JP3876602B2 - 高分子ゲル組成物およびその製造方法、並びにそれを用いた光学素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、刺激の付与により体積変化する高分子ゲルを含有する高分子ゲル組成物およびその製造方法、並びにそれを用いた高分子ゲルフィルム、光学素子に関する。本発明の高分子ゲル組成物は、表示素子、記録素子、調光素子やセンサーなどの光学素子の材料として有用なものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、pH変化、イオン濃度変化、化学物質の吸脱着、溶媒の添加,あるいは、光、熱、電流もしくは電界の付与等、刺激の付与によって、体積変化(膨潤、収縮)を生ずる高分子ゲル材料(以下、刺激応答性高分子ゲルという)が知られており、その機能材料としての応用が期待されている。これらの材料は、例えば、「機能性高分子ゲル」(シーエムシー出版)に総説として記載されている。この刺激応答性高分子ゲルの用途として、ドラッグデリバリーシステムなどの薬の担持体、医療材料、インクの添加剤、機能膜、人工筋肉、表示素子、記録素子、アクチュエータ、ポンプなどが検討されている。
【0003】
一般に、水や電解質等の液体中に存在する刺激応答性高分子ゲルに刺激を付与することにより、該刺激応答性高分子ゲルは相転移等を起こし、ゲル内部への液体の吸収、あるいはゲル外部への液体の排出によって、前記刺激応答性高分子ゲルの体積、大きさ、形状を変化させることができる。
【0004】
刺激応答性高分子ゲルの材料としては、ポリアクリル酸系、ポリビニルスルホン酸系、ポリアクリルアミドアルキルスルホン酸系、ポリマレイン酸系、ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸複合系の各塩などのイオン解離基を有する高分子化合物;セルロース系、ポリアクリルアミド系、ポリN−アルキル置換アクリルアミド系、ポリビニルメチルエーテル系などの高分子化合物;あるいは光などによってイオン解離する基を有する高分子化合物の架橋体;等が知られている。また、刺激応答性高分子ゲルの形態としては、粒子、繊維、立方体などの成形体が知られている。
【0005】
これら従来知られている刺激応答性高分子ゲルの課題の一つは、体積変化に要する応答速度が遅く、数分から数時間かかってしまうことである。刺激応答性高分子ゲルの応答速度はその大きさに依存し、大きさが小さくなるにつれて高速化することが知られているため、刺激応答性高分子ゲルを微粒子にして高速化を狙う検討がされているが、刺激応答性高分子ゲルを微粒子にして用いると、凝集が生じやすく利用が困難であること、凝集によって結局応答速度が低下すること、などの問題がある。さらに、刺激応答性高分子ゲルの構造を多孔質化して液体の出入りを容易にし、高速化を狙う検討もされているが、高速化には限界があり、用途が限られていた。
【0006】
さらに、刺激応答性高分子ゲルの他の課題は、その作動原理から液体中で使用しなければはならず、その利用分野が制限されることである。例えば、表示素子や記録素子等に利用する場合、2枚の支持基板間に刺激応答性高分子ゲルと液体とを封入しなければならない(特開昭61−149926号公報、特公平7−95172号公報、特開平5−173190号公報など)。これらのように素子として利用する場合、優れた調光特性を得るためには、基板上に刺激応答性高分子ゲルを固定化することが望ましいが、このような素子構成では、その安定性に問題が生じ易く、またコストが高くなるなどの問題があった。
【0007】
これらの問題を改善するために、特開平11−228850号公報において、刺激応答性高分子ゲルおよび液体を含む領域と、その領域を覆う隔離部材とを有する高分子ゲル組成物を用いることにより、高分子ゲル粒子同士の凝集を防ぎ簡便かつ安定に動作させる提案がなされている。しかし、当該提案においては、刺激応答性高分子ゲルおよび液体を含む領域と、隔離部材との屈折率の差が出るため白濁を生じ、透明性が悪くなる場合があった。また、前記領域外部からの物質の出入り(イオン濃度変化や溶媒組成変化、界面活性剤の添加など)による刺激応答性高分子ゲルへの刺激の付与が困難であることから、電気駆動型素子等への用途展開には、制約があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
従って本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、低コスト、かつ透明性に優れた高分子ゲル組成物、およびその製造方法、並びにそれを用いた光学素子を提供することにある。また、本発明の他の目的は、外部の物質の濃度変化や物質の出入りによっても応答し得る高分子ゲル組成物、およびその製造方法、並びにそれを用いた光学素子を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、刺激応答性高分子ゲルと、それを覆う保持部材と、を有し、かつ、保持部材が前記液体、すなわち刺激応答性高分子ゲルが吸脱し得る液体を含有してなる高分子ゲル組成物によれば、上記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成させた。すなわち本発明は、
<1> 液体を含有し、かつ刺激の付与により前記液体を吸収・放出して体積変化を生ずる高分子ゲルと、該高分子ゲルを覆う保持部材と、を有し、該保持部材が前記液体を含有していることを特徴とする高分子ゲル組成物である。
【0010】
<2> 保持部材が、ネットワークポリマーであることを特徴とする<1>に記載の高分子ゲル組成物である。
<3> 保持部材が、高分子ゲルであることを特徴とする<1>に記載の高分子ゲル組成物である。
【0011】
<4> 保持部材が、高分子溶液であることを特徴とする<1>に記載の高分子ゲル組成物である。
<5> 保持部材が、物質透過性であることを特徴とする<1>〜<4>のいずれか1に記載の高分子ゲル組成物である。
【0012】
<6> 刺激の付与により液体を吸収・放出して体積変化を生ずる高分子ゲルが、調光用材料を含有することを特徴とする<1>〜<5>のいずれか1に記載の高分子ゲル組成物である。
<7> <1>〜<6>のいずれか1に記載の高分子ゲル組成物からなることを特徴とする光学素子である。
【0013】
<8> フィルム状もしくは板状に成形された、<1>〜<6>のいずれか1に記載の高分子ゲル組成物からなることを特徴とする光学素子である。
<9> 基材表面に、<1>〜<6>のいずれか1に記載の高分子ゲル組成物が形成されてなることを特徴とする光学素子である。
【0014】
<10> さらに、高分子ゲル組成物を被包するように蒸発防止部材が形成されてなることを特徴とする<7>〜<9>のいずれか1に記載の光学素子である。
<11> さらに、高分子ゲル組成物に刺激を付与し得る刺激付与素子が、前記高分子ゲル組成物に接触して設けられていることを特徴とする<10>に記載の光学素子である。
【0015】
<12> <1>〜<6>のいずれか1に記載の高分子ゲル組成物の製造方法であって、
刺激の付与により液体を吸収・放出して体積変化を生ずる高分子ゲルを、保持部材形成用材料の溶液中に分散させる分散工程と、
保持部材形成用材料を固化させる固化工程と、
を含むことを特徴とする高分子ゲル組成物の製造方法である。
【0016】
<13> <1>〜<6>のいずれか1に記載の高分子ゲル組成物の製造方法であって、
刺激の付与により液体を吸収・放出して体積変化を生ずる高分子ゲルと前記液体との膨潤混合物を、それと相溶しない他の液体を溶媒とする保持部材形成用材料の溶液中に分散させる分散工程と、
保持部材形成用材料を固化させる固化工程と、
保持部材中の前記他の液体を、刺激の付与により液体を吸収・放出して体積変化を生ずる高分子ゲルが吸脱し得る液体へと置換する置換工程と、
を含むことを特徴とする高分子ゲル組成物の製造方法である。
【0017】
本発明によれば、刺激応答性高分子ゲルを保持部材によって保持させ、保持部材中に刺激応答性高分子ゲルが吸脱し得る液体を含有せしめることによって、刺激応答性高分子ゲルおよび保持部材の屈折率を近づけることができ、光散乱が抑制され透明性が向上する。また、本発明に好ましい態様である保持部材が物質透過性であることによって、イオン濃度・溶媒組成・物質濃度などの外部の環境変化に応じて、光学特性の変化する高分子ゲル組成物を作製することができ、光学素子としての用途範囲を大きく拡大することができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
<高分子ゲル組成物>
本発明の高分子ゲル組成物は、刺激の付与により液体を吸収・放出して体積変化を生ずる高分子ゲル(刺激応答性高分子ゲル、以下、単に「高分子ゲル」という場合がある。)と、該高分子ゲルを覆う保持部材と、を有し、該保持部材が前記液体を含有していることを特徴とするものである。
【0019】
(刺激応答性高分子ゲル)
本発明において使用することができる高分子ゲルは、pH変化、イオン濃度変化、化学物質の吸脱着、溶媒の添加、あるいは光、熱、電流もしくは電界の付与等、刺激の付与によって、液体を吸収・放出して体積変化(膨潤・収縮)するものである。本発明において、高分子ゲルの体積変化は一方的なものでも可逆的なものであってもよい。以下に、本発明において使用することができる高分子ゲルの具体例を示す。
【0020】
pH変化によって刺激応答する高分子ゲルとしては、電解質系高分子ゲルが好ましく、その例としては、ポリ(メタ)アクリル酸の架橋物やその塩;(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどとの共重合体の架橋物やその塩;ポリマレイン酸の架橋物やその塩;マレイン酸と(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどとの共重合体の架橋物やその塩;ポリビニルスルホン酸の架橋物やビニルスルホン酸と(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどとの共重合体の架橋物;ポリビニルベンゼンスルホン酸の架橋物やその塩;ビニルベンゼンスルホン酸と(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどとの共重合体の架橋物やその塩;ポリアクリルアミドアルキルスルホン酸の架橋物やその塩;アクリルアミドアルキルスルホン酸と(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどとの共重合体の架橋物やその塩;ポリジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドの架橋物や4級化物や塩;ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどとの共重合体の架橋物やその4級化物や塩;ポリジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドとポリビニルアルコールとの複合体の架橋物やその4級化物や塩;ポリビニルアルコールとポリ(メタ)アクリル酸との複合体の架橋物やその塩;カルボキシアルキルセルロース塩の架橋物、ポリ(メタ)アクリロニトリルの架橋物の部分加水分解物やその塩;などが挙げられる。
【0021】
これらの中でも、ポリ(メタ)アクリル酸系高分子材料は好ましく使用される。尚、pH変化は、液体の電気分解や添加される化合物の酸化還元反応などの電極反応、あるいは、導電性高分子の酸化還元反応、さらには、pHを変化させる化学物質の添加によるものであることが好ましい。
【0022】
イオン濃度変化によって刺激応答する高分子ゲルとしては、前記したpH変化による刺激応答性高分子ゲルと同様なイオン性高分子材料が使用できる。また、イオン濃度変化としては、塩等の添加、イオン交換性樹脂の使用などによるものが好ましい。
【0023】
化学物質の吸脱着によって刺激応答する高分子ゲルとしては、強イオン性高分子ゲルが好ましく、その例として、ポリビニルスルホン酸の架橋物や、ビニルスルホン酸と、(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどと、の共重合体の架橋物;ポリビニルベンゼンスルホン酸の架橋物や、ビニルベンゼンスルホン酸と、(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどと、の共重合体の架橋物;ポリ(メタ)アクリルアミドアルキルスルホン酸の架橋物や、(メタ)アクリルアミドアルキルスルホン酸と、(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどと、の共重合体の架橋物;などが挙げられる。
【0024】
特に、ポリアクリルアミドアルキルスルホン酸系高分子が好ましく使用される。この場合、化学物質としては、界面活性剤、例えば、n−ドデシルピリジニウムクロライドなどのアルキルピリジン塩、アルキルアンモニウム塩、フェニルアンモニウム塩、テトラフェニルホスフォニウムクロライドなどのホスホニウム塩などのカチオン性界面活性剤を使用することができる。
【0025】
溶媒の添加によって刺激応答する高分子ゲルとしては、一般にほとんどの高分子ゲルが挙げられ、その高分子ゲルの良溶媒と貧溶媒とを利用することで膨潤、収縮を引き起こすことが可能である。
【0026】
電流もしくは電界の付与によって、刺激応答する高分子ゲルとしては、カチオン性高分子ゲルと電子受容性化合物とのCT錯体(電荷移動錯体)が好ましく、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどアミノ置換(メタ)アクリルアミドの架橋物;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートやジメチルアミノプロピルアクリレートなどの(メタ)アクリル酸アミノ置換アルキルエステルの架橋物;ポリスチレンの架橋物;ポリビニルピリジンの架橋物;ポリビニルカルバゾールの架橋物;ポリジメチルアミノスチレンの架橋物;などが挙げられ、特に、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレートなどのジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート系高分子は好ましい。これらは、ベンゾキノン、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、テトラシアノエチレン、クロラニル、トリニトロベンゼン、無水マレイン酸やヨウ素などの電子受容性化合物とを組み合わせて使用することができる。
【0027】
光の付与によって刺激応答する高分子ゲルとしては、トリアリールメタン誘導体やスピロベンゾピラン誘導体などの光によってイオン解離する基を有する親水性高分子化合物の架橋物が好ましく、その例として、ビニル置換トリアリールメタンロイコ誘導体と(メタ)アクリルアミドとの共重合体の架橋物などが挙げられる。
【0028】
熱の付与によって刺激応答する高分子ゲルとしては、LCST(下限臨界共融温度)をもつ高分子の架橋体や、互いに水素結合する2成分の高分子ゲルのIPN(相互侵入網目構造)体などが好ましい。前者は、高温において収縮し、後者は逆に高温で膨潤する特性をもっている。
【0029】
LCSTをもつ高分子の架橋体の具体的な化合物例としては、ポリN−イソプロピルアクリルアミドなどのポリ〔N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド〕の架橋体;N−アルキル置換(メタ)アクリルアミドと、(メタ)アクリル酸およびその塩、(メタ)アクリルアミド、または(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどと、の2成分以上の共重合体の架橋体;ポリビニルメチルエーテルの架橋体;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのアルキル置換セルロース誘導体の架橋体;などが挙げられる。これらの中でも、ポリN−イソプロピル(メタ)アクリルアミドが特に好ましい。
【0030】
一方、互いに水素結合する2成分の高分子ゲルのIPN体の具体的な化合物例としては、ポリ(メタ)アクリルアミドの架橋体と、ポリ(メタ)アクリル酸の架橋体と、からなるIPN体およびその部分中和体(アクリル酸単位を部分的に塩化したもの);ポリ(メタ)アクリルアミドを主成分とする共重合体の架橋体と、ポリ(メタ)アクリル酸の架橋体と、からなるIPN体およびその部分中和体;などが挙げられる。より好ましくは、ポリ〔N−アルキル置換〕アクリルアミドの架橋体、または、ポリ(メタ)アクリルアミドの架橋体と、ポリ(メタ)アクリル酸の架橋体と、のIPN体およびその部分中和体などが挙げられる。
【0031】
本発明において、刺激応答性高分子ゲルの体積変化量は特に限定されないが、高いほど好ましく、膨潤時および収縮時の体積比(膨潤時/収縮時)が5以上、特に10以上のものが好ましい。また、本発明において、刺激応答性高分子ゲルの体積変化は、一方的であるものでも可逆的であるものでもよいが、調光素子や表示素子などに利用する場合は、可逆的なものであることが好ましい。
【0032】
なお、本発明では、刺激応答性高分子ゲルの形態は特に限定されないが、刺激応答特性を考慮すると、粒子の形態であることが特に好ましい。粒子の形態である刺激応答性高分子ゲルを用いる場合、個々の高分子ゲルの形状についても特に制限はないが、球体、楕円体、多面体、多孔質体、繊維状、星状、針状、中空状などのものを使用することができる。
【0033】
本発明において用いられる刺激応答性高分子ゲルは、その体積平均粒子径が乾燥状態で0.01μm〜5mmの範囲、特に0.01μm〜1mmの範囲の粒子であることが好ましい。体積平均粒子径が0.01μm未満となると、光学的な特性を得ることができなくなり、また、凝集等を起こしやすくなり、かつ、使用する場合にその扱いが困難となってくる。一方、体積平均粒子径が5mmを超えると、応答速度が遅くなってしまう問題が生じる場合がある。
【0034】
これらの高分子ゲルの粒子は、高分子ゲルを物理的粉砕法等で粒子化する方法、架橋前の高分子を化学的粉砕法等によって粒子化した後に架橋して高分子ゲル粒子を得る方法、あるいは乳化重合法、懸濁重合法、分散重合法などの粒子化重合法等、一般的な粒子化方法によって製造することができる。また、架橋前の高分子をノズル口金等によって押し出して繊維化し、これを架橋した後に粉砕する方法、あるいは前記繊維を粉砕して粒子化した後に架橋する方法によって高分子ゲル粒子を製造することも可能である。
【0035】
尚、本発明の高分子ゲル組成物を表示素子や記録素子もしくは調光素子に用いる場合には、前記高分子ゲルに、顔料や染料、あるいは光散乱材料などの調光用材料を添加することが好ましい。さらに、可視光以外の光を吸収や散乱する材料、つまり、赤外線吸収色素、赤外線吸収または散乱顔料や、紫外線吸収色素、紫外線吸収または散乱顔料等も、本発明における刺激応答性高分子ゲルに含有させる調光用材料として好ましく適用することができる。
【0036】
このような調光用材料の添加量としては、高分子ゲルの乾燥時または収縮時に、飽和吸収濃度あるいは飽和散乱濃度以上となる量を添加することが好ましい。高分子ゲルに、このような濃度の調光用材料を添加することによって、高分子ゲルの膨潤・収縮により光学濃度または散乱を変化させることができる。飽和吸収濃度あるいは飽和散乱濃度以上となる調光用材料の濃度は、一般に3重量%以上であり、5重量%〜95重量%の範囲を高分子ゲルに添加することが好ましく、より好ましくは5重量%〜80重量%の範囲である。5重量%未満となると、調光用材料を添加した効果が十分に得られず、95重量%を超えると、高分子ゲルの特性が低下してしまう恐れがある。
【0037】
調光用材料としては、各種の染料や顔料、光散乱材料が挙げられ、無機系顔料、有機系顔料、塩基性染料、酸性染料、分散染料、反応性染料などが好ましい。特に顔料はその添加による高分子ゲルの刺激応答性に与える影響が比較的小さいので好ましい。
【0038】
一般的な染料で好適な具体例としては、例えば、黒色のニグロシン系染料や赤、緑、青、シアン、マゼンタ、イエローなどのカラー染料であるアゾ染料、アントラキノン系染料、インジゴ系染料、フタロシアニン系染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、キノリン染料、ニトロ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、ナフタルイミド染料、ベリノン染料などが挙げられ、特に光吸収係数が高いものが望ましい。
【0039】
また、一般的な顔料の具体例としては、黒色顔料である各種カーボンブラック(チャネルブラック、ファーネスブラック等)やチタンブラック、白色顔料である酸化チタンなどの金属酸化物やカラー顔料である。カラー顔料としては例えば、ベンジジン系のイエロー顔料、ローダミン系のマゼンタ顔料、フタロシアニン系のシアン顔料、あるいはこの他にもアントラキノン系、アゾ系、アゾ金属錯体、フタロシアニン系、キナクリドン系、ペリレン系、インジゴ系、イソインドリノン系、キナクリドン系、アリルアミド系などの各種カラー顔料を挙げることができる。
【0040】
顔料のより具体的な例として、酸化亜鉛、塩基性炭酸鉛、塩基性硫酸鉛、硫酸鉛、リトボン、白雲母、硫化亜鉛、酸化チタン、酸化アンチモン、鉛白、酸化ジルコニウム、アルミナ、マイカナイト、マイカレックス、石英、炭酸カルシウム、石膏、クレー、シリカ、ケイ酸、珪素土、タルク、塩基性炭酸マグネシウム、アルミナホワイト、グロスホワイト、サチン白等の無機酸化物等の白色顔料や、亜鉛、アルメル、アンチモン、アルミニウム、アルミニウム合金、イリジウム、インジウム、オスミウム、クロム、クロメル、コバルト、ジルコニウム、ステンレス鋼、金、銀、洋銀、銅、青銅、すず、タングステン、タングステン鋼、鉄、鉛、ニッケル、ニッケル合金、ニッケリン、白金、白金ロジウム、タンタル、ジュラルミン、ニクロム、チタン、クルップ・オーステナイト鋼、コンスタンタン、真鍮、白金イリジウム、パラジウム、パラジウム合金、モリブデン、モリブデン鋼、マンガン、マンガン合金、ロジウム、ロジウム金などの金属材料や、フェノール樹脂、フラン樹脂、キシレン−ホルムアルデヒド樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アニリン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ−p−キシリレン、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、フッ素系プラスチック、ポリアクリロニトリル、ポリビニルエーテル、ポリビニルケトン、ポリエーテル、ポリカーボネート、熱可塑性ポリエステル、ポリアミド、ジエン系プラスチック、ポリウレタン系プラスチック、ポリフェニレン、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、芳香族ヘテロ環ポリマー、シリコーン、天然ゴム系プラスチック、セルロース系プラスチック等の高分子材料で構成された顔料等が挙げられる。
【0041】
また、カラー顔料であるイエロー系顔料のより具体的な例としては、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、アリルアミド化合物に代表される化合物等が用いられる。より詳細には、C.I.ピグメントイエロー12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、109、110、111、128、129、147、168等が好適に用いられる。
【0042】
マゼンタ系顔料のより具体的な例としては、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、ペリレン化合物等が用いられる。より詳細には、C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、23、48;2、48;3、48;4、57;1、81;1、144、146、166、169、177、184、185、202、206、220、221、254等が特に好ましい。
【0043】
シアン系顔料のより具体的な例としては、銅フタロシアニン化合物及びその誘導体、アントラキノン化合物、塩基染料レーキ化合物等が利用できる。具体的には、例えば顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、7、15、15:1、15:2、15;3、15:4、60、62、66等が特に好適に利用できる。
【0044】
使用する顔料の粒子径としては、1次粒子の平均粒子径で0.001μm〜1μmのものが好ましく、特に0.01μm〜0.5μmのものが好ましい。これは粒子径が0.001μm未満では高分子ゲルからの流出が起こりやすく、また、0.5μmを超えると発色特性や光散乱特性が悪くなる恐れが生じるためである。
【0045】
光散乱材料の好適な無機材料の具体例として、酸化亜鉛、塩基性炭酸鉛、塩基性硫酸鉛、硫酸鉛、リトボン、白雲母、硫化亜鉛、酸化チタン、酸化アンチモン、鉛白、酸化ジルコニウム、アルミナ、マイカナイト、マイカレックス、石英、炭酸カルシウム、石膏、クレー、シリカ、ケイ酸、珪素土、タルク、塩基性炭酸マグネシウム、アルミナホワイト、グロスホワイト、サチン白等の無機酸化物や、亜鉛、アルメル、アンチモン、アルミニウム、アルミニウム合金、イリジウム、インジウム、オスミウム、クロム、クロメル、コバルト、ジルコニウム、ステンレス鋼、金、銀、洋銀、銅、青銅、すず、タングステン、タングステン鋼、鉄、鉛、ニッケル、ニッケル合金、ニッケリン、白金、白金ロジウム、タンタル、ジュラルミン、ニクロム、チタン、クルップ・オーステナイト鋼、コンスタンタン、真鍮、白金イリジウム、パラジウム、パラジウム合金、モリブデン、モリブデン鋼、マンガン、マンガン合金、ロジウム、ロジウム金などの金属材料、ITO(インジウム・スズ酸化物)等の無機導電性材料などが挙げられる。
【0046】
また、光散乱材料の好適な有機材料の具体例として、フェノール樹脂、フラン樹脂、キシレン−ホルムアルデヒド樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アニリン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ−p−キシリレン、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、フッ素系プラスチック、ポリアクリロニトリル、ポリビニルエーテル、ポリビニルケトン、ポリエーテル、ポリカーボネート、熱可塑性ポリエステル、ポリアミド、ジエン系プラスチック、ポリウレタン系プラスチック、ポリフェニレン、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、芳香族ヘテロ環ポリマー、シリコーン、天然ゴム系プラスチック、セルロース系プラスチック等やこれら2種類以上の高分子材料の混合材料(ポリマーブレンド)などの高分子材料が挙げられる。
【0047】
これらの調光用材料として、分子内に酸基、水酸基、アミノ基、チオール基、ハロゲン、ニトロ基、カルボニル基などの極性基を有し、高分子ゲル内において調光用材料濃度が高い場合に凝集体を形成しやすい特性のものも好ましく使用することができる。このような調光用材料の例としては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基を有するフタロシアニン系顔料、アゾ系顔料等を挙げることができる。さらに、高分子ゲルに共有結合するための付加反応性基や重合性基を有する調光用材料や、高分子ゲルとイオン結合などの相互作用する基を有する調光用材料などの各種の化学修飾した調光用材料を用いることも好ましい。
【0048】
尚、上記の調光用材料は、高分子ゲル(あるいはその液体による膨潤体)内部に存在し、膨潤・収縮によっても高分子ゲルの外部に移動しないものであることが好ましい。このためには、前記したように、高分子ゲルに調光用材料を共有結合する方法、イオン結合する方法、高分子ゲルの網目内部に物理的に保持する方法などによって調光用材料を添加することが好ましい。特に調光用材料として顔料を用いる場合は、高分子ゲルの架橋密度を適宜選択し、顔料の粒子径よりも小さい網目を形成させることにより、顔料を安定に保持することができる。
【0049】
このような調光用材料を含有する高分子ゲルは、架橋前の高分子中に調光用材料を均一に分散、混合した後に架橋する方法や、重合時に、高分子前駆体モノマー組成物に調光用材料や重合性基を有する調光用材料を添加して重合する方法によって製造することができる。調光用材料は、高分子ゲル中に均一に分散されていることが好ましく、特に、高分子ゲルへの分散に際して、高分子ゲル製造段階において、機械的混練法、攪拌法を用いて、または界面活性剤や両親媒性高分子等の分散剤などを利用して均一に分散させることが望ましい。尚、調光用材料を含有する高分子ゲルの粒子は、前記した粒子化方法と同様の方法により製造することができる。
【0050】
本発明の高分子ゲル組成物に含有される、刺激応答性高分子ゲルが吸脱し得る液体としては、水、電解質水溶液、アルコール、ケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホオキシド、アセトニトリル、プロピレンカーボネートやその他の芳香族系有機溶剤、脂肪族系有機溶剤やそれらの混合物が使用できる。また、当該液体には、高分子ゲルに吸脱する界面活性剤、溶液のpH変化を促進するためのビオロゲン誘導体などの酸化還元剤、酸、アルカリ、塩、および分散安定剤、酸化防止や紫外線吸収などの安定剤などを添加してもよい。さらに、種々顔料や白色顔料や染料、紫外線吸収剤などの調光用材料を添加することもできる。
【0051】
高分子ゲルと、該高分子ゲルが吸脱し得る液体との混合比は、重量比で1/2000〜1/1(高分子ゲル/液体)の範囲とすることが好ましい。重量比が1/2000を超えて前記液体の割合が大きくなると、得られる高分子ゲル組成物の機械的強度などの物性低下の恐れがあり、1/1を超えて前記液体の割合が小さくなると、刺激応答による体積変化の応答速度が低下する恐れがある。
【0052】
(保持部材)
本発明の高分子ゲル組成物における保持部材は、上記刺激応答性高分子ゲルを覆うものであって、刺激応答性高分子ゲルが上記吸脱し得る液体を含有するものである。刺激応答性高分子ゲルに含まれる液体を保持部材に含むことにより、刺激応答性高分子ゲルおよび保持部材の光の屈折率が、前記液体の光の屈折率に近くなるため、光散乱が少なくなり本発明の高分子ゲル組成物の透明性を高めることができる。
【0053】
本発明における保持部材の材料としては、高分子が三次元的に架橋されてなるネットワークポリマー、高分子ゲル、あるいは高分子溶液などが好ましく使用できる。なお、この項において単に「高分子ゲル」といった場合には、刺激応答性高分子ゲルのことではなく、保持部材の材料としての高分子ゲルを指すものとする。
【0054】
保持部材としてネットワークポリマーを用いる場合には、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデンやその異種共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスチレンやその異種共重合体、ポリメチルメタクリレートやその異種共重合体、ポリアミド系樹脂、シリコーン系樹脂、アクリル系やビニル系の熱、紫外線あるいは電子線硬化性樹脂などが挙げられる。
【0055】
保持部材として高分子ゲルを用いる場合には、アガロース、アガロペクチン、アミロース、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、イソリケナン、インスリン、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カードラン、カゼイン、カラギーナン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデンプン、カロース、寒天、キチン、キトサン、絹フィブロイン、クアーガム、クインスシード、クラウンゴール多糖、グリコーゲン、グルコマンナン、ケラタン硫酸、ケラチン蛋白質、コラーゲン、酢酸セルロース、ジェランガム、シゾフィラン、ゼラチン、ゾウゲヤシマンナン、ツニシン、デキストラン、デルマタン硫酸、デンプン、トラガカントゴム、ニゲラン、ヒアルロン酸、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、プスツラン、フノラン、分解キシログルカン、ペクチン、ポルフィラン、メチルセルロース、メチルデンプン、ラミナラン、リケナン、レンチナン、ローカストビーンガム等の天然高分子由来の高分子ゲルが挙げられる他、合成高分子の場合にはほとんどすべての高分子ゲルが挙げられる。
【0056】
これら高分子ゲルはオルガノゲルであってもヒドロゲルであっても構わないが、刺激応答性高分子ゲルがヒドロゲルの場合は保持部材の高分子ゲルもヒドロゲルであることが望ましく、刺激応答性高分子ゲルがオルガノゲルの場合は保持部材の高分子ゲルもオルガノゲルであることが望ましい。また、これら高分子ゲルは光透過性であることが望ましい。これらの高分子ゲルは、内包されている刺激応答性高分子ゲルの液体を吸脱させる刺激に対して、その性質が変化しないことが望ましいが、完全に不変である必要はない。
【0057】
保持部材として高分子溶液を用いる場合、刺激応答性高分子ゲルが吸脱する液体を溶媒とするほとんどの高分子溶液を用いることができる。また本組成物内部での刺激応答性高分子ゲルの流動を妨げるため、当該高分子溶液の粘度は1Pa・s以上であることが好ましい。なお、高分子溶液が刺激応答性高分子ゲルの応答性に影響を与えないことが好ましいが、光学特性に問題がない範囲ならば構わない。
【0058】
保持部材の材料と刺激応答性高分子ゲルとの組成比は、その重量比で1/50〜50/1[(保持材料+液体)]/(刺激応答性高分子ゲル+液体)]の範囲とすることが好ましい。この範囲を越えると、所望の光学特性や材料の物理的強度が得られない恐れがある。当該組成比としては、重量比で1/20〜20/1[(保持材料+液体)]/(刺激応答性高分子ゲル+液体)]の範囲とすることがより好ましい。
【0059】
また、これら保持部材として用いる材料は物質透過性であることが好ましい。保持部材として用いる材料が物質透過性であれば、高分子ゲル組成物外部の電解質や界面活性剤の濃度を変化させることによって、高分子ゲル組成物内部に含まれる刺激応答性高分子ゲルに液体を吸脱させることが可能となる。物質透過性である保持部材の材料としては、先に記した高分子ゲル、高分子溶液のほとんど全てを挙げることができる。
【0060】
(高分子ゲル組成物の形態および製造方法)
本発明の高分子ゲル組成物は、フィルム状または板状に成形された状態で用いることが望ましい。本発明の高分子ゲル組成物の構成形態例を、図1に拡大断面図にて示す。図1に示すように、刺激応答性高分子ゲル1は、保持部材2に分散された状態で保持されている。
【0061】
図1に示す態様の高分子ゲル組成物は、刺激応答性高分子ゲルを保持部材形成用材料の溶液に混合し、これを基材表面にコートすることによって調製できる。なお粒状もしくは粉砕された刺激応答性高分子ゲルは凝集しやすいため、保持部材に混合する際には界面活性剤等の分散剤などを用いて分散しておくことが好ましい(分散工程)。保持部材を形成する材料(保持部材形成用材料)が高分子ゲルの前駆体である場合には、架橋処理を施して保持部材形成用材料を固化させ、保持部材を高分子ゲルとすることも可能である(固化工程)。ゲル化した高分子ゲル組成物は基材なしでも使用することができる。保持部材として高分子溶液を用いた場合には、流動しないように高分子ゲル組成物を基材に担持して使用することが好ましい。
【0062】
また保持部材としてネットワークポリマーを用いる場合には、刺激応答性高分子ゲルを、該刺激応答性高分子ゲルが吸脱する液体で膨潤させた状態で保持部材形成用材料の溶液に混合し、これを基材表面にコートすることによって調製できる。このときに、刺激応答性高分子ゲルは分散剤を使用して保持部材形成用材料中によく分散させることが好ましい。
【0063】
また、刺激応答性高分子ゲルと該刺激応答性高分子ゲルが吸脱し得る液体との膨潤混合物を、それと相溶しない他の液体を溶媒とする保持部材形成用材料の溶液中で混合し、刺激応答性高分子ゲルの膨潤混合物を相分離状に分散した(分散工程)後に、ネットワークポリマーとなり得る保持部材形成用材料を溶解している溶媒を蒸発させること、または、紫外線、電子線あるいは熱を付与することによって保持部材形成用材料を固化(固化工程)した後に、前記他の液体を刺激応答性高分子ゲルが吸脱し得る液体に、溶媒置換する(置換工程)方法により作製することができる。最後の置換工程は、置換効率を高めるために、
これらゲル化もしくは固化した高分子ゲル組成物は、基材なしでも使用することができる。
【0064】
本発明の高分子ゲル組成物の動作について、拡大断面図である図2を用いて説明する。本発明の高分子ゲル組成物は、保持された刺激応答性高分子ゲル1が、それに含まれる液体が刺激によって吸脱され、図2(a)に例示するように膨潤し、あるいは、図2(b)に例示するように収縮して、体積変化を引き起こすことができる。その結果、光の透過性等が、散乱や回折によって変化する。
保持された刺激応答性高分子ゲル1が、刺激によって膨潤する際には、保持部材2に含まれる液体を、刺激応答性高分子ゲル1内に吸収することで体積が増大し、図2(a)に示されるように膨潤する。
【0065】
保持された刺激応答性高分子ゲル1が刺激によって収縮する際には、刺激応答性高分子ゲル1から、それに含まれる液体が放出されることで体積が減少し、図2(b)に示されるように収縮する。このとき、刺激応答性高分子ゲル1外に放出された液体が刺激応答性高分子ゲル1と保持部材2との間に存在する場合と、刺激応答性高分子ゲル1外に放出された液体が保持部材2に染み出す状態となり、刺激応答性高分子ゲル1と保持部材2とが密着状態となる場合と、が考えられるが、前者の状態となる場合であっても、時間と共に後者の状態へと移行していくものと推定される。いずれにしても、本発明においては刺激応答性高分子ゲル1外に放出された液体と同一のものが保持部材2に含まれており、当該液体が刺激応答性高分子ゲル1と保持部材2との間に存在する場合であっても保持部材2と当該液体の光の屈折率は近似し、光散乱は少なく、本発明の高分子ゲル組成物の透明性は十分に高い。
【0066】
また、刺激応答性高分子ゲル1に、飽和吸収濃度または飽和吸収散乱濃度以上の調光用材料を含有させた場合は、刺激応答性高分子ゲル1の体積変化に応じて光の吸収効率が変化し、光学濃度を変化させることができる。具体的には高分子ゲルの膨潤時には光学濃度が高くなり、収縮時には光学濃度が低くなる。したがって、本発明の高分子ゲル組成物は、調光素子、表示素子などの光学素子として利用することができる。
【0067】
<光学素子>
次に、本発明の高分子ゲル組成物を用いた光学素子について説明する。図1の形態の高分子ゲル組成物で固体であるものは、自己保持性をもち、フイルム状や板状などの形に加工して、基材を用いずにそのままで、光学素子として利用することができる。さらに、強度、耐久性や機能の向上のために、他の基材表面に本発明の高分子ゲル組成物を層状に形成すること、あるいは複数の基材で本発明の高分子ゲル組成物を支持すること(挟み込むこと)で光学素子とすることもできる。また、液状であるものは、流動性があるため、扁平容器に収容したり(この場合、扁平容器の底面を便宜上「基材」と称することとする)、複数の基材で支持したり、2枚の基材で挟み込んだ状態で端部を封止することで、光学素子として使用することができる。
なお、これら基材や容器は、少なくとも一方の面が光透過性であることが好ましい。
【0068】
上記の光学素子の構成例において、高分子ゲル組成物またはそれよりなる層の厚みの好ましい範囲は、1μm〜2mm、特に2μm〜500μmの範囲である。1μmよりも小さいと調光性能が低下し、2mmを超える、応答特性などが低下する恐れがある。
【0069】
本発明の光学素子において、高分子ゲル組成物中の保持部材が気体透過性である場合、内部の液体が次第に蒸発していき、ついには高分子ゲル組成物内部に含まれる高分子ゲルが乾燥してしまい、刺激に対して応答しなくなってしまう恐れがある。したがって、本発明の光学素子においては、高分子ゲル組成物を被包するように蒸発防止部材が形成されていることが好ましい。ここで、蒸発防止部材とは、高分子ゲル組成物に含まれる液体の蒸発を防止する部材であり、気体透過性の低い材料からなるものである。蒸発防止部材としては、既述の基材を兼ねるものであってもよい。
【0070】
図3に、高分子ゲル組成物を被包するように蒸発防止部材が形成された本発明の光学素子を拡大断面図にて例示する。図3において、刺激応答性高分子ゲル1および保持部材2からなるシート状の本発明の高分子ゲル組成物4を挟み込むように、蒸発防止部材3が設けられている。図3に示すように、気体透過性の低い蒸発防止部材を設けておけば、高分子ゲル組成物に含まれる液体の蒸発を防ぐことができる。蒸発防止部材3は、図3に示すように、高分子ゲル組成物4の表面に、層状に形成することが好ましい。
【0071】
なお、蒸発防止部材3は、図3に示すように、広い面積である表面に形成され、その端部が開放状態で形成されていてもよいが、高分子ゲル組成物4の周りを取り囲むようにして、高分子ゲル組成物4を密封状態とすることが好ましい(なお、本発明において「被包」という用語の概念には、完全に周りを取り囲むように形成する状態のみならず、その一部(例えば端部)を開放状態とする状態を含む。)。
【0072】
高分子ゲル組成物を密封状態とした状態の例を図4に示す。図4(a)は、蒸発防止部材である扁平容器5内部に、刺激応答性高分子ゲル1および保持部材2からなる高分子ゲル組成物4を収容し、かつ扁平容器5の開口部に、蒸発防止部材である蓋6を被せて高分子ゲル組成物4を密封状態とした例である。図4(a)において、扁平容器5と蓋6とにより取り囲まれる部分には、高分子ゲル組成物4が満たされた状態となっているが、全体として密閉状態となっていれば液体の蒸発は防止できるため、内部に空間が含まれていてもよい。
【0073】
また、図4(b)は、蒸発防止部材である2枚の基材7の間に、刺激応答性高分子ゲル1および保持部材2からなる高分子ゲル組成物4が挟持され、その両端部を蒸発防止部材である封止部材8により封止して、高分子ゲル組成物4を密封状態とした例である。
【0074】
蒸発防止部材の材料としては、特に限定されないが、例えばガラス、セラミックのような無機材料や、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートやこれらの共重合体等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテルサルホン、ポリサルホン、ポリイミド、ポリアリレート等が使用できる。なおこれら蒸発防止部材の材料は、透明性の高いもの、ガスバリア性の高いものが好ましく使用でき、特に樹脂の場合は内部に含まれる液体蒸気のガスバリア性の高いものが好ましい。また、蒸発防止部材としての封止部材8の材料としては、前記両端部に塗布後、放置・加熱・紫外線照射等の手段により硬化するものを用いることが好ましく、通常の接着剤、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂等を挙げることができる。
【0075】
本発明の光学素子には、蒸発防止部材を設けることによって、外部からの刺激、例えばイオンや界面活性剤等の物質が透過しにくくなることもあるが、この場合、蒸発防止部材と高分子ゲル組成物との間に、高分子ゲル組成物に刺激を付与し得る(イオンや界面活性剤を発生または移動させ得る)刺激付与素子を、前記高分子ゲル組成物に接触して設けることもできる。この場合、該刺激付与素子を蒸発防止部材の内側に設けてもよいし、蒸発防止部材自体が刺激付与素子を兼ねる構成であってもよい。
【0076】
例えば、蒸発防止部材としてガラス電極を用い、電場を付与することで刺激付与素子を兼ねさせることもできるし、刺激付与素子としてヒーターを前記高分子ゲル組成物に接触して設けることで、熱を付与することもできる。また、蒸発防止部材としてガラス電極を用い、該ガラス電極の高分子ゲル組成物に接触する表面に導電性高分子やイオン交換性の高分子などを皮膜しておけば、通電によって導電性高分子やイオン交換性の高分子中のイオンを液体中に出し入れすることで、高分子ゲル組成物中のイオン濃度を変化させることができる。この時用いられる導電性高分子としては、ポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリアニリン類、ポリフェニレンビニレン類、ポリアセン類、ポリアセチレン類などを、好ましいものとして挙げることができる。
【0077】
尚、本発明の光学素子に付与し得る刺激としては、自然界の刺激でも、人為的な刺激でもよい。光、熱、化学物質などの自然界の刺激を利用する場合には、本発明の光学素子は、調光素子や光シャッター、センサーなどとして利用することができる。一方、人為的な刺激を利用する場合には、光学素子の内部あるいは外部から熱、光、電場などを付与する手段を講じることで、上記自然界の刺激を利用する場合と同様の用途の他、表示素子、記録素子、光変調素子などの用途にも応用することが可能となる。
【0078】
【実施例】
以下、実施例を用いて、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
(刺激応答性高分子ゲルの製造)
刺激応答性高分子ゲルとして、調光用材料を含有した感熱型(高温収縮型)高分子ゲルの粒子を、以下に示すように逆相懸濁重合によって製造した。
【0079】
主モノマーとしてN−イソプロピルアクリルアミド10g、架橋剤としてメチレンビスアクリルアミド0.1gを用い、これに蒸留水20g、過硫酸アンモニウム0.1g、調光用材料として1次粒子径約0.1μmの青色顔料(大日本インキ化学社製:マイクロカプセル化青色顔料、MC blue 182−E)8.0gを添加し、攪拌混合した水溶液Aを調製した。上記の操作は窒素下にて行った。
【0080】
ソルビトール系界面活性剤(第一工業製薬製:ソルゲン50)1.0gをシクロヘキサン200mlに溶解した溶液を窒素置換された反応容器に加え、これに先に調製した水溶液Aを添加し、回転式攪拌装置を用いて高速攪拌して乳化させた。乳化後、反応系の温度を20℃に調節し、さらに溶液を攪拌しながらこれにテトラメチルエチレンジアミンの50%水溶液を添加し、重合を行った。重合後、生成した着色高分子ゲル粒子を回収し、純水で洗浄を行った。
【0081】
得られた着色高分子ゲル粒子(刺激応答性高分子ゲル)の乾燥時の体積平均粒子径は、約15μmであった。この着色高分子ゲル粒子の20℃における純水吸水量は約38g/gであった。本着色高分子ゲル粒子は、加熱によって収縮する性質をもち、約35℃に相転移点をもっていた。つまり、本着色高分子ゲル粒子は、相転移点よりも高温では収縮し、低温では膨潤する。この変化は可逆的であり、収縮時に比べ膨潤時の着色高分子ゲル粒子の粒子径が約2.5倍程度まで変化し、すなわち、体積で約16倍程度の変化が得られた。
【0082】
(高分子ゲル組成物の製造)
以上のようにして得られた着色高分子ゲル粒子を一定濃度(膨潤状態の着色高分子ゲル粒子が85〜95%)含む水分散溶液を調製し、粒子同士の凝集を防ぐために界面活性剤(エマルゲン909)を濃度0.05質量%となるように加え、着色高分子ゲル粒子水分散溶液Aを得た。なお、膨潤状態の着色高分子ゲル粒子の水溶液中における濃度は、膨潤状態や沈降状態等により、変動するため、正確には把握することができず、一定の範囲で規定することとする。
【0083】
この着色高分子ゲル粒子水分散溶液A:10gに対し、ポリビニルアルコール(信越化学製、ポバールC−25GP)1.7gを加えた。この溶液を85℃に加熱して攪拌し、ポリビニルアルコールを完全に溶解させた後に、ガラス基板(50×50×0.9mm)表面全面に塗布し、厚さ300μmのフィルム状の高分子ゲル組成物J1を作製した。
【0084】
(光学素子の製造)
得られた高分子ゲル組成物J1のフィルムを、溶媒の蒸発を防ぐために前記ガラス基板と同じ大きさのガラス基板で挟み、ガラス基板の周囲を紫外線硬化樹脂(日本化薬社製、KAYARAD−R381 I)を用いて封止し、光学素子J1を作製した。
【0085】
(光学素子の動作確認)
得られた光学素子J1は、20℃においては青色を呈していたが、30℃付近から内部の刺激応答性高分子ゲルが収縮し始め光学濃度が低くなり、50℃に加熱すると色が消え、ほぼ透明となることが確認できた。また、再び20℃まで冷却すると初期の青色に変化し、可逆的であることが分かった。この変化は、1週間放置した後でも何ら劣化することはなかった。したがって、本実施例の高分子ゲル組成物J1を用いた光学素子J1は、非常に簡単な構成であるにもかかわらず、温度センサーや調光素子、あるいは表示・記録素子等に利用できることが判った。
【0086】
<実施例2>
(光学素子の製造)
実施例1で作製した光学素子を、−20℃で16時間凍結し室温にて8時間放置し融解するというサイクルを3回繰り返し、水素結合によってポリビニルアルコール部分をゲル化させ、高分子ゲル組成物2を含む光学素子J2−Aを作製した。また、このゲル化したフィルム状の高分子ゲル組成物2をガラス基板内部から取り出し、これを光学素子J2−Bとした。さらに、光学素子J2−Bをガラス容器(内寸50×50×0.3mm、ガラスの厚み0.9mm)に移し替え、これにガラス製の蓋(ガラス容器の厚みと同じ)をした光学素子J2−Cも併せて作製した。
【0087】
これら光学素子J2−A、J2−BおよびJ2−Cは、20℃においてはは青色を呈していたが、50℃に加熱すると色が消え、ほぼ透明となることが確認できた。また、再び20℃まで冷却すると初期の青色に変化し、可逆的であることが分かった。
【0088】
さらにこれら光学素子J2−A、J2−BおよびJ2−Cを室温で1日放置してから上記同様の操作を行うと、光学素子J2−Bのみフィルムが乾燥して温度変化に応答しなくなることが明らかとなった。一方、光学素子J2−AおよびJ2−Cについては、さらに1週間たった後でも何ら劣化することはなかった。
【0089】
したがって、本実施例の高分子ゲル組成物J2−A、J2−BおよびJ2−Cを用いた光学素子J2−A、J2−BおよびJ2−Cは、温度センサーや調光素子、あるいは表示・記録素子等に利用できることが判った。さらに本実施例の高分子ゲル組成物J2−A、J2−BおよびJ2−Cはゲルの弾性を有しているため、成形性が高く広い用途展開ができることが判った。
【0090】
また、ガラス基板および封止部材からなる蒸発防止部材を設けた光学素子J2−Aや、容器および蓋からなる蒸発防止部材を設けた光学素子J2−Cでは、高分子ゲル組成物が乾燥してしまうことがなく、耐久性に優れており、蒸発防止部材を設けることが有効であることを示している。
【0091】
<実施例3>
(高分子ゲル組成物および光学素子の製造)
紫外線硬化樹脂(日本化薬製 KAYARAD MANDA)の30%トルエン溶液20gに対して、界面活性剤(第一工業製薬社製:ソルゲン50)1.5gと光重合開始剤(日本チバガイギー社製:ダロキュア1173)0.3gとを加えて溶解した後、実施例1で調製した着色高分子ゲル粒子水分散溶液Aを0℃に冷却した上で10g加え、回転式攪拌装置を用いて高速攪拌して、着色高分子ゲル粒子水分散溶液Aを紫外線硬化樹脂中に分散した。これをスライドグラス(50×50×0.9mm)表面全体に200μmの厚さにコートし、0℃に冷やしながら紫外線(120W/cm、照射距離20cm)を2分間照射したところ、紫外線硬化樹脂が硬化して、高分子ゲル組成物が得られた。
【0092】
この高分子ゲル組成物をスライドグラスごとアセトン中に2日間放置して組成物内部の液体をアセトンに置換した後、40%エチレングリコール溶液中に2日間放置して、高分子ゲル組成物内を溶媒置換した。エチレングリコール水溶液への溶媒置換作業は、40%エチレングリコール溶液を新しいものに入れ替えて、3回同様の操作を行った。このようにして、本実施例の高分子ゲル組成物J3からなる光学素子J3を作製した。
【0093】
得られた光学素子J3における高分子ゲル組成物J3を顕微鏡観察によって観察したところ、膜の内部には刺激応答性高分子ゲルの膨潤粒子が相分離状に隔離、分散して存在していることが確認された。
【0094】
(光学素子の動作確認)
得られた光学素子J3は、0℃においてはは青色を呈していたが、50℃に加熱すると色がほぼ消えることが確認できた。また、再び0℃まで冷却すると初期の青色に変化し、可逆的であることが分かった。したがって、本実施例の高分子ゲル組成物J3を用いた光学素子J3は、非常に簡単な構成であるにもかかわらず、温度センサーや調光素子、あるいは表示・記録素子等に利用できることが判った。さらに本実施例の高分子ゲル組成物J3はゲルの弾性を有しているため、成形性が高く広い用途展開ができることが判った。
【0095】
<実施例4>
(刺激応答性高分子ゲルの製造)
刺激応答性高分子ゲルとして、粒子状の高分子ゲルを次のように作製した。
主モノマーとしてアクリル酸5g、アクリルアミド5g、水酸化ナトリウム3g、架橋剤としてN,N’−メチレンビスアクリルアミド0.02gを用い、これに蒸留水30gおよび過硫酸アンモニウム0.05gを混合した水溶液Xを調製した。
【0096】
ソルビトール系界面活性剤(第一工業製薬製:ソルゲン50)2.0gをトルエン400mlに溶解した溶液を、窒素置換された反応容器に加え、さらに先に調製した水溶液Xを添加し、回転式攪拌装置を用いて10分間高速攪拌して乳化させた。乳化後、反応系の温度を25℃に調節し、さらに溶液を攪拌しながらこれにテトラメチルエチレンジアミンの50%水溶液を添加し、重合を行った。重合後、生成した高分子ゲル粒子を回収し、水酸化ナトリウム水溶液で中和反応を行った後に、蒸留水で繰り返し洗浄を行い、乾燥させた。
【0097】
得られた高分子ゲル粒子(刺激応答性高分子ゲル)の乾燥時の体積平均粒子径は、約20μmであった。この高分子ゲル粒子の蒸留水における吸水量は約250g/gであった。本高分子ゲル粒子は、pH変化によって膨潤・収縮させることができ、収縮時に比べ膨潤時の高分子ゲル粒子の粒子径が約5倍程度まで変化し、すなわち、体積で約125倍の変化が得られた。
【0098】
(高分子ゲル組成物および光学素子の製造)
以上のようにして得られた高分子ゲル粒子を一定濃度(膨潤状態の高分子ゲル粒子が85〜95%)含む水分散溶液を調製し、高分子ゲル粒子水分散溶液Bを得た。
【0099】
この高分子ゲル粒子水分散溶液B:1.0gをNafion(登録商標) solution SE−5012(フッ素系ポリマー、デュポン社製)の5%溶液15mlに分散し、バーコーターを用いてガラス基板(50×50×0.9mm)表面全面に100μmの厚さにコートした。さらに、このコート層を有するガラス基板を加熱して溶媒を蒸発させた後に、水に浸けてフィルムを膨潤させ、フィルム状の高分子ゲル組成物J4からなる光学素子J4作製した。
【0100】
(光学素子の動作確認)
得られた光学素子J4をpH=12の水酸化ナトリウム水溶液に浸すと、内部の刺激応答性高分子ゲルが膨潤し着色した。一方でpH=3の塩酸に浸すと、内部の刺激応答性高分子ゲルが収縮してほとんど無色となった。再度溶液をpH=12のアルカリ性にすることによって、この光学素子J4が初期の光学濃度に再び着色することも確認できた。このことは、外部からの塩等の添加によっても、本実施例の高分子ゲル組成物J4における光学濃度の変化が起こることを示している。この操作を50回以上繰り返しても、着色−無色化の劣化は観測されなかった。したがって、繰り返し安定性にも優れていた。
【0101】
<実施例5>
(光学素子の製造)
電気的な手段によるpH変化によって、調光機能を示す光学素子を以下のプロセスで作製した。
【0102】
実施例3で得られた光学素子J3からスライドガラスを除し、フィルム状の高分子ゲル組成物J3を得た。この電解質高分子ゲルを含むフィルム状の高分子ゲル組成物J3と、電解質高分子ゲルを含まないNafion(登録商標)フィルム(フッ素系ポリマーのフィルム;デュポン社製Nafion N−117、厚さ180μmを50×50mmに切り取ったもの)を重ね合わせ、2枚のITO(インジウム−スズ酸化物)電極付きガラス板で挟み込んで、光学素子J5を作製した。得られた光学素子J5における刺激応答性高分子ゲルの粒子は、ほぼ最大膨潤した状態であり、光学素子J5は濃い青色であった。
【0103】
(光学素子の動作確認)
光学素子J5を、フィルム状の高分子ゲル組成物J3に接した側のITOガラスが下面になるように、光学顕微鏡に透過光量を測定できるフォトダイオードを装着した透過光量測定装置に水平に配置した。光学素子J5に配線を行い、下側のITO電極をアノード、上側のITO電極をカソードとして、3Vの直流電圧を印加した。
【0104】
通電後、瞬時にほぼ透明に変化した。この変化の様子を前記光学測定装置で測定すると、白色光の透過光量は約15%から約90%に変化していることが確認できた。また、通電を止める、あるいは逆極性の電圧を印加すると、再び黒色に変化し、白色光の透過光量は約15%に戻り、透過光量の変化が可逆的であることが分かった。この可逆的な変化は、100回以上繰り返して上記操作を行った後も何ら劣化することがなく安定であった。
【0105】
この電圧印加による透過光量の変化を観察した結果、刺激応答性高分子ゲルの粒子が電極の電気化学反応によって収縮・膨潤することで光吸収効率が変化し、透過光量が変化することが分かった。したがって、本実施例の光学素子J5は、大きな透過光量の変化を示し、かつその応答が高速であり、安定な繰り返し特性や濃度階調性をもつことから、光の透過量を制御可能な光学素子として利用できることが分かった。
【0106】
<比較例1>
(高分子ゲル組成物および光学素子の製造)
実施例1で合成した着色高分子ゲル粒子に水を添加して膨潤状態とし、この膨潤状態の着色高分子ゲル粒子0.5gを紫外線硬化性樹脂(日本化薬製、KAYARAD MANDA)2.0gに対して分散し、分散液を得た。この分散液をガラス基板(50×50×0.9mm)表面全面に塗布し、紫外線を照射して紫外線硬化性樹脂を硬化させて、厚さ300μmのフィルム状の比較例1の高分子ゲル組成物H1を含む光学素子H1を得た。
【0107】
(光学素子の動作確認)
得られた光学素子H1を温度変化させたところ、低温(10℃)では青く着色されたが、高温(50℃)では白色となり、透明にはならなかった。顕微鏡で観察したところ、高温では高分子ゲルが収縮し、保持部材としての紫外線硬化性樹脂と高分子ゲルとの間に水滴が存在する領域が生じ、該水滴の領域で光散乱を起こしていることが明らかとなった。
【0108】
以上より、本発明の高分子ゲル組成物では、刺激応答性高分子ゲルの粒子と保持部材との双方に同一の液体が含まれるため、光散乱が生じず透明性が良好であるのに対し、保持部材には含まれない比較例1では、透明性に劣り、言いかえれば本発明が優れていることを示している。
【0109】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、高分子ゲルと、該高分子ゲルを覆う保持部材との双方に同一の液体が含まれているため、光の散乱が生じず、低コスト、かつ透明性に優れた高分子ゲル組成物、およびその製造方法、並びにそれを用いた光学素子を提供することができる。
【0110】
また、本発明おいて、保持部材を物質透過性とすることで、外部の物質の濃度変化や物質の出入りによっても応答し得る高分子ゲル組成物、並びにそれを用いた光学素子を提供することができる。
本発明の高分子ゲル組成物は、そのままで、または基材表面もしくは複数の基材に支持させることにより、光学素子として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の高分子ゲル組成物の構成形態例を示す拡大断面図である。
【図2】 本発明の高分子ゲル組成物の動作について説明するための拡大断面図であり、(a)は刺激応答性高分子ゲル粒子の膨潤時を表し、(b)は刺激応答性高分子ゲル粒子の収縮時を表す。
【図3】 本発明の高分子ゲル組成物を被包するように蒸発防止部材が形成された光学素子の構成形態例を示す拡大断面図である。
【図4】 本発明の高分子ゲル組成物を被包するように蒸発防止部材が形成された光学素子の他の構成形態例を示す拡大断面図である。
【符号の説明】
1 刺激応答性高分子ゲル
2 保持部材
3 光学素子
3 蒸発防止部材
4 高分子ゲル組成物
5 扁平容器
6 蓋
7 基材
8 封止部材
Claims (13)
- 液体を含有し、かつ刺激の付与により前記液体を吸収・放出して体積変化を生ずる高分子ゲルと、該高分子ゲルを覆う保持部材と、を有し、該保持部材が前記液体を含有していることを特徴とする高分子ゲル組成物。
- 保持部材が、ネットワークポリマーであることを特徴とする請求項1に記載の高分子ゲル組成物。
- 保持部材が、高分子ゲルであることを特徴とする請求項1に記載の高分子ゲル組成物。
- 保持部材が、高分子溶液であることを特徴とする請求項1に記載の高分子ゲル組成物。
- 保持部材が、物質透過性であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載の高分子ゲル組成物。
- 刺激の付与により液体を吸収・放出して体積変化を生ずる高分子ゲルが、調光用材料を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載の高分子ゲル組成物。
- 請求項1〜6のいずれか1に記載の高分子ゲル組成物からなることを特徴とする光学素子。
- フィルム状もしくは板状に成形された、請求項1〜6のいずれか1に記載の高分子ゲル組成物からなることを特徴とする光学素子。
- 基材表面に、請求項1〜6のいずれか1に記載の高分子ゲル組成物が形成されてなることを特徴とする光学素子。
- さらに、高分子ゲル組成物を被包するように蒸発防止部材が形成されてなることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1に記載の光学素子。
- さらに、高分子ゲル組成物に刺激を付与し得る刺激付与素子が、前記高分子ゲル組成物に接触して設けられていることを特徴とする請求項10に記載の光学素子。
- 請求項1〜6のいずれか1に記載の高分子ゲル組成物の製造方法であって、
刺激の付与により液体を吸収・放出して体積変化を生ずる高分子ゲルを、保持部材形成用材料の溶液中に分散させる分散工程と、
保持部材形成用材料を固化させる固化工程と、
を含むことを特徴とする高分子ゲル組成物の製造方法。 - 請求項1〜6のいずれか1に記載の高分子ゲル組成物の製造方法であって、
刺激の付与により液体を吸収・放出して体積変化を生ずる高分子ゲルと前記液体との膨潤混合物を、それと相溶しない他の液体を溶媒とする保持部材形成用材料の溶液中に分散させる分散工程と、
保持部材形成用材料を固化させる固化工程と、
保持部材中の前記他の液体を、刺激の付与により液体を吸収・放出して体積変化を生ずる高分子ゲルが吸脱し得る液体へと置換する置換工程と、
を含むことを特徴とする高分子ゲル組成物の製造方法。
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