JP5515373B2 - 改良された耐熱性dnaポリメラーゼ - Google Patents
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Description
PCR反応に用いられる耐熱性DNAポリメラーゼは、主としてサーマス・サーモフィラス(Thermusthermophilus) 由来のDNAポリメラーゼ(Tthポリメラ−ゼ) やサーマス・アクアチカス(Thermus aquaticus) 由来のDNAポリメラ−ゼ(Taqポリメラーゼ)などが用いられてきた。しかしながら、これらの耐熱性DNAポリメラ−ゼは、核酸の取り込みの際の正確性に欠ける、増幅効率が低い、などの問題がある。
α型DNAポリメラーゼにおけるPCR増幅における上記問題点の原因として、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の強さが関与していることが考えられる。すなわち、PCR時にプライマーなどがその3’−5’エキソヌクレアーゼ活性によって削られることにより、PCRにおける増幅効率が低下すると考えられている。また、α型DNAポリメラーゼは単一タンパク質内に3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を示す領域と、DNAポリメラーゼ活性を示す領域が存在するため、両活性はお互いに相互作用しており、それぞれの領域の核酸への親和性などの違いなどもPCR増幅に影響を及ぼしていると考えられる。しかしながら、エキソヌクレアーゼ活性を欠失又は1万分の1以下に低減させることにより、α型DNAポリメラーゼの特徴であるDNA複製時の正確性も同時に失われるという問題が存在した。
このモチーフの中で、D(アスパラギン酸)とE(グルタミン酸)を中性アミノ酸であるA(アラニン)に置換することによって、エキソヌクレアーゼ活性を欠失または1万分の1以下に低減させることが報告されており、DとEはエキソヌクレアーゼ活性に必須であることが知られている。(Kongら(1993)、Journal of Biological Chemistry, vol.268, 1965−1975)(非特許文献1)
特開平10−42871号公報(特許文献5)では、α型DNAポリメラーゼの1種であるKOD DNAポリメラーゼにおけるXDXEXモチーフのXで示されるアミノ酸を任意のアミノ酸に置換することにより、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を段階的に減衰させる試みが記載されている。しかしながら、この方法によっても、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性が低下するにつれてPCR効率の上昇と増幅における正確性(fidelity)の低下が同時に観察される。
(1)本願発明は、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有する耐熱性DNAポリメラーゼのアミノ酸配列のうち、ポリメラーゼドメイン(Pol領域)に位置するFingerモチーフ内のループ領域のアミノ酸配列のうち、少なくとも1つのアミノ酸を他のアミノ酸に置換した酵素であることを特徴とする、改変型耐熱性DNAポリメラーゼである。
耐熱性DNAポリメラーゼとしては、サーモコッカス(Thermococcus)属由来のものが例示でき、さらに、サーモコッカス sp.KOD1由来のDNAポリメラーゼが例示できる。
このような改変型耐熱性DNAポリメラーゼとして、配列表の配列番号1に記載されるアミノ酸配列のうち、第470番目のスレオニン(Thr)をシステイン(Cys)、フェニルアラニン(Phe)およびトリプトファン(Trp)のいずれかのアミノ酸に置換したものが例示できる。
さらに、配列表の配列番号1に記載されるアミノ酸配列のうち、第470番目のスレオニン(Thr)をシステイン(Cys)に置換したもの、第470番目のスレオニン(Thr)をフェニルアラニン(Phe)に置換したもの、第470番目のスレオニン(Thr)をトリプトファン(Trp)に置換したもの、第471番のイソロイシン(IIe)をセリン(Ser)またはスレオニン(Thr)のいずれかのアミノ酸に置換したもの、第471番のイソロイシン(IIe)をセリン(Ser)に置換したもの、または、第471番のイソロイシン(IIe)をスレオニン(Thr)に置換したものなどが例示できる。
このような遺伝子としては、(1)または(2)に記載の、耐熱性DNAポリメラーゼをコードする遺伝子が例示できる。
さらには、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、第470番目のスレオニンおよび/または第471番のイソロイシンを他のアミノ酸に置換した酵素であることを特徴とする、改変型耐熱性DNAポリメラーゼをコードする遺伝子が例示できる。
このような核酸増幅法においては、プライマーが2種のオリゴヌクレオチドであって、一方は他方のDNA伸長生成物に相補的である方法を用いることができる。また、加熱および冷却を繰り返す方法を用いることができる。
このような核酸増幅用試薬として、一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物に相補的である2種のプライマー、dNTPおよび(1)または(2)に記載の耐熱性DNAポリメラーゼ、マグネシウムイオンおよびアンモニウムイオンまたは/およびカリウムイオン、BSAおよび非イオン界面活性剤および緩衝液を含む核酸増幅用試薬が例示できる。
また、一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物に互いに相補的である2種のプライマー、dNTP、(1)または(2)に記載の耐熱性DNAポリメラーゼ、マグネシウムイオン、アンモニウムイオン及びカリウムイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種、BSA、非イオン性界面活性剤、緩衝液、及び該耐熱性DNAポリメラーゼのポリメラーゼ活性及び3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の少なくとも1つの活性を抑制する活性を有する抗体を含有する核酸増幅用試薬が例示できる。
例えば「H147E」は、147位のヒスチジンをグルタミン酸に置換した変異体を表す。複数箇所を置換した場合は「/」で区切ってそれぞれの置換を併記して示す。例えば「H147E/T470C/I471S」は、147位のヒスチジンをグルタミン酸に置換し、さらに470番目のスレオニンと471番目のイソロイシンを、それぞれシステインとセリンに置換した変異体を示す。
実際、KOD DNAポリメラーゼ変異体H147E/T470C/I471S(470番目のスレオニンと471番目のイソロイシンを、それぞれシステインとセリンに置換)および変異体H147E/N210D/T470C/I471S(210番目のアスパラギン、470番目のスレオニンおよび471番目のイソロイシンを、それぞれアスパラギン酸、システインおよびセリンに置換)は改変型KOD DNAポリメラーゼ(H147E)に比べてDNAポリメラーゼ活性がそれぞれ116%、128%程度と上昇した(表1)。
実際、KOD DNAポリメラーゼ変異体H147E/T470C/I471S(470番目のスレオニンと471番目のイソロイシンを、それぞれシステインとセリンに置換)および変異体H147E/N210D/T470C/I471S(210番目のアスパラギン、470番目のスレオニンおよび471番目のイソロイシンを、それぞれアスパラギン酸、システインおよびセリンに置換)については、PCR効率の上昇を認めることが可能であった(図1、図2)。これら変異体のうちH147E/T470C/I471Sにおいては、エキソヌクレアーゼ活性の顕著な低下は見られなかったことから(図3)、該Finger内 ループに存在する470番目のスレオニンおよび/または471番目のイソロイシンは、エキソヌクレアーゼ活性の強弱とは独立してPCR効率を左右する役割も担っていることを示唆している。
PCR効率(成功率)の向上とは、少ない鋳型(コピー数)から増幅できること(すなわち、DNA増幅効率の向上)、あるいは、長いターゲットを増幅できること(すなわち、鎖伸長性の向上)を意味する。これら両方が満たされることは、さらに好ましい。
さらに、ポリメラーゼ領域は2重鎖DNAの結合を提供すると考えられる大きな裂け目(cleft)を有する。この裂け目は、2組のヘリックスにより形成され、第1の組はfingerモチーフと呼ばれ、第2の組はthumbモチーフと呼ばれる。裂け目の底は逆平行βシートにより形成され、palmモチーフと呼ばれる。DNAポリメラーゼ構造の概説は、JoyceおよびSteitz,Ann.Rev.Biochem.63:777−822(1994)(非特許文献7)において見出され得る。
なかでも、2重鎖DNAの結合を提供するfingerモチーフは、O−へリックスおよびP−へリックスの2本から成り、ヘリックス同士は数アミノ酸残基のループでつながれている。このループ領域のアミノ酸配列のうち、470番目のスレオニンおよび/または471番のイソロイシンを他のアミノ酸に置換した酵素であり、PCR増幅効率が改変された耐熱性DNAポリメラーゼに関する。
(1)熱安定性:pH8.8(25℃での測定値)にて95℃、6時間の処理で60%以上の残存活性を保持することができる
(2)至適温度:約65〜75℃
(3)分子量:88〜90KDa(計算値)であり、下記(4)のスレオニンおよび/またはイソロイシン以外において、糖鎖や欠失、挿入、又は1又は数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入、付加があってもよい。
(4)アミノ酸配列:配列番号1に記載のポリメラーゼドメイン(Pol領域) に位置するFingerモチーフ内の ループ領域のアミノ酸配列のうち、470番目のスレオニンおよび/または471番のイソロイシンを他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列を有する。
ここで、本願発明において、配列番号1に記載のアミノ酸配列とは、第470番目のスレオニン残基および/または第471番目のイソロイシン以外のアミノ酸のうちの1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつDNAポリメラーゼ活性を有するものも含むものである。好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列と95%以上の相同性を有する範囲で、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加され、且つDNAポリメラーゼ活性を有するものも含むものが挙げられる。
酵素活性が強い場合には、保存緩衝液(50mM Tris−HCl(pH8.0),50mM KCl,1mM ジチオスレイトール,0.1% Tween20,0.1% Nonidet P40,50% グリセリン)でサンプルを希釈して測定を行う。
(1)下記のA液25μl、B液5μl、C液5μl、滅菌水10μl、及び酵素溶液5μlをマイクロチューブに加えて75℃にて10分間反応する。
(2)その後氷冷し、E液50μl、D液100μlを加えて、攪拌後更に10分間氷冷する。
(3)この液をガラスフィルター(ワットマン製GF/Cフィルター)で濾過し、0.1N 塩酸およびエタノールで十分洗浄する。
(4)フィルターの放射活性を液体シンチレーションカウンター(パッカード製)で計測し、鋳型DNAのヌクレオチドの取り込みを測定する。
酵素活性の1単位はこの条件で30分当りの10nmolのヌクレオチドを酸不溶性画分(即ち、D液を添加したときに不溶化する画分)に取り込む酵素量とする。
A:40mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5)16mM 塩化マグネシウム15mM ジチオスレイトール100μg/ml BSA(牛血清アルブミン)
B:1.5μg/μl 活性化仔牛胸腺DNA
C:1.5mM dNTP(250cpm/pmol [3H]dTTP)
D:20% トリクロロ酢酸(2mMピロリン酸ナトリウム)
E:1mg/ml仔牛胸腺DNA
また、本発明において、DNAポリメラーゼの正確性とはDNA複製時における塩基の取り込みの正確性をいう。本発明におけるDNAポリメラーゼの正確性の評価には、各変異型(改変型)KOD DNAポリメラーゼでターゲットを増幅後、TAクローンニングを行って大腸菌を形質転換し、ターゲットの塩基配列を解析して変異塩基の型と頻度を算出する。
49μlの反応液(1×KOD−Plus−buffer(東洋紡績製)、0.9mM MgSO4、0.2mM dNTP、50 ngヒトゲノムDNA(Roche社製)、10pmolの配列番号10及び11に記載のプライマー)に酵素(1U/μl)を1μl加えてPCRを実施する。ここでは、サーマルサイクラーはApplied Biosystem社 PCR system GeneAmp9700を用いて以下のように行う。すなわち、94℃、2分行った後、94℃、15秒→60℃、30秒→68℃、2.5分を27サイクル行う。また、同時に天然型KODポリメラーゼ(東洋紡製)についても増幅反応を実施する。
PCR終了後MagExtractorR −PCR & Gel Clean up−(東洋紡社製)でPCR産物の精製を行う。精製産物には、最終濃度が1×Taq Buffer、1.5mM MgCl2、0.2 mM dNTPsになるように各試薬を添加する。さらにTArget Clone −Plus−(東洋紡社製)にてTAクローニングを行い、エシェリシア・コリDH5α株のコンピテントセルを用いて形質転換する。自動核酸抽出装置でクローンから抽出したプラスミドを鋳型として、配列番号12及び13に記載のシーケンスプライマーを用いてターゲット領域約1 kbのシーケンス解析を実施する。配列データは、ソフトウエアSequecher ver4.5を使用しアラインメント解析を行い、変異塩基の位置とその数、変異型について集計し変異挿入率を算出する。
例えば、野生型DNAポリメラーゼをコードする遺伝子に変異を導入して、タンパク質工学的手法により新たな機能を有する変異型(改変型)DNAポリメラーゼを製造する方法がある(J. Biol. Chem., 264(11), 6447−6458(1989))(非特許文献2)。
変異を導入するDNAポリメラーゼをコードする遺伝子は特に限定されないが、例えば、パイロコッカス・コダカラエンシスKOD1株由来の配列表・配列番号1に記載の遺伝子が挙げられる。
また同様に、パイロコッカス・フリオサス(Nucleic Acid Res., 21 (2), 259−265(1993))(非特許文献3)、サーモコッカス・リトラリス(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89, 5577−5581(1992))(非特許文献4)なども例示することができる。
野生型DNAポリメラーゼ遺伝子に変異を導入する方法は既知のいかなる方法を用いてもよい。例えば、野生型DNAポリメラーゼ遺伝子と変異原となる薬剤を接触させる方法や紫外線照射による方法などからタンパク質工学的手法、例えばPCRや部位特異的変異などの方法を用いることができる。
具体的には、プライマーエクステンション法、シークエンス法、従来の温度サイクルを行わない方法およびサイクルシーケンス法を含む。
具体的には、PCR法に基づく遺伝子増幅方法は、標的核酸、4種類のデオキシヌクレオシド三リン酸、一対のプライマー及び本発明の耐熱性DNAポリメラーゼの存在下で、変性、アニーリング、伸長の3工程からなるサイクルを繰り返すことにより、上記一対のプライマーで挟まれる標的核酸の領域を指数関数的に増幅させる方法である(Nature, 324 (6093), 13−19(1986))(非特許文献5)。
すなわち、変性工程で試料の核酸を変性し、続くアニーリング工程において各プライマーと、それぞれに相補的な一本鎖標的核酸上の領域とをハイブリダイズさせ、続く伸長工程で、各プライマーを起点としてDNAポリメラーゼの働きにより鋳型となる各一本鎖標的核酸に相補的なDNA鎖を伸長させ、二本鎖DNAとする。この1サイクルにより、1本の二本鎖DNAが2本の二本鎖DNAに増幅される。従って、このサイクルをn回繰り返せば、理論上上記一対のプライマーで挟まれた試料DNAの領域は2n倍に増幅される。
また、PCR反応液には、緩衝液及びこれらのイオンを含むと共に、BSA、例えばTriton X−100のような非イオン性界面活性剤、及び緩衝液が存在してもよい。
緩衝剤としては、トリスやヘペスなどのグッドバッファーおよび、リン酸緩衝液などが用いられる。
該抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体などが挙げられる。
本核酸増幅用試薬は、PCRの感度上昇、非特異増幅の軽減に特に有効である。
さらに上述したような2価イオン、1価イオン、緩衝液を含んでもよい。本発明における変異導入プライマーは、その長さが20〜150塩基程度であり、共にその配列のほぼ中央あたりに変異部分、即ち、鋳型のなるDNA配列と異なる部分(例えば、挿入、欠失、置換)を含み、互いに相補的である。
また、マグネシウムイオンやマンガンイオンのような2価のイオンの濃度は、反応段階で0.5〜2mM、及び例えばアンモニウムイオン及び/又はカリウムイオンのような1価のイオンの濃度は、反応の段階で10〜100mM程度となるようなものがよい。
本発明のDNAポリメラーゼは、反応の段階で0.01〜0.1単位/μl程度となるようなものがよい。また、プライマーの濃度は、0.2〜2pmol/μl程度である。
具体的には、上述のような本発明における耐熱性DNAポリメラーゼと別なDNAポリメラーゼ、例えば3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の低いDNAポリメラーゼなどを混合せしめることによって、長鎖核酸を増幅する場合(例えばlongPCR)に有用な組成物を得ることができる。
実際、長鎖核酸を増幅する方法として、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を欠くTaqポリメラーゼと3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有するPfuポリメラーゼまたはTiポリメラーゼまたはこれらの変異酵素を混合したDNAポリメラーゼ組成物を用いて、PCRを行う方法が報告されている(Barns, W.M.(1994) Proc.Natl. Acad. Sci. USA 91, 2216−2220)(非特許文献6)。
実施例1
KOD1株由来の改変型耐熱性DNAポリメラーゼ遺伝子を含有するプラスミド、pKOD H147Eを回収した。KOD1株由来のDNAポリメラーゼ遺伝子は2325塩基からなり、770個のアミノ酸がコードされていた(配列番号1)。該プラスミドの作製はQuickChange site directed mutagenesis kit(ストラタジーン製)を用いた。方法は取扱い説明書に準じて行った。変異作製用プライマーとしては、配列番号2及び3に記載されるプライマーを使用した。なお、変異体の確認は塩基配列の解読で行った。得られたプラスミドによりエシェリシア・コリJM109を形質転換し、エシェリシア・コリJM109株(pKOD H147E/T470C/I471S)を得た。
得られた菌体の培養は以下のようにして実施した。まず、滅菌処理した100μg/mlのアンピシリンを含有するTB培地(Molecular cloning 2nd edition、p.A.2)1Lを2L坂口フラスコ3本に分注した。この培地に予め100μg/mlのアンピシリンを含有する80mlのLB培地(1%バクトトリプトン、0.5%酵母エキス、0.5%塩化ナトリウム;ギブコ製)で37℃、16時間培養したエシェリシア・コリJM109(pKOD H147E/T470C/I471S)(500ml坂口フラスコ使用)を接種し、35℃にて12時間通気培養した。培養液より菌体を遠心分離により回収し、400mlの破砕緩衝液(10mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、80mM KCl、5mM 2−メルカプトエタノール、1mM EDTA)に懸濁後、フレンチプレス処理により菌体を破砕し、細胞破砕液を得た。次に細胞破砕液を85℃にて30分間処理した後、遠心分離にて不溶性画分を除去した。更に、ポリエチレンイミンを用いた除核酸処理、硫安塩析、ヘパリンセファロースクロマトグラフィーを行い、最後に保存緩衝液(50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、50mM 塩化カリウム、1mM ジチオスレイトール、0.1% Tween20、0.1%ノニデットP40、50%グリセリン)に置換し、改変型耐熱性DNAポリメラーゼ(H147E/T470C/I471S)を得た。上記精製工程のDNAポリメラーゼ活性測定は以下の操作で行った。また、酵素活性が高い場合はサンプルを希釈して測定を行った。
A液:40mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5)、16mM 塩化マグネシウム、15mM ジチオスレイトール100μg/ml BSA
B液: 1.5μg/μl 活性化仔牛胸腺DNA
C液: 1.5mM dNTP(250cpm/pmol [3H]dTTP)
D液: 20% トリクロロ酢酸(2mMピロリン酸ナトリウム)
E液: 1mg/ml仔牛胸腺DNA
A液25μl、B液5μl、C液5μl及び滅菌水10μlをマイクロチューブに加えて攪拌混合後、上記精製酵素希釈液5μlを加えて75℃で10分間反応する。その後冷却し、E液50μl、D液100μlを加えて、攪拌後更に10分間氷冷する。この液をガラスフィルター(ワットマン製GF/Cフィルター)で濾過し、0.1N塩酸及びエタノールで十分洗浄し、フィルターの放射活性を液体シンチレーションカウンター(パッカード製)を用いて計測し、鋳型DNAへのヌクレオチドの取り込みを測定した。酵素活性の1単位はこの条件下で30分当り10nmolのヌクレオチドを酸不溶性画分に取り込む酵素量とした。
変異体(H147E/T470C/I471S)遺伝子の作製及び改変型耐熱性DNAポリメラーゼの精製実施例1と同様の方法にて、KOD DNAポリメラーゼの第210番目のアスパラギン(Asn)をアスパラギン酸(Asp)に置換した耐熱性DNAポリメラーゼ遺伝子を作製した(pKOD H147E/N210D/T470C/I471S)。変異プライマーとしては、配列番号4及び5に記載されるプライマーを使用した。更に、実施例2と同様の精製方法にて改変型耐熱性DNAポリメラーゼ(H147E/N210D/T470C/I471S)を得た。
改変型DNAポリメラーゼを用いたPCR例(1)
野生型(WT)KOD DNAポリメラーゼ(KOD DNAポリメラーゼ(東洋紡績製))、並びに改変型耐熱性DNAポリメラーゼを用いてPCRを行った。PCRは49μlの反応液(1×KOD−Plus−buffer(東洋紡績製)、0.9mM MgSO4、0.2mM dNTP、10ngのヒトゲノムDNA(Roche社製)、10pmolの配列番号6及び7に記載のプライマー)に各酵素(1U/μl)を1μlを加えてPCRを実施した。サーマルサイクラーはApplied Biosystem社 PCR system GeneAmp9700を用いて、以下のように行った。すなわち、94℃、2分反応を行った後、94℃、20秒→60℃、30秒→68℃、4分を30サイクル行った。反応終了後10μlの反応液についてアガロース電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色し、紫外線照射下約4.0kbの増幅DNA断片を確認した。図1にアガロースゲル電気泳動の写真を示した。この結果より、変異体H147E/T470C/I471S、H147E/N210D/T470C/I471Sを用いた場合、特に低いコピー数の鋳型DNA(16pg)からの増幅において、野生型のKOD DNAポリメラーゼを用いるよりも良好な増幅を示すことが証明された。
改変型DNAポリメラーゼを用いたPCR例(2)
実施例1で良好な結果の得られた改変型耐熱性DNAポリメラーゼH147E/T470C/I471S、H147E/N210D/T470C/I471Sについて更にサイズの大きな遺伝子の増幅を試みた。49μlの反応液(1×KOD FX buffer(東洋紡績製)、0.2mM dNTP、200ngヒトゲノムDNA(Roche社製)、10pmolの配列番号8及び9に記載のプライマー)に各酵素(1U/μl)を1μl加えてPCRを実施した。サーマルサイクラーはApplied Biosystem社 PCR system GeneAmp9700を用いて以下のように行った。すなわち、94℃、2分反応後、98℃、10秒→74℃、24分(5サイクル)→98℃、10秒→72℃、24分(5サイクル)→98℃、10秒→70℃、24分(5サイクル)→98℃、10秒→68℃、24分(20サイクル)→68℃、7分のステップダウンで行った。反応終了後、10μlの反応液についてアガロース電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色して紫外線照射下約17.5kbの増幅断片を確認した。その結果、野生型のKOD DNAポリメラーゼを用いるよりも良好な増幅を確認することができた(図2)。
改変型KOD DNAポリメラーゼの正確性の測定
野生型(WT)KOD DNAポリメラーゼ(KOD DNAポリメラーゼ(東洋紡績製))及び改変型耐熱性DNAポリメラーゼについて正確性を以下の方法にて測定した。49μlの反応液(1×KOD−Plus−buffer(東洋紡績製)、0.9mM MgSO4、0.2mM dNTP、50 ngヒトゲノムDNA(Roche社製)、10pmolの配列番号10及び11に記載のプライマー)に酵素(1U/μl)を1μl加えてPCRを実施した。ここでは、サーマルサイクラーはApplied Biosystem社 PCR system GeneAmp9700を用いて以下のように行った。すなわち、94℃、2分行った後、94℃、15秒→60℃、30秒→68℃、2.5分を27サイクル行った。また、同時に野生型KOD DNAポリメラーゼ(東洋紡績製)についても増幅反応を実施した。
Claims (10)
- 配列表の配列番号1に記載されるアミノ酸配列において、以下の(1)または(2)の変異を有するアミノ酸配列からなる、改変型耐熱性DNAポリメラーゼ。
(1)470番目のスレオニンをシステインに、および、471番目のイソロイシンをセリンに、それぞれ置換されている。
(2)210番目のアスパラギンをアスパラギン酸に、470番目のスレオニンをシステインに、および、471番目のイソロイシンをセリンに、それぞれ置換されている。 - 請求項1に記載の耐熱性DNAポリメラーゼをコードする遺伝子
- 請求項2に記載の遺伝子をベクターに挿入した遺伝子組換えベクター。
- 請求項3に記載の遺伝子組み換えベクターを用いて宿主細胞を形質転換した組換え宿主細胞。
- 請求項4に記載の組換え宿主細胞を培養し、培養物から耐熱性DNAポリメラーゼを採取することを特徴とする耐熱性DNAポリメラーゼの製造法。
- DNAを鋳型とし、プライマー、dNTPおよび請求項1に記載の耐熱性DNAポリメラーゼを反応させて、プライマーを伸長して、DNAプライマー伸長物を合成することを特徴とする核酸増幅法。
- 一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物に相補的である2種のプライマー、dNTPおよび請求項1に記載の耐熱性DNAポリメラーゼ、2価イオン、1価イオンおよび緩衝液を含む核酸増幅用試薬。
- 請求項1に記載の耐熱性DNAポリメラーゼを1種以上混合されたことを特徴とするDNAポリメラーゼ組成物。
- 鋳型としてのDNA、変異導入プライマー、dNTP及び請求項1に記載の耐熱性DNAポリメラーゼを反応させることにより、プライマーを伸長させてDNAプライマー伸長物を合成することを含む遺伝子変異導入方法。
- 変異導入プライマー、dNTP、及び請求項1に記載の耐熱性DNAポリメラーゼを含んでなることを特徴とする遺伝子変異導入用試薬。
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