JP3871483B2 - ボルト - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、塗装されためねじ(ナット等)との締結時にあたって、めねじとの間に通電性を持たせるボルトに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、例えば自動車の組立ラインにおけるボルトとウェルドナット等のめねじ(以下単にナットと称する)の組み合わせによる締結においては、通常工程としては、ボデイ等に溶接によりナットを取付け、厚膜カチオン塗装処理等の塗装処理を施した後に各部位をボルトによって締結している。
【0003】
この時に、たとえばボルトを利用してアース取りを行うべく、ボルトとナット間に通電性を持たせる場合には、ナット内に入った塗料をリタップでとるか、塗装時に塗料がナット内に入らないようにマスキングをしなければならない。
【0004】
そこで、このような無駄な工程を省略して作業性の向上を図るために、ナット内に塗料が入ったままの状態で、ボルトを締め付けて通電性を持たせるボルトが開発されている。
【0005】
そのような従来技術に係るボルトの一例について、図5を参照して説明する。図5は従来技術に係るボルトの主要部を示す概略構成図である。
【0006】
図5(A)に示すものは、ねじ軸101の先端部に塗装剥離用溝102を形成し、ねじ軸101の中途部に通電部103を形成した例であり、塗装剥離用溝102と溝形成によって発生したナットねじ山より大きいねじ山バリによって塗膜を剥離させるものである。
【0007】
また、通電部103はナットねじ山の断面形状より大きく変形させたねじ山を、ナットのねじ山に食い込ませて通電性を持たせるものである。
【0008】
一方、図5(B),(C)に示すものは、ねじ山111の外周に部分的に突起112を形成し、この突起112によって塗膜を剥離すると共にナット側のめねじ部に食い込ませて通電性を持たせるようになっている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述したような、ナット内に塗料が入ったままの状態で、ボルトを締め付けて通電性を持たせるボルトの場合には、塗膜の剥離や通電部における接触状態が不十分であることが原因で通電が不安定となってしまったり、ねじ込みトルクが高くなって作業性が悪くなってしまったりするなどの問題が生じ易い。
【0010】
例えば、上記した図5(a)に示す塗装剥離機能を有するボルトでは、ナット内の塗膜を、ねじ先端の塗装剥離用溝102と、溝形成によって発生したナットねじ山より大きいねじ山バリにより剥離させるために、剥離が不十分となってしまったり、ねじ込みトルクが高くなり易かった。
【0011】
また、通電性のためにナットねじ山形より大きく変形させたねじ山を、ナットのねじ山に食い込ませて通電性を持たせているために、一層ねじ込みトルクが高くなり易かった。
【0012】
また、図5(b),(c)に示すような、塗装剥離機能を持たすために非円形ねじを有するボルトについても、突起部111においてねじ外径が大きく、締め付け時にめねじ部に食い込むために、やはりねじ込みトルクが高くなってしまったり、塗膜の剥離が不十分で通電部の状態が不安定となりやすいという問題が生じ易かった。
【0013】
なお、トルクが高い場合には、特に、溶接ナットに締結するような場合には、溶接部が破損してしまうという問題もあった。
【0014】
本発明は上記の従来技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、ねじ込みトルクを増大させることなく、塗膜をより確実に除去することができ、より一層安定した通電性能を得ることのできる信頼性に優れたボルトを提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明にあっては、相手めねじへの締付け動作により、めねじ側の塗膜を剥離する凸部を、ねじ山の少なくとも圧力側フランクに部分的に備えるボルトであって、前記凸部におけるボルトの軸線を含んだ断面形状が、めねじ側のフランク角度と略等しくなるフランク角を備えることを特徴とする。
【0016】
従って、圧力側フランクに部分的に備えられた凸部によって、相手めねじ側の塗膜を、ばり等で剥離する場合に比べて、より確実に剥離することができる。
【0017】
また、めねじ側の塗膜を剥離する凸部を、相手めねじとの締結部となる平行ねじ部と、当該平行ねじ部よりも先端側に設けられたテーパねじ部にそれぞれ設けることは好適である。
【0019】
また、ねじ山の谷底側に設けられる第1圧力側フランクと、前記ねじ山の山の頂側に設けられ、前記第1圧力側フランクのフランク角よりも角度の小さいフランク角を有する第2圧力側フランクと、前記ねじ山の山の頂に設けられた平ら部と前記第2圧力側フランクとの境界に形成されると共に、相手めねじとの締結時にめねじのフランクに食い込んで通電性能を得るエッジと、を備えると共に、相手めねじへの締付け動作により、めねじ側の塗膜を剥離する凸部を、相手めねじとの締結部となる平行ねじ部及び、当該平行ねじ部よりも先端側に設けられたテーパねじ部の少なくとも圧力側フランクに部分的に備え、かつ前記凸部は、該凸部におけるボルトの軸線を含んだ断面形状が、めねじ側のフランク角度と略等しくなるフランク角を備えることを特徴とする。
【0020】
従って、相手めねじへの締付け動作により、ねじ込みトルクを増大させることなく、まず、先端側に設けられたねじ山に備えられた凸部によって、めねじ側の塗膜がより確実に剥離され、剥離された部分にエッジが食い込むことで、より安定した通電性能を得ることができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がないかぎりは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0022】
図1〜図4を参照して、本発明の実施の形態に係るボルトについて説明する。
【0023】
まず、図1を参照して、ボルト全体の概略構成等について説明する。図1は本発明の実施の形態に係るボルトの模式図であり、(A)は底面から見た模式図であり、(B)は正面から見た模式図である。
【0024】
図示のように、ボルト1は、概略、頭部2と、ねじが形成された軸部3と、から構成されている。
【0025】
ここで、軸部3は、さらに、平行ねじ部31と、テーパねじ部32と、から構成されており、テーパねじ部32を設けることによって、めねじへの挿入性を向上させると共に、ねじの倒れを防止させている。
【0026】
また、テーパねじ部32から平行ねじ部31の一部にわたる領域に、周方向に対して部分的に複数の凸部4が設けられている。なお、図示の例では、図1(A)に明示したように、周方向に対して4ヶ所設けられているが、その個数が限定されることはないことは言うまでもなく、その形状も図示の形状に限定されることはない。
【0027】
この凸部4は、めねじの塗膜を剥離するために設けられたものであり、以下、特に図2を参照して、塗膜剥離メカニズムについて説明する。
【0028】
図2は塗膜剥離メカニズムを説明するためのモデル図であり、図1(B)に示すボルト1におけるR付近におけるねじの断面であって、図1(A)における、凸部4が設けられていない部分のねじ断面(PP断面)と、凸部4が設けられている部分のねじ断面(QQ断面)とを合成したものと、ねじ込み過程における相手めねじであるナット5の谷部51との位置関係を示している。
【0029】
なお、図2中、Pで示す実線部が図1(A)におけるPP断面の外形に相当し、Qで示す実線部が図1(A)におけるQQ断面の外形に相当するものである。
【0030】
図示のように、テーパねじ部32にあるねじ32aは、ねじ先端に向かうにつれて、ねじ外径が徐々に小さくなっており、また、凸部4も同様にねじ先端に向かうにつれて、その外径(凸部4の頂部を仮想的に結ぶ円筒部の外径を意味する)が徐々に小さくなっている。
【0031】
ここで、凸部4のねじの軸線を含んだ断面形状は、図に示すように、ねじ込み動作によって適正に塗膜を剥離できるように、ナット5のフランク角度と略等しくなるフランク角度を備えたようなねじ山形状となっている。
【0032】
ただし、図示の例では、圧力側フランクに対しても遊び側フランクに対してもいずれもフランク角が等しくなるような外壁面を有する場合を示しているが、実質的には通電を圧力側で行うため、圧力側フランク側のみフランク角が等しくなるような形状を有するようにすれば、所定の機能を発揮する。
【0033】
このように、テーパねじ部32に形成された凸部4は、その外壁面とナット5のフランクとの間の隙間が、ねじ先端側から頭部2に向けて徐々に狭くなるように構成されている。
【0034】
そして、図示のように、平行ねじ部31に形成された凸部4の外壁面とナット5のフランクとの間には、実質的に隙間がないように構成されている。なお、上記のように圧力側フランクで通電をとれば良いことから、圧力側フランクに対してのみ隙間がなくなるような形状としても良い。
【0035】
以上のような構成により、ナット5に対してボルト1をねじ込んでいくと、軸力の発生に伴って、テーパねじ部32に形成された凸部4のうち、ねじ先端側の凸部4から頭部2側の凸部4へと、順にこれらの凸部4によってナット5内に施された塗膜を剥離していく。
【0036】
そして、ねじ込みが進み、平行ねじ部31にまで達すると、その外壁面がナット5のフランクに対して実質的に隙間のない凸部4によって、ナット5内に施された塗膜(少なくとも圧力側フランクに施された塗膜)は完全に剥離されることになる。
【0037】
ここで、剥離された塗膜は凸部4間のフランク上に蓄積されていき、ねじ込み動作が進むにつれて、徐々にねじ込み方向に押し出されて、ナット5の外部へと順次掃き出される。
【0038】
以上のように、ねじ先端側の外径の小さな凸部4から徐々に外径の大きな凸部4により、すなわち、めねじのフランクとの隙間が大きな凸部4から徐々に隙間が小さくなり、最終的には隙間のなくなる凸部4により、順に、めねじ内に施された塗膜は剥離されていくため、たとえ膜厚が大きな場合でも、その表層から少しづつ剥離されていくため、ねじ込みトルクを増大してしまうことなく、無理なく、塗膜を確実に全て剥離させることができる。
【0039】
なお、凸部4の形成は、たとえば、正規のねじ山を形成するための、ダイスの所望の位置に、凸部4を形成するための凸部用ダイスを嵌め込んだ転造ダイスを用いれば、ねじ転造によって容易に成形することができる。
【0040】
次に、平行ねじ部31に設けられたねじ31aについて、特に図3を参照して詳しく説明する。図3はねじの断面形状の模式図であり、図1(B)におけるS部付近のねじについて示しており、図3(A)は平行ねじ部31に設けられたねじ31aの模式的断面図であり、図3(B)は相手めねじに締結された状態におけるねじ31aの様子を示す模式的断面図である。
【0041】
図3(A)に示すように、ねじ31aは、ねじの軸線に垂直な中心線T1を中心とするねじ山角度αのねじ山と、同じく軸線に垂直であって、かつ、中心線T1よりも頭部2側(圧力側)にずれた位置にある中心線T2を中心とするねじ山角度β(β<α)のねじ山を重ね合わせた構成となっている。
【0042】
すなわち、ねじ山の谷底側に設けられる第1圧力側フランクS1と、ねじ山の山の頂側に設けられる第2圧力側フランクS2と、を備えた構成となっている。
【0043】
ここで、第1圧力側フランクS1のフランク角α1は、一般的なねじの場合と同様に、めねじ側のフランク角と同一となるように構成されている。
【0044】
一方、第2圧力側フランクS2のフランク角β1は、α1>β1の関係にあり、すなわち、めねじ側のフランク角よりも小さく、めねじ側のフランクに向かう方向に傾斜した構成となっている。
【0045】
また、ねじ山の頂に設けられた平ら部S3と第2圧力側フランクS2との境界にはエッジEが形成されている。
【0046】
なお、これまで説明したような、ねじ山の角度を山の途中で変えたねじの形成は、一般的なねじ転造によって容易に成形することができる。
【0047】
以上の構成により、ナット5との締結時においては、軸力の発生に伴って、エッジEがめねじのフランクに食い込んで(図3(B)中T部)通電性能を得ることができる。
【0048】
なお、図4は、被締付け部材6(例えば、自動車のボディーパネル等)に溶接されたナット5を締結した様子を示している。
【0049】
ここで、図3に示すような形状とするねじのねじ軸方向における形成領域は、平行ねじ部31とテーパねじ部32の全体の領域に設けられたねじに適用しても良いが、上記のように、そのような形状とするのは、主として通電性能を得ることを目的としているため、相手めねじ(ナット5)に締結され得る領域内のみに適用しても良い。
【0050】
以上のように、本発明の実施の形態に係るボルト1を、ナット5に締結させる場合には、まず、ナット5にねじ込むことで、ねじ込みトルクを増大させることなく、凸部4によってナット5内の塗膜を完全かつ確実に剥離させることができ、剥がれた膜をナット5の外部に掃き出し、その後、塗膜が完全に剥離されて素材が露出された部分に、フランク角(ねじ山角度)を異ならせることで形成されたエッジを食い込ませることで、安定した通電性能を得ることができる。
【0051】
上記のように構成されたボルトについて、従来技術に係るボルトと、その性能を比較したところ、通電性、耐ゆるみ性および締付け特性について良好な結果を得ることができた。
【0052】
すなわち、本実施の形態に係るボルトは、締付けトルクに対する通電性能や、繰返し締付けによる通電性能や、腐食に対する通電性能において、従来品に比べて、良好な結果を得ることができた。
【0053】
このような結果を得た主な要因としては、エッジEがめねじのフランクに食い込んで通電性能を得ていること等が挙げられる。
【0054】
また、耐ゆるみ性が向上した主な要因としては、エッジEがめねじのフランクに食い込んでおり、おねじとめねじは固着状態であるので、戻し方向の回転力が加わった場合でも、戻り回転が起こりにくいこと等が挙げられる。
【0055】
なお、本実施の形態に係るボルトにおける通電部の軸線に対する垂直な断面形状は、通常のボルトと同様に円形状であるので、多角形タイプに比べて、標準ボルトと同様なねじ山嵌合状態を得ることができる。
【0056】
また、締付け特性に関して本実施の形態に係るボルトは、従来品と比較しても、ねじ込みトルクや、同一トルクでの発生軸力(トルク係数)において、良好な結果を得ることができた。
【0057】
【発明の効果】
以上説明したように、凸部を設けることによって、ねじ込みトルクを増大させることなく、めねじに施された塗膜を確実に除去することができ、信頼性が向上する。
【0058】
また、フランク角の異なる圧力側フランクを設けて、エッジを形成して、このエッジをめねじのフランクに食い込ませて通電性能を得るようにすることで、ねじ込みトルクを増大させることなく、安定した通電性能を得ることができ、信頼性が向上する。
【0059】
また、ねじ先端側に設けた凸部で、めねじに施された塗膜を確実に除去した後に、エッジを食い込ませるようにすることで、ねじ込みトルクを増大させることなく、塗膜をより確実に除去することができ、より一層安定した通電性能を得ることのでき、信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係るボルトの模式図である。
【図2】塗膜剥離メカニズムを説明するためのモデル図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るボルトを構成するねじの断面形状の模式図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るボルトをナットに締結させた状態を示す模式図である。
【図5】従来技術に係るボルトの主要部を示す概略構成図である。
【符号の説明】
1 ボルト
2 頭部
3 軸部
31 平行ねじ部
31a ねじ
32 テーパねじ部
32a ねじ
4 凸部
5 ナット
51 谷部
6 被締付け部材
E エッジ
S1 第1圧力側フランク
S2 第2圧力側フランク
S3 平ら部

Claims (3)

  1. 相手めねじへの締付け動作により、めねじ側の塗膜を剥離する凸部を、ねじ山の少なくとも圧力側フランクに部分的に備えるボルトであって、前記凸部におけるボルトの軸線を含んだ断面形状が、めねじ側のフランク角度と略等しくなるフランク角を備えることを特徴とするボルト。
  2. めねじ側の塗膜を剥離する凸部を、相手めねじとの締結部となる平行ねじ部と、当該平行ねじ部よりも先端側に設けられたテーパねじ部にそれぞれ設けることを特徴とする請求項1に記載のボルト。
  3. ねじ山の谷底側に設けられる第1圧力側フランクと、
    前記ねじ山の山の頂側に設けられ、前記第1圧力側フランクのフランク角よりも角度の小さいフランク角を有する第2圧力側フランクと、
    前記ねじ山の山の頂に設けられた平ら部と前記第2圧力側フランクとの境界に形成されると共に、相手めねじとの締結時にめねじのフランクに食い込んで通電性能を得るエッジと、を備えると共に、
    相手めねじへの締付け動作により、めねじ側の塗膜を剥離する凸部を、相手めねじとの締結部となる平行ねじ部及び、当該平行ねじ部よりも先端側に設けられたテーパねじ部の少なくとも圧力側フランクに部分的に備え
    かつ前記凸部は、該凸部におけるボルトの軸線を含んだ断面形状が、めねじ側のフランク角度と略等しくなるフランク角を備えることを特徴とするボルト。
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