JP3882720B2 - におい測定装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、未知のにおい(香気、臭気など全て含む)がどのような種類のにおいであるのか、及びどの程度の強さのにおいであるのかを測定するにおい測定装置に関する。なお、本発明に係るにおい測定装置は、悪臭測定装置、食品や薬品などの品質検査や品質評価を行う装置など、幅広い分野に適用することが可能である。
【0002】
【従来の技術】
従来、においの識別や評価は、実際に人間の嗅覚を用いて行われるのが一般的であった。しかしながら、実際に臭いを嗅ぐ人(パネル)の個人差やその日の体調によって嗅覚が変動することを想定する必要があるため、客観的な結果を精度良く得るためには、パネルを一定人数以上確保し、試験場所の環境等にも十分な配慮を必要とする。そのため、手間と時間が膨大なものとなる。また、このような配慮を行っても、人間の嗅覚はにおいに順応するという特性を有しているため、常に一定基準で確定的な判断を下すことは困難であった。
【0003】
これに対し、近年、においセンサを利用したにおい識別装置が特開平11−352088号公報などに開示されるとともに商品化されている(例えば島津製作所製FF−1など)。このようなにおい識別装置では、複数のにおいセンサにより取得された検出信号を基に、クラスタ分析、主成分分析等の各種多変量解析処理、或いはニューラルネットワークを用いた非線形解析処理などを行って、複数の試料のにおいの離間距離(近い範疇のにおいであるかどうか)を求めることができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のような従来のにおい識別装置は、例えば食品の品質検査などを目的とした、比較的狭い範疇に属する複数のにおいの類似性を相対的に判断するには適していたが、例えば悪臭測定といった広範囲の種類のにおいの類似性を客観的(絶対値的)に判断するのは難しかった。また、においセンサの応答感度と人間の鼻の感度とは必ずしも一致しないため、場合によっては、嗅覚を利用した官能試験と差異が生じることもあった。また、従来のにおい識別装置では、複数の標準においとの類似性を視覚的に理解することが難しかった。更にまた、従来のにおい識別装置では、においの強さが異なっているのか、それともにおいの質が異なっているのかを明確に分離することが難しかった。
【0005】
本発明はこうした課題を解決するために成されたものであり、その主たる目的とするところは、様々な種類のにおいに対して、既知の標準においとの類似性を絶対値として表現することができるにおい測定装置を提供することにある。また、本発明の他の目的とするところは、人間の嗅覚に近い識別を行うことができるにおい測定装置を提供することにある。
【0006】
上記課題を解決するために成された第1発明に係るにおい測定装置は、
a)異なる応答特性を有するm(mは2以上の整数)個のにおいセンサと、
b)前記m個のにおいセンサによる測定結果で形成されるm次元空間において、既知の標準においの測定結果により表される標準においベクトルと、未知試料の測定結果により表されるにおいベクトルとが成す角度を求める角度算出手段と、
c)該角度に基づいて、前記標準においに対する前記未知試料のにおいの類似性を判断する指標値を算出する指標値算出手段と、
d)前記標準においベクトルに対する未知試料のにおいベクトルの正射影をとり、該正射影ベクトルの長さから前記未知試料の標準においベクトル成分のにおい濃度を求め、該濃度からにおいの強さに関する指標値を算出する強度算出手段と
を備えることを特徴としている。
【0007】
1個の標準においをm個のにおいセンサで測定すると、各においセンサからその強度信号が出力されるため、m個のデータが生成される。これらは数学的には、m次元空間(におい空間)における1つの点で表される。この標準においの濃度が相違した複数の標準試料をそれぞれ測定すると、その濃度変化に伴ってにおい空間での点が或る方向に移動するから、その点を繋ぐ1本のベクトルを考えることができる。このにおいベクトルは、そのにおいの種類に特有な向きを有する。従って、未知のにおいを含む未知試料を同様に測定した結果として、におい空間内に引かれるにおいベクトルの向きが、上記標準においベクトルと近い方向である場合には、両者は近い種類のにおいであると判断することができ、方向が大きく異なる場合には、逆に両者は遠い種類のにおいであると判断することができる。
【0008】
そこで、第1発明に係るにおい測定装置では、角度算出手段が、m次元のにおい空間において、標準においベクトルと未知試料のにおいベクトルとの向きの近さ又は遠さとして、両ベクトルの成す角度を求める。そして、指標値算出手段は、求められたその角度に基づいて、標準においに対する未知試料のにおいの類似性を判断する指標値を算出する。例えば、角度が0°である場合に標準においと未知試料とは同一種類のにおいであると判断できるから、上記指標値としての類似率を100%と定める一方、角度が或る所定値以上であるときには標準においと未知試料とは全く異なる種類のにおいであると判断して類似率を0%と定め、0〜100%の範囲で適宜に類似率を設定するようにするとよい。
【0009】
このように、第1発明に係るにおい測定装置によれば、或る未知のにおいの標準においに対する類似性を、絶対的な数値として表現することができる。従って、においの識別が従来よりもより客観的に行え、複数の未知のにおいの比較や類似性の判断も行い易くなる。また、標準においを複数種類適切に選ぶことによって、その複数の標準においに対するそれぞれの類似性を得ることができるので、幅広い種類のにおいの識別を十分な精度で行うことができるようになり、におい測定装置としての汎用性が高まり、様々な分野での応用が可能となる。
【0010】
また、第1発明に係るにおい測定装置では、前記標準においベクトルに対する前記未知試料のにおいベクトルの正射影をとり、該正射影ベクトルの長さから前記未知試料の標準においベクトル成分のにおい濃度を求め、該濃度からにおいの強さに関する指標値を算出する強度算出手段を更に備える構成となっている。この構成によれば、未知試料のにおいと標準においとの類似性のみならず、においの強さとして例えば臭気指数や臭気強度などを提示することができる。
【0011】
また、好ましくは、前記指標値算出手段は、においセンサと人間の嗅覚との感度の相違を考慮した補正を行う補正手段を含み、該補正の施された指標値を算出する構成とするとよい。この構成によれば、においセンサと人間の嗅覚の相違の影響が結果に現れないので、人間の感覚上での不自然さが解消され、人間による官能試験の代替として利用し易くなる。
【0012】
更にまた、第1発明に係るにおい測定装置では、n(nは1以上の整数)個の標準においのそれぞれに関しての前記においセンサによる測定結果、又は該測定結果により表される標準においベクトルを予め記憶しておく記憶手段を更に備える構成とすることができる。
【0013】
この構成によれば、予め複数種類の標準においを測定して、その測定結果を記憶手段に格納しておきさえすれば、後は1個の未知試料を測定するだけで、その未知試料のにおいの識別や評価を客観的に行うことができる。具体的には、未知試料が有するにおいを複数の類似性の指標値として適切に提示することが可能となる。なお、こうした複数の類似性の指標値を視覚的に表示する表示手段を設ければ、測定者がにおいの測定結果を直感的に理解し易くなり、においの解析に不慣れな者でも非常に使い易くなる。
【0014】
上記課題を解決するために成された第2発明に係るにおい測定装置は、
a)異なる応答特性を有するm(mは2以上の整数)個のにおいセンサと、
b)前記m個のにおいセンサによる測定結果で形成されるm次元空間において、既知の標準においの測定結果により表される標準におい曲線に対し、未知試料の測定結果である1つの測定点から所定規則に則って対応付けた該標準におい曲線上の濃度仮指示点を求め、該濃度仮指示点の空間内位置を算出する濃度情報取得手段と、
c)前記濃度仮指示点の空間内位置、及び、該濃度仮指示点と前記測定点との空間内での近さの度合いを表す値に基づいて、前記標準においに対する前記未知試料のにおいの類似性を判断する指標値を算出する指標値算出手段と、
を備えることを特徴としている。
【0015】
上述したように、同一の標準においで濃度が相違するような複数の標準試料をそれぞれ測定したとき、m次元におい空間内でそれら測定点は濃度に依ってずれた位置に存在するから、その標準においに対する1本の線(通常は曲線であるが直線となる場合もあり得る)を描くことができる。従って、この標準におい曲線上の各点の空間内位置はその標準においの濃度に対応している。
【0016】
第2発明に係るにおい測定装置において、濃度情報取得手段が、未知試料の測定結果である1つの測定点から所定規則に則ることによってその標準におい曲線上に濃度仮指示点を定めると、該濃度仮指示点はその未知試料の未知においが標準においのみから成ると仮定したときのにおいの濃度であると看做すことができる。但し、未知試料による測定点がその標準におい曲線上に位置していない場合には、その測定点と濃度仮指示点との空間内での近さの度合いによって、未知においに対するその標準においの寄与の度合いが相違するものとみることができるから、指標値算出手段は、濃度仮指示点の空間内位置からにおい濃度を、上記近さの度合いからその標準においの寄与の度合いを推定し、その標準においに対する未知においの類似性を判断する指標値を算出する。
【0017】
このように、第2発明に係るにおい測定装置によっても、或る未知のにおいの標準においに対する類似性を、絶対的な数値として表現することができる。従って、においの識別が従来よりもより客観的に行え、複数の未知のにおいの比較や類似性の判断も行い易くなる。また、標準においを複数種類適切に選ぶことによって、その複数の標準においに対するそれぞれの類似性を得ることができるので、幅広い種類のにおいの識別を十分な精度で行うことができるようになり、におい測定装置としての汎用性が高まり、様々な分野での応用が可能となる。
【0018】
一実施態様として、前記濃度情報取得手段は、前記測定点と前記標準におい曲線との距離が最短となるような該標準におい曲線上の濃度仮指示点を求め、指標値算出手段は、前記濃度仮指示点の空間内位置から求まる濃度を、該濃度仮指示点と前記測定点との距離、又は、標準においと未知においとが濃度に対して直線であると看做したときの両者の成す角度、に応じて減衰させ、その減衰された濃度を未知試料のにおいに対する当該標準においの寄与であると看做して指標値を算出する構成とすることができる。
【0019】
なお、距離を用いて減衰度合を決める場合には、同種類のにおいであってもその強度に応じて該距離は差が生じるので、そのにおいの強度を考慮して距離を補正する等、におい強度の影響を軽減する処理を行うことが好ましい。
【0020】
更にまた、前記指標値算出手段は、前記標準においに対する人間の嗅覚閾値を利用して、においセンサと人間の嗅覚との感度の相違を考慮した補正を行う補正手段を含む構成とするとよい。この構成によれば、人間の嗅覚との整合性がとれたにおいの測定や識別が可能となる。
【0021】
また、第1発明と同様にこの第2発明においても、n(nは2以上の整数)個の標準においのそれぞれに関しての前記においセンサによる測定結果、又は該測定結果により表される標準におい曲線を予め記憶しておく記憶手段を更に備える構成とすることが好ましく、上記のような効果を奏する。
【0022】
また、その場合、標準におい曲線を前記記憶手段に記憶する際にその標準においの測定日に関する情報を関連付けて記憶し、前記濃度情報取得手段は、該測定日を基に最新の標準におい曲線を利用して該標準におい曲線上の濃度仮指示点を求める構成とすれば更に好ましい。この構成によれば、他種類の標準においを使用する場合に、その標準においの測定が同日、或いは連続的でなくとも、常に最新の標準においの測定結果を未知試料の測定に反映させることができるので、より正確なにおい測定が可能となる。
【0023】
【発明の実施の形態】
[第1実施例]
まず、第1発明の一実施例である第1実施例によるにおい測定装置について、図面を参照しつつ説明する。図1は第1実施例によるにおい測定装置のブロック構成図である。
【0024】
第1実施例のにおい測定装置は、試料を吸引するための吸入口1、吸引した試料に前処理を施す前処理部2、未知試料又は標準におい成分を含む標準試料を測定するための、応答特性が異なる複数(この例では6個)のにおいセンサ31〜36を備えたセンサセル3、未知試料又は標準試料をセンサセル3に引き込むためのポンプ4、においセンサ31〜36による検出信号を解析処理する信号処理部5、解析処理の出力をディスプレイ画面上に表示する表示部6、本装置全体の動作を制御する制御部7、等から構成される。
【0025】
前処理部2では、試料に含まれる水分の除去、試料の濃縮/希釈、妨害ガスの除去等が行われる。但し、この前処理は場合によっては省略してもよい。においセンサ31〜36は、例えばにおい成分に応じて抵抗値が変化する酸化物半導体センサであるが、導電性高分子センサや、水晶振動子やSAWデバイスの表面にガス吸着膜を形成したセンサなど、他の検出手法によるセンサでもよい。信号処理部5(及び制御部7)はパーソナルコンピュータを中心に構成され、該コンピュータ上で所定のプログラムを実行することにより、ベクトル演算部51、標準ベクトル記憶部52、識別処理部53等として機能する。
【0026】
上記構成を有するにおい測定装置による測定原理を説明する。本におい測定装置では、予め複数種類のにおい成分を含む標準試料を測定する。標準試料は、例えばボンベ(気体)、液体、固体から発生する原料ガスを混合・希釈することにより調製される。原料ガスは、常温でガスのものについてはガスボンベに封入しておき、一定量を取り出して使用すればよい。液体の場合はガラス容器等に入れ、所定温度に保ったり窒素ガスをバブリングしたりすることによりにおいを発生させればよい。また、固体のものは、所定温度に保つことによりにおいを発生させればよい。
【0027】
上述のようにして調製した標準試料を吸入口1に供給し、ポンプ4を作動させることにより該標準試料をセンサセル3に引き込む。センサセル3に導入された標準試料がにおいセンサ31〜36に接触すると、各においセンサ31〜36からそれぞれ異なる検出信号が並列に出力される。従って、信号処理部5では、1個の標準試料に対して全部で6個の測定データDS1,DS2,DS3,DS4,DS5,DS6が得られる。6個のにおいセンサ31〜36の検出出力をそれぞれ異なる方向の軸として形成される6次元空間(これを「におい空間」と呼ぶ)を考えると、上記6個の測定データはにおい空間内の或る1点(DS1,DS2,DS3,DS4,DS5,DS6)で表すことができる。
【0028】
6次元空間を図示するのは難しいので、ここでは理解を容易にするために、図2に示すような、第1、第2なる2個のにおいセンサの検出信号DS1,DS2により形成される2次元のにおい空間で考えることとする。この2次元空間内において、或る1個の標準試料に対する第1、第2においセンサによる2個の測定データは、或る1点(DS1,DS2)で表される。
【0029】
いま、同一の標準においの濃度を変化させてそれぞれ測定を行うと、上記6次元におい空間内では、におい成分の種類に応じて特有の方向に点(DS1,DS2,DS3,DS4,DS5,DS6)がずれてゆき、これを同空間内での1本のベクトルとして捉えることができる。従って、図2に示す2次元空間においても同様に、1本のベクトル(以下「においベクトル」と呼ぶ)S1を引くことができる。においベクトルの方向はにおい成分の種類に依存しており、上記標準試料の標準においとは異なる種類の標準においについて同様の測定を行うと、図2の2次元空間において、においベクトルS1とは異なる方向を向く別のベクトルを引くことができる。
【0030】
一方、測定対象である未知試料についても同様の測定を行うと、図2に示す2次元空間内で1本のにおいベクトルSxを描くことができる。このときのにおいベクトルSxが標準においベクトルS1と近い方向を向いていれば、未知試料のにおいはその標準においと近い種類のにおいであると考えることができ、逆にベクトルの向きが大きく異なっていれば、遠い種類のにおいであると考えることができる。そこで、S1及びSxなる2本のベクトルの向きの近似性を判断する指標として、標準においベクトルS1と未知試料によるにおいベクトルSxとが成す角度θを用い、この角度θに基づいて類似率を定める。すなわち、未知試料ベクトルSxと標準においベクトルS1とが重なる(同じ向きである)とき、両者は同一種類のにおいであるとし、このとき類似率を100%と定める。また、全く類似性が無いと看做せる場合に類似率を0%と定める。これにより、標準においに対する未知試料のにおいの近さ又は遠さの度合いを0〜100%の類似率で表す。
【0031】
ここで、角度θから類似率を定める際に、においセンサの応答感度と人間の鼻(嗅覚)の感度との相違を補正するような処理を行う。その補正方法としては、基本的に、各標準においに対し、人の鼻の閾値感度が低いものほど類似性を強調するものとする。
【0032】
例えば図4に示すように、或る未知のにおいによるベクトルSxが第1の標準においベクトルS1及び第2の標準においのベクトルS2の2本に対して全く同一の角度θ1であったとする。この場合、においセンサによる測定としては、上記未知のにおいは第1及び第2の標準においに対して同等の類似性を持っていると判断したことになる。一方、人間の鼻による官能試験の結果では、第1の標準においの閾値濃度は第2の標準においの閾値濃度の1/2であったとする。これは、第1の標準においに対する人間の鼻の感度が第2の標準においに対する感度に比べて2倍高いことを意味している。そこで、においセンサの感度と人間の鼻の感度との相違を補正するには、図4に示すような結果である場合に、第1の標準においに対する類似率を第2の標準においに対する類似率の2倍となるように設定する。こうした補正処理を行うことによって、最終的に、においの種類に依らず、人の鼻の感度に近いような識別結果を得ることができる。
【0033】
なお、においセンサの感度と人間の鼻の感度との相違の程度は、においの範疇などに大きく依存するから、選定される標準においの種類などに応じて上記補正の程度は予め適宜決められるものとする。
【0034】
また、未知試料のにおいの強度については次のように定める。図2に示すように、未知試料によるにおいベクトルSxから標準においベクトルS1に対する正射影をとり、その正射影ベクトルT1の長さに相当する標準においの濃度を、その未知試料における標準におい成分の濃度として定義する。標準におい成分の濃度と臭気指数や臭気強度との関係は予めわかっているから、濃度のみならず、その濃度を臭気指数や臭気強度に換算することができる。なお、未知試料のにおいの総合臭気の強度として最大値モデルを用いる場合には、各標準におい成分のうちの最大のものを選択すればよく、一方、総加モデルを用いる場合には、各標準におい成分の臭気指数を一旦臭気濃度に換算し、それら全てを加え合わせた後に臭気指数を算出するようにすればよい。
【0035】
ところで、各においセンサ31〜36において、におい成分の濃度とその検出出力との関係が線形である場合には、においベクトルは図2に示したように直線形状を呈する。これに対し、におい成分の濃度と検出出力との関係が線形にならないような場合には、標準においを含む標準試料によるにおいベクトルや未知試料によるにおいベクトルは6次元(又は2次元)におい空間内で直線にはならずに曲線形状を呈する。その場合でも、上記測定原理の趣旨に基づき、次のようにして類似率を求めることができる。
【0036】
図3に示すように、或る濃度の未知のにおいの測定結果による測定点P(DS1,DS2)が、標準においベクトルS1が湾曲しているような2次元空間内に位置付けられた場合を考える。このとき、未知においの測定点Pから標準におい曲線S1までの最短距離dminと該最短距離dminを与える標準におい曲線S1上の点Qの位置(座標)とを求める。その場合、標準においに対する上記未知のにおいの類似率αは、原点から点Qまでの曲線の長さLと、最短距離dminとから次のように定めることとする。
α=tan(dmin/L)
【0037】
次に、図1に示す構成において、上記測定原理を利用したにおい測定動作を具体的に説明する。
【0038】
上述したように、予め複数種類の標準においを測定することによって、未知試料の類似性を判断するための標準においベクトルを作成して保持しておく。例えば互いに異なる8種の標準においを、それぞれ濃度を変えながら順次発生させてセンサセル3に導入し、6個のにおいセンサ31〜36を用いて測定する。この測定結果により、ベクトル演算部51では各標準におい毎に異なるにおいベクトルが求まるから、全部で8本の、それぞれ異なる向きを有する標準においベクトルS1〜S8が得られる。この8本の標準においベクトルS1〜S8を構成するデータは、予め標準ベクトル記憶部52に格納される。
【0039】
上記標準においとしては、測定対象のにおいに応じて適宜のものを選ぶことができる。例えば汎用性の高い悪臭測定用の装置では、良性の標準においとして、芳香族系(トルエンなど)、アルコール系(n−ブタノールなど)、炭化水素系(ヘプタンなど)、エステル系(酢酸エチルなど)を用い、悪性の標準においとして、アミン系(トリメチルアミンなど)、アルデヒド系(ブチルアルデヒドなど)、硫黄系(メチルメルカプタンなど)、有機酸系(酪酸など)を採用することができる。
【0040】
測定対象である未知試料を測定する際には、吸入口1に該未知試料を供給し、ポンプ4を作動させて未知試料をセンサセル3に引き込む。このとき6個のにおいセンサ31〜36による検出信号は信号処理部5に送られ、ベクトル演算部51で、6次元におい空間における1本のにおいベクトルSxが算出され、そのベクトルを構成するデータが識別処理部53へと送られる。
【0041】
識別処理部53では、標準ベクトル記憶部52から複数の標準においベクトルを構成するデータを読み出し、各標準においベクトルS1〜S8と未知試料によるにおいベクトルSxとが成す角度θ1〜θ8をそれぞれ算出し、それら角度から各標準においに対する類似率α1〜α8を算出する。また、未知試料によるにおいベクトルSxの標準においベクトルS1〜S8への正射影ベクトルT1〜T8を求め、その正射影ベクトルT1〜T8の長さから臭気指数や臭気強度を計算する。従って、8種類の標準においがある場合には、その8種類の標準においに対する類似率、臭気指数及び臭気強度がそれぞれ求まる。
【0042】
信号処理部5は更に、こうして算出した類似率等の値を利用者に分かりやすい形で出力し、表示部6の画面上に表示させる。具体的には、ウェブ(くもの巣)グラフ等、種々の形式で出力することができるが、具体例については後述する。こうした視覚的な出力により、利用者は未知試料のにおいがどのような標準においに近いのか、或いは、どのような標準においで構成されているのかを容易に知ることができる。
【0043】
更にまた、或る未知試料の測定結果である類似率を記憶させておき、次に別の未知試料を測定した際に、その未知試料の測定結果である類似率と先に記憶されている未知試料の類似率とを比較することによって、両者が同様の結果であれば、両者が同種のにおいであると判断することができる。このように未知試料同士のにおいの類似性の判断も下すことができる。
【0044】
次に、図1に示した第1実施例によるにおい測定装置を用いた測定の具体例を説明する。
【0045】
[第1実施例の具体的測定例1]
本例は、上記第1実施例によるにおい測定装置を悪臭測定装置に適用した例である。幅広い悪臭を測定するために好適な標準においの組み合わせの一例は、上述したように、良性の標準においとして、芳香族系(トルエン)、アルコール系(n−ブタノール)、炭化水素系(ヘプタン)、エステル系(酢酸エチル)の4種を用い、悪性の標準においとして、アミン系(トリメチルアミン)、アルデヒド系(ブチルアルデヒド)、硫黄系(メチルメルカプタン)、有機酸系(酪酸)の4種を用いるものである。
【0046】
上記8種の標準においの測定結果と或る未知試料の測定結果とは、6次元におい空間内で図5に示すように表される。そして、上述したように、においベクトルを利用した識別処理の結果、各標準においに対する類似率、臭気指数及び臭気強度は図6に示すようになる。こうした表を表示部6の画面上に表示することによっても、その類似率の高さからこの未知試料のにおいはアミン系に近いことがわかる。更にまた、直感的理解を容易にするために、図7に示すようなウェブグラフが作成され、表示部6の画面上に表示される。これにより、本未知試料のにおいはアミン系に近いことが一目でわかる。更に、アミン系以外に、どのようなにおいに近いのかも直感的に理解できる。
【0047】
[第1実施例の具体的測定例2]
本例は、上記第1実施例によるにおい測定装置を食品(ここではコーヒー)の香り検査装置に適用した例である。この場合、標準においとしては、キリマンジャロ、モカ、ブルーマウンテン、ドミニカ、ガテマラの5種類のコーヒーを用いる。もちろん、他の種類のコーヒを用いてもよい。上記5種類の標準においの測定結果と或る未知試料の測定結果とは、6次元におい空間内で図8に示すように表される。そして、上述したように、においベクトルを利用した識別処理の結果、各標準においに対する類似率が求まる。
【0048】
一方、コーヒーのような食品の香り測定の場合、上記具体例1とは異なり、標準においであっても、その成分濃度と臭気指数、臭気強度との関係が明確ではない。そのため、正射影ベクトルの長さから濃度が求まっても、その濃度から直接的に臭気指数や臭気強度を出すことは難しい。そこで、所定の換算式を用いて、0〜5の6段階のにおい強度のいずれに相当するのかを定める。ここで、
強度0:無臭
強度1:識別不可能な程度のにおい有り
強度2:種類の識別が可能な程度のにおい有り
強度3:普通程度のにおい有り
強度4:強いにおい有り
強度5:激しいにおい有り
である。上記換算式の作成方法としては各種の方法が考えられるが、例えば、具体例1に示したような、成分濃度と臭気指数、臭気強度との関係が既知である標準においの中で、測定対象の範疇のにおい(この例ではコーヒーの香り)に最も近い種類のにおいを見つけ、そのにおいにおける成分濃度と臭気指数、臭気強度との関係を利用し、又はその関係を適宜に変形して換算式を作成することができる。
【0049】
上記においベクトルから算出した類似率及びにおい強度は図9に示すようになる。また、類似率のウェブグラフは図10に示すようになる。この結果から、未知試料の香りはブルーマウンテンに近いことがわかり、また、その香りの強さは約2.7であることがわかる。
【0050】
このように、本実施例のにおい測定装置では、測定対象であるにおいの範疇に応じて適宜に複数の標準においを選ぶことによって、どのような範疇のにおいに対しても客観性の高い識別を行うことができる。
【0051】
[第2実施例]
次に、第2発明の一実施例である第2実施例によるにおい測定装置について、図面を参照しつつ説明する。
【0052】
図11は第2実施例によるにおい測定装置のブロック構成図である。上記第1実施例に対して信号処理部8以外の構成は同一であるので、同一符号を付して説明を省略する。信号処理部8はパーソナルコンピュータ等を中心に具現化され、ピーク抽出部81、標準におい係数演算部82、標準におい係数記憶部83、指標値演算部84及び嗅覚閾値記憶部85を機能ブロックとして有している。
【0053】
この第2実施例によるにおい測定装置の測定原理を説明する。第1実施例での説明と同様に、ここでも理解を容易にするために、図12に示すような、第1、第2なる2個のにおいセンサの検出信号DS1、DS2により形成される2次元のにおい空間で考える。
【0054】
いま、標準においとして2種類を用意し、各標準においの濃度がそれぞれC1[ppm]、C2[ppm]、及びC3[ppm](但し、C1、C2、C3は正の実数でC1<C2<C3)であるような標準試料を調製する。従って、全部で6種類の標準試料が用意されることになる。この6種類の標準試料をそれぞれ2個のにおいセンサで測定し検出信号を取得する。既に述べたように、或る1つの標準試料に対する2個のにおいセンサの検出信号は、図12に示すような2次元におい空間内では或る1つの点(測定点)に位置付けられる。
【0055】
ここで、第1の標準においの濃度がC1、C2及びC3であるような標準試料に対する2次元におい空間内での測定点をa1、a2及びa3とし、第2の標準においの濃度がC1、C2及びC3であるような標準試料に対する2次元におい空間内での測定点をb1、b2及びb3とする。においの濃度が相違する3つの測定点a1、a2、a3、及びb1、b2、b3は2次元におい空間内での位置が徐々にずれるから、それぞれ3つの測定点が属する又はごく近接するような標準におい曲線H1、H2を描くことができる。なお、この標準におい曲線は第1実施例における標準においベクトルと実質的には同じものであるが、ここでは方向性を考慮しないので、ベクトルと呼ばずに単に曲線と呼ぶ。但し、においセンサの出力とにおいの濃度とが線形の関係となる場合に、におい曲線は実質的に直線となるのも既に述べた通りである。
【0056】
本におい測定装置では、標準試料を測定することによって得られた測定点から標準におい曲線を算出し、その曲線を表現するデータを予め記憶しておく。具体的な例として、標準におい曲線を濃度を独立変数とした関数で表すものと仮定し、上記のような複数の測定点に基づいた直線回帰又は多重回帰式によりその関数の係数を算出する。そうすれば、その関数の係数が標準におい曲線を反映したデータとなる。もちろん、他の表現形式により標準におい曲線を表現するデータを保持するようにしてもよい。
【0057】
測定対象である未知試料についても同様の測定を行うと、図12に示すように2本の標準におい曲線H1、H2が描かれた2次元におい空間において、1つの測定点Pが位置付けられる。ここで、未知試料に含まれる未知のにおいは第1、第2なる2種類の標準においの合成によって表せるものと考え、未知においに対する各標準においの寄与の度合いを類似性として定義する。その際に、各標準においの臭さの度合い(臭気指数など)を考慮する。
【0058】
具体的には、未知試料の測定点Pから2本の標準におい曲線H1、H2までの距離がそれぞれ最短となる直線を引き、その直線と標準におい曲線H1、H2とが交差する点Q1、Q2を求める。標準におい曲線H1、H2上での各点の位置はそれぞれの標準においの濃度に対応付けられるから、点Q1、Q2の位置(座標)はそれぞれの標準においの或る濃度に対応している筈である。この点Q1、Q2の位置は、その未知においが第1又は第2の標準においのみで構成されている場合の濃度CH1、CH2を示していると看做す。しかしながら、実際には、測定点Pは標準におい曲線H1、H2から離れているため、未知においに対して寄与する各標準においの濃度は、点Q1、Q2が示す濃度CH1、CH2よりも低くなっており、その減衰の程度は測定点Pからの距離に応じて決まる。その意味において、点Q1、Q2を濃度仮指示点と呼ぶ。
【0059】
例えばいま、測定点P(DS1,DS2)から標準におい曲線H1、H2までの最短距離をそれぞれdmin1、dmin2であるとする。このとき、未知においに対する検出信号の大きさLSを、
LS=√(DS12+DS22) …(1)
と定義する。そして、第1及び第2の標準においに対する指標値ISi(i=1又は2)を次のように定義する。
ISi=tan-1(dmin i/LS) …(2)
最短距離dmin iを検出信号の大きさLSで除しているのは、同種類のにおいであってもにおいの強度によって標準におい曲線までの距離に差が生じるからであって、大きさLSで除することにより、最短距離をにおい強度で規格化することができる。
【0060】
(2)式の結果としてIS1=0であれば、未知においは全て第1の標準においであって、その濃度は濃度仮指示点Q1で示される濃度CH1[ppm]とすることができ、一方、第2の標準においの濃度は0[ppm]である。これに対し、IS1=0でない場合には、未知においには第1、第2の標準においのいずれもが含まれていることになり、第1の標準におい曲線H1及び第2の標準におい曲線H2を直線と看做し両者の成す角度をΘとすると、第1標準におい曲線H1を基準軸とした測定点Pの角度位置が0°である場合に未知においは全て第1標準においであり、その角度位置がΘである場合に未知においは全て第2標準においとなる。
【0061】
すなわち、基準軸(例えば第1標準におい曲線H1)に対する角度が大きくなるほど、未知試料においてその標準においの実際の含有量が少なくなると看做せるので、一例として次のような一次元的な減衰率βを想定する。
β=(−1/Θ)・ISi+1 …(3)
但し、i=1又は2
これにより、未知においに寄与する第1、第2標準においの濃度は次の(4)式で求まる。
標準においの濃度:CHi’=CHi×β …(4)
【0062】
また、同じ濃度であっても人間が感じる臭さの度合いは物質によって必ずしも同一とはならない。すなわち、これがにおいセンサの感度と人間の嗅覚感度との相違である。そこで、人間の嗅覚の特性を考慮した補正を行って、未知においの標準においに対する類似度γiを算出する。そのために、各標準においをそれぞれ鼻で感知できる最小濃度を示す嗅覚閾値Ei(i=1又は2)を利用する。
γi=10×Log(CHi’/Ei) …(5)
【0063】
また、未知におい全体としてのにおい強度の指標値δを、次の(6)式で求める。
δ=10×Log[(CH1’/E1)+(CH2’/E2)] …(6)
【0064】
上記例は標準においが2種類の場合であるが、一般的に、標準においがj種類である場合、上記Θはそれら標準におい相互の角度の平均値などを用いることとすればよい。その場合、j番目の標準においに対する指標値である類似度γjは、
γj=10×Log(CHj’/Ej)
であり、全体のにおい強度を表す指標値δは、
δ=10×Log[Σ(CHj’/Ej)]
となる。
【0065】
図11に示す構成において、上記測定原理を利用したにおい測定動作を具体的に説明する。
【0066】
上述したように、予め複数種類の標準においを測定することによって、未知試料の類似性を判断するための標準におい曲線を作成して保持しておく。例えば互いに異なる4種の標準においを、それぞれ濃度を変えながら順次発生させてセンサセル3に導入し、6個のにおいセンサ31〜36を用いて測定する。或る1つの標準試料がセンサセル3に導入されるとき、その導入の前後を含めた時間経過に伴い各においセンサ31〜36のセンサ出力は変動するが、ピーク抽出部81はその出力変動の中で極大(ピーク)を示す位置を見つけ、そのときの出力を検出信号とする。もちろん、においセンサの検出信号としては、ピークの面積を利用する等、他の方法によって信号を得るようにしてもよい。
【0067】
標準におい係数演算部82はピーク抽出部81より6個のにおいセンサ31か〜36による検出信号を受けると、上述したように濃度がそれぞれ相違する同一種類の標準においに対する検出信号を用いてその標準におい曲線を表現する関数の係数を算出し、それを標準におい係数記憶部83に記憶させる。上記標準においとしては、測定対象のにおいに応じて適宜のものを選ぶことができることは第1実施例と同じである。
【0068】
測定対象である未知試料を測定する際には、吸入口1に該未知試料を供給し、ポンプ4を作動させて未知試料をセンサセル3に引き込む。このとき6個のにおいセンサ31〜36による出力は信号処理部8に送られ、ピーク抽出部81を経て指標値演算部84へと送られる。
【0069】
指標値演算部84では、標準におい係数記憶部83から複数の標準におい曲線クを表現するデータを読み出し、各標準におい曲線が形成された6次元におい空間において、未知試料に対する測定点Pを位置付け、各標準におい曲線に対して最短距離を与える曲線上の位置とその距離とを計算する。そして、上述したような計算を行うことにより、各標準においに対する類似度と、全体的なにおい強度とを算出する。なお、各標準においに対する嗅覚閾値は予め測定されて、嗅覚閾値記憶部85に記憶しておくものとする。
【0070】
信号処理部8は更に、こうして算出した類似度及びにおい強度を利用者に分かりやすい形で出力し、表示部6の画面上に表示させる。上記説明のようにして求められた類似度では、濃度が濃い場合に薄い場合よりも大きな値となるため、同じ種類のにおいであっても濃度が相違すると異なる類似度となる。そこで、例えば、複数の標準においの中で類似度が最大になるものの類似度を100として他の全ての標準においに対する類似度を規格化する。そして、この類似度ではにおいの性質のみを表現し、においの強度に関しては別途示すようにすることが考えられる。
【0071】
具体例として、標準においが4種類である場合に、類似度は図13に示すようなレーダチャートで表し、その横の適宜の部位ににおいの強度(図13は強度50と表記)を数値で記載する方法をとることができる。もちろん、表示方法はこれに限るものではない。こうした視覚的な出力により、利用者は未知試料のにおいがどのような標準においに近く、それはどの程度の近さ又は遠さなのか、或いは、においの強度はどの程度であるのかを容易に知ることができる。
【0072】
このように第2実施例のにおい測定装置によれば、複数種類の標準においに対してそれぞれ類似度が求まり、それを基ににおい強度を求めることができるので、未知のにおいを性質(類似度)と強度とで表現することができ、定性的及び定量的ににおいを表すことができる。
【0073】
[第2実施例の具体的測定例]
第2実施例のにおい測定装置による実際の測定例を図14〜図16に示す。ここでは、良性の標準においとして、芳香族系(トルエンなど)、アルコール系(n−ブタノールなど)を用い、悪性の標準においとして、硫黄系(メチルメルカプタンなど)、有機酸系(酪酸など)を採用した。
【0074】
図14は排水口の臭気を測定した例であり、レーダチャートより硫化水素のにおいが支配的であることが判る。また、図15及び図16はそれぞれ塗装工場の中心部及び周辺部の臭気を測定した例であり、有機溶媒系や芳香族系のにおいが支配的であることが判る。また、レーダチャートでは図15と図16とに殆ど差はなく、においの性質はほぼ同じであることが判るが、におい強度は周辺部で20であるの対し中心部では60であり、これから中央部では周辺部よりもかなりにおいが強いことが判る。
【0075】
このように第2実施例のにおい測定装置では、においの類似性とにおいの強度とを定量的に表現することができ、測定者に対して非常に有用で判りやすい情報を提供することができる。
【0076】
また、上記第1実施例又は第2実施例のにおい測定装置において、標準においに対する標準においベクトル又は標準におい曲線を記憶する際に、その標準においを測定した測定日に関連したデータを同時に記憶させておくと便利である。上述したように、このにおい測定装置を用いたにおい測定を実際に行う場合には、多数種類の標準試料を予め測定することが必要になる。精度の高い測定を行うには、未知試料の測定の直前に標準試料の測定を実行して最新の標準においベクトル又は曲線を求めることが最も望ましいが、こうした測定は煩雑であって時間も掛かるため、一度に全ての標準においの測定を行うことは実質的に不可能に近い。そのため、基準となる標準においベクトル又は標準におい曲線の取得作業は、標準におい毎に何日かに分けて行われたり、測定者や装置の空いているときに適宜に行われたりすることがある。そうした場合でも、標準においベクトル又は標準におい曲線に対応してその測定日が保存されていれば、未知試料の測定を行う際に、各標準においベクトル又は標準におい曲線について最新のものを読み出してきて、それを利用してにおいに関する各種指標値を算出することができる。
【0077】
なお、上記実施例はいずれも本発明の一例であって、本発明の趣旨の範囲で適宜変更や修正を加えることができることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 第1発明の一実施例(第1実施例)によるにおい測定装置のブロック構成図。
【図2】 第1実施例のにおい測定装置の測定原理の説明図。
【図3】 第1実施例のにおい測定装置の測定原理の説明図。
【図4】 第1実施例のにおい測定装置の測定原理の説明図。
【図5】 第1実施例のにおい測定装置における、6次元におい空間内でのにおいベクトルの配置例を示す概念図。
【図6】 第1実施例のにおい測定装置による測定結果の表の一例を示す図。
【図7】 第1実施例のにおい測定装置による測定結果のグラフの一例を示す図。
【図8】 第1実施例のにおい測定装置における、6次元におい空間内でのにおいベクトルの配置例を示す概念図。
【図9】 第1実施例のにおい測定装置による測定結果の表の一例を示す図。
【図10】 第1実施例のにおい測定装置による測定結果のグラフの一例を示す図。
【図11】 第2発明の一実施例(第2実施例)によるにおい測定装置のブロック構成図。
【図12】 第2実施例のにおい測定装置の測定原理の説明図。
【図13】 第2実施例のにおい測定装置の測定原理の説明図。
【図14】 第2実施例のにおい測定装置による測定結果の一例を示す図。
【図15】 第2実施例のにおい測定装置による測定結果の一例を示す図。
【図16】 第2実施例のにおい測定装置による測定結果の一例を示す図。
【符号の説明】
1…吸入口
2…前処理部
3…センサセル
31〜36…においセンサ
4…ポンプ
5…信号処理部
51…ベクトル演算部
52…標準ベクトル記憶部
53…識別処理部
6…表示部
7…制御部
8…信号処理部
81…ピーク抽出部
82…係数演算部
83…係数記憶部
84…指標値演算部
85…嗅覚閾値記憶部
Claims (8)
- a)異なる応答特性を有するm(mは2以上の整数)個のにおいセンサと、
b)前記m個のにおいセンサによる測定結果で形成されるm次元空間において、既知の標準においの測定結果により表される標準においベクトルと、未知試料の測定結果により表されるにおいベクトルとが成す角度を求める角度算出手段と、
c)該角度に基づいて前記標準においに対する前記未知試料のにおいの類似性を判断する指標値を算出する指標値算出手段と、
d)前記標準においベクトルに対する未知試料のにおいベクトルの正射影をとり、該正射影ベクトルの長さから前記未知試料の標準においベクトル成分のにおい濃度を求め、該濃度からにおいの強さに関する指標値を算出する強度算出手段と
を備えることを特徴とするにおい測定装置。 - 前記指標値算出手段は、においセンサと人間の嗅覚との感度の相違を考慮した補正を行う補正手段を含み、該補正の施された指標値を算出することを特徴とする請求項1に記載のにおい測定装置。
- n(nは1以上の整数)個の標準においのそれぞれに関しての前記においセンサによる測定結果、又は該測定結果により表される標準においベクトルを予め記憶しておく記憶手段を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のにおい測定装置。
- a)異なる応答特性を有するm(mは2以上の整数)個のにおいセンサと、
b)前記m個のにおいセンサによる測定結果で形成されるm次元空間において、既知の標準においの測定結果により表される標準におい曲線に対し、未知試料の測定結果である1つの測定点から所定規則に則って対応付けた該標準におい曲線上の濃度仮指示点を求め、該濃度仮指示点の空間内位置を算出する濃度情報取得手段と、
c)前記濃度仮指示点の空間内位置、及び、該濃度仮指示点と前記測定点との空間内での近さの度合いを表す値に基づいて、前記標準においに対する前記未知試料のにおいの類似性を判断する指標値を算出する指標値算出手段と、
を備えることを特徴とするにおい測定装置。 - 前記濃度情報取得手段は、前記測定点と前記標準におい曲線との距離が最短となるような該標準におい曲線上の濃度仮指示点を求め、指標値算出手段は、前記濃度仮指示点の空間内位置から求まる濃度を、該濃度仮指示点と前記測定点との距離、又は、標準においと未知においとが濃度に対して直線であると看做したときの両者の成す角度、に応じて減衰させ、その減衰された濃度を未知試料のにおいに対する当該標準においの寄与であると看做して指標値を算出することを特徴とする請求項4に記載のにおい測定装置。
- 前記指標値算出手段は、前記標準においに対する人間の嗅覚閾値を利用して、においセンサと人間の嗅覚との感度の相違を考慮した補正を行う補正手段を含むことを特徴とする請求項4又は5に記載のにおい測定装置。
- n(nは2以上の整数)個の標準においのそれぞれに関しての前記においセンサによる測定結果、又は該測定結果により表される標準におい曲線を予め記憶しておく記憶手段を更に備えることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載のにおい測定装置。
- 標準におい曲線を前記記憶手段に記憶する際にその標準においの測定日に関する情報を関連付けて記憶し、前記濃度情報取得手段は、該測定日を基に最新の標準におい曲線を利用して該標準におい曲線上の濃度仮指示点を求めることを特徴とする請求項7に記載のにおい測定装置。
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