JP3883283B2 - 吸放湿性捲縮加工糸 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、優れた吸放湿性を有し、しかも吸水性にも優れる吸放湿性捲縮加工糸に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
合成繊維は、木綿等の天然繊維に比べて、強力、耐摩耗性、形態安定性、速乾性等の点で優れており、衣料用素材として広く使用されているが、合成繊維は、天然繊維の有する優れた吸湿性を有しておらず、着用時の発汗により、ムレ、ベタツキ等が生じ、天然繊維よりも快適性の点で劣っている。
【0003】
このため、従来より合成繊維に吸湿性や吸水性を付与する試みは種々なされている。例えば、吸湿成分としてポリエーテルエステルアミドを用い、△MRが2.5%以上あるいは1.5%以上の値を有する吸湿性繊維が特開平9-41204号公報、特開平9-41221号公報などに開示されている。△MRは、30℃、90%RHの雰囲気下で24時間放置したときの水分率と、20℃、65%RHの雰囲気下で24時間放置したときの水分率との差を吸放湿係数として定義付けたものである。
【0004】
しかしながら、△MRは、異なる温湿度条件下で24時間放置したときの各々の水分率から算出した値であり、実用性の面からみた場合、温湿度条件が変化したときに迅速に吸湿又は放湿することが重要であり、このことについては示唆されていない。
【0005】
また、特開昭63−227871号公報、特開昭63−227872号公報などには吸放湿性を有する快適性衣料素材が提案されており、20℃×65%RHから30℃×90%RHへ移動したときの15分後吸湿率及び30℃×90%RHから20℃×65%RHへ移動したときの15分後放湿率が記載されている。しかしながら、これらは、ポリエステル繊維やポリアミド繊維からなる織編物表面に吸湿性成分をグラフト重合により付着させるというものであり、風合が硬くなる、吸湿時にぬるぬるとぬめる、染色斑が発生しやすい、染色堅牢度が著しく低下するといった問題があった。
【0006】
一方、吸水性を有する合成繊維についても従来から数多く提案されているが、これらを大別すると、繊維自体の構造・形態によるもの、織編物組織の設計によるもの、後加工技術によるものがある。繊維構造・形態によるものにおいては、繊維断面に凹凸を有する異形断面繊維や中空繊維に繊維表面から中空内部に連通した微細孔を形成させた繊維が一般的である。しかしながら、これらは吸放湿性に乏しいものであり、衣服として着用した場合、ムレ感があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の問題を解決し、環境の温湿度状態により吸湿機能や放湿機能を発揮し、かつ、温湿度状態が変化しても繰り返し吸放湿性を発揮できる優れた吸放湿性能を有し、しかも吸水性にも優れた吸放湿性捲縮加工糸を提供することを技術的な課題とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、吸放湿性成分と繊維形成性ポリマーとからなり、吸放湿性成分を芯部に含有する芯鞘型複合繊維である合成繊維であって、25℃×60%RH環境下で平衡水分率に達した前記合成繊維を34℃×90%RH環境下に30分間放置したときの吸湿性が1.5%以上、34℃×90%RH環境下で平衡水分率に達した前記合成繊維を25℃×60%RH環境下に30分間放置したときの放湿性が2%以上であり、吸放湿性成分がポリアルキレンオキサイドとポリオール及び脂肪族ジイソシアネート化合物との反応によって得られるポリアルキレンオキサイド変性物であり、かつ、捲縮を有することを特徴とする吸放湿性捲縮加工糸を要旨とするものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明の吸放湿性捲縮加工糸は、吸放湿性成分と繊維形成性ポリマーとからなる合成繊維で形成されている。この合成繊維は、25℃×60%RH環境下で平衡水分率に達した前記合成繊維を34℃×90%RH環境下に30分間放置したときの吸湿性が1.5%以上、34℃×90%RH環境下で平衡水分率に達した前記合成繊維を25℃×60%RH環境下に30分間放置したときの放湿性が2%以上の吸放湿性を有している必要がある。
ここで、34℃×90%RHの温湿度条件は、初夏から盛夏にかけて人が衣服を着用しているときの人体と衣服の間の温湿度状態に概ね相当するものであり、25℃×60%RHの温湿度条件は、年間を通じて概ね平均的な温湿度状態や室内環境を想定したものである。
【0011】
したがって、25℃×60%RH環境下で平衡水分率に達した前記合成繊維を34℃×90%RH環境下に30分間放置したときの吸湿性が1.5%以上、好ましくは2.5%以上であることにより、衣服を構成する合成繊維は人体から排出される水蒸気の汗をすばやく吸湿することができる。また、34℃×90%RH環境下で平衡水分率に達した前記合成繊維を25℃×60%RH環境下に30分間放置したときの放湿性が2%以上、好ましくは3%以上であることにより、一旦吸湿した合成繊維は、通常、衣服内の空間より温湿度の低い衣服外の空間へと繊維内部の水分をすばやく放湿することができる。
実際には、合成繊維は人体から排出される水蒸気の汗を吸湿しながら同時に衣服外へと放湿するので、吸湿性と放湿性を別々に測定することは困難であるが、ここでは前記の吸湿性及び放湿性の定義でその指標とした。
【0012】
上述のように、本発明の捲縮加工糸は、吸湿性が1.5%以上で放湿性が2%以上である必要があるが、放湿性が吸湿性と同等か又は高いことが好ましい。すなわち、放湿性が吸湿性より低いと、時間の経過と共に人体からの水蒸気の汗が徐々に繊維に蓄積され、吸湿性能が低下する場合がある。また、吸湿性が、1.5%未満の場合や放湿性が2%未満の場合には、吸湿量や放湿量自体が小さいため、衣服内が蒸れやすくなるので好ましくない。
【0013】
前記の吸放湿性能は、本発明の捲縮加工糸に用いられる吸放湿性成分によってもたらされるものであり、吸放湿性成分としては、前述の吸放湿性能を満足するものであればよいが、好ましくは、ポリアルキレンオキサイドとポリオール及び脂肪族ジイソシアネート化合物との反応によって得られるポリアルキレンオキサイド変性物である。特に、次の群からそれぞれ1種以上選ばれた化合物の反応により得られた変性物は、繊維形成性ポリマーと同時に溶融紡糸が可能であり、吸放湿性のみならずある程度の吸水性をも有しており、しかも繊維製造後の色調変化(繊維の黄変など)もきわめて少なく染色堅牢度に優れるなどの点から最も好ましい。
【0014】
すなわち、ポリアルキレンオキサイドとしてはポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド及び両者の共重合体、ポリオールとしてはエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類、脂肪族ジイソシアネートは、ここでは脂環族ジイソシアネートも含むが、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0015】
次に、本発明の捲縮加工糸は、吸放湿性成分と繊維形成性ポリマーで形成されているが、形態としては、吸放湿性成分と繊維形成性ポリマー成分が独立に存在する芯鞘型であって、吸放湿性成分を芯部に含有する芯鞘型とする。
【0016】
衣料用途やインテリアやリビング用途などを含む生活資材用途に用いる場合は、吸放湿性成分を繊維表面に露出させることなく、内層(芯部)に配することが、吸湿時のぬめり感や染色斑の発生がなく、染色堅牢度も低下しないので特に好ましい。
【0017】
捲縮加工糸を形成する繊維における吸放湿性成分と繊維形成性ポリマーの構成比率としては、前記の吸湿性と放湿性を同時に満足するように設定すればよく、また目的や用途に応じて決定すればよい。例えば、吸放湿性成分として前述のポリアルキレンオキサイド変性物を用いる場合、繊維全体の重量に対して約5〜50重量%の範囲が好ましい。
【0018】
さらに、本発明においては、合成繊維が捲縮を有する捲縮加工糸であることが必要である。これにより捲縮加工糸を織編物にした場合の吸水性が格段に向上する。
織編物の吸水性については大別して2種類ある。1つは、水が織編物組織やフィラメント間の空隙に浸透、拡散する場合と、もう1つは織編物を構成する繊維自体が吸水する場合である。合成繊維に捲縮が付与されると、フィラメント間の空隙が増加し、織編物表面に水が付着すると、毛細管現象により織編組織やフィラメント間に水がすばやく浸透するので吸水性が向上する。すなわち、前者の吸水性が向上する。
【0019】
一方、捲縮を有しない吸水性繊維の場合、例えば、吸放湿性成分として最も好ましく、吸水性をも有する前記ポリエチレンオキサイド変性物を含有する合成繊維は、繊維自体が吸水性を有する。すなわち、後者の吸水性を有する。
この合成繊維を衣料用途や生活資材用途に用いる場合は、繊維の芯部にポリエチレンオイサイド変成物を、鞘部に繊維形成性ポリマーを配した繊維を用いることが好ましいが、吸水性に乏しい繊維形成性ポリマーが繊維表面を覆っているため、気体状態の水に対する吸放湿性については問題ないものの、繊維表面に液体状態の水が付着したときには、繊維内部に吸水されるのにある程度の時間を要する。
【0020】
ところが、本発明の捲縮加工糸は、織編物にした場合、繊維が捲縮を有しているため、織編物表面に水が付着すると、まず捲縮による吸水効果により、織編組織やフィラメント間にすばやく吸水され、次いでこれらの水が繊維自体の吸水機能により繊維内部に吸水される。したがって、本発明の捲縮加工糸は、両者の相乗効果により吸水性が大幅に向上し、天然繊維並あるいはそれ以上の吸水性を有することができる。
【0021】
捲縮を付与する方法としては、どのような方法でもよいが、例えば、仮撚加工法、押込捲縮加工法、加熱流体による流体押込捲縮加工法などがある。
中でも、仮撚加工法は、品質安定性やコストの面で好ましい。仮撚加工機としては、ピンタイプやディスクタイプの施撚装置を備えた一般的な仮撚加工機を用いることができる。仮撚加工条件としては、一般的な条件範囲で適宜設定すればよく、通常は仮撚数(T/m)と繊維繊度(d)の平方根との積で表される仮撚係数が15000 〜33000 の範囲となる条件が採用されるが、本発明の効果が得られる限り、これらに限定されるものではなく、仮撚加工後にトルクを抑制するため連続して熱処理を行う2段ヒータ仮撚加工を行うことも好ましい。
【0022】
本発明に用いられる繊維形成性ポリマーとしては、例えば、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンやこられの共重合ポリマーなどがあるが、これらに限定されるものではない。また、繊維形成性ポリマーには酸化防止剤、艶消し剤、紫外線吸収剤などの添加剤を添加してもよい。
【0023】
また、吸放湿性合成繊維の単糸繊度は一般に 0.1〜20デニールの範囲が好ましいが、特に限定されるものではなく、単糸の断面形状もどのような形状であってもよい。
【0024】
【実施例】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。
なお、吸湿性、放湿性、吸水性、b値及び染色堅牢度は、次のようにして測定した。
(1) ポリアルキレンオキサイド変性物の溶融粘度
測定試料としてポリアルキレンオキサイド変性物1.5gを用い、フローテスター(島津製作所製CFT−500D)を用いて、荷重50kg/cm2 、温度170℃、ダイ直径1mm、ダイ長さ1mmの条件で測定した。
(2) ポリアルキレンオキサイド変性物の吸水能(g/g)
純水200ml中に、秤量したポリアルキレンオキサイド変性物1gを添加し、24時間攪拌した後、200メッシュの金網でろ過し、ろ過後のゲルの重量を吸水能〔g(純水)/g(樹脂)〕とした。
(3) 吸湿性及び放湿性
筒編地の試料を、温度 105℃で2時間乾燥して重量W0 を測定する。
イ)その後、温度25℃×60%RHの条件下で24時間放置して試料重量W1 を測定する。次に、この試料を温度34℃×90%RHの条件下に移し、30分後の試料重量W2 を測定する。
ロ)W2 測定後、さらに、同じ条件下に24時間放置し、試料重量W3 を測定する。次いで、温度25℃×60%RHの条件下に移し、30分後の試料重量W4 を測定する。
ハ)W4 測定後、市販の洗剤及び家庭用洗濯機を用いて通常の洗濯を行い、屋外で日干しにより乾燥させる。
上記イ、ロ、ハの操作を1回として繰り返し5回行い、それぞれn回目の吸湿性及び放湿性を下記式により求めた。
吸湿性n(%)=〔(W2 −W1 )/W0 〕×100
放湿性n(%)=〔(W3 −W4 )/W0 〕×100
(4) 吸水性
JIS L 1018(滴下法及びバイレック法)に準拠して行った。なお、バイレック法は3分後の測定値である。
(5) b値
マクベス社製のMS−2020型分光光度計を用い、筒編地の光反射率を測定し、国際照明委員会でで定義された色差式CIEL−ABから求めた(実際には分光光度計により自動的に出力される)。測定に際し、筒編地以外からの反射光の影響を極力小さくするため、筒編地を幾重にも折り畳んで光が組織の間隙を通過しないことを目視で確認した後、測定を行った。
また、筒編地は、繊維を製造した後、温湿度の管理がされていない室内で太陽光は入射するが、直射日光の当たらない場所で30日間放置した繊維を用いて作製した。
(6) 染色堅牢度
JIS L 0844 に準拠して行った。
(7) 吸湿時の風合
手触りによる官能検査で行い、ぬるぬる感がないものを○、ややぬるぬる感があるものを△、ぬるぬる感が衣料用として実用困難なものを×と評価した。
【0025】
実施例1〜3
繊維形成性ポリマーとしてナイロン6又はポリエチレンテレフタレート、吸放湿性成分としてポリエチレンオキサイドと、1,4-ブタンジオール及びジシクロヘキシルメタン-4,4'-ジイソシアネートとの反応物であるポリエチレンオキサイド変性物(吸水能35g/g、溶融粘度4000ポイズ)を用い、これと繊維形成性ポリマーとのブレンド物を用い芯鞘型ノズルにて紡糸速度3600m/分で紡糸し、50d/24fの高配向未延伸糸を得た。なお、上記のポリエチレンオキサイド変性物は、特開平6−316623号公報に記載の吸水性樹脂の製法に準じて合成した。
次いで、得られた高配向未延伸糸を、フィードローラ、仮撚ヒータ、ピンタイプの仮撚施撚装置、デリベリローラ、捲取装置を順次備えた仮撚加工機を用いて仮撚加工を行った。
紡糸と仮撚の条件及び得られた仮撚捲縮加工糸の評価結果を表1に示す。なお、特に断わらない限り比率は重量比を表す。
【0026】
比較例1
実施例2で用いた高配向未延伸糸を用い、仮撚加工することなく、実施例2に示した仮撚加工時の延伸倍率と同じ倍率で延伸することにより延伸糸を得た。
【0027】
比較例2
ポリエチレンオキサイド変性物を用いなかった以外は、実施例2と同様にしてナイロン6のみからなる仮撚捲縮加工糸を得た。
比較例1、2の紡糸と仮撚の条件及び得られた糸条の評価結果を併せて表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
表1から明らかなように、実施例1〜3で得られた捲縮加工糸は、いずれも吸湿性、放湿性及び吸水性に優れ、長期保管による色調変化も少なく、織編物にした場合、染色堅牢度は良好であり、吸湿時の風合についてもぬるぬる感がなく、衣料用途などへの実用化に最適の加工糸であった。
一方、捲縮を有しない比較例1で得られた糸条は吸水性が劣り、また、ポリエチレンオキサイド変性物を含有しない比較例2で得られた捲縮加工糸は、吸湿性と放湿性に劣るものであった。
【0030】
実施例4
ポリエチレンオキサイド変性物の原料としてジシクロヘキシルメタン-4,4'-ジイソシアネートの代わりに芳香族環をもつ4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネートを用いた以外は実施例2と同様にして仮撚捲縮加工糸を得た。
この捲縮加工糸の吸放湿性や吸水性は実施例2と同程度であったが、繊維の製造から30日後のb値は13.7であった。これは、衣料用織編物の表層に用いることには不向きであるが、多層構造織編物の中間層に用いる場合や色調変化が問題とならない資材用途への実用性については十分満足するものであった。
【0031】
【発明の効果】
本発明によれば、環境の温湿度状態により吸湿機能や放湿機能を発揮し、かつ、温湿度状態が変化しても繰り返し吸放湿性を発揮できる優れた吸放湿性能を有し、しかも吸水性にも優れた吸放湿性捲縮加工糸が提供される。
Claims (1)
- 吸放湿性成分と繊維形成性ポリマーとからなり、吸放湿性成分を芯部に含有する芯鞘型複合繊維である合成繊維であって、25℃×60%RH環境下で平衡水分率に達した前記合成繊維を34℃×90%RH環境下に30分間放置したときの吸湿性が1.5%以上、34℃×90%RH環境下で平衡水分率に達した前記合成繊維を25℃×60%RH環境下に30分間放置したときの放湿性が2%以上であり、吸放湿性成分がポリアルキレンオキサイドとポリオール及び脂肪族ジイソシアネート化合物との反応によって得られるポリアルキレンオキサイド変性物であり、かつ、捲縮を有することを特徴とする吸放湿性捲縮加工糸。
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