JP3825984B2 - 高純度マンガンの製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、マンガンに含まれる金属不純物および非金属不純物を極低化して高純度のマンガンを製造する方法に関するものである。
【0002】
本発明に係る高純度マンガンは、反磁性合金薄膜として有望なマンガン合金、あるいは磁性半導体として既に開発されているマンガン化合物などの原料として有用である。
【0003】
【発明の背景】
高純度マンガンの用途の1つである反磁性合金薄膜の分野では、FeMn、PtMn,IrMn等のマンガン合金が用いられ、また磁性半導体の分野では、Cd1-xMnxTe等のマンガン化合物が用いられているが、それぞれの用途において求められている特性を最大限に発揮させるには、マンガンの純度を上げることが必要である。
【0004】
例えば、磁性半導体は、ファラデー素子や発光素子、受光素子などの機能性素材として注目されている。しかし、この化合物半導体中にたとえ微量であったとしても不純物が含まれていると特性に大きく影響を及ぼすことから、その特性向上には高純度化が不可欠である。また、巨大磁気抵抗効果を有する反強磁性合金については、スピンバルブと呼ばれる交換結合の役割を果たす高性能磁気ヘッド、(即ち、ハードディスク用読み出しヘッド)として実用化されているが、さらに超高密度ハードディスクのキーマテリアルとして高純度マンガンが注目されている。
それは、マンガン中に含まれる金属不純物は、磁気特性を低下させ、一方、硫黄や酸素、炭素などの非金属不純物は、耐食性を損なうので好ましくないからである。また、マンガン中の不純物は、このマンガンをスパッタリングして薄膜を形成するときにパーティクル発生の一因ともなり、膜特性および信頼性を損うという問題があり、この面からも高純度化が必要である。
【0005】
【従来の技術】
一般に、金属マンガンの製造方法には、湿式法(電解法)と乾式法(電炉法、テルミット法)とがあるが、工業的には電解法が大勢を占め、いわゆる電解マンガンとして提供されている。この電解マンガンの純度は、約99.6〜99.9%で、硫酸塩浴を用いて電析させて得ていることから、0.02〜0.04mass%程度の硫黄(不純物)を含むのが普通である。したがって、市販の電解マンガンを、例えば反強磁性合金薄膜の原料として使用する場合、多量に含まれる前記不純物の悪影響により、薄膜の耐食性や膜信頼性が劣るという問題が指摘されていた。
【0006】
マンガンは一般的に、蒸気圧が高く、かつ化学的に非常に活性であり、しかも卑な金属(標準電極電位が-1.18V)であることから、高純度精製や還元が比較的困難で、そのために、マンガンの高純度化技術に関する報告は比較的少ないのが実情である。そのなかで、マンガンは蒸気圧が高いという特徴を利用して精製する真空蒸留法(特開平11-152628号公報参照)が一般的である。しかし、この技術は、高温、高真空に維持して溶融マンガン(マンガンの融点は1246℃である。)からマンガンを蒸発させるため、容器からの溶融マンガンへの汚染が問題になる。それ故、係る真空蒸留法により、金属不純物の合計量を50ppm以下、酸素、硫黄、炭素、窒素など非金属不純物の合計量を50ppm以下にまで精製するのは困難であった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上述した反磁性マンガン合金、磁性半導体マンガン化合物については、マンガン以外の元素、例えば鉄、白金、カドミウム、テルルなどは、すでに4N以上さらに5N以上の高純度品が提供されている。これに対し、マンガンの高純度化技術は遅れており、現在のところ、3、4N以上の高純度マンガンの入手は困難である。
【0008】
そこで、本発明の目的は、高純度マンガンを簡便かつ確実に、しかも合理的な価格で製造するための技術を提案することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
従来技術が抱えている上述した問題点を解消すべく鋭意検討した結果、発明者らは、湿式法および/または乾式法を採用して高純度のマンガンを製造する方法を開発することに成功し、本発明を完成した。即ち、本発明は、湿式法としては、まず、塩化マンガン水溶液にキレート樹脂を用いたイオン交換精製法を適用し、次いでその精製塩化マンガン水溶液を、電解採取法により高純度化する方法であり、乾式法は、固相マンガンから真空昇華精製法(固相マンガンの昇華により得たマンガン蒸気を蒸気圧差により冷却部にて選択的に凝縮蒸着させる)により、高純度マンガンを得る方法である。以下、前者をキレート樹脂イオン交換一電解法、後者を真空昇華精製法として、この両精製法を組合わせた方法も併せて、その構成の詳細を説明する。
【0010】
1.キレート樹脂イオン交換−電解法
この方法は、マンガン原料を塩酸で処理して塩化マンガン水溶液を調整し、この塩化マンガン水溶液をキレート樹脂を用いてイオン交換処理することにより、精製塩化マンガン水溶液を調整し、次いでこの精製塩化マンガン水溶液を電解液とする電解処理して精製することにより金属不純物の合計濃度を30ppm高純度マンガンを製造する。
【0011】
この方法において、キレート樹脂イオン交換というのは、官能基としてイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂(イミノジ酢酸型キレート樹脂)を使用し、塩化マンガン水溶液から金属不純物を効率的に分離除去する方法である。因みに、イミノジ酢酸型キレート樹脂の各金属イオンに対するイオン捕捉力を下記に示す。
Cu(II)>Pb(II)>Fe(III)Al(III)>Cr(III)>Ni(II)>Zn(II)>Ag(I)>Co(II)>Cd(II)>Mn(II)>Ca(II)>Sr(II)>Mg(II)>Na(I)
【0012】
上記の説明から明らかなように、マンガンイオンに対し、銅、鉄、アルミニウム、クロム、亜鉛、コバルト、ニッケルなどはキレート樹脂に捕捉され易い性質がある。そこで、これらの金属不純物についてはキレート樹脂に吸着する一方で、マンガンについてはキレート樹脂には吸着されないで流出する臨界条件を求めれば、前記金属不純物とマンガンとの分離除去が可能になると考えられる。この分離を実現する方法としては、塩化マンガン水溶液のpHおよび通液速度(SV)を調整することが好ましいと考えられる。
【0013】
次に、上記キレート樹脂に吸着されずにマンガンとともに流出する金属不純物もある。即ち、アルカリ金属、アルカリ土類金属は、マンガンに比べかなり卑な金属であり、キレート樹脂には吸着されない。そこで、本発明では、これらの不純物をも除去する方法として、電解採取法を適用することにした。この電解採取法によれば、マンガンのみを陰極に電析させることが可能であり、このことによって電解液中に残存するアルカリ金属およびアルカリ土類金属をマンガンから分離することが可能であり、金属マンガンの高純度精製が可能になる。
【0014】
2.真空昇華精製法
次に、この方法は、マンガン原料を真空容器内に装填して、加熱昇温することにより得られる、昇華マンガン蒸気冷却して凝集する、真空昇華精製法を適用して処理することにより、金属不純物の合計濃度を20ppm以下、かつ非金属不純物の合計濃度を10ppm以下にする、高純度マンガンの製造方法である。
【0015】
この方法は、乾式法によるマンガンの高純度化のための精製法であり、固相マンガンから1000〜1200℃の温度域でマンガンを昇華させ、その昇華したマンガン蒸気を冷却部にて凝縮させて回収する、いわゆる真空昇華精製法と呼ばれる技術である。これに類似する精製技術として真空蒸留法があるが、この方法ではマンガンの融点(1246℃)以上の温度に加熱して得た溶融マンガンから高純度のマンガンを蒸発させることから、蒸発速度は大きいものの、溶融マンガンを用いるので容器壁との濡れ性が大きくなり、その容器壁からの汚染が問題になる。これに対し、かかる真空昇華精製法の場合、固相マンガンからマンガンを直接、昇華させる方法であるから、容器壁からの汚染は殆ど問題にならない。
【0016】
以下、かかる真空昇華精製法における具体的な精製効果について説明する。
本発明において採用するこの真空昇華精製法では、その精製時の加熱温度(1000〜1200℃)におけるマンガンの蒸気圧(2〜80Pa)は、AlやCu、Cr、Fe、Tiなど多くの金属不純物の蒸気圧(0.1Pa以下)に比べると、2桁以上も高く、従って、これらの金属不純物は昇華せず残渣中に残るので、マンガンからの分離除去が可能である。
【0017】
ただし、上記金属不純物以外の、NaやCa、Mgなどのアルカリ金属、アルカリ土類金属不純物については、1000〜1200℃の温度範囲では1kPa以上の高蒸気圧を有し(マンガンに比べ2桁以上高い)、マンガンとともに昇華(蒸発)すると予測される。しかし、後述するように(実施例3)、NaやCa等は、上記真空昇華精製処理後の残渣中に、その大半が濃縮され、マンガンから分離させることが可能である。
【0018】
このことは、以下のように考えることができる。即ち、原料の電解マンガンには酸素が約600ppm、硫黄が約200ppmと比較的多く含まれている。これに対し、アルカリ金属、アルカリ土類金属はマンガンよりも酸素、硫黄との親和力が大きいことで知られている。したがって、上掲の昇華精製温度にまで昇温されるときに、これらのアルカリ金属、アルカリ土類金属不純物はマンガン中の酸素、硫黄と反応し蒸気圧の低い酸化物あるいは硫化物を形成するため、その大半が蒸発せず残渣中に残るものと考えられる。
【0019】
なお、アルカリ金属、アルカリ土類金属不純物の一部は、マンガンとともに蒸発(昇華)するが、蒸気圧がマンガンに比べ2桁以上も高いことから、マンガン蒸着部よりより低温部に蒸着し、また上述したように、大半が残渣として残り、蒸発量もわずかであることから、蒸着マンガンを汚染するようなことはない。
【0020】
また、電解マンガンに多量含まれる硫黄、酸素、窒素、炭素等の非金属不純物は、マンガンとの親和力が大きいことから、昇華精製温度で蒸気圧の低いマンガン化合物(硫化物、酸化物、窒化物、炭化物)を形成し、そのまま残渣中に残り、効率的に昇華したマンガン蒸気から分離除去される。
【0021】
なお、この真空昇華精製については、固相マンガンからの昇華速度が遅いので、真空蒸留精製に比べると処理時間が長くなる。しかしながら、このことは、優れた精製効果に加えて、昇華速度が遅いことで、却って不純物を巻き込む度合が低下し、不純物の分離除去に効果的に寄与しているのである。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明に係る高純度マンガン製造方法において、出発材料として用いるマンガン原料としては、キレート樹脂イオン交換一電解法の場合は、市販の電解マンガン(純度99.6〜99.9%程度の粗マンガン)あるいは使用済み乾電池から回収した二酸化マンガンが使用でき、真空昇華精製法では市販の電解マンガンが使用できる。
【0023】
▲1▼ キレート樹脂イオン交換一電解法について
原料である市販の電解マンガンあるいは二酸化マンガンを、塩酸酸性水溶液に溶解し、マンガン濃度が10〜80g/Lの塩化マンガン水溶液を得る。これにアンモニア水を添加して、pH:2〜7の塩化マンガン水溶液を調整する。ここで、この水溶液のpHが2未満では、キレート樹脂へのFe、Al、Crなどの吸着率が低下し、マンガンからの効率的な分離が困難となる。一方、この水溶液のpHが7以上では、水酸化マンガンが析出して沈殿が始まり、キレート樹脂による精製には不向きになる。
【0024】
次に、上記塩化マンガン水溶液を、イミノジ酢酸型キレート樹脂を充填したガラス製または塩化ビニール製カラム中に通液し、そのカラムから流出する溶液を回収する。そのとき、FeやAl、Cr、Ni、Co、Znなどの金属不純物はキレート樹脂に固着され、これらの不純物を含まない精製された塩化マンガン溶液が回収される。なお、通液速度は1〜10SVとする(通液速度1SVとは、1時間に樹脂容積と同等の溶液を通液する速度で、10SVとはその十倍の通液速度である)。その理由は、1SV未満では、精製した塩化マンガン水溶液の回収に長時間を要し、非効率的である。一方、10SV以上では、マンガンと不純物との充分な分離効果が低下し、好ましくない。
【0025】
その後、塩化マンガン水溶液をキレート樹脂に通液した後は、塩化マンガン水溶液と同一のpHの希薄塩酸を上記カラムに通液して該カラム内に残留するマンガンを回収する。
【0026】
さらにその後、高濃度の2M〜4M塩酸をカラム中に通液し、キレート樹脂に固着したFeやAl、Cr、Ni、Coなどの金属不純物を樹脂から溶離させ、カラムから除去する。これらの操作を、繰り返すことで、所望量の精製塩化マンガン水溶液を調整する。
【0027】
次に、上記精製塩化マンガン水溶液に、緩衝材として塩化アンモニウムを添加し、電解液とする。その電解液のマンガン濃度は5〜60g/L、塩化アンモニウム濃度は80〜150g/Lとする。この理由は、マンガン濃度が5g/L未満では電析マンガンが得られず、また60g/Lを越えると平滑な板状電析マンガンが得られず好ましくない。また、塩化アンモニウム濃度が80g/L未満では、良好な電析マンガンが得られず、160g/L以上では、多量の塩化マンガンを消費することになり好ましくない。
【0028】
上記電解液を電解槽に供給し、陰極にはステンレス鋼板、陽極には黒鉛を用い、電流密度50〜120mA/cmにより、陰極板上に平滑な板状の電析マンガンを得る。この電解時、適量のアンモニア水を電解液中に随時添加し、pHを4〜7に保持する。この理由は、pHが4未満では、電析マンガンが電解液に再溶出して好ましくない。一方、pHが7を越えると、電解液中に水酸化マンガンが析出して、やはり好ましくない。
【0029】
この電解採取処理の役割は、マンガンのみを電析させて、このマンガンよりも卑なアルカリ金属およびアルカリ土類金属不純物の電析を阻止して、キレート樹脂イオン交換処理のときにマンガンとともに流出したアルカリ金属およびアルカリ土類金属不純物を、この段階でマンガンから分離除去するためにある。
【0030】
このキレート樹脂イオン交換一電解法の適用により製造されるマンガンは、金属不純物濃度の合計量が30ppm以下の高純度金属マンガンとなる。
【0031】
▲2▼ 真空昇華精製法について
原料の電解マンガンを高純度アルミナルツボに装填後、真空排気しながら、電解マンガンの予備加熱(500℃程度に加熱し約1時間保持)を行い、この段階で、揮発性不純物成分の除去を行う。
【0032】
予備加熱後、真空排気しながら電解マンガン装填部を1000〜1200℃に昇温し、真空昇華精製処理を行う。この処理の温度が1000℃未満では、昇華精製時間が長くなりすぎ、一方1200℃を越えるとマンガンが溶融する可能性が増し、容器壁からの汚染が生じる。この処理において、固相マンガンから昇華したマンガン蒸気は、冷却部で凝縮蒸着し、金属不純物の合計濃度が20ppm以下、非金属不純物(硫黄、酸素、窒素、炭素)の合計濃度が10ppm以下の高純度マンガンが得られる。
【0033】
上記、真空昇華精製時の真空度は10-5〜1Paとする。10-5Pa未満では、冷却部で凝縮する際のマンガン回収率が低下する。一方、1Paを越えるとマンガンの昇華にかかる時間が長くなる。真空昇華時間は原料の市販電解マンガンの装填量にもよるが、20〜30時間程度とすることが好ましい。その際、残留物が30〜40mass%程度になるまで行うのが好ましく、残留物が30mass%以下では凝縮したマンガン中の不純物濃度が増加する傾向が高まり、40mass%以上ではマンガン回収率が低下し好ましくない。
【0034】
▲3▼ 両精製法の組み合わせ精製法について
まず始めに、上記▲1▼記載のキレート樹脂イオン交換−電解法を適用して、金属不純物の合計濃度が30ppmの高純度マンガンを製造し、次いで、その高純度マンガンをさらに、上記▲2▼記載の真空昇華精製法を適用して処理し、金属不純物濃度および非金属不純物濃度の合計量が10ppm以下の超高純度マンガンを得る。
【0035】
この方法において、イオン交換−電解法の処理および真空昇華精製法の各処理は、複数回繰返してもよく、その処理の順序を変更することもまた可能である。
【0036】
【実施例】
(実施例1)
この実施例は、塩化マンガン水溶液に対するキレート樹脂イオン交換による精製効果を確認する目的で、塩化マンガン水溶液に試験不純物を添加した試験溶液をキレート樹脂に通液し、流出液のマンガンおよび試験不純物の濃度を分析し、各元素の溶離曲線を求め、キレート樹脂イオン交換法がマンガンと不純物との分離に有効なことを明らかにするための実験である。
【0037】
この実験では、試薬特級の塩化マンガンを純水に溶解し、これにAl、Ca、Co、Cu、Fe、Ni、Znを試験不純物として塩化物の形で添加し、塩酸あるいはアンモニア水を滴下してpHを2〜7に調整し、マンガン濃度50g/L、各試験不純物の濃度10mg/L(マンガンに対して0.02%)の試験溶液300mlを作製した。この試験溶液を、イミノジ酢酸型キレート樹脂(ユニチカ(株)製、UR-30S)を約140ml装填したガラス製カラム(内径26mm、高さ400mm、樹脂層高さ260mm)中に、通液速度1〜10SVで通液し、流出した溶液を50ml毎に採取した。
【0038】
試験溶液を通液した後、試験水溶液と同一のpHの希薄塩酸300mlを通液してカラムに残留するマンガンを回収し、その後2〜4規程の塩酸600mlを通液し、キレート樹脂に吸着した試験不純物の樹脂からの溶離を図った。採取した流出液中のマンガンおよび試験不純物の濃度はICPにより分析した。
【0039】
図1は、通液量に対する、マンガンおよび試験不純物Al、Ca、Co、Cu、Fe、Ni、Znの溶離曲線であり、試験溶液のpHは6,通液速度は5SVとした条件で求められている。
【0040】
図1において、縦軸の濃度は最大濃度値を1とした場合の規格値である。この図からわかるように、pH=6ではマンガンおよびCaはキレート樹脂に吸着せず直ちにカラムから流出した。一方、他の試験不純物であるAl、Co、Cu、Fe、Ni、ZnはpH=6で樹脂に吸着し、マンガンから分離され、より高濃度の2規程塩酸を通液したときに始めて、樹脂から溶離して流出することが確認された。この結果から、アルカリ金属、アルカリ土類金属以外の金属不純物は、キレート樹脂イオン交換から容易に分離除去されることが明らかとなった。同様な結果がpH=2〜7、通液速度1〜10SVの条件下でも確認されている。
【0041】
(実施例2)
原料の市販電解マンガンを当量の塩酸で溶解し、さらに塩化アンモニウムおよび純水を加え、マンガン濃度50g/L、塩化アンモニウム濃度100g/Lを含む塩化マンガン+塩化アンモニウム水溶液を作製した。この水溶液に適量のアンモニア水を滴下してpH=6に調整した後、同溶液1Lをイミノジ酢酸型キレート樹脂(ユニチカ(株)製、UR-30S)を約140ml装填したガラス製カラム(内径26mm、高さ400mm、樹脂層高さ260mm)中に通液速度5SVで通液し、流出する塩化マンガン+塩化アンモニウム水溶液を回収した。
【0042】
次に、pH6に調整した希薄塩酸水溶液300mlを同カラムに通液し、カラム内に残留する塩化マンガン+塩化アンモニウム水溶液を回収し、前記の回収液と合わせて1Lの精製した塩化マンガン+塩化アンモニウム水溶液を得、これを次工程のマンガン電解採取用の電解液とした。なお、塩化マンガン水溶液および塩化アンモニウム水溶液を別々にキレート樹脂イオン交換により精製後、これらの所定量を混合して電解液を作製することも可能であるが、最初から両液を混合してキレート樹脂イオン交換精製を行った方がより効率的である。
【0043】
その後、2規程の塩酸600mlをカラムに通液し、キレート樹脂に吸着したFe、Al、Co、Ni、Zn、Cuなどの金属不純物を溶離して樹脂の清浄化を行った。
【0044】
上記精製後の塩化マンガン+塩化アンモニウム水溶液600mlを電解液として電解槽に装入し、陰極にはステンレス鋼板、陽極には黒鉛を用い、電流密度100mA/cmにより、電解を行った。電解時、適量のアンモニア水を随時電解液に添加し、pHを約6に保持した。電解時間約180分で陰極板上に平板状の電析マンガンが約20g得られた。電解後、電析マンガンは容易に陰極から剥離できた。
【0045】
表1に、原料の市販電解マンガンおよびキレート樹脂イオン交換精製一電解法の適用で得られた高純度マンガンの分析値を示した。この表からわかるように、Al、Ca、Cu、Fe、Ni、Mg、Zn、Sは1ppm以下、K、Na、Siは5ppm以下の高純度マンガンが回収できた。
【0046】
【表1】
Figure 0003825984
【0047】
(実施例3)
原料の市販電解マンガン160gを電気炉内にセットした高純度アルミナルツボに装入した後、真空ポンプで10-4〜10-3Paに排気しながら、600℃、1時間の予備加熱を行い、まず揮発性の不純物成分を除去した。その後、アルミナルツボを1080℃に昇温し、30時間の真空昇華精製処理を行った。固相マンガンから昇華したマンガン蒸気は、アルミナルツボの上方に設置された高純度アルミナ管の内壁(約900〜950℃)に接して冷却され、蒸着マンガン90gが凝縮回収された。この蒸着マンガンは銀白色の金属光沢を呈し、その後、数ヶ月空気中に放置しても金属光沢が保持されていた。一方、昇華後の残渣は緑色を呈していた。
【0048】
表2に、原料の市販電解マンガン、上記の真空昇華精製処理によって得られた高純度マンガンおよび昇華後の残渣の分析値を示す。真空昇華精製により得られたマンガンは不純物濃度が著しく低い高純度マンガンであり、Si以外の金属不純物濃度は何れも1massppm以下に低減しており、特にAl、Fe、Ni、Pb、Znは0.1ppm以下にまで低減している。非金属不純物に関しても酸素は4ppm、硫黄、窒素、炭素は何れも1ppm以下であった。
【0049】
【表2】
Figure 0003825984
【0050】
図2は、昇華残渣のX線回折結果を示すものである。この図からわかるように、昇華残渣は、酸化マンガンが主成分で、硫化マンガンの存在も確認されており、これらの非金属不純物がマンガン化合物として残渣に残り、昇華マンガンから分離されたことがわかる。また、表2の残渣の分析値から、蒸気圧の低い金属不純物とともに、蒸気圧の高いCa、Mgなども残渣に濃縮されているが、図2の結果は、これらが酸化物として残渣中に残留することを示唆している。
【0051】
(実施例4)
市販電解マンガンを原料に、(実施例2)で説明したキレート樹脂イオン交換一電解法と同一の手順で作製した高純度マンガンを、さらに(実施例3)で説明した真空昇華精製法と同一の手順で処理して、マンガンを回収した。表3に原料に用いた市販電解マンガンおよび、この実施例で得られたマンガンの分析値を対比して示す。即ち、この実施例の方法(キレート樹脂イオン交換一電解法+真空昇華精製法)により、金属不純物濃度および非金属不純物濃度の合計量は10ppm以下の高純度マンガンが得られた。
【0052】
【表3】
Figure 0003825984
【0053】
【発明の効果】
以上、説明したように本発明によれば、金属不純物の合計濃度が30ppm以下の高純度マンガン、好ましくは金属不純物と非金属不純物との合計濃度が10ppm以下の超高純度マンガンを実用的な方法で、しかも簡易にかつ確実に、そして低価格を実現して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】塩化マンガン水溶液のキレート樹脂イオン交換によるマンガンと試験不純物の溶離特性を示す図である。
【図2】昇華残渣のX線解析結果示す図である。

Claims (5)

  1. マンガン原料を塩酸で処理して塩化マンガン水溶液を調整し、この塩化マンガン水溶液をキレート樹脂イオン交換処理することにより、精製塩化マンガン水溶液を調整し、次いでこの精製塩化マンガン水溶液を電解液とする電解処理を行うことにより金属不純物の合計濃度を30ppm以下にすることを特徴とする、高純度マンガンの製造方法。
  2. マンガン原料を真空容器内に装填したのち、加熱して昇華させることにより得られるマンガン蒸気冷却して凝縮させることにより、金属不純物の合計濃度を20ppm以下、かつ非金属不純物の合計濃度を10ppm以下にすることを特徴とする、高純度マンガンの製造方法。
  3. マンガン原料を塩酸で処理して塩化マンガン水溶液を調整し、この塩化マンガン水溶液をキレート樹脂イオン交換処理することにより、精製塩化マンガン水溶液を調整し、次いでこの精製塩化マンガン水溶液を電解液とする電解処理を行うことにより金属不純物の合計濃度を30ppm以下にした高純度マンガンとし、その後この高純度マンガンを真空容器内に装填したのち、加熱して昇華させることにより得られるマンガン蒸気冷却して凝縮させることにより、金属不純物および非金属不純物の合計濃度を10ppm以下にすることを特徴とする、高純度マンガンの製造方法。
  4. マンガン原料として、純度99.9mass%の粗金属マンガンもしくは二酸化マンガンを用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の高純度マンガンの製造方法。
  5. 電解処理は、塩化マンガン水溶液に緩衝剤として塩化アンモニウムを加え電解液とし、これを電解して陰極板上に平滑板状の電析マンガンを得ることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の高純度マンガンの製造方法。
JP2001087748A 2001-03-26 2001-03-26 高純度マンガンの製造方法 Expired - Lifetime JP3825984B2 (ja)

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