JP3906454B2 - 発泡耐火シート被覆工法 - Google Patents

発泡耐火シート被覆工法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な発泡耐火シート被覆工法に関する。
【0002】
【従来技術】
建築物、土木構築物等の構造物が火災等によって高温に晒された場合には、これら構造物の鉄骨及びコンクリートの物理的強度が急激に低下するという問題がある。これに対し、耐火性塗材を基材に塗布し、基材の温度上昇を遅延させ、物理的強度の低下を一時的に抑える方法が採られている。代表的な方法としては、例えばセメント等の無機質バインダーに 1)ロックウール、アスベスト、ガラス繊維等の無機質繊維状物質、2)パーライト、バーミキュライト等の軽量骨材、3)結晶水を含有する無機質粉体等を適宜混合し、水と混練し、ペースト状又はスラリー状とした混合組成物を基材表面に厚付けする湿式耐火被覆方法が知られている。
【0003】
しかし、上記方法で使用される塗材組成物では、使用する材料の種類にもよるが、例えば鉄骨鉄筋コンクリート構造物の柱、梁等に対する1時間耐火性能(標準加熱曲線において1時間加熱した場合、鋼材温度が平均で350℃以下、最高温度で450℃以下であること)でみると、約20〜40mmという被覆厚みが必要となり、かなりの厚付けとなる。このため、建築現場において施工を行う際には比較的大量の塗材を搬入しなければならないので、コスト上からも非常に不利である。また、厚付けのため、施工部が基材から大幅に突出し、外観上圧迫感を与えることにもなりかねない。さらに、施工後に被覆層の剥離、脱落等が生じるおそれもある。従って、より軽量で薄くて済む塗材組成物の開発が必要とされている。
【0004】
基材に耐火性を付与する他の方法として、火災等の温度上昇に伴い塗膜が発泡し、これによって基材に耐火性を与える発泡耐火性塗料を各種の手法により基材に塗布する方法が知られている。発泡耐火性塗料は、温度上昇により分解して不燃性ガスを発生する発泡成分と、炭素化して多孔質の炭化層を形成する成分とを含有している。すなわち、不燃性ガスの発生により火災の消火効果を発揮するとともに、炭素化成分による多孔質炭化層の形成によって断熱効果を発揮するものである。
【0005】
従って、発泡耐火性塗料によれば、当初の塗膜は通常数mm以下と薄くても、火災時における加熱等により数倍〜数十倍の倍率で発泡して有効な断熱層を形成できる。従って、湿式耐火被覆塗材に比べて塗膜は極端に薄くでき、圧迫感も少なく、すっきりとした感じに仕上がるという利点がある。また、湿式耐火被覆塗材に比べて使用材料が少なくて済み、コスト面の問題等も解消できる。
【0006】
ところが、発泡耐火塗料を塗布する際には耐火性能を均等にするため、厚みも均等にする必要があるので、塗装時の厚み管理を徹底する必要がある。このため、塗装作業を熟練した職人に頼らざるを得ない。また、湿式の塗装方法であるため、その養生等に手間がかかるという欠点もあり、工期の短縮化に限界がある。
【0007】
最近では、このような湿式塗装工法に代わって乾式シートによる耐火被覆が行われている。これは、予め用意された乾式シートを基材に被覆する方法である。乾式シートとしては、例えば不燃性の繊維類を不織布状にしたもの、不燃性の不織布、織布等の布状物に発泡耐火塗料を含浸させたもの、アルミ箔等の不燃性物をシート状にしたものの上に発泡耐火塗料を積層したもの等様々であるが、いずれも厚み管理が容易であり、養生等も必要ないために注目されつつある。このような乾式シートによる耐火被覆のうち、特に施工時には厚みが少なく、火災時には発泡して炭化層をつくるタイプのものが脚光を浴びている。
【0008】
このようなシートは発泡耐火シートと呼ばれているが、これは施工時には美観ないし意匠性を付与するような部位への施工要望が多く、発泡耐火シート上に保護仕上げ層を設けることが頻繁に行われている。
【0009】
例えば、特開平7−276552号公報によれば、保護仕上げ層は一般に仕上げ面がフラットになるような単色系の塗料によって形成する場合がほとんどであり、仕上げ面がフラットになることが要求される。
【0010】
ところが、実際に発泡耐火シートを施工部位に貼着した場合、このシートの突き合わせ部、重ね合わせ部等に段差ができ、不陸が発生するという問題がある。このような場合には、わざわざサンダー等により不陸部分のケレンを行い、耐火被覆面をフラットな状態にした後、保護仕上げ面を形成するという煩雑な施工方法が基本的に必要となる。
【0011】
特に、発泡耐火シートどうしの突き合わせ部又は重ね合わせ部については、シートの厚みが薄い場合は、図1に示すようにシートの末端部を重ねた後、カッター等でシートの一部を切断してフラットにする加工処理が施されている(図1(a)〜(d))。一方、シートが厚い場合には、図2のように突き合わせ部分をパテ、シーリング剤等で継ぎ目を埋めて処理にする施工方法がとられている(図2(a)〜(d))。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のような加工処理をしても、図1(e)及び図2(e)〜(f)に示すように、いずれの場合も施工後にシートが収縮することによって目地の開き又は肉痩せが生じる。目地の開き等が起これば、外観が損われるだけでなく、耐火性の低下をもたらす。しかも、上記のような加工処理自体、非常に手間を要するものであるため、工期の遅れの原因となったり、あるいは建設コストの上昇を招くという問題もある。
【0013】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、優れた耐火性及び意匠性を付与しつつ、比較的容易に発泡耐火シートを被覆できる方法を提供することを主な目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、下記の発泡耐火シート被覆工法により上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、耐火性を付与すべき基材に発泡耐火シートを被覆するに際し、
(1)熱可塑性樹脂を樹脂成分として含む発泡耐火シートの末端部どうしを重ね合わせる工程又は末端部どうしの突き合わせ部に発泡耐火シート細幅材を重ね合わせる工程、
(2)少なくとも当該重ね合わせ部に離型シートを重ねる工程、及び
(3)当該離型シートの上から加熱・押圧して当該重ね合わせ部を均す工程
を有する発泡耐火シート被覆工法に係るものである。
【0016】
【発明の実施の形態】
(1)耐火性を付与すべき基材
耐火性を付与すべき基材(基材)としては、建築物、土木構築物等の構造物において耐火構造にできる部分をすべて含み、また鉄骨、鉄筋、木造等の別を問わない。構造物の部位についても、壁、柱、床、梁、屋根、階段等のすべての部位を含む。特に意匠性が求められるのは人目に触れる部分であることから、本発明の工法は柱、床、梁等への施工も有効である。このような施工部位は、コンクリート、金属等で形成されていることがほとんどであり、特に金属で形成されている部位・部材(例えばH型鋼、鉄骨丸柱、鉄骨角柱等)は予め防錆塗料を塗布して防錆処理をしておいても良い。
【0017】
(2)発泡耐火シート
本発明で使用する熱可塑性樹脂を樹脂成分(バインダー)として含む発泡耐火シート(以下「シート」ともいう)は、火災等により周辺温度が所定の発泡温度に達すると発泡し、炭化断熱層を形成するものであれば特に制限されず、公知のものも使用できる。
【0018】
具体的には、適用する部位、材質等に応じて適宜選択できるが、例えば特開平5−220879号公報、特開平7−276552号公報等に開示されるような発泡耐火塗料を公知の方法により塗膜化してシート状としたもの、これら発泡耐火塗料を不織布、織布等の布状物に含浸させたもの、あるいはこれらを積層したもの、不燃性布状物(金属箔等を含む)上に積層したもの等が本発明シートとして使用できる。
【0019】
熱可塑性樹脂としては、少なくとも発泡耐火シート製造及び発泡耐火シートの加熱・押圧が当該発泡温度よりも低い温度で実施できる限りは特に制限されない。例えば、ビニルトルエン−ブタジエン共重合体、ビニルトルエン−アクリル酸エステル共重合体、ビニルトルエン−メタクリル酸エステル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、あるいはこれら共重合体を構成する2種のモノマーとアクリル酸モノマー、メタクリル酸モノマー等との三元共重合体等の樹脂が挙げられる。この場合において、アクリル酸エステル成分又はメタクリル酸エステル成分を含む共重合体中のアクリル酸モノマー又はメタクリル酸モノマーとしては、例えばメチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、アクリルアミド、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で又は2種以上で使用することができる。
【0020】
バインダー以外の成分として、公知の発泡耐火シート(発泡耐火塗料)で用いられる成分、例えば難燃剤、発泡剤、炭化剤、充填剤等が含まれていても良い。これら各成分は、火災発生時において、相互の複合作用によりシートの発泡、炭化層形成、不燃性ガス発生等の機能を発現するものである。
【0021】
難燃剤は、一般に火災時に脱水冷却効果、不燃性ガス発生効果、バインダー炭化促進効果等の少なくとも1つの効果を発揮し、バインダーの燃焼を防止ないし抑制する。難燃剤は、公知の発泡耐火シートにおける難燃剤と同様のものが使用でき、例えばトリクレジルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニルオクチルホスフェート、トリ(β−クロロエチル)ホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリ(ジブロモプロピル)ホスフェート、クロロホスホネート、ブロモホスホネート、ジエチル−N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノメチルホスフェート、ジ(ポリオキシエチレン)ヒドロキシメチルホスホネート等の有機リン系化合物;塩素化ポリフェニル、塩素化ポリエチレン、塩化ジフェニル、塩化トリフェニル、五塩化脂肪酸エステル、パークロロペンタンシクロデカン、塩素化ナフタレン、テトラクロロ無水フタル酸等の塩素系化合物;三酸化アンチモン、五塩化アンチモン等のアンチモン系化合物;三酸化リン、五塩化リン、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等のリン系化合物;ホウ酸亜鉛、ホウ酸ソーダ等のホウ素系化合物等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上で使用することができる。
【0022】
炭化剤は、一般に火災によるバインダーの炭化とともにそれ自体も脱水炭化していくことにより断熱性により優れた厚みのある炭化断熱層を形成させる効果を有する。炭化剤は、公知の発泡耐火シートにおける炭化剤と同様のものが使用でき、例えばペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の多価アルコール;その他にもデンプン、カゼイン等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上で使用することができる。
【0023】
充填剤は、一般に炭化断熱層の強度を改善し、かつ、耐火性を高める効果を発揮する。充填剤は、公知の発泡耐火シートにおける充填剤と同様のものが使用でき、例えばタルク等の珪酸塩;炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム等の炭酸塩;酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化亜鉛等の金属酸化物;粘土、クレー、シラス、マイカ等の天然鉱物類等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上で使用することができる。
【0024】
これらの成分以外にも、必要に応じて、補強用繊維、着色用顔料等を適宜配合できる。補強用繊維としては、ロックウール、ガラス繊維、シリカ−アルミナ繊維等の無機繊維、あるいはパルプ繊維、ポリプロピレン繊維、ビニル繊維等の有機繊維が挙げられる。これらは予めチップ状にして混合しても良いし、あるいは不織布又はネット状の形態で使用しても良い。着色用顔料としては、一般の塗料用顔料(有機顔料・無機顔料)が使用できる。本発明では、特にベンガラ、黄鉛、チタンイエロー、クロムグリーン、群青、コバルトブルー等の無機顔料が好ましい。さらに、耐火性能をより高めるために膨張性黒鉛、未膨張バーミキュライト等を配合しても良い。
【0025】
これらの各成分は、例えばバインダーが溶液状である場合はこのバインダー溶液に他の成分を配合して撹拌することによって発泡耐火シート形成用組成物を調製し、公知のシート形成方法と同様にしてシート化することができる。この場合、上記組成物の粘度が高い場合には、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤;ケトン類、グリコールエステル類、ミネラルスピリット等の脂肪族系溶剤等を希釈用溶剤として添加することもできる。
【0026】
本発明で用いる発泡耐火シートは、溶剤が残存していないものが好ましい。発泡耐火シートには、製造原料中に含まれている溶剤あるいは製造工程中に配合された溶剤が一部蒸発せずに残存する。本発明においては、耐火性、安全性、作業性等の面から溶剤残存量が少ないほど好ましい。
【0027】
従って、本発明では、溶剤含有量の少ない発泡耐火シート形成用組成物から製造された発泡耐火シートを用いることが好ましい。上記組成物中の全溶剤含有量は、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下とする。なお、下限は、均一な組成物が調製できる限りは特に制限されない。
【0028】
このような組成物は、例えば無溶剤型バインダーを用いて調製することができる。無溶剤型バインダーとしては、溶剤を含まない以外は公知のバインダー成分も使用することができる。例えば、ペレット状樹脂を無溶剤型バインダーとして使用し、この樹脂の軟化温度まで加熱装置によって加熱し、ニーダー等によって混練しながら、その他の成分を混合すれば発泡耐火シート形成用組成物を調製できる。バインダー以外の成分は、公知の発泡耐火シートの成分・組成割合をそのまま採用できる。なお、上記の全溶剤含有量の範囲内となる限りは、バインダー以外の成分に溶剤が含まれていても良い。
【0029】
発泡耐火シートの製造は、例えば前記組成物を型枠内に流し込み、乾燥後に脱型する方法、あるいはニーダーによって混練した前記組成物を押出し成型機によってシート状に加工する方法等によって実施することができる。
【0030】
発泡耐火シートの厚みは、適用部位等により適宜設定すれば良いが、通常は0.2〜5mm程度、好ましくは0.5〜2mmとする。0.2mm未満の場合には十分な耐火性能が得られないことがある。また、5mmを超える場合は、厚みに相当するだけの耐火性能の向上が十分得られない場合がある。但し、必要に応じて5mmを超える厚みとしても差し支えない。
【0031】
(4)発泡耐火シートによる被覆
本発明において、発泡耐火シートを基材に貼着する方法としては、このシートの性能を妨げない限りいずれの方法で実施しても良い。例えば、基材及び発泡耐火シートの少なくとも一方に公知の接着剤等による接着剤又は粘着剤を塗布して発泡耐火シートを基材に貼着することができる。また、接着剤等を用いずに熱融着により発泡耐火シートを基材に直接貼着したり、あるいは基材側又は発泡耐火シート側の一部に接着剤を付けて発泡耐火シートを基材に仮固定し、次いで熱融着して基材に貼着することもできる。但し、発泡耐火シートに接着剤等を付ける場合、加熱溶融の妨げとなることからシートの重ね合わせ部には接着剤層又は粘着剤層を設けないのが望ましい。
【0032】
本発明では、発泡耐火シートを基材に被覆するに際し、発泡耐火シートの末端部どうしを重ね合わせる。例えば、発泡耐火シートどうしの末端部を図3(a)〜(b)に示すように重ね合わせる。シートどうしの重ね代は、シートの厚さ等により適宜設定すれば良く、通常は2〜10mm程度とすれば良い。
【0033】
また、本発明では、発泡耐火シートを基材に被覆するに際し、発泡耐火シートの末端部どうしの突き合わせ部に発泡耐火シート細幅材を重ね合わせることにより施工することもできる。すなわち、末端部どうしを重ね合わせるのではなく、突き合わせとし、その突き合わせ部(シートどうしの境界部)に発泡耐火シート細幅材を重ね合わせる。この場合、発泡耐火シート細幅材における発泡耐火シートは、発泡耐火シートの一体化が実質的に行える限りは特に制限されず、公知の発泡耐火シートと同様の組成のものを用いることができる。特に、本発明では、突き合わせ部のシート組成と同じ組成の発泡耐火シートを用いるのが好ましい。発泡耐火シート細幅材のサイズは、上記突き合わせ部の大きさ等に応じて適宜設定すれば良いが、その幅は通常2〜10mm程度とすれば良い。
【0034】
発泡耐火シートの末端部どうしを重ね合わせ部又は発泡耐火シート細幅材による重ね合わせ部(以下「重ね合わせ部」と総称する)に離型シートを重ねる(例えば、図3(c))。この場合、重ね合わせ部のみならず、その周辺部分も含めて離型シートを重ねることができる。
【0035】
本発明では、離型シートを用いることにより、加熱装置の温度が直接に発泡耐火シートに伝導しなくなるため、発泡耐火シートが徐々に昇温し、重ね合わせ部全体が適度に軟化するので一体化しやすく、均しにおいても離型シート表面の滑りの良さにより平坦化がスムースに行える。これに対し、離型シートを用いずに加熱装置を発泡耐火シートに押圧すると、加熱装置の温度が発泡耐火シート内部全体に伝導する前に発泡耐火シート表面の温度が上がるために引き続く均しを行う際に発泡耐火シートどうしが一体化しにくくなり、表面上は融着していても内部で肌別れが生じ、経時的には表面まで肌別れが延伸してクラックが生じるおそれがある。また、シートどうしを一体化させるために発泡耐火シート内部まで加熱できるように長時間にわたり加熱装置を押圧したままにしていると、発泡耐火シートの表面部分の軟化が進みすぎてベタつき、均しを行う際に加熱装置に発泡耐火シートの表面の軟化物が付着して平滑化することが困難となる。
【0036】
離型シートとしては、かかる耐熱性・離型性がある限り特に制限されず、例えば紙シート、無機繊維シート、金属製シート、合成樹脂製シートあるいはこれらの複合材料からなるシート等の各種材質からなるシートを用いることができる。また、市販品も使用することができる。これらシートは、さらにポリテトラフルオロエチレン、シリコーン等で処理されているものも使用できる。より具体的には、ポリテトラフルオロエチレンで処理(例えば、テフロン加工(「テフロン」商標名、デュポン社)等)された耐熱ガラス繊維シート、シリコーンで表面被覆された紙シート等が挙げられる。本発明では、特にポリテトラフルオロエチレン製シート又はポリテトラフルオロエチレンで処理されたガラス繊維シートが好ましい。これらは市販品もそのまま使用できる。
【0037】
離型シートには、必要に応じてその表面上に微細な凹凸模様を予め形成しても良い。これにより、加熱・押圧の際にシート面に上記模様が転写され、発泡耐火シートに意匠性を付与することができる。
【0038】
離型シートの厚さは、重ね合わせ部を有効に一体化できる限りは離型シートの材質、発泡耐火シートの種類等によって適宜設定すれば良いが、通常は0.02〜0.3mm程度とすれば良い。
【0039】
本発明では、上記離型シートを可剥性離型シートとして予め発泡耐火シートに積層した積層体を用いることもできる。これにより、重ね合わせ部のみならずシート全体の均しを容易に行うことができる。
【0040】
可剥性離型シートの材質としては、前記の離型シートと同様のものが使用でき、これらを発泡耐火シートに可剥性を維持しながら貼着する。可剥性を維持しながら貼着する方法は、重ね合わせ部を熱融着により一体化した後に容易に剥離できるようにすれば良い。例えば、発泡耐火シートの製造工程において、シート成形後、シリコーン等で表面被覆された離型紙をロール等を用いてシートに圧着させて積層すれば良い。また、可剥性離型シートを積層する場合、予め発泡耐火シートの末端部(重ね代)が露出するように可剥性離型シートを加工してからシートに積層することもできる。
【0041】
上記積層体を重ね合わせる場合は、例えば重ね合わせ部における下側の積層体の可剥性離型シートを剥離して発泡耐火シートを露出させてから上側の積層体をその発泡耐火シートに重ね合わせれば良い。また、前記のように重ね代が露出するように可剥性離型シートが加工されていて発泡耐火シートが露出している場合は、そのまま重ね合わせることができる。さらに、例えば積層体の可剥性離型シートを剥離して発泡耐火シートの突き合わせ部を露出させ、その上から発泡耐火シート細幅材を重ね合わせば良い。
【0042】
離型シートの上部から加熱・押圧して重ね合わせ部を均す(図3(d))。加熱する温度は、発泡耐火シートの軟化温度以上とすれば良く、通常は200℃以下の範囲内で適宜設定すれば良い。また、発泡耐火シートの種類によっては200℃を超える温度で加熱しても良い。均しの圧力も、用いる発泡耐火シートの種類等に応じて、その重ね合わせ部が平坦になるように適宜調節すれば良い。この工程で用いる装置としては、加熱・押圧をできる限りは特に制限されないが、例えば加熱装置を備えたアイロン、ローラー、コテ等を用いれば加熱・押圧が同時にできるので好ましい。
【0043】
加熱・押圧した後、離型シートを取り外せば良い(図3(e))。また、積層体を用いる場合も同様に離型シート(可剥性離型シート)を取り外せば良い。この場合、発泡耐火シートの種類によっては、加熱直後は離型シートと離型しにくいこともあるので、そのような場合には適当に冷却してから離型シートを取り外せば良い。冷却方法は、強制冷却、自然放冷等のいずれの方法であっても良い。また、加熱・押圧した後において、余分なシートが発生した場合はカッター等で切断して取り除けば良い。
【0044】
(5)化粧層等の形成
本発明では、発泡耐火シートを基材に被覆した後、必要に応じて発泡耐火シート上に化粧層を形成させても良い。化粧層は、公知の施工方法で形成させれば良く、例えば発泡耐火シートに各種塗料を塗装したり、あるいは化粧フィルム、化粧シート等を積層しても良い。例えば、公知の石材調貼り仕上材等を用いて施工することもできる。
【0045】
また、本発明では、化粧層の形成に先立って必要に応じて化粧用下塗材(単に「下塗材」ともいう)を発泡耐火シートに塗布しても良い。下塗材の塗布によって、主として、発泡耐火シート積層後におけるシートと化粧層との密着性をより高めることができる。また、化粧目地を形成する際には、着色タイプの下塗材を使用して目地部分とすることも可能である。
【0046】
下塗材としては、発泡耐火シート及び化粧層との密着性が確保できる限り特に限定されず、公知のものも使用できる。例えば、シーラー、プライマー、下地調整材、サーフェーサー等のほか、通常のフラットタイプの塗料も適用できる。また、クリヤータイプ又は着色タイプのいずれであっても良い。また、発泡耐火シートの耐水性を損なわない限り、水系・溶剤系のいずれでも良く、塗装箇所等に応じて適宜選択できる。例えば、内装部分を施工する場合には、水系のものを使用するのが好ましい。化粧仕上げを行う際に目地を形成させる場合は、下塗材を目地色に着色しても良い。本発明では、特に目地部分に下塗材が露出することを考慮すると、耐候性に優れた粒子間架橋タイプのアクリル樹脂エマルション系塗料を用いることが好ましい。
【0047】
本発明における化粧用下塗材の塗装は、公知の塗装方法に従えば良く、例えば吹き付け塗装、ローラー塗装、刷毛塗り等により行うことができる。特に、内装部分に使用する場合は養生等の手間を考慮するとローラー塗装、刷毛塗り等によるのが適当である。
【0048】
また、本発明では、上記化粧層の保護を主目的としてさらにクリヤー塗料を塗布することもできる。特に耐候性が要求される構造物外部の部位に施工する際には化粧層にクリヤー塗料を塗布するのが好ましい。
【0049】
クリヤー塗料は、特に限定されず公知のものが使用できる。例えば、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系、アクリルシリコン系、フッ素系等の塗料が挙げられる。また、水系又は溶剤系のいずれであっても良いが、特に内装部分に塗装する際には水系の方が望ましい。また、クリヤー塗料は、非汚染タイプの方が好ましい。さらに、艶消しタイプでも艶有りタイプでもいずれであっても良い。本発明では、耐候性を考慮すると、アクリルシリコン系、フッ素系等が望ましい。クリヤー塗料による塗装は、公知の塗装によれば良く、例えば吹き付け塗装、ローラー塗装、刷毛塗り等の各種の塗装方法により実施することができる。
【0050】
【発明の効果】
本発明の発泡耐火シート被覆工法によれば、発泡耐火シートどうしの継ぎ目が実質的にない状態で当該シートを基材に被覆することができる。このため、経時的なシートの収縮による耐火性能の低下を防止することができ、ムラのない均一な耐火性能を得ることができる。特に、無溶剤型の発泡耐火シートを用いる場合には、肉痩せ又は目開きをより確実に防止することができる。しかも、シートどうしが一体化されているので外観上も優れており、また化粧層等の形成も容易に行うことができる。
【0051】
また、重ね合わせ部を加熱・押圧するという比較的容易な方法でシートどうしを一体化できるので、従来技術における工期の遅れ、コスト高等の問題を解消することができる。特に、従来の継ぎ目処理で要求されていた乾燥工程等を省略できる点でも非常に有利である。
【0052】
さらに、本発明の方法では、発泡耐火シートを容易かつ確実に一体化した状態で被覆できるので、複雑な形状をもつ基材にも適用でき、容易に均一な耐火性能を付与することができる。
【0053】
本発明は、耐火性を付与すべき基材に発泡耐火シートを形成させて耐火性と意匠性を付与するものであるが、既存の建築物・土木構造物の耐火性を付与すべき基材に適用できることはもちろん、建築・土木構造物を形成する資材工場にて予め本発明工法で資材を被覆しておく、いわゆる「プレコート」も可能である。
【0054】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明の特徴とするところをより一層明確にする。なお、実施例及び比較例では、発泡耐火シートは、いずれも表1に示す組成のものを採用した。
【0055】
【表1】
Figure 0003906454
【0056】
実施例1
火災時における木材の燃焼を抑える目的で耐火被覆を行った。まず200mm角の集成木材柱の全面に、クロロプレン樹脂系接着剤を塗布量約200g/m2にて刷毛で塗布した。その上から発泡耐火シート(幅210mm、長さ900mm、厚さ1mm)を木材の長手方向にその長辺が対応するように重ね代10mmで貼り付けた。このとき、発泡耐火シートの重ね合わせ部は、木材の角部ではなく、各面上に位置するように調整した。また、コーナー部は、発泡耐火シートを加熱軟化させながら折り曲げて被覆した。その後、発泡耐火シートの重ね合わせ部にテフロン加工した耐熱ガラス繊維シート(幅250mm、長さ1000mm)を離型シートとして載置した。次に、200℃に温度設定したアイロンにて加熱しながら上記重ね合わせ部を均し、放冷した後、離型シートを取り外した。上記重ね合わせ部は平坦で継ぎ目もなく、シートは一体化されていた。
【0057】
実施例2
発泡耐火シート(幅450mm、長さ450mm、厚さ1.5mm)の裏面に予めアクリル系粘着剤を約10cm間隔に点状に部分塗布した。一方、シートの表面には離型紙を予め積層した。錆止め塗装された400mm角の角鋼管柱に対し、上記発泡耐火シートを下地鉄骨表面に仮止め貼り付けた。シートどうしの突き合わせ部は離型紙を外して発泡耐火シートどうしを約5mm重ね合わせた。余分なシートは切断した。その後、発泡耐火シート離型紙上から220℃に温度設定したアイロンにて重ね合わせ部も含め、発泡耐火シート全体を加熱・押圧しながら均し、かつ、下地にシートを接着させた。放冷した後、離型シートを取り外した。上記重ね合わせ部は平坦で継ぎ目もなく、シートは一体化された状態で下地鉄骨面に接着していた。
【0058】
実施例3
発泡耐火シート(幅300mm、長さ900mm、厚さ1mm)を多数用意した。錆止め塗装された長さ400mm、幅200mmのH型鋼梁に対し、アクリル樹脂系接着剤約200g/m2を目安として刷毛で塗布して上記発泡耐火シートを下地鉄骨面に貼り付けた。発泡耐火シートの突き合わせ部は、H鋼の角部ではなく、各面上に位置するように調整した。また、コーナー部は、発泡耐火シートを加熱軟化させながら折り曲げて被覆した。その後、発泡耐火シートの突き合わせ部に10mm幅に切断した発泡耐火シート細幅材を重ね合わせ、その重ね合わせ部にテフロン加工した耐熱ガラス繊維シート(幅250mm、長さ1000mm)を離型シートとして載置した。次に、200℃に温度設定したローラー式ヒーターにて加熱しながら上記重ね合わせ部を均し、放冷した後、離型シートを取り外した。上記重ね合わせ部は平坦で継ぎ目もなく、またH型鋼の角部も美しく巻かれてシートは一体化された状態となっていた。その後、多彩模様塗料(「ハイブリトーン」エスケー化研(株)製)を2回に分けてパターンを確認しながら塗布量約0.4kg/m2で吹付け、24時間乾燥養生した後、さらにクリアー塗料(「ウレタントップ3分艷」エスケー化研(株)製)を2回に分けてパターンを確認しながら塗布量約0.25kg/m2で吹付け、24時間乾燥養生したところ、多彩色の優雅な色調の塗装仕上げ面が得られた。
【0059】
実施例4
ロール状に成形された発泡耐火シート(幅150mm、厚さ0.7mm)を用意した。錆止め塗装された外径200mmの丸鋼管を横にして回転できるように設置した。これに、アクリル樹脂系接着剤約200g/m2を目安としてローラーで全面に塗布して、その上から上記発泡耐火シートを、鋼管をゆっくりと回転させながら貼り付けた。この場合、シートどうしは約5mm重なり合うように連続的に巻き付けた。その後、発泡耐火シートの重ね合わせ部分にテフロン加工した耐熱ガラス繊維シート(幅250mm、長さ1000mm)を離型シートとして載置した。次に、200℃に温度設定したアイロンにて加熱しながら上記重ね合わせ部を均し、放冷した後、離型シートを取り外した。上記重ね合わせ部は平坦で継ぎ目もなく、一体化された発泡耐火シートにより全面被覆された丸鋼管が得られた。
【0060】
比較例1
離型シートを使用しない以外は、実施例1と同じ方法で耐火被覆を行ったところ、アイロンの表面に溶融した発泡耐火シートが付着してしまい、発泡耐火シートの重ね合わせ部に凹凸が生じた。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来技術における発泡耐火シート(薄手の場合)の重ね合わせ部の施工工程を示す図である。
【図2】従来技術における発泡耐火シート(厚手の場合)の重ね合わせ部の施工工程を示す図である。
【図3】本発明の被覆工法の一例を示す図である。

Claims (6)

  1. 耐火性を付与すべき基材に発泡耐火シートを被覆するに際し、
    (1)熱可塑性樹脂を樹脂成分として含む発泡耐火シートの末端部どうしを重ね合わせる工程又は末端部どうしの突き合わせ部に発泡耐火シート細幅材を重ね合わせる工程、
    (2)少なくとも当該重ね合わせ部に離型シートを重ねる工程、及び
    (3)当該離型シートの上から加熱・押圧して当該重ね合わせ部を均す工程
    を有する発泡耐火シート被覆工法。
  2. 耐火性を付与すべき基材に発泡耐火シートを被覆するに際し、
    (1)熱可塑性樹脂を樹脂成分として含む発泡耐火シート及び可剥性離型シートからなる積層体における発泡耐火シートの末端部どうしを重ね合わせる工程又は末端部どうしの突き合わせ部に発泡耐火シート細幅材を重ね合わせる工程、及び
    (2)当該離型シートの上から加熱・押圧して当該重ね合わせ部を均す工程
    を有する発泡耐火シート被覆工法。
  3. 発泡耐火シートとして、全溶剤含有量が10重量%以下の発泡耐火シート形成用組成物から製造された発泡耐火シートを用いる請求項1又は2に記載の発泡耐火シート被覆工法。
  4. 離型シートが、ポリテトラフルオロエチレン製シート又はポリテトラフルオロエチレンで処理されたガラス繊維シートである請求項1〜3のいずれかに記載の発泡耐火シート被覆工法。
  5. 発泡耐火シートの上からさらに化粧層を設ける請求項1〜4のいずれかに記載の発泡耐火シート被覆工法。
  6. 化粧層の上からさらにクリアー塗料で施工する請求項5記載の発泡耐火シート被覆工法。
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