JP3832949B2 - 蛋白分解酵素含有コンタクトレンズ用洗浄剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規かつ有用な蛋白分解酵素の安定化方法及びそれを用いた洗浄剤に関する。更に詳しく述べれば、トリメチルグリシンを配合することにより、蛋白分解酵素を安定化する方法、トリメチルグリシンを配合することにより安定化した蛋白分解酵素含有洗浄剤、並びに該洗浄剤を用いたコンタクトレンズ用洗浄剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
コンタクトレンズは、一般にハードコンタクトレンズと呼ばれる非含水性コンタクトレンズとソフトコンタクトレンズと呼ばれる含水性コンタクトレンズに大別される。それらの何れのコンタクトレンズであっても、装用の際に涙液や眼脂に由来する蛋白質や脂質等の汚れが付着することにより、装用感の悪化や視力の低下等の問題が生じてくる。そのため、コンタクトレンズを快適かつ適切に装用するためには、定期的な洗浄が必要不可欠である。このため、従来より、界面活性剤を主成分として含有する洗浄剤が用いられてきたが、最近ではコンタクトレンズに付着した蛋白質をより積極的に除去する方法として蛋白分解酵素を含有する洗浄剤が使用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来のコンタクトレンズ用蛋白分解酵素含有洗浄剤は、錠剤、顆粒剤等の固体状はもちろん、特開平8−271841号公報等の液状であっても、使用時には別の洗浄剤等の溶液に希釈溶解する必要があり、煩雑な手間を使用者に強いる等の問題点があった。
【0004】
その理由として、特開平8−271841号公報等の水溶性多価アルコール類を安定剤とした液状蛋白分解酵素含有洗浄剤では、洗浄剤の成分である界面活性剤の共存下において、蛋白分解酵素が蛋白質の構造の変化、すなわち蛋白変性等により、安定性が著しく低下することが避けられず、また、更に蛋白分解酵素の安定性を向上させようとすれば、水溶性多価アルコール類を高濃度で配合しなければならず、洗浄剤の性状、並びに触感が水溶液としてはあまりにも不自然なものになるからである。
【0005】
また、特開平7−146454号公報では、ピロリドン化合物の配合により蛋白分解酵素を安定化し、蛋白分解酵素含有洗浄剤と希釈溶解液を一体化させた一液型が提案されているが、ピロリドン化合物の配合だけでは、酵素の安定性を長期間維持するには不十分であった。更に、一般的には、界面活性剤との共存下では、蛋白分解酵素の安定性の維持が困難であり、その取扱いについて更なる検討が必要であった。
【0006】
本発明は、上記の如き事情に鑑みてなされたものであり、水溶液中において蛋白分解酵素を安定化し、しかも従来のグリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール等の水溶性多価アルコール類を安定化剤として用いた場合とは異なり、洗浄剤の成分である陰イオン界面活性剤をはじめ、陽イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤との共存下においても酵素を安定化でき、且つ性状、並びに触感が水溶液としては極めて自然である洗浄剤を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の課題を解決すべく、溶液中における蛋白分解酵素の安定性について、鋭意研究を重ねた結果、意外にもトリメチルグリシンを配合することにより、蛋白分解酵素が洗浄液溶液中においても活性を失わずに安定性を長期間維持する知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0008】
トリメチルグリシンは、グリシンベタインとも言われ、一般的に保湿効果を有することが知られており、シャンプーやリンス等の洗髪用化粧品(特開平6−293619号公報)や、浴用剤組成物(特開平7−309741号公報)として使用されている。しかし、トリメチルグリシンを一定量配合することで、蛋白分解酵素の安定性の向上が図れるということは知られていない。
【0009】
すなわち、本願発明は、蛋白分解酵素、界面活性剤及びトリメチルグリシンを含有し、該トリメチルグリシンの濃度が3〜65(W/V)%であることを特徴とする、蛋白分解酵素含有コンタクトレンズ用洗浄剤である。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明に関わるトリメチルグリシンの使用量は、対象となるコンタクトレンズの種類、汚れの種類、程度等によって適宜に選択されるが、本発明においては、3〜65(W/V)%であり、好ましくは15〜50(W/V)%の範囲の割合とされる。3(W/V)%未満では充分な酵素活性が得られず、また65%を越えても安定性の顕著な上昇は認められない。
【0011】
また、本発明で使用する蛋白分解酵素は、例えば、パパイン、ブロメライン、グラヂン、フイシン等の植物由来のプロテアーゼ、トリプシン、キモトリプシン、パンクレアチン等の動物由来のプロテアーゼ、バチルス属等の細菌が産生する細菌プロテアーゼやアスペルギウス属、ストレプトミセス属等の糸状菌が産生する糸状菌プロテアーゼ等の微生物由来のプロテアーゼ等、何れについても使用することができる。
【0012】
本発明にあっては、上記プロテアーゼの中でも使用時には液状とすることから、溶液中における酵素の安定性の点に鑑みて、バチルス属由来の細菌プロテアーゼが特に好適である。このような蛋白分解酵素としては、例えば、「ビオプラーゼ」(ナガセ生化学工業株式会社製)、「サブチリシンA」、「アルカラーゼ」、「エスペラーゼ」、「サビナーゼ」(ノボ・ノルディスクバイオインダストリー株式会社製)、「プロテアーゼNアマノ」(天野製薬株式会社製)等があり、その中から適宜選択できる。なお、蛋白分解酵素の配合量は、洗浄効果に応じた有効量に基づいて、適宜決定されるものであるが、一般に0.05〜10(W/V)%、好ましくは0.2〜5(W/V)%の範囲とされる。
【0013】
そして、本発明により調製される洗浄剤は、蛋白分解酵素を安定化するために、通常pHが5〜9程度に、好ましくは6〜7.5に調製される。溶液のpHが5未満であると蛋白分解酵素の安定性が低下して、洗浄効果が得られなくなる。また、pHが9より高いと、手荒れの原因となるだけでなく、コンタクトレンズ用洗浄剤として用いる場合には、眼刺激やコンタクトレンズの素材に対しても悪影響を与える可能性があるからである。それゆえ、本発明に関わる洗浄剤には、そのpHを5〜9の範囲内に調製するために、必要に応じて緩衝剤を添加する。
【0014】
緩衝剤としては、従来より用いられているものの中から、蛋白分解酵素の安定性を損なうことのないものを適宜に選択して用いる。具体的には、例えばトリスヒドロキシメチルアミノメタンと塩酸、トリスヒドロキシメタンとクエン酸とを組み合わせた緩衝剤やホウ酸及び/またはホウ砂を組み合わせた緩衝剤等が挙げられ、好ましくは、酵素の安定化に寄与することが知られている、ホウ酸及び/またはホウ砂を組み合わせた緩衝剤である。また、かかる緩衝剤の配合割合は、一般に0.1〜10(W/V)%程度が好ましい。0.1(W/V)%未満では、充分なpH安定性が得られず、また、10(W/V)%を越えても、pHの顕著な安定性が認められないばかりか、低温下に保存する場合には、緩衝剤が析出する等の問題を生じる可能性があるからである。
【0015】
本発明で用いることのできる界面活性剤としては、その種類は特に制限はなく、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤の何れでも使用できる。例えば、陰イオン界面活性剤としては、直鎖アルキルベンゼンスルフォン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、α−オレフィンスルフォン酸塩等、陽イオン界面活性剤としては塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ヒドロキシセチルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム等、非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンモノラウレート、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド等、両性界面活性剤としてはジメチルアルキルベタイン、アルキルグリシン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリウムベタイン等が挙げられる。好ましくは、両性界面活性剤である。また、これらの界面活性剤は、所望により、適宜組み合わせて使用することができる。界面活性剤の配合量は、洗浄剤の用途によって適時調整する。例えば、コンタクトレンズ用洗浄剤の場合には、コンタクトレンズ、蛋白分解酵素の安定性に悪影響を与えることなく、且つ眼に対する刺激のない濃度であれば特に制限はないが、通常0.05〜20(W/V)%、好ましくは0.1〜5(W/V)%程度の割合となるように調製される。
【0016】
上記成分の他にも、本発明の目的を損なわない限り、保存剤、pH調製剤、キレート剤、増粘剤、崩壊剤、結合材等の賦形剤、並びに他の酵素剤、例えば脂肪分解酵素等の各種の添加剤を更に配合することができる。また、従来の安定化剤であるグリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール等の水溶性多価アルコール類との併存も可能である。
【0017】
本発明に関して、洗浄剤の形態としては固体状でも液体状でもよく、使用時液状を取りうるものであれば特に制限はない。液剤の場合、本発明では、蛋白分解酵素含有溶液にトリメチルグリシンを安定化剤として配合することで、蛋白分解酵素が水溶液中、更に界面活性剤の共存下においても安定であり、且つ高い酵素活性を発現できる。また、本発明は、CL用の洗浄剤だけでなく、衣類や食器等の家庭用品等用の蛋白分解酵素含有洗浄剤にも用いることができることも理解すべきである。
【0018】
【実施例】
以下に、本発明を具体的に明らかにするために、幾つかの実施例を示す。以下の実施例の他にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0019】
<参考例1〜3、比較例1〜4>
−酵素安定性試験−
酵素は、バチルス属由来の蛋白分解酵素:Clear Lens Pro 2.0L(「サブチリシンA」ノボ・ノルディスクバイオインダストリー株式会社製)を用いた。また、酵素活性残存率(%)は、同社酵素活性測定法:DMC法に基づいて測定した酵素活性から下式によって算出した。
【0020】
【0021】
以下に示した2通りの試験項目において、それぞれの条件で保存した後の酵素活性の安定性を確認した。
【0022】
なお、試験項目▲1▼は、酵素の熱変性に対する安定性を、試験項目▲2▼は酵素の長期保存安定性を示すものである。
【0023】
−酵素の安定化剤としての評価−
本発明で使用されるトリメチルグリシンと、酵素の安定化に寄与することが公知とされている表1に記載した多価アルコール類を、水溶液中で40%(有効成分)秤量し、溶解後、緩衝剤を用いてpHを7.5に調整した。結果を表1に示した。
【0024】
【表1】
【0025】
表1より、トリメチルグリシン40%添加のものは、経時的な蛋白変性に対する安定性では従来のグリセリン、プロピレングリコール、PCAソーダ等の安定化剤と同等かそれ以上であり、自己消化に対する安定性では従来のものより優れていることが確認できる。また、参考例1〜2から、トリメチルグリシンの添加量は20(W/V)%よりも40(W/V)%の場合の方が、酵素の安定性には好ましいことが確認できる。
【0026】
<実施例1〜3、比較例5〜13> −洗浄剤としての酵素の安定化能の評価−
本発明で用いるトリメチルグリシンと比較例1〜3で評価した多価アルコール類に、表2に記載した3種類の界面活性剤を添加した洗浄剤の安定化能を評価した。各配合成分を混和、溶解した後、各試料を調製した。かくして得られた各試料について、参考例1〜2と同様にして試験した。結果を表2に示す。
【0027】
【表2】
【0028】
表2より、酵素の安定性を阻害することが知られている界面活性剤を共存化させた場合でも、トリメチルグリシンを配合することにより、優れた酵素の安定性が確認され、酵素の安定性への阻害作用が大幅に緩和された。
【0029】
−洗浄力試験−
以下に示す組成の人工涙液に、酸素透過性ハードコンタクトレンズ(株式会社シード製、シードA−1)を浸漬し、55℃で5時間保持する。更に、そのレンズを純水中で70℃16時間浸漬後、50℃で6時間乾燥させることにより、人工汚れレンズを作製した。
【0030】
人工涙液
アルブミン(牛血清) 0.388g
グロブリン(牛製) 0.161g
リゾチーム(鶏蛋白) 0.120g
ムチン(豚胃) 0.100g
塩化ナトリウム 0.9 g
塩化カルシウム(二水塩) 0.015g
リン酸二水素ナトリウム(二水塩) 0.104g
全量 100ml
【0031】
上記のようにして作製した、人工汚れレンズの洗浄前後のヘーズ値を測定することにより、洗浄力を評価した。ヘーズ値の測定には、スガ試験機株式会社製、全自動直読ヘーズコンピューターを使用し、以下の計算式に従い、汚れ除去率を算出した。
【0032】
【0033】
参考例1〜2と同様に、2通りの試験項目において、それぞれの条件で保存した後の洗浄力を調製直後の洗浄力と比較し、求めた汚れ除去率(%)より、以下のように洗浄力を評価した。
○;85%以上、 △;50〜85%、×; 50%以下
【0034】
<実施例4〜6、比較例14〜16>
表3に示した、本発明で使用されるトリメチルグリシンを添加した洗浄剤と、添加しない洗浄剤との初期洗浄力、及び長期保存後の洗浄力を評価した。
【0035】
各洗浄剤1.5mlに人工汚れレンズ1枚を浸漬した。6時間後に洗浄剤から取り出し、純水で軽くリンスした。洗浄後のレンズのヘーズ値を測定し、汚れ除去率を算出した。結果を表3に示す。
【0036】
【表3】
【0037】
表3より、トリメチルグリシンを配合することにより、酵素の長期保存安定性が向上することに伴い、長期保存後の洗浄力も高く維持された。
【0038】
【発明の効果】
本発明は、水溶性多価アルコール類、ピロリドン化合物等の従来の安定化剤に比べ、水溶液中、更に界面活性剤の共存下での蛋白分解酵素の安定性を長時間維持できるため、蛋白分解酵素含有の各種洗浄剤として有用なものである。
【0039】
更に、本発明で用いたトリメチルグリシンを安定化剤として使用した場合には、高濃度の配合においても洗浄剤の性状及び触感は水溶液として極めて自然であり、蛋白分解酵素含有洗浄剤と希釈溶解液とを一体化させた、いわゆる一液型のコンタクトレンズ用蛋白分解酵素含有洗浄剤を提供できるものである。
Claims (1)
- 蛋白分解酵素、界面活性剤及びトリメチルグリシンを含有し、該トリメチルグリシンの濃度が3〜65(W/V)%であることを特徴とする、蛋白分解酵素含有コンタクトレンズ用洗浄剤。
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