JP3887190B2 - 血液検査用容器及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、血清生化学検査及び血清免疫学検査等の臨床検査分野において用いられる血液検査用容器及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
病気の予防や診断の目的で血液検査が一般に行われているが、血液検査の多くは血清生化学検査、血清免疫学検査、血球検査等の血清検査である。その検査に要する血清は、通常、血液検査用容器に採取した血液を凝固させた後、遠心分離によって比重の異なる血餅から分離し、ピペットを用いて、あるいはデカンテーションにより採取している。
被験者から採取した血液が凝固するには比較的長時間を必要とし、結果を知るために再来院しなければならなかったり、特に緊急に検査を実施する必要のある場合には問題となる。
血液の採取に用いられる血液検査用容器は、従来から、ガラス製やポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂製のものが使用されているが、最も短いとされるガラス製容器で40〜60分を必要とし、合成樹脂製容器では4時間以上かかってしまう。
そこで、従来より血液凝固を短時間で行える凝固剤の検討がなされてきた。
【0003】
血液の凝固は血液凝固第XII因子の活性化により開始し、その後数多くの反応段階を経て、最終的にフィブリノーゲンがフィブリンに転化する複雑な経路を有することがわかっている。
特開平5−157747号公報には、血液の凝固を促進する成分として、血液凝固反応系の最終段階であるフィブリノーゲンがフィブリンへ転化する反応を促進するトロンビンや蛇毒酵素等の酵素系薬剤を用いることが記載されている。
ところで、近年、検査機器の進歩に伴って、より迅速な検査が望まれている。従来は採血後、検査結果が得られるまでに2日以上を必要とするのが通常であったが、診察の待ち時間の30〜60分程度の間に採血、検査をし、結果が得られることが望まれている。その理由は診察に際して重要な情報が得られるだけでなく、早期により有効な治療を行なえるからである。
上記公報の方法によると、合成樹脂製容器を用いた場合、凝固時間は大幅に短縮されるが、5分程度で大部分が凝固するものの、実際に完全に凝固するには10分程度必要である。上記の目的のためには、5分以内で完全に血液を凝固させる必要がある。
血液が完全に凝固しないうちに遠心分離を行なうと、遠心分離の間に凝固反応が進行し、生成したフィブリンが血清中に残ってしまい、血清がゲル化して検査用容器から取り出すことができず、検査に供することができなくなる。従って、その後の遠心分離操作を入れると10分以内で血清検体を得ることは不可能である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記問題点を解決するものであり、その目的は、血液を短時間で凝固させる血液検査用容器、及びその製造方法を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明の血液検査用容器では、特定の加水分解酵素と特定の無機物とが有底の管状容器の内部に分離された形態で収容されている。
【0006】
上記加水分解酵素はプロテアーゼであり、ペプチド鎖において、Argと任意のアミノ酸残基との結合及び/又はLysと任意のアミノ酸残基との結合を加水分解しうるものが用いられる。
【0007】
上記加水分解酵素としては、例えば、トリプシン、トロンビン、蛇毒トロンビン様酵素等のセリンプロテアーゼ;カテプシンB、フィシン等のチオールプロテアーゼ;キニナーゼI等の金属プロテアーゼなどが挙げられ、特にセリンプロテアーゼが好適に用いられる。
上記加水分解酵素の量は、少なくなると血液凝固の時間が長くなったり凝固が不完全になることがあり、多くなると検査値に悪影響を及ぼす恐れがあるので、血液1mlあたり0.1〜100単位が好ましく、0.5〜50単位がより好ましい。
【0008】
上記無機物は、血液と接触した際に血液凝固因子の活性化を促し、また血小板の凝集を促す作用を有する。しかしながら上記無機物が血液凝固促進作用を効果的に発揮するには、アマニ油吸油量、BET比表面積値及び比抵抗値が特定の範囲内のものでなければならない。
アマニ油吸油量及びBET比表面積値は、無機物の表面積の程度を表し、また表面積は無機物の有する表面孔隙の程度と関連するので、吸油量及び比表面積によって表面孔隙の程度を知ることができる。
血液凝固に際しては、第XII因子、すなわち接触因子が活性化されるが、このためには異物表面上に第XII因子、プレカリクレイン、高分子キニノーゲンの3種類の物質が錯体を形成して吸着されることが必要であり、これらの1つ又は2つが欠けた状態での吸着は活性化に至らないとされている。
【0009】
ところで、血液凝固促進作用を期待して無機物を使用した場合に、表面積が非常に大きなものであると、無機物の表面上には錯体を形成しない状態での第XII因子、プレカリクレイン、高分子キニノーゲンの割合が高まることになり、言い換えると第XII因子の活性化に必要な三者の錯体形成割合は減少することになり、かえって血液凝固促進作用が低下することになる。
また逆に無機物の表面積が小さすぎると、凝固因子の吸着の確率が小さくなり、血液凝固促進作用を期待することができなくなる。
従って、本発明に用いられる無機物は、アマニ油吸油量が20〜40ml/100g、BET比表面積が5000〜30000cm2/gの範囲の表面積を有する。
【0010】
上記アマニ油吸油量はJIS K−5101に準拠して測定される値を示す。また上記BET比表面積は、無機物の表面に吸着される気体の吸着量、その時の平衡圧、吸着ガスの飽和蒸気圧から単分子層として表面を覆いきる気体量を求め、これに吸着気体分子の平均断面積を乗じて算出された値を指すものであり、吸着気体としては、窒素ガス、酸素ガス、アルゴンガス、メタンガス等が使用される。この方法によれば、アマニ油吸油量の測定によっては測定できない細孔を含めた表面積値が測定される。
また、比抵抗値は、電気伝導度の逆数であり、常温における値である。吸着性無機物に対する比抵抗値は、タンパク質と吸着性無機物との間の電位分布の整合性を保持し、タンパク質のコンフォメーションの変化を防止することに寄与すると推測される。
本発明に用いられる無機物の比抵抗値は、1×1010Ω・cm以下、好ましくは5×104Ω・cmである。
【0011】
上記無機物としては、吸着剤として使用されていたような無機物、例えば、ガラス、シリカ、カオリン、セライト、ベントナイト等の水不溶性の無機質微粉末が挙げられる。
また上記無機物の粒径は、50μm以下が好ましく、平均粒径が10μm以下のものを用いるのがより好ましい。
特に血液凝固時間を短縮させるのに有効な無機物はシリカであり、とりわけ無定形成分を20重量%以上含有する多孔性のシリカが優れた効果を発揮する。
上記無機物の量は、少なくなると血液凝固の時間が長くなったり凝固が不完全になることがあり、多くなると検査値に悪影響を及ぼす恐れがあるので、血液1mlあたり1×10-6〜1×10-3gが好ましく、1×10-5〜1×10-4がより好ましい。
【0012】
上記管状容器の素材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル等の熱可塑性樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ−アクリレート樹脂等の熱硬化性樹脂、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、エチルセルロース、エチルキチン等の変性天然樹脂、ソーダ石灰ガラス、リンケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス等のケイ酸塩ガラス、石英ガラスなどのガラス、及びこれらを主成分とするもののいずれもが用いられる。
上記管状容器は、識別のために外面の一部が着色されていてもよく、また採血量を計量するための目盛りが設けられていてもよい。
【0013】
本発明においては、加水分解酵素が無機物に吸着され、血液中に十分に拡散しないことにより凝固促進作用が低下しないように、加水分解酵素と無機物とが分離された形態で収容される。
本発明において上記分離された形態とは、一方が管状容器内面に積層され、他方が担体に担持されて収容されているものが挙げられる。製造の際の効率、検査時に血液を導入し混和する際の血液凝固促進剤の分散のしやすさ等の点から、一方が管状容器内面に積層され、他方が担体に担持されて収容されているものが好ましい。
【0014】
上記担体は、血餅と同等以上の比重がないと、血液を凝固させた後の遠心分離操作の後、血清中に浮遊する恐れがあり、その場合には血清を容器から採取しにくくなるため、比重は1.08以上である。
担体の形状は、球状、円柱状、板状、円盤状等特に限定されないが、加水分解酵素又は吸着性無機物の塗布や容器への収容のしやすさの点から、直径1〜7mmの略球状が好ましい。
また担体の素材としては、血液検査用容器の素材として挙げられたものを同様に用いることができる。
【0015】
上記加水分解酵素及び/又は無機物を容器内面に積層させる方法としては、これらの水溶液又は水分散液を容器内面に塗布した後、乾燥させる方法が挙げられる。水溶液又は水分散液を容器内面に塗布する方法としては、水溶液又は分散液をスプレーにより塗布したり、水溶液又は分散液に浸漬して塗布することができる。
また担体に担持させる方法としては、これらの水溶液又は水分散液をスプレーにより塗布したり、水溶液又は分散液に浸漬して塗布することにより担持させることができる。
【0016】
本発明の血液検査用容器には、さらに血餅付着防止成分が収容されてもよい。これにより血液が凝固した後の血餅成分が容器内面に付着することを防止でき、遠心分離時に血餅の移動が制限されることがなく、血餅と血清を良好に分離できる。
上記血餅付着防止成分としては、水に対して難溶又は不溶の親水性物質を用いることができ、例えば、脂肪族変性シリコーンオイル(例えばジメチルポリシロキサン等)、芳香族変性シリコーンオイル(例えばメチルフェニルポリシロキサン等)、部分ケン化ポリビニルアルコール、ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。
このうち変性シリコーンオイルを用いる場合は、これらが無機物の表面を覆うことによる血液凝固促進性能の低下を防ぐために、さらに水溶性物質を添加することが好ましい。上記水溶性物質としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0017】
血餅が容器内面に付着するのを防ぐためには、血餅付着防止成分は容器内面に直接接し、かつ内面全体を覆っている必要がある。従って、血液凝固促進剤を収容する際に、あらかじめ容器内面に均一に塗布されているか、もしくは内面に塗布する血液凝固促進剤の溶液又は分散液と混合された後、ともに塗布されてもよい。この場合、最初に塗布する血液凝固促進剤の溶液又は分散液と混合し、容器内面に塗布されてもよいし、さらにもう一方の血液凝固促進剤の溶液又は分散液にも混合し、容器内面又は担体に塗布されてもよい。
【0018】
本発明の血液検査用容器には、さらに血清分離剤が収容されてもよい。血清分離剤は、あらかじめ容器底部に収容され、採血後の遠心分離により血餅と血清の間に移動し、隔壁を形成することにより血清が分離される。
上記血清分離剤はチクソトロピー性を有するゲル状物であり、例えば、常温で流動性を有する合成樹脂などに、チクソトロピー性付与剤、比重調整剤、及び粘度調整剤などの添加剤を添加し混合することにより得られる。
上記合成樹脂としては、例えば、ジシクロペンタジエンのオリゴマー等、上記チクソトロピー性付与剤としては、例えば、ソルビトールと芳香族アルデヒドとの縮合物、ポリオキシエチレンポリオキシアルキレンブロック共重合体等、上記比重調整剤としては、例えば、シリカ等、及び上記粘度調整剤としては、例えば、フタル酸エステル等が、それぞれ挙げられる。
【0019】
本発明の血液検査用容器は、通常の血液検査用容器のほか、真空採血管としても使用できる。この真空採血管は、通常のガラスもしくは合成樹脂製採血管内部に上記血液凝固促進剤を収容し、排気して、ブチルゴム製等の密封性の優れた栓で密封することにより調製される。
【0020】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施例を説明する。
実施例及び比較例において、試薬、容器等として以下のものを用いた。
・加水分解酵素 トロンビン(商品名:トロンビン持田、持田製薬社製)
・無機物 微粉末シリカ(商品名:イムシルA25、イリノイケミカル社製)
アマニ油吸油量 30ml/100g 、BET比表面積 12000cm2比抵抗値 2.5×104Ω・cm
・血餅付着防止剤 ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体(モル比6:4)
(商品名:ルビスコール64、BASF社製)
・管状容器 ポリエチレンテレフタレート製 内容積10ml(16φ×100 mm)
(積水化学工業社製)
・担体 ポリスチレン製球状成形体 平均粒径3mm(積水化学工業社製)
【0021】
(実施例)
ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体の0.5重量%水溶液に、微粉末シリカ0.25gを均一に分散させて全量を10gとした。この液の0.025gを、管状容器の内面に均一にスプレーし、風乾した。
次いでビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体の0.5重量%水溶液に、トロンビン10000単位を溶解し全量を3.125gとした。この液の0.025gを、球状成形体10個に均一にスプレーし、風乾した。この球状成形体を、上記微粉末シリカがスプレーされた管状容器内部に収容し、血液検査用容器を作製した。
この容器に血液を8ml採取した時の、トロンビンの量は血液1mlあたり10単位、微粉末シリカの量は血液1mlあたり7.8×10-5gとなる。
健常人の血液8mlを上記血液検査用容器に採取し、採取終了時点から血液が凝固するのに要した時間を測定した。凝固の判定は、血液検査用容器を傾けても血液の上面が動かず、さらに逆さに保っても血液が流れ出ない時点とした。
次いで凝固した血液を25℃、1300G(2500rpm)で5分間遠心分離し、分離された血清中のフィブリンの有無を目視観察した。
以上の結果を表1に示す。
【0022】
(比較例1)
ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体の0.5重量%水溶液に、微粉末シリカ0.25gを均一に分散させて全量を10gとした。この液の0.025gを、管状容器の内面に均一にスプレーし、風乾して血液検査用容器を作製した。
この容器に血液を8ml採取した時の微粉末シリカの量は、血液1mlあたり7.8×10-5gとなる。
以下実施例と同様にして凝固時間の測定とフィブリンの有無の目視観察を行なった。結果を表1に示す。
【0023】
(比較例2)
ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体の0.5重量%水溶液に、トロンビン10000単位を溶解し全量を3.125gとした。この液の0.025gを、管状容器の内面に均一にスプレーし、風乾して血液検査用容器を作製した。
この容器に血液を8ml採取した時のトロンビンの量は、血液1mlあたり10単位となる。
以下実施例と同様にして凝固時間の測定とフィブリンの有無の目視観察を行なった。結果を表1に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
【発明の効果】
本発明の血液検査用容器は、上述の通りであり、加水分解酵素と特定の無機物を併用することにより、血液を短時間のうちに凝固させることができる。さらに、凝固状態が安定に保たれ、血清と血餅との分離が容易となるため、分離採取された血清中にフィブリンや血餅成分が混在することもない。血餅成分の収縮度合いも十分であるため、血清収率も高い。また加水分解酵素と無機物が分離された形態とされているため、血液凝固促進剤の安定性を保ち、血液凝固能が低下することがない。
Claims (2)
- ペプチド鎖のArgと任意のアミノ酸残基との結合及び/又はLysと任意のアミノ酸残基との結合を加水分解しうる加水分解酵素と、アマニ油吸油量が20〜40ml/100g、BET比表面積が5000〜30000cm2/g、比抵抗値が1×1010Ω・cm以下の無機物とが有底の管状容器の内部に分離された形態で収容されている血液検査用容器であって、上記加水分解酵素と上記無機物のうちの、一方が管状容器内面に積層され、他方が比重1.08以上の担体に担持されて収容されていることを特徴とする血液検査用容器。
- 請求項1記載の血液検査用容器の製造方法であって、前記加水分解酵素と前記無機物のうちの、一方の溶液又は分散液を管状容器内面に塗布・乾燥させた後、他方が担持された比重1.08以上の担体を収容することを特徴とする血液検査用容器の製造方法。
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