JP3820566B2 - 過熱蒸気含有高温熱水による調理方法並びにその調理装置 - Google Patents

過熱蒸気含有高温熱水による調理方法並びにその調理装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高温状態の過熱蒸気を含有させることで100℃以上に達する熱水を得るものであり、この過熱蒸気含有高温熱水を食材と接触させることで、従来、お湯で行っていた、茹でる、煮る等の調理を、高温且つ短時間で行えるようにした新規な調理手法に関するものである。
【0002】
【発明の背景】
例えば、ラーメン用麺、うどん用麺、そば用麺等の麺類を工業的に茹でるには、茹で槽に貯留した温水(湯)の中に、生麺をほぼ一定の時間くぐらせて(浸けて)茹で上げる手法が一般的である。この際、茹で槽には、例えばボイラー等で生成された100℃程度の湯が、絶えず供給されるようにし、湯温と湯量を概ね一定とするような管理が成される。また生麺は、ステンレス等で形成された籠に収容されて搬送されるものであって、搬送中に茹で槽を通過することによって、適宜の時間、湯の中に浸るように移送される。なおこのような麺の茹で上げは、ライン化されたコンベヤ等によって、連続して行えるように構築されるものである。そして麺を茹で上げる際には、一般に高温且つ短時間で調理することが、麺のうまみ、あるいは麺の腰(コシ)や歯ごたえ等の食感の点で好ましいが、上述した茹で手法には、以下のような問題があった。
【0003】
まずこのような温水茹で手法は、たとえボイラー等で100℃の湯を沸かし、槽内に供給できても、実際に湯が生麺と接触し、麺を茹でる際には、いくらか温度が低くなり(一例として95〜96℃程度)、100℃程度の高温調理は行えなかった。また、調理温度が低下する分、調理時間は長くなる傾向にあり(一例として、そば用麺で2.5〜3分程度)、実際に人が食した際の食感を損ねる場合があった。加えて量産化すなわちラインの効率化を向上させたい場合には、単位湯量当たりの生産量(茹でる生麺の量)が増加することに因み、より一層、調理温度は低下し、また調理時間としては長くなる傾向にあり、問題であった。
【0004】
また麺を茹でる温度が低くなれば、その分、雑菌類の殺菌も行い難くなり、この点でも問題があった。特に最近では、殺菌に100℃以上の高温を要する耐熱性菌の食中毒問題が大きく取り上げられており、殺菌の観点からも調理温度の高温化が望まれていた。
【0005】
もちろん上述した食感や殺菌(腐敗防止等を含む)等を考慮して、麺に添加剤を混入する手法も一部採られているが、過剰な添加剤の混入は、食の安全性を損なうことが懸念されている。また例えば手打うどん等は、小麦粉、食塩、水のみを原料としながらも、専ら素材や造り方で、優れた風味や食感を引き出すことができ、添加剤を全く加えないものである。このように、本来、食材には極力、添加剤を入れない方が好ましく、添加剤によって食感や保存性を向上させたり、着色したりする手法は、言わばやむを得ず、採られている手法であって、根本的な解決手法ではなかった。
【0006】
更に麺を茹で上げる場合は、一例として麺100g当たり80〜90g程度の多くの水分を、麺自体が吸収するため、装置としては多くの湯を、茹で槽に絶えず供給できる能力が要求され、装置全体の大型化を招くことも問題の一つであった。
【0007】
【開発を試みた技術的課題】
本発明は、このような背景を認識してなされたものであって、高温状態の過熱蒸気を含有させて、常圧下で100℃以上に達する高温熱水を生成し、この過熱蒸気含有高温熱水を食材に接触させることで、食材を茹でたり、煮たりする調理加工を、高温且つ短時間で行えるようにし、また装置の小型化をも達成し得る、新規な調理方法並びに調理装置の開発を試みたものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
すなわち請求項1記載の過熱蒸気含有高温熱水による調理方法は、水に高温状態の過熱蒸気を分散状態に含有させることにより、大気圧下で100℃以上に達する高温熱水を生成し、この熱水を食材に接触させて、食材を100℃以上の高温で調理するようにした方法であって、
前記100℃以上に達する高温熱水を、食材に接触させるにあたっては、食材を高温熱水の中に適宜の時間、くぐらせて接触させるようにしたことを特徴として成るものである。
この発明によれば、特に加圧を要することなく、100℃以上に達する高温熱水が生成できるため、食材を100℃以上の高温度で調理することができる。また調理温度が高温となることに因み、従来の、100℃未満の温水調理に比べ、格段に調理時間を短縮できる。そして調理時間が短縮できることにより、例えば食材をコンベヤで流しながら調理する場合、その移送距離を短縮でき、装置の小型化に寄与し得る。また、このような高温・高速調理に起因して、従来の温水調理に比べ、調理量(処理量)を大幅にアップさせることができる。更に、高温・高速調理は、食材が有する澱粉のアルファ化を促進させ得るものであり、食材本来のうまみを増加させることができる。また調理温度が、100℃以上の高温であるため、食材の殺菌レベル、特に耐熱性菌に対する殺菌レベルが向上し、防腐剤等の添加剤を使用しなくても変色の防止や日持ちを増進させることができる。特にこれは、今、大きな社会問題となっている、食の安全性にも大いに寄与し得るものである。
また、100℃以上に達する高温熱水中に、適宜の時間、食材を浸けて調理するため、例えば食材を茹でたり、煮たりする調理に適し、このような調理が高温・高速で行える。
【0009】
また請求項記載の過熱蒸気含有高温熱水による調理方法は、前記請求項1記載の要件に加え、前記食材には、麺類が適用されることを特徴として成るものである。
この発明によれば、例えば麺類を高温、高速で茹で上げることができ、麺本来のうまみを引き出し、麺の腰(コシ)や歯ごたえ等の食感を良好なものにできる。
【0010】
また請求項記載の過熱蒸気含有高温熱水による調理装置は、内部に高温状態の過熱蒸気を含ませ、高温熱水を得るようにした過熱蒸気含有高温熱水生成部と、
食材を移送する搬送装置とを具え、移送中に食材を調理するようにした装置であって、
前記過熱蒸気含有高温熱水生成部は、水に過熱蒸気を分散状態に含有させることにより、大気圧下で100℃以上に達する高温熱水を生成するものであり、
食材を調理する際には、100℃以上に達する高温熱水を適宜貯留した槽内に、移送中の食材を適宜の時間、くぐらせて調理するようにしたことを特徴として成るものである。
この発明によれば、過熱蒸気含有高温熱水生成部によって、特に圧力を加えることなく、100℃以上に達する高温熱水が得られ、食材を高温・高速で調理することができる。またこれに因み、100℃未満の温水を適用した、従来の調理に比べ、格段に処理量(調理量)を増やすことができる。例えば麺類の場合、従来の温水装置の場合には、約1トン/時間の処理量であったものが、本発明では、同一の処理スペースで約2トン/時間の処理が可能となる。更に、高温調理が行えることに起因して、食材の殺菌レベルが向上し、特に従来の温水調理装置の場合に死滅させることが難しかった耐熱性菌を、本発明では効果的に死滅させることができる。
また、食材を調理する際、100℃以上の熱水の中を適宜の時間通過させて調理するため、例えば食材を高温度且つ短時間で、茹でたり、煮たりすることができる。
【0011】
また請求項記載の過熱蒸気含有高温熱水による調理装置は、前記請求項記載の要件に加え、前記食材は、麺類であることを特徴として成るものである。
この発明によれば、例えば麺類を高温度且つ短時間で、茹で上げることができ、麺を実際に食したときの腰(コシ)や歯ごたえ等の食感を良好なものにできる。
【0012】
【発明の実施の形態】
まず実施の形態の説明に先立ち、本発明の名称中にも記載する「過熱蒸気含有高温熱水」という用語について説明する。これは、水中もしくは適宜加温された温水中(以下、温水を含めて水と称する)に、高温状態の過熱蒸気を導き、水に過熱蒸気を含有させることで得られる、100℃以上の高温熱水であり、特に加圧を要することなく、大気圧下で得られるものである。なお本出願人が行った実験では、過熱蒸気の温度と量にもよるが、これを増加させた場合、熱水の温度は100℃を越え、約110℃程度の温度を示すことが確認できた。因みに過熱蒸気を含有した熱水の温度は、一般に市販され信頼性の高い、あらゆる工業用温度センサーを使用して、計測した値である。
【0013】
なお、水そのものは、本来、大気圧下では、100℃より高くならないため、上記熱水が、特に加圧を要することなく、100℃以上の高温になった理由は、明確には判らない。しかしながら、過熱蒸気を含有した水は、内部に高温微粒過熱蒸気を分散状態に含むと考えられ、このため水そのものの温度が100℃未満であっても、過熱蒸気が水に対し、ほぼ均一に作用して、全体的に100℃以上の高温を示したものと推測される。このように100℃以上に達する熱水は、全く新しいタイプの高温熱水であり、本明細書では、これを「過熱蒸気含有高温熱水」と称し、符号Hを付すものである。なお詳細な理論の解明は、並行して検証しつつあるが、この過熱蒸気含有高温熱水Hは、麺のアルファ化の促進など今までにない、調理加工機能を持っていることが証明されつつある。
【0014】
次に本発明において被処理体となる食材Wについて説明する。本発明によって調理される食材Wとしては、麺類(ラーメン用麺、うどん用麺、そば用麺、ソーメン用麺、焼きそば用麺、パスタ、スパゲッティー麺等)、穀類(イモ類、米類等)、野菜類、果実類、木の実類など、従来、お湯を使用して、茹でる、煮る等の調理が行われていた食材W全てが対象となるものである。
【0015】
以下本発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。説明にあたっては、まず本発明装置の過熱蒸気含有高温熱水による調理装置1について説明した後、この装置の作動態様を説明しながら、実質的に本発明方法の過熱蒸気含有高温熱水による調理方法について併せて説明する。
【0016】
本発明は、まず100℃以上の過熱蒸気を、散気管やイジェクタ(ejector) 等によって、水(温水)中に導き、過熱蒸気含有高温熱水Hを生成するものであり、得られた高温熱水を食材Wに接触させて、従来、100℃未満の温水で食材Wを茹でたり、煮たりしていた調理を、代替するようにしたものである。なお、過熱蒸気含有高温熱水Hを食材Wに接触させるにあたっては、熱水中に食材Wを浸漬させる(くぐらせる)接触手法や、熱水を食材Wに噴射させる(掛ける)接触手法等があり、本明細書では前者を実施の形態1とし、後者を本発明に関連する参考形態2(以下、単に参考形態2とする)として、以下説明する。
【0017】
〔実施の形態1〕
この形態は、食材Wを100℃以上の高温熱水の中に、適宜の時間くぐらせて調理する形態であり、ここでの調理装置1は、一例として図1、2に示すように、水蒸気を発生させる蒸気発生部2と、発生させた水蒸気を再加熱し過熱蒸気を生成する過熱蒸気生成部3と、過熱蒸気を水と混合させ、高温熱水を生成する過熱蒸気含有高温熱水生成部4と、過熱蒸気含有高温熱水生成部4を通るように食材Wを移送する搬送装置5とを具えて成るものである。
【0018】
なお本実施の形態では、食材Wとして麺類を適用し、これを茹で上げる場合について説明するものである。またここでは、過熱蒸気含有高温熱水生成部4の前段に製麺機Nを具えるとともに、過熱蒸気含有高温熱水生成部4の後段に、冷却機Cを具えるものである。製麺機Nは、シュートSHを介して、カットした麺を搬送装置5に供給するものであり、冷却機Cは、茹で上げ後の麺を搬送装置5から受け取り、冷水等に晒して冷やすものである。以下、各構成部について説明する。
【0019】
まず蒸気発生部2について説明する。このものは、水を蒸発させて水蒸気を生成する部位であり、一般的には低コストで、しかも効率良く水蒸気を発生させ得る蒸気発生装置(ボイラー)によって適宜の温度や圧力の蒸気を得るものである。しかしながら蒸気発生部2としては、必ずしもボイラーによる発生手法に限定されるものではなく、例えば電気ヒータやジュール加熱装置等によって水を加熱し、水蒸気を得ることも可能である。また後述する過熱蒸気生成部3において、LPGガス、重油等の化石燃料を使用した場合には、その余熱によって水を加熱し、水蒸気を得ることも可能である。なお蒸気発生部2の加熱部を負圧にすることにより、より効率的に水蒸気を発生させ得るものである。
【0020】
次に過熱蒸気生成部3について説明する。このものは、蒸気発生部2によって発生させた水蒸気(これを生蒸気とする)を更に加熱し、生蒸気を100℃以上1000℃程度までの高温状態の過熱蒸気とする能力を有した部位であり、ここでは最もエネルギーコストが安価なLPGガス等を利用して所望温度の過熱蒸気を得るものである。このため過熱蒸気生成部3は、例えば生蒸気が通る耐腐食性の金属製の中空パイプ材と、このパイプ材を加熱するためのバーナ部とを具えて成るものであり、バーナ部でLPGガスを燃焼させ、パイプ材を加熱せしめ、パイプ内部を通過する生蒸気に必要量の熱を与え、過熱蒸気に変換させるものである。なお燃焼温度は、生成する過熱蒸気温度に則し決定制御される。また本明細書では、過熱蒸気にSと符号を付すものである。
【0021】
更にここではLPG等の化石燃料の燃焼加熱によって過熱蒸気Sを生成する手法を述べたが、処理量、処理速度、処理温度、ランニングコスト等を考慮して、例えばジュール熱を利用したり、電磁誘導等を利用して生蒸気を再加熱することが可能である。具体的にはジュール熱を利用する手法については、電気抵抗の高い金属に通電発熱させ、この金属体に生蒸気を接触させて、過熱蒸気Sを生成するものである。
【0022】
次に過熱蒸気含有高温熱水生成部4について説明する。このものは、水に過熱蒸気Sを含有させ、過熱蒸気含有高温熱水Hを生成する部位であり、この実施の形態では、一例として図1、2に示すように、水(装置の廃熱等により適宜加温された温水も含む)を貯留する槽本体11と、過熱蒸気Sを過熱蒸気生成部3から水中に導く導出管12とを具えて成るものである。
導出管12は、実質的に散気管やエジェクタ(ejector) 等によって構成されるものであり、過熱蒸気Sを水中に噴出させるための吐出孔13が多数開口され、過熱蒸気生成部3から100℃以上の過熱蒸気Sを導くものである。
【0023】
そして過熱蒸気含有高温熱水Hを生成するにあたっては、過熱蒸気Sを導出管12から水中に噴出させるものであり、これによって槽本体11に貯留された水は、過熱蒸気Sから熱が与えられ、100℃の沸点に達し、沸き立つ状態となり、更に過熱蒸気Sを加えて行くことで、過熱蒸気Sの温度と量にもよるが、100℃以上の高温熱水(過熱蒸気含有高温熱水H)となるものである。
【0024】
なお麺を茹でる際には、多くの水分が麺に吸収されることを考慮して、槽本体11は、オーバーフロー構造等を採用し、常にほぼ一定の熱水量に維持されることが好ましい(図2参照)。また槽本体11すなわち過熱蒸気含有高温熱水生成部4は、必ずしも開放状態に形成するだけでなく、例えば図2の二点鎖線で示すように、適宜閉鎖状態に形成することが可能である。
【0025】
次に搬送装置5について説明する。このものは、過熱蒸気含有高温熱水生成部4を通過するように食材Wを搬送するものであり、麺等の食材Wはここで茹で上げられる。搬送装置5は、一例として図1、2に示すように、循環状態に形成されたチェーンコンベヤ15を主要部材とし、チェーンに適宜の間隔でバスケット16が固定状態に取り付けられて成るものである。
【0026】
バスケット16は、高温熱水が直接、食材Wに接触し得るように、一例としてステンレス製のパンチングメタル等によって形成される。なお上記図1では、バスケット16は、同一幅方向に6個の麺を受け入れるように仕切られている。またバスケット16には、受入口17を適宜開閉する蓋18が設けられる。
【0027】
そして搬送装置5が製麺機Nから麺を受け取る際には、バスケット16は受入口17が上方に向けられ、この際、もちろん蓋18は開放された状態となっている。このため少なくとも槽本体11に至るまでの間(ここでは製麺機Nから麺が供給されてから、下方に搬送されるまでの間)に蓋18が閉鎖される。この閉鎖状態は、麺を茹で上げる間、継続される。なおバスケット16が槽本体11及び冷却機C上を通過する間は、受入口17は下方に向けられた状態となっている。そして、バスケット16が冷却機Cの上方に到達したところで、麺を冷却機Cに移すため、閉鎖していた蓋18が開放され、麺を冷却機Cに落下させるようにしている。
【0028】
このように搬送装置5は、製麺機Nから麺を受け取り、その後、麺を槽本体11において水中をくぐらせるように移送し、且つ茹で上げ後の麺を冷却機Cに送るものである。そしてこの一連の作動は連続的に行われ、これによって麺は、ほぼ一定の時間、湯の中に浸され、茹で上げられるものである。
なお食材Wを熱水と接触させる以前または以降(冷却以降など)において、例えば食材Wに過熱蒸気Sを当て、殺菌や乾燥を行うことが可能である。あるいは、食材Wの性状等に応じて、熱変性を極力抑制する必要がある場合には、熱水との接触以前に、食材Wを予熱(予備加熱)することも可能である。
【0029】
実施の形態1における調理装置1は、以上のような基本構造を有するものであり、以下、本装置の作動態様について説明しながら、実質的に過熱蒸気含有高温熱水による調理方法について併せて説明する。
(1)製麺機から搬送装置への麺の供給
まず製麺機Nからカットされた麺等の食材Wが、搬送装置5のバスケット16に供給される。この際、もちろんバスケット16は蓋18が開放された状態となっている。また麺は一例として、シュートSHを通って、製麺機Nから搬送装置5に供給される。その後、麺を収容したバスケット16は、蓋18が閉鎖され、槽本体11(過熱蒸気含有高温熱水生成部4)に移送される。
【0030】
(2)麺の茹で上げ
(i)高温熱水の生成
実質的な麺の茹で上げに先立ち、槽本体11では、過熱蒸気含有高温熱水Hを生成しておく。これには、まず蒸気発生部2及び過熱蒸気生成部3によって過熱蒸気Sを生成する。その後、この過熱蒸気Sを、導出管12を通して、水(温水も含む)を適宜貯留した槽本体11に導き、水中に含有させる。槽内に導かれる過熱蒸気Sは、数百℃であるため、これと接触した水は、熱交換によって一挙に約100℃に達し、沸騰した湯となる。
【0031】
沸騰した状態から更に、過熱蒸気Sを増やして行くと、過熱蒸気Sの量や温度等によっても異なるが、100℃以上(一例として110℃程度)の高温熱水が槽内に生成される(図1の拡大図参照)。
なおこのような過熱蒸気含有高温熱水Hの生成は、一般的には、麺を搬送装置5に供給する以前に行われるのが現実的であるが、必ずしもこれに限定されるものではなく、少なくとも麺が槽本体11に移送される前までに行えばよいものである。
【0032】
(ii)実質的な麺の茹で上げ
このような状態となった槽本体11は実質的に茹釜の作用を担うものであり、この槽本体11に対し麺を連続的に供給する。そして、槽本体11に至った麺は、搬送に伴い槽内において、ほぼ一定の時間、浸漬された後、槽本体11から取り出される(引き上げられる)。このようにして、麺は、高温熱水中をくぐる間に、茹で上げられるものである。なお熱水の温度が約102℃程度のとき、麺(そば用麺)が槽内で茹で上げられる所要時間は、一例として約1分程度の極短い時間である。
【0033】
(3)麺の冷却
バスケット16は、槽本体11から冷却機Cの上方付近に至るまで、受入口17が下向きになった状態で搬送され、この間、蓋18も閉鎖されている。この状態で、蓋18が開放されると、麺が冷却機Cに落とされ、ここで適宜の温度まで冷やされる。因みに冷却機Cは、一例として搬送装置5とは別のバスケットが設けられ、例えば冷水が循環するように構成される。そして、冷却機Cによって冷やされた麺は、その後、水切りされ、必要に応じて適宜乾燥等された後、商品化のための包装工程等に移される。
【0034】
このように過熱蒸気含有高温熱水Hを使用した調理は、高温・高速調理が行えるものであり、これによって、100℃未満の従来の温水調理に比べ、調理量(食材Wの処理量)を大幅にアップさせることができるものである。例えば麺類の場合、従来の温水茹で加工の場合には、約1トン/時間の処理量であったものが、高温熱水による調理では、同一の処理スペースで約2トン/時間の処理が可能である。
【0035】
また、高温・高速調理は、食材Wの持つ澱粉のアルファ化を促進させ得るものであり、食材W本来のうまみ、例えば麺類の場合には、麺の腰(コシ)や歯ごたえ等の食感を向上させ得るものである。
更に本発明では、100℃以上の高温調理が行えるため、殺菌レベル、特に従来の温水茹で加工の場合に死滅させることが難しかった耐熱性菌に対する殺菌レべルが向上し、防腐剤等の添加剤を使用しなくても、食材Wの変色防止や日持ちを向上させることができる。このことは今、大きな社会問題となっている、食の安全性にも大いに寄与するものと思われる。
【0036】
なお過熱蒸気Sは、100℃以上の高温状態であるため、本来、魚介類や肉類、あるいは穀類などの焼成に適していたが、食材Wに水分を与えることには不向きであった。一方、従来の温水調理は、食材Wに水分を付加させることには適していたが、100℃以上の高温調理ができないものであった。本発明は、いわば、これら過熱蒸気Sと温水との弱点を互いに補い合った調理手法であり、極めて熱効率の高い調理手法である。
【0037】
参考形態2〕
参考形態2は、食材Wに過熱蒸気含有高温熱水Hを噴射する形態であり、一例として図3に示すように、槽本体11から熱水を耐高温ポンプ21等で給水し、食材Wに吹き付けるものである。すなわち参考形態2は、実施の形態1に対して、過熱蒸気含有高温熱水生成部4とは別に、高温熱水を食材Wに吹き付ける(接触させる)処理部6を設ける点が異なるものである。以下、この処理部6について主に説明する。因みに上記図3では、食材Wとしてイモを適用し、これを蒸す(蒸かす)調理を行っている。
【0038】
処理部6は、実質的に食材Wを調理する部位であり、ほぼ閉鎖状態に形成された処理空間22と、この空間内において高温熱水を食材Wに吹き付ける熱水吐出口23とを具えて成るものである。
処理空間22は、調理する食材Wや調理内容に応じて、図示したように、適宜ダンパ24等を設け、空間内の温度を調節することが可能である。なお食材Wの調理は、必ずしも閉鎖空間で行われる必要はなく、食材Wの性状や調理内容に応じて、適宜開放状態で行うことが可能である。
【0039】
また熱水吐出口23は、上述したように、槽本体11から高温熱水が供給されるように、接続されるものである。なお上記図3では、食材Wの上方から高温熱水を噴出させるものであるが、必ずしもこれに限定されるものではなく、食材Wの表面に全体的に吹き付ける接触形態も可能である。またここでは、食材Wに噴射した熱水を、槽本体11に戻し、再使用するように示したが、この場合には、食材Wと接触させた後の熱水から、食材Wのカスや汚れ等の不要物を取り除き、再使用に供することが好ましい。
【0040】
なお搬送装置5は、上述した実施の形態1に対して、搬送軌道が若干異なるが、食材Wを高温熱水と接触させるように、すわなち処理部6を通過させるように、食材Wを移送する基本構造は同様である。また搬送装置5の下方に示す図中符号7は、蒸かした後のイモ等の食材Wを受け取り、適宜移送するコンベヤ等の移送装置である。
【0041】
参考形態2における調理装置1は、以上のような基本構造を有するものである。なお、本形態における装置の作動態様については、実施の形態1に対して、食材Wに対する高温熱水の接触手法のみが実質的に異なるものである。すなわち実施の形態1では、食材Wを高温熱水の中に、ほぼ一定の時間浸けて調理するものであったが、本参考形態では、食材Wに熱水を噴出させて調理するものである。この際、食材Wに熱水を勢い良く吹き付ける形態を基本とするものであるが、必ずしもその必要はなく、目的の調理が行えれば、高温熱水を食材Wの上から注ぐように掛ける調理形態も採り得る。
【0042】
ここで麺を、上述した過熱蒸気含有高温熱水Hによって茹でた場合と、従来の100℃未満の温水で茹でた場合とにおいて、食感等を比較した結果について説明する。図4は、バッチ槽を用い、種々の麺類を従来の温水で茹でた場合と、過熱蒸気含有高温熱水Hで茹でた場合とにおける、コシ、硬さ、ツルミ、風味、伸び、茹で湯の汚れ、及びこれらの総合評価の比較データを示す表である。なお表中「コントロール」は、従来の温水で茹でた場合を示し、これを標準(基準)としている。また評価方法としては、評価者5名による平均得点で示しており、「コントロール」を3(普通)とし、5(良い)、4(やや良い)、2(やや劣る)、1(劣る)としている。
【0043】
上記図4から、過熱蒸気含有高温熱水Hの場合、従来の処理時間の40〜50%程度の時間で茹で上げることができ、また従来に無い食感や風味を得ることが判った。また茹で湯の汚れが、従来より格段に少なくなっていることから、麺成分の溶出が少ないと推定され、このことも食感や風味の向上につながっているものと考えられる。また茹で湯の汚れが格段に少ないことは、茹で工程での捨て湯の減少にもつながり、省資源化や排水処理の負荷低減等、環境維持の向上にも寄与するものと考えられる。
【0044】
【発明の効果】
まず本発明によれば、特に加圧を要することなく、水や温水に高温状態の過熱蒸気Sを含有させるだけで、100℃以上に達する高温熱水が得られるため、麺類等の食材Wを100℃以上の高温で調理できる。
またこれに伴い、従来の温水(100℃未満)調理に比べて、調理時間も極めて短縮でき、食材W本来のうまみを、増加ないしは引き立たせることができる。
【0045】
更に調理時間が短縮できることに因み、例えば食材Wを搬送しながら調理する場合には、その移送距離が短くて済み、装置の省スペース化が図れる。
【0046】
また食材Wを高温・高速調理できるために、従来の温水調理に比べて調理量を大幅に増加させることができる。
また食材Wを100℃以上の高温で調理できるため、殺菌、特に耐熱性菌の殺菌が効果的に行え、例えば保存料等を添加しなくても、日持ち性等を向上させることができ、食の安全性に寄与し得る。
【図面の簡単な説明】
【図1】 食材を過熱蒸気含有高温熱水中に、ほぼ一定の時間、浸漬させて調理する、本発明の調理装置を示す斜視図である。
【図2】 同上、骨格的側面図である。
【図3】 食材に過熱蒸気含有高温熱水を吹き付けて食材を調理する、参考形態2の調理装置を示す骨格的側面図である。
【図4】 麺を過熱蒸気含有高温熱水によって茹でた場合と、100℃未満の温水で茹でた場合とにおける、食感等の比較データを示す表である。
【符号の説明】
1 調理装置(過熱蒸気含有高温熱水による)
2 蒸気発生部
3 過熱蒸気生成部
4 過熱蒸気含有高温熱水生成部
5 搬送装置
6 処理部
7 移送装置
11 槽本体
12 導出管
13 吐出口
15 チェーンコンベヤ
16 バスケット
17 受入口
18 蓋
21 耐高温ポンプ
22 処理空間
23 熱水吐出口
24 ダンパ
C 冷却機
H 過熱蒸気含有高温熱水
N 製麺機
S 過熱蒸気
SH シュート
W 食材

Claims (4)

  1. 水に高温状態の過熱蒸気を分散状態に含有させることにより、大気圧下で100℃以上に達する高温熱水を生成し、この熱水を食材に接触させて、食材を100℃以上の高温で調理するようにした方法であって、
    前記100℃以上に達する高温熱水を、食材に接触させるにあたっては、食材を高温熱水の中に適宜の時間、くぐらせて接触させるようにしたことを特徴とする過熱蒸気含有高温熱水による調理方法。
  2. 前記食材には、麺類が適用されることを特徴とする請求項記載の過熱蒸気含有高温熱水による調理方法。
  3. 内部に高温状態の過熱蒸気を含ませ、高温熱水を得るようにした過熱蒸気含有高温熱水生成部と、
    食材を移送する搬送装置とを具え、移送中に食材を調理するようにした装置であって、
    前記過熱蒸気含有高温熱水生成部は、水に過熱蒸気を分散状態に含有させることにより、大気圧下で100℃以上に達する高温熱水を生成するものであり、
    食材を調理する際には、100℃以上に達する高温熱水を適宜貯留した槽内に、移送中の食材を適宜の時間、くぐらせて調理するようにしたことを特徴とする過熱蒸気含有高温熱水による調理装置。
  4. 前記食材は、麺類であることを特徴とする請求項記載の過熱蒸気含有高温熱水による調理装置。
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