JP3858530B2 - 溶融紡糸用ポリエステル組成物、ポリエステル高配向未延伸糸およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリエステル高配向未延伸糸およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、物性が良好でかつ生産性の向上に寄与できるポリエステル高配向未延伸糸および該ポリエステル高配向未延伸糸の製糸性かつ生産性に優れた製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリエチレンテレフタレートをはじめとするポリエステル繊維は種々の特性に優れることから多量にかつ広い分野にわたって用いられている。なかでも引取速度を2000〜4000m/分とした高配向未延伸糸(以下POYと略記する)は、延伸に用いうることは勿論のこと、そのまま延伸仮撚加工にも供しうる利点を有しているため、工業的に重要な位置を占めている。一方、仮撚加工糸に関しては、このPOYを用いて延伸と仮撚を同時に行う延伸仮撚加工を採用することにより、旧来の延伸糸を仮撚する加工方法に比べて大幅な生産性の向上が達成された。
【0003】
近年、さらなる生産性の向上に対する要求が高まると共に、未延伸糸の紡糸速度を速くすることによって、単位時間当たりの生産性を向上させようという試みが行われるようになったが、ポリエステル繊維の場合には、紡糸速度の増大と共に配向結晶化が進み、繊維の機械的性質が変わってしまうという問題がある。この問題を解決し、紡糸速度を速くした場合にも同等の特性の繊維を得るという目的で、紡糸速度が速くなるに伴って増大するポリエステルの分子配向を抑制する手段が数多く検討されてきた。
【0004】
POYの高速製糸性を実現するために、以下に述べるようなポリマーブレンドによる方法、多官能化合物を共重合する方法、伸長粘度が高いポリマーと複合紡糸する方法など種々の改良技術が開示されている。
【0005】
例えば、特開昭56−91013号公報、特開昭57−11211号公報、特開昭57−47913号公報、などでは、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンなどのPET以外のポリマーをブレンドすることによってこの部分に紡糸張力を負担させ、PETの分子配向を低下させる技術が開示されている。
【0006】
ところがポリマーブレンドによる方法では、ブレンドされたポリマーの分散径の大きさによって配向抑制効果が敏感に変化し、安定した品質の繊維を製造することが困難という欠点があった。またこれらのポリマーを5%以上の高い濃度で添加する必要があるため、分散したポリマー周辺に生成するボイドに帰因する物性の低下や染めムラ、さらに高次加工時の高温による単糸間の融着などの問題が発生しやすく、製品の品質を悪化させる傾向がある。
【0007】
また、特開昭53−292号公報、特開昭63−75112号公報、特開昭63−75114号公報、特開平3―19914号公報、特開平3−33234号公報などでは、ポリマーに、例えばトリメリット酸、テトラエチルシリケートなどの多官能基を有する物質を少量共重合し、ここを架橋点として紡糸張力を集中させ、ポリエステル実質部分の張力を低減することで分子配向を抑制する技術が述べられている。
【0008】
この方法によれば染めムラや単糸間の融着などの問題は発生しにくいが、繊維の強度が低下するために延伸工程での糸切れが発生しやすい。また多官能化合物を含有しているために紡糸機内でポリマーがゲル化しやすく、これに起因する異物が繊維に混入したり、パック内の不織布フィルターなどで目詰まりをおこし、頻繁にパックの交換を行うなど作業が煩雑となる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解消し、紡糸における配向を抑制し、かつ製糸性に優れるポリエステル高配向未延伸糸を工程上の問題なく安定してかつ効率的に生産する方法を提供すること、さらには延伸性、延伸仮撚加工性に優れるポリエステル高配向未延伸糸を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、紡糸速度の上昇と共に増大する分子配向を抑制し、かつ製糸性、延伸性および延伸仮撚加工性の良好なポリエステル高配向未延伸糸を得るため鋭意検討を重ねてきた。その中で、ポリエステルを構成する分子鎖の分子量分布をある特定のものとすることで、従来技術の欠点を解消できることを見いだし、本発明に到達したものである。
【0011】
すなわち、本発明は、固有粘度(IV)が0.55以上であり、分子量分布において、Z平均分子量をMz、重量平均分子量をMw、数平均分子量をMnとしたとき、以下の特性を有することを特徴とする溶融紡糸用ポリエステル組成物より形成され、複屈折率が25×10 −3 以上70×10 −3 以下であることを特徴とするポリエステル高配向未延伸糸を提供するものである。
【0012】
Mw/Mn ≧ 5.0
Mz/Mw ≧ 3.0
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明でいうポリエステルとは、ジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成される重合体であり、本発明で用いるポリエステルとして、好ましくはポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン2・6ナフタレートであり、より好ましくはポリエチレンテレフタレートである。
【0014】
また本発明で用いるポリエステルは、発明の主旨を損ねない範囲で他の第3成分が共重合されていても良い。共重合する第三成分としては1または2官能性の共重合物とすることが好ましく、また繊維物性や製糸性を良好なものとするために、その共重合物は3重量%以下が好ましく、1重量%以下であるとさらに好ましく。例えば、ジカルボン酸化合物としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、エイコサン二酸などの直鎖脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、その他5ーナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホソホニウムイソフタル酸などの誘導体を挙げることができる。またジオール化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、テトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールSのような芳香族、脂肪族、脂環族のジオール化合物を挙げることができる。 さらに、本発明のポリエステルは艶消剤、難燃剤、滑剤などの低分子量の添加剤を、発明の趣旨を損ねない範囲で少量含有しても良い。
【0015】
本発明のポリエステルの固有粘度(IV)は、0.55以上である。IVが0.55未満では十分な強度の繊維を得ることができず、またオリゴマーが多量に含まれているため口金汚れが激しく製糸性が悪化する。また、IVの上限は特にないが、衣料用として使用する場合には液相重合で可能な0.80以下であればコスト的に好ましい。
【0016】
さて、我々は分子配向抑制効果を発現し、かつ上記問題点を解決する方法を見出すために詳細な検討を行った結果、ポリエステルを構成するポリマーの分子量分布を広くすることが分子配向抑制に有効であることを発見し、本発明に至った。
【0017】
すなわち本発明では、分子量分布において、数平均分子量をMn、重量平均分子量をMw、Z平均分子量をMzとしたとき、Mw/Mn≧5.0、かつMz/Mw≧3.0である必要がある。Mw/Mnが5.0未満またはMz/Mwが3.0未満では、我々が目的とする十分な分子配向抑制効果を得ることができない。Mw/Mnが5.0以上かつMz/Mwが3.0以上であれば、有効な配向抑制効果を得ることができ、繊維強度などの物性面に優れ、糸斑や製糸性が良好な高配向未延伸糸を得ることが可能となる。
【0018】
本発明の上記分子量を測定する方法は特に限定されないが、ゲル浸透型クロマトグラフィー(GPC)など、簡便に測定できるもので構わない。
【0019】
分子量分布を広くすることによって分子配向を抑制する技術は新規であり、そのメカニズムについてはよくわかっていないが、次のように考えられる。すなわち、分子量分布が広くなるとその中に長鎖成分が作られることになる。この長鎖成分は分子鎖の絡み合いを解くことが困難なため、紡糸過程で起こるポリマーの大変形時に応力が集中し、それ以外の部分にかかる張力が低減するために分子配向の抑制が起こると考えられる。また、この方法によれば架橋成分をポリエステルに導入する必要がないため、紡糸機内部などでのゲル化が防止できるほか、強度などの物性面でも従来のものと遜色ない繊維を製造することが可能であるというすぐれた特性を発現できると考えられる。
【0020】
ところでポリエステルは縮合重合物であり、溶融温度では常にエステル交換反応が起きるために、その分子量分布はある最適値をとる。この分子量分布を広くするためには、例えば長鎖ジオールを共重合する方法が考えられる。例えば特開昭58−186611号公報には、繰り返し単位2〜5のポリエーテルを、ポリエステルを構成する酸成分に対して0.01〜1.5モル%添加する方法が開示されている。しかしながら、この程度の長さのポリエーテルでは本発明の分子量分布Mw/Mn≧5.0かつMz/Mw≧3.0を実現することはできず、また十分な配向抑制効果を発現することもできない。
【0021】
本発明は、例えばアルミニウム化合物をポリエステル重合触媒として使用することにより、本発明で述べるような広い分子量分布を実現することが可能であり、十分な分子配向抑制効果が発現することが可能である。
【0022】
その際の重合触媒にアルミニウム、チタン、マグネシウム、リチウムが挙げられ、アルミニウムの場合では原子換算で5ppm以上500ppm以下含有させることによって達成することができる。これは従来知られているポリマーブレンドや多官能性共重合物添加などによる配向抑制効果に比べて極めて少ない添加量であり、PETが有する優れた特性をほとんど変えることがない。更に本発明を生産に適用する際には、従来のPET重合工程や製糸工程、高次加工工程などに設備面での変更を加える必要がないため、コスト面からも有利である。またポリマーの色調に与える影響がほとんどなく、粒子やポリマーブレンドによる方法のように白化が起こらず、また多くの遷移金属化合物に見られるような着色は見られない。
【0023】
以下、アルミニウムを重合触媒に使用する場合について記載するが、本発明はこれに限定されるものではない。ポリエステル組成物に添加するアルミニウムは式(1)または(2)で示されるアルミニウム有機化合物であることが好ましい。
【0024】
Al[OR1]l [OR2]m [OR3]n [R4]o ・・・(1)
Al(X)3 ・・・(2)
(ただし、式中R1、R2、R3はアルキル基、アリール基、アシル基、水素、R4はアルキルアセトアセテートイオン、アセチルアセトンイオン、Xはハロゲン元素を指す。またl,m,n,oはそれぞれ0または正数でかつl+m+n+o=3である。)
式(1)または(2)で表される化合物の中でも、特にアルミニウムアルコレート、カルボン酸アルミニウム塩、アルミニウムキレート、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム等が反応性、コストの点で好ましい。
【0025】
アルミニウムアルコレートはアルコールの水酸基の水素をアルミニウム元素で置き換えた構造の化合物である。具体的には、アルミニウムエチレート、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウム−n−ブチレート、アルミニウム−sec−ブチレート、アルミニウム−tert−ブチレートなどが挙げられる。
【0026】
アルミニウムキレートは、アルミニウムアルコレートのアルコキシ基の一部または全部をアルキルアセト酢酸エステルやアセチルアセトンなどのキレート化剤で置き換えた化合物であり、具体的には、エチルアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムモノアセチルアセテートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセテート)、アルミニウムモノイソプロポキシモノオレオキシエチルアセトアセテート、アルミニウムアセチルアセトネートなどが挙げられる。
カルボン酸アルミニウム塩としては、安息香酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム等が挙げられる。
【0027】
本発明の目的を達成するためには、アルミニウム化合物分子とポリエステル分子鎖を直接的に化学的相互作用させるため、上記のような化合物の形で添加することが好ましい。例えばアルミナやアルミニウム金属粉等を添加しても、アルミニウムはポリエステル分子鎖と配位結合を形成しないので配向抑制効果は得ることができず好ましくない。
【0028】
本発明に使用されるポリエステル組成物の製造方法をPETを例にとり、説明する。テレフタル酸とエチレングリコールとからエステル反応によって得た反応生成物を重縮合せしめる方法(直重法)、およびテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとからエステル交換反応によって得た反応生成物を重縮合せしめる方法(エステル交換法)のいずれによっても得ることができるが、以下直重法について詳述する。
【0029】
テレフタル酸とエチレングリコールとを240℃〜280℃で触媒の存在下または、無触媒でエステル化反応せしめ、反応率95%以上の反応生成物を得る。しかる後、重合反応触媒、リン化合物、二酸化チタンなどを添加した後、230℃〜300℃減圧下で重縮合反応を行い、目的とするポリエステル組成物を得る。アルミニウム化合物は重合触媒活性を有するので、重合反応触媒として使用することで系に導入してもよいし、他の添加剤を添加するのと同時に系に添加しても良いが、前者の方が好ましい。また後者の場合でも固有粘度が0.3に達する以前に添加するのが好ましい。
【0030】
また、本発明の分子量分布を達成するために、上記アルミニウム触媒を用いる方法を例示したが、本発明はこの方法に限定されるものではない。
【0031】
本発明の高配向未延伸糸はその後仮撚加工を施すので、その複屈折率は仮撚加工の工程通過性が安定するように25×10−3以上70×10−3以下とする。複屈折率が25×10−3以上で、糸掛け性が良好で、仮撚加工時の融着などを防止でき、一方70×10−3以下とし加撚張力が安定し、毛羽や断糸を抑制できる。さらに好ましくは30×10−3以上60×10−3以下である。
【0032】
本発明のポリエステル高配向未延伸糸の引き取り速度は3500〜7000m/分で溶融紡糸することが好ましい。ポリエステルの分子量分布を広くすることの効果は紡糸速度が速ければ速いほど有効であるので、本発明の目的とする十分な分子配向抑制効果を発現するためには紡糸速度は3500m/分以上とすることが好ましい。
【0033】
このように本発明の、固有粘度(IV)が0.55以上であり、分子量分布において、Z平均分子量をMz、重量平均分子量をMw、数平均分子量をMnとしたとき、Mw/Mn≧5.0かつMz/Mw≧3.0のポリエステル組成物を用いることで、大きい配向抑制効果を持ち、かつ製糸性に優れた溶融紡糸、特に高配向未延伸糸の溶融紡糸が可能となり生産性の向上が達成できる。この方法によって得られた高配向未延伸糸は、延伸および延伸仮撚加工時の工程通過性の向上、加工糸とした場合のより高い捲縮特性といった好ましい特性を有しており、工業的観点から見て非常に有意義であると考えられる。また、このポリエステル高配向未延伸糸は、生糸のままで、あるいは撚糸、延伸仮撚加工糸として衣料用途に好適に用いることができる。また、産業用資材に用いることも可能である。
【0034】
以下実施例により、本発明を具体的かつより詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。なお、実施例中の物性値は以下の方法によって測定した。
【0035】
【実施例】
A.固有粘度IV
オルソクロロフェノール中25℃で測定した。
B.強度・伸度
オリエンテック社製テンシロン引張試験機を用い、初期試料長50mm、引張速度400mm/分で測定し求めた。
C.複屈折率(△n)
OLYMPUS社製BH−2偏光顕微鏡コンペンセーターを用い、通常の干渉縞法によって、レターデーションと繊維径より求めた。
D.数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)
乾燥したポリマーサンプルの濃度が0.5mg/mlになるように、ヘキサフルオロイソプロパノール溶剤に溶解させ、溶解液を濾過後、ゲル浸透型クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。ここでこのGPCは検出器として示差屈折率計を備えたものである。
E.加工糸の捲縮特性(CR)
繊維を10回巻のカセ状にし、無荷重下、90℃,20分間の温水処理を行う。一晩風乾した後、20℃の水中にて、繊維のデニールの0.04倍の初荷重と繊維のデニールの2.0倍の実荷重をカセに掛け、2分後にカセの長さを測定する(L1)。すぐに実荷重を取り外し2分後に再度長さを測定する(L2)。このようにして求めたL1とL2をもとに、{(L1−L2)/L1}×100をもってCR値とした。
F.毛羽
東レ(株)製フライカウンターを用いて、給糸速度200m/分、測定感度0.1の条件で、50分の測定を10回行い、カウントされた毛羽の個数の平均値を104 mあたりの毛羽数とした。
G.染め斑
仮撚加工糸で編み地をつくり、青色の分散染料で染め、目視により判定した。実施例1〜3、比較例1
高純度テレフタル酸とエチレングリコールから常法に従って製造した、触媒を含有しないオリゴマーを250℃で溶融し、該溶融物へ水酸化アルミニウムを分散したテトラエチルアンモニウムヒドロキシド(以下、EAHと略す)とリン酸水溶液を添加した。化合物は最終的に得られるポリマーの含有量として、リン酸50ppm、アルミニウム原子を実施例、比較例とも表1の量となるよう変更して添加した。なお、比較例1の場合には、水酸化アルミニウムを添加すると同時に原子換算で200ppmの三酸化アンチモンをエチレングリコール分散液として添加した。その後低重合体を30rpmで攪拌しながら、反応系を250℃から285℃まで徐々に昇温すると共に、圧力を40Paまで下げた。最終温度、最終圧力到達までの時間はともに60分とした。所定の攪拌トルクとなった時点で反応系を窒素パージし常圧に戻し重縮合反応を停止し、冷水にストランドを吐出、直ちにカッティングしてポリエステルのペレットを得た。230℃〜300℃減圧下で重縮合反応を行い、目的とするポリエステル組成物を得た。攪拌トルクは実施例、比較例ともポリエステルのIVが表1のようになるよう調整した。
【0036】
このポリエステル組成物をプレッシャーメルター型の紡糸機にて溶融し、絶対濾過径10μのステンレス製不織布フィルターによって濾過した後、孔数24の口金から吐出した。紡糸温度は295℃、吐出量は60g/分となるように調整した。吐出した糸条は、吐出後ユニフロ型のチムニーにて冷却・固化せしめ、さらに給油後交絡を付与し、引き取りローラーを介して巻き取り機で巻き取った。紡糸速度はいずれも5000m/分とした。
【0037】
実施例の繊維は、いずれもMw/Mnが5.0以上、Mz/Mwが3.0以上であるために配向抑制効果が高く、製糸性・加工性ともに良好であった。一方、比較例1はAlの添加量が少ないためMw/Mnが5.0以下、Mz/Mwが3.0以下であり、十分な配向抑制効果を得ることができず、伸度の低いものであった。
実施例4〜6、比較例2、3
水酸化アルミニウムの代わりに、実施例4では塩化アルミニウム、実施例5ではアルミニウムエチラート、実施例6では安息香酸アルミニウム、比較例2ではアセチルアセトンアルミニウム、比較例3では酸化アルミニウムを添加し、他は実施例1と同様の方法で製糸を行った。尚、比較例2、3のアルミニウム化合物は触媒活性に乏しいため、三酸化アンチモン250ppmとともに添加した。実施例はいずれも十分な配向抑制効果を示し、製糸性・加工性ともに良好であった。一方、比較例はいずれもポリマーのMw/Mnが5.0以下、Mz/Mwが3.0以下であるために、本発明の目的とする繊維の配向抑制効果が不十分であり、伸度の低いものであった。
【0038】
【表1】
実施例7、8、比較例4、5
実施例1で使用したポリエステル組成物を使用し、紡糸速度を表2のように変更して製糸を行った。実施例はいずれも十分な配向抑制効果を示し、製糸性・加工性ともに良好であった。一方、比較例4は紡糸速度が遅かったために高配向未延伸糸の配向が不十分であり、加工時に延伸張力が低くなったためにバルーニングが発生し、加工性が悪かった。また比較例5は紡糸速度が高く、紡糸時の製糸性が悪かった。
【0039】
【表2】
実施例9、10、比較例6
攪拌トルクを調整して表3のようにIVを変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル組成物を作り、製糸を行った。実施例・比較例ともにMw/Mn、Mz/Mwは十分広く、いずれも十分な配向抑制効果を示した。実施例は製糸性・加工性ともに良好であったものの、比較例は口金が汚れて製糸性が悪かった。
【0040】
【表3】
【0041】
【発明の効果】
本発明に用いるポリエステル組成物は、ポリエステルの分子量分布を特定のものとすることで、製糸時の紡糸速度の上昇と共に増大する分子配向を抑制し、かつ良好な製糸性、延伸性および延伸仮撚加工性を実現するものである。そのポリエステル組成物は固有粘度(IV)が0.55以上であり、分子量分布において、Z平均分子量をMz、重量平均分子量をMw、数平均分子量をMnとしたとき、以下の特性を有することを特徴とする溶融紡糸用ポリエステル組成物である。
【0042】
Mw/Mn≧5.0
Mz/Mw≧3.0
さらに、本発明のポリエステル組成物より形成される複屈折率が25×10 −3 以上70×10 −3 以下である高配向未延伸糸は、延伸および延伸仮撚加工時の工程通過性の向上、加工糸とした場合のより高い捲縮特性といった好ましい特性を有している。
Claims (3)
- 固有粘度(IV)が0.55以上であり、分子量分布において、Z平均分子量をMz、重量平均分子量をMw、数平均分子量をMnとしたとき、以下の特性を有することを特徴とする溶融紡糸用ポリエステル組成物より形成され、複屈折率が25×10 −3 以上70×10 −3 以下であることを特徴とするポリエステル高配向未延伸糸。
Mw/Mn≧5.0
Mz/Mw≧3.0 - 主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1記載のポリエステル高配向未延伸糸。
- 請求項1記載のポリエステル組成物を、3500〜7000m/分の引き取り速度で溶融紡糸することを特徴とするポリエステル高配向未延伸糸の製造方法。
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