JP3891330B2 - 改変された耐熱性dnaポリメラーゼ - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)における増幅効率及び/又は正確性の向上した耐熱性DNAポリメラーゼ及びその製法に関する。更には、該耐熱性DNAポリメラーゼを用いた核酸の増幅方法、並びに該耐熱性DNAポリメラーゼを含有する試薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、PCRは生化学、分子生物学および臨床病理分野における研究、検査において必須の技術の一つとなっている。PCRの特徴は、耐熱性DNAポリメラーゼを用いるところにあり、現在最も頻繁に利用されているDNAポリメラーゼは主として、サーマス・アクアティカス(Thermus aquaticus)由来の耐熱性DNAポリメラーゼ(Taq DNA polymerase)やサーマス・サーモティカス(Thermus thermophilus)由来の耐熱性DNAポリメラーゼ(Tth DNA polymerase)などのPolI型と呼ばれる耐熱性DNAポリメラーゼである。PolI型DNAポリメラーゼの特徴は、増幅効率が良く、条件設定が容易であるところにある。しかしながら、該酵素には、増幅の際に核酸の取り込みの正確性(fidelity)が悪いという問題があり、増幅された遺伝子をクローニングするような場合には適していないとされている。
【0003】
一方、超好熱始原菌由来のα型と呼ばれるDNAポリメラーゼ、例えばパイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)由来の耐熱性DNAポリメラーゼ(Pfu DNAポリメラーゼ;WO92/9689号公報、特開平5−328969号公報)、サーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)由来の耐熱性DNAポリメラーゼ(Ti(Vent)ポリメラーゼ、特開平6−7160号公報)、パイロコッカス・コダカラエンシス (Pyrococcus kodakaraensis) KOD1(旧名:Pyrococcus sp. KOD1)由来の耐熱性DNAポリメラーゼ(KOD DNAポリメラーゼ;特開平7−298879号公報)なども知られている。また、最近の報告でパイロコッカス・コダカラエンシスはサーモコッカス属に分類されることがある。これら、α型DNAポリメラーゼは3’−5’エキソヌクレアーゼ活性(Proof reading活性)を有し、核酸の取り込み際の正確性は、Taq DNAポリメラーゼなどのpolI型DNAポリメラーゼに比べて優れているという特徴を有する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、α型DNAポリメラーゼを用いたPCR増幅においては、その増幅効率が十分でないなどの問題が存在している。また、これらα型DNAポリメラーゼには、PCRの反応時間、酵素量及びプライマー濃度等の至適条件の幅が狭いものが多い。
α型DNAポリメラーゼにおけるPCR増幅における上記問題点の原因として、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の強さが関与していることが考えられる。すなわち、PCR時にプライマーなどがその3’−5’エキソヌクレアーゼ活性によって削られることにより、PCRにおける増幅効率が低下すると考えられている。また、α型DNAポリメラーゼは単一タンパク質内に3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を示す領域と、DNAポリメラーゼ活性を示す領域が存在するため、両活性はお互いに相互作用しており、それぞれの領域の核酸への親和性などの違いなどもPCR増幅に影響を及ぼしていると考えられる。
【0005】
3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の発現を担っているDNAポリメラーゼのアミノ酸配列中には、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性発現に関与していると思われる高度に保存されたアミノ酸領域(EXOI(図1), EXOII, EXOIII)が存在していることが知られている(Gene, 100, 27-38 (1991), Gene, 112, 139-144 (1992))。EXO I領域にはXDXEXモチーフ(D:アスパラギン酸、E:グルタミン酸、X:任意のアミノ酸)が存在し、アスパラギン酸とグルタミン酸はエキソヌクレアーゼ活性の発現に必須であることが知られている(Kongら(1993)、Journal of Biological Chemistry, vol. 268,1965-1975)。これらのアミノ酸配列におけるアスパラギン酸とグルタミン酸を中性のアミノ酸であるアラニンに置換することによって、エキソヌクレアーゼ活性を欠失または1万分の1以下に低減できることが報告されている(Kongら(1993)、Journal of Biological Chemistry, vol. 268,1965-1975)。しかしながら、エキソヌクレアーゼ活性を欠失又は1万分の1以下に低減させることにより、α型DNAポリメラーゼの特徴であるDNA複製時の正確性も同時に失われるという問題が存在した。
【0006】
さらに、KOD DNAポリメラーゼにおける上記XDXEXモチーフのXで示されるアミノ酸を任意のアミノ酸に置換することにより、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を段階的に減衰させる試みも行われている(特開平10−42871号公報)。この方法によると、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性が低下するにつれてPCR効率の上昇と増幅における正確性(fidelity)の低下が同時に観察される。したがって、この部分を置換する場合には正確性が損なわれない程度に3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の低下した改変体酵素を作製することが重要となる。しかしながら、この方法によって得られた酵素、例えばKOD DNAポリメラーゼの5’末端から第142番目のイソロイシンをグルタミンに置換した変異体(IQ)や、リジンに置換した変異体(IK)は、必ずしもコピー数の低いDNAからの増幅率が必ずしも良いとは言えず、優れたPCR効率を有する変異体とはいえなかった(図3)。
また特開平10−42871号公報によれば、この方法を用いる限りにおいて3’−5’エキソヌクレアーゼ活性(proof reading活性)の上昇した変異体を得ることは困難である。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは本課題を解決するためKOD DNAポリメラーゼの種々の変異体を作製し、鋭意検討を重ねた結果、EXOI領域中のXDXEXモチーフのグルタミン酸から数えて4つ目のヒスチジン残基(147番目;以下、Hとも示す)を種々のアミノ酸に置換することにより、様々な強さの3’−5’エキソヌクレアーゼ活性、PCR効率及び正確性を示す耐熱性DNAポリメラーゼの取得が可能であることを見出し、本発明に到達した(以下、このヒスチジンを含むモチーフをDXEXXXHモチーフと呼ぶ。DX1EX2X3X4Hモチ-フ、および配列DX1EX2X3X4Hなどの表記も同義である。)。
【0008】
すなわち、本発明は以下のような構成からなる。
1. 3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有する耐熱性DNAポリメラーゼのエキソI (EXOI) 領域のDXE配列及び該配列のEに隣接する4アミノ酸長のペプチドからなるDX1EX2X3X4H(D:アスパラギン酸、E:グルタミン酸、H:ヒスチジン、X1,X2,X3及びX4:任意のアミノ酸)配列において、ヒスチジンが他のアミノ酸に置換された耐熱性DNAポリメラーゼ。
2. DX1EX2X3X4H 配列中のヒスチジンがアスパラギン酸、グルタミン酸、チロシン、アラニン、リジン、及びアルギニンからなる群から選ばれるいずれかのアミノ酸に置換された請求項1記載の耐熱性DNAポリメラーゼ。
3. 下記の理化学的性質を有する請求項1記載の耐熱性DNAポリメラーゼ。
(1)DNA伸長速度:少なくとも20塩基/秒
(2)熱安定性:pH8.8(25℃での測定値)にて95℃、6時間の処理後の該DNAポリメラーゼが、熱処理前のDNAポリメラーゼに比して、10%以上のDNAポリメラーゼ残存活性を保持する
4. 下記の理化学的性質を有する請求項3記載の耐熱性DNAポリメラーゼ。
(1)DNA伸長速度:少なくとも30塩基/秒
(2)熱安定性:pH8.8(25℃での測定値)にて95℃、6時間の処理後の該DNAポリメラーゼが、熱処理前のDNAポリメラーゼに比して、40%以上のDNAポリメラーゼ残存活性を保持する
(3)アミノ酸配列:配列番号2に記載のアミノ酸配列中、アミノ酸番号141〜147に位置するDIETLYH(D:アスパラギン酸、I:イソロイシン、E:グルタミン酸、T:スレオニン、L:ロイシン、Y:チロシン、H:ヒスチジン)配列のうち、ヒスチジンを他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列を有する。
5. 下記理化学的性質を有する請求項4記載の耐熱性DNAポリメラーゼ。
(1)DNA伸長速度:少なくとも30塩基/秒
(2)熱安定性:pH8.8(25℃での測定値)にて95℃、6時間の処理後の該DNAポリメラーゼが、熱処理前のDNAポリメラーゼに比して、60%以上のDNAポリメラーゼ残存活性を保持する
(3)アミノ酸配列:配列番号2に記載のアミノ酸配列中、アミノ酸番号141〜147に位置するDIETLYH(D:アスパラギン酸、I:イソロイシン、E:グルタミン酸、T:スレオニン、L:ロイシン、Y:チロシン、H:ヒスチジン)配列のうち、ヒスチジンを他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列を有する。
6. 配列番号2に記載のアミノ酸配列中、第147番目のヒスチジンをアスパラギン酸、グルタミン酸、チロシン、アラニン、リジン、及びアルギニンのいずれかのアミノ酸に置換した請求項5記載の耐熱性DNAポリメラーゼ。
7. 配列番号2に記載のアミノ酸配列中、第147番目のヒスチジンをアスパラギン酸に置換した請求項6記載の耐熱性DNAポリメラーゼ。
8. 配列番号2に記載のアミノ酸配列中、第147番目のヒスチジンをグルタミン酸に置換した請求項6記載の耐熱性DNAポリメラーゼ。
9. 配列番号2に記載のアミノ酸配列中、第147番目のヒスチジンをチロシンに置換した請求項6記載の耐熱性DNAポリメラーゼ。
10. 配列番号2に記載のアミノ酸配列中、第147番目のヒスチジンをアラニンに置換した請求項6記載の耐熱性DNAポリメラーゼ。
11. 配列番号2に記載のアミノ酸配列中、第147番目のヒスチジンをリジンに置換した請求項6記載の耐熱性DNAポリメラーゼ。
12. 配列番号2に記載のアミノ酸配列中、第147番目のヒスチジンをアルギニンに置換した請求項6記載の耐熱性DNAポリメラーゼ。
13. 3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有する耐熱性DNAポリメラーゼのエキソI (EXOI) 領域のDXE配列及び該配列のEに隣接する4アミノ酸長のペプチドからなるDX1EX2X3X4H(D:アスパラギン酸、E:グルタミン酸、H:ヒスチジン、X1,X2,X3及びX4:任意のアミノ酸)配列において、ヒスチジンが他のアミノ酸に置換された耐熱性DNAポリメラーゼをコードする遺伝子。
14. 下記の理化学的性質を有する改変された耐熱性DNAポリメラーゼをコードする請求項13記載の遺伝子。
(1)DNA伸長速度:少なくとも20塩基/秒
(2)熱安定性:pH8.8(25℃での測定値)にて95℃、6時間の処理後の該DNAポリメラーゼが、熱処理前のDNAポリメラーゼに比して、10%以上のDNAポリメラーゼ残存活性を保持する
15. 下記の理化学的性質を有する改変された耐熱性DNAポリメラーゼをコードする請求項13記載の遺伝子。
(1)DNA伸長速度:少なくとも30塩基/秒
(2)熱安定性:pH8.8(25℃での測定値)にて95℃、6時間の処理後の該DNAポリメラーゼが、熱処理前のDNAポリメラーゼに比して、40%以上のDNAポリメラーゼ残存活性を保持する
(3)アミノ酸配列:配列番号2に記載のアミノ酸配列中、アミノ酸番号141〜147に位置するDIETLYH(D:アスパラギン酸、I:イソロイシン、E:グルタミン酸、T:スレオニン、L:ロイシン、Y:チロシン、H:ヒスチジン)配列のうち、ヒスチジンを他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列を有する。
16. 下記の理化学的性質を有する改変された耐熱性DNAポリメラーゼをコードする請求項13記載の遺伝子。
(1)DNA伸長速度:少なくとも30塩基/秒
(2)熱安定性:pH8.8(25℃での測定値)にて95℃、6時間の処理後の該DNAポリメラーゼが、熱処理前のDNAポリメラーゼに比して、60%以上のDNAポリメラーゼ残存活性を保持する
(3)アミノ酸配列:配列番号2に記載のアミノ酸配列中、アミノ酸番号141〜147に位置するDIETLYH(D:アスパラギン酸、I:イソロイシン、E:グルタミン酸、T:スレオニン、L:ロイシン、Y:チロシン、H:ヒスチジン)配列のうち、ヒスチジンを他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列を有する。
17. 請求項13〜16のいずれかに記載の遺伝子を発現ベクターに挿入されてなる遺伝子組換えベクター。
18. ベクターがpLED-MIもしくはpBluescript由来のベクターである請求項17記載の遺伝子組換えベクター。
19. 請求項17又は18に記載の遺伝子組換えベクターを用いて宿主細胞を形質転換した形質転換体。
20. 宿主細胞がエシェリシア・コリ(Escherichia coli)である請求項19記載の形質転換体。
21. 請求項20記載の形質転換体を培養し、培養物から耐熱性DNAポリメラーゼを採取することを特徴とする耐熱性DNAポリメラーゼの製造方法。
22. 鋳型としてのDNA、少なくとも1種のプライマー、dNTP、及び請求項1〜12のいずれかに記載の耐熱性DNAポリメラーゼを反応させることにより、プライマーを伸長させてDNAプライマー伸長物を合成することを含む核酸増幅ないし伸長方法。
23. プライマーが2種のオリゴヌクレオチドであって、一方は他方のDNA伸長物に互いに相補的である請求項22記載の核酸増幅方法。
24. 加熱および冷却を繰り返す請求項22記載の核酸増幅方法。
25・ 一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物に互いに相補的である2種のプライマー、dNTP、および請求項1〜12のいずれかに記載の耐熱性DNAポリメラーゼ、2価イオン、1価イオン及び緩衝液を含むことを特徴とする核酸増幅用試薬。
26. 一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物に互いに相補的である2種のプライマー、dNTP、請求項1〜12のいずれかに記載の耐熱性DNAポリメラーゼ、マグネシウムイオン、アンモニウムイオン及びカリウムイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種、BSA(牛血清アルブミン)、非イオン性界面活性剤、及び緩衝液を含有することを特徴とする核酸増幅用試薬。
27. 一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物に互いに相補的である2種のプライマー、dNTP、請求項1〜12のいずれかに記載の耐熱性DNAポリメラーゼ、マグネシウムイオン、アンモニウムイオン及びカリウムイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種、BSA、非イオン性界面活性剤、緩衝液、及び該耐熱性DNAポリメラーゼのポリメラーゼ活性及び3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の少なくとも1つの活性を抑制する活性を有する抗体を含有する核酸増幅用試薬。
28. 請求項1〜12のいずれかに記載の耐熱性DNAポリメラーゼを1種以上混合されたことを特徴とするDNAポリメラーゼ組成物。
29. 鋳型としてのDNA、変異導入プライマー、dNTP及び請求項1〜12のいずれかに記載の耐熱性DNAポリメラーゼを反応させることにより、プライマーを伸長させてDNAプライマー伸長物を合成することを含む遺伝子変異導入方法。
30.変異導入プライマー、dNTP、及び請求項1〜12のいずれかに記載の耐熱性DNAポリメラーゼを含んでなることを特徴とする遺伝子変異導入用試薬。
【0009】
本発明においては、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有する耐熱性DNAポリメラーゼの該DXEXXXHモチーフのHをグルタミン酸やアスパラギン酸などの酸性アミノ酸に置換することにより、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の低下させることができる。
実際、KOD DNAポリメラーゼHE変異体(147番目のヒスチジンをグルタミン酸に置換)およびHD変異体(147番目のヒスチジンをアスパラギン酸に置換)は野生型KOD DNAポリメラーゼに比べて3’−5’エキソヌクレアーゼ活性がそれぞれ25%、6.25%程度と低下した(図2)。
また、本発明において、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有する耐熱性DNAポリメラーゼの該DXEXXXHモチーフのヒスチジンをグルタミン酸やアスパラギン酸などの酸性アミノ酸や、チロシンやアラニンなどの中性アミノ酸に置換することによって、特に低いコピー数のDNAからのPCR増幅における効率を向上させることができる。
実際、KOD DNAポリメラーゼHE変異体(147番目のヒスチジンをグルタミン酸に置換)、HD変異体(147番目のヒスチジンをアスパラギン酸に置換)、HY変異体(147番目のヒスチジンをチロシンに置換)及びHA変異体(147番目のヒスチジンをアラニンに置換)においては、PCR効率の上昇を認めることが可能であった(図3,図4)。これら変異体のうち、特にHYにおいてはエキソヌクレアーゼ活性の顕著な低下は見られなかったことから(図2)、該DXEXXXHモチーフの第147番目のヒスチジンはエキソヌクレアーゼ活性の強弱とは独立してPCR効率を左右する役割も担っていることを示唆している。また、長いサイズのDNAの増幅においては、特に酸性アミノ酸に置換したHE変異体、HD変異体においてPCR効率が向上していることが確認された(図4)。
【0010】
更に、本発明においては、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有する耐熱性ポリメラーゼの該DXEXXXHモチーフのHをリジンやアルギニンなどの塩基性アミノ酸に置換することにより、耐熱性DNAポリメラーゼの3’−5’エキソヌクレアーゼ活性及び/又はPCR時における正確性を向上させることができる。
実際、本発明の検討において得られたKOD DNAポリメラーゼHK変異体(147番目のヒスチジンをリジンに置換)およびHR変異体(147番目のヒスチジンをアルギニンに置換)においては、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の顕著な上昇を確認することができた(図2)。また、両変異体ともに野生型酵素に比べてPCR時の正確性の向上を確認することが可能であった(図5)。
また、147番目のヒスチジンを上記以外のアミノ酸に置換することによっても新たな機能を付加することができる可能性のあることは容易に予想しうる。
【0011】
【発明の実施態様】
本発明の耐熱性DNAポリメラーゼは、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼのアミノ酸配列中、エキソI (EXOI) 領域のDXE配列及び該配列のEに隣接する4アミノ酸長のペプチドからなるDX1EX2X3X4H(D:アスパラギン酸、E:グルタミン酸、H:ヒスチジン、X1,X2,X3及びX4:任意のアミノ酸)配列において、Hを他のアミノ酸に置換したことを特徴とする酵素である。当該配列をDX1EX2X3X4Hとしたときには、エキソI(EXOI)領域は、種々の報告によりその領域の幅が若干異なっているが、必ずDXE配列を含み、該領域のC末端はX2,X3,X4のいずれかとされている。エキソI(EXOI)領域の一部及び隣接するアミノ酸配列からなるDX1EX2X3X4H モチーフを有する耐熱性DNAポリメラーゼはその起源を問わないが、例えば、パイロコッカス・コダカラエンシスKOD1株由来のKOD DNAポリメラーゼ、パイロコッカス・フリオサス由来の耐熱性DNAポリメラーゼ、及びサーモコッカス・リトラリス由来の耐熱性DNAポリメラーゼなどが例示される。
該DX1EX2X3X4H モチーフの具体的な配列としては「DIETLYH」を挙げることができる。この配列はパイロコッカス・コダカラエンシスKOD1株及び、パイロコッカス・フリオサス由来のDNAポリメラーゼにおいて完全に保存されており、サーモコッカス・リトラリス由来のDNAポリメラーゼにおいても「DIETFYH」であり、F以外は同様に保存されている(図1)。
また、該DX1EX2X3X4H モチーフのうち、アスパラギン酸及びグルタミン酸を故意に他のアミノ酸に置換した変異体についても本発明の効果は同様に及ぶことは容易に予想することができ、本発明の範疇に入るものであるといえる。
「他のアミノ酸」としては、特に限定されることなく、アスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸、チロシン、アラニン、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、プロリン、アスパラギン、グルタミン、スレオニン、システイン、メチオニン、トリプトファン、フェニルアラニン等の中性アミノ酸、リジン、アルギニン等の塩基性アミノ酸等を例示することができる。好ましくは、アスパラギン酸、グルタミン酸、チロシン、アラニン、リジン、アルギニンが挙げられる。
【0012】
本発明の一実施態様としては、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼのアミノ酸配列中、エキソI (EXOI) 領域を含有するアミノ酸配列DX1EX2X3X4H (D:アスパラギン酸、E:グルタミン酸、H:ヒスチジン、X1,X2,X3及びX4:任意のアミノ酸)配列のうち、Hをグルタミン酸やアスパラギン酸などの酸性アミノ酸に置換することにより、改変前の酵素に比べて有意に3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の低下した耐熱性ポリメラーゼを挙げることができる。
また、本発明の一実施態様としては、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼのアミノ酸配列中、エキソI(EXOI) 領域を含有するアミノ酸配列DX1EX2X3X4H のうち、Hをアスパラギン酸、グルタミン酸、チロシン、アラニンに置換することにより、核酸増幅能に優れるように改変した耐熱性ポリメラーゼを挙げることができる。
さらに、本発明の一実施態様としては、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼのアミノ酸配列中、エキソI (EXOI) 領域のDXE配列及び該配列のEに隣接する4アミノ酸長のペプチドからなるDX1EX2X3X4H(D:アスパラギン酸、E:グルタミン酸、H:ヒスチジン、X1,X2,X3及びX4:任意のアミノ酸)配列において、Hをリジンやアルギニンなどの塩基性アミノ酸に置換することにより、有意に3’−5’エキソヌクレアーゼ活性及び/又は正確性を上昇させた耐熱性ポリメラーゼを挙げることができる。
具体的には、本発明においては、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有する耐熱性DNAポリメラーゼの該DX1EX2X3X4H モチーフのHをグルタミン酸やアスパラギン酸などの酸性アミノ酸に置換することにより、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を低下させることができる。
実際、KOD DNAポリメラーゼHE変異体(147番目のヒスチジンをグルタミン酸に置換)およびHD変異体(147番目のヒスチジンをアスパラギン酸に置換)は、野生型KOD DNAポリメラーゼに比べて3’−5’エキソヌクレアーゼ活性がそれぞれ25%、6.25%程度と低下した(図2)。
【0013】
本発明の一実施態様としては、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼのアミノ酸配列中、エキソI (EXOI) 領域のDXE配列及び該配列のEに隣接する4アミノ酸長のペプチドからなるDX1EX2X3X4H(D:アスパラギン酸、E:グルタミン酸、H:ヒスチジン、X1,X2,X3及びX4:任意のアミノ酸)配列のうち、Hを他のアミノ酸に置換した酵素であり、更に下記理化学的性質を有する改変された耐熱性DNAポリメラーゼに関する。
(1)DNA伸長速度:少なくとも20塩基/秒
(2)熱安定性:p H8.8(25℃での測定値)にて95℃、6時間の処理で10%以上の残存活性を保持することができる(即ち、pH8.8(25℃での測定値)にて95℃、6時間の処理後の該DNAポリメラーゼが、熱処理前のDNAポリメラーゼに比して、10%以上のDNAポリメラーゼ残存活性を保持する。)
【0014】
また、本発明の別な実施態様としては、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼのアミノ酸配列中、エキソI (EXOI) 領域のDXE配列及び該配列のEに隣接する4アミノ酸長のペプチドからなるDX1EX2X3X4H(D:アスパラギン酸、E:グルタミン酸、H:ヒスチジン、X1,X2,X3及びX4:任意のアミノ酸)配列のうち、Hを他のアミノ酸に置換した酵素であり、更に下記理化学的性質を有する改変された耐熱性DNAポリメラーゼに関する。
(1)DNA合成速度:少なくとも30塩基/秒
(2)熱安定性:pH8.8 (25℃での測定値)にて95℃、6時間の処理で40%
以上の残存活性を保持することができる。
【0015】
また、本発明の別な実施態様としては、下記性質を有する改変された耐熱性DNAポリメラーゼがある。
(1)DNA合成速度:少なくとも30塩基/秒
(2)熱安定性:pH8.8(25℃での測定値)にて95℃、6時間の処理で60%以上の残存活性を保持することができる
(3)至適温度:約65〜75℃(熱安定性測定と同じ組成下で温度を変えて測定。)
(4)分子量:88〜90KDa(計算値)であり、下記(5)のヒスチジン以外の部位において、糖鎖や欠失、挿入、又は1又は数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入、付加があってもよい。
(5)アミノ酸配列:配列番号2に記載のアミノ酸配列中、アミノ酸番号141〜147に位置するDIETLYH(D:アスパラギン酸、I:イソロイシン、E:グルタミン酸、T:スレオニン、L:ロイシン、Y:チロシン、H:ヒスチジン)配列のうち、Hを他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列を有する。
【0016】
また、本発明の別な実施態様としては、下記性質を有する改変された耐熱性DNAポリメラーゼがある。
(1)DNA合成速度:少なくとも30塩基/秒
(2)熱安定性:pH8.8(25℃での測定値)にて95℃、6時間の処理で60%以上の残存活性を保持することができる
(3)アミノ酸配列:配列番号2に記載のアミノ酸配列中、第147番目のアミノ酸(即ち、ヒスチジン)を他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列を有する。
【0017】
本発明の更に具体的な例としては、配列番号2に記載のアミノ酸配列中、第147番目のヒスチジンをグルタミン酸、アスパラギン酸、チロシン、アラニン、リジン及びアルギニンのいずれかに置換した耐熱性DNAポリメラーゼを挙げることができる。ここで、本願発明において、配列番号2に記載のアミノ酸配列とは、第147番目のヒスチジン残基以外のアミノ酸のうちの1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつDNAポリメラーゼ活性を有するものも含むものである。好ましくは、配列番号2のアミノ酸配列と95%以上の相同性を有する範囲で、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加され、且つDNAポリメラーゼ活性を有するものも含むものが挙げられる。
【0018】
本発明において、DNAポリメラーゼ活性とは鋳型DNAにアニールされたオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの3’−ヒドロキシル基にデオキシヌクレオチド5’−トリホスフェートのα-ホスフェートを共有結合せしめることにより、デオキシリボ核酸にデオキシリボヌクレオチド5’−モノホスフェートを鋳型依存的に導入する反応を触媒する活性をいう。
その活性測定法は、酵素活性が強い場合には、保存緩衝液(50mM Tris−HCl(pH8.0),50mM KCl,1mM ジチオスレイトール,0.1% Tween20,0.1% Nonidet P40,50% グリセリン)でサンプルを希釈して測定を行う。本発明では、下記に記載のA液25μl、B液5μl、C液5μl、滅菌水10μl、及び酵素溶液5μlをマイクロチューブに加えて75℃にて10分間反応する。その後氷冷し、E液50μl、D液100μlを加えて、攪拌後更に10分間氷冷する。この液をガラスフィルター(ワットマン製GF/Cフィルター)で濾過し、D液及びエタノールで十分洗浄し、フィルターの放射活性を液体シンチレーションカウンター(パッカード製)で計測し、鋳型DNAのヌクレオチドの取り込みを測定する。酵素活性の1単位はこの条件で30分当りの10nmolのヌクレオチドを酸不溶性画分(即ち、D液を添加したときに不溶化する画分)に取り込む酵素量とする。
A:40mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)
16mM 塩化マグネシウム
15mM ジチオスレイトール
100μg/ml BSA(牛血清アルブミン)
B:2μg/μl 活性化仔牛胸腺DNA
C:1.5mM dNTP(250cpm/pmol [3H]dTTP)
D:20% トリクロロ酢酸(2mMピロリン酸ナトリウム)
E:1mg/ml サケ精子DNA
【0019】
本発明において、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性とはDNAの3’末端領域を切除し、5’−モノヌクレオチドを遊離する活性をいう。その活性測定は、以下の通りである。50μlの反応液(120mM Tris-塩酸緩衝液(pH8.8、25℃)、10mM KCl、6mM 硫酸アンモニウム、1mM MgCl2、0.1%Triton X-100、0.001% BSA、5μgトリチウムラベルされた大腸菌DNA)を1.5mlのマイクロチューブに分注しDNAポリメラーゼを加える。75℃で10分間反応させた後、氷冷によって反応を停止し、次にキャリアーとして0.1%のBSA 50μlを加え、さらに10%のトリクロロ酢酸、2%ピロリン酸ナトリウム溶液100μlを加えて混合する。氷上で15分放置した後、12000回転にて10分間遠心分離し沈殿を分離する。上清100μlの放射活性を液体シンチレーションカウンター(パッカード製)で計測し、酸可溶性画分に遊離したヌクレオチド量を測定する。
【0020】
本発明において、DNA伸長速度とは単位時間あたりのDNA合成数をいう。その測定法はDNAポリメラーゼの反応液(20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)、8mM 塩化マグネシウム、7.5mM ジチオスレイトール、100μg/ml BSA、0.1mM dNTP、0.2μCi[α-32P]dCTP)を、プライマーをアニーリングさせたM13mp18 1本鎖DNAと75℃で反応させる。反応停止は等量の反応停止液(50mM 水酸化ナトリウム、10mM EDTA、5%フィコール、0.05%ブロモフェノールブルー)を加えることにより行う。上記反応にて合成されたDNAをアルカリアガロースゲル電気泳動にて分画した後、ゲルを乾燥させオートラジオグラフィーを行う。DNAサイズマーカーとしてはラベルされたλ/HindIIIを用いる。このマーカーのバンドを指標として合成されたDNAのサイズを測定することによってDNA伸長速度を求める。
【0021】
本発明において、熱安定性(熱処理後のDNAポリメラーゼ残存活性)とはポリメラーゼ5単位を100μlの緩衝液(20mM Tris−HCl(pH8.8;25℃での測定値)、10mM 塩化カリウム、10mM 硫酸アンモニウム、2mM 硫酸マグネシウム、0.1% TritonX−100,0.1mg/ml BSA,5mM 2−メルカプトエタノール)に混合し、95℃、6時間の処理での残存活性を意味する。具体的には、上記熱処理後、上記DNAポリメラーゼ活性を測定し、熱処理前の該活性と比較することによって算出する。
【0022】
また、本発明において、DNAポリメラーゼの正確性とはDNA複製時における塩基の取り込みの正確性をいう。本発明におけるDNAポリメラーゼの正確性の評価には、ストレプトマイシン耐性に関与するリボゾーマルタンパク質S12(rpsL)遺伝子を指標として行う。ストレプトマイシンは原核細胞のタンパク質合成を阻害する抗生物質であり、細菌の30SリボゾーマルRNA(rRNA)に結合してタンパク質合成の開始複合体形成反応を阻害し、また遺伝子暗号の誤読を引き起こす。ストレプトマイシン耐性変異株ではリボゾームタンパク質S12に変異が見られる。この変異はリボゾームの翻訳忠実度を上げるため、サプレッサーtRNAによる終始コドンの読み取りを抑制するなど多面的効果(pleiotropic effect)を示すことが知られている。したがって、rpsL遺伝子を鋳型としてPCRにより増幅を行うと、ある確率で変異が導入され、それがアミノ酸レベルの変異であった場合、rpsLタンパク質の構造が変化し、ストレプトマイシンが30SリボゾーマルRNAに作用できなくなるようなことが起こる。したがって、菌を増幅したプラスミドDNAによって形質転換した場合、変異が多く導入されるほどストレプトマイシン耐性菌の出現頻度が増すこととなる。
【0023】
プラスミドpMol 21(Journal of Molecular Biology(1999)289,835-850に記載)は、rpsL遺伝子及びアンピシリン耐性遺伝子を含むプラスミドである。このプラスミドのアンピシリン耐性遺伝子上にPCR増幅用プライマーセット(片方をビオチン化、MluI制限酵素サイトを導入)を設計し、プラスミドの全長を耐熱性DNAポリメラーゼにてPCR増幅し、ストレプトアビジンビーズを用いて精製し、制限酵素MluIを用いて切り出した後、DNAリガーゼを用いて結合して大腸菌を形質転換して、アンピシリンとアンピシリン及びストレプトマイシンを含有する2種類のプレートに接種し、それぞれのプレートに出現したコロニーの比を算出することにより遺伝子複製の正確性を求めることができる。
【0024】
これらの改変された酵素を製造する方法としては、従来の公知の方法が使用できる。例えば、野生型DNAポリメラーゼをコードする遺伝子に変異を導入して、タンパク質工学的手法により新たな機能を有する変異型DNAポリメラーゼを製造する方法がある(J. Biol. Chem., 264(11), 6447-6458(1989))。
変異を導入するDNAポリメラーゼをコードする遺伝子は特に限定されないが、例えば、パイロコッカス・コダカラエンシスKOD1株由来の配列表・配列番号3に記載の遺伝子が挙げられる。また同様に、パイロコッカス・フリオサス(Nucleic Acid Res., 21 (2), 259-265(1993))、サーモコッカス・リトラリス(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89, 5577-5581(1992))なども例示することができる。
野生型DNAポリメラーゼ遺伝子に変異を導入する方法は既知のいかなる方法を用いてもよい。例えば、野生型DNAポリメラーゼ遺伝子と変異原となる薬剤を接触させる方法や紫外線照射による方法などからタンパク質工学的手法、例えばPCRや部位特異的変異などの方法を用いることができる。
【0025】
本発明で使用したQuickChange site-directed mutagenesisキット(ストラタジーン製)は、(1)目的とする遺伝子を挿入したプラスミドを変性させ、該プラスミドに変異プライマーをアニーリングさせ、続いてPfu DNAポリメラーゼを用いて伸長反応を行う、(2)(1)のサイクルを15回繰り返す、(3)例えば、制限酵素DpnIを用いて鋳型としたプラスミドのみを選択的に切断する、(4)新たに合成されたプラスミドにより大腸菌を形質転換し、目的とする変異の導入されたプラスミドを保有する形質転換体を取得することのできるキットである。
【0026】
上記改変DNAポリメラーゼ遺伝子を必要に応じて発現ベクターに移し替え、宿主として例えば大腸菌を該発現ベクターを用いて形質転換した後、アンピシリン等の薬剤を含む寒天培地に塗布し、コロニーを形成させる。コロニーを栄養培地、例えばLB培地や2×YT培地に接種し、37℃で12〜20時間培養した後、菌体を破砕して粗酵素液を抽出する。ベクターとしては、pLED-MIもしくはpBluescript由来のものが好ましい。
菌体を破砕する方法としては公知のいかなる手法を用いても良いが、例えば超音波処理、フレンチプレスやガラスビーズ破砕のような物理的破砕法やリゾチームのような溶菌酵素を用いることができる。 この粗酵素液を80℃、30分間熱処理し、宿主由来のポリメラーゼを失活させ、DNAポリメラーゼ活性を測定する。個々のDNAポリメラーゼ活性をそろえた後に3‘−5’エキソヌクレアーゼ活性を測定し、野生型DNAポリメラーゼと比較することで、各mutantの3’−5 ’エキソヌクレアーゼ活性の変化を測定することができる。
【0027】
上記方法により選抜された菌株から精製DNAポリメラーゼを取得する方法は、いかなる手法を用いても良いが、例えば下記のような方法がある。栄養培地に培養して得られた菌体を回収した後、酵素的または物理的破砕法により破砕抽出して粗酵素液を得る。得られた粗酵素抽出液から熱処理、例えば80℃、30分間処理し、その後硫安沈殿によりDNAポリメラーゼ画分を回収する。
この粗酵素液をセファデックスG-25(アマシャムファルマシア・バイオテク製)を用いたゲル濾過等の方法により脱塩を行うことができる。この操作の後、Qセファロース、ヘパリンセファロースなどのカラムクロマトグラフィーにより分離、精製し、精製酵素標品を得ることができる。該精製酵素標品はSDS−PAGEによってほぼ単一バンドを示す程度に純化される。
【0028】
また、得られた酵素を用いてPCR増幅を行うことにより、その増幅の有無もしくは強度からPCR効率の評価を行うことができ、また同じくDNA複製の正確性も評価することができる。
本発明の改変されたDNAポリメラーゼは、遺伝子の増幅効率及び増幅の正確性の点で優れており、PCRに利用できる。
【0029】
また、本発明の核酸増幅ないし伸長方法は、本発明の改変された耐熱性DNAポリメラーゼを使用して、DNAを鋳型とし、少なくとも1種のプライマー、dNTP(即ち、4種類のデオキシリボヌクレオチド3リン酸)を反応させることによりプライマーを伸長して、DNAプライマー伸長物を合成する方法を含む。該方法は、1種のプライマーを用いて、核酸を伸長する方法を含む。具体的には、プライマーエクステンション法、シークエンス法、従来の温度サイクルを行わない方法およびサイクルシーケンス法を含む。
また、本発明の方法は、2種以上のプライマーを用いてPCR法により核酸を増幅させる方法も含む。好ましくは、プライマーは2種のオリゴヌクレオチドであって、互いに一方は他方のDNA生成物に相補的であるプライマーであることが好ましい。また、加熱および冷却を繰り返すのが好ましい。
具体的には、PCR法に基づく遺伝子増幅方法は、標的核酸、4種類のデオキシヌクレオシド三リン酸、一対のプライマー及び本発明の耐熱性DNAポリメラーゼの存在下で、変性、アニーリング、伸長の3工程からなるサイクルを繰り返すことにより、上記一対のプライマーで挟まれる標的核酸の領域を指数関数的に増幅させる方法である(Nature, 324 (6093), 13-19(1986))。すなわち、変性工程で試料の核酸を変性し、続くアニーリング工程において各プライマーと、それぞれに相補的な一本鎖標的核酸上の領域とをハイブリダイズさせ、続く伸長工程で、各プライマーを起点としてDNAポリメラーゼの働きにより鋳型となる各一本鎖標的核酸に相補的なDNA鎖を伸長させ、二本鎖DNAとする。この1サイクルにより、1本の二本鎖DNAが2本の二本鎖DNAに増幅される。従って、このサイクルをn回繰り返せば、理論上上記一対のプライマーで挟まれた試料DNAの領域は2n倍に増幅される。
本発明のDNAポリメラーゼは、その活性を維持するために、例えばマグネシウムイオンのような2価のイオン、及び例えばアンモニウムイオン及び/又はカリウムイオンのような1価のイオンを共存させることが好ましい。また、PCR反応液には、緩衝液及びこれらのイオンを含むと共に、BSA、例えばTriton X-100のような非イオン性界面活性剤、及び緩衝液が存在してもよい。緩衝剤としては、トリスやヘペスなどのグッドバッファーおよび、リン酸緩衝液などが用いられる。
本発明の耐熱性DNAポリメラーゼを用いたときのPCRの具体的一態様としては、反応緩衝液(120mM Tris-HCl(pH8.0), 10mM KCl, 6mM (NH4)2SO4, 0.1% TritonX-100, 10μg/ml BSA),プライマー各0.4pmol/μl, dNTPs 0.2mM, 鋳型DNA0.2ng/μl及び本発明のDNAポリメラーゼ0.05u/μlを含有する溶液を94℃;15秒、65℃;2秒、74℃;30秒の温度サイクルを25回程度行う。
【0030】
本発明の核酸増幅用試薬は、一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物に互いに相補的である2種のプライマー、dNTP、及び上記のような本発明における耐熱性DNAポリメラーゼ、2価イオン、1価イオン、及び緩衝液を含み、さらに具体的には、一方のプライマーが他方のプライマーDNA伸長生成物に相補的である2種のプライマー、dNTP及び上記耐熱性DNAポリメラーゼ、マグネシウムイオン、アンモニウムイオン及び/又はカリウムイオン、BSA、上述のような非イオン界面活性剤及び緩衝液を含む。
【0031】
本発明の核酸増幅用試薬の別な態様としては、一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物に互いに相補的である2種のプライマー、dNTP及び上述したような本発明における耐熱性DNAポリメラーゼ、2価イオン、1価イオン、緩衝液、及び必要に応じて耐熱性DNAポリメラーゼのポリメラーゼ活性及び/又は3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を抑制する活性を有する抗体を含む核酸増幅用試薬がある。該抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体などが挙げられる。本核酸増幅用試薬は、PCRの感度上昇、非特異増幅の軽減に特に有効である。
【0032】
本発明の遺伝子変異導入用試薬は、一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物に互いに相補的である変異導入プライマー、dNTP、及び上述したような本発明における耐熱性DNAポリメラーゼを含む。さらに上述したような2価イオン、1価イオン、緩衝液を含んでもよい。
本発明における変異導入プライマーは、その長さが20〜150塩基程度であり、共にその配列のほぼ中央あたりに変異部分、即ち、鋳型のなるDNA配列と異なる部分(例えば、挿入、欠失、置換)を含み、互いに相補的である。
本発明の遺伝子増幅用試薬及び遺伝子変異用試薬において、緩衝液としては、トリスやヘペスなどのグッドバッファーおよび、リン酸緩衝液などが用いられるが、具体的には、10〜200mMの各種バッファー(pH7.5〜9.0(at 25℃))が例示できる。
また、マグネシウムイオンやマンガンイオンのような2価のイオンの濃度は、反応段階で0.5〜2mM、及び例えばアンモニウムイオン及び/又はカリウムイオンのような1価のイオンの濃度は、反応の段階で10〜100mM程度となるようなものがよい。
本発明のDNAポリメラーゼは、反応の段階で0.01〜0.1単位/μl程度となるようなものがよい。また、プライマーの濃度は、0.2〜2pmol/μl程度である。
【0033】
また、本発明の耐熱性DNAポリメラーゼは、上述したような本発明における耐熱性DNAポリメラーゼのポリメラーゼ活性を化学的もしくは遺伝子工学的手法を用いて減衰もしくは失活させ、様々な3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有し、専ら3‘−5’エキソヌクレアーゼとして使用するものであってもよい。
【0034】
また、本発明の実施態様としては、上述したような本発明における耐熱性DNAポリメラーゼを1種又は2種以上混合したことを特徴とするDNAポリメラーゼ組成物がある。具体的には、上述のような本発明における耐熱性DNAポリメラーゼと別なDNAポリメラーゼ、例えば3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の低いDNAポリメラーゼなどを混合せしめることによって、長鎖核酸を増幅する場合(例えばlongPCR)に有用な組成物を得ることができる。実際、長鎖核酸を増幅する方法として、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を欠くTaqポリメラーゼと3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有するPfuポリメラーゼまたはTiポリメラーゼまたはこれらの変異酵素を混合したDNAポリメラーゼ組成物を用いて、PCRを行う方法が報告されている(Barns, W.M.(1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91, 2216-2220)。
本発明においては、本発明のDNAポリメラーゼとTaqポリメラーゼとの組み合わせや、本発明のDNAポリメラーゼとTthポリメラーゼとの組み合わせや、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の低い本発明のDNAポリメラーゼと本発明のDNAポリメラーゼ活性の高い本発明のDNAポリメラーゼとの見合わせが例示できる。
本発明のDNAポリメラーゼ組成物に添加することができる他の成分は、該DNAポリメラーゼの活性を抑制する抗体などが例示できる。
【0035】
【実施例】
以下に、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。
【0036】
参考例1 超好熱始原菌KOD1株由来のDNAポリメラーゼ遺伝子のクローニング
鹿児島県子宝島において単離した超好熱始原菌パイロコッカス・コダカラエンシスKOD1株を95℃にて培養後、菌体を回収した。得られた菌体から常法に従ってKOD1株の染色体DNAを調製した。パイロコッカス・フリオサス由来のDNAポリメラーゼ(Pfu DNAポリメラーゼ)の保存領域アミノ酸配列に基づいて、2種のプライマー(5'-GGATTAGTATAGTGCCAATGGSSGGCGA-3' 及び5'-GAGGGCAGAAGTTTATTCCGAGCTT-3') (配列番号26および27、”s”はCとGの混合物を意味する。)を合成した。この2種のプライマーを使用して調製したDNAを鋳型としてPCRを行った。
【0037】
PCR増幅断片の塩基配列を決定し、アミノ酸配列を決定した後、この増幅DNAをプローブとして、KOD1株染色体DNA制限酵素処理産物に対してサザンハイブリダイゼーションを行い、DNAポリメラーゼをコードする断片のサイズを求めた(約4〜7Kbp)。更に、この大きさのDNA断片をアガロースゲルから回収し、プラスミドpBluescript(ストラタジーン製)に挿入し、これらの混合物よりエシェリシア・コリ(Escherichia coli) JM109を形質転換してライブラリーを作製した。サザンハイブリダイゼーションに使用したプローブを用いて、コロニーハイブリダイゼーションを行い、上記ライブラリーからKOD1株由来のDNAポリメラーゼ遺伝子を含有すると考えられるクローン株(エシェリシア・コリJM109/pBSKOD1)を取得した。
取得した上記クローン株よりプラスミド、pBSKOD1を回収し、定法に従い、塩基配列を決定した。さらに求められた塩基配列からアミノ酸配列を推定した。KOD1株由来のDNAポリメラーゼ遺伝子は5010塩基からなり、1670個のアミノ酸がコードされていた(配列番号1)。
【0038】
完全なポリメラーゼ遺伝子を作製するために、2箇所の介在配列(1374〜2453bp及び2709〜4316bp)をPCR融合法により取り除いた。
このようにして得られた2種の断片を用いて再度PCRを行い、介在配列が取り除かれ、N末端側にEcoRV、C末端側にBamHIサイトを有するKOD1株由来のDNAポリメラーゼをコードする完全な形の遺伝子断片を取得した(配列番号3)。更に、同遺伝子をT7プロモーターで誘導可能な発現ベクターpET-8cのNcoI/BamHIサイト、先に創出した制限酵素サイトを利用してサブクローニングを行い、組換え発現ベクター、pET-pol)を得た。なお、エシェリシア・コリ BL21(DE3)/pET-polは生命工学工業研究所へ寄託されている(FERM BP-5513)。
【0039】
実施例1
耐熱性DNAポリメラーゼを改変するために、プラスミドpET-polからKODポリメラーゼ遺伝子を切り出し、pBluescriptにサブクローニングを行った。すなわち、pET-polを制限酵素XbaIとBamHI(東洋紡績製)にて切断し、約2.3kbのKOD DNAポリメラーゼ遺伝子を切り出した。次にこのDNA断片をライゲーションキット(東洋紡績製 Ligation high)を用いて、XbaIとBamHIで切断したプラスミドpBluescript SK(-)と連結し、コンピテントセル(東洋紡績製 competent high JM109)を形質転換した。100μg/mlのアンピシリンを含んだLB寒天培地(1%バクトトリプトン、0.5%酵母エキス、0.5%塩化ナトリウム、1.5%寒天;ギブコ製)で35℃、16時間培養し、得られたコロニーからプラスミドを調製した。更に、部分塩基配列を確認してKOD DNAポリメラーゼ遺伝子を含むプラスミドpKOD1を得た。
【0040】
実施例2 改変型遺伝子(HE)の作製及び改変型耐熱性DNAポリメラーゼの精製
実施例1で得られたプラスミドpKOD1を用いてKOD DNAポリメラーゼの第147番目のヒスチジンをグルタミン酸に置換した改変型耐熱性DNAポリメラーゼ遺伝子をもつプラスミドを作製した(pKOD HE)。該プラスミドの作製はQuickChange site directed mutagenesis kit(ストラタジーン製)を用いた。方法は取扱い説明書に準じて行った。変異作製用プライマーとしては、配列番号4及び5に記載されるプライマーを使用した。なお、変異体の確認は塩基配列の解読で行った。得られたプラスミドによりエシェリシア・コリJM109を形質転換し、エシェリシア・コリJM109(pKOD HE)を得た。
【0041】
得られた菌体の培養は以下のようにして実施した。まず、滅菌処理した100μg/mlのアンピシリンを含有するTB培地(Molecular cloning 2nd edition、p.A.2)6Lを10Lジャーファーメンターに分注した。この培地に予め100μg/mlのアンピシリンを含有する50mlのLB培地(1%バクトトリプトン、0.5%酵母エキス、0.5%塩化ナトリウム;ギブコ製)で37℃、16時間培養したエシェリシア・コリJM109(pKOD HE)(500ml坂口フラスコ使用)を接種し、35℃にて12時間通気培養した。培養液より菌体を遠心分離により回収し、400mlの破砕緩衝液(10mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0)、80mM KCl、5mM 2−メルカプトエタノール、1mM EDTA)に懸濁後、フレンチプレス処理により菌体を破砕し、細胞破砕液を得た。次に細胞破砕液を85℃にて30分間処理した後、遠心分離にて不溶性画分を除去した。更に、ポリエチレンイミンを用いた除核酸処理、硫安塩析、ヘパリンセファロースクロマトグラフィーを行い、最後に保存緩衝液(50mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0)、50mM 塩化カリウム、1mM ジチオスレイトール、0.1% Tween20、0.1%ノニデットP40、50%グリセリン)に置換し、変異型耐熱性DNAポリメラーゼ(HE)を得た。上記精製工程のDNAポリメラーゼ活性測定は以下の操作で行った。また、酵素活性が高い場合はサンプルを希釈して測定を行った。
【0042】
Figure 0003891330
【0043】
(方法)
A液25μl、B液5μl、C液5μl及び滅菌水10μlをマイクロチューブに加えて攪拌混合後、上記精製酵素希釈液5μlを加えて75℃で10分間反応する。その後冷却し、E液50μl、D液100μlを加えて、攪拌後更に10分間氷冷する。この液をガラスフィルター(ワットマン製GF/Cフィルター)で濾過し、D液及びエタノールで十分洗浄し、フィルターの放射活性を液体シンチレーションカウンター(パッカード製)を用いて計測し、鋳型DNAへのヌクレオチドの取り込みを測定した。酵素活性の1単位はこの条件下で30分当り10nmolのヌクレオチドを酸不溶性画分に取り込む酵素量とした。
【0044】
実施例3 変異体(HD)遺伝子の作製及び改変型耐熱性DNAポリメラーゼの精製
実施例2と同様の方法にて、KOD DNAポリメラーゼの第147番目のヒスチジンをアスパラギン酸に置換した耐熱性DNAポリメラーゼ遺伝子を作製した(pKOD HD)。変異プライマーとしては、配列番号6及び7に記載されるプライマーを使用した。更に、実施例2と同様の精製方法にて改変型耐熱性DNAポリメラーゼ(HD)を得た。
【0045】
実施例4 変異体(HY)遺伝子の作製及び改変型耐熱性DNAポリメラーゼの精製
実施例2と同様の方法にて、KOD DNAポリメラーゼの第147番目のヒスチジンをチロシンに置換した耐熱性DNAポリメラーゼ遺伝子を作製した(pKOD HY)。変異プライマーとしては、配列番号8及び9に記載されるプライマーを使用した。更に、実施例2と同様の精製方法にて改変型耐熱性DNAポリメラーゼ(HY)を得た。
【0046】
実施例5 変異体(HA)遺伝子の作製及び改変型耐熱性DNAポリメラーゼの精製
実施例2と同様の方法にて、KOD DNAポリメラーゼの第147番目のヒスチジンをアラニンに置換した耐熱性DNAポリメラーゼ遺伝子を作製した(pKOD HA)。変異プライマーとしては、配列番号10及び11に記載されるプライマーを使用した。更に、実施例2と同様の精製方法にて改変型耐熱性DNAポリメラーゼ(HA)を得た。
【0047】
実施例6 変異体(HK)遺伝子の作製及び改変型耐熱性DNAポリメラーゼの精製
実施例2と同様の方法にて、KOD DNAポリメラーゼの第147番目のヒスチジンをリジンに置換した耐熱性DNAポリメラーゼ遺伝子を作製した(pKODHK)。変異プライマーとしては、配列番号12及び13に記載されるプライマーを使用した。更に、実施例2と同様の精製方法にて改変型耐熱性DNAポリメラーゼ(HK)を得た。
【0048】
実施例7 変異体(HR)遺伝子の作製及び改変型耐熱性DNAポリメラーゼの精製
実施例2と同様の方法にて、KOD DNAポリメラーゼの第147番目のヒスチジンをアルギニンに置換した耐熱性DNAポリメラーゼ遺伝子を作製した(pKOD HR)。変異プライマーとしては、配列番号14及び15に記載されるプライマーを使用した。更に、実施例2と同様の精製方法にて改変型耐熱性DNAポリメラーゼ(HR)を得た。
【0049】
実施例8 変異体(HS)遺伝子の作製及び改変型耐熱性DNAポリメラーゼの精製
実施例2と同様の方法にて、KOD DNAポリメラーゼの第147番目のヒスチジンをセリンに置換した耐熱性DNAポリメラーゼ遺伝子を作製した(pKODHS)。変異プライマーとしては、配列番号16及び17に記載されるプライマーを使用した。更に、実施例2と同様の精製方法にて改変型耐熱性DNAポリメラーゼ(HS)を得た。
【0050】
実施例9 変異体(HQ)遺伝子の作製及び改変型耐熱性DNAポリメラーゼの精製
実施例2と同様の方法にて、KOD DNAポリメラーゼの第147番目のヒスチジンをグルタミンに置換した耐熱性DNAポリメラーゼ遺伝子を作製した(pKOD HQ)。変異プライマーとしては、配列番号18及び19に記載されるプライマーを使用した。更に、実施例2と同様の精製方法にて改変型耐熱性DNAポリメラーゼ(HQ)を得た。
【0051】
実施例10
上記実施例2〜9で得られた改変型耐熱性DNAポリメラーゼに加え、IK及びIQのエキソヌクレアーゼ活性を以下の方法にて測定した。変異体IK、IQは特開平10−42871号公報に記載されるKOD DNAポリメラーゼの第142番目のイソロイシンをリジンおよびグルタミンに置換した変異体であり、特開平10−42871号公報に記載の方法に準じて作製した。対照として、野生型KODポリメラーゼ(東洋紡績製)を用いた。50μlの反応液(120mM Tris-HCl緩衝液(pH8.8 、25℃)、10mM KCl、6mM 硫酸アンモニウム、1mM MgCl2、0.1% Triton X−100、0.001% BSA、5μgトリチウムラベルされた大腸菌DNA)を1.5mlのマイクロチューブに分注し、DNAポリメラーゼをそれぞれ0.06U、0.025Uを加え、75℃にて10分間反応させた。氷冷によって反応を停止し、次にキャリアーとして0.1%のBSA50μlを加え、さらに10%のトリクロロ酢酸、2%ピロリン酸ナトリウム溶液を100μl加えて混合した。その後氷上で15分放置した後、12000回転にて10分間遠心分離し沈殿を分離し、上清100μlの放射活性を液体シンチレーションカウンター(パッカード社製)で計測し、酸可溶性画分に遊離したヌクレオチド量を測定した。個々の3‘−5’エキソヌクレアーゼ活性の比較は、0.06および0.025ポリメラーゼUnitを用いたときの上記の放射活性値をもとに行った。図2に各DNAポリメラーゼの相対エキソヌクレアーゼ活性を示した。
【0052】
本実施例から、本発明によれば、様々な強さのエキソヌクレアーゼ活性を有する耐熱性DNAポリメラーゼが得られることが証明された。得られた変異型KODポリメラーゼの3’−5’エキソヌクレアーゼ活性は、野生型のKOD DNAポリメラーゼ(100%)に対して、HDは約6.25%、HEは約25%、HYは約90%、HAは約30%、HSは約50%、HQは約50%、HKは約400%、HRは約300%、IKは約6.25%、IQは約25%の活性を有していた。
【0053】
実施例11
熱安定性の確認
実施例2、3及び6で得られた改変型DNAポリメラーゼの熱安定性を以下の方法にて測定した。各DNAポリメラーゼ5単位を100μlの緩衝液(20mM Tris-HCl pH8.8 at 25℃、10mM塩化カリウム,10mM 硫酸アンモニウム,2mM 硫酸マグネシウム, 0.1% Triton X-100, 0.1mg/ml BSA, 5mM 2- メルカプトエタノール)に混合し、95℃でプレインキュベートとした。この混合液から経時的に試料を採取し、実施例2記載の方法にてポリメラーゼ活性を測定した。比較として、天然型KODポリメラーゼ(東洋紡製)も同様の操作を行った。表1に示すように、いずれの改変型ポリメラーゼも天然型KODポリメラーゼと同様に、95℃、6時間の処理で60%以上の残存活性を示した。
【0054】
【表1】
Figure 0003891330
【0055】
実施例12
DNA伸長速度測定
実施例2、3、6および7で得られた改変型DNAポリメラーゼのDNA伸長速度を以下の方法で測定した。精製した改変型DNAポリメラーゼ1単位を10μlの反応液(20mM Tris-HCl(pH7.5), 8mM塩化マグネシウム, 7.5mM ジチオスレイトール, 100 μg/ml BSA, 0.1mM dNTP, 0.2 μCi [α-32P]dCTP)で0.2μgの配列番号15のプライマーをアニーリングさせたM13mp181本鎖DNAと75℃で20秒、40秒、60秒間反応させた。反応停止は等量の反応停止液(50mM 水酸化ナトリウム,10mM EDTA, 5% フィコール, 0.05% ブロモフェノールブルー) を加えることにより行った。比較としてPfuポリメラーゼ(ストラタジーン社製)および天然型のKODポリメラーゼ(東洋紡製)も同様の操作を行った。
上記反応にて合成されたDNAをアルカリアガロースゲル電気泳動にて分画した後、ゲルを乾燥させオートラジオグラフィーを行った。DNAサイズマーカーとしてはラベルしたλ/HindIIIを用いた。このマーカーのバンドを指標として合成されたDNAのサイズを測定することによって、DNA合成速度を求めた。その結果を表2に示す。いずれの改変型ポリメラーゼも天然型のKODポリメラーゼと同様に、約120塩基/秒の合成速度を有していた。それに対してPfuポリメラーゼは約20塩基/秒の合成速度であった。
【0056】
【表2】
Figure 0003891330
【0057】
本実施例から、本発明によれば、様々な強さのエキソヌクレアーゼ活性を有する耐熱性DNAポリメラーゼが得られることが証明された。得られた変異型KODポリメラーゼの3’−5’エキソヌクレアーゼ活性は、野生型のKOD DNAポリメラーゼ(100%)に対して、HDは約6.25%、HEは約25%、HYは約90%、HAは約65%、HSは約50%、HQは約50%、HKは約400%、HRは約300%、IKは約6.25%、IQは約25%の活性を有していた。
【0058】
実施例13 改変型DNAポリメラーゼを用いたPCR例(1)
野生型(WT)KODポリメラーゼ、並びに改変型耐熱性DNAポリメラーゼHE、HD、HY、HA、HK、HR、IK及びIQを用いてPCRを行った。変異体IK、IQは、それぞれ特開平10−42871号公報に記載のKOD DNAポリメラーゼにおける第142番目のイソロイシンをリジン及びグルタミンに置換した変異体である。HEとIQ、 HDとIKは、それぞれ同程度の3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を示すことが分かっている。PCRは49μlの反応液(1×KOD-Plus-buffer(東洋紡績製)、1mM MgSO4、0.2mM dNTP、100ng 及び10ngのK562 DNA(ライフテクノロジー社製)、10pmolの配列表20及び21に記載のプライマー)に各酵素(1U/μl)を1μlを加えてPCRを実施した。サーマルサイクラーはPerkin-Elmer社 PCR system GeneAmp2400を用いて、以下のように行った。すなわち、94℃、2分反応を行った後、94℃、15秒→60℃、30秒→68℃、3分30秒を30サイクル行った。反応終了後10μlの反応液についてアガロース電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色し、紫外線照射下約3.6kbの増幅DNA断片を確認した。図3にアガロースゲル電気泳動の写真を示した。この結果より、変異体HE、HD、HY、HAを用いた場合、特に低いコピー数の鋳型DNA(10ng)からの増幅において、野生型のKODポリメラーゼを用いるよりも良好な増幅を示すことが証明された。
【0059】
実施例14 改変型DNAポリメラーゼを用いたPCR例(2)
実施例1で良好な結果の得られた改変型耐熱性DNAポリメラーゼHE、HD、HY、HAについて更にサイズの大きな遺伝子の増幅を試みた。49μlの反応液(1×KOD -Plus- buffer(東洋紡績製)、1mM MgSO4、0.2mM dNTP、100ng 及び50ng K562 DNA(ライフテクノロジー製)、10pmolの配列番号22及び23に記載のプライマー)に各酵素(1U/μl)を1μl加えてPCRを実施した。サーマルサイクラーはPerkin-Elmer製PCR system GeneAmp2400を用いて以下のように行った。すなわち、94℃、2分反応を行った後、94℃、15秒→60℃、30秒→68℃、6分を30サイクル行った。反応終了後、10μlの反応液についてアガロース電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色して紫外線照射下約6.2kbの増幅断片を確認した。その結果、特にHD及びHEにおいて良好な増幅を確認することができた(図4)。なお、ここには示していないが、野生型(WT)KOD DNAポリメラーゼにおいては増幅は全く確認することができなかった。
【0060】
実施例15 改変型KOD DNAポリメラーゼの正確性の測定
野生型のKOD DNAポリメラーゼ及び改変型耐熱性DNAポリメラーゼについて正確性を以下の方法にて測定した。49μlの反応液(1×KOD-Plus-buffer(東洋紡績製)、1mM MgSO4、0.2mM dNTP、2.5ng プラスミドpMol 21(Journal of Molecular Biology(1999)289,835-850)、10pmolの配列番号24及び25に記載のプライマー)に酵素(1U/μl)を1μl加えてPCRを実施した。ここでは、今回取得した変異体のうちHD、HE、HY、HA、HK、HR、及び特開平10−42871号公報記載のIK、IQを用いて実施した。サーマルサイクラーはPerkin-Elmer製 PCR system GeneAmp2400を用いて以下のように行った。すなわち、94℃、2分行った後、94℃、15秒→60℃、30秒→68℃、4分を25サイクル行った。また、同時にrTaq DNAポリメラーゼについても増幅反応を実施した。反応条件としては、49μlの反応液(1×rTaq buffer(東洋紡績製)、1.5mM MgCl2、0.2mM dNTP、2.5ng プラスミドpMol 21(Journal of Molecular Biology(1999)289,835-850)、10pmolの配列番号24及び25に記載のプライマー)に各酵素(5U/μl)を0.5μl添加して、94℃、2分反応を行った後、94℃、15秒→60℃、30秒→68℃、5分を25サイクル行った。
【0061】
PCR終了後フェノール/クロロホルム処理し、次いでエタノール沈澱法によりDNAを沈澱させた。沈澱を100μlの蒸留水に溶解し、アビジン磁性ビーズ(DYNAL製)を10μl添加して30分間転倒混和し、磁性分離用スタンド(Magical Trapper;東洋紡績製)を用いて磁性ビーズを濃縮した。続いて、磁性ビーズに100μlの洗浄液A(10mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0),1mM EDTA)、1M NaCl)を添加して10秒間攪拌し、再び磁性分離用スタンドにて濃縮した(洗浄)。上記洗浄工程をもう一度繰り返した後、洗浄液B(10mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0),1mM EDTA))を用いて磁性ビーズを洗浄し、磁性分離用スタンドにて磁性ビーズのみを回収した。次いで、この回収した磁性ビーズに蒸留水40μl、制限酵素緩衝液5μl及び制限酵素Mlu I(東洋紡績製)50Uを添加し、37℃にて転倒混和しながら3時間処理した。その後、再び磁性分離用スタンドを用いて磁性ビーズを濃縮し、その上清のみを回収した。回収したDNA溶液をエタノール沈澱法にて脱塩を行い、そのうちの10ng相当をライゲーション試薬(Ligation high(東洋紡績製)を添加し、16℃で16時間ライゲーション反応を行った。次に、Molecular cloning 2nd edition 1.74〜1.81に記載される方法により調製したエシェリシア・コリMF-101株(Journal of Molecular Biology(1999)289,835-850)のコンピテントセルを用いて形質転換を行った。
【0062】
形質転換を行った大腸菌溶液を2つにに分割し、一方を200μg/mlのアンピシリンを含有するLB寒天培地(0.6%)<Aプレート>に、もう片一方を200μg/mlのアンピシリンおよび400μg/mlのストレプトマイシンを含有するLB寒天培地(0.6%)<Bプレート>で30℃で24時間培養し、出現したコロニー数を計測し、Bプレートに出現したコロニーをAプレートに出現したコロニーで割り、パーセント表示した値を変異率(Mutation frequency)とした。この変異率が低いほど、DNA複製時のDNAポリメラーゼの正確性が良いことを示している。
【0063】
結果を、図5に示した。rTaqは3’−5’エキソヌクレアーゼ(Proof readign)活性を有さないため、7.91%という高い変異率を示したのに対し、WT及び今回得られた変異体においては、変異率が全て1%以下であった。また、その中でもWTに対して3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の高進していたHK、HRにおいてはそれぞれ変異率が0.12%、0.17%とWT0.47%に対して明らかに良好な値を示すことが証明された。
【0064】
【発明の効果】
上述したように、本発明により、様々なDNA増幅効率及び3’−5’エキソヌクレアーゼ活性および正確性を有する耐熱性DNAポリメラーゼの作製が可能となった。この方法を用いることにより、従来の始原菌由来の耐熱性DNAポリメラーゼを様々な用途、すなわち長い領域の増幅や、更に正確性の高い増幅など様々な用途に使用できるように、改変された耐熱性DNAポリメラーゼを創出することが可能とするものである。
【0065】
【配列表】
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【0066】
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【0067】
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【0068】
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【0069】
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【0070】
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【0071】
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【0072】
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【0073】
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【0074】
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【0075】
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【0076】
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【0077】
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【0078】
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【0079】
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【0080】
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【0083】
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【0084】
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【0085】
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【0088】
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【0089】
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【0090】
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【0091】
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【図面の簡単な説明】
【図1】様々なDNAポリメラーゼのエキソI領域(下線)及びそれに隣接するアミノ酸配列を示す図である。
【図2】各KOD DNAポリメラーゼ変異体の相対3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を示す図(WTの活性を100とした)である。
【図3】各KOD DNAポリメラーゼ変異体のヒトゲノムDNAを鋳型としたβ-globin遺伝子(3.6kb)のPCRによる増幅を示す図である。
A:100ngのヒト細胞株K562由来DNAを反応に使用
B:10ngのヒト細胞株K562由来DNAを反応に使用
1: WT 2:HD 3:HE 4:HY 5:HA 6:HK 7:HR 8:IK 9:IQ
【図4】各KOD DNAポリメラーゼ変異体のヒトゲノムDNAを鋳型としたMyosinheavey chain遺伝子(6.2kb)のPCRによる増幅を示す図である。
50ngのヒト細胞株K562より抽出したDNAを使用
1:HD、 2:HE、3:HY、4:HA
【図5】各KOD DNAポリメラーゼ変異体のPCR増幅における変異率(Mutationfrequency)を示す図である。

Claims (29)

  1. パイロコッカス(Pyrococcous)属またはサーモコッカス(Thermococcus)属由来の改変された耐熱性DNAポリメラーゼであって、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有する耐熱性DNAポリメラーゼのエキソI(EXOI)領域の、DIETLYHまたはDIETFYH(D:アスパラギン酸、I:イソロイシン、E:グルタミン酸、T:スレオニン、L:ロイシン、F:フェニルアラニン、Y:チロシン、H:ヒスチジン)配列において、ヒスチジンが他のアミノ酸に置換された耐熱性DNAポリメラーゼ。
  2. DIETLYHまたはDIETFYH配列中のヒスチジンがアスパラギン酸、グルタミン酸、チロシン、アラニン、リジン、及びアルギニンからなる群から選ばれるいずれかのアミノ酸に置換された請求項1記載の耐熱性DNAポリメラーゼ。
  3. 下記の理化学的性質を有する請求項1記載の耐熱性DNAポリメラーゼ。
    (1)DNA伸長速度:少なくとも20塩基/秒
    (2)熱安定性:pH8.8(25℃での測定値)にて95℃、6時間の処理後の該DNAポリメラーゼが、熱処理前のDNAポリメラーゼに比して、10%以上のDNAポリメラーゼ残存活性を保持する
  4. 下記の理化学的性質を有する請求項3記載の耐熱性DNAポリメラーゼ。
    (1)DNA伸長速度:少なくとも30塩基/秒
    (2)熱安定性:pH8.8(25℃での測定値)にて95℃、6時間の処理後の該DNAポリメラーゼが、熱処理前のDNAポリメラーゼに比して、40%以上のDNAポリメラーゼ残存活性を保持する
    (3)アミノ酸配列:配列番号2に記載のアミノ酸配列中、アミノ酸番号141〜147に位置するDIETLYH(D:アスパラギン酸、I:イソロイシン、E:グルタミン酸、T:スレオニン、L:ロイシン、Y:チロシン、H:ヒスチジン)配列のうち、ヒスチジンを他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列を含む。
  5. 下記理化学的性質を有する請求項4記載の耐熱性DNAポリメラーゼ。
    (1)DNA伸長速度:少なくとも30塩基/秒
    (2)熱安定性:pH8.8(25℃での測定値)にて95℃、6時間の処理後の該DNAポリメラーゼが、熱処理前のDNAポリメラーゼに比して、60%以上のDNAポリメラーゼ残存活性を保持する
    (3)アミノ酸配列:配列番号2に記載のアミノ酸配列中、アミノ酸番号141〜147に位置するDIETLYH(D:アスパラギン酸、I:イソロイシン、E:グルタミン酸、T:スレオニン、L:ロイシン、Y:チロシン、H:ヒスチジン)配列のうち、ヒスチジンを他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列を含む。
  6. 配列番号2に記載のアミノ酸配列中、第147番目のヒスチジンをアスパラギン酸、グルタミン酸、チロシン、アラニン、リジン、及びアルギニンのいずれかのアミノ酸に置換した請求項5記載の耐熱性DNAポリメラーゼ。
  7. 配列番号2に記載のアミノ酸配列中、第147番目のヒスチジンをアスパラギン酸に置換した請求項6記載の耐熱性DNAポリメラーゼ。
  8. 配列番号2に記載のアミノ酸配列中、第147番目のヒスチジンをグルタミン酸に置換した請求項6記載の耐熱性DNAポリメラーゼ。
  9. 配列番号2に記載のアミノ酸配列中、第147番目のヒスチジンをチロシンに置換した請求項6記載の耐熱性DNAポリメラーゼ。
  10. 配列番号2に記載のアミノ酸配列中、第147番目のヒスチジンをアラニンに置換した請求項6記載の耐熱性DNAポリメラーゼ。
  11. 配列番号2に記載のアミノ酸配列中、第147番目のヒスチジンをリジンに置換した請求項6記載の耐熱性DNAポリメラーゼ。
  12. 配列番号2に記載のアミノ酸配列中、第147番目のヒスチジンをアルギニンに置換した請求項6記載の耐熱性DNAポリメラーゼ。
  13. パイロコッカス(Pyrococcous)属またはサーモコッカス(Thermococcus)属由来の改変された耐熱性DNAポリメラーゼであって、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有する耐熱性DNAポリメラーゼのエキソI(EXOI)領域の、DIETLYHまたはDIETFYH(D:アスパラギン酸、I:イソロイシン、E:グルタミン酸、T:スレオニン、L:ロイシン、F:フェニルアラニン、Y:チロシン、H:ヒスチジン)配列において、ヒスチジンが他のアミノ酸に置換された耐熱性DNAポリメラーゼをコードする遺伝子。
  14. 下記の理化学的性質を有する改変された耐熱性DNAポリメラーゼをコードする請求項13記載の遺伝子。
    (1)DNA伸長速度:少なくとも20塩基/秒
    (2)熱安定性:pH8.8(25℃での測定値)にて95℃、6時間の処理後の該DNAポリメラーゼが、熱処理前のDNAポリメラーゼに比して、10%以上のDNAポリメラーゼ残存活性を保持する
  15. 下記の理化学的性質を有する改変された耐熱性DNAポリメラーゼをコードする請求項13記載の遺伝子。
    (1)DNA伸長速度:少なくとも30塩基/秒
    (2)熱安定性:pH8.8(25℃での測定値)にて95℃、6時間の処理後の該DNAポリメラーゼが、熱処理前のDNAポリメラーゼに比して、40%以上のDNAポリメラーゼ残存活性を保持する
    (3)アミノ酸配列:配列番号2に記載のアミノ酸配列中、アミノ酸番号141〜147に位置するDIETLYH(D:アスパラギン酸、I:イソロイシン、E:グルタミン酸、T:スレオニン、L:ロイシン、Y:チロシン、H:ヒスチジン)配列のうち、ヒスチジンを他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列を含む。
  16. 下記の理化学的性質を有する改変された耐熱性DNAポリメラーゼをコードする請求項13記載の遺伝子。
    (1)DNA伸長速度:少なくとも30塩基/秒
    (2)熱安定性:pH8.8(25℃での測定値)にて95℃、6時間の処理後の該DNAポリメラーゼが、熱処理前のDNAポリメラーゼに比して、60%以上のDNAポリメラーゼ残存活性を保持する
    (3)アミノ酸配列:配列番号2に記載のアミノ酸配列中、アミノ酸番号141〜147に位置するDIETLYH(D:アスパラギン酸、I:イソロイシン、E:グルタミン酸、T:スレオニン、L:ロイシン、Y:チロシン、H:ヒスチジン)配列のうち、ヒスチジンを他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列を含む。
  17. 請求項13〜16のいずれかに記載の遺伝子を発現ベクターに挿入されてなる遺伝子組換えベクター。
  18. ベクターがpLED−MIもしくはpBluescript由来のベクターである請求項17記載の遺伝子組換えベクター。
  19. 請求項17又は18に記載の遺伝子組換えベクターを用いて宿主細胞を形質転換した形質転換体。
  20. 宿主細胞がエシェリシア・コリ(Escherichia coli)である請求項19記載の形質転換体。
  21. 請求項20記載の形質転換体を培養し、培養物から耐熱性DNAポリメラーゼを採取することを特徴とする耐熱性DNAポリメラーゼの製造方法。
  22. 鋳型としてのDNA、少なくとも1種のプライマー、dNTP、及び請求項1〜12のいずれかに記載の耐熱性DNAポリメラーゼを反応させることにより、プライマーを伸長させてDNAプライマー伸長物を合成することを含む核酸増幅ないし伸長方法。
  23. プライマーが2種のオリゴヌクレオチドであって、一方は他方のDNA伸長物に互いに相補的である請求項22記載の核酸増幅方法。
  24. 加熱および冷却を繰り返す請求項22記載の核酸増幅方法。
  25. 一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物に互いに相補的である2種のプライマー、dNTP、および請求項1〜12のいずれかに記載の耐熱性DNAポリメラーゼ、2価イオン、1価イオン及び緩衝液を含むことを特徴とする核酸増幅用試薬。
  26. 一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物に互いに相補的である2種のプライマー、dNTP、請求項1〜12のいずれかに記載の耐熱性DNAポリメラーゼ、マグネシウムイオン、アンモニウムイオン及びカリウムイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種、BSA(牛血清アルブミン)、非イオン性界面活性剤、及び緩衝液を含有することを特徴とする核酸増幅用試薬。
  27. 請求項1〜12のいずれかに記載の耐熱性DNAポリメラーゼを1種以上混合されたことを特徴とする核酸増幅用DNAポリメラーゼ組成物。
  28. 鋳型としてのDNA、変異導入プライマー、dNTP及び請求項1〜12のいずれかに記載の耐熱性DNAポリメラーゼを反応させることにより、プライマーを伸長させてDNAプライマー伸長物を合成することを含む遺伝子変異導入方法。
  29. 変異導入プライマー、dNTP、及び請求項1〜12のいずれかに記載の耐熱性DNAポリメラーゼを含んでなることを特徴とする遺伝子変異導入用試薬。
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