JP3858501B2 - ポリエステル高配向未延伸糸およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、仮撚加工時の工程安定性および工程通過性が良好でかつ生産性の向上に寄与できるポリエステル高配向未延伸糸および該ポリエステル高配向未延伸糸の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステル繊維は、機械特性や耐熱性、耐薬品性等をはじめとして様々の優れた特性を有しているため、衣料用途のみならず資材用途にも広く利用されている。中でもポリエチレンテレフタレート(以下PETと略す)は最も汎用的に用いられているポリエステルである。
衣料用途においては、繊維にふくらみ感を発現させるため仮撚加工等を施す場合が多い。特に高配向未延伸糸(以下POYと略す)を用いて延伸と仮撚加工を同時に行う延伸仮撚加工が一般に行われている。
延伸仮撚加工における加工時の工程安定性や加工速度の増大のためには、延伸仮撚ゾーンでのバルーンを安定化させる必要がある。そのためには、一般に加撚張力を高くするとよいことが知られている。そのため、延伸倍率を高くしたり、より高配向の繊維を使用する方法がある。しかしながら、過度に延伸倍率を高くしたり過度に高配向の繊維を使用すると加工時の毛羽発生や断糸が多発し、得られた仮撚加工糸の品質が低下するのみならず、かえって操業性の低下をきたしてしまうという欠点があった。従って、一般的な仮撚加工用POYの紡糸速度は3500m/分程度が上限であった。
【0003】
また、ポリエステルの溶融紡糸においては、ある臨界紡糸速度以上では紡糸線上でネック状変形を生じ、それに伴い配向結晶化が起こり、従来の延伸糸に類似した繊維が得られることが知られている。例えば、PETの場合4500〜5000m/分程度がこの臨界紡糸速度である。この臨界紡糸速度以上で得られる繊維はいわゆるPOYではないため仮撚加工は可能であっても、例えば1.2〜2.0倍の延伸を伴う延伸仮撚加工に供することはできない。
【0004】
延伸仮撚加工の特徴は、該加工時の延伸倍率に相当する太さの繊度のPOYを高速の紡糸工程で製造するという点にある。従って、紡糸における高い生産性が実現するのであるが、上記のように従来技術では3500m/分を越える紡糸速度で、延伸可能なPOYを得ることは困難であった。
【0005】
POYの高速製糸性を実現するために、以下に述べるようなポリマーブレンドによる方法、多官能化合物を共重合する方法、伸長粘度が高いポリマーと複合紡糸する方法など種々の改良技術が開示されている。
【0006】
例えば、特開昭56−91013号公報、特開昭57−11211号公報、特開昭57−47913号公報、などでは、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンなどのPET以外のポリマーをブレンドすることによって変形終了点を早め、PETの配向を低下させる技術が開示されている。
【0007】
ところがポリマーブレンドによる方法では、ブレンドされたポリマーの分散径の大きさによって配向抑制効果が敏感に変化し、安定した品質の繊維を製造することが困難という欠点があった。またこれらのポリマーを5重量%以上の高い濃度で添加する必要があるため、分散したポリマー周辺に生成するボイドに帰因する物性の低下や染めムラ、さらに高次加工時の高温による単糸間の融着などの問題が発生しやすく、製品の品質を悪化させる傾向がある。
【0008】
また、特開昭53−292号公報、特開昭63−75112号公報、特開昭63−75114号公報、特開平3―19914号公報、特開平3−33234号公報などでは、ポリマーに、例えばトリメリット酸、テトラエチルシリケートなどの多官能基を有する物質を少量共重合し、ここを架橋点として紡糸張力を集中させ、変形終了点を紡出糸条の上流にシフトすることによって配向を抑制する技術が述べられている。
【0009】
この方法によれば染めムラや単糸間の融着などの問題は発生しにくいが、繊維の強度が低下するために延伸工程での糸切れが発生しやすい。また多官能化合物を含有しているために紡糸機内でポリマーがゲル化しやすく、これに起因する異物が繊維に混入したり、パック内の不織布フィルターなどで目詰まりをおこし、頻繁にパックの交換を行うなど作業が煩雑となる。
【0010】
ところで、従来のPOYは70℃における温水収縮率が50%を越えることや広角X線回折で結晶に起因する回折ピークを与えないことからわかるように、ほとんど結晶化していない。そのため、構造が不安定であり経時変化が大きく、POYを延伸するに際し、特に染色における均一性を保つために紡糸してからの経過時間を一定にする必要があるという欠点があった。さらに、パッケージの内層部と外層部で経時変化の速度が異なるため、品質が異なるという欠点もあった。そのため、低温熱処理等により経時変化を促進解消するような処理を施して品質をそろえる必要があった。
【0011】
このような問題に対して、例えば特開平9−176920号公報に示すように、芯鞘複合繊維とし、芯にPET以外のポリマーを、鞘にPETを複合する方法が開示されている。この方法によれば、鞘のPETに広角X線回折で認められるような結晶が生成するため、これが架橋点になって繊維に形態安定性を与えることができる。しかしながら芯鞘複合糸を製造するためには設備が複雑になるほか、延伸時に芯鞘間の剥離を生じて染めムラを起こしやすいという欠点がある。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、経時変化が小さく、仮撚加工時の加工安定性、通過の向上を図るとともに、生産性の向上に寄与できるポリエステルPOYを得ることを目的とするものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
前記した本発明の目的は、アルミニウムを原子換算で5ppm以上500ppm以下含有した、250℃、2Hzでの動的粘弾性測定において貯蔵弾性率が7.0×103dyn/cm2以上であり、かつ固有粘度(IV)が0.55以上0.80以下である、複屈折率が25×10 −3 以上70×10 −3 以下のポリエステル高配向未延伸糸により達成される。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明のPOYの貯蔵弾性率は、250℃・2Hzの条件下で7.0×103dyn/cm2以上である。ただしここでの貯蔵弾性率は溶融状態での動的粘弾性の測定(溶融粘弾性)によって得られるものである。
【0015】
本発明での動的粘弾性の測定が250℃で行われる理由は、この温度が口金から吐出されたポリマーの変形開始時の温度に近いことによる。一般にポリエステル、特にPETの溶融紡糸の場合、ポリマーは280℃〜300℃程度で溶融して口金から紡出され、冷却されながら結晶融解温度(約260℃)からガラス転移点温度(約80℃)の間で固化・変形が終了する。ここで吐出直後は重力の影響で緩やかに変形するが、やがて繊維構造が形成し始めて内部応力が発生し始めると、変形速度が急に上昇し始める。この急激な変形開始時の温度が約250℃であり、このためこの温度で行う。
【0016】
さて本発明において、動的粘弾性の測定で得られる貯蔵弾性率の高いものを選定した理由を以下に述べる。動的粘弾性の測定で得られる弾性率には損失弾性率と貯蔵弾性率とがあり、損失弾性率は与えた外部応力に対するポリマー変形の遅延応答を記述する物理量であるのに対し、貯蔵弾性率は外部応力に対するポリマー変形の瞬間的応答を反映した物理量である。本発明の目的である繊維配向の抑制を達成するためには、紡出直後できるだけ短時間のうちにポリマーが変形を終了する必要があるが、そのためには外部応力に対するポリマー変形の瞬間的な応答を記述する貯蔵弾性率を高めることが有効なのである。
【0017】
繊維配向を抑制するために紡出直後できるだけ短時間のうちにポリマーが変形を終了する必要があるのは、以下の理由による。PETは口金から吐出された後、冷却されながら変形する過程で、分子配向を形成していく。そしてPETの配向度は吐出したポリマーの変形終了時に、ポリマーにかかっている応力に比例することが知られている。したがってPETの配向を低減するためにはポリマー変形が終了した時点の応力を下げる必要があり、そのためにはPETの変形を高温で、つまり早く終了させることが有効なのである。
【0018】
このような考えのもとに我々は鋭意研究を行った結果、吐出されたポリマーの貯蔵弾性率が250℃・2Hzの条件下の粘弾性測定において、7.0×103dyn/cm2以上、好ましくは10.0×103dyn/cm2であればポリマーの変形終了点を十分に早く終了させることが可能であることを見出した。すなわち、貯蔵弾性率が7.0×103dyn/cm2以上であればポリマーの変形を口金に近づけることができるので、変形終了時のポリマー温度を十分高温にすることが可能であり、したがってこの時のポリマー応力が低下するので引き取った繊維の配向を抑制することが可能となる。
しかしながら、貯蔵弾性率が7.0×103dyn/cm2未満ではポリマーの変形終了点が吐出部に十分に近づくことがないため、変形終了点の応力が高くなり、配向抑制効果は不十分である。
【0019】
さらに、本発明のポリエステルPOYの配向を低減するためにはポリマーの固有粘度に上限が存在する。すなわち、貯蔵弾性率を上げて変形終了点を早くしても、ポリマー自身の粘度が高い場合には変形終了点でポリマー分子鎖にかかる応力が大きくなるため、配向が低減しない。従って本発明におけるPOYは、貯蔵弾性率が7.0×103dyn/cm2以上であると同時に、ポリマー固有粘度(IV)は0.80以下、好ましくは0.75以下であることが必要である。
IVが0.80を越えると溶融粘度が上昇し、POYの配向度を決定する変形終了点での張力が高くなってしまう。PETの配向度は吐出したポリマーの変形終了時にPET分子鎖にかかっている応力に比例するため、ポリマーの固有粘度が上昇していくと引き取った繊維が高配向・低伸度となり、本発明の目的である高速製糸性が阻害されるので好ましくない。
【0020】
一方、IVは0.55以上、好ましくは0.60以上であることが好ましい。IVが0.55未満であると製品の力学的特性が低下するほか、製糸過程においても力学的強度が低いことに起因する糸切れ・毛羽立ちなどが多発するため好ましくない。また重合度が低いためにオリゴマーが多量に含まれ、口金が汚れやすく、製糸性が悪化するため好ましくない。
【0021】
本発明のポリエステルPOYを構成するポリエステルとしては、PET、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどが挙げられるが、PETが汎用的で最も好ましい。また、艶消し剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料などの添加剤を含有していても良い。なお、ポリエステルはジオールまたはジカルボン酸成分の一部が各々10mol%以下の範囲で他の共重合可能な成分で置換されたものであってもよいが、重合時や紡糸機内での異物生成を避けるという観点から、共重合化合物としては1または2官能のものが好ましい。
【0022】
複合紡糸やポリマーブレンドによって配向抑制を行う技術は、例えば特開平9−176920号公報に記載がある。しかし複合紡糸の場合には製造のための設備が複雑になり、またポリマーブレンドによる方法ではブレンド斑に起因する染め斑が問題になるため、本発明におけるPOYは非相溶のポリマーを含まず、単一のポリマーからなるPOYであることが好ましい。このようなPOYであれば、その製造設備は簡単であり、設備コスト、ランニングコストに有利なばかりでなく、工程管理も容易なので高品位の製品の製造が行いやすい。また延伸、熱セット、製織、染色などにおいても従来のポリエステルと同様の扱いで十分であり、特別な設備を付与したり、条件を大幅に変更する必要などがない。
【0023】
本発明のPOYはその後延伸仮撚加工を施すので、その複屈折率は延伸仮撚加工の工程通過性が安定するように25×10−3以上70×10−3以下である。複屈折率が25×10−3より低いと、糸掛け性が不良になったり、延伸仮撚加工時に融着などが発生してしまい、一方70×10−3より大きいと加撚張力が過度に高くなり、毛羽や断糸が多発してしまう。好ましくは30×10−3以上60×10−3以下である。
【0024】
本発明のPOYには広角X線回折によりポリエステル結晶に起因する回折ピークが認められ、70℃温水中での収縮率が30%以下となることが好ましい。従来のPOYでは微小な結晶核しか生じないが、紡糸速度を高速化していくと、非晶に由来するハローは弱くなり、さらに赤道線上に集中した回折線が分離を始め、結晶が成長していく様子が観察される。本発明のように多量の非晶ハローの上に回折ピークが存在するという状態を実現した技術は特開平9−176920号公報に記載があるが、上述したように該公報のような芯鞘複合繊維による技術よりも、本発明のように実質的に単一のポリマー組成で達成することが好ましい。
【0025】
このような繊維構造を実現することにより、本発明のPOYの70℃温水中での収縮率は30%以下となり、形態安定性が優れたさらに好ましいPOYとすることが可能である。一般に非晶性で配向度の高い繊維は、その配向度に応じて高い温水収縮率を示す。そして配向度が高くなり、いわゆる結晶核が生成し始めると温水収縮率が頭打ちとなり、さらに配向度が高くなり結晶化すると急激に温水収縮率が低下する。このように、繊維の結晶性が温水収縮率に反映するのは、生成した結晶が架橋点となって繊維の形態変化を抑制しているからと考えることができる。本発明のPOYは広角X線回折によりポリエステル結晶に起因する回折ピークが認められることからわかるように非晶の中に明確な結晶が存在しており、これが架橋点となって温水収縮率を低下しているものと考えられる。その結果構造が安定であり経時変化が小さく、従来のPOYを、延伸するに際し、特に染色均一性を保つために紡糸してからの経過時間を一定に保つ必要がない。さらに構造が予め安定化しているためパッケージの内層部でも外層部でも経時変化が小さく、両者の品質差がほとんどなくなる。そのため、低温熱処理等により経時変化を促進解消するような処理を施して品質をそろえる必要もなくなる。
【0026】
以上のように高速製糸性に優れたPOYは、アルミニウムを原子換算で5ppm以上500ppm以下含有させることによって達成する。
添加する物質がアルミニウム化合物であると、驚くべきことに該化合物をアルミニウム原子換算で数百ppm以下含有させるだけで配向抑制効果が発現する。これは従来知られているポリマーブレンドや多官能性共重合物添加などによる配向抑制効果に比べて極めて少ない添加量であり、PETが有する優れた特性をほとんど変えることがない。更に本発明を生産に適用する際には、従来のPET重合工程や製糸工程、高次加工工程などに設備面での変更を加える必要がないため、コスト面からも有利である。またアルミニウム化合物であるとポリマーの色調に与える影響がほとんどなく、粒子やポリマーブレンドによる方法のように白化が起こらず、また多くの遷移金属化合物に見られるような着色は見られない。
【0027】
本発明におけるアルミニウムの含有量はポリマーに対して原子換算で5ppm以上500ppm以下、好ましくは50ppm以上400ppm以下である。この範囲とすることで本発明の目的とするPOYの配向抑制効果が十分に得られ、また添加したアルミニウムによって生成した化合物粒子の2次凝集による粗粒に起因する紡糸・延伸時の断糸、およびポリマー配管の閉塞、さらにはパック内フィルターの詰まりなどのトラブルを抑制できる。
【0028】
本発明におけるアルミニウムの役割は十分明らかではないが、次のように考えられる。アルミニウムはポリエステル中で錯体を形成しており、分子鎖とはエステル結合のカルボニル酸素と配位結合を形成している。この結合は固定的なものではなく、長時間のうちにはアルミニウムと酸素の結合は壊れ、このアルミニウムは別の酸素と結合を形成することができるような、可逆的な結合である。従ってこの結合はゆっくりとしたポリマー変形に対しては架橋点として作用せず、ポリマーへの変形抵抗は少ない。
【0029】
一方短時間の変形に対しては、アルミニウムが別の酸素へ結合を変形することができないので架橋点として作用し、ポリマーの変形に対して大きな力学的抵抗を与えると考えられる。これらの性質がポリマーの粘弾性的な性質に反映し、短時間の変形に対する変形抵抗を表す貯蔵弾性率が高くなるものと考えられる。
本発明におけるPOYに含まれるアルミニウムは式(1)で示されるアルミニウム化合物であることが好ましく、ポリエステル組成物を溶融して、紡糸口金から吐出し、3500m/分以上、7000m/分以下の速度で引き取ることによって得ることができる。
Al[OR1]l[OR2]m[OR3]n[R4]o …(1)
(ただし、式中R1、R2、R3はアルキル基、アリール基、アシル基、水素、R4はアルキルアセトアセテートイオン、アセチルアセトンイオンを指す。またl,m,n,oはそれぞれ0または正数でかつl+m+n+o=3である。)
本発明におけるアルミニウムの添加形態は式(1)で表される化合物である。式(1)で表される化合物の中でも、特にアルミニウムアルコレート、カルボン酸アルミニウム塩、アルミニウムキレート、水酸化アルミニウム等が反応性、コストの点で好ましい。
【0030】
アルミニウムアルコレートはアルコールの水酸基の水素をアルミニウム元素で置き換えた構造の化合物である。具体的には、アルミニウムエチレート、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウム−n−ブチレート、アルミニウム−sec−ブチレート、アルミニウム−tert−ブチレートなどが挙げられる。
アルミニウムキレートは、アルミニウムアルコレートのアルコキシ基の一部または全部をアルキルアセト酢酸エステルやアセチルアセトンなどのキレート化剤で置き換えた化合物であり、具体的には、エチルアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムモノアセチルアセテートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセテート)、アルミニウムモノイソプロポキシモノオレオキシエチルアセトアセテート、アルミニウムアセチルアセトネートなどが挙げられる。
【0031】
カルボン酸アルミニウム塩としては、安息香酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム等が挙げられる。ただし、酢酸アルミニウムはポリエステル中での不溶物を生成しやすく、好ましくない。
【0032】
本発明の目的を達成するためには、アルミニウム化合物分子とポリエステル分子鎖を直接的に化学的相互作用させる必要があるため、上記のような化合物の形で添加することが好ましい。従って、例えばアルミナ(酸化アルミニウム)やアルミニウム金属粉等を添加しても、アルミニウムはポリエステル分子鎖と配位結合を形成しないので配向抑制効果は得ることができず、本発明で述べる技術とは区別される。
【0033】
本発明に使用されるポリエステル組成物の製造方法をPETを例にとり、説明する。テレフタル酸とエチレングリコールとからエステル反応によって得た反応生成物を重縮合せしめる方法(直重法)、およびテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとからエステル交換反応によって得た反応生成物を重縮合せしめる方法(エステル交換法)のいずれによっても得ることができるが、以下直重法について詳述する。
【0034】
テレフタル酸とエチレングリコールとを240℃〜280℃で触媒の存在下または、無触媒でエステル化反応せしめ、反応率95%以上の反応生成物を得る。しかる後、重合反応触媒、リン化合物、二酸化チタンなどを添加した後、230℃〜300℃減圧下で重縮合反応を行い、目的とするポリエステル組成物を得る。アルミニウム化合物は重合触媒活性を有するので、重合反応触媒として使用することで系に導入してもよいし、他の添加剤を添加するのと同時に系に添加しても良いが、前者の方が好ましい。また後者の場合でも固有粘度が0.3に達する以前に添加するのが好ましい。
【0035】
本発明の方法によれば、重合時に極少量の添加剤を加えるだけで目的のポリエステル組成物を得ることができるので複雑な設備は必要なく、また従来のポリエステルとほぼ同一の溶融粘度を与えるので異常滞留による異物の発生はない。さらに低融点のポリマーをブレンドするなどしていないので単糸間の融着や染めムラの発生もなく、また分散径に帰因する物性変化の懸念もない。
【0036】
このようにして得られたPOYは、従来のPOYの紡糸速度より高い3500m/分以上の紡糸速度で生産することが可能である。紡糸速度は速い方が生産効率は高く、本発明によれば紡糸速度7000m/分以下、好ましくは6000m/分以下で生産することができ、このことは従来のPOYに比べて約2倍以上の効率でPOYの製造が可能になることを意味しており、本発明の利点の一つである。ただし7000m/分を越えるような紡糸速度の領域では得られる繊維の配向が進みすぎて、仮撚加工が可能な繊維とはならない他、特別なワインダーを導入する必要があるため設備費がかさみ、生産性向上のメリットが少なくなる。
【0037】
このような本発明で得られるポリエステルPOYを使用し、延伸仮撚加工を行った場合、前記したように工程安定性および工程通過性が改善される利点がある。さらに、加撚張力を高く設定できるため加工速度の高速化が可能であり、延伸仮撚工程においても生産性の向上が図られる。
【0038】
本発明で得られたポリエステル繊維は、生糸のままで、あるいは撚糸、延伸仮撚加工糸として衣料用途に好適に用いることができる。また、産業用資材に用いることも可能である。
【0039】
【実施例】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。尚、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
A.固有粘度IV
オルソクロロフェノール中25℃で測定した。
B.繊維の強度および伸度
JIS L1013にしたがい、オリエンテック社製引張試験機で試料長50mm、引張速度50mm/分の条件で荷重−伸長曲線を求めた。次に荷重値を初期の繊度で割り、それを強度とし、伸びを初期試料長で割り、伸度とした。
C.70℃における温水収縮率
繊維をかせ取りし、70℃の温水に15分間浸漬した後、処理前後の寸法変化を測定し次の式から計算した。
【0040】
収縮率=[(処理前長−処理後長)/処理前長]×100
D.複屈折率
複屈折率はOLYMPUS社製BH−2偏光顕微鏡を用いてレターデーションΓと繊維経dより、複屈折率=Γ/dとして測定した。
E.動的粘弾性(貯蔵弾性率)
溶融状態での動的粘弾性の測定はレオロジー社製MR−300ソリキッドメーターを用いて、250℃、2Hzの条件で測定した。
F.広角X線回折理学電機社製4036A2型X線発生装置によりCuKα線(Niフィルター使用)を線源として、赤道方向に測定した。出力は40kV、20mA、スリット径は2mmφ、積算時間は2秒とした。得られたX線回折強度図はSavitzkyとGolayの平滑法(Analytical Chemistry、vol.36(8)、1627(1964)を用いて平滑処理を行った。
G.アルミニウム原子定量法繊維に硫酸を加えて灰化した後、塩酸溶液に溶解し、原子吸光法にて定量した。
H.捲縮特性 CR値測定しようとする繊維の5回巻きのかせを取り、それを90℃の温水中で20分間自由に収縮させる。その後かせを温水から取り出し、一晩風乾する。そして、20℃の水温で初荷重と荷重をかけ2分後のかせの長さを測定する。(L0)。その後すぐに荷重を取り去り、さらに2分後の水中でのかせの長さを測定する(L1)。そして次の式から捲縮の回復率であるCR値を計算した。
【0041】
CR=(L0−L1)/L0
なお、初荷重は(繊維のデニール数)×5×2/25グラムの重りを、荷重は(繊度のデニール数)×2グラムの重りを使用した。
I.染め斑
仮撚加工糸で編み地をつくり、青色の分散染料で染め、目視により判定した。
J.製糸性
表1に記載の条件でPOYを製糸したときに、30分以上安定に巻き取れたものを○、30分巻き取れたものの毛羽が発生したものは△、30分経たないうちに断糸したものは×で示した。
実施例1〜4、比較例1、2
高純度テレフタル酸とエチレングリコールから常法に従って製造した、触媒を含有しないオリゴマーを250℃で溶融し、該溶融物へ水酸化アルミニウムを分散したテトラエチルアンモニウムヒドロキシド(以下、EAHと略す)とリン酸水溶液を添加した。化合物は最終的に得られるポリマーの含有量として、リン酸50ppm、アルミニウム原子を実施例、比較例とも表2の量となるよう変更して添加した。なお、実施例2、3および比較例1の場合には、水酸化アルミニウムを添加すると同時に原子換算で250ppmの三酸化アンチモンをエチレングリコール分散液として添加した。その後低重合体を30rpmで攪拌しながら、反応系を250℃から285℃まで徐々に昇温すると共に、圧力を40Paまで下げた。最終温度、最終圧力到達までの時間はともに60分とした。所定の攪拌トルクとなった時点で反応系を窒素パージし常圧に戻し重縮合反応を停止し、冷水にストランドを吐出、直ちにカッティングしてポリエステルのペレットを得た。230℃〜300℃減圧下で重縮合反応を行い、目的とするポリエステル組成物を得た。攪拌トルクは実施例、比較例ともIVが0.65となるよう調整した。
このポリエステル組成物をプレッシャーメルター型の紡糸機にて溶融し、絶対濾過径10μのステンレス製不織布フィルターによって濾過した後、孔数24の口金から吐出した。紡糸温度は295℃、吐出量は60g/分となるように調整した。吐出した糸条は、吐出後ユニフロ型のチムニーにて冷却・固化せしめ、さらに給油後交絡を付与し、室温の引き取りローラーを介して巻き取り機で巻き取った。
以上の条件で得た糸の固有粘度、原子吸光法によるアルミニウム原子濃度、紡糸速度、強度・伸度、複屈折率、動的粘弾性測定における貯蔵弾性率、広角X線での回折ピークの有無、70℃における温水収縮率を表1に示す。なお、引き取りローラーの速度を紡糸速度とし、実施例1〜4、比較例1、2では紡糸速度を5000m/分とした。
【0042】
実施例の繊維はいずれも貯蔵弾性率が大きいために配向抑制効果が高く、またX線回折ピークが認められるために収縮率が低くなっていることがわかる。ただし比較例2ではアルミ化合物の添加量が550ppm(検出量536ppm)であるためやや製糸性が悪い。一方、比較例1はアルミ化合物の添加量が3ppmと低いため貯蔵弾性率が低く、このため、配向抑制効果が低く、X線回折ピークも認められないため収縮率も高い。
実施例5、6、比較例3、4
実施例1と同様の方法で、添加アルミニウムが原子換算で250ppmとし、IVを表1のようになるよう変更してポリエステル組成物を作り、これを紡糸して繊維を得た。紡糸速度は5000m/分とした。
【0043】
実施例はいずれも貯蔵弾性率が大きいために配向抑制効果が高く、またX線回折ピークが認められるために収縮率が低くなっていることがわかる。一方、比較例でも実施例同様にいずれも貯蔵弾性率が高く、X線回折ピークが認められるため収縮率は低い。しかしながらIVが低い比較例3では配向抑制効果が高く収縮率も低くなっているが、製糸性が悪く、またIVが高い比較例4では配向抑制効果が低いため製糸性が悪い。
実施例7、8、比較例5、6
実施例1と同じポリエステル組成物を使用し、紡糸速度を表2のように変更して製糸した。いずれも貯蔵弾性率が大きいために配向抑制効果が高く、またX線回折ピークが認められるために収縮率が低くなっているが、比較例5は紡糸速度が低いため複屈折率が低い。このため繊維構造形成が不十分なためX線回折ピークが見られず、収縮率がやや高い。また比較例6は紡糸速度が高いため複屈折率が高く、この場合は製糸性がやや悪い。
実施例9〜12、比較例7
水酸化アルミニウムを分散したEAHを触媒として利用する代わりに、表2の実施例9〜12に示した化合物をエチレングリコールに溶解または分散させたものを使用して、実施例1と同様の方法でポリエステル組成物を重合し、製糸した。実施例の化合物はいずれも貯蔵弾性率が高く、十分な配向抑制効果と低収縮率を合わせ持つことがわかる。
【0044】
一方、比較例7では実施例1で使用した水酸化アルミニウム/EAHの代わりに酸化アルミニウム(アルミナ)のエチレングリコール分散液を添加し、さらに三酸化アンチモンのエチレングリコール分散液を、三酸化アンチモンが原子換算で250ppmとなるよう添加した。比較例7ではアルミニウム化合物の添加量は高いものの、貯蔵弾性率は低いことから配向抑制効果は低く、X線回折ピークが認められないため収縮率も高かった。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
実施例13、14、比較例8〜11
実施例1、2および比較例1、2、5〜7で得られたPOYを用い、ヒーター温度215℃、ツイスター回転数6800rpmで延伸仮撚加工を行った。加工速度700m/分での結果を表3に示す。これからわかるように本発明のPOYを使用すると、加撚張力が高いため、工程安定性、通過性は良好であり、得られる仮撚加工糸の染め斑も良好であった。このように、本発明では紡糸工程のみならず延伸仮撚工程でも生産効率の向上に寄与することができる。
【0047】
一方比較例8ではアルミニウム化合物の添加量が多いため毛羽が発生した。比較例9では複屈折率が低いためバルーンが不安定であり、染め斑も発生した。比較例10では加撚張力が低いため延伸仮撚ゾーンでのバルーンが安定せず、工程安定化が悪かった。また、比較例11では加撚張力を高くすることができるが、断糸・毛羽が多くて断糸が多く、スジが発生するなど染め斑も発生した。
【0048】
【表3】
【0049】
【発明の効果】
本発明のポリエステルPOYは、経時変化が小さいため、仮撚加工時の加工安定性が高く、工程の通過性が良好である。また、紡糸時のPET分子鎖の配向抑制効果が大きいので、紡糸速度を上げることができ、生産性の向上が可能である。
Claims (3)
- アルミニウムを原子換算で5ppm以上500ppm以下含有した、250℃、2Hzでの動的粘弾性測定において貯蔵弾性率が7.0×103dyn/cm2以上であり、かつ固有粘度(IV)が0.55以上0.80以下である、複屈折率が25×10 −3 以上70×10 −3 以下のポリエステル高配向未延伸糸。
- 広角X線回折によりポリエステルの回折ピークが認められ、かつ70℃における温水収縮率が30%以下であることを特徴とする請求項1のポリエステル高配向未延伸糸。
- 式(1)で示されるアルミニウム化合物を原子換算で5ppm以上500ppm以下添加してなるポリエステル組成物を溶融、紡糸口金から吐出し、3500m/分以上、7000m/分以下の速度で引き取ることを特徴とするポリエステル高配向未延伸糸の製造方法。
Al[OR1]l[OR2]m[OR3]n[R4]o …(1)
(ただし、式中R1、R2、R3はアルキル基、アリール基、アシル基、水素、R4はアルキルアセトアセテートイオン、アセチルアセトンイオンを指す。またl,m,n,oはそれぞれ0または正数でかつl+m+n+o=3である。)
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