JP3902699B2 - コーティング組成物及びシリカ系セラミックス膜の製造方法 - Google Patents

コーティング組成物及びシリカ系セラミックス膜の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリシラザン由来のSiO2 系セラミックスを低温で形成する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
プラスチックフィルムをはじめとする耐熱性の低い材料にガスバリヤ性、耐擦傷性、耐熱性、耐蝕性、平坦化性、イオンバリア性、等を付与すべく、ポリシラザンを塗布して実質的にSiO2 から成るセラミックス膜を低温で且つ迅速に形成することができる技術が開発されている。
例えば、本出願人による特開平8−112879号公報に、プラスチックフィルムの少なくとも片面上にポリシラザンの膜を形成して該膜をセラミックス化する工程を含むことを特徴とするSiO2 被覆プラスチックフィルムの製造方法が記載されている。ここで用いられているポリシラザンは低温セラミックス化ポリシラザンと呼ばれ、様々なポリシラザン変性物が開示されている。中でも、特に好適な低温セラミックス化ポリシラザンとして特開平6−299118号公報に記載されている金属カルボン酸塩付加ポリシラザンが挙げられ、さらには該金属がパラジウム(Pd)であるポリシラザン変性物がより好ましいことが記載されている。
【0003】
また、本出願人による特願平7−341601号明細書に、特定のポリシラザン又はその変性物を塗布する前又は塗布した後にこれにアミン化合物及び/又は酸化合物を接触させることを特徴とするプラスチックフィルムにSiO2 系セラミックスを被覆する方法が記載されている。さらに、このアミン化合物及び/又は酸化合物を接触させる方法として、塗布前にポリシラザン又はその変性物にアミン化合物及び/又は酸化合物を添加する第一の態様と、塗布後にポリシラザン塗膜をアミン化合物及び/又は酸化合物の蒸気に暴露する第二の態様と、そして塗布後にポリシラザン塗膜をアミン化合物及び/又は酸化合物を含む水溶液に浸漬する第三の態様とが記載されている。
【0004】
特開平5−105486号公報に、ポリシラザンの塗膜に紫外線照射を施すことにより、シリカ被膜の形成時における加熱温度を低下し、また加熱時間を短縮できることが記載されている。しかしながら、セラミックス化の温度を低下させるために触媒を使用すること、プラスチックフィルムに適用した場合にガスバリア性が良好なフィルムが得られることは記載されていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本出願人は、上記のような低温で且つ迅速にSiO2 系セラミックス膜を形成する方法の効率を高め、さらに最終的に得られるセラミックス膜のガスバリア性、光透過率、硬度、密着性、等の膜特性を向上させるべく、ポリシラザンのシリカへの転化を促進する触媒を添加したコーティング組成物から塗膜を形成し、その塗膜に紫外線を照射することを特徴とするシリカ膜の形成方法を開発している(特願平9−80587号、平成9年3月31日出願、発明の名称「SiO2系セラミックス膜の形成方法」)。
【0006】
上記特願平9−80587号明細書に記載の触媒添加組成物によると、上記膜特性に優れたセラミックス膜を常温で得ることができるが、一方で、このような反応性の高さが組成物の保存安定性を低下させ、保存時に冷蔵を要する場合があるなどの新たな問題が生じてきた。
そこで、本発明は、上記諸特性に優れたセラミックス膜を常温で得ることができるコーティング組成物の保存安定性を改良することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明によると、上記の目的は、
(1)ポリシラザンと、紫外線照射によりアミン類を放出する化合物とを含むコーティング組成物、並びに
(2)ポリシラザンと、紫外線照射によりアミン類を放出する化合物とを含む塗膜を基材表面に形成し、前記塗膜に紫外線を照射することを特徴とする、シリカ系セラミックス膜の製造方法
によって達成される。
【0008】
以下、本発明の好ましい実施態様を列挙する。
(3)前記ポリシラザンが、下記一般式(I):
【0009】
【化1】
Figure 0003902699
【0010】
(上式中、R1 、R2 及びR3 は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、またはこれらの基以外で該式中のケイ素又は窒素に直結する部分が炭素である基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、アルコキシ基を表わすが、但し、R1 、R2 及びR3 の少なくとも1つは水素原子である)
で表わされる構造単位からなる主骨格を有する数平均分子量100〜5万のポリシラザンであることを特徴とする、(1)項に記載の組成物。
(4)前記ポリシラザンが、式(I)中のR1 、R2 及びR3 がすべて水素原子であるペルヒドロポリシラザンであることを特徴とする、(3)項に記載の組成物。
(5)紫外線照射により前記化合物が放出するアミン類が下記一般式(II):
4 5 6 N (II)
(上式中、R4 、R5 、R6 は、それぞれ水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基又はアルコキシ基を表す。)で示されることを特徴とする、(1)項、(3)項又は(4)項に記載の組成物。
(6)前記化合物がR−NH−CO−O−基(Rは水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基又はアルコキシ基を表す。)を有する化合物であることを特徴とする、(1)項又は(3)項〜(5)項のいずれか一項に記載の組成物。
(7)前記化合物がカルバミン酸エステルであることを特徴とする、(6)項に記載の組成物。
(8)前記化合物がR−CO−O−N=基(Rは水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基又はアルコキシ基を表す。)又は−R’−CO−O−N=結合(R′は前記Rに対応する二価の基である。)を有し、水分子の存在下でアミン類を放出する化合物であることを特徴とする、(1)項又は(3)項〜(5)項のいずれか一項に記載の組成物。
(9)前記化合物がオキシムであることを特徴とする、(8)項に記載の組成物。
(10)紫外線を照射した後の塗膜に熱処理及び/又は後処理を施す工程をさらに含む、(2)項に記載の方法。
(11)前記後処理が水蒸気処理である、(10)項に記載の方法。
【0011】
本発明によれば、紫外線照射によりアミン類を放出する化合物(以下、アミン類放出性化合物)をポリシラザン系コーティング組成物に添加することにより、紫外線を照射するまではポリシラザンがセラミックス化することなく良好な保存安定性を示し、紫外線照射により低温で容易にセラミックス化するコーティング組成物が得られる。本発明によるコーティング組成物から塗膜を基材表面に形成し、前記塗膜に紫外線を照射することにより、該塗膜のセラミックス化に要する時間が短縮しセラミックス膜の形成効率が向上すると共に、膜が緻密になる、耐擦傷性(表面硬度)が高くなる、ガスバリア性が向上する、等、最終的に得られるセラミックス膜の特性が向上する。以下、本発明について詳しく説明する。
【0012】
ポリシラザン及びその変性物
本発明で用いるポリシラザンは、分子内に少なくともSi−H結合又はN−H結合を有するポリシラザンであればよく、ポリシラザン単独は勿論のこと、ポリシラザンと他のポリマーとの共重合体やポリシラザンと他の化合物との混合物でも利用できる。
用いるポリシラザンには、鎖状、環状又は架橋構造を有するもの、あるいは分子内にこれら複数の構造を同時に有するものがあり、これら単独でもあるいは混合物でも利用できる。
【0013】
用いるポリシラザンの代表例としては下記のようなものがあるが、これらに限定されるものではない。得られる膜の硬度や緻密性の点からはペルヒドロポリシラザンが好ましく、可撓性の点ではオルガノポリシラザンが好ましい。これらポリシラザンの選択は、当業者であれば用途に合わせて適宜行うことができる。
上記一般式(I)でR1 、R2 及びR3 に水素原子を有するものは、ペルヒドロポリシラザンであり、その製造法は、例えば特公昭63−16325号公報、D. Seyferth らCommunication of Am. Cer. Soc., C-13, January 1983. に報告されている。これらの方法で得られるものは、種々の構造を有するポリマーの混合物であるが、基本的には分子内に鎖状部分と環状部分を含み、
【0014】
【化2】
Figure 0003902699
【0015】
の化学式で表わすことができる。ペルヒドロポリシラザンの構造の一例を以下に示す。
【0016】
【化3】
Figure 0003902699
【0017】
一般式(I)でR1 及びR2 に水素原子、R3 にメチル基を有するポリシラザンの製造方法は、D. Seyferth らPolym. Prepr., Am. Chem. Soc., Div. Polym. Chem., 25, 10(1984)に報告されている。この方法により得られるポリシラザンは、繰り返し単位が−(SiH2 NCH3 )−の鎖状ポリマーと環状ポリマーであり、いずれも架橋構造をもたない。
一般式(I)でR1 及びR3 に水素原子、R2 に有機基を有するポリオルガノ(ヒドロ)シラザンの製造法は、D. Seyferth らPolym. Prepr., Am. Chem. Soc., Div. Polym. Chem., 25, 10(1984)、特開昭61−89230号公報、同62−156135号公報に報告されている。これらの方法により得られるポリシラザンには、−(R2 SiHNH)−を繰り返し単位として、主として重合度が3〜5の環状構造を有するものや
(R3 SiHNH)X 〔(R2 SiH)1.5 N〕1-X (0.4<x<1)の化学式で示される分子内に鎖状構造と環状構造を同時に有するものがある。
【0018】
一般式(I)でR1 に水素原子、R2 及びR3 に有機基を有するポリシラザン、またR1 及びR2 に有機基、R3 に水素原子を有するものは、−(R1 2 SiNR3 )−を繰り返し単位として、主に重合度が3〜5の環状構造を有している。
用いるポリシラザンは、上記一般式(I)で表わされる単位からなる主骨格を有するが、一般式(I)で表わされる単位は、上記にも明らかなように環状化することがあり、その場合にはその環状部分が末端基となり、このような環状化がされない場合には、主骨格の末端はR1 、R2 、R3 と同様の基又は水素であることができる。
【0019】
ポリオルガノ(ヒドロ)シラザンの中には、D. Seyferth らCommunication of Am. Cer. Soc., C-132, July 1984. が報告されている様な分子内に架橋構造を有するものもある。一例を下記に示す。
【0020】
【化4】
Figure 0003902699
【0021】
また、特開昭49−69717号公報に報告されている様なR1 SiX3 (X:ハロゲン)のアンモニア分解によって得られる架橋構造を有するポリシラザン(R1 Si(NH)X )、あるいはR1 SiX3 及びR2 2SiX2 の共アンモニア分解によって得られる下記の構造を有するポリシラザンも出発材料として用いることができる。
【0022】
【化5】
Figure 0003902699
【0023】
また、ポリシラザン変性物として、例えば下記の構造(式中、側鎖の金属原子であるMは架橋をなしていてもよい)のように金属原子を含むポリメタロシラザンも出発材料として用いることができる。
【0024】
【化6】
Figure 0003902699
【0025】
その他、特開昭62−195024号公報に報告されているような繰り返し単位が〔(SiH2 n (NH)m 〕及び〔(SiH2 r O〕(これら式中、n、m、rはそれぞれ1、2又は3である)で表されるポリシロキサザン、特開平2−84437号公報に報告されているようなポリシラザンにボロン化合物を反応させて製造する耐熱性に優れたポリボロシラザン、特開昭63−81122号、同63−191832号、特開平2−77427号公報に報告されているようなポリシラザンとメタルアルコキシドとを反応させて製造するポリメタロシラザン、特開平1−138108号、同1−138107号、同1−203429号、同1−203430号、同4−63833号、同3−320167号公報に報告されているような分子量を増加させたり(上記公報の前4者)、耐加水分解性を向上させた(後2者)、無機シラザン高重合体や改質ポリシラザン、特開平2−175726号、同5−86200号、同5−331293号、同3−31326号公報に報告されているようなポリシラザンに有機成分を導入した厚膜化に有利な共重合ポリシラザンなども同様に使用できる。
【0026】
アミン類放出性化合物
本発明によるコーティング組成物は、紫外線照射によりアミン類を放出するアミン類放出性化合物を含む。本発明により添加されるアミン類放出性化合物は、それ自体はポリシラザンのセラミックス化を促進する触媒作用を示さない化合物である。しかし、本発明により添加されるアミン類放出性化合物は、紫外線を照射されることによりアミン類を放出し、この放出されたアミン類がポリシラザンのセラミックス化を促進する。このようなアミン類放出性化合物を含むことにより、本発明によるコーティング組成物は、紫外線を照射するまではポリシラザンがセラミックス化することないので、常温での保存安定性が良好となる。
【0027】
紫外線照射によりアミン類放出性化合物から放出されるアミン類は、下記一般式(II)で示されるものであることが好ましい。
4 5 6 N (II)
上式中、R4 、R5 、R6 は、それぞれ水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基又はアルコキシ基を表す。
【0028】
放出されるアミン類の具体例として、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ペンチルアミン、ジペンチルアミン、トリペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、トリヘキシルアミン、ヘプチルアミン、ジヘプチルアミン、トリヘプチルアミン、オクチルアミン、ジオクチルアミン、トリオクチルアミン、フェニルアミン、ジフェニルアミン、トリフェニルアミン、アニリン、ベンジルアミン、エチレンジアミン、プロパンジアミン、等が挙げられる。なお、これらアミン類に含まれる炭化水素鎖は、直鎖であっても分枝鎖であってもよい。塩基性度(水溶液中でのpKb値)及び沸点が高いアミン類ほど、セラミックス化を促進する傾向がある。特に好ましいアミン類は、アニリン、ベンジルアミン、エチレンジアミン及びプロパンジアミンである。
【0029】
このようなアミン類を紫外線照射により放出する化合物、すなわちアミン類放出性化合物としては、R−NH−CO−O−基を有する化合物、例えばカルバミン酸エステル、並びにR−CO−O−N=基又は−R’−CO−O−N=結合を有し、水分子の存在下でアミン類を放出する化合物、例えばオキシムが挙げられる。ここでRは、上記R4 等について定義した基と同じであり、またR′は、Rに対応する二価の基であることができる。これらの化合物が紫外線照射によりアミン類を放出する反応を以下に例示する。
【0030】
カルバミン酸エステル系化合物
【化7】
Figure 0003902699
【0031】
オキシム系化合物
【化8】
Figure 0003902699
【0032】
本発明において特に好ましい化合物と、紫外線照射によりアミン類が生成する反応を以下に列挙する。
【0033】
2−(2,4−ジメトキシフェニル)プロピルN−シクロヘキシルカルバメート
【化9】
Figure 0003902699
【0034】
1−(3,5−ジメトキシフェニル)エチルN−シクロヘキシルカルバメート
【化10】
Figure 0003902699
【0035】
(2−ニトロフェニル)メチルN−シクロヘキシルカルバメート
【化11】
Figure 0003902699
【0036】
1−(2−ニトロフェニル)エチルN−シクロヘキシルカルバメート
【化12】
Figure 0003902699
【0037】
O−ピバロイルアセトフェノンオキシム
【化13】
Figure 0003902699
【0038】
O−フェニルアセチルアセトフェノンオキシム
【化14】
Figure 0003902699
【0039】
O−ベンゾイルアセトフェノンオキシム
【化15】
Figure 0003902699
【0040】
O,O−スクシニルジアセトフェノンオキシム
【化16】
Figure 0003902699
【0041】
O,O−グルタリルジアセトフェノンオキシム
【化17】
Figure 0003902699
【0042】
ポリシラザンのセラミックス化を促進するために紫外線照射時に放出されなければならないアミン類の量は、ポリシラザン重量に対して1ppm以上であればよく、好ましくは100ppm〜5%である。
上記のアミン類の放出量を確保するために必要なアミン類放出性化合物のコーティング組成物への添加量は、その種類や紫外線照射量にもよるが、ポリシラザン重量に対して一般に3ppm%以上、好ましくは300ppm〜15重量%である。
これらアミン類放出性化合物の添加法に特に制限はなく、単にポリシラザン又はポリシラザン溶液に混合する、或いは後述の溶剤で適当に希釈してからポリシラザン又はポリシラザン溶液に混合することができる。
【0043】
コーティング組成物の調製
本発明によるコーティング組成物は、採用する塗布方法に適した作業性を得るため、ポリシラザンのための溶剤で希釈したものとすることが好ましい。
溶剤としては、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素の炭化水素溶剤、ハロゲン化メタン、ハロゲン化エタン、ハロゲン化ベンゼン等のハロゲン化炭化水素、脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類を使用することができる。好ましい溶剤は、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ブロモホルム、塩化エチレン、塩化エチリデン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、エチルブチルエーテル、ブチルエーテル、1,2−ジオキシエタン、ジオキサン、ジメチルジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル類、ペンタンヘキサン、イソヘキサン、メチルペンタン、ヘプタン、イソヘプタン、オクタン、イソオクタン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、エチルシクロヘキサン、シクロヘキセン、p−メンタン、リモネン、デカリン、テトラリン、フェニルシクロヘキサン、シクロヘキサン、ノナン、デカン、n−ヘキサン、ペンタン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、等の炭化水素等である。これらの溶剤を使用する場合、ポリシラザンの溶解度や溶剤の蒸発速度を調節するために、2種類以上の溶剤を混合してもよい。
【0044】
溶剤の使用量(割合)は採用する塗布方法により作業性がよくなるように選択され、また用いるポリシラザンの平均分子量、分子量分布、その構造によって異なるので、適宜、自由に混合することができる。好ましくは固形分濃度で1〜50重量%の範囲で混合することができる。
【0045】
また、本発明のコーティング組成物において、必要に応じて適当な充填剤及び/又は増量剤を加えることができる。充填剤の例としてはシリカ、アルミナ、ジルコニア、マイカを始めとする酸化物系無機物あるいは炭化珪素、窒化珪素等の非酸化物系無機物の微粉等が挙げられる。また用途によってはアルミニウム、亜鉛、銅等の金属粉末の添加も可能である。これら充填剤は、針状(ウィスカーを含む。)、粒状、鱗片状等種々の形状のものを単独又は2種以上混合して用いることができる。又、これら充填剤の粒子の大きさは1回に適用可能な膜厚よりも小さいことが望ましい。また充填剤の添加量はポリシラザン1重量部に対し、0.05重量部〜10重量部の範囲であり、特に好ましい添加量は0.2重量部〜3重量部の範囲である。
コーティング組成物には、必要に応じて紫外線吸収剤、各種顔料、レベリング剤、消泡剤、帯電防止剤、pH調整剤、分散剤、表面改質剤、可塑剤、乾燥促進剤、流れ止め剤を加えてもよい。
【0046】
紫外線吸収剤(光重合開始剤)として、紫外線を吸収する物質を添加又は付加することができる。特に、フェニル基やC=C結合を有する物質の添加又は付加が考えられる。具体的には、コーティング組成物にジフェニルビス(t−ブチルペルオキシ)シラン、ベンゾイルアセトン、ベンゾキノン、ベンゾインイソブチルエーテル、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、アセチルアセトン、シンナミルアルコールの一種又は二種以上を添加することができる。また、シンナミルアルコール等の反応によりシンナミル基を付加すること、アクリルオキシプロピルジクロロシラン等の反応によりアクリル基を付加すること、或いは、ポリシラザンの主骨格にアクリレートシロキサンを反応させるなどしてアクリル基を付与することが可能である。
【0047】
被塗布材
本発明の方法によると、金属、セラミックス、ガラス、等をはじめとする多種多様な基材の表面にSiO2 系セラミックス膜を形成することができる。本発明の方法では、低温で且つ迅速にセラミックス化することができるので、プラスチックフィルム、電子部品(例、Siウェハ)、等、耐熱性の低い基材に適用すると特に有利である。
基材を損なわないといった低温で適用できることから由来する利点以外に、ポリシラザンを含む溶液を使用することから由来する表面平滑性や、本発明で得られる最終的な膜が緻密なシリカ質セラミックスであることから由来する基材との密着性、硬度、ガスバリア性、透明性、耐薬品性、平坦化性、イオンバリア性、等を付与できるため、これらの特性を一種又は特に二種以上必要とする分野に好適に用いられる。
【0048】
例えば、低温で、プラスチックフィルムを基材として、これに表面平滑性とガスバリア性と透明性が必要なシリカ膜を適用できるため、基板としてプラスチックフィルムを用いた透明電極基板に好適に用いられる。これらを用いる製品としては基板としてポリエーテルスルホン等のプラスチックフィルムを用いる液晶表示素子用電極フィルムやエレクトロルミネッセンス装置等が挙げられる。
また、低温で適用できることと平坦で緻密なシリカ膜が得られることから、配線を施した半導体装置等の電子装置を基板としても好適に用いることができることがわかる。
さらに、低温で適用できることから、ITOの施工処理等、既に処理の施してある基材に、該前処理を損なわずにシリカ膜を適用することができる。
【0049】
その上、同様に基材を損なわずに上記特性を一種又は二種以上必要とすることから、CRT飛散防止フィルムのハードコート、液晶分野等の光学分野に用いられる偏光板、ガスや水蒸気のバリアコート、タッチパネルのアンダーコート等に、好適に適宜使用することができる。半導体装置に本発明のSiO2 系セラミックス膜を適用する場合、各種絶縁膜として用いることができるので、従来より絶縁を目的として設けられている部分に適用が可能である。例えば、半導体基板と金属配線層との間や、金属配線層間や、半導体基板上に設けられている各種素子等に設けることができる。液晶分野ではイオンバリヤ性やガスバリア性や硬度を付与する為に従来より設けられている部分に適用が可能である。例えば、アルカリパッシベーション膜としてITO等の透明導電膜とガラスやフィルムの基板との間や、配向膜としてガラスやフィルム基板にITOが施された液晶素子上に、ガスバリヤ性、硬度を付与し、液晶素子の寿命を高める為に設けることなどが挙げられる。また、カラー液晶表示装置の電極表面の段差を無くし表示画像の色むらを解消するため、この段差を平坦化するために、電極上やカラーフィルター上等に、本発明のSiO2 系セラミックス膜を適用することもできる。従来別の方法で製造されていたSiO2 部分に本発明の方法を適用することは可能である。上記特性を一種又は特に二種以上必要な分野であれば適用することは容易である。
【0050】
プラスチック材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI;例えば、商品名カプトンで市販されているピロメリット酸無水物とジアミノジフェニルエーテルとの重縮合生成物)、ポリカーボネート(PC)、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアリレート(PAR)、ポリスチレン、ポリアミド(ナイロン(商標))、ポリアミドイミド、ポリ塩化ビニル、ポリエステル系樹脂(例、ロンザ社製、ISARYL(登録商標))、アクリル系樹脂(例、ポリメチルメタクリレート(PMMA))、ポリノルボルネン系樹脂(日本合成ゴム株式会社製、ARTON(登録商標))、ゼオネックス(日本ゼオン株式会社製、登録商標)、セルロースアセテート、トリアセチルセルロース(TAC)等の人造樹脂フィルムなどのフィルム状物もしくはシート状物又はこれらの複合フィルム状物もしくは複合シート状物、二軸延伸パラ系アラミドフィルム、ノルボルネン系ポリオレフィンフィルム、支持体付き極薄フィルム、等が挙げられる。プラスチックフィルムの面積や厚さには特に制限はなく、長尺フィルムをはじめとする用途に応じた任意の面積及び厚さのフィルムを使用することができる。さらにまた、これらのフィルム又はシートを2種以上積層した複層フィルムであってもよい。また、フィルムには、密着性向上のためにコロナ放電処理、シランカップリング剤の塗布、等の前処理を施すこともでき、用途に合わせて周知の処理を施すことができる。
【0051】
塗布方法
本発明によると、上記のようなコーティング用組成物を上記のような各種基材に塗布することによってポリシラザンの膜を形成する。塗布方法は、通常実施されている塗布方法、例えば、浸漬塗布、ロール塗布、バー塗布、ウェブ塗布(グラビア、キス、キスメイヤバー、ダイ、フレキソ、等)、刷毛塗り、スプレー塗布、回転塗布、流し塗り等が用いられる。プラスチックフィルムに好ましい適用方法はグラビア(リバース)塗布法である。塗布後、所望であればポリシラザン塗膜を乾燥する工程を別途設けてもよい。しかしながら、一般にポリシラザン溶剤は揮発性が高く、特別に乾燥工程を設けなくても次の工程へ進めることができ、また他の工程において同時に乾燥させることもできる。
【0052】
紫外線照射
本発明によると、上記方法で塗布した後、ポリシラザンとアミン類放出性化合物とを含む塗膜に紫外線を照射する。この紫外線照射により、アミン類放出性化合物からアミン類が放出されると共に基材が加熱され、セラミックス化(シリカ転化)に寄与するO2 とH2 Oや、紫外線吸収剤(光重合開始剤)、ポリシラザン自身が励起、活性化されるため、ポリシラザンが励起し、ポリシラザンのセラミックス化がアミン類により促進され、また得られるセラミックス膜が一層緻密になる。
紫外線照射は、塗膜形成後であればいずれの時点で実施しても有効である。すなわち、ポリシラザンを含む塗膜形成直後の塗膜乾燥前、塗膜乾燥中及び塗膜乾燥後のいずれにおいて実施しても有効である。また、任意であるが、紫外線照射と同時にオゾンや過酸化水素ガスをポリシラザン含有塗膜に接触させるとさらに有効である。
【0053】
本発明の方法では、常用されているいずれの紫外線発生装置でも使用することが可能である。本明細書における「紫外線」とは、一般に解釈されている波長、具体的には400nm以下の波長を有するUV光やX線、電子線を含む輻射線を意味する。本発明の方法の好ましい態様では150〜400nm、より好ましくは200〜350nmの紫外線が用いられる。
【0054】
紫外線の照射は、照射される塗膜を担持している基材がダメージを受けない範囲で照射強度及び/又は照射時間を設定すべきである。基材としてプラスチックフィルムを用いた場合を例にとると、2kW(80W/cm×25cm)のランプを用い、基材表面の強度が20〜300mW/cm2 、好ましくは50〜200mW/cm2 になるように基材−ランプ間距離(例、15cm)を設定し、0.05〜3分間の照射を行うことができる。
【0055】
一般に、紫外線照射処理時の基材温度が150℃以上になると、プラスチックフィルム等の場合には基材が変形したり、その強度が劣化するなど、基材が損なわれる。しかしながら、ポリイミド等の耐熱性の高いフィルムや、シリコンウェハー、ガラス、金属、等の基板の場合にはより高温での処理が可能であり、そのような場合でも、本発明によるポリシラザン塗膜のセラミックス化方法は、紫外線照射工程のみでセラミックス化を完了させることができ、またその膜特性を向上させる上で実際に有効である。従って、この紫外線照射時の基材温度に一般的な上限はなく、基材の種類によって当業者が適宜設定することができる。また、紫外線照射雰囲気に特に制限はなく、空気中で実施すればよい。
【0056】
このような紫外線の発生方法としては、例えば、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、エキシマランプ(1172nm、222nm、308nmの単一波長、例えば、ウシオ電機(株)製)、UV光レーザー、等が挙げられるが、特に限定されるわけではない。
また、発生させた紫外線をポリシラザン塗膜に照射する際には、効率の向上のため均一な照射を達成するためにも、発生源からの紫外線を反射板で反射させてから塗膜に当てることが望ましい。
【0057】
紫外線照射はバッチ処理にも連続処理にも適合可能であり、被塗布基材の形状によって適宜選定することができる。例えば、バッチ処理の場合には、ポリシラザン塗膜を表面に有する基材(例、シリコンウェハー)を上記のような紫外線発生源を具備した紫外線照射器で処理することができる。紫外線照射器自体は一般に知られており、例えば、アイグラフィクス(株)製を使用することができる。また、ポリシラザン塗膜を表面に有する基材が長尺フィルム状である場合には、これを搬送させながら上記のような紫外線発生源を具備した乾燥ゾーンで連続的に紫外線を照射することによりセラミックス化することができる。
紫外線照射に要する時間は、塗布される基材やコーティング組成物の組成、濃度にもよるが、一般に0.02〜10分、好ましくは0.05〜3分である。
【0058】
赤外線照射(任意)
本発明によると、上記紫外線照射とは別に、必要に応じてポリシラザンを含む塗膜に赤外線を照射することにより該塗膜のセラミックス化を一層促進することができる。また、上記紫外線照射の場合と同様、赤外線照射は、ポリシラザン含有塗膜形成後であればいずれの時点で実施しても有効である。さらに、上記紫外線照射と併用する場合、赤外線照射は、紫外線照射の前後いずれにおいても、又は紫外線照射と同時に、実施することができる。
【0059】
赤外線照射に際しては、常用されているいずれの赤外線発生装置でも使用することが可能である。本明細書における「赤外線」とは、一般に解釈されている波長、具体的には波長約0.8〜1000μmを有する輻射線を意味する。この赤外線は波長約0.8〜2.0μmの近赤外線と、波長約2.0〜4.0μmの中赤外線と、波長約4.0〜1000μmの遠赤外線との三つの領域に分けられる。一般に、これらの赤外線を塗膜側から照射した場合、膜厚にもよるが、近赤外線は、コーティングされた基材(例、プラスチック基材)まで透過しこれを加熱する。また、中赤外線の場合は、基材と塗膜の界面から塗膜内部まで透過しこれを加熱する。さらに、遠赤外線の場合は、塗膜内部から塗膜表面まで透過しこれを加熱する。本発明の方法では、基材を損ないにくい点で、近赤外線よりも中赤外線、さらには中赤外線よりも遠赤外線を使用することが好ましい。すなわち、本発明の方法では一般に0.8〜1000μm、好ましくは2.0〜1000μm、より好ましくは4.0〜1000μmの赤外線が用いられる。
【0060】
赤外線の照射は、照射される塗膜を担持している基材がその耐熱温度以下に、基材の種類によるが、プラスチックフィルムの場合は好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下に保持されるように、照射強度を調節して実施する。また、赤外線照射雰囲気に特に制限はなく、空気中で実施すればよい。
このような赤外線の発生方法としては、例えば、赤外線ラジエタや赤外線セラミクスヒータを使用する方法が挙げられるが、特に限定されるわけではない。また、赤外線ラジエタを使用する場合には、赤外線の使用波長に応じて、波長1.3μmに強度ピークを有する近赤外線ラジエタ、波長2.5μmに強度ピークを有する中赤外線ラジエタ、波長4.5μmに強度ピークを有する遠赤外線ラジエタを使用することができる。
【0061】
また、照射効率を高めるために、即ち、ポリシラザンのセラミックス化に効果のある波長でのみ照射できるので、スペクトルが単一である赤外レーザーを使用することが好ましい。赤外レーザーの具体例として、HF、DF、HCl、DCl、HBr、DBrなどの気体化学レーザー(照射波長2.5〜6μm)、CO2 気体レーザー、N2 O気体レーザー(照射波長約10μm)、CO2 気体レーザー励起遠赤外レーザー(NH3 、CF4 、等)(照射波長12〜16μm)、Pb(Cd)S、PbS(Se)、Pb(Sn)Te、Pb(Sn)Se、等の化合物半導体レーザー(照射波長2.5〜20μm)、が挙げられる。
また、発生させた赤外線をポリシラザン塗膜に照射する際には、効率の向上のため均一な照射を達成するためにも、発生源からの赤外線を反射板で反射させてから塗膜に当てることが望ましい。
【0062】
上記紫外線照射の場合と同様、赤外線照射はバッチ処理にも連続処理にも適合可能であり、被塗布基材の形状によって適宜選定することができる。例えば、バッチ処理の場合には、ポリシラザン塗膜を表面に有する基材(例、シリコンウェハー)を上記のような赤外線発生源を具備した赤外線焼成炉で処理することができる。赤外線焼成炉自体は一般に知られており、例えば、アルバック製を使用することができる。また、ポリシラザン塗膜を表面に有する基材が長尺フィルム状である場合には、これを搬送させながら上記のような赤外線発生源を具備した乾燥ゾーンで連続的に赤外線を照射することによりセラミックス化を促進することができる。
この赤外線照射は、単独で実施してもよいし、また従来の熱風乾燥と併用してもよい。しかしながら、蒸発させた溶媒の除去を促進するためにも、赤外線照射と熱風乾燥を組み合わせる方が好ましい。このように赤外線照射と熱風乾燥を組み合わせた市販の連続式乾燥装置の例として、井上金属工業(株)製のIRフロートドライヤ(商品名)が挙げられる。
赤外線照射を行う場合、塗布される基材やコーティング組成物の組成、濃度にもよるが、所要時間は一般に0.1〜10分、好ましくは1〜3分である。
【0063】
追加のセラミックス化処理(熱処理及び/又は後処理)
本発明によると、ポリシラザンとアミン類放出性化合物とを含有する塗膜に紫外線照射を施すことによって、目的のSiO2 系セラミックス膜が得られる。しかしながら、紫外線照射にさらに別のセラミックス化処理を追加することにより、セラミックス化を一層促進することができる。以下、この追加のセラミックス化処理について説明する。
【0064】
上記の紫外線照射においては、場合によってはSi−O、Si−N、Si−H、N−Hが存在する膜が形成される。この時点でポリシラザン塗膜の一部がセラミックス化している場合もあるが、この塗膜はまだセラミックスへの転化が不完全な場合もある。この塗膜を、次に述べる熱処理及び/又は後処理によって、セラミックスに転化させることが可能である。
【0065】
熱処理を採用する場合、その熱処理温度はポリシラザンが完全にセラミックス化する温度、通常400℃以上が好ましいが、例えば液晶を含む装置の外部にコーティングを施す場合には、用いる液晶の耐熱温度よりも低い温度、一般には240℃以下、好ましくは200℃以下を採用することが好ましい。
しかしながら、本発明によるポリシラザンは、紫外線照射によりアミン類が放出されているため、液晶及び/又は基材(特に、プラスチックや強化ガラス)を損なわない低温、好ましくは150℃以下で加熱処理を施すことができる。一般に、プラスチック基材の場合、加熱処理を150℃以上で行うと、変形や強度劣化などプラスチック基材が損なわれる。
【0066】
熱処理の昇温速度は特に限定しないが、5〜20℃/分の緩やかな昇温速度が好ましい。熱処理雰囲気は酸素中、空気中あるいは不活性ガス等のいずれであってもよいが、空気中がより好ましい。空気中での熱処理によりポリシラザンの酸化、あるいは空気中に共存する水蒸気による加水分解が進行し、上記のような低い熱処理温度でSi−O結合あるいはSi−N結合を主体とする緻密なセラミック被膜の形成が可能となる。この被膜は、ポリシラザンに由来するために窒素を原子百分率で0.005〜5%含有する。
【0067】
上記の低温での熱処理においてはSi−O、Si−N、Si−H、N−H結合が存在する膜が形成される場合がある。この膜はまだセラミックスへの転化が不完全である。この膜を、次に述べる2つの方法▲1▼及び▲2▼のいずれか一方又は両方(後処理)によって、セラミックスに転化させることが可能である。なお、上記の低温での熱処理を省略して後処理を直接施した場合でも、ポリシラザンのセラミックス化を促進することはできる。
【0068】
▲1▼ 水蒸気雰囲気中での処理。
圧力は特に限定されるものではないが、1〜3気圧が現実的に適当である。相対湿度は特に限定されるものではないが、10〜100%RHが好ましい。温度は室温以上で効果的であるが室温〜150℃が好ましい。水蒸気処理時間は特に限定されるものではないが10分〜30日が現実的に適当である。
【0069】
水蒸気雰囲気中での処理により、ポリシラザンの酸化または水蒸気との加水分解が進行するので、上記のような低い加熱温度で、実質的にSiO2 からなる緻密な膜の形成が可能となる。但し、このSiO2 膜はポリシラザンに由来するため窒素を原子百分率で0.05〜5%含有する。この窒素含有量が5%よりも多いと膜のセラミックス化が不十分となり所期の効果(例えばガスバリヤ性や耐磨耗性)が得られない。一方、窒素含有量を0.05%よりも少なくすることは困難である。好ましい窒素含有量は原子百分率で0.1〜3%である。
【0070】
▲2▼ 触媒を含有した蒸留水中に浸す。
触媒としては、酸、塩基が好ましく、その種類については特に限定されないが、例えば、トリエチルアミン、ジエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、n−エキシルアミン、n−ブチルアミン、ジ−n−ブチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、グアニジン、ピグアニン、イミダゾール、1,8−ジアザビシクロ−〔5,4,0〕−7−ウンデセン、1,4−ジアザビシクロ−〔2,2,2〕−オクタン等のアミン類;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、ピリジン、アンモニア水等のアルカリ類;リン酸等の無機酸類;永酢酸、無水酢酸、プロピオン酸、無水プロピオン酸のような低級モノカルボン酸、又はその無水物、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸のような低級ジカルボン酸又はその無水物、トリクロロ酢酸等の有機酸類;過塩素酸、塩酸、硝酸、硫酸、スルホン酸、パラトルエンスルホン酸、三フッ化ホウ素及びその電気供与体との錯体、等;SnCl4 、ZnCl2 、FeCl3 、AlCl3 、SbCl3 、TiCl4 などのルイス酸及びその錯体等を使用することができる。好ましい触媒は塩酸である。触媒の含有割合としては0.01〜50重量%、好ましくは0.1〜10重量%である。保持温度としては室温から沸点までの温度にわたって有効である。保持時間としては特に限定されるものではないが10分〜30日が現実的に適当である。
【0071】
触媒を含有した蒸留水中に浸すことにより、ポリシラザンの酸化あるいは水との加水分解が、触媒の存在により更に加速され、上記のような低い加熱温度で、実質的にSiO2 からなる緻密な膜の形成が可能となる。但し、先に記載したように、このSiO2 膜はポリシラザンに由来するため窒素を同様に原子百分率で0.05〜5%含有する。
【0072】
また、別の後処理法として、ポリシラザンとアミン類放出性化合物とを含有する塗膜を形成し該塗膜に紫外線照射を施した後、その塗膜にアルコキシシラン及び水を含む反応性の混合溶液を接触させる方法も挙げられる。
用いるアルコキシシランは、ゾル−ゲル法によるSiO2 系セラミック被膜の形成に一般に用いられるアルコキシシランの中から任意に選ぶことができる。
【0073】
好適なアルコキシシランは、Si(OR)4 〔式中、Rは、各々独立に、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアミノ基またはアルキルシリル基を表す〕で示されるアルコキシシランである。好ましいRは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基及びイソプロペニル基である。中でも特に好ましいアルコキシシランは、テトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランである。
【0074】
本発明の方法では、R’n Si(OR)4-n 〔式中、Rは、各々独立に、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアミノ基またはアルキルシリル基を表し、R’は、各々独立に、上記Rの他、ビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基またはメルカプト基を表し、そしてnは1〜2の整数である〕で表される有機アルコキシシラン、又はR’n (RO)3-n Si−R”−Si(OR)3-m R’m 〔式中、Rは、各々独立に、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアミノ基またはアルキルシリル基を表し、R’は、各々独立に、上記Rの他、ビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基またはメルカプト基を表し、R”は、2価の有機結合基または−O−を表し、nは0〜3、mは0〜3の整数を表すが、但し、n+mは4以下である〕で表されるアルコキシジシランを使用してもよい。このような有機基R’及びR”は、得られる最終のセラミック被膜が所望の膜質(例えば、耐熱性、耐磨耗性、可撓性)を示すように、当業者であれば適宜選択することができる。
【0075】
反応性の混合溶液に用いられる水(H2 O)には、通常のイオン交換水、工業用水、濾過水、等が使用できる。しかしながら、得られる最終セラミック被膜の膜質等を考慮した場合、純水を使用することが好ましい。また、水の代わりに過酸化水素水を使用することは可能である。
混合溶液中のアルコキシシランと水の存在比率は、体積基準でアルコキシシラン/水=0.01〜100、より好ましくは0.1〜10の範囲が好ましい。この比率が0.01よりも小さいと、水による反応が主体となり、得られるセラミックスの膜質が悪くなる。一方、100よりも大きいと、アルコキシシランの加水分解速度が遅くなる。また、この比率を変更することによって混合溶液の反応性を制御することができる。
【0076】
この混合溶液は、必要に応じて、R”OHで示されるアルコールを含有することができる。ここでR”は、アルコキシシランについて先に記載したRと同じ基、すなわちアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアミノ基またはアルキルシリル基を表す。特定の混合溶液におけるアルコールのR”とアルコキシシランのRは、同種であることが好ましいが、異なっていてもよい。アルコールが含有されることによって、アルコキシシランの加水分解が促進され、溶液の反応性が高まる。
混合溶液中のアルコキシシランと前記アルコールの存在比率は、体積基準でアルコキシシラン/アルコール=100〜0.01、より好ましくは10〜0.1の範囲が好ましい。この比率が100よりも大きいと、アルコキシシランの分解が少なく、溶液の反応性が低くなる。一方、0.01よりも小さいと、アルコールとシラザンの反応が主体となり、膜質が劣化する。また、先に記載した水の場合と同様に、この比率を変更することによっても混合溶液の反応性を制御することができる。
【0077】
アルコキシシランと水を含む反応性の混合溶液は、該アルコキシドの加水分解及びポリシラザンとの反応を促進させるために触媒を含有することができる。触媒としては酸、塩基が好ましく、その種類については特に限定はされないが、例として塩酸、硫酸、フッ酸、硝酸及びこれらの塩類、アンモニア、水酸化アンモニウム、塩化アンモニウム、トリエチルアミン、ジエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミン類、並びに水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、等が挙げられる。これらの酸、塩基触媒の添加量は、アルコキシシラン1モル当たり0.0001〜10モル%、より好ましくは0.001〜1.0モル%が好ましい。同様に、この触媒添加量によっても混合溶液の反応性を制御することができる。
【0078】
このように調製したアルコキシシラン及び水を含有する反応性の混合溶液を、上記の紫外線照射後のポリシラザン塗膜に適当な方法で接触させる。接触させる方法として、例えば、浸漬法、噴霧法、等が挙げられる。この接触によってポリシラザンとアルコキシシランとの間で反応が起こり、これらがSiOx 組成のセラミックに転化する。
この接触時の温度(例えば、浸漬液の温度)は、室温で十分であるが、所望により室温〜混合溶液の沸点以下の範囲に加熱してもよい。接触時間は、限定するわけではないが、一般に1時間以内で済み、好ましくは1〜10分の範囲である。
【0079】
混合溶液との接触工程終了後、得られた被膜の乾燥と膜質の向上を兼ねて、基板の耐熱温度以下の温度で後加熱工程を実施することができる。
ポリシラザンとアルコキシシランとの間のセラミック被膜の形成反応は、以下の三つの素反応が基本になっているものと考える。すなわち、混合溶液中においてアルコキシシランが下式:
▲1▼ ≡Si−OR + H2 O −−> ≡Si−OH + ROH
のように加水分解され、このとき生成したシラノール基が、下式:
Figure 0003902699
のようにポリシラザンのSi−H及び/又はN−H結合と反応することによって膜がSiOx 化する。
この方法によると、実質的にSi−O結合を主体とする緻密なSiO2 系セラミック被膜を、常温で且つ短時間に得ることができる。
【0080】
上記の紫外線照射工程を、さらに必要に応じて追加のセラミックス化処理を施すことによって、ポリシラザン又はその変性物に含まれるSi−N、Si−H、N−H結合等は消失し、Si−O結合を主体とする強靱なセラミックス膜が基材表面に形成される。尚、このSiO2 膜はポリシラザンに由来するため窒素を原子百分率で0.005〜5%含有する。この窒素含有量が5%よりも多い場合には膜のセラミックス化が不十分となり所期の効果(例えばガスバリヤ性や耐磨耗性)が得られない。一方、窒素含有量を0.005%よりも少なくすることは困難である。
また、紫外線照射時にアミン類が生成するため、SiO2 膜中にアミン類が含まれる場合がある。これは、アミン類の種類やセラミックス化の条件によって制御することができ、アミン類をまったく含まないSiO2 膜を製造することは容易に可能である。
【0081】
1回の適用で得られるSiO2 膜の厚さは、好ましくは50Å〜5μm、より好ましくは100Å〜2μmの範囲である。膜厚が5μmよりも厚いと熱処理時に割れが入ることが多く、更に可撓性が悪くなり、折り曲げなどによる割れや剥離も生じ易くなる。反対に、膜厚が50Åよりも薄いと所期の効果、例えば所望のガスバリヤ性や耐磨耗性が得られない。この膜厚は、コーティング用組成物の濃度を変更すること及び/又はコーティング条件によって制御することができる。すなわち、膜厚を増加したい場合にはコーティング用組成物の固形分濃度を高くする(溶剤濃度を低くする)ことができ、またロールのメッシュを細かくすること、さらにコーティング用組成物を複数回適用することによって膜厚をさらに増加させることもできる。
【0082】
その他の機能性を付与するために、従来より行われている機能性フィラーの添加や、各種層を積層させることが可能である。例えば、導電性を付与するために導電性微粒子を添加したり、屈曲性を付与するために可撓性のある中間層を積層させる、等が可能である。
【0083】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、これらの実施例が本発明を限定するものではないことを理解されたい。
【0084】
参考例〔ペルヒドロポリシラザンの合成〕
内容積1Lの四つ口フラスコにガス吹き込み管、メカニカルスターラー、ジュワーコンデンサーを装着した。反応器内部を脱酸素した乾燥窒素で置換した後、四つ口フラスコに脱気した乾燥ピリジン490mlを入れ、これを氷冷した。次いで、ジクロロシラン51.9gを加えると、白色固体状のアダクト(SiCl2 ・2C6 5 N)が生成した。反応混合物を氷冷し、攪拌しながら水酸化ナトリウム管及び活性炭管を通して精製したアンモニア51.0gを吹き込んだ後、100℃で加熱した。
反応終了後、反応混合物を遠心分離し、乾燥ピリジンを用いて洗浄した後、さらに乾燥窒素雰囲気下で濾過して濾液850mlを得た。濾液5mlから溶媒を減圧除去すると、樹脂状固体ペルヒドロポリシラザン0.102gが得られた。
【0085】
得られたポリマーの数平均分子量は、凝固点降下法(溶媒:乾燥ベンゼン)で測定したところ1120であった。赤外吸収(IR)スペクトル(溶媒:乾燥o−キシレン;ペルヒドロポリシラザン濃度10.2g/l)は、波数(cm-1)3390及び1180のN−Hに基づく吸収、2170のSi−Hに基づく吸収、1040〜800のSi−N−Siに基づく吸収を示した。
【0086】
実施例1
参考例で合成したペルヒドロポリシラザンをm−キシレンに溶解して濃度20重量%のポリシラザン溶液を調製した。この溶液にポリシラザンに対して10重量%のO−ピバロイルアセチルアセトフェノンオキシム(O−1)を添加し、大気中、20℃で30分間攪拌した。その後、孔径0.1μmのPTFE製フィルターで濾過した。
この溶液を、直径約10.2cm(4インチ)、厚さ0.5mmのシリコンウェハー上にスピンコーターを用いて塗布した(500rpm×2秒→2000rpm×20秒)。
塗布後、25℃、80%RHの環境下、メタルハライドランプ(照射条件:出力2kW、距離15cm)により紫外線を5分間照射した。この紫外線照射によりO−1からt−ブチルアミンが生成した。
【0087】
実施例2
参考例で合成したペルヒドロポリシラザンをm−キシレンに溶解して濃度20重量%のポリシラザン溶液を調製した。この溶液にポリシラザンに対して10重量%のO−ピバロイルアセチルアセトフェノンオキシム(O−1)を添加し、大気中、20℃で30分間攪拌した。その後、孔径0.1μmのPTFE製フィルターで濾過した。
この溶液を、直径約10.2cm(4インチ)、厚さ0.5mmのシリコンウェハー上にスピンコーターを用いて塗布した(500rpm×2秒→2000rpm×20秒)。
塗布後、25℃、80%RHの環境下、メタルハライドランプ(照射条件:出力2kW、距離15cm)により紫外線を1分間照射した。この紫外線照射によりO−1からt−ブチルアミンが生成した。
紫外線照射後、焼成炉において400℃、30分の後処理を行った。
【0088】
実施例3
参考例で合成したペルヒドロポリシラザンをm−キシレンに溶解して濃度12重量%のポリシラザン溶液を調製した。この溶液にポリシラザンに対して10重量%のO−ピバロイルアセチルアセトフェノンオキシム(O−1)を添加し、大気中、20℃で30分間攪拌した。その後、孔径0.1μmのPTFE製フィルターで濾過した。
この溶液を、10cm角、厚さ1mmのガラス板に浸漬塗布法を用いて塗布した。
塗布後、25℃、80%RHの環境下、メタルハライドランプ(照射条件:出力2kW、距離15cm)により紫外線を1分間照射した。この紫外線照射によりO−1からt−ブチルアミンが生成した。
紫外線照射後、クリーンオーブンにおいて300℃、30分の後処理を行った。
【0089】
実施例4
参考例で合成したペルヒドロポリシラザンをm−キシレンに溶解して濃度12重量%のポリシラザン溶液を調製した。この溶液にポリシラザンに対して10重量%のO−ピバロイルアセチルアセトフェノンオキシム(O−1)を添加し、大気中、20℃で30分間攪拌した。その後、孔径0.1μmのPTFE製フィルターで濾過した。
この溶液を、厚さ75μm、幅600mm、総延長300mのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム基材を2m/分で搬送しながらグラビア(リバース)コート法(ロール#80)で片面に塗布した。
塗布後、25℃、80%RHの環境下、メタルハライドランプ(照射条件:出力2kW、距離25cm)により紫外線を1分間照射した。この紫外線照射によりO−1からt−ブチルアミンが生成した。
紫外線照射後のフィルム基材に、95℃、80%RHの恒温恒湿内(30m)を2m/分で搬送する後処理(15分間)を施した。
【0090】
実施例5
参考例で合成したペルヒドロポリシラザンをm−キシレンに溶解して濃度12重量%のポリシラザン溶液を調製した。この溶液にポリシラザンに対して10重量%のO−フェニルアセチルアセトフェノンオキシム(O−2)を添加し、大気中、20℃で30分間攪拌した。その後、孔径0.1μmのPTFE製フィルターで濾過した。
この溶液を、厚さ75μm、幅600mm、総延長300mのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム基材を2m/分で搬送しながらグラビア(リバース)コート法(ロール#80)で片面に塗布した。
塗布後、25℃、80%RHの環境下、メタルハライドランプ(照射条件:出力2kW、距離25cm)により紫外線を1分間照射した。この紫外線照射によりO−2からベンジルアミンが生成した。
紫外線照射後のフィルム基材に、95℃、80%RHの恒温恒湿内(30m)を2m/分で搬送する後処理(15分間)を施した。
【0091】
実施例6
参考例で合成したペルヒドロポリシラザンをm−キシレンに溶解して濃度12重量%のポリシラザン溶液を調製した。この溶液にポリシラザンに対して10重量%のO−ベンゾイルアセトフェノンオキシム(O−3)を添加し、大気中、20℃で30分間攪拌した。その後、孔径0.1μmのPTFE製フィルターで濾過した。
この溶液を、厚さ100μm、幅600mm、総延長300mのポリエーテルサルフォン(PES)フィルム基材を2m/分で搬送しながらグラビア(リバース)コート法(ロール#80)で片面に塗布した。
塗布後、25℃、80%RHの環境下、メタルハライドランプ(照射条件:出力2kW、距離25cm)により紫外線を1分間照射した。この紫外線照射によりO−3からアニリンが生成した。
紫外線照射後のフィルム基材に、95℃、80%RHの恒温恒湿内(30m)を2m/分で搬送する後処理(15分間)を施した。
【0092】
実施例7
参考例で合成したペルヒドロポリシラザンをm−キシレンに溶解して濃度12重量%のポリシラザン溶液を調製した。この溶液にポリシラザンに対して10重量%のO,O−スクシニルジアセトフェノンオキシム(O−4)を添加し、大気中、20℃で30分間攪拌した。その後、孔径0.1μmのPTFE製フィルターで濾過した。
この溶液を、厚さ80μm、幅600mm、総延長300mのトリアセテート(TAC)フィルム基材を2m/分で搬送しながらグラビア(リバース)コート法(ロール#80)で片面に塗布した。
塗布後、25℃、80%RHの環境下、メタルハライドランプ(照射条件:出力2kW、距離25cm)により紫外線を1分間照射した。この紫外線照射によりO−4からエチレンジアミンが生成した。
紫外線照射後のフィルム基材に、95℃、80%RHの恒温恒湿内(30m)を2m/分で搬送する後処理(15分間)を施した。
【0093】
実施例8
参考例で合成したペルヒドロポリシラザンをジブチルエーテルに溶解して濃度12重量%のポリシラザン溶液を調製した。この溶液にポリシラザンに対して10重量%のO,O−グルタリルジアセトフェノンオキシム(O−5)を添加し、大気中、20℃で30分間攪拌した。その後、孔径0.1μmのPTFE製フィルターで濾過した。
この溶液を、厚さ75μm、幅600mm、総延長300mのポリアリレート(PAr)フィルム基材を2m/分で搬送しながらグラビア(リバース)コート法(ロール#80)で片面に塗布した。
塗布後、25℃、80%RHの環境下、メタルハライドランプ(照射条件:出力2kW、距離25cm)により紫外線を1分間照射した。この紫外線照射によりO−5から1,3−プロパンジアミンが生成した。
紫外線照射後のフィルム基材に、95℃、80%RHの恒温恒湿内(30m)を2m/分で搬送する後処理(15分間)を施した。
【0094】
実施例9
参考例で合成したペルヒドロポリシラザンをm−キシレンに溶解して濃度12重量%のポリシラザン溶液を調製した。この溶液にポリシラザンに対して10重量%の1−(2,4−ジメトキシフェニル)プロピルN−シクロヘキシルカルバメート(CE−1)を添加し、大気中、20℃で30分間攪拌した。その後、孔径0.1μmのPTFE製フィルターで濾過した。
この溶液を、厚さ75μm、幅600mm、総延長300mのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム基材を2m/分で搬送しながらグラビア(リバース)コート法(ロール#80)で片面に塗布した。
塗布後、大気中、高圧水銀ランプ(照射条件:出力2kW、距離25cm)により紫外線を1分間照射した。この紫外線照射によりCE−1からシクロヘキシルアミンが生成した。
紫外線照射後のフィルム基材に、95℃、80%RHの恒温恒湿内(30m)を2m/分で搬送する後処理(15分間)を施した。
【0095】
実施例10
参考例で合成したペルヒドロポリシラザンをm−キシレンに溶解して濃度12重量%のポリシラザン溶液を調製した。この溶液にポリシラザンに対して10重量%の1−(2,4−ジメトキシフェニル)メチルエチルN−シクロヘキシルカルバメート(CE−2)を添加し、大気中、20℃で30分間攪拌した。その後、孔径0.1μmのPTFE製フィルターで濾過した。
この溶液を、厚さ100μm、幅600mm、総延長300mのポリエーテルサルフォン(PES)フィルム基材を2m/分で搬送しながらグラビア(リバース)コート法(ロール#80)で片面に塗布した。
塗布後、大気中、メタルハライドランプ(照射条件:出力2kW、距離25cm)により紫外線を1分間照射した。この紫外線照射によりCE−2からシクロヘキシルアミンが生成した。
紫外線照射後のフィルム基材に、95℃、80%RHの恒温恒湿内(30m)を2m/分で搬送する後処理(15分間)を施した。
【0096】
実施例11
参考例で合成したペルヒドロポリシラザンをm−キシレンに溶解して濃度12重量%のポリシラザン溶液を調製した。この溶液にポリシラザンに対して10重量%の1−(2−ニトロフェニル)メチルN−シクロヘキシルカルバメート(CE−3)を添加し、大気中、20℃で30分間攪拌した。その後、孔径0.1μmのPTFE製フィルターで濾過した。
この溶液を、厚さ80μm、幅600mm、総延長300mのトリアセテート(TAC)フィルム基材を2m/分で搬送しながらグラビア(リバース)コート法(ロール#80)で片面に塗布した。
塗布後、大気中、メタルハライドランプ(照射条件:出力2kW、距離25cm)により紫外線を1分間照射した。この紫外線照射によりCE−3からシクロヘキシルアミンが生成した。
紫外線照射後のフィルム基材に、95℃、80%RHの恒温恒湿内(30m)を2m/分で搬送する後処理(15分間)を施した。
【0097】
実施例12
参考例で合成したペルヒドロポリシラザンをDBEに溶解して濃度12重量%のポリシラザン溶液を調製した。この溶液にポリシラザンに対して10重量%の1−(2−ニトロフェニル)エチルN−シクロヘキシルカルバメート(CE−4)を添加し、大気中、20℃で30分間攪拌した。その後、孔径0.1μmのPTFE製フィルターで濾過した。
この溶液を、厚さ100μm、幅600mm、総延長300mのポリカーボネート(PC)フィルム基材を2m/分で搬送しながらグラビア(リバース)コート法(ロール#80)で片面に塗布した。
塗布後、大気中、メタルハライドランプ(照射条件:出力2kW、距離25cm)により紫外線を1分間照射した。この紫外線照射によりCE−4からシクロヘキシルアミンが生成した。
紫外線照射後のフィルム基材に、95℃、80%RHの恒温恒湿内(30m)を2m/分で搬送する後処理(15分間)を施した。
【0098】
比較例1
参考例で合成したペルヒドロポリシラザンをm−キシレンに溶解して濃度20重量%のポリシラザン溶液を調製した。この溶液にポリシラザンに対して3重量%のt−ブチルアミンを添加し、大気中、20℃で30分間攪拌した。その後、孔径0.1μmのPTFE製フィルターで濾過した。
この溶液を、直径約10.2cm(4インチ)、厚さ0.5mmのシリコンウェハー上にスピンコーターを用いて塗布した(500rpm×2秒→2000rpm×20秒)。
塗布後、焼成炉において400℃、30分の後処理を行った。
【0099】
比較例2
参考例で合成したペルヒドロポリシラザンをm−キシレンに溶解して濃度20重量%のポリシラザン溶液を調製した。この溶液にポリシラザンに対して3重量%のt−ブチルアミンを添加し、大気中、20℃で30分間攪拌した。その後、孔径0.1μmのPTFE製フィルターで濾過した。
この溶液を、10cm角、厚さ1mmのガラス板に浸漬塗布法を用いて塗布した。
塗布後、クリーンオーブンにおいて300℃、30分の後処理を行った。
【0100】
比較例3
参考例で合成したペルヒドロポリシラザンをm−キシレンに溶解して濃度12重量%のポリシラザン溶液を調製した。この溶液にポリシラザンに対して3重量%のt−ブチルアミンを添加し、大気中、20℃で30分間攪拌した。その後、孔径0.1μmのPTFE製フィルターで濾過した。
この溶液を、厚さ75μm、幅600mm、総延長300mのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム基材を2m/分で搬送しながらグラビア(リバース)コート法(ロール#80)で片面に塗布した。
塗布後、フィルム基材に、95℃、80%RHの恒温恒湿内(30m)を2m/分で搬送する後処理(15分間)を施した。
【0101】
膜特性の評価
上記実施例1〜12及び比較例1〜3で得られたセラミック被膜は、IR分光法におけるSi−H振動(N−H振動)ピークの消失と、Si−O振動ピークの出現により、すべて実質的にシリカへ転化したことを確認した。
また、これらセラミック被膜の膜厚は、シリコンウェハーのような硬質基板の場合にはエリプソメーター及び段差計により測定し、またフィルム基材の場合には分光法により可視領域のスペクトル中の干渉を生じたピークを用いて計算したところ、すべて0.4μmであることがわかった。
【0102】
これらのセラミック被膜の特性を以下の項目について評価した。参考までに、用いたプラスチックフィルム基材自体の特性についても(5)密着性を除いて測定した。
(1)酸素透過率(単位:cc/m2 /24時間/atm)
モコン製測定器を用いて25℃、65%RHで測定した。
(2)水蒸気透過率(単位:g/m2 /24時間)
モコン製測定器を用いて40℃、90%RHで測定した。
(3)光透過率
ヘイズメーターを用いて可視光平均透過率を測定した。
(4)耐擦傷性
スチールウール#000番、荷重500g、(面積2cm角)100往復の条件で試験し、目視で傷の数を観察し、A〜Eの等級付けをした。評価A:傷なし、評価B:傷2本以下、評価C:傷3〜5本、評価D:傷6〜10本、評価E:傷11本以上。
(5)密着性
碁盤目テープ剥離試験で評価した。
【0103】
また、実施例1及び2並びに比較例1で得られたセラミック膜の緻密性を、酸による腐食速度(エッチングレート)測定によって評価した。測定方法は、60%硝酸100mLと50%フッ酸1mLを混合した腐食液にセラミック膜を2分間浸漬し、浸漬前後の膜厚をエリプソメーターで測定することとした。
また、実施例1〜3並びに比較例1及び2については鉛筆硬度を測定した。
上記各種測定結果を以下の表1にまとめて記載する。
【0104】
【表1】
Figure 0003902699
【0105】
表1より、紫外線照射によりアミン類を放出する化合物を添加したポリシラザン組成物より得られるセラミック膜(実施例1〜12)は、アミン類を直接添加したポリシラザン組成物より得られるセラミック膜(比較例1〜3)と同等の膜特性(ガスバリヤ性、光透過率、緻密性、硬度、密着性、耐擦傷性)を示すことがわかる。
【0106】
実施例13:コーティング組成物の保存安定性
上記実施例1〜12及び比較例1〜3においてそれぞれ調製されたコーティング組成物(実施例1〜12では紫外線照射によりアミン類を放出する化合物を添加したポリシラザン組成物、比較例1〜3ではアミン類(t−ブチルアミン)を添加したポリシラザン組成物)の保存安定性を調べた。
保存条件は、窒素封入下で4週間の常温保存とした。
各組成物について、上記保存期間前後で数平均分子量(Mn)を測定し、その変化率〔ΔMn=(保存後のMn−保存前のMn)÷保存前のMn〕を求めて下記表2に%で表示した。
【0107】
【表2】
Figure 0003902699
【0108】
表2より、本発明によるポリシラザンコーティング組成物は、紫外線を照射しないとアミン類が放出されないため、アミン類を添加したコーティング組成物よりも保存安定性に優れている(塗布前に高分子量化しにくい)ことがわかる。
【0109】
【発明の効果】
本発明によれば、紫外線照射によりアミン類を放出する化合物をポリシラザン系コーティング組成物に添加することにより、紫外線を照射するまではポリシラザンがセラミックス化することなく良好な保存安定性を示し、紫外線照射により低温で容易にセラミックス化するコーティング組成物が得られる。本発明によるコーティング組成物から塗膜を基材表面に形成し、前記塗膜に紫外線を照射することにより、該塗膜のセラミックス化に要する時間が短縮しセラミックス膜の形成効率が向上すると共に、膜が緻密になる、耐擦傷性(表面硬度)が高くなる、ガスバリア性が向上する、等、最終的に得られるセラミックス膜の特性が向上する。

Claims (2)

  1. ポリシラザンと、紫外線照射によりアミン類を放出する化合物とを含むコーティング組成物。
  2. ポリシラザンと、紫外線照射によりアミン類を放出する化合物とを含む塗膜を基材表面に形成し、前記塗膜に紫外線を照射することを特徴とする、シリカ系セラミックス膜の製造方法。
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