JP3873335B2 - 鋼帯の電解脱スケール方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱間圧延や熱処理により鋼帯表面に生成した酸化スケールを間接通電法により電解脱スケールする方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
熱間圧延や焼鈍等により鋼帯表面には酸化スケールが生成する。そため、熱延鋼板として製品にする場合や、さらに冷間圧延を施す場合には、熱間圧延後に酸化スケールを酸洗等によって除去する必要がある。
【0003】
従来から最も多用されている炭素鋼の鋼帯の酸洗方法は、およそ10%程度の塩酸に鋼帯を浸漬する方法である。
【0004】
熱間圧延によって製造された鋼板表面の酸化スケールは、通常3層の構造を有している。
【0005】
図5は、表面に酸化スケールを有する炭素鋼の表面近傍の断面模式図である。同図に示すように、地金の表面にはFeOが、その上にFe3O4が、さらにその上にFe2O3が層状に生成する。
【0006】
これらの層の酸に対する溶解速度は、地金>ウスタイト(Fe0)>マグネタイト(Fe304)>ヘマタイト(Fe203)の順であり、最も難溶性のヘマタイト層が最表層にあるため、ヘマタイトの溶解速度が全体の酸洗を律速する場合が多い。そこで、テンションレベラー等を用いて鋼板に繰り返し曲げを施したり、冷間圧延することによってスケールに亀裂を付与し、酸液がスケールの内層まで浸透しやすくした後、酸洗することもある。当然、亀裂は多い方が酸洗速度は速まるが、スケールの剥離が起こりやすくなり、剥離したスケールがテンションレベラや圧延機のロールで鋼帯表面に押し込まれて、押し込み疵になるという問題も、しばしば発生する。
【0007】
特開昭53ー116231号公報には、鋼線材に繰り返し曲げと伸びとを与える機械的なスケールブレーキング処理を施し、水素よりもイオン化傾向の大なる金属の水溶性中性塩からなる電解液で、鋼線材を陰極として電解し、次いで鋼線材を陽極として電解する脱スケール方法が開示されている。しかし、この方法も前処理として機械的なスケールブレーキングを必要としている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、酸洗前に行われる機械的スケールブレイキング処理を省略したり、軽微な処理にしても、酸洗による鋼板の脱スケール速度を速めることができ、かつ脱スケールに用いる塩酸の消費量を少なくすることのできる酸洗方法を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
押し込み疵の原因となっている酸洗前のスケールブレイキング処理を省略または最小限にしても、速く酸洗することのできる方法について種々検討を行った。最表層の難溶性のヘマタイトと溶解しやすいウスタイトおよびマグネタイトをそれぞれに適した酸洗条件で、分けて酸洗することに着目し、実験、研究した結果次のような知見を得た。
【0010】
1)希塩酸中で、又は、アルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物及び塩化アンモニウムのうちの1種又は2種以上を含有する塩化物並びに塩酸の混合水溶液中で、陽極電極により鋼帯を陰極電解すると、前述の、最も難溶性のヘマタイトおよびマグネタイトが優先的に溶解される。また、陰極電解の後で、アルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物及び塩化アンモニウムのうちの1種又は2種以上を含有する塩化物水溶液中で、又は、アルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物及び塩化アンモニウムのうちの1種又は2種以上を含有する塩化物並びに塩酸の混合水溶液中で、陰極電極により鋼帯を陽極電解すると、ヘマタイトやマグネタイトの下にあるウスタイトおよび地金が溶解する。
【0011】
2)したがって、希塩酸中で陰極電解した後、アルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物及び塩化アンモニウムのうちの1種又は2種以上を含有する塩化物水溶液中で陽極電解するか、アルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物及び塩化アンモニウムのうちの1種又は2種以上を含有する塩化物並びに塩酸の混合水溶液中で陰極電解した後、同じ水溶液中で陽極電解すれば酸化スケールを効率よく除去できる。
【0012】
本発明は、このような知見基づきなされたもので、その要旨は下記の通りである。
【0013】
(1)上流側に設けた陽極と下流側に設けた、前記陽極と直流電源を介して接続された陰極とに鋼帯を順次対面させて走行させながら、間接通電法により鋼帯表面の酸化スケールを電解脱スケールする方法であって、先ず希塩酸水溶液中で前記陽極電極により鋼帯を陰極電解し、次いで、アルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物及び塩化アンモニウムのうちの1種又は2種以上を含有する塩化物水溶液中で前記陰極電極により鋼帯を陽極電解する電解脱スケール方法、および(2)アルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物及び塩化アンモニウムのうちの1種又は2種以上を含有する塩化物並びに塩酸の混合水溶液中において、前記陽極電極により鋼帯を陰極電解し、次いで前記陰極電極により鋼帯を陽極電解する電解脱スケール方法、並びに、(3)これらの電解脱スケールの後、さらに塩酸水溶液中に浸漬する方法。
【0014】
【発明の実施の形態】
図1〜4は、本発明の方法実施するための酸洗ラインの一例を模式的に示したものである。
【0015】
図1の場合は、陰極電解と陽極電解とで異なる電解液を用いる方法に使用する酸洗槽が2槽式の例である。上流側の第1槽1に希塩酸、下流側の第2槽2に、アルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物及び塩化アンモニウムのうちの1種又は2種以上を含有する塩化物水溶液を入れ、前者に陽極板3、後者に陰極板4を配置して、両者の間に直流の電流を負荷する。電極板は水平に移動する鋼帯5の上下面に対面させて、同じ極性(正または負)のものを配置する。
電解電流は第1槽の陽極板から希塩酸水溶液中を通って陽極板近傍の鋼帯へ流れ込み、鋼帯中を通って第2槽の陰極板近傍の鋼帯表面から、アルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物及び塩化アンモニウムのうちの1種又は2種以上を含有する塩化物水溶液を通って陰極板へ流れ込む。従って、陽極板近傍の鋼帯表面が陰極電解され、陰極板近傍の鋼帯表面が陽極電解される。
【0016】
なお、鋼帯の片面のみ脱スケールする場合は、各電極は鋼帯の片面のみに対面させればよい。
【0017】
まず、鋼帯が上流側の陽極板の近傍を通過する時に、陰極電解によってスケールの最も外側のヘマタイト層やその下にあるマグネタイト層が優先的に溶解し、次いで、下流側の陰極板の近傍を通過する時に、陽極電解によって下層のウスタイトや地金が溶解する。
【0018】
希塩酸中での、又は、アルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物及び塩化アンモニウムのうちの1種又は2種以上を含有する塩化物並びに塩酸の混合水溶液中での陰極電解によって、3価の鉄の酸化物であるヘマタイトやマグネタイトが還元されて、2価の鉄イオンとして溶解する。この時の反応式は、以下のように推定される。
【0019】
Fe203+6H++2e→2Fe2++3H20
Fe304+8H++2e→3Fe2++4H20
なお、ここで言う希塩酸とは、1〜6%程度の濃度の塩酸をいうが、ヘマタイトの溶解のみが目的であれば、塩酸濃度はむしろ濃い方が望ましい。しかし、実際の製造設備を作ることを考えた場合、電解用電極の消耗をなるべく少なくするためには、塩酸濃度を薄くすることが望ましい。好ましい濃度は1〜2%である。
【0020】
電極板は必ずしも鋼帯の進行方向に長いものは必要なく、ある程度の長さに分割した複数の同極性の電極板を、ある程度の間隔を置いて配列してもよい。例えば、鋼帯の進行方向の長さが200〜500mmの陽極板2〜5枚と陰極板2〜5枚を200〜500mm間隔で配列する。そして陽極板と陰極板のペアを2〜5対設け、それぞれ独立の電気回路にしておけば、鋼帯の脱スケールの難易度に応じてそれぞれの電極対の負荷電圧を変えることができ、電力の節約や表面品質の安定に役立つ。
【0021】
なお、図1において、アルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物及び塩化アンモニウムのうちの1種又は2種以上を含有する塩化物水溶液中での陰極電解に用いる陽極としては、金属ニッケルやステンレス鋼が使用できるが、金属チタンに白金族元素の酸化物を被覆したものが、電流効率や耐食性の面から優れている。また、電解の電流密度は50〜500mA/cm2程度が適当であり、通常、電流密度が増すほど脱スケール促進効果が大きい。
【0022】
図2の場合は、陰極電解と陽極電解で同じ電解液を用いる1槽式の例で、酸洗槽6には、アルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物及び塩化アンモニウムのうちの1種又は2種以上を含有する塩化物並びに塩酸の混合水溶液が入っており、鋼帯5は酸洗槽内の上流側の陽極板3の間を通過し、下流側の陰極板4の間を通り酸洗槽外にでて行く。
【0023】
アルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物及び塩化アンモニウムのうちの1種又は2種以上を含有する塩化物水溶液中での、又はアルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物及び塩化アンモニウムのうちの1種又は2種以上を含有する塩化物並びに塩酸の混合水溶液中での陽極電解による脱スケール機構は以下のように推測される。
【0024】
図6は、アルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物及び塩化アンモニウムのうちの1種又は2種以上を含有する塩化物水溶液中で、又は、アルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物及び塩化アンモニウムのうちの1種又は2種以上を含有する塩化物並びに塩酸の混合水溶液中で陽極電解した場合の脱スケール機構を説明するための図である。
【0025】
鋼板を陽極電解すると、塩化物水溶液中の塩素イオン(Cl-)が鋼板の陽電荷に引きつけられて鋼板表面近傍に濃縮し、pHが低下する(水素イオンの活量が増加する)。そして、スケールの亀裂内の溶液のpHが低下すると、酸に溶解しやすい地金やウスタイト層に沿って溶解が進行する。
【0026】
塩化物としては、アルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物及び塩化アンモニウムのうちの1種又は2種以上を含有せしめるが、なるべく溶解度の大きいものが望ましい。そして、この塩化物水溶液の濃度はなるべく高い方が脱スケール効果が大きく、温度は高い方がよい。なお、硫酸塩水溶液や硝酸塩水溶液では効果が無く、この塩化物水溶液であっても、陰極電解では効果が無い。
【0027】
図3は、図1で示した酸洗ラインに、さらに塩酸水溶液槽を設けた酸洗ラインで、図4は図2で示した酸洗ラインに、さらに塩酸水溶液槽を設けた酸洗ラインを示す。
【0028】
図3および図4に示した酸洗ラインでの脱スケール方法では、陰極および陽極による電解脱スケール処理で完全に脱スケールする必要はなく、残ったスケールは後の塩酸水溶液に浸漬することにより除去できる。したがって、この方法は電解のみによる脱スケール方法よりも酸洗速度を速めることができるという利点がある。前段の電解脱スケール処理によって大部分のスケールが除去されているので、塩酸水溶液への浸漬処理はごく短時間でよく、塩酸水溶液の濃度も従来一般的に用いられている10%程度より薄くても十分に脱スケールが可能である。さらに、塩酸水溶液の温度も従来の80〜90℃という高温でなく、30〜50℃という比較的低温でも脱スケール可能である。このような低濃度、低温の塩酸が使用できるということは操業上、塩酸の節約、加熱エネルギーの節約、廃液や排ガス処理費の節約、工業廃棄物の削減、公害の防止等の面で有利である。
【0029】
なお、本発明の電解脱スケール方法の対象とする鋼帯の鋼種は、ウスタイト、マグネタイトおよびヘマタイトを備えた酸化スケールを生成する鋼種であればよい。例えば、低炭素鋼、高炭素鋼や高Si鋼等である。
【0030】
【実施例】
(実施例1)
板厚2.8mm、幅50mmの低炭素鋼の熱延鋼帯を図1および図2に示す構成の連続酸洗装置を用いて、電解液の種類、電流密度および電解時間の組み合わせを種々に変えて電解脱スケールを実施した。
【0031】
また、比較のために、図2の装置で電極を全て取り外した槽に2.9mol/dm3HCl(50℃または80℃)を入れ、浸漬のみによる酸洗を行った。
【0032】
なお、電解における電流密度と電解時間は、鋼板の搬送速度と電極のライン方向長さを種々に変えることによって調整した。酸洗終了後、鋼帯表面の脱スケール状態を調べ、脱スケール率を求めた。を結果を表1に示す。
【0033】
なお、表中の水溶液A〜Fは下記の通りである。
【0034】
【0035】
【表1】
【0036】
表1から明かなように、従来の塩酸浸漬法では90秒間の酸洗時間では十分に脱スケールができないのに対して、本発明法によれば、デスケーリングの前にスケールブレーキング処理を施すことなく24〜60秒間以内に充分脱スケールができ、美麗な酸洗肌が得られた。また、テンションレベラでスケールブレーキングした後、従来法である塩酸水溶液浸漬方法によるNo.25〜28に比べて脱スケールに要した時間は短い。
【0037】
(実施例2)
板厚3.1mm、幅50mmの極低炭素鋼の熱延鋼帯を図3および図4に示す構成の連続酸洗設備を用いて、電解液の種類、電流密度、電解時間、浸漬酸洗の塩酸濃度および温度の組み合わせを種々に変えて電解および塩酸水溶液浸漬による脱スケールを実施した。また、比較のため、図3および図4の装置の第3槽のみを用いて、これに従来、一般的に採用されている2.9mol/dm3HCl(50℃または80℃)を入れ、浸漬のみによる酸洗を行った。なお、電解における電流密度と電解時間は、鋼板の搬送速度と電極のライン方向長さを種々に変えることによって調整した。酸洗終了後、鋼帯表面の脱スケール状態を調べ、脱スケール率を求めた。結果を表2に示す。なお、表中の水溶液A〜Kは下記の通りである。
【0038】
【0039】
【表2】
【0040】
表2から明らかなように、従来の塩酸浸漬法では30秒間の酸洗時間では十分に脱スケールができないのに対して、本発明法によれば、デスケーリングの前にスケールブレーキング処理を施すことなく、6〜16秒間以内に十分脱スケールができ、美麗な酸洗肌が得られた。
【0041】
【発明の効果】
本発明によれば、▲1▼鋼板の脱スケール速度を大幅に速めることが可能、▲2▼酸洗のための塩酸消費量が大幅に削減可能、▲3▼メカニカルスケールブレイキング省略に伴う押し込み疵減少等の効果が得られ、工業的価値が大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】鋼帯の連続酸洗装置の構成を示す模式図(2槽式)である。
【図2】鋼帯の連続酸洗装置の構成を示す模式図(1槽式)である。
【図3】鋼帯の連続酸洗装置の構成を示す模式図(3槽式)である。
【図4】鋼帯の連続酸洗装置の構成を示す模式図(2槽式)である。
【図5】スケールを有する炭素鋼板表面近傍の断面模式図である。
【図6】塩化物水溶液中での陽極電解によって、鋼板表面のスケールの亀裂部より溶解が進行する様子を示す模式図である。
【符号の説明】
1 第1層
2 第2層
3 陽極板
4 陰極板
5 鋼帯
Claims (3)
- 上流側に設けた陽極と下流側に設けた、前記陽極と直流電源を介して接続された陰極とに鋼帯を順次対面させて走行させながら、間接通電法により鋼帯表面の酸化スケールを電解脱スケールする方法であって、先ず希塩酸水溶液中で前記陽極電極により鋼帯を陰極電解し、次いで、アルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物及び塩化アンモニウムのうちの1種又は2種以上を含有する塩化物水溶液中で前記陰極電極により鋼帯を陽極電解することを特徴とする鋼帯の電解脱スケール方法。
- 上流側に設けた陽極と下流側に設けた、前記陽極と直流電源を介して接続された陰極とに鋼帯を順次対面させて走行させながら、間接通電法により鋼帯表面に生成した酸化スケールを電解脱スケールする方法であって、アルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物及び塩化アンモニウムのうちの1種又は2種以上を含有する塩化物並びに塩酸の混合水溶液中において、前記陽極電極により鋼帯を陰極電解し、次いで前記陰極電極により鋼帯を陽極電解することを特徴とする鋼帯の電解脱スケール方法。
- 請求項1または請求項2の方法における陰極電極による鋼帯の陽極電解の後、さらに塩酸水溶液中に浸漬することを特徴とする鋼帯の電解脱スケール方法。
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