JP3900847B2 - フェライト系耐熱鋼の加工方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、水蒸気に対する耐酸化性(本明細書では、「耐水蒸気酸化性」と称する)を付与するためのフェライト系耐熱鋼の加工方法に係り、より詳しくは、ボイラの過熱器管、再熱蒸気管や蒸気配管あるいは原子力、化学工業の分野で使用される熱交換器管など水蒸気に曝される部位に使用される鋼として用いるのに適したフェライト系耐熱鋼の加工方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
将来的なエネルギー問題を見越して、省エネルギー化を達成する技術の開発や地球資源のリサイクルが求められることに加え、近年では、世界的な取り組みとして地球の温暖化を防止するために化石燃料の燃焼に伴うCO2の排出量を低減させることが社会的に求められている。現在、化石燃料を燃焼させる発電用ボイラの高効率化は、世界各国において重要なエネルギー政策のひとつとなっており、ボイラ発電の高効率化のためには、ボイラの蒸気温度と蒸気圧力を高めた、いわゆる超超臨界圧ボイラの新設が世界中で進められている。
【0003】
このような超超臨界圧ボイラでは、通常のボイラに比べて蒸気温度および蒸気圧力が一段と高く、ボイラの過熱器管、再熱器管などの熱交換器管や、高温蒸気をタービンに送る主蒸気管、再熱蒸気管などの配管の温度と圧力は、通常のボイラに使用される鋼管が達する温度と圧力を超えて上昇することから、これらの鋼管には、高温強度と高温耐食性が求められる。
【0004】
また、これらの鋼管の内面には、水蒸気に長時間曝されることによって酸化スケールが形成されるが、酸化スケールが剥離した場合、タービンブレードを損傷させるだけでなく、酸化スケールが鋼管の曲部などに堆積した場合には、水蒸気の流れが悪くなるため、酸化スケールが堆積した部分が局所的に過熱され、最悪の場合は噴破事故にもつながる。そのため、超超臨界圧ボイラに用いられる鋼管には、上記の高温強度と高温耐食性に加え、鋼管内面には耐水蒸気酸化性も求められる。
【0005】
高温強度および高温耐食性に優れる鋼として、オーステナイトステンレス鋼が挙げられる。しかし、オーステナイトステンレス鋼は、熱膨張率が大きく、鋼管として用いた場合、酸化スケールが剥離しやすい。そのため、酸化スケールに対する対策を施した発明が開示されている。
【0006】
特開昭53−114722号公報には、オーステナイトステンレス鋼に溶体化処理をした後、ショット加工などの冷間加工を施し、再度、溶体化処理を加えることで、鋼管の表面を細粒化し、耐水蒸気酸化性を高めたステンレス鋼の製造方法の発明が開示されている。
【0007】
特公昭57−55770号公報には、オーステナイトステンレス鋼管に加工率20%以上の冷間加工を行い、次いで2.9℃/sec以下の昇温速度で固溶化する温度まで昇温させることで、耐水蒸気酸化性を付与したオーステナイトステンレス鋼管の熱処理方法の発明が開示されている。
【0008】
特開平6−322489号公報には、任意の元素を含有する溶体化処理されたオーステナイトステンレス鋼管の管内表面に粒子吹き付けピーニング加工層を付与することで耐水蒸気酸化性を高めたボイラ用鋼管の発明が開示されている。
【0009】
しかし、これらの公報に記載された発明は、オーステナイト鋼をベースとした発明であり、いずれも高価なNiを含有するために製造コストが高くなる。一方、製造コスト増を避け、Niをほとんど含有しないフェライト系耐熱鋼をベースにした発明も多数開示されている。
【0010】
特開平6−179954号公報には、SiとCrの添加量が任意の範囲を満たすように規定したフェライト系ボイラ鋼管用鋼の発明が開示されている。この発明では、フェライト鋼の成分元素を調整することで、耐水蒸気酸化性を向上させるとともに、高温強度を有する鋼を得ている。
【0011】
特開平11―92880号公報には、Ti、Yを添加することで母材と酸化被膜との界面近傍に1μm以下の径の極微細な酸化物を形成し、酸化被膜と母材との密着性を高めて耐水蒸気酸化性を向上させたフェライト系耐熱鋼の発明が開示されている。
【0012】
特開2000−248337号公報には、体心立方晶の鉄基合金中の各元素のd電子軌道エネルギーレベルMdと各元素のFeとの結合次数Boが一定の関係を満たすことにより耐水蒸気酸化性を向上させたボイラ用フェライト系耐熱鋼の発明が開示されている。
【0013】
このようにフェライト系耐熱鋼の耐水蒸気酸化性を向上させる発明は多数開示されているが、これらの発明は、いずれも化学成分の調整のみによって耐水蒸気酸化性を向上させることにとどまっている。一般に、フェライト系耐熱鋼は、オーステナイト鋼に比べ熱膨張率が小さいため、酸化スケールの剥離が起こりにくい。しかし、近年、発電用ボイラでは、水蒸気の高温・高圧化に加え、電力の省エネルギー化を促進するため、ボイラを頻繁に起動・停止させて電力の需要変動を調整させていることから、従来では酸化スケールの剥離が問題とならなかった温度域で使用されても、スケールの剥離が起こるといった問題が生じるようになった。前述したように、酸化スケールの剥離は、タービンブレードの損傷や噴破事故を引き起こす。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、高価なオーステナイトステンレス鋼に匹敵する高温強度と高温耐食性をもつ既存のフェライト系耐熱鋼をベースとし、酸化スケールの生成を抑制し、加熱・冷却サイクル下でも実質的に酸化スケールの剥離の生じないフェライト系耐熱鋼の加工方法を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述のような問題を解決するために、フェライト系耐熱鋼の耐水蒸気酸化性に関し、鋼表面に施した冷間加工の影響について種々検討した。
【0016】
従来、オーステナイトステンレス鋼に対しては、耐水蒸気酸化性を付加するために、ショット加工が行われてきた。溶体化処理した後、ショット加工したオーステナイトステンレス鋼を高温の水蒸気に接触させると、酸化スケールの生成の初期段階において成長速度の遅いCr2O3スケールが極めて薄く鋼表面に生成する。このCr2O3スケールは保護性に富み、安定した状態で存在するので、オーステナイトステンレス鋼に耐水蒸気酸化性を付与することができる。
【0017】
一方、従来広く用いられてきたCr含有量が9.5%以下のフェライト系耐熱鋼では、同様にショット加工を行っても、母材からCrが十分に供給されないため、安定したCr2O3スケールを形成することができず、オーステナイトステンレス鋼に見られたに耐水蒸気酸化性の効果は発揮されないと思われてきた。これは、フェライト系耐熱鋼中のCrの拡散はオーステナイト鋼のCrの拡散に比べて100倍程度速いため、ショット加工を行っても拡散を速めることは期待できないと考えられていたためである。しかし、この常識に反し、フェライト系耐熱鋼でも安定したCr2O3スケールを形成することができれば、フェライト系耐熱鋼に耐水蒸気酸化性を付与することができると考えた。
【0018】
そこで、フェライト系耐熱鋼に含まれる成分元素を調整し、熱処理した後、フェライト系耐熱鋼の地金表面にショット加工をすることにより、高温の水蒸気に接触させることで、酸化スケール生成の初期段階に安定なCr2O3被膜が形成されるような下地を作れば、耐水蒸気酸化性に優れた鋼を得ることができると考えた。
【0019】
本発明は、上述の知見をもとに完成に至ったものであり、その要旨は、下記(1)および(2)に記載のフェライト系耐熱鋼の加工方法にある。
【0020】
(1)質量%で、C: 0.02 〜 0.3 %、 Si : 0.02 〜 0.6 %、 Mn : 0.01 〜 2 %、 Cr : 9.5 〜 15 %を含有し、残部が Fe および不純物からなるフェライト系耐熱鋼を、900℃以上の温度で焼ならし処理し、A 1 変態点以下の温度で焼もどし処理した後、酸化スケール層が形成されたままの鋼表面に粒子を吹きつけてショット加工層を形成するフェライト系耐熱鋼の加工方法。
【0021】
(2)質量%で、C: 0.02 〜 0.3 %、 Si : 0.02 〜 0.6 %、 Mn : 0.01 〜 2 %、 Cr : 9.5 〜 15 %を含有し、さらに Ni : 0.1 〜 1.5 %、 Mo : 0.1 〜 3 %、W: 0.1 〜 3 %、 Cu : 0.01 〜 3 %、N: 0.005 〜 0.2 %、V: 0.01 〜 0.5 %、 Nb : 0.01 〜 0.5 %、 Ti : 0.01 〜 0.5 %、 Ca : 0.0001 〜 0.2 %、 Mg : 0.0001 〜 0.2 %、 Al : 0.0001 〜 0.2 %、B: 0.0001 〜 0.2 %および希土類元素: 0.0001 〜 0.2 %のうちの1種または2種以上を含有し、残部が Fe および不純物からなるフェライト系耐熱鋼を、900℃以上の温度で焼ならし処理し、A 1 変態点以下の温度で焼もどし処理した後、酸化スケール層が形成されたままの鋼表面に粒子を吹きつけてショット加工層を形成するフェライト系耐熱鋼の加工方法。
【0022】
【発明の実施の態様】
本発明はフェライト系耐熱鋼の加工方法に関する発明であり、より詳細にはフェライト系耐熱鋼を加工して耐水蒸気酸化性を付与する方法の発明である。
【0023】
以下では、本発明の構成要件である組成元素、熱処理およびショット加工層の形成に分けて詳述する。
(a)組成元素
本発明のフェライト系耐熱鋼は、C、Si、Mn、Crを必須元素として、以下のような元素を含有する。なお、以下に述べる化学組成の%表示はいずれも質量%を意味する。
【0024】
C:0.02〜0.3%
Cは、鋼の高温における引張強さ、クリープ破断強さを高くする効果を有する。その効果を発揮させるためには、C含有量を0.02%以上とすることが必要である。また、C含有量が0.3%を超えると、溶接性が低下する。好ましくは0.04〜0.2%である。
【0025】
Si:0.02〜0.6%
Siは、脱酸元素として作用するとともに、耐水蒸気酸化性を向上させる効果を有する。その効果を発揮させるためには、Si含有量を0.02%以上とすることが必要である。また、Si含有量が0.6%を超えると、加工性が低下する。好ましくは、0.05〜0.4%である。
【0026】
Mn:0.01〜2%
Mnは、不純物として残留するSと反応させMnSを形成し、熱間加工性を向上させる効果を有する。その効果を発揮させるためには、Mn含有量を0.01%以上とすることが必要である。また、Mn含有量が2%を超えると、加工性や溶接性が低下する。
【0027】
Cr:9.5〜15%
Crは、耐水蒸気酸化性を向上させる効果を有する。その効果を発揮させるためには、Cr含有量を9.5%以上とすることが必要である。9.5%未満の場合は、安定なCr2O3皮膜を生成させることができない。また、Cr含有量が15%を超えると、フェライト系耐熱鋼を焼ならし・焼もどししてもマルテンサイト組織に変態する量はごく少量に限られ、δフェライト相が多く残留し、σ相の析出も起こる。その結果、靱性や加工性が損なわれ、高温強度や溶接性も低下する。好ましくは、10〜13%である。
【0028】
Ni:0.1〜1.5%
Niは、靱性の改善に効果があるため、含有させることが好ましい。その効果を発揮させるためには、Ni含有量を0.1%以上とすることが必要である。また、Ni含有量が1.5%を超えると、クリープ破断強さが低下する。
【0029】
Mo、W:0.1〜3%
Mo、Wは、高温強度を高めることから、含有させることが好ましい。その効果は、MoあるいはWの少なくとも一方を0.1%以上添加することで発揮される。また、Mo含有量、W含有量が3%を超えると、加工性、溶接性を損ない、高温組織が不安定になり強度が低下する。
【0030】
Cu:0.01〜3%
Cuは、強度を高め、焼もどしマルテンサイト組織の安定性を確保するのに有効なことから、含有させることが好ましい。その効果を発揮させるためには、Cu含有量を0.01%以上とすることが必要である。また、Cu含有量が3%を超えると、加工性、延性が低下する。
【0031】
N:0.005〜0.2%
Nは、他の元素と結合して鋼を析出強化させる効果があることから、含有させることが好ましい。その効果を発揮させるためには、N含有量を0.005%以上とすることが必要である。また、N含有量が0.2%を超えると、フェライト系耐熱鋼の溶解時にブローホールが生成したり、溶接欠陥となる。
【0032】
V、Nb、Ti:0.01〜0.5%
V、NbおよびTiは、いずれも炭素、窒素と結合して炭窒化物を生成し、析出強化に寄与することから、含有させることが好ましい。その効果は、V、NbあるいはTiの少なくとも一種を0.01%以上含有させることで発揮される。また、V含有量、Nb含有量あるいはTi含有量が0.5%を超えると、加工性が損なわれる。
【0033】
Ca:0.0001〜0.2%、Mg:0.0001〜0.2%、Al:0.0001〜0.2%、B:0.0001〜0.2%、希土類元素(La、Ce、Y、Pd、Ndなど):0.0001〜0.2%
Ca、Mg、Al、Bおよび希土類元素は、いずれも強度、加工性、耐水蒸気酸化性を向上させる効果がある。その効果は、0.0001%以上含有させることで発揮される。また、これらの含有量が0.2%を超えると加工性や溶接性が損なわれる。
(b)熱処理
本発明のフェライト系耐熱鋼の加工方法では、フェライト系耐熱鋼を900℃以上の温度で焼ならし処理し、A1変態点以下の温度で焼もどし処理する。焼ならし処理は、不均一になった結晶粒や組織を均一化して機械的性質を改善する熱処理のことであり、焼もどし処理は、焼入れ後のマルテンサイトを再度、加熱軟化する熱処理のことである。焼ならし処理は1000〜1150℃の温度で、焼もどし処理は750〜800℃以上で行うことが好ましい。
【0034】
このような熱処理を加えることで、フェライト系耐熱鋼は焼もどしマルテンサイト組織が主体の鋼となる。このとき、完全にマルテンサイトに変態している必要はなく、鋼組織に30vol%以下のδフェライトが残留していてもなんら問題はない。
【0035】
焼ならし処理および焼もどし処理は、次工程であるショット加工層の形成工程での下処理の役割も果たす。すなわち、これらの熱処理を行うことで、粗大なCr炭化物が均質固溶あるいは一部が微細に析出する。このような組織を有する地金表面に対してショット加工して、水蒸気の雰囲気下におくと容易にCr2O3被膜を形成させることができる。
【0036】
これらの熱処理は、その温度条件が満たされれば、本発明の効果を得ることができる。実際の焼ならし処理、焼もどし処理では、少なくとも2分間以上それぞれの処理温度で保持される。
(c)ショット加工層の形成
焼もどし処理をした後は、鋼表面に粒子を吹きつけてショット加工層を形成する。一般に鋼表面に粒子を吹きつけて表面層を加工硬化させることをショットピーニング(サンドブラスト、ショットブラスト、ショット加工などともいう)という。この処理方法を用いて鋼表面に粒子を吹きつけると、ビッカース硬さが270以上であるショット加工層が形成される。ショット加工層はその深さが0.01mm以上であることが好ましい。このショット加工層が形成されることで、酸化スケール生成の初期段階に安定なCr2O3被膜が形成するので、得られるフェライト系耐熱鋼の耐水蒸気酸化性は向上する。
【0037】
ショットピーニングに用いる粒子は、その材質、形状は問われない。鋼球、鋼製グリッド、カットワイヤ、ガラスビーズ、珪砂、アルミナ等の砥粒を用いることができる。また、吹きつけ方法も問われない。圧縮空気や遠心力で噴射し吹きつければよい。
【0038】
通常、前工程である熱処理が施された鋼にはその表面に酸化スケール層が形成される。この酸化スケール層は切削、酸洗などで除去してから、粒子を吹きつけてショット加工層を形成してもよいが、後述する表2に示すように酸化スケール層が存在する表面に粒子を吹きつける方が望ましいので、焼もどし処理した後、鋼表面に形成された酸化スケール層に直接、粒子を吹きつけてショット加工層を形成することが好ましい。粒子を吹きつけることで酸化スケールが除去できることに加え、得られるフェライト系耐熱鋼の耐水蒸気酸化性が、切削、酸洗などで酸化スケール層を除去してから粒子を吹きつけた場合に比べ、高くなるからである。
【0039】
ショット加工層は鋼の全面に均一に形成されることが好ましい。しかし、たとえ部分的にでも形成されていれば、使用目的によっては、鋼に十分な性能を付与することができる。また、ショット加工層を形成後、熱処理や酸洗を行うとショット加工層が消失するので、ショット加工層を形成したまま使用する。例えば、本発明のフェライト系耐熱鋼に溶接や熱間曲げ加工を施した場合、ショット加工層は消失するが、所定部に再度、ショット加工を行えば、ショット加工層が形成されるので、消失前と同等の性能を得ることができる。
【0040】
【実施例】
本発明の効果を調べるために、複数のフェライト系耐熱鋼を用意し、それらに本発明の加工方法を適用して、ショット加工層が形成されたフェライト系耐熱鋼を作製した。まず、フェライト系耐熱鋼となるように組成を調整し、各50kgずつ溶解炉で真空誘導により溶製したインゴットを鍛造と圧延により、厚さ10mmの板状にして供試材とした。
【0041】
表1は、各供試材の組成元素を示している。表1において、鋼種AはSTBA26鋼、鋼種Bは火力発電用の耐熱鋼である(火)STBA28鋼で、ともにCr含有量が低く本発明で規定する組成範囲に属さない鋼である。また、鋼種Cは鋼種Bと同じく、火力発電用の耐熱鋼である(火)SUS410J3鋼、鋼種Dは主に欧州で用いられているDIN17175規格のX20CrMoV121鋼で本発明で規定する組成範囲に属する鋼である。さらに、鋼種E〜Hは鋼種A〜Dのような規格鋼ではないが、本発明で規定する組成範囲に属する鋼である。なお、鋼種A〜Hはいずれもオーステナイトステンレス鋼に匹敵する高温強度と高温耐食性を有する鋼である。
【0042】
【表1】
これらの供試材おのおのに1050℃で1時間保持した後、室温まで空冷する焼ならし処理をし、続いて780℃で1時間保持した後、室温まで空冷する焼もどし処理を施した。焼ならし処理、焼もどし処理した各供試材には、酸化スケール層が形成される。そのため、ショットピーニングをしてショット加工層を形成する前に、前処理として、5%HF−10%HNO3で酸洗する、あるいは切削する処理を行い、酸化スケール層を除去した供試材を作製した。
【0043】
そして、酸洗した供試材、切削した供試材、前処理を行わず酸化スケール層が形成されたままの供試材について、ショットピーニングを行った。ショットは吹きつけ圧力980N/cm2で直径0.2mmの鋼球を供試材に吹きつけて行い、供試材の表面を加工硬化させた。なお、ショットピーニングした供試材にビッカース硬さ試験を行い、硬さによりショット加工層が形成されているかを確認した。その結果、供試材によってバラツキはあったが、ビッカース硬さHVが270以上である領域が供試材の表面から0.05〜0.2mm程度の厚さに形成されていることがわかった。
【0044】
続いて、耐水蒸気酸化性を調べる試験を行った。この試験では、酸洗した供試材、切削した供試材、前処理を行わず酸化スケール層が形成されたままの供試材にショットピーニングを行った3種の供試材に加え、酸化スケール層を切削し、5%HF-10%HNO3で酸洗しただけでショットピーニングを行わなかった供試材の合計4種の供試材を用い、これらの供試材を水蒸気の雰囲気下650℃で1000時間保持した後、空冷した。各供試材では、表面に酸化スケール層が形成され、その酸化スケール層の厚みを1つの供試材につき10点測定し、その厚みの平均値を算出した。
【0045】
表2は、各鋼種の各供試材に形成された酸化スケール層の厚みを示している。表2において、「酸洗後ショット」は酸洗した後ショットピーニングを行った供試材、「切削後ショット」は切削した後ショットピーニングを行った供試材、「酸化スケールにショット」は前処理を行わず酸化スケール層が形成されたままショットピーニングを行った供試材、「ショットなし」は酸化スケール層を切削し、5%HF-10%HNO3で酸洗しただけでショットピーニングを行わなかった供試材であることを示す。
【0046】
【表2】
ショットピーニングを行わなかった「ショットなし」では、酸化スケールの厚みはCr含有量との相関が大きく、Cr含有量が少ないほど、酸化スケールの厚みは厚くなる。また、ショットを行った供試材についても、Cr含有量が少ないほど、酸化スケールの厚みは厚くなる傾向があるが、本発明で規定する組成範囲に属さない鋼である鋼種A、Bについては、ショットの有無で酸化スケールの厚みの差に大差はない。本発明で規定する組成範囲に属する鋼である鋼種C〜Hでは、ショットなしの場合に比べ、参考例として示した「酸洗後ショット」および「切削後ショット」の場合でも、酸化スケールの厚みが半分以下になった。そして、本発明例である「酸化スケールにショット」では、酸化スケールの厚みが極めて薄くなり、耐水蒸気酸化性が著しく向上した。
【0047】
また、これらの供試材について、650℃で30分加熱後、約500℃/hで室温まで放冷する加熱・冷却サイクルを水蒸気の雰囲気中で1000回施し、試験後、酸化被膜の剥離について調べた。その結果、本発明で規定する組成範囲に属さない鋼である鋼種A、Bについては、いずれの供試材についても酸化スケールの剥離が見られたが、本発明で規定する組成範囲に属する鋼である鋼種C〜Hについては、ショットを行った供試材には酸化スケールの剥離が見られなかった。
【0048】
そして、さらに詳細に調べるために、鋼種Cの「酸化スケールにショット」の供試材と鋼種Aの「ショットなし」の供試材および「酸化スケールにショット」の供試材について、SEMによるEDX分析を行うことにより断面構造を観察した。C鋼では、水蒸気の雰囲気下に置くことで新たに形成された酸化スケールと地金表面との界面に極めて薄いCr2O3からなる層が確認できた。一方、A鋼では、「ショットなし」の供試材および「酸化スケールにショット」の供試材ともに、酸化スケールと地金表面との界面にCr2O3の層は存在しなかった。
【0049】
以上から、本発明で規定する組成範囲に属する鋼に、ショットピーニングを行えば、酸化スケール層と地金表面との界面にCr2O3が形成され、水蒸気の雰囲気下に置かれても高い耐水蒸気酸化性が発揮されることがわかった。
【0050】
【発明の効果】
本発明に係るフェライト系耐熱鋼の加工方法を用いれば、鋼表面に酸化スケールを形成することが困難になり、かつ酸化スケールが形成されても剥離しない耐水蒸気酸化性に優れたフェライト系耐熱鋼を得ることができる。本発明に係るフェライト系耐熱鋼の加工方法を用いて加工した鋼管は水蒸気に対する酸化性が優れているため、ボイラの熱交換器管などに用いる鋼管として使用されるのに十分な特性を有する。
Claims (2)
- 質量%で、C:0.02〜0.3%、Si:0.02〜0.6%、Mn:0.01〜2%、Cr:9.5〜15%を含有し、残部が Fe および不純物からなるフェライト系耐熱鋼を、900℃以上の温度で焼ならし処理し、A1変態点以下の温度で焼もどし処理した後、酸化スケール層が形成されたままの鋼表面に粒子を吹きつけてショット加工層を形成するフェライト系耐熱鋼の加工方法。
- 質量%で、C:0.02〜0.3%、Si:0.02〜0.6%、Mn:0.01〜2%、Cr:9.5〜15%を含有し、さらにNi:0.1〜1.5%、Mo:0.1〜3%、W:0.1〜3%、Cu:0.01〜3%、N:0.005〜0.2%、V:0.01〜0.5%、Nb:0.01〜0.5%、Ti:0.01〜0.5%、Ca:0.0001〜0.2%、Mg:0.0001〜0.2%、Al:0.0001〜0.2%、B:0.0001〜0.2%および希土類元素:0.0001〜0.2%のうちの1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不純物からなるフェライト系耐熱鋼を、900℃以上の温度で焼ならし処理し、A 1 変態点以下の温度で焼もどし処理した後、酸化スケール層が形成されたままの鋼表面に粒子を吹きつけてショット加工層を形成するフェライト系耐熱鋼の加工方法。
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