JP3874865B2 - 圧縮機のトルク制御方法およびその装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、圧縮機のトルク制御方法およびその装置に関し、さらに詳細にいえば、インバータによりモータに与える電流または電圧を制御し、このモータにより圧縮機を駆動するに当って、モータの発生トルクを制御するための方法およびその装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、インバータ方式の空気調和機に適用される圧縮機として、ロータリー方式のものが広く採用されている。このロータリー方式の圧縮機は、部品点数が少なく、低コストであるとともに、広い運転範囲(回転数範囲)にわたって高効率を達成することができる。
【0003】
また、ロータリー方式の圧縮機としては、1シリンダ構造のものと2シリンダ構造のものとが一般的に用いられている。このうち、2シリンダ構造のものは、振動の主要因となる速度変動を引き起こす圧縮トルク変動を機械構造の工夫で低減し、空気調和機の室外機の音、振動を低減する目的に用いられる。
しかし、2シリンダ構造の圧縮機は、2個の1シリンダ構造のロータリー圧縮機を持つ構造であるから、製造コストが高くなり、組み込まれた個々の圧縮機に圧縮ガスの漏れが生ずるため効率が1シリンダ構造の圧縮機に比べ低下してしまうという問題がある。
【0004】
一方、1シリンダ構造の圧縮機はトルク変動により引き起こされる回転変動が生じ、ひいては音、振動が大きくなってしまうという問題がある。
このような問題を解決する方式として、特公平4−36000号公報に示すように、圧縮機を駆動するモータを制御することにより、圧縮機の回転変動をなくし、圧縮機の振動をなくする方式(トルク制御手段)が提案されている。
【0005】
また、圧縮機負荷の周期性に着目したトルク制御方式として、特公平6−48916号公報に示すように、学習制御を行う方式が提案されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、特公平4−36000号公報に示す方式を採用した場合には、圧縮機の速度変動を零に近づけるべくモータの制御を行うので、モータ電流のピーク値が大きくなり、モータ部での効率が低下してしまう。特に、慣性力による速度変動抑制効果のない低速域で効率の落ち込みが大きくなり、図20に示すように、圧縮機総合効率(=圧縮機メカ部の効率×モータ効率)が低下してしまうことになる。
【0007】
特公平6−48916号公報に示す方式を採用した場合には、圧縮機負荷の全周波数成分について高いゲインを持ち、3次成分以上の小さなトルク変動に対応したモータトルクまで発生するのであるから、モータ電流が増加し、モータ損失を極小化することが著しく困難である。
【0008】
【発明の目的】
この発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、ロータリー方式の圧縮機の音、振動を低減するとともに、圧縮機総合効率の低下を大幅に抑制することができる空気調和機用圧縮機のトルク制御方法およびその装置を提供することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
請求項1の圧縮機のトルク制御方法は、インバータによりモータに与える電流または電圧を制御し、このモータにより圧縮機を駆動する方法であって、
速度変動演算手段によって速度変動の大きさを演算し、速度変動の大きさが所定値より大きいことに応答して、切り替え手段が補償モデル演算手段による音、振動を低減するための補償量を高くするように制御し、逆に速度変動の大きさが所定値より小さいことに応答して、切り替え手段が補償モデル演算手段による音、振動を低減するための補償量を低くするように制御することによって、モータに与える電流または電圧を、効率の低下を所定値以下に抑制する範囲になり、かつ圧縮機の主軸1回転中の回転速度変動が音、振動が実用上問題にならない範囲内で可能な限り大きな値の範囲内になるように制御する方法である。
【0010】
請求項2の圧縮機のトルク制御方法は、モータに与える電流または電圧を、効率の低下が最小になるように制御する方法である。
請求項3の圧縮機のトルク制御方法は、圧縮機として、1シリンダ圧縮機を採用する方法である。
請求項4の圧縮機のトルク制御装置は、インバータによりモータに与える電流または電圧を制御し、このモータにより圧縮機を駆動する装置であって、
速度変動演算手段によって速度変動の大きさを演算し、速度変動の大きさが所定値より大きいことに応答して、切り替え手段が補償モデル演算手段による音、振動を低減するための補償量を高くするように制御し、逆に速度変動の大きさが所定値より小さいことに応答して、切り替え手段が補償モデル演算手段による音、振動を低減するための補償量を低くするように制御することによって、モータに与える電流または電圧を、効率の低下を所定値以下に抑制する範囲になり、かつ圧縮機の主軸1回転中の回転速度変動が音、振動が実用上問題にならない範囲内で可能な限り大きな値の範囲内になるように制御するトルク制御手段を含んでいる。
【0011】
請求項5の圧縮機のトルク制御装置は、トルク制御手段として、検出速度と速度指令との偏差を入力として比例・積分演算を行う比例・積分演算手段と、検出速度と速度指令との偏差を入力として、圧縮トルクの所定の調波成分を表わすモデルに基づき、これに対応する補償量を演算する補償モデル演算手段と、比例・積分演算手段からの出力および補償モデル演算手段からの出力を加算して電圧指令を出力する加算手段とを含むものを採用している。
【0012】
請求項6の圧縮機のトルク制御装置は、圧縮トルクの2つの調波成分について補償モデル演算手段を設けたものである。
【0013】
請求項7の圧縮機のトルク制御装置は、圧縮トルクの1つの調波成分について補償モデル演算手段を設けたものである。
請求項8の圧縮機のトルク制御装置は、圧縮機として、1シリンダ圧縮機を採用している。
【0014】
【作用】
請求項1の圧縮機のトルク制御方法であれば、インバータによりモータに与える電流または電圧を制御し、このモータにより圧縮機を駆動するに当たって、
速度変動演算手段によって速度変動の大きさを演算し、速度変動の大きさが所定値より大きいことに応答して、切り替え手段が補償モデル演算手段による音、振動を低減するための補償量を高くするように制御し、逆に速度変動の大きさが所定値より小さいことに応答して、切り替え手段が補償モデル演算手段による音、振動を低減するための補償量を低くするように制御することによって、モータに与える電流または電圧を、効率の低下を所定値以下に抑制する範囲になり、かつ圧縮機の主軸1回転中の回転速度変動が音、振動が実用上問題にならない範囲内で可能な限り大きな値の範囲内になるように制御するのであるから、モータ電流のピーク値が大きくなり、モータの効率が低下してしまうという不都合を抑制することができ、しかも、圧縮機の音、振動を実用上問題にならない範囲内にすることができ、これらにより、圧縮機総合効率を低速から高速の広い運転範囲にわたって高め、ひいては空気調和機の省エネルギー効果を大幅に向上させることができる。
【0015】
請求項2の圧縮機のトルク制御方法であれば、モータに与える電流または電圧を、効率の低下が最小になるように制御するのであるから、請求項1の作用に加え、効率を最大にすることができる。
請求項3の圧縮機のトルク制御方法であれば、空気調和機用圧縮機として、1シリンダ圧縮機を採用するのであるから、2シリンダ圧縮機を採用する場合と比較して、トルク変動により引き起こされる回転変動が大きくなり、ひいては音、振動が大きくなってしまうことになるが、効率を高めることができ、請求項1または請求項2のトルク制御方法を採用することにより、モータの効率低下を抑制し、しかも1シリンダ圧縮機の音、振動を実用上問題にならない範囲内にすることができ、これらにより、圧縮機総合効率を低速から高速の広い運転範囲にわたって高め、ひいては空気調和機の省エネルギー効果を大幅に向上させることができる。
【0016】
請求項4の圧縮機のトルク制御装置であれば、インバータによりモータに与える電流または電圧を制御し、このモータにより圧縮機を駆動するに当たって、
速度変動演算手段によって速度変動の大きさを演算し、速度変動の大きさが所定値より大きいことに応答して、切り替え手段が補償モデル演算手段による音、振動を低減するための補償量を高くするように制御し、逆に速度変動の大きさが所定値より小さいことに応答して、切り替え手段が補償モデル演算手段による音、振動を低減するための補償量を低くするように制御することによって、トルク制御手段によって、モータに与える電流または電圧を、効率の低下を所定値以下に抑制する範囲になり、かつ圧縮機の主軸1回転中の回転速度変動が音、振動が実用上問題にならない範囲内で可能な限り大きな値の範囲内になるように制御するのであるから、モータ電流のピーク値が大きくなり、モータの効率が低下してしまうという不都合を抑制することができ、しかも、圧縮機の音、振動を実用上問題にならない範囲内にすることができ、これらにより、圧縮機総合効率を低速から高速の広い運転範囲にわたって高め、ひいては空気調和機の省エネルギー効果を大幅に向上させることができる。
【0017】
請求項5の圧縮機のトルク制御装置であれば、トルク制御手段は、検出速度と速度指令との偏差を入力として比例・積分演算を行う比例・積分演算手段と、検出速度と速度指令との偏差を入力として、圧縮トルクの所定の調波成分を表わすモデルに基づき、これに対応する補償量を演算する補償モデル演算手段と、比例・積分演算手段からの出力および補償モデル演算手段からの出力を加算して電圧指令を出力する加算手段とを含んでいるのであるから、請求項4と同様の作用を達成することができる。
【0019】
請求項6の圧縮機のトルク制御装置であれば、圧縮トルクの2つの調波成分について補償モデル演算手段を設けたのであるから、補償精度を高めることができるほか、請求項5と同様の作用を達成することができる。
請求項7の圧縮機のトルク制御装置であれば、圧縮トルクの1つの調波成分について補償モデル演算手段を設けたのであるから、補償モデル演算手段を簡素化できるほか、請求項5と同様の作用を達成することができる。
【0020】
請求項8の圧縮機のトルク制御装置であれば、圧縮機として、1シリンダ圧縮機を採用しているのであるから、2シリンダ圧縮機を採用する場合と比較して、トルク変動により引き起こされる回転変動が大きくなり、ひいては音、振動が大きくなってしまうことになるが、効率を高めることができ、請求項4または請求項5のトルク制御装置を採用することにより、モータの効率低下を抑制し、しかも1シリンダ圧縮機の音、振動を実用上問題にならない範囲内にすることができ、これらにより、圧縮機総合効率を低速から高速の広い運転範囲にわたって高め、ひいては空気調和機の省エネルギー効果を大幅に向上させることができる。
【0021】
さらに詳細に説明する。
圧縮機の一例としてのロータリー方式の空気調和機用圧縮機は、室外機に組み込まれるに当たって、通常は、図18に示すように、弾性体(例えば、ゴムなど)により支持され、しかも、バネ効果を持たせた形状の冷媒配管によって熱交換器に接続されているので、振動のかなりの部分が弾性体、冷媒配管によって吸収されることになる。そして、圧縮トルク変動により引き起こされる速度変動を変化させた場合における室外機の外板の加振力の回転数に対する変化特性を示す図19から明らかなように、速度変動を零に漸近させなくても、室外機の外板の加振力を十分に小さくできることが分かる 。
【0022】
この発明は、前記の知見に基づいてなされたものである。
また、音、振動が実用上問題にならない範囲内で可能な限り大きな値は、室外機の設置環境に対応して、例えば、経験的に定めることができる。
【0023】
【発明の実施の態様】
以下、添付図面を参照して、この発明の実施の態様を詳細に説明する。
図1はこの発明のトルク制御方法が適用される圧縮機駆動制御装置の一実施態様を示す電気回路図、図2は図1に対応する制御モデルを示す図、図3は図1のマイコンを詳細に示すブロック図である。
【0024】
この圧縮機駆動制御装置は、外部から与えられるスイッチ指令に基づくスイッチ動作を行うことにより直流電源を3相交流電源に変換するインバータ回路1と、インバータ回路1から出力される3相交流電源がY結線された固定子巻線2u,2v,2wに供給されるブラシレスDCモータ2と、ブラシレスDCモータ2の回転子2aにより駆動される圧縮機3と、固定子巻線2u,2v,2wと並列になるようにY結線された抵抗4u,4v,4wと、固定子巻線2u,2v,2wの中性点電圧と抵抗4u,4v,4wの中性点電圧との差電圧VNMを得る差動増幅器5と、得られた差電圧VNMを積分して積分信号∫VNMdtを出力する積分器6と、積分信号∫VNMdtのゼロクロスを検出して回転子2aの回転位置を示す位置信号を出力するゼロクロスコンパレータ7と、速度指令、速度変動指令および位置信号を入力として必要な処理を行い、ベース駆動回路9を介してスイッチ指令をインバータ回路1に供給するマイコン8とを有している。なお、差動増幅器5、積分器6およびゼロクロスコンパレータ7で位置検出器を構成している。
【0025】
図1の圧縮機駆動制御装置に対応する制御モデルは、図2に示すように、速度指令とブラシレスDCモータ2の回転速度との差を算出する減算部101と、減算部101から出力される差を入力として比例制御及び積分制御を行って比例制御結果および積分制御結果を出力するPI制御部102と、減算部101から出力される差を入力としてN回転(Nは自然数)の速度変動の平均の大きさΔωを演算する速度変動平均値演算部103と、速度変動平均値演算部103から出力される速度変動の平均の大きさΔωを入力として、0または1を出力する切り替え部104と、ブラシレスDCモータ2の回転速度と切り替え部104からの出力とを乗算して乗算結果を出力する乗算部105と、乗算部105から出力される乗算結果を入力として1次成分補償を行って補償値を出力する可変構造1次成分補償部106と、比例制御結果、積分制御結果および補償値を加算して電圧指令を出力する加算部107と、加算部107から出力される電圧指令を入力として、これを補償する増幅器107’と、増幅器107’から出力される出力電圧とモータ速度起電圧のうち、トルク分電流発生に関与する部分Eτ−との差を算出して出力する減算部108と、減算部108から出力される差を入力として、電流を出力するモータの電圧・電流伝達関数(モータ巻線の抵抗、インダクタンスで決まる1次遅れ要素)109と、モータの電圧・電流伝達関数109から出力される電流と、回転子位置に応じた電流波形(位相/振幅)を直接制御していないことに伴うトルク誤差成分を等価的に表す電流iτ−との差を算出して出力する減算部110と、減算部110から出力される差を入力としてモータトルクを出力するモータの電流・トルク伝達関数111と、モータの電流・トルク伝達関数111から出力されるモータトルクと圧縮機負荷トルクとを減算して圧縮機軸トルクを出力する減算部112と、減算部112から出力される圧縮機軸トルクを入力とし、速度を出力するモータのトルク・速度伝達関数113とを有している。なお、減算部108、電圧・電流伝達関数109、減算部110、電流・トルク伝達関数111、減算部112およびトルク・速度伝達関数113でブラシレスDCモータ2を構成している。
【0026】
前記マイコン8は、図3に示すように、位置信号を受け付けたことによる割込み処理1によってストップ、リセット、再スタートを行う周期測定タイマ81と、周期測定タイマ81がストップしたときのタイマ値を入力として位置信号の周期を演算する位置信号周期演算部82と、位置信号周期演算部82から出力される位置信号の周期を入力として速度演算を行い、現在の速度を算出して出力する速度演算部83と、外部から与えられる速度指令と速度演算部83から出力される現在の速度との差を算出して速度変動として出力する偏差演算部84と、偏差演算部84から出力される速度変動および外部から与えられる速度変動指令を入力として切り替え信号を算出して出力する切り替え信号演算部85と、偏差演算部84から出力される速度変動および切り替え信号演算部85から出力される切り替え信号を入力として1次成分補償モデルを演算して出力する1次成分補償モデル演算部86と、偏差演算部84から出力される速度変動を入力としてPI演算を行い、演算結果を出力するPI演算部87と、1次成分補償モデル演算部86から出力される1次成分補償モデルおよびPI演算部87から出力される演算結果を加算し、電圧指令として出力する加算器88と、位置信号周期演算部82から出力される位置信号の周期および外部から与えられる位相量指令を入力としてタイマ値を演算して出力するタイマ値演算部89と、タイマ値演算部89から出力されるタイマ値がセットされ、位置信号を受け付けたことによる割込み処理1によってスタートされ、セットされたタイマ値の計時が行われることによりカウントオーバー信号を出力する位相補正タイマ90と、タイマ値演算部89から出力されるタイマ値がセットされ、位相補正タイマ90から出力されるカウントオーバー信号による割込み処理2によってスタートされ、セットされたタイマ値の計時が行われることによりカウントオーバー信号を出力する通電幅制御タイマ91と、位相補正タイマ90から出力されるカウントオーバー信号による割込み処理2または通電幅制御タイマ91から出力されるカウントオーバー信号による割込み処理3によってメモリ93から電圧パターンを読み出して出力するインバータモード選択部92と、加算器88から出力される電圧指令およびインバータモード選択部92から出力される電圧パターンを入力としてパルス幅変調を行い、スイッチ信号を出力するPWM部94とを有している。
【0027】
前記1次成分補償モデル演算部86は、1次成分以外についてのゲインが0の補償を行うものである。したがって、1次成分補償モデル演算部86の入力に速度変動を用いても何ら問題はない。すなわち、速度指令は定常時には一定(直流)となるのであり、また1次成分補償モデル演算部86は、直流(または信号モデルの出力信号と周波数が異なる信号)が入力されても、その出力は零となる。換言すれば、1次成分補償モデル演算部86の入力として速度変動(=モータ速度−速度指令)を用いても、1次成分補償モデル演算部86の出力はモータ速度のみで決まる。したがって、制御性能には影響がないことになる。
【0028】
図4から図6はマイコン8の処理を説明するフローチャートである。なお、図4が割込み処理1を、図5が割込み処理2を、図6が割込み処理3を、それぞれ説明している。
図4のフローチャートの処理は、位置信号が受け付けられる毎に行われる。
ステップSP1において、位相量指令より位相補正タイマ90の値を演算し、ステップSP2において、位相補正タイマ90に位相補正タイマ値をセットし、ステップSP3において、位相補正タイマ90をスタートさせ、ステップSP4において、周期測定タイマ81をストップさせ、ステップSP5において、周期測定タイマ81の値を読み込み、ステップSP6において、周期測定タイマ81の値をリセットし、次の周期測定のために周期測定タイマ81をスタートさせる。そして、ステップSP7において、位置信号の周期を演算し、ステップSP8において、位置信号の周期の演算結果よりモータ回転速度を演算し、ステップSP9において、モータ回転速度および速度指令に基づいて速度変動を演算し、ステップSP10において、速度変動に対しPI制御を行い、平均電圧振幅指令を演算し、ステップSP11において、速度変動の大きさの平均値を演算し、得られた平均値に基づいて切り替え信号を出力し、ステップSP12において、速度変動と切り替え信号とに基づいて補償電圧振幅を演算し、ステップSP13において、平均電圧振幅に補償電圧振幅を加算し、これをインバータ電圧として出力し、そのまま元の処理に戻る。
【0029】
図5のフローチャートの処理は、位相補正タイマ90からカウントオーバー信号が出力される毎に行われる。
ステップSP1において、インバータモードを1ステップ進め、ステップSP2において、進められたインバータモードに対応する電圧パターンを出力し、ステップSP3において、通電幅指令より通電幅制御タイマのタイマ値を演算し、ステップSP4において、通電幅制御タイマにタイマ値{=(通電角−120)deg分のタイマ値}をセットし、ステップSP5において、通電幅制御タイマをスタートさせ、そのまま元の処理に戻る。
【0030】
図6のフローチャートの処理は、通電幅制御タイマ91からカウントオーバー信号が出力される毎に行われる。
ステップSP1において、インバータモードを1ステップ進め、ステップSP2において、進められたインバータモードに対応する電圧パターンを出力し、そのまま元の処理に戻る。
【0031】
図7は図1および図3に示す圧縮機駆動制御装置の各部の信号波形を示す図である。
ブラシレスDCモータ2により圧縮機3を駆動している場合に、図7中(A)に示すように差電圧VNMが得られ、図7中(B)に示すように積分信号∫VNMdtが得られ、図7中(C)に示すように位置信号が得られる。
【0032】
この位置信号に基づく割込み処理1により図7中(D)に示すように位相補正タイマ90がスタートする{図7中(D)に示す矢印の起点を参照}。そして、位相補正タイマ90からカウントオーバー信号が出力される{図7中(D)に示す矢印の終点を参照}毎に、図7中(E)に示すように通電幅制御タイマ91がスタートする{図7中(E)に示す矢印の起点を参照}。
【0033】
位相補正タイマ90からカウントオーバー信号が出力される{図7中(D)に示す矢印の終点を参照}毎、および通電幅制御タイマ91からカウントオーバー信号が出力される{図7中(E)に示す矢印の終点を参照}毎に、図7中(M)に示すようにインバータモードが1ステップずつ進められ、図7中(F)から図7中(K)に示すようにインバータ回路1のスイッチングトランジスタ12u1,12u2,12v1,12v2,12w1,12w2のオン−オフ状態がインバータモードに対応して切り替えられる。また、図7中(L)に示すようなインバータ出力電圧に基づいて各スイッチングトランジスタは、PWM制御部でチョッパ制御されている。なお、図7中(L)に示されている破線がPI演算部87の出力(平均電圧)であり、図7中(L)に示されている実線が1次成分補償モデル演算部86の出力(補償電圧)である。
【0034】
次いで、図2の制御モデルをさらに詳細に説明する。
トルクから回転速度に至るモータの伝達関数Gm(s)は図8に示すとおりであり、Gm(s)=1/(Jm・s+Dm)で与えられる。なお、ここで、Jmはモータを含む圧縮機回転部の慣性モーメント、Dmはモータを含む圧縮機回転部の摩擦係数、τmはモータ発生トルク、τLは圧縮機負荷トルク(圧縮トルク)を、それぞれ示している。
【0035】
ここで、1シリンダ構造の圧縮機の圧縮トルク波形は、図9中(A)に示すように、圧縮機回転部の回転角1回転で1周期の繰り返し波形になる。また、この圧縮トルクに含まれる調波成分は、図9中(B)に示すように、直流成分、1次成分、2次成分が大きく、それ以上の高次成分は急激に減衰する。圧縮機負荷の周期性に着目したトルク制御方式として特公平6−48916号公報に示す学習制御方式が提案されているが、この学習制御方式では負荷の全周波数成分について高いゲインを持ち、3次成分以上の小さなトルク変動に対応したモータトルクまで発生する。これに伴い、モータ電流が増加し、モータ損失の極小化を達成することが著しく困難になってしまう。
【0036】
ここで、外乱である圧縮トルクの各周波数成分に対しゲインを独立に持たせることができるトルク制御器について、内部モデル原理を適用して考えてみる。
図10中に従来の圧縮機の速度制御構成を示す。
内部モデル原理によれば、外乱入力に対する出力レギュレーションをとる{制御出力(この場合、速度)が0となる}ための必要十分条件は制御系の一巡伝達関数が信号モデルB(s)を含むことである。この信号モデルB(s)はインパルス入力に対し所定の外乱が出力として得られるように構成される。
【0037】
図12に示すように、ステップ外乱(圧縮機負荷トルクの直流成分)に対する信号モデルB(s)=1/sは図10の従来の制御系の一巡伝達関数に含まれている。したがって、圧縮機負荷の平均トルクによる制御出力、すなわち速度は0にできることが分かる。
ここで、圧縮機負荷に含まれる1次成分について図10、図12を参照して考えてみると、従来の制御系は内部モデル原理による出力レギュレーションの条件が満たされていないことが分かる。ここで、直流成分、1次成分(周波数が20Hz)に対する従来の制御系の応答をPI制御器の比例ゲインKP、積分ゲインKIをそれぞれKP=1.0(A・s/rad)、KI=0.1(A/rad)に選び、モータの慣性モーメントJm、摩擦係数DmがそれぞれJm=0.001(Nm・s2/rad)、Dm=0.0001(Nm・s/rad)であり、モータ駆動用電力変換器により発生トルクτmはKT=1.0(Nm/A)のトルク線形化制御が実現されていると仮定した場合のシミュレーション結果は図13に示すとおりである。
【0038】
図13のシミュレーション結果から明らかなように、負荷トルクの直流成分については、それに基づく速度が0に収斂し{図13中(A)参照}、その影響がなくなるが、1次成分による速度変動は抑制できない{図13中(B)参照}。図11は1次成分に対する外乱モデルを一巡伝達関数に追加したものであり、k1は制御系を安定にし、その応答速度を調整するためのゲインである。
【0039】
図14に圧縮機負荷トルクの直流成分、1次成分に対する図11の制御系の応答をそれぞれシミュレートした結果を示している。
図14のシミュレーション結果から明らかなように、負荷トルクの直流成分については図10の従来の制御系と同等の応答を示し{図14中(A)参照}、しかも、1次成分による速度変動が0に収斂し{図14中(B)参照}、共に外乱の影響を排除できている。2次以上の外乱成分についてもモデルを追加することで同様の効果を得ることができる。図11の制御系では、制御系の安定性確保や応答時間の調整を比例要素により行っているが、その他の要素(例えば、積分要素、微分要素)の組み合わせで実現してもよい。
【0040】
しかし、図11の制御系のままでは速度変動の目標値が0となるので、特公平4−36000号公報に示す方式が有している問題点を何ら解決できていない。そこで、図2に示すように、図11の制御系に対して切り替え部104を追加した。この切り替え部104は、圧縮機N回転間の速度変動の平均の大きさ(平均速度変動)Δωが所定値以下になると出力Fを0にし、可変構造1次成分補償部106の入力を0にするとともに、信号モデル(伝達関数)B’(s)を、出力が減衰する伝達関数になるように、B’(s)=ω1/{(s+α)2+ω12}に変更する。もちろん、平均速度変動Δωが所定値よりも大きい場合には、切り替え部104は出力Fを1にし、可変構造1次成分補償部106の入力をモータの回転速度にするとともに、信号モデルB’(s)をB’(s)=ω1/(s2+ω12)に変更する。また、切り替え部104には、切り替えの頻度を過度に多くしないように適当な幅のヒステリシス特性を持たせている。また、出力F=0において伝達関数B’(s)を変更し減衰特性を持たせているのは、伝達関数B’(s)の出力が直前の状態量(初期値)で決まる交流信号を出力し続け、例えば、圧縮機負荷トルクが小さくなった場合には見かけ上1次成分の補償量が高くなり、速度変動が必要以上に小さくなってしまうことを防止するためである。
【0041】
図15は図2の制御系の動作のシミュレーション結果を示す図である。なお、図15中(A)が平均速度変動Δωの経時変化を、図15中(B)が可変構造1次成分補償部106の出力の大きさの経時変化を、それぞれ示している。また、図15中(A)、図15中(B)において、aが切り替え部104を設けた場合を、bが切り替え部104を設けない場合を、それぞれ示している。
【0042】
以上のように、トルク制御によるモータ効率の低下を抑えるために、
「圧縮機負荷トルクの周期性と個々の周波数成分に対応した補償器が簡単に導出できる内部モデル原理に着眼し、構築したモータ電流の極小化に適した制御器」と、
「速度変動が所定値以下に達した時に1次(もしくは、それに加えて2次以上の)成分に対応する補償器の入力を0とし、さらに、その期間の各補償器出力に減衰特性を持たせるように補償器の伝達特性を変更し、速度変動を所定値近傍に保つ」
ことにより、この発明の最も要旨とする「必要以上の速度変動の低減を行わず(速度変動を零でない所定値に設定)、空気調和機システムとして実用化に支障がない振動レベルに保ち、空気調和機の効率を最大にする制御」を実現することができる。特に、圧縮機として1シリンダ方式のものを採用した場合には、圧縮機自体の効率を向上させることができるとともに、十分な制振効果を達成することができる。また、圧縮機として2シリンダ方式のものを採用できることはもちろんである。
【0043】
次いで、マイコン演算に適した伝達関数B’(s)の演算方法を説明する。
ここで、便宜上、位置信号に基づく割込み時点をサンプル点と称する。また、制御演算はサンプル点毎に行われる。
先ず、デジタル処理するために、図12に示す1次成分のモデルをz変換により離散化し、数1を得る。
【0044】
【数1】
ここで、Tは制御周期であり、図3から図6の処理系では位置検出回路の出力毎に制御演算、出力が行われ、4極モータ(インバータ出力周波数=モータ回転周波数の2倍)の場合には、T=2π/(12・ω1)となる。したがって、数1は数2となる。
【0045】
【数2】
しかし、数2の分子には、非整数項との積を含み、制御性能の劣化をなくすためには十分な演算精度を必要とするため、空気調和機に使われるような安価なマイコンでは演算時間が長くなり、制御が困難になってしまうという問題がある。
【0046】
そこで、2サンプル周期毎に数1の演算を行い、さらに制御の応答時間調整のためのゲインK1をK1/zとすることで演算式の簡単化を図れば、補償量u1(z)は数3となる。
【0047】
【数3】
また、1次成分補償器出力が演算されない2サンプル間の補償量u1(z)は、数4により1サンプル前、3サンプル前の演算出力結果より推定演算を行い、補償量が滑らかに出力されるようにしている(図16参照、また、数4は経験的に導いた)。
【0048】
【数4】
また、F=0において演算式は数5となる。
【0049】
【数5】
このとき、トルク補償量の減衰の早さを決める定数が非整数となり、これとの積和演算が必要になる。正確に減衰の早さを定めたい場合には演算上の不都合を生じるが、速度変動を目標値近傍に制御するには、演算精度を落とし(減衰時刻は精密に調整できない)ても問題はなかった。
【0050】
以上を変形、整理し、マイコンの演算式にて記述すると数6となる。なお、kはサンプル点を示す。
【0051】
【数6】
図17に目標速度変動と圧縮機総合効率との関係の実測結果を示す。この圧縮機駆動システムでは、速度変動を約4〜6(rpm)程度に設定すれば、省エネルギー効果と制振効果とを両立することができる。
【0052】
【発明の効果】
請求項1の発明は、モータ電流のピーク値が大きくなり、モータの効率が低下してしまうという不都合を抑制することができ、しかも圧縮機の音、振動を実用上問題にならない範囲内にすることができ、これらにより、圧縮機総合効率を低速から高速の広い運転範囲にわたって高め、ひいては空気調和機の省エネルギー効果を大幅に向上させることができるという特有の効果を奏する。
【0053】
請求項2の発明は、請求項1の効果に加え、効率を最大にすることができるという特有の効果を奏する。
請求項3の発明は、圧縮機の効率を高めるとともに、モータの効率低下を抑制し、しかも1シリンダ圧縮機の音、振動を実用上問題にならない範囲内にすることができ、これらにより、圧縮機総合効率を低速から高速の広い運転範囲にわたって高め、ひいては空気調和機の省エネルギー効果を大幅に向上させることができるという特有の効果を奏する。
【0054】
請求項4の発明は、モータ電流のピーク値が大きくなり、モータの効率が低下してしまうという不都合を抑制することができ、しかも圧縮機の音、振動を実用上問題にならない範囲内にすることができ、これらにより、圧縮機総合効率を低速から高速の広い運転範囲にわたって高め、ひいては空気調和機の省エネルギー効果を大幅に向上させることができるという特有の効果を奏する。
【0055】
請求項5の発明は、請求項4と同様の効果を奏する。
請求項6の発明は、補償精度を高めることができるほか、請求項5と同様の効果を奏する。
【0056】
請求項7の発明は、補償モデル演算手段を簡素化できるほか、請求項5と同様の効果を奏する。
請求項8の発明は、圧縮機の効率を高めるとともに、モータの効率低下を抑制し、しかも1シリンダ圧縮機の音、振動を実用上問題にならない範囲内にすることができ、これらにより、圧縮機総合効率を低速から高速の広い運転範囲にわたって高め、ひいては空気調和機の省エネルギー効果を大幅に向上させることができるという特有の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明のトルク制御方法が適用される圧縮機駆動制御装置の一実施態様を示す電気回路図である。
【図2】図1に対応する制御モデルを示す図である。
【図3】図1のマイコンを詳細に示すブロック図である。
【図4】割込み処理1を説明するフローチャートである。
【図5】割込み処理2を説明するフローチャートである。
【図6】割込み処理3を説明するフローチャートである。
【図7】図1および図4に示す圧縮機駆動制御装置の各部の信号波形を示す図である。
【図8】トルクから回転速度に至るモータの伝達関数を示す図である。
【図9】1シリンダ圧縮機の圧縮トルク波形および圧縮トルクの周波数分布を示す図である。
【図10】従来の制御系を示すブロック図である。
【図11】図10の制御系に対して1次成分補償器を付加した制御系を示すブロック図である。
【図12】圧縮トルクの直流成分、1次成分、2次成分の波形およびモデルを示す図である。
【図13】図10の制御系の外乱に対する速度応答を示す図である。
【図14】図11の制御系の外乱に対する速度応答を示す図である。
【図15】図2の制御モデルの動作を説明する図である。
【図16】補償量演算のタイミングと補償出力とを示す図である。
【図17】速度変動と圧縮機総合効率との関係の一例を示す図である。
【図18】空気調和機用圧縮機を室外機に組み込んだ状態を示す概略図である。
【図19】回転数に対する室外機外板の加振力の変化を示す図である。
【図20】従来のトルク制御によって1シリンダ圧縮機を駆動した場合における回転速度変動と圧縮機総合効率との関係を示す図である。
【符号の説明】
1 インバータ回路 2 ブラシレスDCモータ
3 空気調和機用圧縮機 4 マイコン
Claims (8)
- インバータ(1)によりモータ(2)に与える電流または電圧を制御し、このモータ(2)により圧縮機(3)を駆動する方法であって、
速度変動演算手段(84)(103)によって速度変動の大きさを演算し、速度変動の大きさが所定値より大きいことに応答して、切り替え手段(85)(104)が補償モデル演算手段(86)(106)による音、振動を低減するための補償量を高くするように制御し、逆に速度変動の大きさが所定値より小さいことに応答して、切り替え手段(85)(104)が補償モデル演算手段(86)(106)による音、振動を低減するための補償量を低くするように制御することによって、モータ(2)に与える電流または電圧を、効率の低下を所定値以下に抑制する範囲になり、かつ圧縮機(3)の主軸1回転中の回転速度変動が音、振動が実用上問題にならない範囲内で可能な限り大きな値の範囲内になるように制御することを特徴とする圧縮機のトルク制御方法。 - モータ(2)に与える電流または電圧を、効率の低下が最小になるように制御する請求項1に記載の圧縮機のトルク制御方法。
- 圧縮機(3)は、1シリンダ圧縮機(3)である請求項1または請求項2に記載の圧縮機のトルク制御方法。
- インバータ(1)によりモータ(2)に与える電流または電圧を制御し、このモータ(2)により圧縮機(3)を駆動する装置であって、
速度変動演算手段(84)(103)によって速度変動の大きさを演算し、速度変動の大きさが所定値より大きいことに応答して、切り替え手段(85)(104)が補償モデル演算手段(86)(106)による音、振動を低減するための補償量を高くするように制御し、逆に速度変動の大きさが所定値より小さいことに応答して、切り替え手段(85)(104)が補償モデル演算手段(86)(106)による音、振動を低減するための補償量を低くするように制御することによって、モータ(2)に与える電流または電圧を、効率の低下を所定値以下に抑制する範囲になり、かつ圧縮機(3)の主軸1回転中の回転速度変動が音、振動が実用上問題にならない範囲内で可能な限り大きな値の範囲内になるように制御するトルク制御手段(8)を含むことを特徴とする圧縮機のトルク制御装置。 - トルク制御手段(8)は、検出速度と速度指令との偏差を入力として比例・積分演算を行う比例・積分演算手段(87)と、検出速度と速度指令との偏差を入力として、圧縮トルクの所定の調波成分を表すモデルに基づき、これに対応する補償量を演算する補償モデル演算手段(86)と、比例・積分演算手段(87)からの出力および補償モデル演算手段(86)からの出力を加算して電圧指令を出力する加算手段(88)とを含んでいる請求項4に記載の圧縮機のトルク制御装置。
- 圧縮トルクの2つの調波成分について補償モデル演算手段を設けている請求項4または請求項5に記載の圧縮機のトルク制御装置。
- 圧縮トルクの1つの調波成分について補償モデル演算手段を設けている請求項4または請求項5に記載の圧縮機のトルク制御装置。
- 圧縮機(3)は、1シリンダ圧縮機(3)である請求項4から請求項7の何れかに記載の圧縮機のトルク制御装置。
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