JP3911159B2 - ゴルフボール - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、反発性、耐擦過傷性および耐変色性に優れるゴルフボールに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、ゴルフボールのカバー材としてアイオノマー樹脂が広く使用されている。これは、アイオノマー樹脂が反発性、耐久性、加工性等に優れているためである。しかしながら、アイオノマー樹脂は高い剛性と硬度を有するため、カバー材としてアイオノマー樹脂のみを用いると、打球感が硬くて悪いものとなり、スピン性能も十分なものが得られずコントロール性が劣る等の問題があった。
【0003】
そこで、上記の問題を解決するために、そのような硬質のアイオノマー樹脂に三元共重合体系の軟質アイオノマー樹脂をブレンドしたり(特開平5‐3931号公報、特許第2709950号公報等)、熱可塑性エラストマーをブレンドしたり(特開平6‐299052号公報、特開平6‐327794号公報等)することによってカバーを軟質化する試みが種々提案されている。しかしながら、そのような硬質アイオノマー樹脂と軟質アイオノマー樹脂とのブレンドでは、良好な打球感とスピン性能が実現できるように調整した場合、反発性能が大きく低下すると共に、特にアイアンショット時にクラブフェースの溝によりカバー表面が削れ易く、ゴルフボール表面が毛羽立ったり、ささくれ立ったりして耐擦過傷性が劣るものであった。また、上記硬質アイオノマー樹脂と熱可塑性エラストマーのブレンドでは、反発性能は上記の軟質アイオノマー樹脂とのブレンドより優れるが、両者の相溶性が悪いためアイアンショット時の耐擦過傷性が更に劣るという問題があった。
【0004】
またカバー材として、熱硬化性ポリウレタン組成物を用いたり(特開昭51‐74726号公報、特許第2662909号公報、米国特許第4,123,061号等)、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを用いる(米国特許第3,395,109号、米国特許第4、248、432号、特開平9‐271538号公報、特開平11‐128401号公報、特開平11‐128402号公報等)ことによって上記の問題を解決しようとする試みも数多く提案されている。しかしながら、カバー材に熱硬化性ポリウレタン組成物を用いると、前述の軟質アイオノマー樹脂や熱可塑性エラストマーとのブレンドを用いる場合の欠点である耐擦過傷性には優れているものの、コアにカバーを被覆する工程が複雑化するため、量産化が困難であり、生産性が低下する。
【0005】
また、カバー材に熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを用いると、熱硬化性ポリウレタン組成物に比較すると、生産性は向上するが、熱硬化性ポリウレタン組成物より成形時の溶融粘度が高いため、薄肉化が困難となる。更に、ジイソシアネートとして2,4−トリレンジイソシアネート、2,6‐トリレンジイソシアネート、それらの混合物(TDI)、4,4’‐ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等を用いた一般的な熱可塑性ポリウレタン系エラストマーは、強度が大きく耐擦過傷性には優れているものの、黄変し易く、白色ペイントが必要となるという問題点があった。そこでそのような耐変色性を改良するため、脂肪族ジイソシアネートを使用する試みも提案されている(特開平9‐271538号公報等)が、上記のような芳香族ジイソシアネートを使用したものに比較して、強度が低くて耐擦過傷性が低下してしまうという問題があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のような従来のゴルフボールの有する問題点を解決し、反発性、耐擦過傷性および耐変色性に優れるゴルフボールを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記目的を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、カバーに基材樹脂として、特定の動的粘弾性特性を有する、脂環式ジイソシアネートを構成成分としてなるポリウレタン系熱可塑性エラストマーを用いることによって、反発性、耐擦過傷性および耐変色性に優れるゴルフボールを提供し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、コアと該コア上に被覆形成されたカバーとから成るゴルフボールにおいて、
該コアが、
(I)コア用ゴム組成物を混合、混練し、金型内で加熱プレスすることにより作製される球状のコア、
(II)内側コア用ゴム組成物を混合、混練し、金型内で加熱プレスすることにより球状の内側コアを作製し、外側コア用組成物を、該内側コア上に直接射出成形することにより作製される球状の2層コア、または
(III)内側コア用ゴム組成物を混合、混練し、金型内で加熱プレスすることにより球状の内側コアを作製し、外側コア用ゴム組成物を混合、混練し、該内側コア上に被覆し、金型内で加熱プレスすることにより作製される球状の2層コア
であり、
該カバーが、基材樹脂としてポリウレタン系熱可塑性エラストマーを含有するカバー用組成物から形成され、
該カバー層の表面にペイントが塗装され、
該ポリウレタン系熱可塑性エラストマーが脂環式ジイソシアネートを構成成分としてなり、かつ該ポリウレタン系熱可塑性エラストマーの動的粘弾性測定によるtanδの温度分散曲線が少なくとも1つのピークを有し、該ピークの少なくとも1つのピーク温度が0〜50℃である
ことを特徴とするゴルフボールに関する。
【0009】
更に本発明を好適に実施するために、
上記脂環式ジイソシアネートが、4,4’‐ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、1,3‐ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(HXDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)およびトランス‐1,4‐シクロヘキサンジイソシアネート(CHDI)から成る群から選択される1種、または2種以上の組合せであり;
上記カバーが、ショアD硬度30〜55および厚さ0.3〜2.0mmを有する;
ことが好ましい。
【0010】
以下に本発明を更に詳細に説明する。本発明のゴルフボールは、コア上にカバーを被覆する。コアは、従来からソリッドゴルフボールに用いられているものであってもよく、例えばシス‐1,4‐ポリブタジエンゴム等の基材ゴム100重量部に対して、アクリル酸、メタクリル酸等のような炭素数3〜8のα,β-不飽和カルボン酸またはその亜鉛、マグネシウム等の一価または二価の金属塩や、トリメチロールプロパントリメタクリレート等の官能性モノマーから成る加硫剤(架橋剤)を単独または合計で10〜60重量部、有機過酸化物等の共架橋開始剤0.5〜5重量部、酸化亜鉛、硫酸バリウム等の充填材10〜30重量部、要すれば有機硫黄化合物、老化防止剤等を含有するゴム組成物を、通常の混練ロール等の適宜の混練機を用いて均一に混練し、金型内で加硫成形することにより球状のコアを得ることができる。この際の条件は特に限定されないが、通常は130〜240℃、圧力2.9〜11.8MPa、15〜60分間で行われる。得られたコアは、その周りに被覆されるカバーとの密着性を向上するため、表面をバフ研磨しておくことが好ましい。但し、上記コアは単なる例示であって、それらに限定されるものではない。
【0011】
更に、上記コアは単層構造を有しても、2層以上の多層構造を有していてもよい。多層構造を有するコアの場合、最内層は前述のような、基材ゴムとしてシス‐1,4‐ポリブタジエンを含有するゴム組成物から成ることが好ましいが、その他の層は熱可塑性樹脂等の樹脂を基材とする層であってもよい。
【0012】
本発明のゴルフボールのコアは、直径38.8〜42.2mm、好ましくは39.6〜42.0mm、より好ましくは40.0〜41.2mmを有するのが好適である。上記コアの直径が38.8mmよりも小さいとカバーが厚くなり反発性が低下し、42.2mmよりも大きいとカバーの厚さが薄くなり過ぎて、カバーの効果が十分に得られず、また成形が困難となる。
【0013】
本発明のゴルフボールのコアは、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの変形量2.5〜4.5mm、好ましくは2.6〜4.2mm、より好ましくは2.7〜4.0mmを有することが望ましい。上記変形量が2.5mm未満または4.5mmを越える範囲では、得られるゴルフボールの変形量を適正な範囲に調整することが困難となり、打球感や飛距離を損なうおそれがある。
【0014】
本発明のゴルフボールに用いられるコアは、中心が最も軟らかく、外側に向って高硬度となる硬度分布を有するような構造であることが、ドライバーやミドルアイアンによる打撃時の飛距離の面で有利であり、ショアD硬度による表面硬度と中心硬度との硬度差が15〜45、好ましくは18〜40、より好ましくは20〜40であることが望ましい。上記硬度差が15より低いとフライト条件(飛行性能)が適正でなく、飛距離が低下し、45より高いと耐久性が悪いものとなる。
【0015】
本発明のゴルフボールに用いられるコアは、ショアD硬度による中心硬度20〜50、好ましくは30〜45を有することが望ましい。20より小さいとコアの変形量を適正な範囲に調整することが困難となり反発も低下する。50より大きいと、表面との硬度差が小さくなり打球感や飛距離を損なうおそれがある。
【0016】
本発明のゴルフボールに用いられるコアは、ショアD硬度による表面硬度45〜72、好ましくは50〜70、より好ましくは50〜68を有することが望ましい。45より小さいとコアの変形量を適正な範囲に調整することが困難となり反発も低下する。72より大きいと、打球感が硬くなり過ぎる。本明細書中で、コアの表面硬度とは1層構造のものはもとより多層構造であってもコア全体の最外層の表面で測定した硬度を意味し、中心硬度とは通常コアを2等分切断し、その切断面の中心点において測定した硬度を意味する。
【0017】
前述のように、本発明のコアが内側コアと1層以上の外側コアとから構成される多層構造を有する場合、外側コアは上記のような内側コアと同様のゴム組成物から形成されても、または熱可塑性樹脂、特に通常ゴルフボールのカバーに用いられるアイオノマー樹脂を基材樹脂として形成されてもよい。このようなアイオノマー樹脂としては、特にα‐オレフィンと炭素数3〜8個のα,β‐不飽和カルボン酸の共重合体中のカルボン酸の一部を金属イオンで中和したアイオノマー樹脂、α‐オレフィンと炭素数3〜8個のα,β‐不飽和カルボン酸とα,β‐不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体中のカルボン酸の少なくとも一部を金属イオンで中和したものまたはその混合物が用いられる。上記アイオノマー樹脂中のα‐オレフィンとしては、エチレン、プロピレンが好ましく、α,β‐不飽和カルボン酸としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸等が挙げられ、特にアクリル酸、メタクリル酸等が好ましい。また、α,β‐不飽和カルボン酸エステルとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸等のメチル、エチル、プロピル、n‐ブチル、イソブチルエステル等が用いられ、特にアクリル酸エステルとメタクリル酸エステルが好ましい。更に、中和する金属イオンとしては、アルカリ金属イオン、例えばNaイオン、Kイオン、Liイオン等;2価金属イオン、例えばZnイオン、Caイオン、Mgイオン等;3価金属イオン、例えばAlイオン、Ndイオン等;およびそれらの混合物が挙げられるが、Naイオン、Znイオン、Liイオン等が反発性、耐久性等からよく用いられる。
【0018】
アイオノマー樹脂の具体例としては、それだけに限定されないが、ハイミラン(Hi‐milan)1555、ハイミラン1557、ハイミラン1601、ハイミラン1605、ハイミラン1652、ハイミラン1702、ハイミラン1705,ハイミラン1706,ハイミラン1707,ハイミラン1855,ハイミラン1856、ハイミランAM7316(三井デュポンポリケミカル社製)、サーリン(Surlyn)8945、サーリン9945、サーリン6320、サーリン8320、サーリンAD8511、サーリンAD8512、AD8542(デュポン社製)、アイオテック(Iotek)7010、アイオテック8000(エクソン(Exxon)社製)等を例示することができる。これらのアイオノマーは、上記例示のものをそれぞれ単独または2種以上の混合物として用いてもよい。
【0019】
更に、本発明の外側コアの好ましい材料の例としては、上記のようなアイオノマー樹脂のみであってもよいが、アイオノマー樹脂と熱可塑性エラストマーやジエン系ブロック共重合体等の1種以上とを組合せて用いてもよい。上記熱可塑性エラストマーの具体例として、例えば東レ(株)から商品名「ペバックス」で市販されている(例えば、「ペバックス2533」)熱可塑性ポリアミド系エラストマー、東レ・デュポン(株)から商品名「ハイトレル」で市販されている(例えば、「ハイトレル3548」、「ハイトレル4047」)熱可塑性ポリエステル系エラストマー、武田バーディシュ(株)から商品名「エラストラン」で市販されている(例えば、「エラストランET880」)熱可塑性ポリウレタン系エラストマー等が挙げられる。
【0020】
上記ジエン系ブロック共重合体は、ブロック共重合体または部分水添ブロック共重合体の共役ジエン化合物に由来する二重結合を有するものである。その基体となるブロック共重合体とは、少なくとも1種のビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと少なくとも1種の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBとから成るブロック共重合体である。また、部分水添ブロック共重合体とは、上記ブロック共重合体を水素添加して得られるものである。ブロック共重合体を構成するビニル芳香族化合物としては、例えばスチレン、α‐メチルスチレン、ビニルトルエン、p‐t‐ブチルスチレン、1,1‐ジフェニルスチレン等の中から1種または2種以上を選択することができ、スチレンが好ましい。また、共役ジエン化合物としては、例えばブタジエン、イソプレン、1,3‐ペンタジエン、2,3‐ジメチル‐1,3‐ブタジエン等の中から1種または2種以上を選択することができ、ブタジエン、イソプレンおよびこれらの組合せが好ましい。好ましいジエン系ブロック共重合体の例としては、エポキシ基を含有するポリブタジエンブロックを有するSBS(スチレン‐ブタジエン‐スチレン)構造のブロック共重合体またはエポキシ基を含有するポリイソプレンブロックを有するSIS(スチレン‐イソプレン‐スチレン)構造のブロック共重合体等が挙げられる。上記ジエン系ブロック共重合体の具体例としては、例えばダイセル化学工業(株)から商品名「エポフレンド」で市販されているもの(例えば、「エポフレンドA1010」)、(株)クラレから商品名「セプトン」で市販されているもの(例えば、「セプトンHG‐252」等)等が挙げられる。
【0021】
上記の熱可塑性エラストマーやジエン系ブロック共重合体等の配合量は、外側コア用の基材樹脂100重量部に対して、1〜60重量部、好ましくは1〜35重量部である。1重量部より少ないとそれらを配合することによる打球感の向上等の効果が不十分となり、60重量部より多いと外側コアが軟らかくなり過ぎて反発性が低下したり、またアイオノマー樹脂との相溶性が悪くなって耐久性が低下しやすくなる。
【0022】
上記コアが多層構造を有し、かつ外側コア層がゴム組成物から形成される場合、ゴム組成物を混合、混練し、内側コア上に同心円状に被覆し、金型内で160〜180℃で10〜20分間加熱プレスすることにより、上記内側コア上に上記外側コア層を被覆したコアを得ることができる。上記コアが多層構造を有し、かつ上記外側コア層が熱可塑性樹脂から形成される場合、樹脂組成物を、上記内側コア上に直接射出成形することによりコアを得ることができる。得られたコアは、その周りに被覆されるカバーとの密着性を向上するため、表面をバフ研磨しておくことが好ましい。
【0023】
上記コア上には、次いでカバーを被覆する。本発明のゴルフボールに用いられるカバーは、基材樹脂としてポリウレタン系熱可塑性エラストマーを含有するカバー用組成物から形成され、
上記ポリウレタン系熱可塑性エラストマーが脂環式ジイソシアネートを構成成分としてなり、かつ上記ポリウレタン系熱可塑性エラストマーの動的粘弾性測定によるtanδの温度分散曲線が少なくとも1つのピークを有し、上記ピークの少なくとも1つのピーク温度が−20℃より高いことを要件とする。
【0024】
本明細書中で、tanδの温度分散曲線とは、−90から90℃までの温度領域を3℃/分で昇温させた時の周波数10Hzでの動的粘弾性測定によるtanδの温度分散曲線である。tanδは、以下の式:
tanδ=E"/E'
(式中、E'は貯蔵弾性率であり、E"は損失弾性率である。)
で表され、力学的減衰を表す。加えられた応力と歪との時間的遅れを表す角度がδであり、損失正接tanδは、損失係数とも呼ばれ、材料に加えられた応力を熱エネルギーとして散逸する能力、即ちエネルギー損失を表す。即ち、tanδの値が大きいと、一般に衝撃強さや摩擦力等の粘性に依存する特性値が大きいことになる。
【0025】
本発明のゴルフボールにおいては、カバーの基材樹脂として用いられる脂環式ジイソシアネートを構成成分としてなるポリウレタン系熱可塑性エラストマーのtanδの温度分散曲線が、上記温度領域に少なくとも1つのピークを有し、上記ピークの内の少なくとも1つのピーク温度が−20℃より高いことを要件とし、上記ピーク温度は好ましくは−10〜60℃、より好ましくは0〜50℃である。上記ピーク温度が、−20℃以下となると、耐擦過傷性が悪いものとなる。尚、−90から90℃までの温度領域におけるtanδの温度分散曲線において複数個のピーク部分が存在する場合は、tanδ値が最高値を示す温度が、−20℃より高いのがよく、更にその温度が好ましくは−10〜60℃、より好ましくは0〜50℃であることが望ましい。
【0026】
本発明のゴルフボールにおいて、カバーには上記のようなポリウレタン系熱可塑性エラストマーを基材樹脂として含有することが好ましい。カバー用組成物の基材樹脂として、脂環式ジイソシアネートを使用して生成されたポリウレタン系熱可塑性エラストマーを用いるメリットは、耐変色(黄変)性が良好であり、かつ耐擦過傷性に優れる点である。
【0027】
ポリウレタン系熱可塑性エラストマーは、一般にハードセグメントとしてポリウレタン構造を含有し、ソフトセグメントとしてポリエステルまたはポリエーテル構造の高分子ポリオール化合物を含有する。上記ポリウレタン構造は一般に、ジイソシアネートと鎖延長剤としての多価アルコール類、アミン系等とから成る。本発明のゴルフボールにおいては、上記高分子ポリオール化合物や鎖延長剤は特に制限されず、一般的にポリウレタン系熱可塑性エラストマーに使用されるものを適宜用いることができる。本発明のカバーに用いる上記ポリウレタン系熱可塑性エラストマーとしては、構成成分としての上記ジイソシアネートが脂環式ジイソシアネートである。また、耐変色(黄変)性等の得られるカバーの性能への影響は、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー中の上記ポリオール種の違いよりジイソシアネート種の違いの方が格段に大きく、本発明では上記ジイソシアネート種に注目した。
【0028】
上記脂環式ジイソシアネートの例としては、4,4’‐ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)の水素添加物である4,4’‐ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)の水素添加物である1,3‐ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(HXDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)およびトランス‐1,4‐シクロヘキサンジイソシアネート(CHDI)から成る群から選択される1種、または2種以上の組合せ等が挙げられ、耐候性、汎用性および加工性の面からH12MDIを含む上記組合せが好ましく、特にH12MDI単独が好適である。
【0029】
上記H12MDIを使用したポリウレタン系熱可塑性エラストマーの具体例として、BASFポリウレタンエラストマーズ(株)から市販の「エラストランXNY90A(商品名)」、「エラストランXNY97A(商品名)」、「エラストランXNY585(商品名)」等が挙げられる。
【0030】
本発明のゴルフボールにおいて、カバーの基材樹脂には、上記のようなポリウレタン系熱可塑性エラストマー以外に、上記ポリウレタン系熱可塑性エラストマーとの相溶性に優れる他の材料、例えばポリアミド系熱可塑性エラストマー、上記以外の他のポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ナイロン等をブレンドして用いてもよいが、特にポリアミド系熱可塑性エラストマーが好適に用いられる。上記他の材料の配合量は、基材樹脂100重量部に対して、5〜40重量部、好ましくは10〜30重量部、より好ましくは10〜20重量部である。上記配合量が5重量部より少ないと上記他の材料を配合する効果が十分に発揮されず、40重量部より多いと相溶性が低下したり、または分散性が不安定となり、割れが生じるなど耐久性が低下する。
【0031】
上記ポリウレタン系熱可塑性エラストマーは、耐変色(黄変)性の観点から、分子内の骨格構造中に二重結合を有さないジイソシアネート、即ち脂肪族ジイソシアネートおよび脂環式ジイソシアネート、を使用したポリウレタン系熱可塑性エラストマーが好ましい。また、耐擦過傷性等を考慮して、機械的強度の大きい脂環式ジイソシアネートおよび更に芳香族ジイソシアネートを使用したポリウレタン系熱可塑性エラストマーが好ましい。本発明のゴルフボールのカバーに用いるポリウレタン系熱可塑性エラストマーとしては、上記耐変色性および耐擦過傷性の両者を考慮して、脂環式ジイソシアネートを使用して生成したポリウレタン系熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0032】
本発明のゴルフボールにおいて、カバー材には、上記のような樹脂成分以外に、必要に応じて、二酸化チタン等の着色剤、分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光材料、蛍光増白剤等の添加剤等をゴルフボールカバ−による所望の特性が損なわれない範囲で含有してもよいが、通常、着色剤の配合量は0.1〜5重量部が好ましい。
【0033】
上記カバーを被覆する方法についても、特に限定されるものではなく、通常のカバーを被覆する方法で行うことができる。カバー用組成物を予め半球殻状のハーフシェルに成形し、それを2枚用いてコアを包み、160〜200℃で1〜10分間プレス成形するか、または上記カバー用組成物を直接コア上に射出成形してコアを包み込む方法が用いられる。カバー厚さの均一性の点で、上記プレス成形する方法が好ましい。
【0034】
上記カバーは、厚さ0.3〜2.0mm、好ましくは0.5〜1.6mm、より好ましくは0.5〜1.2mmを有することが望ましい。0.3mmより小さいと薄くなり過ぎて成形が困難となり、2.0mmより大きいと厚くなり過ぎて反発性が低下して飛距離が低下する。
【0035】
本発明のゴルフボールのカバーは、ショアD硬度30〜55、好ましくは35〜55、より好ましくは38〜50を有することが望ましい。上記カバー硬度が、30より低いと反発性および耐擦過傷性が低下し、55より高いと好適なスピン量が得られず、また打球感が硬くて悪いものとなる。尚、本明細書中で、カバー硬度とは、カバー用組成物から作製された熱プレス成形シートを用いて測定した硬度(スラブ硬度)を意味する。
【0036】
本発明のゴルフボールでは、カバー成形時に、必要に応じて、ボール表面にディンプルを形成し、また、カバー成形後、ペイント仕上げ、マーキングスタンプ等も必要に応じて施し得る。
【0037】
本発明のゴルフボールは、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの変形量2.50〜3.10mm、好ましくは2.60〜3.00mm、より好ましくは2.65〜2.90mmを有することが望ましい。2.50mm未満では打球感が硬くて悪いものとなり、またドライバーやアイアンクラブでの打撃時のスピン量が大きくなり、3.10mmを越えると軟らかくなり過ぎて反発性が低く打球感が重くて悪いものとなる。
【0038】
本発明のゴルフボールは、ゴルフボール規則に基づいて、直径42.67mm以上(好ましくは42.67〜42.80mm)、重量45.93g以下に形成される。
【0039】
ゴルフボールの直径は規格にて42.67mm以上と制限されているが、直径が大きくなると飛行中の空気抵抗が大きくなって飛距離が低下するため、通常のゴルフボールの直径は42.67〜42.80mmに設定されており、本発明はこの直径のゴルフボールに適用し得る。また、ゴルフボールの直径を大きくして打ち易さの向上を狙った大径のゴルフボール等も存在し、更に顧客の要望や目的に応じて上記規格を外れるゴルフボールが必要とされる場合もあり、それらを含めると、ゴルフボールの直径は42〜44mm、更には40〜45mmというような範囲も想定され得るものであり、本発明はこれらの直径範囲のゴルフボールにも適用し得るものである。加えて、本発明のゴルフボールは、重量44〜46g、好ましくは45.00〜45.93gである。
【0040】
本発明では、上記のようなポリウレタン系熱可塑性エラストマーを基材樹脂として含有するカバーを用いることにより、反発性に優れ、かつ耐擦過傷性および耐変色性に優れたゴルフボール提供する。
【0041】
【実施例】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0042】
コアの作製
(コアI)
以下の表1に示した配合のコア用ゴム組成物を混合、混練し、金型内で170℃で15分間加熱プレスすることにより直径40.0mmを有する球状のコアを得た。
【0043】
(コアII)
(i)内側コアの作製
以下の表1に示した配合のコア用ゴム組成物を混合、混練し、金型内で170℃で15分間加熱プレスすることにより直径37.0mmを有する球状のコアを得た。
【0044】
(ii)2層コアの作製
以下の表1に示した配合の外側コア用組成物を、上記(i)で作製した内側コア上に直接射出成形することにより、直径40.0mmを有する球状の2層コアを作製した。
【0045】
(コアIII)
(i)内側コアの作製
以下の表1に示した配合のコア用ゴム組成物を混合、混練し、金型内で170℃で15分間加熱プレスすることにより直径32.5mmを有する球状のコアを得た。
【0046】
(ii)2層コアの作製
以下の表1に示した配合の外側コア用ゴム組成物を混合、混練し、上記(i)で作製した内側コア上に同心円状に被覆し、金型内で170℃で15分間加熱プレスすることにより直径40.0mmを有する球状の2層コアを作製した。
【0047】
得られた1層コアおよび2層コアの圧縮変形量、中心硬度(a)および表面硬度(b)を測定し、その結果から硬度差(b−a)を計算により求めた。それらの結果を同表に示した。
【0048】
【表1】
Figure 0003911159
【0049】
(注1) JSR(株)から商品名「BR‐18」で市販のハイシスポリブタジエンゴム(シス‐1,4‐ポリブタジエン含量=96%)
(注2) 住友精化(株)から市販のジフェニルジスルフィド
(注3) 日本油脂(株)から商品名「パークミルD」で市販のジクミルパーオキサイド
(注4) 三井デュポンポリケミカル(株)から商品名「ハイミラン1605」で市販のナトリウムイオン中和エチレン‐メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂
(注5) 三井デュポンポリケミカル(株)から商品名「ハイミラン1706」で市販の亜鉛イオン中和エチレン‐メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂
【0050】
カバー用組成物の調製
以下の表2に示すカバー用配合材料を二軸混練型押出機によりミキシングし、ペレット状のカバー用組成物を得た。各カバー用配合材料の動的粘弾性測定によるtanδの温度分散曲線におけるピーク温度を同表に示した。押出条件は、
スクリュー径 45mm
スクリュー回転数 200rpm
スクリューL/D 35
であり、配合物は押出機のダイの位置で200〜260℃に加熱された。上記カバー用組成物から作製された厚さ2mmの熱プレスシートを、23℃で2週間保存後、そのシートを3枚以上重ねて、ASTM‐D2240‐68に規定のスプリング式硬度計ショアD型を用いて測定した硬度を、カバー硬度として表2〜4に示した。試験方法は後述の通りとした。
【0051】
【表2】
Figure 0003911159
【0052】
*:tanδのピーク温度
(注6) BASFポリウレタンエラストマーズ(株)から商品名「エラストランXNY90A」で市販の4,4’‐ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)‐ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)系ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、JIS‐A硬度=90
(注7) BASFポリウレタンエラストマーズ(株)から商品名「エラストランXNY97A」で市販の4,4’‐ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)‐ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)系ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、JIS‐A硬度=97
(注8) BASFポリウレタンエラストマーズ(株)から商品名「エラストランET895(クリア)」で市販の4,4’‐ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)系ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、JIS‐A硬度=95
(注9) BASFポリウレタンエラストマーズ(株)製のH12MDI‐ポリカプロラクトンジオール(PCL)系ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、JIS‐A硬度=97
(注10) BASFポリウレタンエラストマーズ(株)製のH12MDI‐ポリカーボネートジオール(PC)系ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、JIS‐A硬度=94
(注11) 大日本インキ化学工業(株)から商品名「パンデックスT7890」で市販のヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)系ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、JIS‐A硬度=90
(注12)アトフィナジャパン(株)製のポリアミド系熱可塑性エラストマー、ショアD硬度=55
【0053】
実施例1〜7および比較例1〜2
得られたカバー用組成物を上記のようにして得られたコア上に直接射出成形して、厚さ1.4mmを有するカバー層を形成した。次いで、バリ取りをした後、表面にクリアーペイントを塗装して、直径42.8mmおよび重量45.4gを有するゴルフボールを得た。得られたゴルフボールの圧縮変形量、反発係数、耐擦過傷性および耐変色性(黄変性)を測定または評価し、その結果を以下の表3および表4に示した。試験方法は以下の通り行った。
【0054】
(試験方法)
(1)圧縮変形量
コアまたはゴルフボールに初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの変形量を測定することにより決定した。
【0055】
(2)硬度
(2−1)コア硬度
作製したコアの外表面で測定したショアD硬度をコアの表面硬度とし、コアを2等分切断し、その切断面の中心点において測定したショアD硬度をコアの中心硬度とした。ショアD硬度は、ASTM‐D2240に規定されるスプリング式硬度計ショアD型を用いた。
(2−2)カバー硬度(スラブ硬度)
カバー用組成物から作製された厚さ2mmの熱プレス成形シートを、23℃で2週間保存後、そのシートを3枚以上重ねて、ASTM‐2240‐68に規定のスプリング式硬度計ショアD型を用いて測定した。
【0056】
(3)動的粘弾性測定
カバー用組成物から作製した幅4mm×長さ30mm×厚さ2.0mmの試料片(チャック間距離(変形部位長さ)20mm)を、DVE‐V4 FTレオスペクトラー((株)レオロジー製)を用いて引っ張りモード(長さ方向の単純伸長)で周波数10Hzおよび変位振幅0.025%(5μm)で強制振動させ、−90から90℃まで3℃/分で昇温させた時の、駆動部と応答部の振幅の比と位相差より求めたtanδの温度分散曲線を得た。
【0057】
(4)反発係数
各ゴルフボールに200gのアルミニウム製円筒物を45m/秒の速度で衝突させ、衝突後の上記円筒物およびゴルフボールの速度を測定し、それぞれの衝突前後の速度および重量から各ゴルフボールの反発係数を算出した。測定は各ゴルフボールについて5回ずつ行って、その平均値を各ゴルフボールの反発係数とした。実施例1の反発係数を100とした指数を各ゴルフボールの結果として表示した。
【0058】
(5)耐擦過傷性
ツルーテンパー社製スイングロボットに市販のピッチングウェッジ(PW)を取り付け、ヘッドスピード36m/秒に設定して各ゴルフボールの2箇所を各1回打撃し、2箇所打撃部を目視で観察した。判定基準は以下の通りとした。
判定基準
○ … ゴルフボール表面に傷がわずかに残るがほとんど気にならない程度。
△ … ゴルフボール表面に傷がはっきり残り、若干の毛羽立ちが見られる。
× … ゴルフボール表面がかなり削れ、毛羽立ちが目立つ。
【0059】
(6)耐変色性(黄変性)
スガ試験機(株)のサンシャインウェザーメーターを用いて、各ゴルフボールに120時間照射した。その前後のLab色差を色彩色差計(ミノルタ(株)から市販のCR−221)を使用して測定し(ΔL、ΔaおよびΔb)、ΔEで表した。ΔEは以下の式を用いて求められる。この色差値が大きい程、変色(黄変)し易いことを表す。
ΔE=[(ΔL)+(Δa)+(Δb)1/2
評価基準は以下の通りとした。
評価基準
○ … ΔE値が3.0未満
△ … ΔE値が3.0以上5.0未満
× … ΔE値が5.0以上
【0060】
(試験結果)
【表3】
Figure 0003911159
【0061】
【表4】
Figure 0003911159
【0062】
以上の結果より、実施例1〜7の本発明のゴルフボールは、比較例1〜2のゴルフボールに比べて、反発性、耐擦過傷性および耐変色性に優れることがわかった。
【0063】
これに対して、比較例1のゴルフボールでは、カバー用基材樹脂として、芳香族ジイソシアネートを使用して生成したポリウレタン系熱可塑性エラストマーのみを用いているため、非常に黄変し易いものとなっている。加えて、このポリウレタン系熱可塑性エラストマーの動的粘弾性測定によるtanδの温度分散曲線において−20℃より高いピーク温度を有するピークが存在しないため、耐擦過傷性が非常に悪いものとなっている。
【0064】
比較例2のゴルフボールでは、カバー用基材樹脂として脂肪族ジイソシアネートを使用して生成したポリウレタン系熱可塑性エラストマーのみを用いているため耐変色性は優れているものの、このポリウレタン系熱可塑性エラストマーの動的粘弾性測定によるtanδの温度分散曲線において−20℃より高いピーク温度を有するピークが存在しないため、耐擦過傷性が非常に悪いものとなっている。
【0065】
【発明の効果】
本発明によれば、カバーに基材樹脂として、特定の動的粘弾性特性を有する、脂環式ジイソシアネートを構成成分としてなるポリウレタン系熱可塑性エラストマーを用いることによって、反発性、耐擦過傷性および耐変色性に優れるゴルフボールを提供し得たものである。

Claims (3)

  1. コアと該コア上に被覆形成されたカバーとから成るゴルフボールにおいて、
    該コアが、
    (I)コア用ゴム組成物を混合、混練し、金型内で加熱プレスすることにより作製される球状のコア、
    (II)内側コア用ゴム組成物を混合、混練し、金型内で加熱プレスすることにより球状の内側コアを作製し、外側コア用組成物を、該内側コア上に直接射出成形することにより作製される球状の2層コア、または
    (III)内側コア用ゴム組成物を混合、混練し、金型内で加熱プレスすることにより球状の内側コアを作製し、外側コア用ゴム組成物を混合、混練し、該内側コア上に被覆し、金型内で加熱プレスすることにより作製される球状の2層コア
    であり、
    該カバーが、基材樹脂としてポリウレタン系熱可塑性エラストマーを含有するカバー用組成物から形成され、
    該カバー層の表面にペイントが塗装され、
    該ポリウレタン系熱可塑性エラストマーが脂環式ジイソシアネートを構成成分としてなり、かつ該ポリウレタン系熱可塑性エラストマーの動的粘弾性測定によるtanδの温度分散曲線が少なくとも1つのピークを有し、該ピークの少なくとも1つのピーク温度が0〜50℃である
    ことを特徴とするゴルフボール。
  2. 前記脂環式ジイソシアネートが、4,4’‐ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、1,3‐ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(HXDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)およびトランス‐1,4‐シクロヘキサンジイソシアネート(CHDI)から成る群から選択される1種、または2種以上の組合せである請求項1記載のゴルフボール。
  3. 前記カバーが、ショアD硬度30〜55および厚さ0.3〜2.0mmを有する請求項1記載のゴルフボール。
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