/n−P比を測定した。この結果、および触媒の評価に用いた作動条件を表10に示した。
【0075】
【表10】
【0076】
この表は本発明によるHYC2触媒が特にn−パラフィン類の分子量低下と、i−P/n−P比の増加のプロセスにおいて、より活性が高いことを示している。これらの機能においては、HYCPA1触媒および最終的に市販のHDT1触媒はこれほど活性が高くない。これに関連して、HYC2触媒は11.7のSi/Al比を有するMFIゼオライトを含み、HYCPA1触媒は18のSi/Al比を有するMFIゼオライトを含み、市販のHDT1触媒はゼオライトを含まずアルミナのみである。一例として、図2は異なる触媒の評価に用いられた作動温度に対するn−パラフィン類の平均分子量の変化を図示している。
【0077】
図2から、HYC2触媒はアムアイ精油所からのC9+(FCC)ナフサの処理プロセスにおいて、300℃ないし360℃の作動温度でn−パラフィン類の平均分子量低下を起こさせる能力がより高いことが、明瞭に観察される。なお、HDT1触媒ははるかに効果が低く、前記分子量は温度に対して実質的に一定である。n−パラフィン類の平均分子量の低下、およびi−P/n−P比の増加は炭化水素のオクタン価の改善に有効であるから、HYC2触媒のこのような活性は特に望ましいものである。
【0078】
【実施例8】
実施例5と類似の評価手順によって、未水素化処理FCCナフサを用いて30ccのHDT1触媒を評価した。この結果は表11で、実施例6のHYCPA1触媒で得られた結果、および本発明によるHYC2触媒(実施例5)で得られた結果と比較されている。HYC2触媒は供給原料のオクタン価をほぼ維持することが可能である。すなわち供給原料3ではRONが−0.9でMONは1.3の増加、供給原料4ではMONが0.7の僅かな減少である。これに対してHYCPA1触媒では有意なオクタン価損失がある。すなわち供給原料3ではRON=−4.9でMON=−1.9、供給原料4ではRON=−3.5でMON=−2.5である。市販のHDT1触媒の場合はさらに損失が大きく、RON=−6.1でMON=−3.1である。
【0079】
最後に、HYC2触媒はまた市販のHDT1触媒と同様に、効果的に硫黄を除去することができる。すなわちHDS活性は320℃で96.6重量%(表11)、370℃で98%重量以上に達する。
【0080】
【表11】
【0081】
【実施例9】
実施例5の触媒評価手順を用いて、ただしより大容量の反応容器(50〜150cc)を用いて、異なる窒素および硫黄含量、異なるオクタン価および異なる組成を有する異なる供給原料について、100ccのHYC2触媒を長期間にわたって評価した。用いた手順は次の通りである。
【0082】
100ccの乾燥された触媒を容積で1:1にシリコンカーバイド(カーボランダム)で希釈し、長さ1.2m(T/T)、内径2.5cmの反応容器に入れた。重合反応とガム形成を防ぐために、市販のHDT触媒の45ccの反応床を反応容器(180〜200℃)の頂部に置き、通常はガム形成の前駆物質となる化合物を水素化させた。
【0083】
触媒を予備硫化用供給原料を用いて予備硫化した。これは70ccの二硫化炭素を毎5リットルの水素化処理ナフサに添加することによって行った。乾燥および焼成された触媒の予備硫化の条件は下記の通りである。
【0084】
活性化が完了した後、触媒の評価試験を開始した。スタート時は水素化処理ナフサ(硫黄および窒素を含まない)を標準の水素化条件(500〜600psiおよび290℃)で用いて「ブランク」状態とした。これは試験の出発点を確立するためである。
【0085】
下に掲げる表12は試験に用いられた各種のナフサと、厳しさの程度を変えて711時間の作動で得られたHDS、オクタン価、液状炭化水素収率その他の結果を示している。
【0086】
【表12】
【0087】
安定性試験において、本発明のHYC2触媒が異なる窒素および硫黄含量を有する各種のナフサを効果的に処理する上、優れたHDS活性と高い液状炭化水素収率を維持し、かつ所望のオクタン価を維持することが、明瞭に実証されている。この活性は370℃、4h−1のLHSV、および250N容積/容積のH2/HC等を含む厳しい作動条件を通して維持された。
【0088】
【実施例10】
実施例9の触媒評価手順を用い、ただし3個の反応容器(50〜150cc容量)が並列に並んだユニットを採用して、次の3種類の触媒を同時に評価した。すなわち100ccのHYC2、100ccのHDT1、および100ccのHDT2(CoMoP/Al2O3からなる市販の触媒)である。17重量%のオレフィン類と、1260重量ppmの硫黄と、80重量ppmの窒素を有する供給原料を用いた(表13)。
【0089】
【表13】
【0090】
この試験の作動条件は次のように変化させた。
温度、℃ : 260〜350
圧力、psig : 250〜500
LHSV、h−1 : 3〜8
H2/供給原料、 Nv/v : 110〜250
【0091】
この試験の目的は、HYC2触媒のHDS/オクタン価損失の性能を、異なる従来の水素化処理触媒と、異なる作動条件において、特に低い厳しさの条件において比較することであった。
【0092】
図3はデルタオクタン価すなわちオクタン価損失(ROAD)を、異なる触媒についてHDS活性の関数として図示している。この図によれば従来の水素化処理触媒においてはHDS活性が88.0重量%から99.0重量%まで変動しており、HYC2触媒においては92.0から99.0重量%まで変動している。オクタン価損失はHDS活性が低くなると減少する。このオクタン価損失は従来の水素化触媒において、より大きい。
【0093】
例えば、98.0重量%のHDS活性において、従来の水素化触媒ではオクタン価損失が約5.8であるのに対して、HYC2触媒では約3.3が得られる。HDS活性が92.0重量%に低下すると、オクタン価損失の差はさらに大きくなり、5.5に対して1.1である。これらの結果に関連して、HDO活性はそれぞれ5.5および1.1のオクタン価損失に対して89.0および46.0重量%であった。
【0094】
この実施例は、HYC2触媒が従来の触媒に比較して、オクタン価を最大に保つことを示している。HYC2触媒は従来の水素化処理触媒に比較して、類似のHDS活性において、生産物中により多くのオレフィン類を残留させる傾向がある。
【0095】
先の実施例およびこの実施例は、HYC2触媒が工程に用いられる作動条件に応じて、いろいろな選択肢を有することを実証している。すなわち、高い厳しさの条件における水素転化反応、低い厳しさの条件における高いHDS/HDO比、および中程度の厳しさの条件における両方の触媒性能である。
【0096】
HDSおよびHDN活性に利点を有し、窒素に対して極端に敏感でなく、かつ原料のオクタン価を保持するような、触媒が提供されたことが理解されるであろう。
【0097】
本発明はその主旨または本質から逸脱することなく、他の形で実現され、または他の方法で実施され得る。したがって本実施例は全ての点において説明的なものであって限定的なものではなく、本発明の範囲は添付の請求範囲によって示され、同一性の意味と範囲に相当するすべての変更は本発明に包含されるものと見なされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】様々な炭化水素留分の炭素原子数とリサーチオクタン価(RON)の関係を図示している。
【図2】いくつかの供給原料を異なる型の触媒を用いて処理したときの、処理温度と平均分子量の関係を図示している。
【図3】異なる型の触媒におけるデルタオクタン価(デルタROAD)とHDS(水素化脱硫)活性の関係を図示している。
Claims (17)
- 供給原料のオクタン価を維持しつつ前記供給原料を水素化脱硫するための水素転化反応触媒であって、該触媒は、
ゼオライトとアルミナの混合物からなる担持体であり、前記ゼオライトが11.7のSi/Al比を有するMFIゼオライトであるST−5ゼオライトである、担持体と、
前記担持体上の金属活性相であり、該金属活性相が元素周期表の第6族から選ばれる第一の金属と、元素周期表の第8族、第9族、第10族からなる群から選ばれ且つ白金族元素を除く第二の金属と、元素周期表の第15族から選ばれる第三の元素とからなる、金属活性相と、を有することを特徴とする水素転化反応触媒。 - 前記第一の金属はモリブデンであることを特徴とする請求項1記載の触媒。
- 前記第二の金属はニッケル、コバルト、およびこれらの混合物からなる群から選ばれることを特徴とする請求項1記載の触媒。
- 前記第三の元素は燐であることを特徴とする請求項1記載の触媒。
- 前記担持体は10ないし90%重量の前記ゼオライトと、90ないし10%重量の前記アルミナからなることを特徴とする請求項1記載の触媒。
- 前記金属活性相は少なくとも1%(重量)の前記第一の金属と、少なくとも0.5%(重量)の前記第二の金属と、少なくとも0.2%(重量)の前記第三の元素とからなることを特徴とする請求項1記載の触媒。
- 炭化水素原料の水素転化反応のためのプロセスであり、
該プロセスは、
初期硫黄含量を有する炭化水素原料を準備する工程と、
担持体と前記担持体上の金属活性相とからなる水素転化反応触媒を準備する工程であり、前記担持体がゼオライトとアルミナの混合物からなり、前記ゼオライトが11.7のSi/Al比を有するMFIゼオライトであるST−5ゼオライトであり、前記金属活性相が元素周期表の第6族から選ばれる第一の金属と、元素周期表の第8族、第9族、第10族からなる群から選ばれ且つ白金族元素を除く第二の金属と、元素周期表の第15族から選ばれる第三の元素とからなる、工程と、
前記原料を水素転化反応条件のもとに前記触媒に暴露して、前記初期硫黄含量より低い最終硫黄含量を有する生産物を得る工程と、からなる
ことを特徴とするプロセス。 - 前記炭化水素原料はイソパラフィン類対n−パラフィン類の初期モル比を有し、前記生産物におけるイソパラフィン類対n−パラフィン類の最終モル比は、前記初期モル比よりも低いことを特徴とする請求項7記載のプロセス。
- 前記炭化水素原料はn−パラフィン類の初期分子量を有し、前記生産物は前記初期分子量よりも低い、前記n−パラフィン類の最終分子量を有することを特徴とする請求項7記載のプロセス。
- 前記第一の金属はモリブデンであることを特徴とする請求項7記載のプロセス。
- 前記第二の金属はニッケル、コバルト、およびこれらの混合物からなる郡より選ばれることを特徴とする請求項7記載のプロセス。
- 前記第三の元素は燐であることを特徴とする請求項7記載のプロセス。
- 前記水素転化反応条件には、230〜450℃の温度条件が含まれることを特徴とする請求項7記載のプロセス。
- 前記原料は窒素を少なくとも1ppm含むことを特徴とする請求項7記載のプロセス。
- 前記暴露工程が単一の反応容器中で実施されることを特徴とする請求項7記載のプロセス。
- 前記暴露工程が異なる形状を有する少なくとも二つの反応容器中で実施されることを特徴とする請求項7記載のプロセス。
- 前記原料はナフサ供給原料であることを特徴とする請求項7記載のプロセス。
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