JP3860226B2 - ヒト免疫不全症ウイルス感染の予防または治療の方法 - Google Patents
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Description
本発明は、ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)感染の予防または治療の必要のある哺乳動物に、γ−L−グルタミル−L−システインエステル化合物、またはその同一分子2個を脱水素することにより得られる酸化ダイマーの有効量を投与することよりなる、HIV感染の予防または治療の方法に関する。
背景技術
1型ヒト免疫不全症ウィルス(HIV−1)に対するグルタチオン(GSH)およびその前駆体を含む抗酸化剤の潜在的な阻害効果については、ここ数年間研究されてきた。初期の研究では、D−ペニシルアミン、2,3−ジメルカプト−1−プロパノールやN−アセチルシステイン(NAC)のような還元剤は、HIV−1の末端の繰り返し配列(LTR)に支配されるウイルスの遺伝子転写を阻害することが見いだされている(FEBS Letters 1988; 236: 282-286, AIDS Res Human Retroviruses 1990; 7: 919-927, Proc Natl Acad Sci USA 1990; 87: 4884-4888, Proc Natl Acad Sci USA 1991; 88: 986-990)。これらの初期の基礎的な研究に対応するように、HIVに感染した個体の血漿、末梢血球、および肺上皮内層液のGSHレベルの減少が報告されている(Biol Chem Hoppe-Seyler 1989; 370: 101-108, AIDS Res Human Retrovituses 1992; 2: 305-311, Lancet 1989; II: 1294-1298)。GSHは細胞内の主要な抗酸化剤としてばかりでなく、免疫システムの調節剤としても知られている(J Immunol 1985; 135: 2740-2747)。こうしたことから、HIVに感染した個体のGSH欠乏をグルタチオン前駆体で変化させることは、HIVの生体内増殖を阻害する合理的な治療戦略の仮説のひとつであった(AIDS Res Human Retroviruses 1992; 8: 209-215, Blood 1995; 86: 258-267, Blood 1996; 87: 4746-4753)。このようなことから、さらに、NACのようなGSHのプロドラッグのHIV−Iに対する阻害効果が調べられている。これらの化合物は、腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)またはフォルボール12−ミリステート13−アセテート(PMA)によって潜伏しているプロウイルスから誘導されるHIV−1遺伝子の転写を阻害できることが示されている。これは、細胞の潜伏期にあるHIV−1感染のモデルである(Proc Natl Acad Sci USA 1991; 88: 986-990, Cell 1990; 61: 127H276)。注意すべきこととして、最近、末梢血単核細胞(PBMC)におけるNACによるHIV−1増殖亢進が報告されている(AIDS 1997; 11: 33-41)。
最近の研究によれば、HIV−1の複製がリンパ性網内組織内で継続的に活性であることが示された(Nature 1993; 362: 355-358, Nature 1993; 312: 359-362)。したがって、いわゆる後期の感染細胞からの大量のウイルス生産と、それに引き続くさらなる感染の繰り返しを遮断することなしに、潜伏しているHIV−Iプロウイルスを非複製状態に保つのみではHIV−1感染を有意に変化させることは困難であろう。後天性免疫不全症候群(AIDS)の進行を減速させるには、後期の感染細胞の除去が最も重要であろうと示唆されていた(Science 1996; 272: 1962)。しかしながら、多数の抗HIV−I化学療法剤の候補が記述されてはきたが、未だにHIV−Iそれ自身およびHIV−1感染細胞の選択的な除去を示す化合物はなかった。同様に、多種の抗酸化剤の抗HIV−1効果を記述する各種の報告があったが(FEBS Letters 1988; 236: 282-286, AIDS Res Human Retroviruses 1990; 7: 919-927, Proc Natl Acad Sci USA 1990; 87: 4884-4888, Proc Natl Acad Sci USA 1991; 88: 986-990)、急性のHIV−1感染を阻止すると報告された化合物はなかった。
式(I)、
(式中のRは炭素原子1−10個の直鎖状、分岐状、もしくは環状の炭化水素基、または芳香族基で置換された炭素原子1−5個の直鎖状もしくは分岐状の炭化水素基である。)
で表されるγ−L−グルタミル−L−システインエステル化合物、または式(I)で表されるγ−L−グルタミル−L−システインエステルの2分子間の脱水素によって得られる酸化ダイマーは、抗酸化剤として直接的に、または唯一のGSHプロドラッグとして作用し、それによって活性酸素やフリーラジカルによる障害によって引き起こされる肝障害、白内障、腎障害、心や肝の再灌流障害、不整脈、ならびに喘息のような肺障害の予防または治療作用を示すことが知られている(WO 88/00182(米国特許No. 4,927,808)およびWO 92/18420(米国特許No. 5,631,234))。特に、γ−L−グルタミル−L−システインエチルエステル(γ−GCE)は白内障(Ophthalmic Res 1991; 23: 51-58)、肝障害(Res Com Chem Pathol Pharmacol 1993; 82: 49-64)、心や肝の再灌流障害(Brit J Pharmacol 1991; 104: 805-810, J Am Coll Cardiol 1994; 24: 1391-1397, Circulation Res 1994; 74: 806-816, Transplantation 1992; 54: 414-418)ならびに喘息(Am Rev Respir Dis 1992; 145: 561-565)に対して有効であると報告されてきた。しかしながら、γ−L−グルタミル−L−システインエステル化合物のHIV感染に対する効果については報告されていない。
発明の開示
本発明の発明者らは、上記のγ−L−グルタミル−L−システインエステル化合物を代表するγ−GCEの抗HIV−I効果を、(1)活発にHIV−Iを産生しているヒトT−リンパ球株、すなわち慢性HIV感染における後期感染細胞からのHIV−I産生モデル、および(2)HIV−1を接種したヒトT−リンパ球、すなわち急性HIV−1感染モデルを使用してインビトロで検討した。そして、(1)γ−GCEは他のグルタチオンのプロドラッグや他の報告された抗酸化剤とは異なり、慢性HIV−1感染に対して新規な二相性の抑止効果を示したこと;すなわち、i)GSHもGSH前駆体も阻害効果を示さない2.5mM濃度までの高投与量では、γ−GCEは感染細胞に対して選択的な細胞変性効果によりHIV−1の産生を強力に阻害する一方、同じ濃度では非感染細胞の生存率や増殖には影響しなかった、ii)低濃度(200−400μM)では、γ−GCEは慢性的にHIV−1を発現している細胞のウイルス産生を、それらの生存率には影響せずに有意に抑止した、そしてiii)感染細胞と非感染細胞の間の毒性を発現する投与量の閾値の差は10倍以上であること;ならびに(2)T−リンパ球の急性HIV−1感染において使用された比較的に高いγ−GCEの投与量ではHIV−1の増殖を完全に阻止し、細胞をHIV−1により誘導される細胞死から救済し、かつ、かかる濃度のγ−GCEはHIV−1の感染性を4時間以内に直接的に阻止すること、をみいだした。この結果はγ−GCEが抗HIV−1剤として優れた性質を持っていることを示している。いいかえると、γ−GCEは他の抗HIV−1化学療法剤がこれまで達成できなかったHIV増殖の3つの重要な因子のすべてを遮断することが可能である。すなわち、HIV自体を不活性化して急性感染を阻止し、感染細胞からのウイルス産生を抑制し、そしてHIV−1産生細胞を選択的に死滅させるのである。
したがって、本発明は上記知見に基づくもので式(I)
(式中のRは炭素原子1−10個の直鎖状、分岐状、もしくは環状の炭化水素基、または芳香族基で置換された炭素原子1−5個の直鎖状もしくは分岐状の炭化水素基である。)
で表されるγ−L−グルタミル−L−システインエステル化合物、または式(I)で表されるγ−L−グルタミル−L−システインエステルの2分子間の脱水素によって得られる酸化ダイマーを、HIV感染を予防もしくは治療する効果のある投与量で、その必要のある哺乳動物へ投与することよりなる、新規のもしくは無症状の感染も含む、AIDSのようなHIV感染の予防もしくは治療方法である。
【図面の簡単な説明】
以下の結果は二つの独立の実験の平均値である。
図1のパネルAは、2.5mMのγ−GCE(黒丸)、GSH(三角形)およびNAC(矩形)が対象(白丸)と比較して、非感染ヒトT−リンパ細胞株H−9の増殖に悪影響を及ぼさないことを示している。
パネルBは、800μMのγ−GCE(黒丸)が、慢性的に感染し、HIV−1を高度に発現しているH−9/IIIB株(HIV−1株のひとつであるHIV−1IIIBに感染したH−9株)の増殖を、対照(白丸)に比して劇的に阻害していることを示している。同時に、処置の12日後に有意な細胞の増殖が観察されず、細胞の生存率は40%以下に減少しており(データは示されていない)、γ−GCEのHIV−1産生細胞に対する強力な細胞変性作用を示している。
図2は、5mMにおけるγ−GCEの非感染H−9細胞(A)に対する生存率と増殖からみた細胞毒性が、400μMにおける感染しているH−9/IIIB細胞(B)に対する生存率と増殖について示されている値とほぼ等しく、感染細胞は非感染細胞に比べて約12.5倍もγ−GCEに対して感受性であることを示しており、このことはγ−GCEのH9細胞のHIV−1産生細胞に対する選択毒性があることを意味する(矩形:γ−GCE、菱形:対照)。
図3は、1.25mM(A)または2.5mM(B)のγ−GCE(黒丸)がHIV−1産生性H−9細胞の生存率を選択的に減少させ、H−9/IIIB細胞からのHIV−1(p24抗原で代表される)の対数関数的な産生をほとんど完全に遮断していることを示している。一方、GSH(三角形)もNAC(矩形)も活発なH−9/IIIB細胞のHIV−1産生を1.25mM(A)で抑圧することはできず;むしろそれらは2.5mM(B)においては対照(白丸)に比してウイルスの産生を増加させており、γ−GCEの新規な抗HIV−1剤としての特徴を示している。
図4は、200μM(黒矩形)または400μM(黒丸)のγ−GCEが、H−9/IIIB細胞の活発なHIV−1産生(p24抗原で代表される)を、(実施例3で述べられたように)H−9/IIIB細胞の生存率と増殖に影響することなく顕著に阻害することを示す。これは、高い濃度でもウイルスの発現を変えられなかった図3でのGSHやNACの結果とは明確な対照をなす。かくして、γ−GCEはGSHプロドラッグとして、感染細胞にとって毒性のない低濃度でさえも、活発かつ継続的なHIV−1産生に対して効果があることを示した。
図5は、1.6mMのγ−GCE(黒丸)がHIV−1の増殖(HIV−1のp24抗原の全量によって代表される)を感染後21日間完全に遮断したことを示し、一方400−800μMのγ−GCE(それぞれ黒三角および黒矩形)の存在では急性の感染は顕著には阻害されず(パネルC);そして1.6mMのγ−GCEを加えた細胞は活発に成長を続け、全実験過程を通じて高い生存率を保ったのに対し、大量のHIV−1産生性の対照細胞(白丸)の増殖については、細胞の増殖障害(パネルA)および細胞死(パネルB)を示した。
図6は、2.5mM(黒丸)および1.25mM(三角形)のγ−GCEでの4時間の前処理により、直接的にHIV−1を完全不活化することができ、急性感染実験ではこれらの前処置されたウイルスでは急性の感染を起こさないことを示している。他方、ウイルスの625μMのγ−GCE(矩形)での前処理では、対照(白丸)に比して発症のいくらかの遅れを示したのみであった。
実施の形態
上記式(I)で、Rは炭素原子1−10個の直鎖状、分岐状、もしくは環状の炭化水素基、または芳香族基で置換された炭素原子1−5個の直鎖状または分岐状の炭化水素基を表す。また、酸化ダイマーとは、2個の上記式(I)の同一分子が、脱水素化によってジスルフィド結合(−S−S−)が形成されたダイマーをいう。
上記式(I)に示されるγ−L−グルタミル−L−システインエステル化合物またはその酸化ダイマーは、例えばWO88/00182(米国特許4927808号)、特開昭64−19059号公報(特許第2569060号)および特開昭64−26516号公報(特公平8−553090号)に記載されている方法に従って製造される。
上記式(I)において、Rの特定の例はメチル基、エチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、イソプロピル基、2−メチル−2−プロペニル基、シクロヘキシル基、およびベンジル基を含む。上記式(I)で示された化合物は、特定のR基が結合しているすべてのγ−L−グルタミル−L−システインエステル化合物を含むが、典型的な化合物の例にはγ−L−グルタミル−L−システインエチルエステルが含まれる。
上記式(I)のγ−L−グルタミル−L−システインエステル化合物もしくはその酸化ダイマーを本発明の医薬品として使用する場合、これらの化合物はそれらの遊離形または薬理学的に許容される酸もしくは塩基付加塩の形で用いられる。塩の形式で使用する場合には、付加される酸もしくは塩基は無機または有機の化合物のいずれであってもよく、それらが塩として使用されたときに十分に有効で、無毒もしくは低毒性であればいかなる意味でも制限はない。
上記式(I)で表される化合物またはその酸化ダイマーは、経口的に、非経口的に、または呼吸器管を経由して、薬理学的に許容される担体、賦形剤、溶剤、希釈剤、着色剤、保存剤、中和剤、安定剤と混合した望ましい形態で、本発明に係る予防と治療のために投与される。
経口製剤は、錠剤、顆粒剤、粉剤、およびカプセルのような固形製剤、またはシロップ、エリキシル剤、乳剤および懸濁剤のような液体製剤のいずれでもよい。また、非経口製剤は、注射剤、座薬、または外用皮膚製剤でもよい。これらの製剤は、上記式(I)で表される化合物もしくはその酸化ダイマーに、薬理学的に受容される佐薬を添加して通常の方法で作成できる。さらに、これらの製剤は既知の方法によって、徐放性の製剤に形成することもできる。
経口投与のための固形製剤は、上記式(I)の化合物またはその酸化ダイマーをラクトース、澱粉、結晶セルロース、メチルセルロース、グリセリン、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴム、燐酸水素カルシウム、メタ珪酸マグネシウムアルミニウム、乳酸カルシウム、塩化ナトリウム、炭酸カルシウム、およびカオリンのような賦形剤と混合して粉剤にしてもよく、必要ならばヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、蔗糖、アルギン酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムのような崩壊剤を添加してから造粒して顆粒剤に形成される。
錠剤はこれらの粉剤や顆粒をそのまま、またはタルクやステアリン酸マグネシウムのような光沢剤を添加して成形する。さらに、上記の顆粒もしくは錠剤を腸溶性製剤を形成するためにメチルメタアクリレート共重合体またはヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートのような基材で被覆することができ、または、徐放性製剤を形成するためにエチルセルロースまたは硬化油で被覆することができる。
カプセル剤は粉剤や顆粒を充填した硬カプセルや、上記一般式(I)の化合物またはその酸化ダイマーをグリセリン、ポリエチレングリコール、またはオリーブ油などに懸濁もしくは溶解し、ゼラチンフィルムで被覆することにより製造することもできる。
経口投与用の液剤は、上記式(I)の化合物もしくはその酸化ダイマーを、グリセリンやソルビトールのような甘味剤とともに水に溶解したシロップとしてもよく、エタノールもしくは精油を加えたエリキシールとしても、あるいはポリソーブ80、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、またはアラビアゴム等を添加して乳化剤または懸濁剤として製造してもよい。
注射剤は皮下、筋肉内、静脈内もしくは動脈内の一回投与量用の、または長期もしくは短期の継続注入用製剤として、上記式(I)の化合物もしくはその酸化ダイマーを注射剤用の蒸留水で、燐酸水素ナトリウム、燐酸二水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、塩酸、乳酸、または乳酸ナトリウムのようなpH調節剤、グルコースや食塩のような等張剤、あるいは重亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、もしくはエチレンジアミン四酢酸ナトリウムのようなSH基安定化剤とともに溶解し、無菌ろ過の後に、アンプルもしくはポリエチレンまたはガラスの容器に充填して製造される。さらに、使用時に調製するタイプの注射剤は、デキストリン、サイクロデキストリン、マンニトール、ゼラチン等の添加に引き続いて真空中で凍結乾燥することによって製造することができる。加うるに、上記式(I)の化合物もしくはその酸化ダイマーは、既知の方法によってリポソームまたは微小球に収容された注射用剤としてもよい。
座薬は上記式(I)の化合物もしくはその酸化ダイマーをポリエチレングリコール、ラノリン、脂肪酸のモノ、ジ、もしくはトリグリセリド、またはカカオバターと加熱溶融し、可塑化のために冷却するか、大豆油、ポリエチレングリコールその他に懸濁または溶解した後に、ゼラチンなどで被覆して製造することができる。
外用皮膚製剤は上記式(I)の化合物もしくはその酸化ダイマーをポリエチレングリコール、白ワセリン、または液状パラフィン等に添加して製造され、軟膏、クリーム剤、またはゲル状に製剤される。
呼吸管を経由して投与される製剤は、上記式(I)の化合物もしくはその酸化ダイマーの微細な顆粒を、通常の吸入方法によって投与される。この医薬品を有効成分とする微細な粒子は、粒径が0.5−50μmのエアロゾルまたは粉剤とすることが望ましい。エアロゾルを製造する装置の例としては、超音波およびジェット噴霧タイプのネブライザーや低級アルカンまたはフッ化アルカンを推進剤として使用する噴霧器がある。さらに、粉剤は自然吸入の、または強制的な吸入による簡単な吸入器で投与される。
上記式(I)で示される化合物もしくはその酸化ダイマーの本医薬品製剤における濃度には格別な制限はないが、一般には0.1−70重量%、好ましくは0.1−50重量%が製剤の濃度として好適である。さらに、その投与量にも制限はないが、0.01−5g/日/患者、好ましくは0.1−2.5g/日/患者が好適である。連続的な注入を除いては、投与回数は通常1日当たり1−4回である。
実施例
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
実施例1 γ−GCEのHIV−1産生細胞に対する選択的毒性
非感染ヒトT−リンパ細胞株H−9、またはHIV−1株であるHIV−1IIIBに感染したH−9細胞(H−9/IIIB)(Science 1984; 224:497-500)を24もしくは96ウェルの組織培養プレートに2−2.5×105/mlの密度で播き込み、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むRPMI−1640組織培養培地中で、各濃度のγ−GCE、GSH、またはNACの存在下または非存在下で培養した。
2−3日毎に、50−80%の細胞培養上清を除去し、同一濃度の被験化合物を含む同量の新鮮な培地を加えて培養を続けた。同一時点で、相対的な細胞増殖能を計算するために、トリパンブルー色素排除試験により生存細胞を計数した。同時に、全細胞数に対する生存細胞数の百分率として細胞の生存率を調べた。
最初に、γ−GCEの非感染H−9細胞の生存率と増殖への影響を、GSHやNACと比較して評価した。2.5mM濃度で、γ−GCEは細胞の生存率と増殖に悪影響を及ぼさなかった(図1A)。これらの結果はGSHまたはNACの結果と全く同様である。6日間の培養を通じて、いずれの場合でも生細胞は最低値が91.75±0.45%(NAC処理細胞;4日目)で90%未満には低下せず、γ−GCEの非感染T−リンパ細胞に対する低毒性を示している。
次に、慢性的に感染し、高度にHIV−1を産生している細胞株、H−9/IIIBを用いて上記と同様な実験を行った。驚くべきことに、非感染のH−9細胞とは対照的に、H−9/IIIB細胞はγ−GCEの細胞毒性効果に顕著に高い感受性を示した。図1Bに示したように、800μMという低い濃度のγ−GCEにより、細胞の増殖は劇的に阻害された。6日目には、細胞増殖は対照の40%未満のレベルに減少した。結局、処置の12日後には、有意な細胞増殖は観察されなかった。同様に、細胞生存率は9日後には40%未満に低下した(データは示されていない)。このことはγ−GCEのHIV−1産生細胞に対する相対的に高い細胞毒性を示している。
γ−GCEのH−9およびH−9/IIIB細胞に対する細胞毒性を比較するため、各細胞株に対して等価な細胞毒性を示す二つの投与量を決定すべく、各濃度のγ−GCEについて検討した。5mMのγ−GCEのH−9細胞に対する細胞毒性が、H−9/IIIB細胞に対して400μMで示された値とほぼ等価であることが観察された(図2)。γ−GCE処理の6日後には、両細胞株とも相対的な細胞増殖能がいくらか低下し、生存率もわずかに低下した。結局、H−9/IIIB細胞はγ−GCEに対し、非感染細胞に比して約12.5倍感受性であることが示された。このことはγ−GCEのHIV−1産生細胞に対する選択的な毒性を示している。
以上の結果を総合すると、800μMから2.5mMの濃度のγ−GCEは、一方では非感染のH−9細胞には影響しないのに、H−9/IIIB細胞の生存率を変更できることが示された。
実施例2 HIV−1産生H−9細胞の増殖と生存能を選択的に阻害する濃度でのγ−GCEによるHIV−1の強力な産生阻害
実施例1でのγ−GCEの特異的な細胞毒性作用の発見に引き続き、かかるHIV−1の産生を抑制する選択的な毒性の有効性を評価した。
H−9/IIIB細胞を十分にリン酸で緩衝した生理食塩水(PBS)で洗浄し、RPMI−1640/10%FBS中に、1.25または2.5mMのγ−GCE、GSH、またはNACの存在下もしくは非存在下で、1×105/mlの密度で再懸濁した。H−9/IIIB細胞は常に大量のウイルス粒子を産生しているので、これらの実験を実施するのにTNF−αやPMAのような因子による刺激は必要でなかった。2日および4日後に培養上清を取り出し、遠心して細胞や破片を除き、HIV−1p24抗原の定量によって評価した。HIV−1p24抗原の測定は敏感な酵素免疫測定法(ELISA)(デュポン)を使用して実施された。
GSHもNACも激しいH−9/IIIBのHIV−1産生を抑制できなかった。むしろ2.5mMでは、それらはウイルスの産生を増加した。このことは以前の報告と一致する(AIDS 1997;ll: 33-41)。しかしながら、1.25または2.5mMのγ−GCEは、明らかにその細胞毒性作用により、H−9/IIIB細胞からのHIV−1の対数関数的な産生をほとんど完全に阻止した(図3)。これらのデータはγ−GCEの抗HIV−1剤としての新規な特性を示す。
実施例3 HIV−1産生H−9細胞の生存率に作用しない投与量でのγ−GCEによるHIV−1産生の有意な抑制
γ−GCEは潜在的な抗酸化剤であるので、γ−GCEの非毒性範囲内でのHIV−1のLTRに指令された転写の阻害は、同様に予想されていた。しかしながら、このような一定の高いレトロウイルスの産生を、このようなタイプの化合物が阻害するのは困難であろうとも予想されていた。
H−9/IIIB細胞をPBSで洗浄し、RPMI−1640/10%FBS中に、0.2または0.4mMのγ−GCE存在下もしくは非存在下で、2×105/mlの密度で播き込んだ。実験開始3日および6日後に培養上清の試料を採取し、上述のように分析した。3日目には各細胞懸濁液の72%を取り除き、対応するGSHのプロドラッグとともに新鮮な培地を加えた。6日目のHIV−1p24抗原の全産生量は、6日目の生データに3日目の分の希釈倍率をかけて求めた。
低濃度のγ−GCEで処理したH−9/IIIB細胞については、図4に示されている。予想されたように、γ−GCEは低濃度(200μMおよび400μM)でH−9/IIIB細胞による激しいHIV−1の産生を顕著に阻害した。一方、高濃度のGSHやNACでもウイルスの発現は変化しなかった(図3)。細胞の生存率は、かかるγ−GCE処置によっても、いずれの投与量でも有意な影響はない(>86%)。400μMにおいてのみ(図2Bにおいて示されているように)細胞増殖の遅延が観察されたが、200μMでは見られなかった(データは示されていない)。これらの結果は、活発かつ継続的なHIV−1の産生に対するGSHプロドラッグとしてのγ−GCEの有効性を低濃度においても示すものである。
実施例4 急性HIV−1感染のγ−GCEによる阻害
もし、γ−GCEがHIV−1産生細胞を有効に除去するのであれば、急性の感染時にHIV−1が細胞の全集団に拡散するのを予防することが予測される。この仮説を実証すべく、急性感染試験が実施された。
これらの実験のために、H−9/IIIB分離株を使う代わりに、特定のウイルスの附属遺伝子とその翻訳産物を欠いており、そのあるものは感染の初期相を変化させることがわかっている、HIV−1のNL4−3株(J. Virol. 1986; 59: 284-291)を用意した。
HIV−1NL4−3株のウイルスの保存株を調製し、以前に記述されたようにタイターを測定した(Hum Gene Ther 1995; 6: 1561-1571)。H−9細胞(3×105細胞)を、各種の濃度のγ−GCEとともに、またはそれを加えずに、1mlの増殖培地中に懸濁し、24ウェルの組織培養プレートのチャンバーに播き込んだ。30pgのHIV−1p24抗原を含むウイルス懸濁液を、最初の感染のために各チャンバーに添加した。感染は37℃で一夜実施され、その後細胞はPBSで一回、さらに増殖培地で一回洗浄された。最後の洗浄の上清は、0日の時点のものとして保存された。洗浄された細胞は、対応する培地に再懸濁され、37℃でさらに培養を続けた。3日目に一回、細胞計数とHIV−1p24抗原定量のために、細胞懸濁液および培養上清が採取された。細胞増殖、生存率、およびウイルス産生の測定は、すでに述べたように実施した。採取の日には、各ウェルに200μlの細胞懸濁液が残され、細胞増殖を支持するために、対応する濃度のγ−GCEを含む800μlの新鮮な培地が添加された。ただし、18日目には細胞懸濁液400μlが残され、600μlの培地が各ウェルに添加された。したがって、各時点の細胞数は、細胞の継代数を考慮し、集積された希釈倍率に基づいて定量された。
γ−GCEがない場合には、H−9細胞に感染後12−15日に、ウイルス産生の噴出の引き金がひかれる。一方、400−800μMのγ−GCEの存在下では、急性の感染は顕著には阻害されなかったが、1.6mMのγ−GCEの場合には、感染後21日間にわたり完全にHIV−1の増殖を阻止した(図5、パネルC)。全実験を通じ、1.6mMのγ−GCE存在下の細胞は活発に増殖を続け、高い生存率を保った。一方、大量のHIV−1を産生している対照の細胞の増殖については、増殖阻害(図5、パネルA)、および細胞死が認められた(図5、パネルB)。15日まで、およびその後においても、活発なHIV−1産生をともなうすべての対照細胞培養では合胞体形成が顕著であった。1.6mMのγ−GCE存在下では、培養中に顕著な合胞体形成は観察されなかった(データは示していない)。
実施例5 γ−GCEによるHIV−1の直接不活性化
これらの急性HIV−1感染試験の結果はもう一つの可能性を高めた。すなわち、γ−GCEは感染過程の前段階または感染過程で、HIV−1の感染性を不活性化するかもしれないということである。かかるγ−GCEの不感染化効果の検討のために、我々はもう一つの系統の実験を計画し、実施した。
6ngのHIV−1p24抗原を含むHIV−1ウイルスの保存株(NL4−3)を、γ−GCEの存在下もしくは非存在下で、20mlのRPMI−1640/10%FBS中で4時間、37℃で前処理した。その後、前処理したそれぞれのウイルス懸濁液を10ml用い、γ−GCEのない1mlの細胞懸濁液で、前述したのと同様な方法で、H9細胞の急性感染を行った。全過程を通じてγ−GCEを添加することなしに、前述したのと同様な手順に従い、培養細胞のサンプリングと維持も行った。
驚くべきことに、1.25mMまたは2.5mMでの4時間のγ−GCE処理により、HIV−1の感染性は喪失し、感染後15日においてもウイルス産生を起こさなかった。最低の濃度(625μM)でさえも、γ−GCEはH−9細胞でのHIV−1増殖をある程度遅延させた。しかしながら、同一濃度でのγ−GCEによる1時間の前処理では、顕著なウイルス感染性に対する阻害を示さなかった(データは示していない)。これらのデータはHIV−1粒子に対するγ−GCEの直接的な不活性化効果を示し、おそらくはそれが急性のHIV−1感染実験において観察された阻害効果に関わっているのであろう。
Claims (7)
- Rが炭素原子数1−10のアルキル基である請求の範囲第1項記載の予防もしくは治療剤。
- Rがエチル基である請求の範囲第1項記載の予防もしくは治療剤。
- 哺乳動物がヒトである請求の範囲第1項記載の予防もしくは治療剤。
- 該HIV感染が新規のHIV感染である請求の範囲第1項記載の予防もしくは治療剤。
- 該HIV感染が無症状のHIV感染である請求の範囲第1項記載の予防もしくは治療剤。
- 該HIV感染がAIDSを伴うHIV感染である請求の範囲第1項記載の予防もしくは治療剤。
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