JP3877465B2 - 動力伝達機構 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、駆動軸の駆動回転を2つの摩擦クラッチのいずれか一方によって被駆動部材に伝達し、該被駆動部材を回転させるようにした動力伝達機構に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、駆動軸の駆動回転をネガティブ型の第1摩擦クラッチまたはポジティブ型の第2摩擦クラッチのいずれか一方によって被駆動部材に伝達し、該被駆動部材を回転させるようにした動力伝達機構としては、例えば特開平11ー82648号公報に記載されているようなものが知られている。
【0003】
このものは、第1、第2摩擦クラッチをそれぞれ構成する複数枚の第1、第2摩擦板と、これら第1、第2摩擦板に接近離隔可能で、第1摩擦板に押し付けられたとき第1摩擦クラッチを接続状態とし、逆に、第1摩擦板から離隔するとともに、第2摩擦板に押し付けられたとき第2摩擦クラッチを接続状態とする1個の共通ピストンと、該共通ピストンを第1摩擦板に押し付けるよう付勢するスプリングと、前記共通ピストンに第1摩擦板から離隔し第2摩擦板に接近する方向の流体力を付与することができる流体通路とを備えている。
【0004】
そして、このものは、流体通路に流体が供給されていないときには、スプリングの付勢力により共通ピストンが第1摩擦板に押し付けられているため、ネガティブ型の第1摩擦クラッチは接続状態となっている。このとき、前記共通ピストンは第2摩擦板から離隔しているため、ポジティブ型の第2摩擦クラッチは遮断状態となっている。次に、流体通路に流体が供給されると、共通ピストンは流体の流体力によりスプリングに対抗しながら第1摩擦板から離隔するとともに、第2摩擦板に接近し、該第2摩擦板に押し付けられる。この結果、第1摩擦クラッチが接続状態から遮断状態に、一方、第2摩擦クラッチが遮断状態から接続状態に切換わる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような従来の動力伝達機構にあっては、第1、第2摩擦クラッチの切換え時、例えば前述のように第1摩擦クラッチが接続状態から遮断状態に、一方、第2摩擦クラッチが遮断状態から接続状態に切換わるとき、供給される流体の圧力上昇に伴って、共通ピストンは第1摩擦板に対する押付け力が減少して最後に第1摩擦板から離れ、その後、短時間フリーで第2摩擦板に向かって移動して該第2摩擦板に接触し、続いて、第2摩擦板に対して大きな押付け力で押し付けられるため、共通ピストンが第1、第2摩擦板から共に離隔している期間が存在する。
【0006】
そして、このように共通ピストンが第1、第2摩擦板から共に離隔している期間およびその直前、直後は、第1、第2摩擦クラッチが共に遮断状態あるいはほぼ遮断された状態であるため、被駆動部材は駆動軸からほぼ切り離され、フリー回転する。ここで、被駆動部材が前述のようにフリー回転すると、例えば、前記動力伝達機構を土木建設機械の走行駆動装置に適用した場合で、該土木建設機械が坂道の途中で停止しているときには、土木建設機械が短時間ではあるが自重によって坂道をずり落ちてしまうという問題点がある。
【0007】
この発明は、第1、第2摩擦クラッチの切換え時における被駆動部材のフリー回転を阻止することができる動力伝達機構を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
このような目的は、駆動軸の駆動回転を、ネガティブ型の第1摩擦クラッチを介して1個の被駆動部材に伝達し、または、ポジティブ型の第2摩擦クラッチを介して前記1個の被駆動部材に伝達し、該被駆動部材を回転させるようにした動力伝達機構において、
前記第1摩擦クラッチを、複数枚の第1摩擦板と、第1摩擦板に接近離隔可能で、第1摩擦板に押し付けられたとき第1摩擦クラッチを接続状態とする第1ピストンと、第1ピストンを第1摩擦板に押し付けるよう付勢する第1スプリングとから構成するとともに、前記第2摩擦クラッチを、複数枚の第2摩擦板と、第2摩擦板に接近離隔可能で、第2摩擦板に押し付けられたとき第2摩擦クラッチを接続状態とする第2ピストンと、第2ピストンを第2摩擦板から離隔させるよう付勢し、前記第1スプリングよりばね定数の小さな第2スプリングとから構成し、さらに、前記第1ピストンに第1摩擦板から離隔する方向の流体力を、一方、第2ピストンに第2摩擦板に接近する方向の流体力を同時に付与することができる流体通路を設け、かつ、前記被駆動部材を、円板部と、駆動軸の軸方向に並べて配置された第1、第2摩擦クラッチおよび駆動軸を半径方向外側から囲む円筒部とから構成するとともに、駆動軸と同軸に配置し、さらに、前記駆動軸と第1または第2摩擦クラッチとの間に遊星歯車型減速機を配置して、被駆動部材の回転を2段階に切換えられるようにする一方、前記被駆動部材に、該被駆動部材の回転を減速する偏心揺動型減速機を連結するとともに、該偏心揺動型減速機と前記遊星歯車型減速機との間に前記第1、第2摩擦クラッチを配置することにより、達成することができる。
【0009】
今、流体通路に流体は供給されておらず、第1、第2ピストンのいずれにも流体力は付与されていないとする。このとき、第1ピストンは第1スプリングの付勢力により第1摩擦板に押し付けられているため、第1摩擦クラッチは接続状態となっており、この結果、駆動軸の回転は該第1摩擦クラッチを介して被駆動部材に伝達され、該被駆動部材を回転させている。このとき、第2ピストンは第2スプリングの付勢力によって第2摩擦板から離隔させられているため、第2摩擦クラッチは遮断状態となっている。
【0010】
次に、流体通路に流体を供給すると、第1ピストンに第1スプリングの付勢力と逆方向の流体力が付与されるが、この流体力は前記流体の圧力が上昇するに従い増大するため、前記第1スプリングから第1摩擦板に付与されている押圧力はこの流体力により相殺されて減少し、第1摩擦クラッチを通じて伝達される回転トルクが小さくなる。
【0011】
このとき、第2ピストンにも前記流体によって第2スプリングの付勢力と逆方向の流体力が付与されるが、この第2スプリングのばね定数は前述のように第1スプリングのばね定数より小さい。このため、前記相殺された第1スプリングの付勢力が零となる以前に、前記流体力が第2スプリングの付勢力を上回るようになり、この結果、第2ピストンが第2摩擦板を押付けられるようになる。これにより、第2摩擦クラッチは、前記第1摩擦クラッチが摩擦抵抗によって回転トルクを伝達しているときに、接続状態に切換わって回転トルクの伝達を開始し、第1、第2摩擦クラッチの双方を通じて回転トルクが被駆動部材に伝達される時期が存在する。なお、このとき駆動軸から被駆動部材に伝達される回転トルクは第1、第2摩擦クラッチのそれぞれの回転トルクの合計値である。
【0012】
その後、第1ピストンに付与される流体力が第1スプリングの付勢力を上回るようになると、第1ピストンは第1摩擦板から離隔し、第1摩擦クラッチは遮断状態に切換わる。この結果、回転トルクの伝達は第1、第2摩擦クラッチの双方を通じて行われた状態から第2摩擦クラッチのみを通じて行われるようになる。一方、前述とは逆に、流体通路に対する流体の供給が停止したときには、前述の作用と逆の順序によって、接続状態となっているのが第2摩擦クラッチのみから第1、第2摩擦クラッチ双方に、その後、第1摩擦クラッチのみへと変化する。
【0013】
このように第1、第2摩擦クラッチの切換え時、切換えの中間段階において第1、第2摩擦クラッチが共に接続状態となるため、被駆動部材が駆動軸から切り離されてフリー回転することはなく、この結果、土木建設機械等が坂道でずり落ちるような事態が阻止される。
【0014】
しかも、簡単な構造で被駆動部材の回転速度を2段階に切換えることができるとともに、駆動力が軸方向に分散され、全体の構造を簡単なものとすることができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1、2において、11は、例えば土木建設機械の走行フレームに取り付けられた固定ケーシングであり、この固定ケーシング11内に形成された収納室12には、駆動軸14を駆動回転させる駆動手段としての斜板式流体モータ13が収納されている。そして、前記駆動軸14は固定ケーシング11に回転可能に支持されるとともに、一側部が収納室12に遊嵌されている。前記流体モータ13は収納室12内に収納された円筒状のシリンダブロック15を有し、このシリンダブロック15には前記駆動軸14が挿入されてスプライン結合されている。前記シリンダブロック15に形成された複数のシリンダ穴16にはプランジャ17がそれぞれ摺動可能に挿入され、これらプランジャ17の先端にはシュー18が連結されている。
【0016】
19は固定ケーシング11の一端面に固定され前記収納室12の一端開口を閉止するサイドブロックであり、このサイドブロック19内に設けられた図示していない一対の給排通路は、シリンダブロック15とサイドブロック19との間に介装されたタイミングプレート20の給排孔20aを介してシリンダ穴16に連結されている。また、これら給排通路は図示していない切換弁を介して流体ポンプおよびタンクに接続され、前記切換弁が切り換えられることにより、いずれかが供給側、残りが排出側となる。
【0017】
21はシリンダブロック15より他側の収納室12内に収納された略リング状の斜板であり、この斜板21の一端面には傾斜面22が形成され、この傾斜面22には前記シュー18が摺接している。また、斜板21の他端面には2個の平坦面が形成されるとともに、これら平坦面の境界上には支点部材(図示していない)が配置されている。23は収納室12の他端面に形成されたシリンダ室であり、このシリンダ室23には斜板21の薄肉部の他端面に当接しているピストン24が摺動可能に収納されている。
【0018】
25は固定ケーシング11、サイドブロック19に形成された切換え通路であり、この切換え通路25の一端は図示していない流体ポンプに、また、その他端は前記シリンダ室23にそれぞれ接続されている。この切換え通路25の途中には開閉弁26が介装され、この開閉弁26は、パイロット通路27を通じて高圧流体がパイロット圧として供給されたとき、スプール28がスプリング29を圧縮しながら移動することで、開となり、一方、パイロット通路27に対する高圧流体の供給が停止すると、スプール28がスプリング29に付勢されて移動し、閉となる。
【0019】
そして、前記開閉弁26が開閉してピストン24が突出したり引っ込んだりすると、斜板21は前記支点部材を中心として2つの傾転位置の間を傾転するが、このような斜板21の傾転によりシリンダブロック15内のプランジャ17のストロークは2段階に変更され、これにより、シリンダブロック15、駆動軸14の出力回転速度が2段階に切換えられ、幅広い回転数制御が行われる。前述した駆動軸14、シリンダブロック15、プランジャ17、シュー18、タイミングプレート20、斜板21は全体として、斜板21の傾転位置が2段に変化することにより回転数が2段に変化する前記流体モータ13を構成し、また、前述したシリンダ室23、ピストン24、切換え通路25、開閉弁26、パイロット通路27は全体として、斜板21を支点部材を中心として2つの傾転位置の間で傾転させる傾転手段30を構成する。
【0020】
33は流体モータ13の停止時に該流体モータ13に制動力を付与するネガティブブレーキであり、このネガティブブレーキ33は、シリンダブロック15の外周にスプライン結合された複数枚の内側摩擦板34と、固定ケーシング11の収納室12の内周にスプライン結合された複数枚の外側摩擦板35とを有する。そして、このネガティブブレーキ33は、ブレーキ通路36に対する高圧流体の供給が停止しているときには、スプリング37に付勢されたピストン38により外側摩擦板35が内側摩擦板34に押し付けられて、シリンダブロック15に制動力を付与し、一方、ブレーキ通路36に高圧流体が供給されてピストン38がスプリング37を圧縮しながら一側に移動すると、外側摩擦板35が内側摩擦板34から離れてシリンダブロック15の回転を許容する。
【0021】
前記固定ケーシング11は他端部に軸方向に延びるとともに周方向に等距離離れた複数本の円柱状の柱部41を有し、これらの柱部41の他端には円板状の端板42が着脱可能に取り付けられている。43は一対の軸受40を介して前記固定ケーシング11および端板42に回転可能に支持された略円筒状のハブであり、このハブ43の外周には前記土木建設機械の駆動輪が連結されている。44は前記ハブ43の他端に固定され該ハブ43の他端開口を閉止する略円板状のカバーであり、このカバー44の半径方向外端部には内歯車45が設けられ、また、このカバー44の中央には前記駆動軸14の他端が軸受46を介して回転可能に支持されている。
【0022】
47は前記駆動軸14の他端部にスプラインによって軸方向に移動可能で該駆動軸14と一体回転するよう連結された太陽歯車であり、この太陽歯車47および前記内歯車45には周方向に離れた複数の遊星歯車48が噛み合っている。そして、前記駆動軸14が回転すると、この回転は太陽歯車47から遊星歯車48に伝達されて、該遊星歯車48を該遊星歯車48の中央に挿入された伝達軸49の回りに回転(自転)させるが、このとき、該遊星歯車48に噛み合っている内歯45(ハブ43、カバー44)は後述のように低速で回転しているため、遊星歯車48は伝達軸49と共に低速で太陽歯車47の周囲を回転(公転)し、この公転が後述の第2摩擦クラッチ55に出力される。前述した内歯車45、太陽歯車47、遊星歯車48は全体として、太陽歯車47(駆動軸14)の回転を減速して伝達軸49に出力する遊星歯車型減速機50を構成する。
【0023】
53は減速機50と端板42との間に配置されるとともに、ハブ43内に充満された油に浸漬されている動力伝達機構であり、この動力伝達機構53はネガティブ型の第1摩擦クラッチ54と、第1摩擦クラッチ54の軸方向他側に並べて配置されたポジティブ型の第2摩擦クラッチ55と、これら第1、第2摩擦クラッチ54、55のいずれか一方から回転を伝達されて回転する1個の被駆動部材56とを有し、この被駆動部材 56 は前記駆動軸 14 と同軸に配置されている。また、この被駆動部材56は前記第1、第2摩擦クラッチ54、55を半径方向外側から囲む円筒部57と、第1摩擦クラッチ54の軸方向一側に配置された円板部58とから構成されている。
【0024】
ここで、前記第1摩擦クラッチ54は駆動軸14にスプライン結合された第1クラッチ本体60を有し、この第1クラッチ本体60の半径方向外端部の外周には複数枚の第1内側摩擦板61がスプライン結合されている。62は前記被駆動部材56の円筒部57の内周にスプライン結合された複数枚の第1外側摩擦板であり、これら第1外側摩擦板62は前記第1内側摩擦板61と軸方向に交互に配置されている。前述した第1内側、外側摩擦板61、62は全体として、複数枚の第1摩擦板63を構成する。
【0025】
64は第1クラッチ本体60の外側に摺動可能に嵌合され、前記第1摩擦板63に接近離隔することができる第1ピストンであり、この第1ピストン64と第1クラッチ本体60の一端部との間には、該第1ピストン64を前記第1摩擦板63に押し付けるよう付勢する大きなばね定数の第1スプリング65が介装されている。そして、前記第1ピストン64が第1摩擦板63に押し付けられると、第1内側、外側摩擦板61、62同士が高接圧下で摩擦接触するため、第1摩擦クラッチ54が接続状態となり、これにより、駆動軸14の回転がそのまま(減速されることなく)被駆動部材56に伝達され、一方、第1ピストン64が第1摩擦板63から離隔すると、第1摩擦クラッチ54は遮断状態となって駆動軸14の回転は被駆動部材56に伝達されない。前述した第1クラッチ本体60、第1摩擦板63、第1ピストン64、第1スプリング65は全体として、前記第1摩擦クラッチ54を構成する。
【0026】
一方、前記第2摩擦クラッチ55は第2クラッチ本体68を有し、この第2クラッチ本体68は、駆動軸14に回転可能に支持されるとともに、前記伝達軸49が挿入され、これにより、伝達軸49、即ち遊星歯車48の公転速度と等速で回転する。このように第2摩擦クラッチ55と前記駆動軸14との間には前記減速機50が配置されている。前記第2クラッチ本体68の半径方向外端部の外周には複数枚の第2内側摩擦板69がスプライン結合され、一方、被駆動部材56の円筒部57の内周には複数枚の第2外側摩擦板70がスプライン結合され、これら第2外側摩擦板70と前記第2内側摩擦板69とは軸方向に交互に配置されている。前述した第2内側、外側摩擦板69、70は全体として、複数枚の第2摩擦板71を構成する。
【0027】
ここで、前述のように第1、第2摩擦クラッチ54、55を駆動軸14の軸方向に並べて配置すると、これら第1、第2摩擦板63、71を同一形状とすることができるため、製作費を安価とすることができ、しかも、動力伝達機構53の伝達トルクを確保しながら外径を小径とすることができる。
【0028】
74は第2クラッチ本体68の外側に摺動可能に嵌合され、前記第2摩擦板71に接近離隔することができる第2ピストンであり、この第2ピストン74と第2クラッチ本体68との間には、該第2ピストン74を前記第2摩擦板71から離隔させるよう付勢し、前記第1スプリング65よりばね定数がかなり小さい第2スプリング75が介装されている。そして、前記第2ピストン74が第2摩擦板71に押し付けられると、第2内側、外側摩擦板69、70同士が高接圧下で摩擦接触するため、第2摩擦クラッチ55が接続状態となり、これにより、減速機50によって減速された駆動軸14の回転が被駆動部材56に伝達され、一方、第2ピストン74が第2摩擦板71から離隔すると、第2摩擦クラッチ55は遮断状態となって駆動軸14の回転は被駆動部材56に伝達されない。前述した第2クラッチ本体68、第2摩擦板71、第2ピストン74、第2スプリング75は全体として、前記第2摩擦クラッチ55を構成する。
【0029】
このように駆動軸14と第1摩擦クラッチ54とを直結する一方で、駆動軸14と第2摩擦クラッチ55との間に前記遊星歯車型減速機50を配置すると、第1、第2摩擦クラッチ54、55の切換えにより、被駆動部材56の回転速度を簡単な構造で2段階に切換えることができる。ここで、前記駆動軸14の回転速度は前述のように流体モータ13によって2段階に切換えられるため、被駆動部材56の回転速度は、簡単な構造で合計4段階に切換えられる。
【0030】
78は固定ケーシング11および駆動軸14内に形成された供給通路であり、この供給通路78の一端は図示していない切換弁を介して流体ポンプに接続され、一方、他端部は2股に分岐するとともに、駆動軸14の他端部外周に軸方向に離れて開口している。79、80は第1、第2クラッチ本体60、68内にそれぞれ形成された接続通路であり、これら接続通路79、80の一端は前記供給通路78の他端に連通し、その他端は第1、第2クラッチ本体60、68と、受圧面積がほぼ同一である第1、第2ピストン64、74との間に形成された第1、第2シリンダ室81、82に連通している。
【0031】
この結果、前記供給通路78に高圧流体が供給されると、第1ピストン64は第1摩擦板63から離隔して第1摩擦クラッチ54を遮断状態に切換えるとともに、第2ピストン74は第2摩擦板71を押し付けて第2摩擦クラッチ55を接続状態に切換え、一方、該供給通路78に対する高圧流体の供給が停止すると、第1ピストン64は第1摩擦板63を押し付けて第1摩擦クラッチ54を接続状態に切換えるとともに、第2ピストン74は第2摩擦板71から離隔して第2摩擦クラッチ55を遮断状態に切換える。前述した供給通路78、接続通路79、80は全体として、第1ピストン64に第1摩擦板63から離隔する方向の流体力を、一方、第2ピストン74に第2摩擦板71に接近する方向の流体力を同時に付与することができる流体通路83を構成する。
【0032】
前記ハブ43の内部で流体モータ13と動力伝達機構53との間には、被駆動部材56の回転を減速してハブ43に出力する偏心揺動型の減速機86が配置され、この結果、前記動力伝達機構53の第1、第2摩擦クラッチ54、55は該減速機86と前記遊星歯車型の減速機50との間に配置されることになる。そして、このような配置関係とすると、駆動力が軸方向に分散され、全体の構造を簡単なものとすることができる。
【0033】
前記減速機86はハブ43の一端部内周に設けられた多数の内歯ピン87を有し、これらの内歯ピン87は軸方向に延びるとともに、周方向に等距離離れて配置されている。88は前記ハブ43内に収納された円板状をしている2個のピニオンであり、各ピニオン88の外周には前記内歯ピン87に噛み合うとともに該内歯ピン87の数より若干少ない歯数の外歯89が形成されている。また、各ピニオン88には複数の貫通した遊嵌孔90および軸孔91が形成され、前記遊嵌孔90には固定ケーシング11の柱部41が遊嵌されている。92は前記駆動軸14に平行に延びる複数のクランク軸であり、これらクランク軸92は固定ケーシング11および端板42に回転可能に支持されている。各クランク軸92はクランク軸92の中心軸から逆方向に偏心した2個の偏心部93を有し、これら偏心部93はピニオン88の軸孔91内にそれぞれ挿入されている。
【0034】
95は端板42より他側の駆動軸14の外側に回転可能に嵌合された外歯車であり、この外歯車95の他端部には被駆動部材56の円板部58の半径方向内端が連結され、一方、この外歯車95の一端部には各クランク軸92の他端に固定された外歯車96が噛み合っている。この結果、被駆動部材56の回転が外歯車95、96を介してクランク軸92に伝達され、該クランク軸92が中心軸回りに回転すると、これらクランク軸92の偏心部93はピニオン88の軸孔91内において偏心回転してピニオン88を偏心公転運動させる。このとき、外歯89の数が内歯ピン87の数より若干少ないため、ハブ43はピニオン88の偏心公転運動により大幅に減速されて低速で回転する。前述した内歯ピン87、ピニオン88、クランク軸92、外歯車95、96は全体として、被駆動部材56に連結され、該被駆動部材56の回転を偏心回転するピニオン88により高比で減速してハブ43に出力する前記偏心揺動型の減速機86を構成する。
【0035】
98は第1摩擦クラッチ54の第1クラッチ本体60に摺動可能に挿入され駆動軸14に平行に延びる第1ロッドであり、この第1ロッド98の一端は第1ピストン64の他端面に当接することができる。99は第2摩擦クラッチ55の第2クラッチ本体68に摺動可能に挿入され前記第1ロッド98に平行に延びる第2ロッドであり、この第2ロッド99の一端と前記第1ロッド98の他端との間には、ニードル軸受 100が介装された一対の中間リング 101が設けられている。 102はカバー44に形成された貫通しているねじ孔である。
【0036】
そして、このねじ孔 102にねじ部材をねじ込み、軸受46、太陽歯車47、第1、第2ロッド98、99、中間リング 101を一体的に一側に移動させることで、第1ピストン64を第1スプリング65に対抗して第1摩擦板63から離隔するよう一側に移動させると、接続状態となっていたネガティブ型の第1摩擦クラッチ54は遮断状態に切換えられ、被駆動部材56よりハブ43側の駆動系統を駆動軸14から切り離してフリー状態とすることができる。前述した第1、第2ロッド98、99、中間リング 101、ねじ孔 102は全体として、エンジン、油圧系統等の故障によって土木建設機械を牽引する必要があるときなどに、ネガティブ型の第1摩擦クラッチ54を遮断状態に切換えて駆動系統を途中で切断する切換え手段 103を構成する。
【0037】
次に、この発明の第1実施形態の作用について説明する。
今、一方の給排通路を通じて高圧流体がいずれかのシリンダ穴16に供給され、該シリンダ穴16内のプランジャ17を斜板21に向かって突出させて傾斜面22に押し付けているとする。このとき、プランジャ17の先端はシュー18を介して傾斜面22に摺接しているので、前記押圧力の周方向分力がプランジャ17に作用し、これにより、プランジャ17、シュー18は傾斜面22上を摺動し、プランジャ17、シリンダブロック15、駆動軸14を一体的に駆動回転させる。また、このとき、ブレーキ通路36に供給された高圧流体はピストン38をスプリング37に対抗して外側摩擦板35から離隔するよう一側に移動させ、駆動軸14をネガティブブレーキ33の制動から解放している。
【0038】
ここで、前記ハブ43を最高回転数で回転させたい場合には、流体モータ13のシリンダ穴16への高圧流体の供給量を最大とするとともに、斜板21を傾転角が小となる方向に傾転させてプランジャ17のストロークを短くし、これにより、前記最大量の高圧流体供給と相まってシリンダブロック15、駆動軸14の回転数を最高とする。ここで、前述のように斜板21の傾転角を小となる方向に傾転させるには、開閉弁26をパイロット通路27を通じて供給された高圧流体により開とすることにより、切換え通路25内の高圧流体をシリンダ室23に導いてピストン24を一側に突出させる。
【0039】
このとき、流体通路83には高圧流体が供給されておらず、第1、第2ピストン64、74のいずれにも流体力は付与されていないため、第1ピストン64は第1スプリング65の付勢力により第1摩擦板63を押し付けられて第1摩擦クラッチ54を接続状態とし、一方、第2ピストン74は第2スプリング75の付勢力により第2摩擦板71から離隔させられ、第2摩擦クラッチ55を遮断状態としている。この結果、前記駆動軸14の回転は第1摩擦クラッチ54を介して減速されることなく被駆動部材56および減速機86の外歯車95に伝達される。その後、この外歯車95の回転は減速機86により高比で減速されてハブ43に出力され、該ハブ43を最高回転数で回転させる。
【0040】
次に、前記ハブ43を最低回転数で回転させたい場合には、流体モータ13のシリンダ穴16へ最小量の高圧流体を供給するとともに、斜板21を傾転角が大となる方向に傾転させてプランジャ17のストロークを長くし、前記最小量の高圧流体供給と相まってシリンダブロック15、駆動軸14の回転数を最低とする。ここで、斜板21の傾転角を大となる方向に傾転させるには、開閉弁26を閉に切換えてシリンダ室23に対する高圧流体の供給を停止し、斜板21へのプランジャ17の押圧力によりピストン24をシリンダ室23内に引っ込める。
【0041】
これと同時に、流体通路83を通じて高圧流体を第1、第2シリンダ室81、82に同時に供給する。この結果、第1ピストン64には前記高圧流体により第1スプリング65の付勢力と逆方向の流体力が付与されるが、この流体力は前記流体の圧力が上昇するに従い増大するため、前記第1スプリング65から第1ピストン64を介して第1摩擦板63に付与されている摩擦力は、この流体力により相殺されて減少し、第1摩擦クラッチ54を通じて伝達される回転トルクが小さくなる。
【0042】
このとき、第2ピストン74にも前記流体によって第2スプリング75の付勢力と逆方向の流体力が付与されるが、この第2スプリング75のばね定数は前述のように第1スプリング65のばね定数より小さい。このため、前記相殺された第1スプリング65の付勢力が零となる(第1摩擦クラッチ54が遮断状態に切換わる)以前に、前記第2ピストン74に付与される流体力が第2スプリング75の付勢力を上回るようになり、この結果、第2ピストン74が第2摩擦板71に押付けられるようになる。
【0043】
これにより、第2摩擦クラッチ55は、前記第1摩擦クラッチ54が摩擦抵抗によって回転トルクを伝達している最中に、遮断状態から接続状態に切換わって回転トルクの伝達を開始し、第1、第2摩擦クラッチ54、55の双方を通じて回転トルクが伝達されるようになる。このとき、駆動軸14の回転は減速機50により高比で減速された後、第2摩擦クラッチ55を介しても被駆動部材56に伝達されるが、その伝達トルクは前記高圧流体の圧力上昇に追従して大きくなる。なお、このとき駆動軸14から被駆動部材56に伝達される回転トルクは第1、第2摩擦クラッチ54、55のそれぞれの回転トルクの合計値である。
【0044】
その後、流体通路83に供給される高圧流体の圧力が上昇して、第1ピストン64に付与される流体力が第1スプリング65の付勢力を上回るようになると、第1ピストン64は第1摩擦板63から離隔し、第1摩擦クラッチ54は遮断状態に切換わる。この結果、回転トルクの伝達は第1、第2摩擦クラッチ54、55の双方を通じて行われた状態から第2摩擦クラッチ55のみを通じて行われるようになる。ここで、第2摩擦クラッチ55と駆動軸14との間には遊星歯車型の減速機50が介装されているので、ハブ43は最低回転数で回転する。
【0045】
一方、前述とは逆に、流体通路83に対する流体の供給を停止すると、前述の作用と逆の順序によって、接続状態となっているのが第2摩擦クラッチ55のみから第1、第2摩擦クラッチ54、55双方に、その後、第1摩擦クラッチ54のみへと変化する。
【0046】
このように第1、第2摩擦クラッチ54、55の切換え時、切換えの中間段階において第1、第2摩擦クラッチ54、55が共に接続状態となるため、被駆動部材56が駆動軸14から切り離されてフリー回転することはなく、この結果、土木建設機械等が坂道でずり落ちるような事態が阻止され、安全性が向上する。また、前述のように斜板21の傾転角の変更および第1、第2摩擦クラッチ54、55の切換えによって減速範囲をかなり広くすることができるので、本装置は広範囲の速度制御が必要なアスファルトフィニッシャ等に好適である。
【0047】
なお、前述の実施形態においては、第2摩擦クラッチ55と駆動軸14との間に遊星歯車型減速機50を配置したが、この発明においては、第1摩擦クラッチと駆動軸との間に遊星歯車型減速機を配置するようにしてもよい。
【0048】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明によれば、第1、第2摩擦クラッチの切換え時における被駆動部材のフリー回転を阻止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明を走行駆動装置に適用した一実施形態を示す正面断面図である。
【図2】動力伝達機構近傍の正面断面図である。
【符号の説明】
13…流体モータ 14…駆動軸
50…遊星歯車型減速機 53…動力伝達機構
54…第1摩擦クラッチ 55…第2摩擦クラッチ
56…被駆動部材 63…第1摩擦板
64…第1ピストン 65…第1スプリング
71…第2摩擦板 74…第2ピストン
75…第2スプリング 83…流体通路
86…偏心揺動型減速機
Claims (1)
- 駆動軸の駆動回転を、ネガティブ型の第1摩擦クラッチを介して1個の被駆動部材に伝達し、または、ポジティブ型の第2摩擦クラッチを介して前記1個の被駆動部材に伝達し、該被駆動部材を回転させるようにした動力伝達機構において、
前記第1摩擦クラッチを、複数枚の第1摩擦板と、第1摩擦板に接近離隔可能で、第1摩擦板に押し付けられたとき第1摩擦クラッチを接続状態とする第1ピストンと、第1ピストンを第1摩擦板に押し付けるよう付勢する第1スプリングとから構成するとともに、前記第2摩擦クラッチを、複数枚の第2摩擦板と、第2摩擦板に接近離隔可能で、第2摩擦板に押し付けられたとき第2摩擦クラッチを接続状態とする第2ピストンと、第2ピストンを第2摩擦板から離隔させるよう付勢し、前記第1スプリングよりばね定数の小さな第2スプリングとから構成し、さらに、前記第1ピストンに第1摩擦板から離隔する方向の流体力を、一方、第2ピストンに第2摩擦板に接近する方向の流体力を同時に付与することができる流体通路を設け、かつ、前記被駆動部材を、円板部と、駆動軸の軸方向に並べて配置された第1、第2摩擦クラッチおよび駆動軸を半径方向外側から囲む円筒部とから構成するとともに、駆動軸と同軸に配置し、さらに、前記駆動軸と第1または第2摩擦クラッチとの間に遊星歯車型減速機を配置して、被駆動部材の回転を2段階に切換えられるようにする一方、前記被駆動部材に、該被駆動部材の回転を減速する偏心揺動型減速機を連結するとともに、該偏心揺動型減速機と前記遊星歯車型減速機との間に前記第1、第2摩擦クラッチを配置するようにしたことを特徴とする動力伝達機構。
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