JP6798594B2 - 核酸増幅の正確性を向上させる方法 - Google Patents

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Description

本発明は、核酸増幅の分野に関する。さらに詳しくは、PCR反応における正確性を向上させる方法に関する。
PCR(Polymerase chain reaction)法とは、(1)熱処理によるDNA変性(2本鎖DNAから1本鎖DNAへの解離)、(2)鋳型1本鎖DNAへのプライマーのアニーリング、(3)DNAポリメラーゼを用いた前記プライマーの伸長、という3ステップを1サイクルとし、このサイクルを繰り返すことによって、試料中の標的核酸を増幅する方法である。この方法により、数コピーといった極微量サンプルから標的核酸を何十万倍に増幅することができるため、研究用途のみならず、遺伝子診断、臨床診断といった法医学分野、あるいは、食品や環境中の微生物検査等においても、広く用いられている。
PCRを行う上で重要となる点として、増幅効率と高正確性などが挙げられる。特に、PCRの正確性は、目的遺伝子のクローニング、シークエンス解析のためのライブラリー調製時のPCR増幅などにおいて重要となる。
PCRの正確性の評価の物差しには種々の異なる観点がある。その物差しとしては、例えば、塩基の取り込み間違い(ミスマッチエラー)の頻度が挙げられる。ミスマッチエラーの頻度は、使用するDNAポリメラーゼの3’−5’エキソヌクレアーゼ活性(修復活性)の強さに大きく依存する。一方、別の物差しとして、酵素のスリッピングによるリピート配列の複製エラー(スリッページエラー)の頻度が挙げられる。スリッページエラーは3’−5’エキソヌクレアーゼ活性では修復できない。このように、前記2種類の物差しは全く異なる原因で発生するものである。
PCRの正確性を向上させるために、超好熱始原菌由来のファミリーB(α型)に属するDNAポリメラーゼが開発されてきた。ファミリーBに属するDNAポリメラーゼは、例えばパイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)由来の耐熱性DNAポリメラーゼ(Pfu DNAポリメラーゼ;特許文献1)、サーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)由来の耐熱性DNAポリメラーゼ(Ti(Vent)ポリメラーゼ、特許文献2)、パイロコッカス・コダカラエンシス (Pyrococcus kodakaraensis) KOD1(旧名:Pyrococcus sp. KOD1)由来の耐熱性DNAポリメラーゼ(KOD DNAポリメラーゼ、特許文献3)などが知られている。これらファミリーBに属するDNAポリメラーゼは3’−5’エキソヌクレアーゼ活性(Proof reading活性・校正活性)を有するため、正確性は、Taq DNAポリメラーゼなどのファミリーA(pol I型)に属するDNAポリメラーゼに比べて優れている。
しかしながら、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼを使用した場合でも、これらのエラーを完全に消失できるわけではない。例えばミスマッチエラーの観点では、特にクローニングやシークエンス解析において、より正確性の高いPCR方法が求められている。また、スリッページエラーの観点では、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼを使用した場合でもリピート配列における挿入や欠損に関するエラーは、ほとんど改善が認められていないことが報告されている(非特許文献1)。これは、リピート配列におけるエラーは、DNAのポリメラーゼのスリッピングによるものであるため、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性(Proof reading活性・校正活性)では、修復できないからである。
特許3453397 特開平06−007160 特許3132624 WO2007/004654 英国特許6333158 特許4395377 特表2006−507012
J Clin Pathol: Mol Pathol 2001;54:351−353 NUCLEIC Acids Res. 2003 Feb 1;31(3):974−80
そこで、本発明はミスマッチエラーやリピート配列を増幅する際のスリッページエラーなどを低減させることで、核酸増幅の正確性を向上させる方法を提供することを目的とする。
さらに本発明の他の目的は、上記の目的に適した試薬キットを提供することにある。要約すれば本発明の目的は、PCRの正確性が向上し、クローニングやシークエンス解析のためのライブラリー調製時のPCR増幅などに適したPCR改良法およびPCR反応試薬を提供することである。
本発明者は、上記事情を鑑み、鋭意研究の結果、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼに加え、Proliferating Cell Nuclear Antigen(PCNA)を添加することで核酸増幅におけるミスマッチエラーの低減や、リピート配列を増幅する際のスリッページエラーの低減に繋がることを見出し、本発明の完成に至った。
Proliferating Cell Nuclear Antigen(PCNA)は、DNA複製に関与する因子のひとつである増殖核抗原である。PCNAをファミリーBに属するDNAポリメラーゼに添加すると核酸増幅の時間が短縮できること(特許文献4)や、プライマーエクステンション試験で伸長性が向上し、核酸増幅でも比較的長めのターゲットを増幅できること(特許文献5)が知られている。しかし、核酸増幅におけるミスマッチエラーの低減に効果があることや、リピート配列を増幅する際のスリッページエラーの低減に効果があることを示した例は知られていない。
本発明は以下の構成からなる。
[1]核酸増幅の正確性を向上させる方法であって、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼとProliferating Cell Nuclear Antigen(PCNA)を反応液中に含んでいることを特徴とする核酸増幅法。
(ここで、核酸増幅の正確性向上が、ミスマッチエラーの低減、および/または、リピート配列を増幅する際のスリッページエラーの低減であってもよい。)
[2]PCNAが単独でDNAにロードする変異体である[1]に記載の方法。
[3]PCNAが、(a)82、84、109番目に相当するアミノ酸からなるN末端領域、および(b)139、143、147番目に相当するアミノ酸からなるC末端領域のうち、少なくともひとつの改変を有する変異体である、[1]または[2]に記載の核酸増幅法。
[4]PCNAが配列番号1または2に記載のアミノ酸配列において、143番目に相当するアミノ酸を塩基性アミノ酸あるいは中性アミノ酸に改変したもの、または、82番目と143番目を共に中性アミノ酸に改変したもの、147番目を中性アミノ酸に改変したもの、109番目と143番目を共に中性アミノ酸に改変したもののいずれかの変異体である、[1]−[3]のいずれかに記載の核酸増幅法。
[5]PCNAが配列番号21に記載のアミノ酸配列において、142番目(配列番号1または2に記載のアミノ酸配列において、143番目に相当)のアミノ酸を塩基性アミノ酸に改変した変異体である[1]−[3]のいずれかに記載の核酸増幅方法。
[6]ファミリーBに属するDNAポリメラーゼが、古細菌(Archea)由来のDNAポリメラーゼである[1]−[5]のいずれかに記載の核酸増幅法。
[7]ファミリーBに属するDNAポリメラーゼが、パイロコッカス(Pyrococcus)属またはサーモコッカス(Thermococcus)属の細菌から単離されるDNAポリメラーゼである[1]−[5]のいずれかに記載の核酸増幅法。
[8]ファミリーBに属するDNAポリメラーゼが減少した塩基類似体検出活性を有する古細菌DNAポリメラーゼ変異体である[1]−[5]のいずれかに記載の核酸増幅法。
[9][1]−[8]のいずれかに記載の核酸増幅法を行うための試薬。
[10][1]−[8]のいずれかに記載の核酸増幅法を行うための試薬を含むキット。
本発明により、核酸増幅(PCR)のエラー(例えば、ミスマッチエラー、および/または、リピート配列を増幅する際のスリッページエラー)を低減させることができる。これにより、増幅エラーのない配列を見つけ出すことに時間を要していたクローニングの時間・コストの削減につなげることができる。さらに、シークエンスにおいては、核酸増幅エラー(例えば、ミスマッチエラー、および/または、リピート配列を増幅する際のスリッページエラー)を低減させ核酸増幅(PCR)を行えることで正確なデータ、配列情報が得られることが期待できる。この手法は研究分野だけでなく、遺伝子診断などの臨床分野もしくは法医学分野、あるいは食品や環境中の微生物検査等においても広く利用することができる。
PCNA変異体の評価として増幅増強活性を調べた結果である。 KOD−PCNAが、KOD DNAポリメラーゼに与える正確性への影響を評価した結果である。 Pfu−PCNAが、PrimeSTAR DNAポリメラーゼに与える正確性への影響を評価した結果である。 KOD−PCNAが、減少した塩基類似体検出活性を有する古細菌DNAポリメラーゼ変異体に与える正確性への影響を評価した結果である。 Mja−PCNAが、KOD DNAポリメラーゼに与える正確性への影響を評価した結果である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書においては、塩基配列、アミノ酸配列およびその個々の構成因子については、アルファベット表記による簡略化した記号を用いる場合があるが、いずれも分子生物学・遺伝子工学分野における慣行に従う。また、本明細書においては、アミノ酸配列の変異を簡潔に示すため、例えば「D143A」などの表記を用いる。「D143A」は、第143番目のアスパラギン酸をアラニンに置換したことを示しており、すなわち、置換前のアミノ酸残基の種類、その場所、置換後のアミノ酸残基の種類を示している。また、配列番号は、特に断らない限り、配列表に記載された配列番号に対応する。また、多重変異体の場合は、上記の表記を「/」でつなげて表す。たとえば「D143A/D147A」は、第143番目のアスパラギン酸をアラニンに置換し、かつ、第147番目のアスパラギン酸をアラニンに置換したことを示す。
また、本明細書において「変異型PCNA」、「PCNA変異体」という場合の「変異型」、「変異体」とは、従来知られたPCNAとは異なるアミノ酸配列を備えることを意味するものであり、人為的変異によるか自然界における変異によるかを区別するものではない。さらに、DNAポリメラーゼの変異体についても同様である。
本発明におけるPCRの正確性を向上した核酸増幅法は、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼとProliferating Cell Nuclear Antigen(PCNA)を反応液中に含んでいることを特徴とする。
PCRの正確性とは、DNA合成時における塩基の取り込みの正確性を意味する。PCRの正確性の評価を行う方法として、ストレプトマイシン耐性に関与するリボゾーマルタンパク質S12(rpsL)遺伝子を用いた方法や、増幅産物をクローニングし、シークエンスする方法などが挙げられる。
[DNAポリメラーゼの正確性の評価方法]
本発明におけるDNAポリメラーゼの正確性の評価には、増幅産物をクローニングし、シークエンスする方法を用いている。方法は、まず、ゲノムDNAを鋳型として、任意に選択した領域を増幅できるプライマーにてPCR増幅を実施する。その後、増幅産物をベクターにクローニングし、複数クローンをピックアップ、シークエンスにより塩基配列を確認し、増幅塩基数に対するエラーの割合を求めることにより算出する。一方、鋳型がリピート配列を含むゲノムDNAである場合は、リピート配列に生じた欠失や挿入のエラーの割合を求めることにより算出する。
具体的な正確性の評価方法を記載する。
(1)ミスマッチエラーの観点から
まず、PCRをPCNA添加の有り、無しそれぞれについて実施する。PCRの反応組成については、プライマー対として、15pmolのプライマー対(配列番号18及び19)、鋳型として50ngのヒトゲノムDNA(ロッシュ・アプライド・サイエンス)を使用する以外は、増幅が可能な組成であれば限定されない。また、PCRサイクルについても各DNA ポリメラーゼに適した条件で実施すればよい。PCNA添加の有無で増幅量を揃えるために、PCNA添加あり、無しのそれぞれについてサイクル数を設定する。増幅量が揃っているかの確認は、PCR反応終了後、5μlの反応液についてアガロース電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色後、紫外線照射下約2.4kbの増幅DNA断片の強度を確認することで評価できる。
次にPCNA添加有り、無しのそれぞれの増幅産物についてクローニングを実施する。本PCR産物は、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有するファミリーBに属するDNAポリメラーゼにより増幅しているため3’末端が平滑化されている。そのため、PCR産物の平滑末端へのアデニン付加後、TAクローニングを実施する必要性がある。具体的には、アデニン付加、TAクローニングには、TArget Clone −Plus−(TOYOBO)を用いて、方法は取扱説明書に準じて行えばよい。クローニング方法については、上記方法に限定されず、公知の方法を使用することが可能である。
クローニングにより得られたプラスミドによりエシェリシア・コリDH5αを形質転換し、アンピシリンを含むLB寒天培地に播種後、37度で一晩培養する。得られたコロニーを複数ピックアップし、アンピシリンを含むLB培地にて培養し、プラスミドを抽出後、シークエンスを実施する。シークエンス反応は、配列番号20に示すプライマーを用いる。シークエンス解析は、例えば、BigDye Termination v3.1 Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズ)を用い、製品の取扱説明書に準じてシークエンス反応を行う。解析には、Applied Biosystems 3730 DNA Analyzer(アプライドバイオシステムズ)を使用し、解析を実施する。
シークエンス後、複数ピックアップしたコロニーそれぞれについて、シークエンスが完了した塩基数と、間違えて取り込まれた塩基数(エラー塩基数)のカウントを実施する。その後、複数ピックアップしたコロニーについて算出した値を合計し、シークエンスが完了した塩基数の合計値に対する間違えて取り込まれた塩基数(エラー塩基数)の合計値の割合を算出し、この値をエラー率とする。このエラー率について、PCNA添加有り、無しで比較することによりPCNA添加効果を確認することができる。この際、シークエンスを実施するプラスミド数は、最低30クローン、好ましくは50クローン以上で実施する。また、計算値の分母となるシークエンスが完了した塩基数は10000塩基以上が望ましく、より好ましくは20000塩基以上である。
さらに、間違えて取り込まれた塩基数を評価するにあたり、リピート配列に対するエラー(スリッページエラー)は除外する。これは、塩基の取り込み間違い(エラー)とリピート配列に対するエラー(スリッページエラー)は異なる原因で発生するからである。
(2)リピート配列を増幅する際のスリッページエラーの観点から
一方、鋳型がリピート配列を含むゲノムDNAである場合は、リピート配列を含む領域の解析(シークエンス解析)までの工程を前記(1)と同様に実施した後、(A)12のリピート配列領域のAの数を各コロニーから抽出したプラスミドごとに集計する。シークエンスを実施したプラスミド数に対するAの数が12個であるプラスミドの割合をエラーのない割合とし、シークエンスを実施したプラスミド数に対するAの数が12個ではないプラスミドの割合をエラー率とし、PCNA添加有り・無しで比較する。この際、シークエンスを実施するプラスミド数は、最低30クローン、好ましくは50クローン以上で実施する。
本発明におけるPCRの正確性の向上とは、ミスマッチエラーの観点からは、PCNA添加によりエラー率(核酸増幅のエラー率)が低下することを意味している。このエラーは、鋳型DNA配列と核酸増幅後の塩基配列が異なる割合を求めたものである。一方、リピート配列を増幅する際のスリッページエラーの観点からは、PCRの正確性の向上とは、リピート配列の増幅エラーが低減することを意味している。このエラーは、リピート配列に生じた欠失や挿入のエラー率で表される。
なお、本発明におけるリピート配列とは、同じ塩基の繰り返し、例えば−(A)n−、−(T)n−、−(G)n−、−(C)n−などを指す。また、2塩基の繰り返し、例えば、−(TA)n−、−(CA)n−、−(GA)n−、−(GT)n−なども含まれる。さらに繰り返しの対象となる塩基数が3塩基以上でもよい。エラーが生じやすいリピート配列については、すでに複数報告されており、リピート数や配列は限定されるものではない(非特許文献1、非特許文献2)。
本発明におけるファミリーB(α型)に属するDNAポリメラーゼは、特に限定されない。たとえば、古細菌から単離されるDNAポリメラーゼ(古細菌DNAポリメラーゼ)が挙げられる。古細菌としては、パイロコッカス(Pyrococcus)属およびサーモコッカス(Thermococcus)属の細菌が例示される。
パイロコッカス属由来のDNAポリメラーゼとしては、Pyrococcus furiosus、Pyrococcus sp.GB−D、Pyrococcus Woesei、Pyrococcus abyssi、Pyrococcus horikoshiiから単離されたDNAポリメラーゼを含むが、これらに限定されない。
サーモコッカス属に由来するDNAポリメラーゼとしては、Thermococcus kodakaraensis(KODと略称することもある)、Thermococcus gorgonarius、Thermococcus litoralis、Thermococcus sp.JDF−3、Thermococcus sp.9degrees North−7(Thermococcus sp.9°N−7)、Thermococcus sp.KS−1、Thermococcus celer、 またはThermococcus siculiから単離されたDNAポリメラーゼを含むが、これらに限定されない。
これらのDNAポリメラーゼを用いたPCR酵素は市販されており、Pfu DNAポリメラーゼ(アジレント・テクノロジー、プロメガなど)、KOD DNAポリメラーゼ(TOYOBO)、Pfx DNA ポリメラーゼ(ライフテクノロジーズ)、Ultima DNAポリメラーゼ(ライフテクノロジーズ)Pwo DNAポリメラーゼ(ロッシュ・アプライド・サイエンス)、Tgo DNAポリメラーゼ(ロッシュ・アプライド・サイエンス)、Vent DNAポリメラーゼ(ニュー・イングランド・バイオラボ)、Deep Vent DNAポリメラーゼ(ニュー・イングランド・バイオラボ)、PrimeSTAR(登録商標) DNAポリメラーゼ(タカラバイオ)、MightyAmp DNAポリメラーゼ(タカラバイオ)などが挙げられる。本発明において使用する酵素は、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼであればよく、上記のDNAポリメラーゼに特に限定されるものではないが、なかでもPCR効率の観点から、伸長性や熱安定性に優れたKOD DNAポリメラーゼが特に好ましい。
本発明で使用するファミリーBに属するDNAポリメラーゼは、アミノ酸配列に1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠損、付加もしくは挿入されたアミノ酸配列を有する変異体であってもよく、特に限定されない。
本発明で使用するファミリーBに属するDNAポリメラーゼは、「減少した塩基類似体検出活性」を有する変異体でもよい。塩基類似体とはアデニンやシトシン、グアニン、チミン以外の塩基を示し、ウラシルやイノシンなどが挙げられる。通常、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼは、塩基類似体であるウラシルやイノシンを検出すると強く結合し、ポリメラーゼ機能を阻害する。塩基類似体検出活性とは、塩基類似体と強く結合し、ポリメラーゼ機能を阻害する活性を示す。減少した塩基類似体検出活性を有するファミリーBに属するDNAポリメラーゼ変異体とは、ウラシルやイノシンへの結合能力が低いことを特徴とするファミリーBに属するDNAポリメラーゼ変異体である。
このようなファミリーBに属するDNAポリメラーゼの減少した塩基類似体検出活性を有する変異体としては、古細菌DNAポリメラーゼ変異体が例示できる。
具体的には、アミノ酸1〜40、およびアミノ酸78〜130によって形成されるウラシルの結合に関するアミノ酸配列(ウラシル結合ポケット)に改変を加え、野生型のDNAポリメラーゼと比較して、ウラシルやイノシンへの結合能力が低いことを特徴とする古細菌DNAポリメラーゼ変異体である。ウラシルやイノシンへの結合能力が低い古細菌DNAポリメラーゼ変異体は、dUTPの存在下のPCRでもファミリーBに属する古細菌由来のDNAポリメラーゼの機能低下があまり見られず、dUTPによるDNAポリメラーゼの伸長反応への影響が低減されている。
ウラシルの結合に関するアミノ酸配列はパイロコッカス属に由来するDNAポリメラーゼ及びサーモコッカス属に由来するDNAポリメラーゼにおいて高度に保存されている。サーモコッカス・コダカラエンシスに由来するDNAポリメラーゼ(配列番号3)においては、アミノ酸1〜40、およびアミノ酸78〜130によって形成される。パイロコッカス・フリオサス(配列番号4)においては、アミノ酸1〜40、およびアミノ酸78〜130によって形成される。サーモコッカス・ゴルゴナリウス(配列番号5)においては、アミノ酸1〜40、およびアミノ酸78〜130によって形成される。サーモコッカス・リトラリス(配列番号6)においては、アミノ酸1〜40、およびアミノ酸78〜130によって形成される。パイロコッカス・エスピーGB−D(配列番号7)においては、アミノ酸1〜40、およびアミノ酸78〜130によって形成される。サーモコッカス・エスピーJDF−3(配列番号8)のおいては、アミノ酸1〜40、およびアミノ酸78〜130によって形成される。サーモコッカス・エスピー9°N−7(配列番号9)においては、アミノ酸1〜40、およびアミノ酸78〜130によって形成される。サーモコッカス・エスピーKS−1(配列番号10)においては、アミノ酸1〜40、およびアミノ酸78〜130によって形成される。サーモコッカス・セラー(配列番号11)においては、アミノ酸1〜40、およびアミノ酸78〜130によって形成される。サーモコッカス・シクリ(配列番号12)においては、アミノ酸1〜40、およびアミノ酸78〜130によって形成される。
本発明の核酸増幅法に用いるDNAポリメラーゼ変異体として、より好ましいのは、ウラシルとの相互作用に直接関連していると想定されている7、36、37、90〜97、および112〜119番目のアミノ酸のうち少なくとも1つに改変を加えた古細菌DNAポリメラーゼ変異体である。そのような変異体として、例えば、下記の(a)で示されるアミノ酸配列を有するものが挙げられる。
(a)配列番号3または配列番号4で示されるアミノ酸配列の7、36、37、90〜97および112〜119番目に相当するアミノ酸のうち、少なくとも1つのアミノ酸の改変を有するアミノ酸配列。
上記の古細菌DNAポリメラーゼ変異体は、以下の(b)のアミノ酸配列で示されるものであってもよい。
(b)(a)で示されるアミノ酸配列においてさらに少なくとも1つのアミノ酸が改変されており、そのアミノ酸配列が(a)で示されるアミノ酸配列と80%以上同一(好ましくは85%以上同一であり、さらに好ましくは90%以上同一であり、さらに好ましくは95%以上同一であり、さらに好ましくは98%以上同一であり、さらに好ましくは99%以上同一である)であり、かつ、減少した塩基類似体検出活性を有するDNAポリメラーゼをコードするアミノ酸配列。
アミノ酸配列の同一性を算出する方法としては、種々の方法が知られている。例えば、市販のまたは電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な解析ツールを用いて算出することができる。
本明細書では、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムBLAST(Basic local alignment search tool)http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/においてデフォルト(初期設定)のパラメーターを用いることにより、アミノ酸配列の同一性を算出する。
上記の古細菌DNAポリメラーゼ変異体は、以下の(c)のアミノ酸配列で示されるものであってもよい。
(c)(a)で示されるアミノ酸配列においてさらに少なくとも1つのアミノ酸が改変されており、そのアミノ酸配列が(a)で示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列であり、かつ、減少した塩基類似体検出活性を有するDNAポリメラーゼをコードするアミノ酸配列。
ここで「数個」とは、「減少した塩基類似体検出活性」が維持される限り制限されないが、例えば、全アミノ酸の約20%未満に相当する数であり、好ましくは約15%未満に相当する数であり、さらに好ましくは約10%未満に相当する数であり、より一層好ましくは約5%未満に相当する数であり、最も好ましくは約1%未満に相当する数である。より具体的には、変異されるアミノ酸残基の個数は、例えば、2〜160個、好ましくは2〜120個、より好ましくは2〜80個、更に好ましくは2〜40個であり、更に好ましくは2〜20個であり、更に好ましくは2〜10個であり、より更に好ましくは2〜5個である。
なお、本明細書において、「配列番号3または配列番号4に示されるアミノ酸配列における7、36、37、90〜97、および112〜119番目に相当するアミノ酸」とは、配列番号3または配列番号4に示されるアミノ酸配列と完全同一ではないアミノ酸配列を有するDNAポリメラーゼにおいて、配列番号3または配列番号4の7、36、37、90〜97、および112〜119番目に対応するウラシルの結合に関するアミノ酸配列を含む表現である。
例えば、上記の(a)から(c)に示される古細菌DNAポリメラーゼ変異体において、改変前のアミノ酸配列は、配列番号3または配列番号4に示されるアミノ酸配列と完全同一ではないアミノ酸配列であってもよい。
本願明細書において、配列番号3または配列番号4に示されるアミノ酸配列と完全同一ではないアミノ酸配列における、配列番号3または配列番号4上のある位置(順番)と対応する位置とは、配列の一次構造を比較(アラインメント)したとき、配列番号3または配列番号4の当該位置と対応する位置とする。配列の一次構造を比較する方法としては、種々の方法が知られている。例えば、市販のまたは電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な解析ツールを用いて算出することができる。
本明細書では、DNA Databank of Japan(DDBJ)のClustalW(http://clustalw.ddbj.nig.ac.jp/index.php/lang=ja)においてデフォルト(初期設定)のパラメーターを用いることにより、配列の一次構造を比較する。
本発明の核酸増幅法に用いる減少した塩基類似体検出活性を有する古細菌DNAポリメラーゼ変異体は、より好ましくは、配列番号3または配列番号4におけるアミノ酸Y7、P36、またはV93に相当するアミノ酸から選択される少なくとも1つのアミノ酸の改変を有する。
ここで、例えばY7とは、7番目のアミノ酸であるチロシン(Y)残基を意味しており、アルファベット1文字は通用されているアミノ酸の略号を表している。好ましい例において、Y7アミノ酸はチロシン(Y)が非極性アミノ酸に置換されており、具体的にはY7A、Y7G、Y7V、Y7L、Y7I、Y7P、Y7F、Y7M、Y7W、及びY7Cからなる群より選ばれるアミノ酸置換である。別の好ましい例において、P36アミノ酸はプロリン(P)が正電荷をもつ極性アミノ酸に置換されており、具体的にはP36H、P36K、またはP36Rのアミノ酸置換である。別の好ましい例において、V93アミノ酸はバリン(V)が正電荷をもち極性アミン酸に置換されており、具体的にはV93H、V93K、またはV93Rのアミノ酸置換である。
より好ましくは、改変がY7A、P36H、P36K、P36R、V93Q、V93K、及びV93Rからなる群より選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸の改変である。さらに好ましくはP36K、P36RまたはP36Hである。さらに好ましくはP36Hである。
本発明における減少した塩基類似体検出活性を有する古細菌DNAポリメラーゼ変異体は、配列番号3または配列番号4におけるアミノ酸Y7、P36、またはV93に相当するアミノ酸から選択される2つ以上のアミノ酸を改変したものでも良い。具体的には、Y7A/V93K、Y7A/P36H、Y7A/P36R、Y7A/V93R、Y7A/V93QまたはP36H/V93Kなどが挙げられ、好ましくは、Y7A/P36HまたはY7A/V93Kなどがあげられるが、これらに限定されるものではない。
なお、特許文献6または7には、ウラシルと相互作用に直接関連していると想定されている7、36、37、90〜97、および112〜119番目のアミノ酸のいずれかに改変を加えた古細菌DNAポリメラーゼ変異体がいくつか例示されているが、その全ての改変体が本願の課題にかなう良好な特性を有しているわけではなく、中には活性を失っているものも見られる。
上記に例示したDNAポリメラーゼの改変をもとに、本発明の核酸増幅法に用いる改変されたDNAポリメラーゼとして、種々の変異体が考えられる。そのような変異体として、以下の(1)−(4)のいずれかの改変を有する古細菌DNAポリメラーゼの変異体が例示されるが、これに限定されるわけではない。
(1)(A)H147Eと、(B)Y7A/V93K、Y7A/V93R、Y7A/V93Q、Y7A/P36H、Y7A/P36R、P36H/V93K、P36K、P36R、P36H、V93RまたはV93Qのいずれか
(2)(A)N210Dと、(B)Y7A/V93K、Y7A/P36H、Y7A/P36R、P36K、P36R、P36H、V93Q、V93KまたはV93Rのいずれか
(3)(A)I142Rと、(B)Y7A/V93K、Y7A/V93R、Y7A/V93Q、Y7A/P36H、Y7A/P36R、P36R、P36H、V93K、V93RまたはV93Qのいずれか
(4)(A)D141A/E143Aと、(B)Y7A/V93K、Y7A/P36H、Y7A/P36R、P36R、P36HまたはV93Kのいずれか
本発明における塩基類似体検出活性はPCRによって評価できる。塩基類似体は典型的にはウラシルである。例えば、鋳型となるDNA、緩衝材、マグネシウム、dNTPs、プライマー、および評価対象のDNAポリメラーゼを含む通常のPCR反応液に、dUTP溶液を、終濃度0.5μM〜200μMで添加し、熱サイクルを行う。反応後にエチジウムブロマイド染色アガロース電気泳動でPCR産物の有無を確認し、許容できたdUTP濃度によって、ウラシルの検出活性を評価することが出来る。ウラシル検出活性の高いDNAポリメラーゼは少しのdUTPの添加で伸長反応が阻害され、PCR産物が確認できない。またウラシルの検出活性の低いDNAポリメラーゼは高濃度のdUTPを添加しても問題なくPCRによる遺伝子増幅が確認できる。
減少した塩基類似体検出活性を有する古細菌DNAポリメラーゼ変異体とは、酵素至適の反応Buffer中で、任意のプライマー、および鋳型となるDNAを用い、至適の熱サイクルを行った結果、変異がない野生型と比較し、高濃度のdUTPを添加しても伸長反応が阻害されず、PCR産物が確認できるDNAポリメラーゼのことをいう。ただし、野生型との比較が困難な場合は、dUTPを0.5μMの濃度で添加してもPCRの増幅ができる古細菌DNAポリメラーゼ変異体については、当該変異体が野生型と比較して減少した塩基類似体検出活性を有すると推定する。
本発明における塩基類似体検出活性の評価は、以下の方法に従う。
KOD −Plus− Ver.2(TOYOBO)添付の10×PCR Buffer、またはPfu DNA Polymerase(アジレント・テクノロジー)添付の10×PCR Bufferを用い、1×PCR Buffer、および1.5mM MgSO、0.2mM dNTPs(dATP、dTTP,dCTP、dGTP)、約1.3kbを増幅する15pmolの配列番号13及び14に記載のプライマー(対)、10ngのヒトゲノムDNA(ロッシュ・アプライド・サイエンス)、1Uの各酵素を含む50μlの反応液中に、dUTP(ロッシュ・アプライド・サイエンス)を終濃度0.5、5、50、100、200μMになるように添加した反応液を調製する。94℃、30秒の前反応の後、98℃、10秒→65℃、30秒→68℃、1分30秒を30サイクル繰り返すスケジュールでPCR system GeneAmp9700(アプライドバイオシステムズ)にてPCRを行う。反応終了後、5μlの反応液についてアガロース電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色し、紫外線照射下約1.3kbの増幅DNA断片を確認することで塩基類似体検出活性が減少しているかどうかが評価できる。
本発明の核酸増幅法に用いるDNAポリメラーゼを、改変する方法は、既に当該技術分野において確立されている。よって、公知の方法に従い改変を行うことが出来、その態様は特に制限されない。
アミノ酸の改変を導入する方法の一態様として、Inverse PCR法に基づく部位特異的変異導入法を用いることができる。例えば、KOD −Plus− Mutagenesis Kit(TOYOBO)は、(1)目的とする遺伝子を挿入したプラスミドを変性させ、該プラスミドに変異プライマーをアニーリングさせ、続いてKOD DNAポリメラーゼを用いて伸長反応を行う、(2)(1)のサイクルを15回繰り返す、(3)制限酵素DpnIを用いて鋳型としたプラスミドのみを選択的に切断する、(4)新たに合成された遺伝子をリン酸化、Ligationを実施し環化させる、(5)環化した遺伝子を大腸菌に形質転換し、目的とする変異の導入されたプラスミドを保有する形質転換体を取得することのできるキットである。
上記改変DNAポリメラーゼ遺伝子を必要に応じて発現ベクターに移し替え、宿主として例えば大腸菌を、該発現ベクターを用いて形質転換した後、アンピシリン等の薬剤を含む寒天培地に塗布し、コロニーを形成させる。コロニーを栄養培地、例えばLB培地や2×YT培地に接種し、37℃で12〜20時間培養した後、菌体を破砕して粗酵素液を抽出する。ベクターとしては、限定されるものではないがpBluescript由来のものが好ましい。菌体を破砕する方法としては公知のいかなる手法を用いても良いが、例えば超音波処理、フレンチプレスやガラスビーズ破砕のような物理的破砕法やリゾチームのような溶菌酵素を用いることができる。この粗酵素液を80℃、30分間熱処理し、宿主由来のポリメラーゼを失活させ、DNAポリメラーゼ活性を測定する。
[DNAポリメラーゼ活性測定法]
本明細書において、DNAポリメラーゼ活性は、以下の方法で測定することにより定義される。なお酵素活性が強い場合には、保存緩衝液(50mM Tris−HCl(pH8.0),50mM KCl,1mM ジチオスレイトール,0.1% Tween20,0.1% Nonidet P40,50% グリセリン)でサンプルを希釈して測定を行う。
(1)下記のA液25μl、B液5μl、C液5μl、滅菌水10μl、及び酵素溶液5μlをマイクロチューブに加えて75℃にて10分間反応する。(2)その後氷冷し、E液50μl、D液100μlを加えて、攪拌後更に10分間氷冷する。(3)この液をガラスフィルター(ワットマン製GF/Cフィルター)で濾過し、0.1N 塩酸およびエタノールで十分洗浄する。(4)フィルターの放射活性を液体シンチレーションカウンター(パッカード製)で計測し、鋳型DNAのヌクレオチドの取り込みを測定する。酵素活性の1単位はこの条件で30分当りの10nmolのヌクレオチドを酸不溶性画分(即ち、D液を添加したときに不溶化する画分)に取り込む酵素量とする。
A:40mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5)16mM 塩化マグネシウム15mM ジチオスレイトール100μg/mL BSA(牛血清アルブミン)
B:1.5μg/μl 活性化仔牛胸腺DNA
C:1.5mM dNTP(250cpm/pmol [3H]dTTP)
D:20% トリクロロ酢酸(2mMピロリン酸ナトリウム)
E:1mg/mL仔牛胸腺DNA
上記方法により選抜された菌株から精製DNAポリメラーゼを取得する方法は、いかなる手法を用いても良いが、例えば下記のような方法がある。栄養培地に培養して得られた菌体を回収した後、酵素的または物理的破砕法により破砕抽出して粗酵素液を得る。得られた粗酵素抽出液から熱処理、例えば80℃、30分間処理し、その後硫安沈殿によりDNAポリメラーゼ画分を回収する。この粗酵素液をセファデックスG−25(アマシャムファルマシア・バイオテク)を用いたゲル濾過等の方法により脱塩を行うことができる。
この操作の後、ヘパリンセファロースカラムクロマトグラフィーにより分離、精製し、精製酵素標品を得ることができる。該精製酵素標品はSDS−PAGEによってほぼ単一バンドを示す程度に純化される。
本発明の核酸増幅法に用いるPCNA(本明細書では、Proliferating Cell Nuclear Antigenとも言う)は、PCR増強因子の一種である。前記PCNAとしては、PCRの熱サイクルに耐えられる耐熱性のものが望ましく、好ましくはPCR後も活性が残るものが望まれる。さらに好ましくは80℃で30分の熱処理を行っても可溶性であり、活性が50%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上残っているものが望まれる。
本発明の核酸増幅法に用いるPCNAとしては、さらに好ましくはパイロコッカス(Pyrococcus)属、サーモコッカス(Thermococcus)属、メタノカルドコックス(Methanocaldococcus)属の細菌から単離されたPCNAが挙げられる。パイロコッカス属由来のPCNAとしては、Pyrococcus furiosus(配列番号2)、Pyrococcus sp.GB−D、Pyrococcus woesei、Pyrococcus Pyrococcus abyssi、Pyrococcus horikoshiiから単離されたPCNAを含むが、これらに限定されない。サーモコッカス属に由来するPCNAとしては、Thermococcus kodakaraensis(配列番号1)、Thermococcus gorgonarius、Thermococcus litoralis、Thermococcus sp.JDF−3、Thermococcus sp.9degrees North−7(Thermococcus sp.9°N−7)、Thermococcus sp.KS−1、Thermococcus celer、またはThermococcus siculiから単離されたPCNAを含むが、これらに限定されない。さらにメタノカルドコックス属由来のPCNAとしては、Methanocaldococcus_jannaschii(配列番号21)から単離されたPCNAを含むが、これに限定されない。
また、本発明の核酸増幅法に用いるPCNAは発現量を増やすため、配列番号1または配列番号2の73番目に相当するメチオニンを改変したものでもよい。より好ましくはM73Lに改変したものがあげられるが、これに限定されない。
さらに、本発明の核酸増幅法に用いるPCNAは単独でDNAにロードする変異体であってもよい。PCNAは通常、多量体を形成し輪のような構造をとる。DNAにロードするとは、PCNA多量体の輪の構造内部にDNAを通すことを示し、通常はRFCと呼ばれる因子と共同して初めてPCNAはDNAにロードすることができる。単独でDNAにロードする変異体とは、PCNAの多量体形成に関わる部位を改変し、多量体形成を不安定化することで、RFCなしでもDNAをPCNA多量体内部に通しやすくした変異体を示す。
PCNAが多量体形成に関する部位は、サーモコッカス・コダカラエンシスに由来するPCNA(配列番号1)、パイロコッカス・フリオサスのPCNA(配列番号2)においては、82、84、109番目のアミノ酸からなるN末端領域と139、143、147番目のアミノ酸からなるC末端領域があげられる。N末端領域はプラスに帯電し、C末端領域はマイナスに帯電し、相互作用することで多量体形成を行う。
なお、本明細書において、「(a)82、84、109番目に相当するアミノ酸からなるN末端領域、および(b)139、143、147番目に相当するアミノ酸からなるC末端領域」とは、配列番号1または2を基準とした場合の位置(順番)である。そのため、本明細書において、「配列番号1または配列番号2に示されるアミノ酸配列における82、84、109、139、143、147番目に相当するアミノ酸」とは、配列番号1または配列番号2に示されるアミノ酸配列と完全同一ではないアミノ酸配列を有するPCNAにおいて、配列番号1または配列番号2の82、84、109、139、143、147番目に対応する多量体形成に関するアミノ酸配列を含む表現である。
例えば、下記のPCNA変異体において、改変前のアミノ酸配列は、配列番号1または配列番号2に示されるアミノ酸配列と完全同一ではないアミノ酸配列であってもよい。
本願明細書において、配列番号1または配列番号2に示されるアミノ酸配列と完全同一ではないアミノ酸配列における、配列番号1または配列番号2上のある位置(順番)と対応する位置とは、配列の一次構造を比較(アラインメント)したとき、配列番号1または配列番号2の当該位置と対応する位置とする。
本明細書では、DNA Databank of Japan(DDBJ)のClustalW(http://clustalw.ddbj.nig.ac.jp/index.php/lang=ja)においてデフォルト(初期設定)のパラメーターを用いることにより、配列の一次構造を比較する。
上記例として、配列番号21に記載のMethanocaldococcus_jannaschii(以下、Mja)由来のPCNAが挙げられる。Mja由来のPCNAでは、配列番号1または2に示されるアミノ酸配列における82、84、109、139、143、147番目に対応する位置は、それぞれ81、83、108、138、142、146番目となる。
単独でDNAにロードするPCNA変異体は、より好ましくは、PCNAの多量体形成に関わる
(a)82、84、109番目に相当するアミノ酸からなるN末端領域、または
(b)139、143、147番目に相当するアミノ酸からなるC末端領域に少なくともひとつの改変を有し、RFCがなくともDNAにロードし、DNAポリメラーゼの伸長反応を促進する変異体があげられる。
たとえば、配列番号1または配列番号2の143番目に相当するアミノ酸を塩基性アミノ酸あるいは中性アミノ酸に改変したもの、82番目と143番目を共に中性アミノ酸に改変したもの、147番目を中性アミノ酸に改変したもの、または、109番目と143番目を共に中性アミノ酸に改変したものなどが挙げられる。
本明細書において、置換する塩基性アミノ酸、中性アミノ酸の種類は特に限定されない。塩基性アミノ酸としては、天然のものであれば、アルギニン、ヒスチジン、リシン、中性アミノ酸としては、天然のものであれば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、プロリン、セリン、スレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミンが挙げられる。
より好ましくは、WO2007/004654に記載のPCNA変異体が例示されるほか、第147番目のアミノ酸残基をアラニンに換えた配列(D147A)、第82番目、および第143番目のアミノ酸残基をアラニンに変えた配列(R82A/D143A、もしくはR82A/E143A)、第109番目、および第143番目のアミノ酸残基をアラニンに変えた配列(R109A/D143A、もしくはR109A/E143A)、第143番目のアミノ酸残基をアルギニンあるいはリシンに変えた配列(D143R、D143K、E143R、E143K)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明の核酸増幅法に用いるPCNAを、改変する方法は、既に当該技術分野において確立されている。よって、公知の方法に従い改変を行うことが出来、その態様は特に制限されない。
PCNA変異体が単独でDNAにロードできるかどうかは、PCRによって評価できる。例えば、鋳型となるDNA、緩衝材、マグネシウム、dNTPs、プライマー、およびファミリーBに属するDNAポリメラーゼを含む通常のPCR反応液に、PCNA変異体を添加し、PCNA添加なしのもの、また野生型PCNA添加のものと増幅量を比較することで、単独でDNAにロードできるかを確認することができる。野生型のPCNAをはじめ、単独でDNAにロードできないPCNAは添加しても、PCRの増幅量は変化せず、むしろ増幅量を減らす傾向がある。一方、単独でDNAにロードできる変異体は、PCNA添加なしのもの、また野生型PCNA添加のものと比べて優れた増幅量を得ることができる。
本発明において「PCNA変異体が単独でDNAにロードできるかどうか」の評価(増幅増強活性の評価)は、以下の方法に従う。KOD −Plus− Ver.2(TOYOBO)添付の10×PCR Bufferを用い、1×PCR Buffer、および1.5mM MgSO、dTTPの代わりにdUTP(ロッシュ・アプライド・サイエンス)を含んだ0.2mM dNTPs(dATP、dUTP,dCTP、dGTP)、約1.3kbを増幅する15pmolの配列番号13及び14に記載のプライマー、10ngのヒトゲノムDNA(ロッシュ・アプライド・サイエンス)、1U KOD DNAポリメラーゼV93K変異体を含む50μlの反応液中に、評価するPCNAを250ng添加し、94℃、30秒の前反応の後、98℃、10秒→65℃、30秒→68℃、1分30秒を35サイクル繰り返すスケジュールでPCRを行う。反応終了後、5μlの反応液についてアガロース電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色し、紫外線照射下約1.3kbの増幅DNA断片を野生型PCNAを添加したもの、あるいはPCNAを添加していないものと比較することで単独でDNAにロードできるPCNAかどうかを評価することができる。単独でDNAにロードできるPCNAは添加によって増幅量が増加する。
本発明の核酸増幅法は、標的核酸を増幅する方法であって、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼとPCNAを反応液中に含んでいることを除いて、特に限定されない。
DNAポリメラーゼで増幅可能な方法としては、典型的にはPCRが挙げられるが、本発明はPCRのみならず、DNAを鋳型とし、1種のプライマー、dNTP(デオキシリボヌクレオチド3リン酸)を反応させることによりプライマーを伸長して、DNAプライマー伸長物を合成する方法にも使用される。具体的には、プライマーエクステンション法、シークエンス法、従来の温度サイクルを行わない方法およびサイクルシーケンス法を含む。
本発明の方法において、PCRの場合の代表的な条件を以下に示すが、これに限定されるものではない。
増幅対象DNAに、
(a)ファミリーBに属するDNAポリメラーゼ
(b)一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物に互いに相補的である一対のプライマー
(c)DNA合成基質(デオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP))
(d)マグネシウムイオン、及び/またはアンモニウムイオン及び/または、カリウムイオンを含むバッファー溶液、および、
(e)PCNA
を、混合し、サーマルサイクラー等を用いて反応液の温度を上下させることにより、(1)DNA変性、(2)プライマーのアニーリング、(3)プライマーの伸長の熱サイクルを繰り返し、特定のDNA断片を増幅させる。
上記PCR法においては、必要に応じて、さらに、PCR増強因子、BSA、非イオン界面活性剤などを用いてもよい。また、DNAポリメラーゼに、減少した塩基類似体検出活性を有するような改変を施した変異体を用いる場合は、dUTPなどの塩基類似体をDNA合成基質として用いることが可能である。
上記PCR法においては、必要に応じて、さらに、耐熱性DNAポリメラーゼのポリメラーゼ活性及び/または3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を抑制する活性を有する抗体を用いても良い。前記抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体などが挙げられる。本反応組成は、PCRの感度上昇、非特異増幅の軽減に特に有効である。
上記の本発明の核酸増幅法を実行するための試薬または前記試薬を含むキットは、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼ、および、PCNAを反応液中に含み、それ以外の構成は特に限定されない。また、適用する核酸増幅法も特に限定されない。
核酸増幅法としてPCRを行う場合、本発明の試薬または前記試薬を含むキットとして、以下の(a)〜(e)を含む構成が例示できるが、これに限定されない。
(a)ファミリーBに属するDNAポリメラーゼ
(b)一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物に互いに相補的である一対のプライマー
(c)DNA合成基質(デオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP))
(d)マグネシウムイオン、及び/またはアンモニウムイオン、及び/またはカリウムイオンを含むバッファー溶液、および、
(e)PCNA
前記試薬、キットは、必要に応じてさらに、その他の試薬類、たとえばBSA、非イオン界面活性剤などを用いてもよい。
以下、実施例に基づき本発明をより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
実施例1:KOD−PCNA変異体の作製
サーモコッカス・コダカラエンシス KOD1株由来の改変型耐熱性PCNA遺伝子を含有するプラスミドを作製した。変異導入に使用されるDNA鋳型は、pBluescriptにクローニングされたサーモコッカス・コダカラエンシス KOD1株由来のPCNA(配列番号15)(pKOD PCNA)を用いた。変異導入にはKOD −Plus− Mutagenesis Kit(TOYOBO)を用いて、方法は取扱説明書に準じて行った。なお、変異体の確認は塩基配列の解読で行った。得られたプラスミドによりエシェリシア・コリDH5αを形質転換し、酵素調製に用いた。
実施例2:Pfu−PCNA変異体の作製
パイロコッカス・フリオサス由来の改変型耐熱性PCNA遺伝子を含有するプラスミドを作製した。変異導入に使用されるDNA鋳型は、pBluescriptにクローニングされたパイロコッカス・フリオサス株由来のPCNA(配列番号16)(pPfu PCNA)を用いた。変異導入にはKOD −Plus− Mutagenesis Kit(TOYOBO)を用いて、方法は取扱説明書に準じて行った。なお、変異体の確認は塩基配列の解読で行った。得られたプラスミドによりエシェリシア・コリDH5αを形質転換し、酵素調製に用いた。
実施例1および実施例2で作製したプラスミドを表1に示す。
実施例3:KOD DNAポリメラーゼ変異体の作製
後述の実施例におけるPCNAの評価に用いるために、KOD DNAポリメラーゼの種々の変異体を以下の方法で作製した。
サーモコッカス・コダカラエンシス KOD1株由来の改変型耐熱性DNAポリメラーゼ遺伝子を含有するプラスミドを作製した。変異導入に使用されるDNA鋳型は、pBluescriptにクローニングされたサーモコッカス・コダカラエンシス KOD1株由来の改変型耐熱性DNAポリメラーゼ遺伝子(配列番号17)(pKOD)を用いた。変異導入にはKOD −Plus− Mutagenesis Kit(TOYOBO)を用いて、方法は取扱説明書に準じて行った。なお、変異体の確認は塩基配列の解読で行った。得られたプラスミドによりエシェリシア・コリJM109を形質転換し、酵素調製に用いた。作製したプラスミドは表2に示す。
実施例4:KOD−PCNA、Pfu−PCNAの作製
実施例1または2で得られた菌体の培養は以下のようにして実施した。まず、滅菌処理した100μg/mLのアンピシリンを含有するTB培地(Molecular cloning 2nd edition、p.A.2)80mLを500mL坂口フラスコに分注した。この培地に予め100μg/mLのアンピシリンを含有する3mLのLB培地(1%バクトトリプトン、0.5%酵母エキス、0.5%塩化ナトリウム;ギブコ)で37℃、16時間培養したエシェリシア・コリDH5α(プラスミド形質転換株)(試験管使用)を接種し、37℃にて16時間通気培養した。培養液より菌体を遠心分離により回収し、50mLの破砕緩衝液(30mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、30mM NaCl、0.1mM EDTA)に懸濁後、ソニケーション処理により菌体を破砕し、細胞破砕液を得た。次に細胞破砕液を80℃にて15分間処理した後、遠心分離にて不溶性画分を除去した。更に、ポリエチレンイミンを用いた除核酸処理、硫安塩析、Qセファロースクロマトグラフィーを行い、最後に保存緩衝液(50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、50mM 塩化カリウム、1mM ジチオスレイトール、0.1% Tween20、0.1%ノニデットP40、50%グリセリン)に置換し、改変型耐熱性PCNAを得た。
実施例5:改変型耐熱性DNAポリメラーゼの作製
実施例3で得られた菌体の培養は以下のようにして実施した。まず、滅菌処理した100μg/mLのアンピシリンを含有するTB培地(Molecular cloning 2nd edition、p.A.2)80mLを500mL坂口フラスコに分注した。この培地に予め100μg/mLのアンピシリンを含有する3mLのLB培地(1%バクトトリプトン、0.5%酵母エキス、0.5%塩化ナトリウム;ギブコ)で37℃、16時間培養したエシェリシア・コリJM109(プラスミド形質転換株)(試験管使用)を接種し、37℃にて16時間通気培養した。培養液より菌体を遠心分離により回収し、50mLの破砕緩衝液(30mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、30mM NaCl、0.1mM EDTA)に懸濁後、ソニケーション処理により菌体を破砕し、細胞破砕液を得た。次に細胞破砕液を80℃にて15分間処理した後、遠心分離にて不溶性画分を除去した。更に、ポリエチレンイミンを用いた除核酸処理、硫安塩析、ヘパリンセファロースクロマトグラフィーを行い、最後に保存緩衝液(50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、50mM 塩化カリウム、1mM ジチオスレイトール、0.1% Tween20、0.1%ノニデットP40、50%グリセリン)に置換し、改変型耐熱性DNAポリメラーゼを得た。これら精製工程のDNAポリメラーゼ活性測定は、上述のDNAポリメラーゼ活性測定法にしたがって測定した。
実施例6:PCNAの評価
PCNAが単独でDNAにロードできるかを確認するため、KOD−PCNA変異体(M73L、M73L/E143R、M73L/R109A/E143A、M73L/D147A、M73L/R82A/E143A、M73L/E143F、M73L/E143A)を用いてdUTP存在下PCRでの増幅量の違いを、増幅増強活性の測定方法に従い、Human β−グロビンの1.3kbを増幅することで比較した。この際、DNAポリメラーゼには、実施例3および5で作製したKOD V93K変異体を用いた。なお、上述のとおり、M73L変異を野生型に相当するものとみなす。
PCRにはKOD −Plus− Ver.2(TOYOBO)添付のBuffer、MgSOを用い、1×PCR Buffer、および0.2mM dTTPをdUTPに置換したdNTPs(dATP、dUTP,dCTP、dGTP)、1.5mM MgSO、15pmolのプライマー(対)(配列番号13及び14)、10ngのヒトゲノムDNA(ロッシュ・アプライド・サイエンス)、抗体と混合した1Uの酵素を含む50μlの反応液を調製し、94℃、2分の前反応の後、98℃、10秒→60℃、30秒→68℃、1分を35サイクル繰り返すスケジュールでPCR system GeneAmp9700(アプライドバイオシステムズ)を用いてPCRを行った。反応終了後、5μlの反応液についてアガロース電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色し、紫外線照射下増幅DNA断片の増幅量を確認した。
図1は、種々のPCNA変異体を250ng添加しPCR反応を行い、得られた産物を電気泳動した結果を示す。用いたPCNA変異体はM73L、M73L/E143R、M73L/R109A/E143A、M73L/D147A、M73L/R82A/E143A、M73L/E143F、M73L/E143Aの計7種である。
今回用いたKOD V93K変異体はdUTPの阻害を受けて増幅量が少ない。PCNA添加なしやM73L変異体ではほとんどバンドが確認されなかったが、他のKOD−PCNA変異体の添加でしっかりとしたバンドが確認された。PCNAは多量体を形成し核酸の合成反応を促進するが、通常、RFCの働きなしではDNAにロードできず反応が進まない。M73L/E143R、M73L/R109A/E143A、M73L/D147A、M73L/R82A/E143A、M73L/E143F、M73L/E143Aの改変は、多量体形成に関わる部位への改変であり、適度に多量体形成が弱まったため、PCNAが単独でDNAにロードでき、PCR増幅量を向上させたことが考えられる。
Pfu−PCNA変異体(M73L、M73L/D143R、M73L/R109A/D143A、M73L/D147A、M73L/R82A/D143A、M73L/D143A)でも同様の実験を行い、Pfu−PCNA M73L変異体では、ほとんどバンドが確認できなかったが、他のPfu−PCNA変異体(M73L/D143R、M73L/R109A/D143A、M73L/D147A、M73L/R82A/D143A、M73L/D143A)の添加でしっかりとしたバンドが確認された。
実施例7:PCNAが与えるファミリーBに属するDNAポリメラーゼの正確性評価
PCNAが、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼの正確性に影響を及ぼすか検証した。ファミリーBに属するDNAポリメラーゼとして、KOD −Plus− DNAポリメラーゼ(TOYOBO)、PrimeSTAR DNAポリメラーゼ(タカラバイオ)を使用した。また、PCNAは単独でDNAにロードする変異体の例として、KOD −Plus− DNAポリメラーゼに対しては、KOD−PCNA変異体(M73L/D147A)、PrimeSTAR DNAポリメラーゼに対しては、Pfu−PCNA変異体(M73L/D143R)を使用した。
KOD−PCNAがKOD −Plus− DNAポリメラーゼに与える正確性への影響評価は以下の方法にて行った。
(1)ミスマッチエラーの頻度
まず、PCRにはKOD −Plus− Ver.2(TOYOBO)添付のBuffer、MgSO、dNTPsを用い、1×PCR Buffer、および0.2mM dNTPs(dATP、dTTP,dCTP、dGTP)、1.5mM MgSO、15pmolのプライマー(配列番号18及び19)、50ngのヒトゲノムDNA(ロッシュ・アプライド・サイエンス)、1U KOD −Plus−、100ng KOD−PCNA変異体(M73L/D147A)と混合し、50μlの反応液を調製した。
この反応液を94℃、2分の前反応の後、94℃、15秒→60℃、30秒→68℃、2.5分を21サイクル繰り返すスケジュールでPCR system GeneAmp9700(アプライドバイオシステムズ)を用いてPCRを行った。本PCR産物は、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有するファミリーBに属するDNAポリメラーゼを使用しているため3’末端が平滑化されている。そのため、PCR産物の平滑末端へのアデニン付加後、TAクローニングを実施した。具体的には、アデニン付加、TAクローニングには、TArget Clone −Plus−(TOYOBO)を用いて、方法は取扱説明書に準じて行った。得られたプラスミドによりエシェリシア・コリDH5αを形質転換し、アンピシリンを含むLB寒天培地に播種後、37度で一晩培養した。得られたコロニーを複数ピックアップし、アンピシリンを含むLB培地にて培養し、プラスミドを抽出後、シークエンスを実施した。シークエンス反応は、BigDye Termination v3.1 Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズ)を用い、製品の取扱説明書に準じてシークエンス反応を行った。解析には、Applied Biosystems 3730 DNA Analyzer(アプライドバイオシステムズ)を使用し、配列番号20のプライマーをシークエンスプライマーとして用いて解析を実施した。
KOD−PCNAがKOD −Plus− DNAポリメラーゼに与える正確性への影響評価は、PCNA添加有り、無しのエラー率を比較することにより実施した。エラー率は、解析が完了した塩基数に対する間違えて取り込まれた塩基数(エラー塩基数)の割合を算出することで求めた。
(2)リピート配列を増幅する際のスリッページエラーの頻度
前記(1)の方法に従って、PCRを行い、得られたPCR産物のTAクローニングを実施した後、得られたプラスミドによりエシェリシア・コリDH5αを形質転換し、アンピシリンを含むLB寒天培地に播種後、37度で一晩培養した。得られたコロニーを複数ピックアップし、アンピシリンを含むLB培地にて培養し、プラスミドを抽出、(A)12のリピート配列を含む領域のシークエンスを実施した。シークエンス反応は、配列番号20のプライマーをシークエンスプライマーとして用いて、前記(1)と同様に実施した。KOD−PCNAがKOD −Plus− DNAポリメラーゼに与える正確性への影響評価は、シークエンス結果より、(A)12のリピート配列に対して、挿入や欠損に関するエラーの割合を求めることで実施した。
上記解析は、PCRをN=2で実施し、その後、独立してシークエンス解析まで実施した。
Pfu−PCNAが PrimeSTAR DNAポリメラーゼに与える正確性への影響評価は以下の方法にて行った。
(1)ミスマッチエラーの頻度
まず、PCRにはPrimeSTAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ)添付のBufferである5×PrimeSTAR Buffer(Mg+ plus)、dNTP Mixtureを用い、1×PCR Buffer(Mg含有)、および0.2mM dNTPs(dATP、dTTP、dCTP、dGTP)、15pmolのプライマー対(配列番号18及び19)、50ngのヒトゲノムDNA(ロッシュ・アプライド・サイエンス)、1,25U PrimeSTAR HS DNA Polymerase、100ng Pfu−PCNA変異体(M73L/D143R)と混合し、50μlの反応液を調製した。
この反応液を、98℃、10秒→55℃、5秒→72℃、2.5分を23サイクル繰り返すスケジュールでPCR system GeneAmp9700(アプライドバイオシステムズ)を用いてPCRを行った。本PCR産物は、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有するファミリーBに属するDNAポリメラーゼを使用しているため3’末端が平滑化されている。そのため、PCR産物の平滑末端へのアデニン付加後、TAクローニングを実施した。具体的には、アデニン付加、TAクローニングには、TArget Clone −Plus−(TOYOBO)を用いて、方法は取扱説明書に準じて行った。
得られたプラスミドによりエシェリシア・コリDH5αを形質転換し、アンピシリンを含むLB寒天培地に播種後、37度で一晩培養した。得られたコロニーを複数ピックアップし、アンピシリンを含むLB培地にて培養し、プラスミドを抽出後、シークエンスを実施した。シークエンス反応は、BigDye Termination v3.1 Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズ)を用い、製品の取扱説明書に準じてシークエンス反応を行った。解析には、Applied Biosystems 3730 DNA Analyzer(アプライドバイオシステムズ)を使用し、配列番号20のプライマーをシークエンスプライマーとして用い、解析を実施した。
Pfu−PCNAがPrimeSTAR DNAポリメラーゼに与える正確性への影響評価は、PCNA添加有り、無しのエラー率を比較することにより実施した。
(2)リピート配列を増幅する際のスリッページエラーの頻度
前記(1)の方法に従って、PCRを行い、得られたPCR産物のTAクローニングを実施した後、得られたプラスミドによりエシェリシア・コリDH5αを形質転換し、アンピシリンを含むLB寒天培地に播種後、37度で一晩培養した。得られたコロニーを複数ピックアップし、アンピシリンを含むLB培地にて培養し、プラスミドを抽出、(A)12のリピート配列を含む領域のシークエンスを実施した。シークエンス反応は、BigDye Termination v3.1 Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズ)を用い、製品の取扱説明書に準じてシークエンス反応を行った。解析には、Applied Biosystems 3730 DNA Analyzer(アプライドバイオシステムズ)を使用し、リピート配列を含む領域の解析を実施するために、配列番号20のプライマーをシークエンスプライマーとして用いた。
Pfu−PCNAがPrimeSTAR DNAポリメラーゼに与える正確性への影響評価は、シークエンス結果より、(A)12のリピート配列に対して、挿入や欠損に関するエラーの割合を求めることで実施した。
(1)ミスマッチエラーの頻度
KOD −Plus− DNAポリメラーゼを用いてPCNA添加なしで増幅した場合のエラー率とPCNA添加ありで増幅した場合のエラー率を求めた結果を表3に記す。PCNA添加なしでは、エラー塩基数が、33450塩基あたり3個であるのに対し、PCNAを添加することで、33598塩基あたり0個に減少することが示された。エラー割合としては、8.97×10−5から0に減少しており、PCNA添加により正確性が向上することが示された。
PrimeSTAR DNAポリメラーゼを用いてPCNA添加なしで増幅した場合のエラー率とPCNA添加ありで増幅した場合のエラー率を求めた結果を表4に記す。PCNA添加なしでは、エラー塩基数が31986塩基あたり2個であるのに対し、PCNAを添加することで、32323塩基あたり0塩基に減少することが示された。エラー割合としては、6.25×10−5から0に減少しており、PCNA添加により正確性が向上することが示された。
これらの結果より、ファミーBに属するDNAポリメラーゼにPCNAを添加することで、正確性が向上することが示された。正確性が向上することは有意義なことであり、クローニングやシークエンスにおいて利用が期待される。
(2)リピート配列を増幅する際のスリッページエラーの頻度
KOD −Plus− DNAポリメラーゼをPCNA添加なしで増幅した場合のリピート配列部分の塩基数とPCNA添加ありで増幅した場合のリピート配列部分の塩基数をカウントした結果を図2に記す。PCNA添加なしでは、エラーのないクローン数が60%以下であるのに対し、PCNAを添加することで、10%もエラー率が低減し、70%程度まで正確性が向上することが示された。
PrimeSTAR DNAポリメラーゼをPCNA添加なしで増幅した場合のリピート配列部分の塩基数とPCNA添加ありで増幅した場合のリピート配列部分の塩基数をカウントした結果を図3に記す。PCNA添加なしでは、エラーのないクローン数が53.5%であるのに対し、PCNAを添加することで、20%もエラー率が低減し、75%程度まで正確性が向上することが示された。
これらの結果より、ファミーBに属するDNAポリメラーゼにPCNAを添加することで、正確性が10%以上も向上することが示された。10%向上することは有意義な差異であり、クローニングやシークエンスにおいて利用が期待される。
実施例8:KOD−PCNAが与える減少した塩基類似体検出活性を持つファミリーBに属するDNAポリメラーゼの正確性評価
KOD−PCNAが、減少した塩基類似体検出活性を持つファミリーBに属するDNAポリメラーゼの正確性に影響を及ぼすか検証した。減少した塩基類似体検出活性を持つファミリーBに属するDNAポリメラーゼの例として、実施例3および5で作製したKOD H147E/P36H/Y7A変異体、KOD H147E/V93K/Y7A変異体を使用し、またPCNAは、KOD−PCNA変異体(M73L/D147A)を使用した。
KOD−PCNAが 減少した塩基類似体検出活性を持つファミリーBに属するDNAポリメラーゼに与える正確性への影響評価は、前述のKOD DNA ポリメラーゼの評価と同様な方法にて行った。
(1)ミスマッチエラーの頻度
減少した塩基類似体検出活性を持つファミリーBに属するDNAポリメラーゼを用いてPCNA添加なしで増幅した場合のエラー率とKOD−PCNA添加ありで増幅した場合のエラー率を求めた結果を表5に記す。KOD−PCNA添加なしでは、エラー塩基数が、28787塩基あたり5個であるのに対し、KOD−PCNAを添加することで、28787塩基あたり2個に減少することが示された。エラー割合としては、1.74×10−4から5.97×10−5に減少しており、PCNA添加により正確性が向上することが示された。この結果より、PCNAは、減少した塩基類似体検出活性を持つファミリーBに属するDNAポリメラーゼに対しても効果があり、正確性が必要なPCRにおいて利用が期待される。
(2)リピート配列を増幅する際のスリッページエラーの頻度
(A)12のリピート配列に対して、挿入や欠損に関するエラーの割合を図4に示す。2種類の減少した塩基類似体検出活性を持つファミリーBに属するDNAポリメラーゼに対して評価を実施した結果、PCNA添加なしでは、エラーのないクローン数が60%程度であるのに対し、PCNA添加によりエラー率が、10〜20%低減することが示された。この結果より、PCNAは、減少した塩基類似体検出活性を持つファミリーBに属するDNAポリメラーゼに対しても効果があり、正確性が必要なPCRにおいて利用が期待される。
実施例9:Mja−PCNA変異体の作製
Methanocaldococcus_jannaschii株由来の改変型耐熱性PCNA遺伝子を含有するプラスミドを作製した。変異導入に使用されるDNA鋳型は、pET23bにクローニングされたMethanocaldococcus_jannaschii株由来のPCNA(配列番号22)(pMja PCNA)を用いた。変異導入にはKOD −Plus− Mutagenesis Kit(TOYOBO)を用いて、方法は取扱い説明書に準じて行った。なお、変異体の確認は塩基配列の解読で行った。得られたプラスミドによりエシェリシア・コリBL21(DE3)pLysSを形質転換し、酵素調製に用いた。作製したプラスミドは表6に示す。
Mja−PCNAの変異導入部位は、142番目であるが、この位置は、配列番号1および2におけるアミノ酸配列の143番目に相当する位置である。
実施例10:Mja−PCNAの作製
実施例9で得られた菌体の培養は以下のようにして実施した。まず、滅菌処理した100μg/mLのアンピシリンを含有するLB培地(1%バクトトリプトン、0.5%酵母エキス、0.5%塩化ナトリウム;ギブコ製)80mLを500mL坂口フラスコに分注した。この培地に予め100μg/mLのアンピシリンを含有する3mLのLB培地で37℃、16時間培養したエシェリシア・コリBL21(DE3)pLysS(プラスミド形質転換株)(試験管使用)を接種し、37℃にてOD600が0.3〜0.6になるまで通気培養した。その後、IPTGを終濃度0.5mMになるように添加し、4時間通気培養した。培養液より菌体を遠心分離により回収し、50mLの破砕緩衝液(30mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、30mM NaCl、0.1mM EDTA)に懸濁後、ソニケーション処理により菌体を破砕し、細胞破砕液を得た。次に細胞破砕液を80℃にて15分間処理した後、遠心分離にて不溶性画分を除去した。更に、ポリエチレンイミンを用いた除核酸処理、硫安塩析、Qセファロースクロマトグラフィーを行い、最後に保存緩衝液(50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、50mM 塩化カリウム、1mM ジチオスレイトール、0.1% Tween20、0.1%ノニデットP40、50%グリセリン)に置換し、Mja−PCNA変異体を得た。
実施例11:Mja−PCNAが与える減少した塩基類似体検出活性を持つファミリーBに属するDNAポリメラーゼの正確性評価
Mja−PCNAが、減少した塩基類似体検出活性を持つファミリーBに属するDNAポリメラーゼの正確性に影響を及ぼすか検証した。減少した塩基類似体検出活性を持つファミリーBに属するDNAポリメラーゼの例として、実施例3および5で作製したKOD H147E/V93K/Y7A変異体を使用し、またPCNAは、実施例9および10で作製したMja−PCNA変異体(E142R)を使用した。
Mja−PCNAが減少した塩基類似体検出活性を持つファミリーBに属するポリメラーゼに与える正確性への影響評価は以下の方法にて行った。
(1)ミスマッチエラーの頻度
まず、PCRにはKOD FX(TOYOBO)添付のBuffer、dNTPsを用い、1×PCR Buffer、および0.2mM dNTPs(dATP、dTTP,dCTP、dGTP)、15pmolのプライマー(配列番号18及び19)、50ngのヒトゲノムDNA(ロッシュ・アプライド・サイエンス)、1.5U KOD H147E/V93K/Y7A変異体、1000ng Mja−PCNA変異体(E142R)と混合し、50μlの反応液を調製した。
この反応液を94℃、2分の前反応の後、94℃、15秒→60℃、30秒→68℃、2.5分を21サイクル繰り返すスケジュールでPCR system GeneAmp9700(アプライドバイオシステムズ)を用いてPCRを行った。本PCR産物は、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有するファミリーBに属するDNAポリメラーゼを使用しているため3’末端が平滑化されている。そのため、PCR産物の平滑末端へのアデニン付加後、TAクローニングを実施した。具体的には、アデニン付加、TAクローニングには、TArget Clone −Plus−(TOYOBO)を用いて、方法は取扱説明書に準じて行った。得られたプラスミドによりエシェリシア・コリDH5αを形質転換し、アンピシリンを含むLB寒天培地に播種後、37度で一晩培養した。得られたコロニーを複数ピックアップし、アンピシリンを含むLB培地にて培養し、プラスミドを抽出後、シークエンスを実施した。シークエンス反応は、BigDye Termination v3.1 Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズ)を用い、製品の取扱説明書に準じてシークエンス反応を行った。解析には、Applied Biosystems 3730 DNA Analyzer(アプライドバイオシステムズ)を使用し、配列番号20のプライマーをシークエンスプライマーとして用いて解析を実施した。
KOD−PCNAが減少した塩基類似体検出活性を持つファミリーBに属するDNAポリメラーゼに与える正確性への影響評価は、PCNA添加有り、無しのエラー率を比較することにより実施した。エラー率は、解析が完了した塩基数に対する間違えて取り込まれた塩基数(エラー塩基数)の割合を算出することで求めた。
(2)リピート配列を増幅する際のスリッページエラーの頻度
前記(1)の方法に従って、PCRを行い、得られたPCR産物のTAクローニングを実施した後、得られたプラスミドによりエシェリシア・コリDH5αを形質転換し、アンピシリンを含むLB寒天培地に播種後、37度で一晩培養した。得られたコロニーを複数ピックアップし、アンピシリンを含むLB培地にて培養し、プラスミドを抽出、(A)12のリピート配列を含む領域のシークエンスを実施した。シークエンス反応は、配列番号20のプライマーをシークエンスプライマーとして用いて、前記(1)と同様に実施した。KOD−PCNAがKOD −Plus− DNAポリメラーゼに与える正確性への影響評価は、シークエンス結果より、(A)12のリピート配列に対して、挿入や欠損に関するエラーの割合を求めることで実施した。
(1)ミスマッチエラーの頻度
減少した塩基類似体検出活性を持つファミリーBに属するDNAポリメラーゼを用いてPCNA添加なしで増幅した場合のエラー率とMja−PCNA添加ありで増幅した場合のエラー率を求めた結果を表7に記す。Mja−PCNA添加なしでは、エラー塩基数が、44529塩基あたり8個であるのに対し、Mja−PCNAを添加することで、42100塩基あたり3個に減少することが示された。エラー割合としては、1.79×10−4から7.13×10−5に減少しており、PCNA添加により正確性が向上することが示された。
この結果より、PCNAは、減少した塩基類似体検出活性を持つファミリーBに属するDNAポリメラーゼに対しても効果があり、正確性が必要なPCRにおいて利用が期待される。
(2)リピート配列を増幅する際のスリッページエラーの頻度
減少した塩基類似体検出活性を持つファミリーBに属するDNAポリメラーゼを用いてPCNA添加なしで増幅した場合のリピート配列部分の塩基数とMja−PCNA添加ありで増幅した場合のリピート配列部分の塩基数をカウントした結果を図5に記す。PCNA添加なしでは65%以下であるのに対し、Mja−PCNAを添加することで、6%もエラーが低減し、70%程度まで正確性が向上することが示された。
この結果より、Mja−PCNAについても、減少した塩基類似体検出活性を持つファミリーBに属するDNAポリメラーゼに対しても効果があり、正確性が必要なPCRにおいて利用が期待される。
本発明により、核酸増幅(PCR)のエラー(例えば、ミスマッチエラー、および/または、リピート配列を増幅する際のスリッページエラー)を低減させることができる。これにより、増幅エラーのない配列を見つけ出すことに時間を要していたクローニングの時間・コストの削減につなげることができる。さらに、シークエンスにおいては、ミスマッチエラー、および/または、リピート配列を増幅する際のスリッページエラーを低減させることができるため、正確なデータ、配列情報が得られることが期待できる。この手法は研究分野だけでなく、遺伝子診断などの臨床分野もしくは法医学分野、あるいは食品や環境中の微生物検査等においても産業上広く利用することができる。

Claims (12)

  1. ファミリーBに属するDNAポリメラーゼ及びProliferating Cell Nuclear Antigen(PCNA)を反応液中で共存させることにより、核酸増幅におけるスリッページエラーを低減させる方法。
  2. PCNAが単独でDNAにロードする変異体である請求項1に記載の方法。
  3. PCNAが、(a)82、84、109番目に相当するアミノ酸からなるN末端領域、および(b)139、143、147番目に相当するアミノ酸からなるC末端領域のうち、少なくともひとつの改変を有する変異体である、請求項1または2に記載の方法。
  4. PCNAが配列番号1または2に記載のアミノ酸配列において、143番目に相当するアミノ酸を塩基性アミノ酸あるいは中性アミノ酸に改変したもの、または、82番目と143番目を共に中性アミノ酸に改変したもの、147番目を中性アミノ酸に改変したもの、109番目と143番目を共に中性アミノ酸に改変したもののいずれかの変異体である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
  5. PCNAが配列番号21に記載のアミノ酸配列において、142番目のアミノ酸を塩基性アミノ酸に改変した変異体である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
  6. ファミリーBに属するDNAポリメラーゼが、古細菌(Archea)由来のDNAポリメラーゼである請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
  7. ファミリーBに属するDNAポリメラーゼが、パイロコッカス(Pyrococcus)属またはサーモコッカス(Thermococcus)属の細菌から単離されるDNAポリメラーゼである請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
  8. ファミリーBに属するDNAポリメラーゼが減少した塩基類似体検出活性を有する古細菌DNAポリメラーゼ変異体である請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
  9. 更に、核酸増幅におけるミスマッチエラーを低減することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
  10. リピート配列を含む核酸を鋳型として用いる場合のスリッページエラーを低減することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
  11. 請求項1〜10のいずれかに記載の方法を行うための試薬であって、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼ及びProliferating Cell Nuclear Antigen(PCNA)を含む試薬。
  12. 請求項1〜10のいずれかに記載の方法を行うための試薬を含むキットであって、少なくとも以下の(a)及び(b)を含むように構成されているキット:
    (a)ファミリーBに属するDNAポリメラーゼ、
    (b)Proliferating Cell Nuclear Antigen(PCNA)。
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