JP3861620B2 - 高ストレッチ性ポリエステル繊維の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はストレッチ性を有するポリエステル繊維の製造方法に関するものである。詳しくは優れたストレッチ性能を有するとともに、高次加工での工程通過性および織編物にした際の品位が良好で、操業安定性、品質安定性に優れたストレッチ性ポリエステル繊維の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、ポリエステル繊維にストレッチ性、捲縮性を与えるため種々の手法が採用されている。例えばポリエステル糸に仮撚り加工を施し、加撚/解撚トルクを発現させてストレッチ性能を付与する方法、収縮特性または溶融粘度の異なる重合体をサイドバイサイド型や偏芯芯鞘型に複合紡糸し捲縮糸を得る方法も種々提案されている。例えば、特公昭44−2504号公報や特開平4−308271号公報には固有粘度差あるいは極限粘度差を有するポリエチレンテレフタレート(以下PETと略す)のサイドバイサイド型の複合糸、特開平5−205634号公報にはホモPETとそれより高収縮性の共重合PETのサイドバイサイド型複合糸が記載されている。
【0003】
このような捲縮性ポリエステル複合糸を用いれば確かにある程度のストレッチ性能を得ることが出来るが、織編物にした際のストレッチ性能が不十分であり、ストレッチ性能発現のために高次工程において撚糸加工を施すことによる撚りトルクが必要となる場合も多く、高次工程にかかるコストが高くなる。
【0004】
また、特に高次工程での撚糸加工を実施しない織編物においては、糸を通常の2工程法において製造する場合では、延伸工程でのボビン巻に際し高張力が付加され、捲縮糸のコイル位相が揃い、織編物にした際にシボ、耳シワ、ヨコ段等の品位面での問題が発生する。
【0005】
一方、製造工程の合理化を目的とした従来2工程法から紡糸直接延伸法と呼ばれる一工程化が進められている。この紡糸直接延伸法による一般糸の製造においては使用するポリマーや要求される特性が単純であるため、通常、一対の引取、延伸ローラーと巻取機からなる装置が使用されており、パッケージの巻姿を良好にするために糸条を延伸ローラーで延伸、熱処理した後、ローラと巻取機との間で弛緩し、巻き取る方法が採用されている。しかしながらストレッチ性繊維を得る場合、得られる糸条は弛緩することによりストレッチ性が低下してしまう。
【0006】
このような問題を解決するために、例えば特開平8−337916号においては延伸ローラーで延伸、熱処理された糸条を定長あるいは緊張状態で引取り、糸条をガラス転移点以下の温度に冷却した後、弛緩して巻き取る方法が提案されている。しかしながら、本方法では良好なストレッチ性能は得られるものの、ローラーのみでガラス転移点以下に冷却するためにはローラーが煩雑なものとなり、さらに糸条の収束性が悪く、特に捲縮糸において発現しやすい毛羽、タルミによる高次工程での糸切れが多くなってしまう。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はかかる従来技術の欠点を克服し、優れたストレッチ性能を有するとともに、高次加工での工程通過性および織編物にした際の品位が良好で、操業安定性、品質安定性に優れたストレッチ性ポリエステル繊維を安価に提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するため、本発明は下記の構成からなる。
【0009】
高粘度成分がポリトリメチレンテレフタレートであり、交絡度(CF)5コ/m以上、交絡開繊長最大値(Lmax)500mm以下であるサイドバイサイド型複合ポリエステル繊維を製造するに際して、ポリエステル系重合体を溶融紡糸、冷却、固化して一旦巻き取ることなく連続して延伸、熱処理する直接紡糸延伸方法において、延伸、熱処理された糸条を、実質的に延伸することなく、複数の中間ローラーに巻付角θ150〜210°で片掛けした後巻き取る工程であって、延伸ローラーと第1中間ローラー間のストレッチ率 ( X ) 、および複数の中間ローラー間のストレッチ率 ( Y ) が下記式を満足し、中間ローラーを経た後に交絡処理を施すことを特徴とするポリエステル繊維の製造方法。
( 1 ) 延伸ローラー、第1中間ローラー間ストレッチ率 ( X ) −7≦X≦7
( 2 ) 複数の中間ローラー間ストレッチ率 ( Y ) −5≦Y≦−1
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の高ストレッチ性ポリエステル繊維は、粘度の異なる2成分のポリマーを繊維軸方向に貼り合わせたバイメタル複合繊維である。2成分の複合比率は通常サイドバイサイド型複合による捲縮性付与に用いられる複合比率で、80:20〜20:80であり、好ましくは60:40〜40:60である。
【0012】
本発明のストレッチ性ポリエステル繊維は下記の原糸物性を同時に満足する必要がある。
【0013】
(1)交絡度(CF) CF≧5コ/m
(2)交絡開繊長最大値(Lmax) Lmax≦500mm
次に交絡度(以下CFと略す)、および開繊長最大値(以下Lmaxと略す)は後述の実施例に記載の方法で測定して示す値であり、高次工程での工程通過性に大きな影響を及ぼす。CFは5コ/m以上であり、好ましくは10コ/m以上である。CFが5コ/m未満の場合、得られるポリエステル繊維の収束性が悪く、製織・製編での毛羽、糸切れが多発し、本発明の目的を達成することができない。またLmaxは500mm以下であり、好ましくは300mm以下である。Lmaxが500mmを超す場合、仮にCFが本発明の範囲内にある場合においても非収束部分が散発しており、製織・製編での毛羽、糸切れが多発し、本発明の目的を達成することができない。
【0014】
本発明におけるストレッチ性ポリエステル繊維では、粘度の異なる2種のポリマーのうち高粘度成分がポリトリメチレンテレフタレートからなることがより高いストレッチ性能を得る上で好ましい。
【0015】
本発明におけるストレッチ性ポリエステル繊維では、得られる製品の巻姿がドラム形状を形成していることが好ましい。通常の2工程法等で得られるボビン形状に比べ、ドラム巻を形成する際の巻取張力を低めにすることが可能であり、捲縮糸のコイル位相が揃うことによる織編物にした際のシボ、耳シワ、ヨコ段等がない良好な品位を得る上で好ましい。
【0016】
次に本発明のストレッチ性ポリエステル繊維の製造方法の実施の一形態を図1に示す。本発明のストレッチ性ポリエステル繊維は粘度の異なる2成分のポリマーを繊維軸方向に貼り合わせた状態で口金より吐出、冷却、固化して引取り、引取、延伸ローラー間で延伸、熱処理された糸条を、実質的に延伸することのなく、延伸ローラーと巻取機の間に設置された中間ローラーを経てから巻き取り、かつ巻き取り前に交絡処理を施すことにより得ることができる。
【0017】
この場合、前述したストレッチ性能と品位、高次工程通過性の良好なポリエステル繊維を簡易な設備で安定に得る上で、延伸ローラーと巻取機の間に設置する中間ローラーにおいてポリエステル繊維を下記式の巻付角θで片掛けすることが好ましく、さらに1対のローラー間で流体交絡処理を施すことがより好ましい。
【0018】
巻付角θ 150≦θ≦210°
巻付角が高すぎるとロールへの巻き付きによる糸切れが増加し、巻付角が低すぎるとロールの把持力不足による滑りが発生してしまう。すなわち製糸安定性良好に本発明のポリエステル繊維を得るには、巻付角が150°以上210°以下の範囲であることが好ましい。
【0019】
さらに本発明では延伸ローラーと第3ローラー間のストレッチ率(X)、および流体交絡処理を施す1対のローラー間のストレッチ率(Y)が下記式を満足することが好ましい。
【0020】
(1)延伸ローラー、中間ローラー間ストレッチ率(X) −7≦X≦7
(2)複数の中間ローラー間ストレッチ率(Y) −5≦Y≦−1
なお、ここでいうストレッチ率は下記式により算出した値である。
【0021】
ストレッチ率=[[延伸ローラー速度]−[1stローラー速度]]/延伸ローラー速度
1stローラー:1対のローラーの供給側、2ndローラー:1対のローラーの引取側 延伸ローラー、第3ローラー間のストレッチ率(以下Xと略す)が低い場合、糸条の温度が高い状態のまま緊張を開放されるため、ストレッチ性能が低くなってしまい、また延伸ローラー上および出での糸条走行状態が不安定となる。逆に高い場合には緊張状態が高すぎるために、十分なストレッチ性能は得られるものの、交絡処理を施す1対のロールを経て巻取機において巻き取った際の巻姿が悪化してしまい、また伸縮伸長率が高すぎるために織編物にした際のシボ、耳シワ、ヨコ段等の品位面での問題が発生する。Xが−7%以上、7%以下の範囲であれば伸縮伸長率Aが10%以上400%以下となり良好なストレッチ性能を有し、かつ巻姿の良好なポリエステル繊維が得られる。
【0022】
一方、交絡処理を施すローラー間のストレッチ率(以下Yと略す)が低すぎると第3ローラー上および出での糸条走行が不安定になり、逆に高すぎると、流体交絡処理時の糸条張力が高くなりすぎるために十分かつばらつきのない交絡を得ることができなくなる。Yが−5%以上、−1%以下の範囲であれば交絡度CFが5コ/m以上でかつ開繊長最大値Lmaxが500以下となり、品位、高次加工での工程通過性の良好なポリエステル繊維が得られる。
【0023】
本発明において、より交絡度の高く均一な糸条を得るために、延伸ローラー後あるいは巻取機前に交絡装置を設置すること等により2段さらには多段での交絡処理を実施しても構わない。
【0024】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を詳述するが、これら実施例によって本発明の範囲が限定されるものではない。なお、実施例中の各特性値は次の方法により求めた。
(1)伸縮伸長率(A%)
得られた糸を1回転1mの検尺機で10回転させてカセとした試料を0.18×10−3cN/dtex荷重下で90℃、20分間の熱水処理を施し、加熱処理後のカセ長を測定し、下記式より算出した。
【0025】
伸縮伸長率A(%)=(L1−L0)/L0
L0:0.18×10−3cN/dtexの荷重をかけたときのカセ長。
L1:8.8×10−2cN/dtexの荷重をかけたときのカセ長。
(2)交絡度(CF コ/m)、開繊長最大値(Lmax mm)
エンタングルメントテスターR2060を用い、糸速5m/min、トリップレベル15cNでの触針トリップ回数30回に達する長さを測定し、下記式より算出した。
【0026】
開繊長L(mm)=[1回触針がトリップするまでの距離]
CF=30×1000/[30回トリップするまでの開繊長合計](コ/m)
開繊長Lmax(mm)=全測定間の最大開繊長
(3)製糸安定性
粘度の異なる2種のポリマーの合計1000kgを実施例記載の方法で得た際の糸切れ回数で判定した。
○○:糸切れ無し
○ :糸切れ2回以下
△ :糸切れ3回〜5回
× :糸切れ6回以上
(4)巻姿
巻幅100mm、巻径140mmのドラムを得た際のドラム端面のフクラミ量で判定した。
○○:フクラミ8mm未満
○ :フクラミ8mm以上15mm未満
× :フクラミ15mm以上
(5)ストレッチ性
前述の伸縮伸長率から判定した。
○○:50%以上
○ :10%以上50%未満
× :10%未満
(6)高次通過性得られたストレッチ繊維の丸編み製編時の、糸切れ率から判定した。
○○:糸切れ率5%未満
○ :糸切れ率5%以上10%未満
× :糸切れ率が10%以上
(7)布帛品位評価
得られたストレッチ繊維を用いた丸編み製品のヨコ段発生の有無を評価した。
○○:ヨコ段無
○ :ヨコ段微少
△ :ヨコ段少
× :ヨコ段多
実施例1〜3
極限粘度[η]が1.40のポリトリメチレンテレフタレートと極限粘度[η]が0.51のポリエチレンテレフタレートを50:50の比率、280℃の紡糸温度で溶融紡糸し、冷却後、1000m/minで80℃に加熱した引取ローラーで引き取り、4000m/minで150℃に加熱した延伸ローラーに引き回し、延伸、熱処理を実施した。引き続き、表1に示したリラックス率にて非加熱の第3ローラーおよび4ローラーにて引き取り、56dtex−12filの糸条からなるドラム巻パッケージを得た。で非加熱の第4ローラー間にてを施した後、巻取機で巻き取り、尚この際、流体交絡処理は第3、第4ローラー間にて行い、第3、第4ローラーへの糸条の巻付角は180°片掛けとした。得られた糸条の物性および高次通過性、布帛評価の結果を表に示す。
【0027】
比較例1、2
極限粘度[η]が0.78のポリエチレンテレフタレートと極限粘度[η]が0.51のポリエチレンテレフタレートを50:50の比率、295℃の紡糸温度で溶融紡糸し、実施例1と同様の方法で延伸、熱処理し、ドラムパッケージを得た。得られた糸条の物性および布帛評価の結果を表に表す。
【0028】
比較例3〜6
実施例1と同様の方法で延伸、熱処理し、ドラム巻きパッケージを得た。得られた糸条の物性および布帛評価の結果を表に表す。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
本発明の要件を満足する実施例1〜3はストレッチ性、高次通過性、布帛評価結果がいずれも良好であった。
【0031】
これに対し、延伸ローラー、第3ローラー間のストレッチ率が−7%未満である比較例1、3は製糸安定性が悪く、伸縮伸長率が10%未満と低いため布帛にしたときのストレッチ性能も満足なものが得られない。また、延伸ローラー、第3ローラー間のストレッチ率が7%を超える比較例4については巻姿が悪く、さらに伸縮伸長率が450%と高すぎるため布帛の品位も悪いという問題が生じる。
【0032】
第3ローラーと、第4ローラー間のストレッチ率が1%を超える比較例2、5、6は交絡度が5コ/m未満と不十分、あるいは開繊長最大値が500mmを超えて本発明の範囲内から外れるため高次通過性が悪い結果となった。
【0033】
【発明の効果】
優れたストレッチ性能を有するとともに、高次加工での工程通過性および織編物にした際の品位が良好で、操業安定性、品質安定性に優れたストレッチ性ポリエステル繊維を安価に提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の製造方法の具体例を示す図面である。
【符号の説明】
1:紡糸パック
2:油剤付与装置
3、6:交絡付与装置
4:引取ローラー
5:延伸ローラー
7:中間ローラー1
8:中間ローラー2
9:巻取機
Claims (1)
- 高粘度成分がポリトリメチレンテレフタレートであり、交絡度(CF)5コ/m以上、交絡開繊長最大値(Lmax)500mm以下であるサイドバイサイド型複合ポリエステル繊維を製造するに際して、ポリエステル系重合体を溶融紡糸、冷却、固化して一旦巻き取ることなく連続して延伸、熱処理する直接紡糸延伸方法において、延伸、熱処理された糸条を、実質的に延伸することなく、複数の中間ローラーに巻付角θ150〜210°で片掛けした後巻き取る工程であって、延伸ローラーと第1中間ローラー間のストレッチ率 ( X ) 、および複数の中間ローラー間のストレッチ率 ( Y ) が下記式を満足し、中間ローラーを経た後に交絡処理を施すことを特徴とするポリエステル繊維の製造方法。
( 1 ) 延伸ローラー、第1中間ローラー間ストレッチ率 ( X ) −7≦X≦7
( 2 ) 複数の中間ローラー間ストレッチ率 ( Y ) −5≦Y≦−1
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JP2001155337A JP3861620B2 (ja) | 2001-05-24 | 2001-05-24 | 高ストレッチ性ポリエステル繊維の製造方法 |
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