JP3903579B2 - 車両用液圧ブレーキ装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、シリンダボデーのシリンダ孔内にマスターシリンダピストンを液密的摺動自在に収容し、該マスターシリンダピストンの前方に圧力室を形成すると共に後方にパワー室を形成し、ブレーキ操作部材の操作に応じてマスターシリンダピストンを前進駆動し圧力室から第1液圧系統ホイールシリンダに対しマスターシリンダ液圧を出力するマスターシリンダと、ブレーキ液を所定の圧力に昇圧してパワー液圧を出力する補助液圧源と、該補助液圧源が出力するパワー液圧をマスターシリンダ液圧に応じたレギュレータ液圧に調圧してパワー室及び第2液圧系統ホイールシリンダに対し出力する液圧レギュレータとを備えた車両用液圧ブレーキ装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来のこの種の車両用液圧ブレーキ装置としては、例えば特開平9−315288号公報に記載されたものがある。この液圧ブレーキ装置においては、マスターシリンダピストンが、ブレーキ操作部材に連結する第1のピストンと、該第1のピストンに対し相対的に摺動可能な第2のピストンとを備えると共に、該第2のピストンの前進時に第1のピストンに係合する係合部材を備え、第1及び第2のピストンの各々の後端部をパワー室に露呈し、各々の前端部を圧力室に露呈するように配置されている。これにより、補助液圧源が出力するパワー液圧が十分のときにはブレーキ操作部材の操作に応じて液圧レギュレータが出力するレギュレータ液圧によりマスターシリンダを倍力駆動し、補助液圧源のパワー液圧が不十分のときにはブレーキ操作部材の操作に応じてマスターシリンダを直接駆動することができ、十分なパワー液圧を得られないときにも、マスターシリンダによって適切な制動作動を行うことができる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の従来装置では、何らかの不具合でマスターシリンダの圧力室にマスターシリンダ液圧を発生できなくなった場合、ブレーキ操作力の大きさに対するレギュレータ液圧の大きさはマスターシリンダ液圧の如何に拘わらず変わらないため、結果的に制動力が大きく低下することになる。
【0004】
この出願の発明は、何らかの不具合でマスターシリンダ液圧を発生できなくなった場合にはレギュレータ液圧が通常時よりも大きくなるように構成することにより、制動力の低下を抑制することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
この出願の請求項1の発明は、シリンダボデーに形成されたシリンダ孔内にマスターシリンダピストンを液密的摺動自在に収容し、該マスターシリンダピストンの前方に圧力室を形成すると共に後方にパワー室を形成し、ブレーキ操作部材の操作に応じて前記マスターシリンダピストンを前進駆動し前記圧力室から第1液圧系統ホイールシリンダに対しマスターシリンダ液圧を出力するマスターシリンダと、ブレーキ液を所定の圧力に昇圧してパワー液圧を出力する補助液圧源と、前記シリンダ孔内で前記マスターシリンダピストンの前方に収容され、前記補助液圧源が出力するパワー液圧を前記ブレーキ操作部材に加えられる操作力に応じたレギュレータ液圧に調圧して前記パワー室及び第2液圧系統ホイールシリンダに対し出力する液圧レギュレータとを備えた車両用液圧ブレーキ装置において、前記液圧レギュレータが、前記シリンダ孔内で前記マスターシリンダピストンの前方に収容され、前記補助液圧源と前記パワー室との連通を開閉する常閉の増圧バルブ及び前記パワー室とブレーキ液リザーバとの連通を開閉する常開の減圧バルブを構成するスプールバルブ機構と、前記シリンダ孔内で前記スプールバルブ機構の後方且つ前記マスターシリンダピストンの前方に液密的摺動自在に収容され、前記マスターシリンダピストンからスプリングを介して伝達される力及び前記圧力室の前記マスターシリンダ液圧によって前記スプールバルブ機構のスプールをその初期位置から前進駆動すると共に前記スプールバルブ機構との間に形成した第1のレギュレータ室の前記レギュレータ液圧によって前記スプールを前記初期位置に後退駆動する制御ピストンと、前記シリンダ孔内で前記スプールバルブ機構の前方に液密的摺動自在に収容されてその前方の第2のレギュレータ室のマスターシリンダ液圧によって前記スプールを前記初期位置に後退駆動する伝達部材とを備えることを特徴とする車両用液圧ブレーキ装置である。
【0006】
この出願の請求項2の発明は、前記ブレーキ操作部材に加えられる前記操作力が所定値未満の場合に前記マスターシリンダ液圧が前記第2の反力発生手段に加わることを規制する規制手段が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の車両用液圧ブレーキ装置である。
【0007】
この出願の請求項3の発明は、前記規制手段が、外周部で固定され、内周部が前記マスターシリンダ液圧を受けて前記第2の反力発生手段に向けて変形される弾性部材によって構成されている弾性部材で形成されていることを特徴とする請求項2に記載の車両用液圧ブレーキ装置である。
【0008】
この出願の請求項4の発明は、前記規制手段が、前記マスターシリンダ液圧を一定圧だけ減圧して前記第2の反力発生手段に対して供給する差圧弁と、この差圧弁を介して前記第2の反力手段に対して供給した前記マスターシリンダ液圧を排出するため前記差圧弁と並列に設置された逆止弁とによって構成されていることを特徴とする請求項2に記載の車両用液圧ブレーキ装置である。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、この出願の発明の実施形態を図面を参照して説明する。図2にこの出願の発明の一実施形態に係る液圧ブレーキ装置を示し、図1に図2中の液圧レギュレータを拡大して示す。図2を参照して液圧ブレーキ装置の全体構成を説明すると、液圧シリンダボデー1h内の車両前方側(図2の左側)に液圧レギュレータが構成され、後方側にマスターシリンダが構成されており、ブレーキ操作部材たるブレーキペダル2が設けられている。このブレーキペダル2に加えられた踏力がプッシュロッド3及び入力部材4を介してブレーキ作動力として伝えられ、これに応じてマスターシリンダ及び液圧レギュレータの出力液圧が車両前方右側及び左側の車輪FR、FL、並びに後方右側及び左側の車輪RR、RLのホイールシリンダWfr、Wfl、Wrr、Wrlに出力される(図2では車両右側の前方及び後方の車輪FR、RR、並びに各車輪に装着されたホイールシリンダWfr、Wrrのみを示す)。尚、ホイールシリンダWfr、Wrlは第1液圧系統に属し、ホイールシリンダWfl、Wrrは第2液圧系統に属する。
【0010】
シリンダボデー1hには、内径が異なる孔1a、1b、1c等から成る段付シリンダ孔が形成されており、この中にマスターシリンダピストン10及びバルブ作動力発生部材と第1の反力発生部材を兼ねる制御ピストン21が収容され、マスターシリンダピストン10と制御ピストン21との間に圧力室R2が郭成されている。尚、孔1aはこれより大きい内径を有するパワー室R1に連通している。最も径が小さい孔1bには制御ピストン21が液密的摺動自在に嵌合されている。マスターシリンダピストン10は2つのピストン11及びピストン12から成り、孔1bと、これより大径の孔1aの両者に、夫々ピストン11の両端部が収容され支持されている。即ち、ピストン11の外面には、前方端部に小径のランド部11aが形成されると共に、軸方向に所定距離隔てて後方側に大径のランド部11bが形成されており、前者に環状カップ形状のシール部材14が配設されて孔1bに液密的摺動自在に嵌合され、後者は孔1aに摺動自在に嵌合されピストン12に当接するように配置されている。
【0011】
ピストン11のランド部11a側には円筒状の支持部11sが延出形成され、軸方向に凹部11eが形成されている。また、ピストン11の径方向に貫通孔11cが形成されると共に、これに連通する軸方向の連通孔11dが形成され、凹部11eに開口している。支持部11sにはリテーナ16が装着され、これに弁体25が係止されて弁体25の制御ピストン21方向への移動が規制されている。ピストン11の凹部11eの後端部内には連通孔11dに連通する中心孔を有する金属製のインサート部材の外表面をゴム等の弾性部材で被覆して成る弁座部材が固定され、ピストン11、12が図2に示す初期位置から前進したときには弁体25の後端面が弁座部材に当接して弁座部材の中心孔を密閉し得るように構成されている。弁体25の他端側にはロッド25bが一体的に形成され、その前端に係止部25cが形成されている。また、ピストン11のランド部11aの周縁部軸方向には連通孔11fが形成されている。この連通孔11fの前方の圧力室R2側の開口端に環状のシール部材14が装着されており、これらによって逆止弁が構成されている。従って、給液室R5は連通孔11c及び連通孔11d、並びに連通孔11fを介して圧力室R2に連通し得る。尚、給液室R5は液圧路1eを介してブレーキ液リザーバ6に連通している。
【0012】
更に、ピストン11の後方側にはピストン12が収容されている。ピストン12は、その前方外面にランド部12aが形成され、これに環状のシール部材12bが装着されて孔1aに液密的摺動自在に嵌合されており、シール部材12bによってパワー室R1と給液室R5が分離されている。また、ピストン12の後方には凹部12cが形成されており、この凹部12cに入力部材4が収容され、前方で当接部材5と螺合されている。ピストン12は、その前方端面がピストン11の後方端面に対向し、入力部材4及び当接部材5を介してブレーキペダル2からの押圧力がピストン11に伝達されるように構成されている。ピストン12の本体部は円筒状のスリーブ17によって支持されている。このスリーブ17の内面及び外面には環状の溝が形成されている。これらの溝には夫々シール部材17a、17b及びシール部材18が収容されており、パワー室R1からシリンダボデー外部へのブレーキ液漏れが防止されている。尚、ピストン11とピストン12は一体で形成することとしてもよい。
【0013】
次に、シリンダボデー1hの前方部分には、液圧レギュレータが形成されており、これに補助液圧源40が接続され、その出力パワー液圧が適宜制御されて出力される。補助液圧源40は電気モータ42によって駆動される液圧ポンプ43を備え、入力側がリザーバ6に接続され出力側がアキュムレータ44に接続され、このアキュムレータ44から液圧路1pを介して連通孔31dにパワー液圧が供給されるように構成されている。孔1c内に収容される制御ピストン21には、軸方向に所定距離隔てて一対のランド部21a、21bが形成されているが、前方のランド部21aのみ環状のシール部材24が装着され、後方のランド部21bの前側と後側は連通している。従って、シール部材24によって、圧力室R2と後述のレギュレータ室R3が分離されており、シール部材24と、ピストン11のランド部11aに装着されたシール部材14との間に圧力室R2が郭成されている。
【0014】
図2から明らかなように、制御ピストン21には、径方向に貫通すると共に、軸方向に延び後端で開口する貫通孔21cが形成されている。前方のランド部21aの後端に位置し径方向に延在するように係止ピン28がシリンダボデー1hに固定されており、これによって制御ピストン21の前進は許容されるが、後退(マスターシリンダピストン10方向への移動)は規制される。制御ピストン21の貫通孔21cは軸方向にも延び、これを取巻くように円筒状の支持部21sが一体的に延出形成されており、この中に弁体25の係止部25cが収容されている。支持部21sにはリテーナ26が装着され、このリテーナ26に係止部25cが係止され、弁体25のマスターシリンダピストン10方向への移動が規制されている。そして、リテーナ26とピストン11に装着されたリテーナ16との間にスプリング19が張架され、ブレーキペダル2の非操作時にはスプリング19によりマスターシリンダピストン11、12と制御ピストン21とが、マスターシリンダピストン11、12に対する弁体25の前方への移動がリテーナ16と弁体25との当接によって規制され且つ係止部25cに対する制御ピストン21の前方への移動がリテーナ26と係止部25cとの当接によって規制されるまで軸方向に離間され、弁体25が弁座部材から離間し連通路11dと圧力室R2とが連通する。また、制御ピストン21の前端部には凹部が形成されており、この凹部に後述するスプール32の後端部が保持されている。
【0015】
孔1bに連通する段付の孔1c内には、円筒状のスリーブ31及び調整部材36が嵌着されており、スリーブ31と制御ピストン21との間にレギュレータ室R3が形成されている。スリーブ31及び調整部材36の外周には複数の環状溝が形成されており、夫々に環状のシール部材が嵌合されている。これらの隣接するシール部材間にはスリーブ31の径方向に連通孔31d、31fが形成され、スリーブ形状の調整部材36の径方向に連通孔36bが形成されている。スリーブ31の中空部内にはスプール32が摺動自在に収容されており、スプール32の前進移動により連通孔31fの開口部が遮蔽されるように配置されている。
【0016】
スリーブ31の軸方向には、一端が連通孔31fに連通し、他端がレギュレータ室R3に連通する連通孔31eが形成されており、連通孔31fが開口しているときにはレギュレータ室R3が連通孔31e、31fを介して液圧路1sに連通し得るように構成されている。連通孔31dは、液圧路1pを介して補助液圧源40に連通接続されているが、図2の位置ではスプール32の外周面によって遮蔽されている。更に、連通孔31dの後方のスリーブ31の内周面に環状の溝31cが形成されている。尚、連通孔36bは夫々液圧路1qに連通接続されている。
【0017】
スプール32の前端にはプランジャ35が軸方向に突出するように嵌着されており、スプール32の後端はレギュレータ室R3内に位置し、制御ピストン21に係止されている。即ち、制御ピストン21の前方の凹部内にリテーナ33が支承され、これとスリーブ31との間にはスプリング19の力よりは弱いがマスターシリンダピストン11、12、制御ピストン21及びスプール32をそれらの摺動抵抗に打ち勝って後退させ得る力を有したスプリング34が張架され、スプール32の初期位置(後退位置)においては、連通孔31fの開口部はスプール32によって遮蔽されておらず、レギュレータ室R3はスリーブ31の連通孔31e、31f、そして液圧路1sを介してリザーバ6に連通し、大気圧のブレーキ液が充満されている。また、スプール32の外周面には、その後退位置でスリーブ31の後端を中心とする軸方向の所定範囲に亘って環状の溝32が形成されると共に、その前方に所定距離隔ててスリーブ31の溝31cと対向する位置に環状の溝32cが形成されている。
【0018】
而して、レギュレータ室R3内は図2の位置では、スリーブ31の連通孔31e、31f、そして液圧路1sを介してリザーバ6に連通しており、大気圧となっているが、スプリング19の力及び圧力室R2のマスターシリンダ液圧による制御ピストン21の前進移動に伴ってスプール32が前方に移動すると、スリーブ31の連通孔31fが遮断され、代わって連通孔31dがスプール32の溝32cと対向すると共に、溝31cと溝32bが対向し、従って補助液圧源40と連通する。これにより、補助液圧源40のパワー液圧がレギュレータ室R3内に供給されてレギュレータ室R3内が昇圧する。これから明らかなように、スリーブ31とスプール32は、補助液圧源40と圧力室R2との連通を開閉する常閉の増圧バルブを構成すると共に、パワー室R1とリザーバ6との連通を開閉する常開の減圧バルブを構成する。
【0019】
一方、調整部材36の中空部は段付孔形状に形成され、その小径部分に第2の反力発生部材たる伝達部材37が軸方向に摺動自在に収容され、その後端面がプランジャ35の前端面と対向するように配置されている。更に、調整部材36の大径部分に規制部材たるゴム製の弾性部材38が嵌着されており、これに伝達部材37の前端部が当接するように配置されている。尚、本実施形態では、伝達部材37の前端部に円錐台形状の当接部材(符合省略)が設けられているが、伝達部材37の前端部を円錐台形状に形成することとしてもよい。そして、調整部材36の中空部の前端にはプラグ39が嵌着され、このプラグ39と弾性部材38との間にレギュレータ室R4が形成されている。
【0020】
レギュレータ室R4は連通孔36b及び液圧路1q、1nを介して圧力室R2に連通接続されている。また、圧力室R2は液圧路1nを介してホイールシリンダWfrに連通接続され、パワー室R1は液圧路1kを介してホイールシリンダWrrに連通接続されている。
【0021】
図1は、上記の液圧レギュレータを拡大して示すもので、スプール32は直径Dsの本体部と直径Dcの大径部32eを有する段付部材であって(Dc>Ds)、その大径部32e側が制御ピストン21に当接するように配置されており、前述のようにリテーナ33を介してスプリング34によって制御ピストン21に当接するように付勢されている。そして、レギュレータ室R3が昇圧されると、その液圧によって大径部32eが制御ピストン21に押圧されるように構成されている。一方、スリーブ31は、連通孔31dを中心に前方側に直径Daの大径部が形成され、後方側に直径Dbの小径部が形成された段付円筒体である(Da>Db)。従って、連通孔31dを介して補助液圧源40(図2)から大径部と小径部の間の外周面とシリンダ孔内面との間にパワー液圧が導入されると、大径部側の端面が調整部材36に当接するように付勢されるように構成されている。
【0022】
前述のように、調整部材36は円筒体で、この円筒体の中空部に伝達部材37が摺動自在に収容されており、この伝達部材37の前端面に当接するように弾性部材38が保持されており、伝達部材37の後端面がスプール32の前部に装着されたプランジャ35と対向するように配置されている。而して、圧力室R2のマスターシリンダ液圧がレギュレータ室R4内に導入されて弾性部材38に付与されると、ブレーキペダル2に加えられる操作力が所定値未満の場合にはマスターシリンダ液圧によって弾性部材38の中央部が後方へ変位することはなくマスターシリンダ液圧が伝達部材37に加わることはないが、ブレーキペダル2に加えられる操作力が所定値以上であれば弾性部材38の中央部が後方に変位してマスターシリンダ液圧が伝達部材37に加わるようになって伝達部材37がスプール32を後方に押動し、レギュレータ室R3内のレギュレータ液圧が減圧されるように構成されている。
【0023】
ところで、スプール32の初期位置からスリーブ32の溝32cが連通孔31dに連通する迄のストローク量Stは、ブレーキ操作の初期遊び量を決定すると共に、連通孔31dから導入されるパワー液圧を封止する範囲を決定するものであるため、所定の設定値に正確に調整する必要がある。本実施形態においては、スプール32は制御ピストン21に保持され、調整部材36が、スプール32の前端面に対向すると共にスリーブ31の前端面に当接するように配置され、スプール32に対して相対的に移動するように構成されている。即ち、調整部材36がシリンダボデー1hに螺合されて制御ピストン21方向に押動されると、スリーブ31が後方に摺動し、スプール32の前部に装着されたプランジャ35に対して調整部材36の凹部36bの底面から所定距離(L)隔てた位置に到達したところで固定される。而して、調整部材36をシリンダボデー1hに螺合することによって、スリーブ31は回動することなく摺動のみによって後方へ移動し、スプール32に対して正確に所定の初期相対位置に調整される。従って、スリーブ31のシール部材は安定した状態で保持される。
【0024】
しかも、スリーブ31は前述のように段付円筒体であるので、連通孔31dを介して補助液圧源40(図2)からスリーブ31の大径部と小径部の間の外周面とシリンダ孔内面との間にパワー液圧が導入されると、スリーブ31の大径部側の端面(前端面)が調整部材36に当接する方向に付勢される。而して、調整部材36による調整後も、スリーブ31は調整部材36に押圧された状態で保持され、スプール32とスリーブ31との初期相対位置が外力等によって変化することがなく確実に維持される。
【0025】
次に、上記の構成になる液圧ブレーキ装置の全体作動を説明する。図1及び図2はブレーキペダル2の非操作時の状態を示すもので、この状態から、ブレーキペダル2が操作され、プッシュロッド3、伝達部材4及び当接部材5を介してピストン11、12が前方(図2の左方)に押圧されると、ピストン11内の弁座部材に弁体25が当接して連通孔11dが閉塞され、圧力室R2と給液室R5との連通が遮断され密閉状態となる。このように、圧力室R2と給液室R5との連通が遮断された状態で、ピストン11、12がブレーキペダル2の操作力によって駆動されると、ピストン11、12と制御ピストン21の軸方向間隔はスプリング19により図2の間隔に保持されているので、これらは一体となって前進する。
【0026】
従って、制御ピストン21に支持されたスプール32によって連通孔31fが閉塞され、リザーバ6との連通が遮断される。同時に、補助液圧源40からのパワー液圧が液圧路1pから、連通孔31d、環状の溝31c、32c、そして溝32bを介してレギュレータ室R3に流入し、レギュレータ液圧として液圧路1rを介してパワー室R1に供給される。これによって、ピストン11、12が助勢されて前進し、圧力室R2内が更に圧縮され、マスターシリンダ液圧が液圧路1nを介してホイールシリンダWfrに出力されると共に、レギュレータ液圧がパワー室R1から液圧路1kを介してホイールシリンダWrrに出力される。また、マスターシリンダ液圧は液圧路1n、1qを介してレギュレータ室R4にも供給される。
【0027】
ブレーキペダル2に加えられる操作力が所定値に増大するまでの間、レギュレータ室R3内のレギュレータ液圧によって制御ピストン21に付与される後方向の力が、圧力室R2内のマスターシリンダ液圧によって制御ピストン21に付与される前方向の力より大であれば、制御ピストン21が後方に移動し、連通孔31fが開口しリザーバ6と連通するのでレギュレータ室R3内が減圧される。制御ピストン21に付与される後方向の力と前方向の力の大小関係が上記と逆になると、制御ピストン21が前方に移動し、連通孔31fが遮断され、代わってレギュレータ室R3が連通孔31d等を介して補助液圧源40と連通するので、レギュレータ室R3内が増圧される。このような制御ピストン21の移動に伴うスプール32の移動の繰り返しによって、制御ピストン21に付与されるレギュレータ液圧による力と、マスターシリンダ液圧による力とが等しくなるように制御される。従って、ブレーキペダル2に加えられる操作力に略比例したレギュレータ液圧が出力され、第1のブレーキ液圧特性が得られる。
【0028】
更にブレーキペダル2に加えられる操作力が増大されて所定値以上にになると、レギュレータ室R4に供給されるマスターシリンダ液圧によって弾性部材38の中央部が後方に変位し、伝達部材37がプランジャ35に当接してスプール32が後方に押圧され、連通孔31fの開口面積が増大する。これにより、レギュレータ室R3内のレギュレータ液圧が減圧され、ブレーキペダル2に加えられる操作力に略比例するがブレーキ液圧特性の増圧勾配より緩やかな増圧勾配特性を有する第2のブレーキ液圧特性が得られる。
【0029】
ブレーキペダル2の操作力を増大させ再び減少させた場合の操作力とレギュレータ液圧との関係を図3に実線で示す。
【0030】
上記第2のブレーキ液圧特性は、図1に示す伝達部材37の直径Deのほか、前端部の形状等によって異なる特性となるので、車種毎に異なる伝達部材が用いられるのが一般的である。本実施形態によれば、直径De等が異なる種々の伝達部材が用意され、これに応じて段付孔の小径部が異なる種々の調整部材36が用意される。而して、スリーブ31を変更することなく、調整部材36及び伝達部材37を変更するのみで、種々の液圧特性を得ることができる。換言すれば、スリーブ31を汎用部品とし、調整部材36及び伝達部材37(更に、必要に応じ弾性部材38)を車種毎に異なる専用部品とすることができる。
【0031】
次に、何らかの不具合によりブレーキペダル2を操作してもマスターシリンダ液圧が発生しない場合、ホイールシリンダWfrにブレーキ液圧が供給されないので、レギュレータ液圧が図3に実線で示すブレーキ液圧特性のままであると制動力が大きく低下することになるが、本実施形態においてはマスターシリンダ液圧をレギュレータ室R4に供給することとしたので、マスターシリンダ液圧が発生しないときには伝達部材37がスプール32を後方へ押圧することがなくなり、ブレーキペダルの操作力に対するレギュレータ液圧の関係はブレーキ液圧特性は図3に破線で示すように第1のブレーキ液圧特性のみとなる。従って、小さな操作力で大きいレギュレータ液圧がホイールシリンダWrrに供給されるので、ブレーキ操作力に対する制動力の低下が抑制される。
【0032】
図4は、この出願の発明の他実施形態に係る車両用液圧ブレーキ装置の液圧レギュレータを示す。この実施形態では、レギュレータ室R4の液圧が直接的に伝達部材37に作用するように構成されている。そして、圧力室R2からマスターシリンダ液圧をレギュレータ室R4に供給する液圧路1qには、規制手段を形成するバルブ機構45が介装されている。このバルブ機構45は、図5に示すように、圧力室R2からマスターシリンダ液圧を一定量だけ減圧してレギュレータ室R4に供給する差圧弁45aと、この差圧弁45aを介してレギュレータ室R4に供給したマシターシリンダ液圧を圧力室R2側へ排出するため差圧弁45aと並列に設置された逆止弁45bとからなる。差圧弁45aの減圧量は、図1において弾性部材38の中央部が伝達部材37側へ変位される時のレギュレータ室R4のマスターシリンダ液圧に相当する。而して、この実施形態によっても図1及び図2の一実施形態と同様の作用、効果を得ることができる。
【0034】
以上に説明したように、この出願の発明に係る車両用液圧ブレーキ装置は、前記液圧レギュレータが、シリンダボデーのシリンダ孔内でマスターシリンダピストンの前方に収容され、補助液圧源とパワー室との連通を開閉する常閉の増圧バルブ及びパワー室とブレーキ液リザーバとの連通を開閉する常開の減圧バルブを構成するスプールバルブ機構と、シリンダ孔内でスプールバルブ機構の後方且つマスターシリンダピストンの前方に液密的摺動自在に収容され、マスターシリンダピストンからスプリングを介して伝達される力及び圧力室のマスターシリンダ液圧によってスプールバルブ機構のスプールをその初期位置から前進駆動すると共にスプールバルブ機構との間に形成した第1のレギュレータ室のレギュレータ液圧によってスプールを初期位置に後退駆動する制御ピストンと、シリンダ孔内でスプールバルブ機構の前方に液密的摺動自在に収容されてその前方の第2のレギュレータ室のマスターシリンダ液圧によってスプールを初期位置に後退駆動する伝達部材とを備えることとしたので、何らかの不具合でマスターシリンダ液圧を発生できなくなった場合にはレギュレータ液圧が通常時よりも大きくなり、制動力の低下が抑制されるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】この出願の発明の一実施形態に係る車両用液圧ブレーキ装置の一部の断面拡大図である。
【図2】この出願の発明に係る車両用液圧ブレーキ装置の全体構成を示す断面図である。
【図3】ブレーキ液圧特性を示す図である。
【図4】この出願の発明の他実施形態に係る車両用液圧ブレーキ装置の一部の断面拡大図である。
【図5】 図4中のバルブ機構45の構成を示す図である。
【符号の説明】
1h・・・シリンダボデー
1e、1p、1q、1s、1k、1n・・・液圧路
2・・・ブレーキペダル
6・・・ブレーキリザーバ
10・・・マスターシリンダピストン
11、12・・・ピストン
19・・・スプリング
21・・・制御ピストン
31・・・スリーブ
32・・・スプール
37・・・伝達部材
38・・・弾性部材
40・・・補助液圧源
45・・・バルブ機構
45a・・・差圧弁
45b・・・逆止弁
R1・・・パワー室
R2・・・圧力室
R3、R4・・・レギュレータ室

Claims (4)

  1. シリンダボデーに形成されたシリンダ孔内にマスターシリンダピストンを液密的摺動自在に収容し、該マスターシリンダピストンの前方に圧力室を形成すると共に後方にパワー室を形成し、ブレーキ操作部材の操作に応じて前記マスターシリンダピストンを前進駆動し前記圧力室から第1液圧系統ホイールシリンダに対しマスターシリンダ液圧を出力するマスターシリンダと、ブレーキ液を所定の圧力に昇圧してパワー液圧を出力する補助液圧源と、前記シリンダ孔内で前記マスターシリンダピストンの前方に収容され、前記補助液圧源が出力するパワー液圧を前記ブレーキ操作部材に加えられる操作力に応じたレギュレータ液圧に調圧して前記パワー室及び第2液圧系統ホイールシリンダに対し出力する液圧レギュレータとを備えた車両用液圧ブレーキ装置において、前記液圧レギュレータが、前記シリンダ孔内で前記マスターシリンダピストンの前方に収容され、前記補助液圧源と前記パワー室との連通を開閉する常閉の増圧バルブ及び前記パワー室とブレーキ液リザーバとの連通を開閉する常開の減圧バルブを構成するスプールバルブ機構と、前記シリンダ孔内で前記スプールバルブ機構の後方且つ前記マスターシリンダピストンの前方に液密的摺動自在に収容され、前記マスターシリンダピストンからスプリングを介して伝達される力及び前記圧力室の前記マスターシリンダ液圧によって前記スプールバルブ機構のスプールをその初期位置から前進駆動すると共に前記スプールバルブ機構との間に形成した第1のレギュレータ室の前記レギュレータ液圧によって前記スプールを前記初期位置に後退駆動する制御ピストンと、前記シリンダ孔内で前記スプールバルブ機構の前方に液密的摺動自在に収容されてその前方の第2のレギュレータ室のマスターシリンダ液圧によって前記スプールを前記初期位置に後退駆動する伝達部材とを備えることを特徴とする車両用液圧ブレーキ装置。
  2. 前記ブレーキ操作部材に加えられる前記操作力が所定値未満の場合に前記マスターシリンダ液圧が前記第2の反力発生手段に加わることを規制する規制手段が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の車両用液圧ブレーキ装置。
  3. 前記規制手段が、外周部で固定され、内周部が前記マスターシリンダ液圧を受けて前記第2の反力発生手段に向けて変形される弾性部材によって構成されていることを特徴とする請求項2に記載の車両用液圧ブレーキ装置。
  4. 前記規制手段が、前記マスターシリンダ液圧を一定圧だけ減圧して前記第2の反力発生手段に対して供給する差圧弁と、この差圧弁を介して前記第2の反力手段に対して供給した前記マスターシリンダ液圧を排出するため前記差圧弁と並列に設置された逆止弁とによって構成されていることを特徴とする請求項2に記載の車両用液圧ブレーキ装置。
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