JP3848478B2 - コークス炉の診断補修装置及び診断補修方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、コークス炉炭化室内の壁面耐火物の損傷状況を熱間で観察診断し、該観察診断結果に基づいて壁面耐火物を補修するコークス炉の診断補修装置及び診断補修方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
コークス炉炭化室の壁面は耐火物レンガでおおわれている。該壁面の耐火物に目地切れ、亀裂の発生、レンガの欠損等の損傷が生じると、発生コークス炉ガスが炭化室から燃焼室へ流入して不完全燃焼を生じたり、熱分解カーボンの炉壁への付着の増大あるいは製造したコークスの損傷部への食い込みによって押し詰まりの問題が生じる。
【0003】
炭化室壁面の耐火物の損傷を補修する種々の方法あるいは装置が提案されている。特開平7−126637号公報には、補修材の吹付けノズルを有するランスの先端に撮像装置を設け、該撮像装置により炉壁面を走査してモニタに表示すると共に、前記ランス先端に設けた距離センサにより、前記ランス先端と炉壁面との距離を測定して炉壁面の損耗量データを求め、ランスを駆動するランス駆動機構における駆動量から前記ランス先端に対する前記炉壁面の損耗部分の位置座標を求め、これらの壁面画像情報、損耗量データおよび損耗部分の位置座標データから、炉壁面の必要な補修範囲と補修パターンを指示、選択し、前記炉壁面の損耗部分を所定の補修パターンに従って吹き付け補修するようにしたことを特徴とするコークス炉炉壁の補修方法が記載されている。ランス駆動装置は炭化室外部に配置され、該ランス駆動装置でランスを駆動することによってランス先端に設けた撮像装置、距離センサ、吹き付けノズルの位置を移動する。
【0004】
特開平9−302354号公報においては、長尺ビームの先端に駆動装置で移動可能に溶射バーナとコテが取り付けられ、事前に損耗状況を把握して決定した補修範囲に該溶射バーナで耐火物を溶射することにより補修し、溶射肉盛りした部分にコテを押し付けることで溶射施工体の表面を平滑にする補修方法が開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
壁面耐火物レンガのうち、補修を行うべき損傷が生じている部位においては、耐火物の表面には劣化した耐火物が残存しており、更に損傷によって耐火物表面に凹みが生じている場合、凹み部には付着カーボン層が生成していることが多い。そのため、このような劣化した耐火物や付着カーボン層の上に溶射バーナで耐火物を溶射して補修を行っても、溶射耐火物が容易に脱落して剥離し、補修部の寿命は非常に短いものとなる。付着カーボンを除去する目的で、製造したコークスを押し出した後に炭化室内に空気を送り込み、該空気によって付着カーボンを燃焼除去することが行われているが、コークス製造の間の限られた時間内に付着カーボンを十分に除去することはできない。
【0006】
劣化した耐火物の除去や付着カーボン層の除去のため、2個のタングステンカーバイト工具を各々1本のチェーンでつなぎ、これを回転して機械的にハツリ除去する方法が知られているが、該方法においては劣化耐火物や付着カーボン層のみならず、健全な耐火物まで粉砕剥離してしまうという問題があった。また、2本のチェーン長さに必ず違いが生じて1個の工具しか有効に作用しないという問題があった。
【0007】
また、溶射肉盛りを行った場合、肉盛り部がレンガ面に対して凸状に盛り上がることがある。このような凸部は、乾留コークスを押出し機で押し出す際の抵抗となり、押し詰まりの原因となる。特開平9−302354号公報に開示されたコテを用いて溶射部を平坦化する方法においては、凸部の位置を確認せずに平坦化を行おうとするため、処理に長時間を要するとともに、大きく盛り上がった凸部を十分に平坦化することができないし、かえって形状を悪化させることもある。
【0008】
特開平9−302354号公報に開示された方法においては、事前に補修すべき位置を決定し、該決定に基づいて補修装置を炉内に挿入して補修を行うが、コークス炉の炉底の凹凸や残存する塊や粉の影響で装置の傾きや進行方向の蛇行が生じ、補修すべき位置の誤差が生じたり、溶射バーナと壁面の距離及び角度を正確に把握できないため、良好な補修品質を得ることができないという問題があった。
【0009】
本発明は、以上の問題を解決し、補修すべき位置を正確に把握して補修を行い、付着カーボンや劣化耐火物を除去して健全な補修部位を形成し、補修後のレンガ面を平坦化し、強固で寿命の長い補修を行うことのできるコークス炉の診断補修装置及び診断補修方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明の要旨とするところは、
(1)室炉式コークス炉1の炉内を前進後退する台車3と、炭化室壁面を撮像する撮像装置18、該壁面との距離を測定する距離計16、該壁面の温度を測定する温度計17の中で該距離計を含んで他の1又は2を有する観察診断装置9と、前記壁面に局部的に酸素ガス又は酸素過剰燃料ガスを吹き付けて付着カーボンを燃焼除去するカーボン燃焼除去装置12と、前記壁面レンガ表面及び付着カーボンを機械的ハツリで除去する機械ハツリ除去装置10と、前記壁面に耐火物を溶射して耐火物補修を行なう溶射装置11と、前記台車3前部にあって前記観察診断装置9、カーボン燃焼除去装置12、機械ハツリ除去装置10、溶射装置11を空間的に移動するための駆動装置4とを有するコークス炉の診断補修装置において、前記機械ハツリ除去装置10は、長さ100〜500mmの板状回転羽根13の先端に高硬度の工具14を配置し1000〜5000rpmで回転してなるとともに、前記距離計の測定結果を用いて機械ハツリを行う範囲及び深さを切削除去し壁面損傷部の底面形状が平坦となるように整形することが可能であり、かつ前記台車3をコークス炉炉室外部において挟み込むとともに、前記距離計の測定結果を用いて該台車3のコークス炉炉内走行方向を矯正する走行補正装置31を有することを特徴とするコークス炉の診断補修装置。
(2)前記カーボン燃焼除去装置12の酸素ガス又は酸素過剰燃料ガス吹き付けノズル及び前記溶射装置11の溶射バーナーは、前記駆動装置先端に常設又は付け替え可能に配置されていることを特徴とする上記(1)に記載のコークス炉の診断補修装置。
(3)前記溶射装置11の溶射バーナーは、前記カーボン燃焼除去装置12の酸素ガス又は酸素過剰燃料ガス吹き付けノズルを兼ねていることを特徴とする上記(2)に記載のコークス炉の診断補修装置。
(4)壁面に溶射した耐火物を切断して目地を形成するため、ウォータージェットノズルもしくは回転式カッターよりなる溶射補修面切断装置を前記駆動装置先端に常設又は付け替え可能に配置していることを特徴とする上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のコークス炉の診断補修装置。
(5)コークス炉の炭化室内の壁面を熱間で診断し補修する方法であって、予め前記壁面の補修すべき部位を定め、次いで上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の診断補修装置を炉内に挿入し、前記壁面の補修すべき部位を前記観察診断装置9で観察し、該観察結果に基づいて前記壁面に局部的に酸素ガス又は酸素過剰燃料ガスを吹き付けて付着カーボンを燃焼除去し、並びに前記壁面レンガ表面の劣化レンガ及び付着カーボンをハツリ後において壁面損傷部の底部形状が平坦となるように機械的にハツリ除去し、前記壁面に耐火物を溶射して耐火物補修を行ない、余分に盛られた溶射材料が壁面に付着している場合は該余分な溶射材料を機械的にハツリ除去し、その後前記診断補修装置を炉から抜き出すことを特徴とするコークス炉の診断補修方法。
(6)診断補修装置として上記(4)に記載の診断補修装置を使用し、壁面に耐火物を溶射して補修を行った後に溶射補修面切断装置によって溶射した耐火物を切断して目地を形成することを特徴とする上記(5)に記載のコークス炉の診断補修方法。
にある。
【0011】
本発明のコークス炉の診断補修装置は、図1に示すように、コークス炉の炉内を前進後退する台車3を有し、観察診断装置9、カーボン燃焼除去装置12、機械ハツリ除去装置10、溶射装置11は台車前部に設置した駆動装置4に取り付けられている。この駆動装置4により、台車3を静置した状態において、観察診断装置9、カーボン燃焼除去装置12、機械ハツリ除去装置10、溶射装置11をコークス炉内の空間を移動させることができる。コークス炉の診断及び補修に際しては、まず台車3を炉内に挿入して予め定めた補修すべき位置の付近にて停止する。次いで、観察診断装置9を駆動装置4によって走査することによって補修すべき位置の付近を観察し、補修すべき位置を正確に決定する。台車3は静置しているので、観察診断装置9によって決定した補修すべき位置の座標を正確に保ったままでカーボン燃焼除去装置12、機械ハツリ除去装置10、溶射装置11による補修を行うことが可能になる。
【0012】
本発明の診断補修装置はカーボン燃焼除去装置12を有し、図5に示すように炉内壁面に局部的に酸素ガス又は酸素過剰燃料ガスを吹き付けて付着カーボン25を燃焼除去することができる。観察診断装置9による観察診断結果として、炉内に局所的に付着カーボン層25が残存することが確認された場合、カーボン燃焼除去装置12を用いて該付着カーボン層に酸素ガス又は酸素過剰燃料ガスを吹き付けて付着カーボンを燃焼除去する。これにより、炭化室内に空気を送り込むことのみでは燃焼除去しきれなかった付着カーボン層も除去できるようになり、その後に行う溶射による補修耐火物層がレンガに強固に付着し、補修耐火物の寿命を向上することができる。
【0013】
本発明の診断補修装置は機械ハツリ除去装置10を有し、図7、8に示すように壁面レンガ表面の劣化した耐火物を機械的ハツリで除去することができる。劣化した耐火物がレンガ表面から除去されるので、その後に行う溶射による補修耐火物層がレンガに強固に付着し、補修耐火物の寿命を向上することができる。また、機械ハツリは付着カーボン層の除去に用いることもできる。
【0014】
本発明の診断補修装置は溶射装置11を有し、図10に示すように炉壁の損傷部を溶射補修することができる。補修すべき部位に残存していた付着カーボン層25はカーボン燃焼除去装置12あるいは機械ハツリ除去装置10によって十分に除去され、また補修すべき部位に残存していた劣化耐火物26も機械ハツリ除去装置10によって十分に除去されているので、溶射耐火物27はレンガ層に強固に付着することが可能になり、寿命の長い補修耐火物層を形成することができる。
【0015】
溶射補修後に本発明の観察診断装置9によって補修状況を観察診断することができる。溶射耐火物27がレンガ表面から凸状に盛り上がっていることが確認できた場合は、本発明の機械ハツリ除去装置10を用いて凸部をはつり除去することができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
図1〜11に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
本発明の観察診断装置9や溶射装置11等を備える台車3は、車輪30又は橇によってコークス炉炉底21に接地し、炉室内を前進後退することができる。台車3の前進後退は、コークス炉炉外に配置された挿入駆動部29によって行う。台車の前部は炉室の最も奥まで前進することを要する一方、挿入駆動部29は常に炉外に位置するため、台車は炉室の長さに相当する長さを有するものとなる。台車3は、台車前部3aと台車後部3bとを着脱可能な構造としてもよい。これにより、後述する炉内診断専用装置32と本発明の台車前部3aとを付け替えることにより、台車後部3bを本発明の診断補修装置と上記炉内診断専用装置32とで共用として使用することが可能になる。
【0018】
本発明の診断補修装置は、図11に示すように走行台車33の上に設置することができる。走行台車33はレール35の上を走行可能であり、これにより補修を実施すべき炉室まで移動する。挿入駆動部29は走行台車33の上のレール34の上を走行する。
【0019】
台車3の炉内先端部には、観察診断装置9や溶射装置11等を炉内空間で移動するための駆動装置4を有する。図1において、駆動装置4は炉内前後方向の平行移動機構5、炉内上下方向の回転するアームを利用した回転移動機構6、回転移動機構6のアーム7先端部に取り付けられる炉内左右方向の左右回転機構8を有する。観察診断装置9や溶射装置11等は左右回転機構8の先端に取り付けられる。この駆動装置4により、左右回転機構8の先端に取り付けられた観察診断装置9や溶射装置11等は炉内の上下方向全域を移動し、炉内前後方向は一定の領域を移動可能であり、更に観察診断あるいは補修する対象として左右いずれの炉壁をも選択することが可能になる。回転移動機構6の動作による先端部の軌跡は円弧となるが、回転移動機構6の動作にあわせて平行移動機構5を動作させることにより、先端部の軌跡を直線とすることもできる。
【0020】
左右回転機構8の先端に取り付けられる観察診断装置9としては、炭化室壁面を撮像する撮像装置18、該壁面との距離を測定する距離計16、該壁面の温度を測定する温度計17の1又は2以上から選択することができる。撮像装置18としてはCCDカメラ等を用い、補修を行う壁面の観察を行う。距離計16としてはレーザー距離計等を用い、炉壁レンガの損耗量を測定する。図5に示すように、補修を予定する位置付近の壁面を二次元的に走査しながら該距離を測定することにより、壁面の損傷深さを三次元情報として取得することができる。走査は駆動装置4の動作によって行う。温度計17としてはサーモビュアー、放射温度計を用いることができる。壁面の温度分布を測定することにより、カーボン燃焼除去装置12の作動中の壁面温度の監視や、溶射、機械ハツリ中の温度監視が可能になる。
【0021】
左右回転機構8の先端に取り付けられたカーボン燃焼除去装置12は、壁面に酸素ガス又は酸素過剰燃料ガスを吹き付けるためのノズルを有する。図6に示すように、ノズル先端を対象とする壁面に近づけた上でガス吹きつけ方向を対象とする壁面に向け、駆動装置4の動作によって吹き付ける壁面位置を移動しながらガスを吹き付けて付着カーボンを燃焼除去することができる。
【0022】
左右回転機構8の先端に取り付けられた機械ハツリ除去装置10は、図7、図8に示すように、壁面レンガ表面及び付着カーボンの一方又は両方を機械的ハツリで除去する。機械ハツリ除去装置10として従来から用いられている方法は、2個のタングステンカーバイト工具を各々1本のチェーンでつなぎ、これを回転してチェーン先端のタングステンカーバイト工具を対象物に衝突させ、機械的にハツリ除去する方法があるが、本実施の形態では、図4に示すように、長さ100〜500mmの板状回転羽根13の先端に高硬度の工具を配置し1000〜5000rpmで回転し、先端の工具14によって対象物を切削する。
【0023】
チェーンを用いた従来の方法では、回転中にチェーンが撓むことが可能であるため、チェーン先端の工具が必ずしも円運動を行わず、対象物に衝突することがある。そのため、耐火物表面の付着カーボンや劣化耐火物層のみならず、その下の健全な耐火物まで粉砕剥離してしまうことがあった。また、2本のチェーン長さに必ず違いが生じて1個の工具しか有効に作用しないという問題があった。
これに対し、本実施の形態で用いる図4に示す上述の構成を有した機械ハツリ除去装置10は、先端工具は必ず一定半径の円弧軌跡を描くので、2個の工具14が均等に対象物に接触するとともに、工具14によって耐火物表面を切削することが可能になり、除去したい付着カーボンや劣化耐火物のみを除去することができる。
【0024】
機械ハツリにおいては、駆動装置4の平行移動機構5及び上下方向回転機構6でハツリを行うべき位置を移動し、左右回転機構8によってハツリ深さを調整する。
【0025】
左右回転機構8の先端に取り付けられる溶射装置11は、図10に示すように、溶射バーナーを有し、その先端から酸素とプロパンガスを噴射させてプロパン酸素炎を形成する。同時に溶射バーナー先端から粉体耐火物を噴射させると、粉体耐火物がプロパン酸素炎によって溶融し、溶融した粉体が壁面の耐火物に付着して溶射耐火物27が形成され、溶射補修が行われる。駆動装置4の動作によって溶射する位置を移動しつつ補修を実行することができる。溶射バーナーは、上述したカーボン燃焼除去装置12の酸素ガス又は酸素過剰燃料ガス吹き付けノズルを兼ねることも可能である。
【0026】
本発明の診断補修装置を用いた補修に先立ち、炭化室内炉壁のカーボン付着状況、レンガ肌荒れ・劣化状況、亀裂状況を観察し、概略の補修計画を立案する必要がある。図11に示すCCDカメラを装着した炉内診断専用装置32を炉内に挿入し、炉壁をCCDカメラでスキャンしながら該炉内診断専用装置32を移動することにより、炉壁全体のレンガ損傷状況等を把握することができる。炉内診断専用装置32は、その炉内部分を本発明の診断補修装置の台車後部に装着して炉内に挿入することもできる。
【0027】
炭化室内の炉壁に付着しているカーボンの多くは予め行う自然通風による燃焼で除去されているので、炭化室壁面の凹凸形状がわかりやすくなっている。
【0028】
炉壁のうちの補修すべき部位の概略を把握した後、本発明の診断補修装置を炉内に挿入し、診断補修装置の駆動装置4の移動範囲に補修すべき部位が含まれるような位置に台車を静置する。次いで、図5に示すように、駆動装置4の左右回転機構を調整して観察診断装置9の観察手段を対象とする壁面に向け、駆動装置4の平行移動機構5と上下回転移動機構6によって観察診断装置9を移動し、例えば20〜200mm程度のピッチで壁面を走査しながら観察を行う。観察診断装置9の距離計16を用いることによって壁面の侵食深さについての情報が位置の座標とともに得られる。カーボンの付着状況は、観察診断装置9の温度計による測定データあるいは距離計の測定結果に基づいて知ることができる。これら観察結果に基づき、付着カーボンを除去すべき部位、機械ハツリを行うべき部位、溶射補修を行うべき部位及びそれらの深さについて、その座標とともに正確に決定することができる。この結果をコンタ図等に処理加工して運転室にいる運転者等にわかりやすく表示する。運転者はパソコンに表示されたコンタ図内に矩形等で補修範囲と補修深さとを重ね書きして補修方法を定める。
【0029】
上記定めた補修計画に基づき、図5に示すように、カーボン燃焼除去装置12の吹き付けノズルを炉壁のカーボンを燃焼除去すべき部位に移動し、付着カーボン25を燃焼する。燃焼除去能力は、酸素ガス流速40Nm3/hrで付着カーボン燃焼速度は40cc/min程度となる。吹き付けノズルの噴射口数を増やし、また酸素流量を増大することにより、燃焼除去能力を増大することも可能である。この際、本発明の観測診断装置の温度計(サーモビュアー、放射温度計等)によってガスを吹き付ける壁面の温度を監視し、レンガが過熱し過ぎないように制御することが重要てある。吹き付けガスとして酸素ガスを用いる場合、通常は酸素ガス流量は20〜200Nm3/hrの範囲とする。流量が多すぎると燃焼完了時にレンガを冷却するからである。酸素過剰燃料ガスを吹き付ける場合、燃料ガスとしてはプロパンガスを用い、燃料ガスと酸素ガスの流量比は1:5〜1:8の範囲とする。酸素ガスが多すぎると炎が不安定になるからである。
【0030】
カーボン燃焼除去装置12によるカーボン除去を終了した後、再度観察診断装置9の距離計16で補修部位の壁面形状を正確に把握し、次いで図7、8に示すように機械ハツリ除去装置10によって補修部位のレンガの劣化層及び残存する付着カーボンの除去を行う。機械ハツリを行う範囲及び深さは、距離計16の測定結果に基づくコンタ図の情報や、駆動装置上に配置した作業カメラや運転監視カメラによる映像情報から総合的に判断し、矩形等で補修範囲と補修深さを重ね書きして補修方法を指示する。機械ハツリの途中でも、運転者は作業カメラや運転監視カメラの映像に基づき、ハツリの深さや送り速度を変更することができる。
【0031】
本発明の板状回転羽根13の先端に高硬度の工具14を配置したハツリ工具を用いることにより、劣化耐火物26や付着カーボン25の下部にある健全な耐火物層に損傷を与えずに劣化耐火物と付着カーボンを切削除去することができる。回転羽根13の長さは100〜500mmとすることが好ましい。長さが500mmを超えると炉内で随意に動かすことができなくなる。また、回転羽根13の回転速度は1000〜5000rpmとすることが好ましい。表面粗度の平滑化にはこの回転範囲が最も適しているからである。板状回転羽根の先端に取り付ける工具14にはタングステンカーバイドを用いることが耐磨耗性の観点で好ましい。
【0032】
補修部位を機械ハツリした後の凹部の底面形状28は、急峻な谷状とするよりも図9に示すような平坦な底部形状を形成するほうが、その後の溶射による補修耐火物の最終表面形状を平坦にすることができ、かつ補修耐火物を強固かつ健全にすることができる。そのため、劣化耐火物を除去した後の凹部の底部形状が平坦になっていない場合には、若干の健全耐火物のハツリを行っても平坦に整形することが好ましい。
【0033】
機械ハツリが完了した後、再度本発明の観察診断装置9の距離計16を走査させながら壁面の凹凸形状の測定を行い、コンタ図を作成して溶射補修すべき部位及び各部位毎の溶射量を決定する。各部位を溶射耐火物で埋めることにより補修後の耐火物表面が平坦になるように、位置座標毎に溶射量を定める。次いで、図10に示すように溶射バーナーを駆動装置4で走査させながら溶射バーナーを作動させて溶融耐火物粉末を補修部位に吹き付け、凹部を溶射耐火物27で補修する。
【0034】
溶射耐火物としては、SiO2:96%、CaO:1.8%、Na2O:1.0%の組成のものが最も好ましい。粉体の粒度は10〜200μmとし、吹き付け量は毎時50kg程度とする。溶射バーナーからはプロパンガスと酸素ガスを燃焼させたプロパン酸素炎を噴射し、粉体を溶融した上でレンガ表面に付着させる。プロパンガスと酸素ガスの流量はそれぞれ15Nm3/hr、75Nm3/hr程度とする。
【0035】
溶射補修が完了した後、再度距離計16を走査させて補修部の形状を測定し、溶射材料が余分に盛られて耐火物表面が凸状にふくれている場合には、その測定情報に基づき、機械ハツリ除去装置10で凸部を機械的にハツリして表面を平坦にすることができる。従来のコテによる整形では十分に表面を平坦にすることが困難であったが、本発明の機械ハツリにより、溶射後の補修部表面をきわめて正確に平坦化することが可能になった。
【0036】
炉壁耐火物の温度分布は均一とは限らず、場所によって温度が相違することがある。炉壁レンガは小さなブロックを積み上げ、目地として耐火物が詰められているので、温度不均一による熱膨張の不均一があっても、目地が不均一熱膨張を吸収するのでレンガ中の熱応力が緩和される。それに対し、溶射範囲が広範囲にわたった場合には溶射耐火物は広範囲で一体のままであるので、温度不均一があれば内部に熱応力が発生し、溶射層が剥離して落下する原因となる。本発明においては、溶射後に溶射部の切断を行い、溶射部を小さなブロックに分割することによって応力を開放し、溶射層の剥離落下を防止することができる。溶射部の切断のためには、駆動装置4の先端にウォータージェットノズルあるいは回転式カッターよりなる溶射補修面切断装置を取り付け、該溶射補修面切断装置を作動させながら駆動装置4を作動させることにより、例えば200mmピッチで溶射部を切断することによって行うことができる。
【0037】
コークス炉の炉室は長さが16m程度と長いのに対して幅は40cm程度である。そのため、本発明の診断補修装置を炉内に挿入するに際しては、台車3の直進性を確保しないと診断補修装置を左右の炉壁の中心に保つことが困難である。一方、炉内は高温なので、炉底に設置する台車3の車輪に操舵装置を組み込むことも難しい。
【0038】
この問題を解決するため、本発明においては、台車3の走行方向を矯正する走行補正装置31を用いることができる。図11に示すように、走行補正装置31はコークス炉炉外において台車3を挟み込むように設置し、台車3に台車3の進行方法に対して右あるいは左向きのモーメントを付加するように台車を挟み込む力を加えることができる。台車を炉内に挿入するに際し、観察診断装置9の距離計16によって常に炉壁との距離を測定する。その結果に基づき、台車前部3aが進行方向からそれて左側の炉壁に近づきつつあると認識された場合は走行補正装置31によって左側から台車3にモーメントを与え、該モーメントによって台車の進行方向を矯正する。反対方向にずれた場合は反対側から台車3にモーメントを与える。これにより、台車3の車輪には操舵装置を有しないにもかかわらず、炉内の位置を正確に保ちながら台車を炉内に挿入することが可能になる。
【0039】
【実施例】
炉室長さ16m、高さ6m、幅0.4mのコークス炉の診断補修のために、図1〜4、図11に示す本発明の診断補修装置を用いた。台車3は全長が24m、駆動装置4の平行移動可能距離は1.5m、上下回転角度は±55°、アーム7の長さは2.4m、左右回転角度は±8.8°である。観察診断装置9のうち、撮像装置18としてCCDカメラを3台装備し、それぞれ駆動機構観察カメラ18a、作業部位観察カメラ18b、前方観察カメラ18cとした。さらに距離計16としてレーザー距離計、温度計17としてサーモビュアーを有する。付着カーボン燃焼除去装置12のノズルと溶射バーナー11のノズルとは共用とした。
【0040】
本発明の診断補修装置を用いた補修に先立ち、図11に示すCCDカメラを装着した炉内診断専用装置32を本発明の診断補修装置の台車後部3bに装着して炉内に挿入し、炉壁をCCDカメラでスキャンしながら該炉内診断専用装置32を移動することにより、炭化室内炉壁のカーボン付着状況、レンガ肌荒れ・劣化状況、亀裂状況を観察し、概略の補修計画を立案した。
【0041】
炉内の付着カーボンは予め自然通風による燃焼で予備的に除去を行った。炉壁のうちの補修すべき部位の概略を把握した後、本発明の診断補修装置を炉内に挿入し、診断補修装置の駆動装置4の移動範囲に補修すべき部位が含まれるような位置に台車を静置する。次いで、図5に示すように、駆動装置4によって観察診断装置9を移動し、20〜200mm程度のピッチで壁面を走査しながら観察を行う。観察診断装置9の距離計16を用いることによって壁面の侵食深さについての情報が位置の座標とともに得られる。カーボンの付着状況は、観察診断装置9の温度計による測定データあるいは距離計の測定結果に基づいて知ることができる。これら観察結果に基づき、付着カーボン除去、機械ハツリ、溶射補修計画について、その座標とともに正確に決定する。この結果をコンタ図等に処理加工して運転室にいる運転者等にわかりやすく表示する。運転者はパソコンに表示されたコンタ図内に矩形等で補修範囲と補修深さとを重ね書きして補修方法を定める。
【0042】
上記定めた補修計画に基づき補修を行う。付着カーボンを燃焼除去するに際しては、ノズルの先端から純酸素を流量80Nm3/hrで吹き付ける。機械ハツリ除去装置には外径250mmの板状回転羽根13を装備し、3000rpmの回転速度で作動させた。溶射装置においては、プロパンガス15Nm3/hr、酸素75Nm3/hrによる火炎を形成しつつ溶射粉体を50kg/hrの速度で吹き付けた。溶射後に再度距離計16を走査させて補修部の形状を測定し、機械ハツリ除去装置10で表面を平坦にした。
【0043】
1回の補修において、付着カーボンの除去量は約10リットル、機械ハツリ除去量は約11リットル、溶射量は約10リットル、溶射後の機械ハツリによって溶射耐火物表面をレンガ面から−5mm〜0mmの位置に保つことができた。これだけの補修に要した時間は、観察診断時間を含めて2時間であった。従来の人手による補修では、3〜4時間かけてもカーボン除去はわずかしかできず、残存する付着カーボンの上に溶射補修をせざるを得なかったが、本発明により大幅に時間を短縮した上で良好な補修を行うことが可能になった。
【0044】
補修部の寿命は、従来5m2を人手で補修して3〜6ヶ月の耐久性しか得られなかったが、本発明による補修部位は1〜2年の耐久性を有し、大幅な寿命の増大を実現することができた。
【0045】
【発明の効果】
本発明においては、台車を炉内に挿入して予め定めた補修すべき位置の付近にて停止し、次いで観察診断装置を走査することによって補修すべき位置の付近を観察し、補修すべき位置を正確に決定する。台車は静置しているので、観察診断装置によって決定した補修すべき位置の座標を正確に保ったままでカーボン燃焼除去装置、機械ハツリ除去装置、溶射装置による補修を行うことが可能になる。
【0046】
本発明はまた、カーボン燃焼除去装置により付着カーボンを燃焼除去することができる。これにより、炭化室内に空気を送り込むことによっては燃焼除去しきれなかった付着カーボン層も除去できるようになり、その後に行う溶射による補修耐火物層がレンガに強固に付着し、補修耐火物の寿命を向上することができる。
【0047】
本発明はまた、レンガ表面の劣化した耐火物を機械的ハツリで除去することができるので、その後に行う溶射による補修耐火物層がレンガに強固に付着し、補修耐火物の寿命を向上することができる。
【0048】
本発明はまた、溶射補修が完了した後に補修部の形状を測定し、その測定情報に基づき、機械ハツリ除去装置で凸部を機械的にハツリして表面を平坦にすることができる。これにより、溶射後の補修部表面をきわめて正確に平坦化することが可能になった。
【0049】
本発明はまた、機械ハツリ除去装置として長さ100〜500mmの板状回転羽根13の先端に高硬度の工具を配置し1000〜5000rpmで回転し、先端の工具14によって対象物を切削することにより、2個の工具が均等に対象物に接触するとともに、工具によって耐火物表面を切削することが可能になり、除去したい付着カーボンや劣化耐火物のみを除去することができる。
【0050】
本発明はまた、機械ハツリした後の補修部の凹部底面形状を平坦な底部形状を形成することにより、その後の溶射による補修耐火物の最終表面形状を平坦にすることができ、かつ補修耐火物を強固かつ健全にすることができる。
【0051】
本発明はまた、走行補正装置よって台車の進行方向を矯正することにより、台車の車輪には操舵装置を有しないにもかかわらず、炉内の位置を正確に保ちながら台車を炉内に挿入することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の診断補修装置を示す概略図である。
【図2】本発明の診断補修装置の駆動装置先端部を示す概略図である。
【図3】本発明の診断補修装置の駆動装置先端部を示す概略図である。
【図4】本発明の機械ハツリ除去装置を示す概略図である。
【図5】本発明の距離計を用いて炉壁の損傷状況を観察する状況を示す図である。
【図6】本発明のカーボン燃焼除去装置による付着カーボン除去状況を示す図である。
【図7】本発明の機械ハツリ除去装置の使用状況を示す図である。
【図8】本発明の機械ハツリ除去装置の使用状況を示す図である。
【図9】本発明により損傷部のハツリ除去を行った炉壁の状況を示す図である。
【図10】本発明の溶射装置により溶射補修を行っている状況を示す図である。
【図11】本発明の観察診断装置を示す斜視図である。
【符号の説明】
1 コークス炉
2 炉室
3 台車
3a 台車前部
3b 台車後部
4 駆動装置
5 平行移動機構
6 回転移動機構
7 アーム
8 左右回転機構
9 観察診断装置
10 機械ハツリ除去装置
11 溶射バーナー
12 付着カーボン燃焼除去装置
13 板状回転羽根
14 工具
15 車輪
16 距離計
17 温度計
18 撮像装置
18a 駆動機構観察カメラ
18b 作業部位観察カメラ
18c 前方観察カメラ
19 炉壁
20 炉頂
21 炉底
22 炉入り口
23 観察範囲
24 炉壁損傷部
25 付着カーボン層
26 劣化耐火物
27 溶射耐火物
28 機械ハツリ後の形状
29 挿入駆動部
30 車輪
31 走行補正装置
32 炉内診断専用装置
33 走行台車
34 レール
35 レール
Claims (6)
- 室炉式コークス炉の炉内を前進後退する台車と、炭化室壁面を撮像する撮像装置、該壁面との距離を測定する距離計、該壁面の温度を測定する温度計の中で該距離計を含んで他の1又は2を有する観察診断装置と、前記壁面に局部的に酸素ガス又は酸素過剰燃料ガスを吹き付けて付着カーボンを燃焼除去するカーボン燃焼除去装置と、前記壁面レンガ表面及び付着カーボンを機械的ハツリで除去する機械ハツリ除去装置と、前記壁面に耐火物を溶射して耐火物補修を行なう溶射装置と、前記台車前部にあって前記観察診断装置、カーボン燃焼除去装置、機械ハツリ除去装置、溶射装置を空間的に移動するための駆動装置とを有するコークス炉の診断補修装置において、
前記機械ハツリ除去装置は、長さ100〜500mmの板状回転羽根の先端に高硬度の工具を配置し1000〜5000rpmで回転してなるとともに、前記距離計の測定結果を用いて機械ハツリを行う範囲及び深さを切削除去し壁面損傷部の底面形状が平坦となるように整形することが可能であり、かつ前記台車をコークス炉炉室外部において挟み込むとともに、前記距離計の測定結果を用いて該台車のコークス炉炉内走行方向を矯正する走行補正装置を有することを特徴とするコークス炉の診断補修装置。 - 前記カーボン燃焼除去装置の酸素ガス又は酸素過剰燃料ガス吹き付けノズル及び前記溶射装置の溶射バーナーは、前記駆動装置先端に常設又は付け替え可能に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のコークス炉の診断補修装置。
- 前記溶射装置の溶射バーナーは、前記カーボン燃焼除去装置の酸素ガス又は酸素過剰燃料ガス吹き付けノズルを兼ねていることを特徴とする請求項2に記載のコークス炉の診断補修装置。
- 壁面に溶射した耐火物を切断して目地を形成するため、ウォータージェットノズルもしくは回転式カッターよりなる溶射補修面切断装置を前記駆動装置先端に常設又は付け替え可能に配置していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のコークス炉の診断補修装置。
- コークス炉の炭化室内の壁面を熱間で診断し補修する方法であって、予め前記壁面の補修すべき部位を定め、次いで請求項1乃至3のいずれかに記載の診断補修装置を炉内に挿入し、前記壁面の補修すべき部位を前記観察診断装置で観察し、該観察結果に基づいて前記壁面に局部的に酸素ガス又は酸素過剰燃料ガスを吹き付けて付着カーボンを燃焼除去し、並びに前記壁面レンガ表面の劣化耐火物及び付着カーボンをハツリ後において壁面損傷部の底部形状が平坦となるように機械的にハツリ除去し、前記壁面に耐火物を溶射して耐火物補修を行ない、余分に盛られた溶射材料が壁面に付着している場合は該余分な溶射材料を機械的にハツリ除去し、その後前記診断補修装置を炉から抜き出すことを特徴とするコークス炉の診断補修方法。
- 診断補修装置として請求項4に記載の診断補修装置を使用し、壁面に耐火物を溶射して補修を行った後に溶射した耐火物を溶射補修面切断装置によって切断して目地を形成することを特徴とする請求項5に記載のコークス炉の診断補修方法。
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