JP3813331B2 - 射出成形同時絵付け装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、射出成形型で絵付シートの予備成形も行う形態の射出成形同時絵付け方法に用いる射出成形同時絵付け装置に関する。特に、絵付シートの加熱を安定的に行える射出成形同時絵付け装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、成形品の成形と同時にその外表面に模様等を設ける射出成形同時絵付け方法及びその装置に関する技術が、各種の態様で行われている。
特公昭50−19132号公報では、真空成形用の通気孔を設けた雌型を利用して熱可塑性樹脂よりなる絵付シートを雌型キャビティ面に沿う様に真空成形で予備成形した後、雌雄両型を型締めし、溶融樹脂を両型で形成されるキャビティに射出して、成形品の外表面に絵付シートを一体化させる方法が開示されている。この様な、絵付シートの真空成形と射出成形とを組合わせた態様は、複雑な曲面形状に模様付けができる射出成形同時絵付け技術である。
また、例えば特開平6−315950号公報では、ロールから巻き出した連続帯状の絵付シートを、型開き状態にある雌雄両型からなる一対の型の間に送り、雌型のパーティング面にシートクランプ(シート押さえフレーム)で周囲を固定する様に絵付シートを両型間に供給した後に、熱盤を型外の退避位置から両型間に移動させ、熱盤を両型間に供給された絵付シートに対向させて絵付シートを非接触で加熱軟化させて、絵付シートを射出成形型で予備成形して雌型のキャビティ面に沿わせ、その後、熱盤を両型の間から型外部の退避位置に退避させた後、両型を型締めし、両型で形成されるキャビティに溶融樹脂を射出し、成形と同時に絵付シートにより成形品表面を絵付けする射出成形同時絵付け技術を開示している。
この様に射出成形同時絵付け技術の中でも、射出成形型を絵付シートの予備成形型と兼用し、射出成形機上で、絵付シートの真空成形(又は真空圧空成形、以下、両者を含めて真空成形ということにする)による予備成形と、射出成形とを同時に行う形態の射出成形同時絵付け技術は、樹脂成形と同時に凹凸の大きな面へも絵付けが出来る優れた技術として、各種物品の製造に使用されている。
【0003】
ところで、射出成形型で絵付シートの予備成形も行う際は、例えば、図10に例示する様に、予備成形用の通気孔4を有する型Bの例えばパーティング面1に、絵付シートSをシート固定手段としてのクランプ2等で押圧する等して固定して、型Bに対して絵付シートを位置固定しておいて、絵付シートを加熱軟化する事が行われる。また、クランプ2による絵付シートの型Bへの押圧は、真空成形に備えて型Bのキャビティ3の四方全周囲で行い、絵付シートでキャビティ3を密閉空間にする様にしている(図2及び図9参照)。
一方、絵付シートの加熱を接触加熱で行うと、熱盤の加熱面に絵付シートが融着したり、或いは加熱面に絵付シートが接触し剥離する際にシワが発生することがある。そこで、絵付シートの加熱は、図10の様に熱盤10の加熱面11を絵付シートSに接触させないで加熱する非接触加熱にすることが良く行われる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、以上の様な技術によって、絵付シートを非接触加熱すると、図11の断面図(通気孔、真空源等は図示略)に示す如く、型Bに対して位置固定した絵付シートSが、熱盤10側に膨らみ、ひどい時には熱盤の加熱面11に接触して不良となってしまう事があった。それは、図10に示す如く、型Bのキャビティ3は通気孔4から弁5を介して真空源6に連結しているが、真空成形開始前の絵付シート加熱軟化時では、キャビティ3内を減圧にしない様に、キャビティ3と真空源6とは弁5で遮断しておくからである。従って、絵付シートSによって密閉されるキャビティ3は完全な密閉空間を形成する。この為、絵付シートSによって密閉されるキャビティ3内に存在する空気が、絵付シートの加熱に連れて加熱され膨張しても、その逃げ場は無く、その結果、加熱軟化した絵付シートを大気側(雄型側)に風船の様に、膨らませるのであった。
【0005】
この様に、加熱軟化時に絵付シートが膨らむ現象は、成形品サイズが小さい内は問題は起きなかったが、射出成形同時絵付け技術が普及し、より大きな成形品に対しても試みる様になり、顕在化してきた。特に、大きな凹凸面を絵付けすべく、縦横奥行き共に大きい広い面積の絵付シートを十分に加熱軟化させる場合に顕著であった。絵付シートが膨らむと、図11の様に絵付シートの中央部が熱盤に最接近する。また、たとえ絵付シートが熱盤に接触しなくとも、接近する事によって特にその中央部はより高温に加熱される傾向となり、この結果、絵付シートの中央部は更に加熱軟化され、より接近するという悪循環が発生するからである。しかも、絵付シートの温度も予想できない加熱温度分布になる。これは、熱盤を小区分に分割して各区分毎に温度調整するのとは訳が異なり、絵付シートの膨らみ具合が制御不可能な事から、前記加熱温度分布は一定せず不安定な予測不可能な温度分布となるからである。この為、絵付シートが予備成形される時に、各部の伸び量を各々で一定に制御できず、絵付けされる模様形状寸法がロット毎にばらついて不安定になったり、真空成形時に絵付シートにシワが入ったりする等の問題もあった。
【0006】
そこで、本発明は、絵付シートを熱盤で非接触加熱する時に、絵付シートが膨れて熱盤側に接近するのを抑制し、安定的な絵付シートの加熱ができる熱盤を備えた射出成形同時絵付け装置を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
そこで上記課題を解決すべく、本発明の射出成形同時絵付け装置では、射出成形型として、型Aと、通気孔を有し絵付シートの予備成形型を兼用する型Bとからなる一対の成形型を用い、両型の間に絵付シートを供給して、型Bのキャビティが絵付シートによって密閉空間となる様に、絵付シートを型Bに対して位置固定し、該位置固定された絵付シートを、加熱面を該絵付シートに非接触状態に対向させた熱盤で加熱軟化させ、前記通気孔から吸気して、絵付シートを型Bのキャビティ面に沿う様に成形し、次いで、熱盤を両型の間から外部に退避させた後、両型を型締めし、両型で形成されるキャビティに樹脂を射出し、成形と同時に絵付シートにより成形品表面を絵付けする射出成形同時絵付け方法に用いる射出成形同時絵付け装置において、
加熱面の中央部の輻射率が周縁部の輻射率よりも相対的に低い材料から構成されている熱盤を少なくとも備えた構成として、
通気孔を有する型Bに対して位置固定された絵付シートを、該熱盤で非接触加熱する事により、位置固定された絵付シートの中央部をその周囲よりも低温に加熱し、前記密閉空間内に存在する空気の熱膨張により、位置固定された絵付シートの中央部が、熱盤側に膨らみ接近する事を抑制しながら加熱できる、射出成形同時絵付け装置とした。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しながら本発明の射出成形同時絵付け装置の実施の形態を説明する。
【0009】
先ず、図1は、熱盤10の加熱面11の輻射率の高低分布と、この熱盤で絵付シートを非接触加熱する様子を概念的に示す説明図である。図1(A)は熱盤10を加熱面11側から見た正面図、図1(B)は予備成形型となる型Bにクランプ2で位置固定された絵付シートSに対して、熱盤10で非接触加熱して加熱軟化させる様子を示す側面から見た断面図、図1(C)は、熱盤の加熱面11の中央部を通る上下又は左右方向で見た場合の、輻射率の高低の分布を示すグラフである。なお、型Bの通気孔等は図示を略してある。また、図2に、予備成形型となる型Bに位置固定された絵付シートSを正面から見た正面図を示す。
【0010】
本発明では、絵付シートSの加熱手段である熱盤10について、図1(A)に示す如く、その加熱面11の中央部12の輻射率が周縁部13の輻射率よりも相対的に低い材料から構成する。そして、射出成形同時絵付けを行う際は、図1(B)に示す如く、この様な熱盤10を用いて絵付シートSを輻射熱によって非接触加熱する。なお、図1(B)において、絵付シートを型Bへ位置固定するクランプ2は、図2(或いは図9)に示す如く通常は枠状の長方形形状で、絵付シートSはその全周囲を、型Bのキャビティ3の周囲に存在するパーティング面1に押圧する。
そして、図1(B)及び(C)に示す如く、型Bにクランプ2等で位置固定された時の、位置固定された固定部分に対する絵付シートSの中央部に対して、熱盤の加熱面11の輻射率が相対的に低い中央部12を対向させる。この結果、クランプ2等によって型Bに位置固定された絵付シートSの中央部Ctを、その周囲よりも低温に加熱する事ができる。
【0011】
なお、絵付シートの中央部の加熱を低温とさせる度合いは、絵付シート中央部の低温部と周囲の高温部とが同一温度であった場合に、加熱中に絵付シートが膨らみ熱盤の加熱面に接近する程度により、熱盤と絵付シートとの距離、熱盤加熱面の輻射率に高低を付与する材料等で適宜調整する。なお、膨らみ具合は、絵付シートの軟化の度合い、位置固定された絵付シートの大きさ、キャビティ3の容積、型Bの型温、熱盤加熱面の温度、絵付シートと熱盤加熱面との距離等によって変化する。
以上の結果、密閉空間となるキャビティ3内の空気が熱膨張して絵付シートが熱盤側に膨れたとしても、最も膨れやすい部分は中央部では無く、その周囲となる。その結果、図1(B)に例示する様に、同じ膨張体積でも従来より平面的に、より全体的に膨れることになり、熱盤の加熱面への接近が抑制される。従って、熱盤の加熱面と絵付シートとの距離の均一性も向上し、より安定的な加熱が可能となる。
【0012】
ところで、本発明の射出成形同時絵付け装置によって、絵付シートの中央部を周囲よりも低温に加熱するのは、絵付シートを真空成形する際に絞り(乃至は伸び)の大きい部分と小さい部分とで、絵付シートの加熱に温度差を付けるのとは、本質的に異なる。ちなみに、図3(A)の型Bは、キャビティ3の中央部が絞りが大きい形状で、その周囲は絞りが小さい形状の場合である。このような場合でも、キャビティ3内の空気が熱膨張して、絵付シートSが膨らむ時は、その膨らむ形状はキャビティ3の容積には関係しても、キャビティ3の形状には関係無いからである。
そして、このような絞りの大小、或いは絵柄の伸び縮みの意識的な調整等に応じて、絵付シートの加熱に温度分布を設ける場合は、図3(B)の様な加熱面の(従って、絵付シートの)温度分布となる。この様な温度分布の形成法は特開平7−290501号公報等で公知の技術である。なお、本発明の一態様として、図3(B)の如き温度分布に対応した輻射率分布〔高低の部分が図3(B)の温度分布の高低と類似した分布となる〕と図1(C)の如き輻射率分布とが重畳した図3(C)の如き輻射率分布〔周縁部にも輻射率の低い部分があるが、中央部の輻射率が最も低い〕とする加熱面の材料構成とすることも出来る。
【0013】
熱盤の加熱面の中央部12の輻射率を、周縁部13の輻射率よりも相対的に低い材料から構成する為の材料、及びその為の熱盤の構造は、加熱手段としての耐熱性、強度等が備わっていれば特に限定されない。或る2種類の材料のうち輻射率の低い方の材料で加熱面の中央部を造り、輻射率の高い方の材料で加熱面の周縁部を造ればよい。輻射率差の大きな材料を使えば、輻射率の高低差がハッキリした熱盤ができる。輻射率差は、絵付シートの加熱軟化で要求される加熱温度差に応じたものとすれば良い。なお、輻射率は表面材料に依存するので、加熱面の内部、つまり熱盤の内部は輻射率を考慮した材料で構成する必要は無い。
輻射率、つまり熱輻射率の高低(大小)は、当然の事ながら、熱線つまり赤外線領域(含む遠赤外線領域)に於ける輻射率の高低で選ぶと良い。ここに、各種材料の輻射率を挙げてみれば、銀は0.07、銅は0.11、アルミニウムは0.13、ニッケルは0.36、鉄は0.40、炭素は0.85、アルミナは0.30、ニクロムは0.95(600℃)、酸化クロムは0.80、酸化ニッケルは0.96(800℃)、ポースレンは0.92、硝子は0.88、雲母は0.75、耐火煉瓦は0.85等である。
この様に、高低の輻射率の材料を組み合わる場合、相対的に低い輻射率の材料としては、鉄、ステンレス鋼等の金属、フッ素樹脂、シリコーン樹脂等の樹脂等が使える。また、相対的に高い輻射率の材料としては、セラミックス等が使える。セラミックスとしては、コーディエライト、β−スポジュメン、チタン酸アルミニウム、ジルコニア、ジルコン、アルミナ、チタニア等を用いて焼結したもの等である。
例えば高低の輻射率材料の組み合わせの具体例としては、輻射率が相対的に高い材料としてセラミックスを加熱面の周縁部に用い、輻射率が相対的に低い材料としてステンレス鋼を加熱面の中央部に用いる構成がある。ステンレス鋼の様に熱伝導率が比較的良くても輻射率が相対的に低い材料を用いれば良い結果が得られる。
【0014】
熱盤の加熱面の中央部の輻射率を周縁部の輻射率よりも相対的に低い材料(以下、低輻射率材料という)から構成し、従って、周縁部の輻射率は中央部の輻射率よりも相対的に高い材料(以下、高輻射率材料という)から構成する為の構造の各種例を図4に示す。但し、本発明は、これに限定されるものではない。図4(A)は、元の加熱面全体が高輻射率材料13で構成された平面であり、この平面の中央部に板状の低輻射率材料12を取り付けた構造で、低輻射率材料の厚みの分だけ中央部は凸形状を成す加熱面となる。また、図4(B)は図4(A)に対して高輻射率材料13の中央部が凹部を成しこの凹部に低輻射率材料12を埋設して、最終的な加熱面が平面となる様にした構造である。次に、図4(C)は、低輻射率材料12の中央部を露出する様に残して周縁部に高輻射率材料13を取り付けた構造であり、中央部の低輻射率材料12の部分が凹部を成す加熱面となる。また、図4(D)は、中央部を凸形状とした低輻射率材料12の周縁部に高輻射率材料13を取り付けて、低輻射率材料12及び高輻射率材料13からなる最終的な加熱面が平面となる様にした構造である。次に、図4(E)は、電熱ヒータ等が埋設された加熱ベース14の平面の中央部には低輻射率材料12を取り付け、周縁部には高輻射率材料13を取り付けて、低輻射率材料12及び高輻射率材料13からなる最終的な加熱面が平面となる様にした構造である。
図4(A)及び(B)では高輻射率材料13を電熱ヒータ等を埋設する等の熱源となる加熱ベースとして使え、図4(C)及び(D)では低輻射率材料12を加熱ベースとして使える。或いは、これら図4(A)〜(D)のそれぞれで、背面に加熱ベースを設ければ良い。
なお、熱盤の加熱面には、絵付シートを真空圧空成形するための圧空を吹き出す通気孔を設けても良い。
【0015】
なお、熱盤全体としては、上述の様にして中央部で相対的に低い輻射率とする以外は、射出成形同時絵付け装置で用いている従来公知の構造で良い。例えば、加熱ベース14としては、金属又はセラミックス製のブロック中に電熱ヒータを埋設したものや、或いは耐熱樹脂製又は金属製のシート状のいわゆる面状発熱体でも構わない。また、電熱ヒータによって加熱ベースの温度(発熱量)を調整する手段としては、サイリスタ、スライド変圧器等公知の電力制御手段を用いれば良い。また、加熱ベースの温度を計測し確認する手段としては、熱電対等公知の温度センサを用いれば良い。
【0016】
また、本発明は、熱盤加熱面の中央部を相対的に低輻射率とする事で、位置固定された絵付シートの中央部を低めに加熱できる様にするものであり、その為に熱盤加熱面を例えば碁盤目状に複数のブロックに区画して、各ブロック毎に加熱すべき温度パターンに合わせて独立の温度調整制御をする必要はない。熱盤加熱面に対する温度調整は、全面を一体的に一つのものとして行えば良い。従って、熱盤の発熱体自体には加熱面の面的温度分布の調整機構が無いもので良い。全面を一体とした温度調整でも、加熱面の輻射率の高低によって所望の目的を達することが出来る。もちろん、ブロック毎に設定可能な既存の熱盤の加熱面に対して、図4で例示した様にして、中央部を低輻射率とした構造の熱盤としても良い。もちろん、この場合、ブロック毎に温度設定を変える必要は無い。
【0017】
また、加熱時にクランプ等で位置固定される絵付シートは、図1〜図11の例では加熱面が平面の板形状の場合を図示しているが、本発明ではその態様には限定されず、特開平7−227877号公報等に開示される様に、固定された絵付シートの断面が曲線や折れ線、或いは湾曲形状等の二次曲面からなる非平板形状の場合でも、本発明は適用できる。この場合は、熱盤も絵付シートの固定形状に概ね沿った曲面形状とする。或いは、複数の剛直平板からなる部分加熱体が屈曲自在に連結してなる熱盤等でも良い。
【0018】
また、図1(A)に示す様な熱盤の加熱面の中央部12の形状は、好ましくは、絵付シートで考えるべき中央部Ctの形状と同一又は類似の形状が良い。即ち、熱盤加熱面の輻射率の高低分布は図1(C)、或いは図3(C)のパターンに一致するパターンとする。例えば、図2では絵付シートの中央部Ctは縦長の楕円形の為、熱盤の中央部12も近似形状として、例えば図1(A)の様に長方形とする。もちろん、熱盤の中央部12の形状は、図2の中央部Ctに対して相似形の楕円形で良い。なお、概念図である図2では中央部Ctは縦長の楕円形状としてあるが、これはクランプ2の形状(絵付シートの位置固定形状)が縦長の長方形だからである。正方形ならば、低温とする中央部も円形と、絵付シートの周囲固定形状に応じて考えれば良い。ただし、これらは、中央部の形状まで考える場合のより好ましい対応についてであり、図2の縦長楕円形状に対して図1(A)の縦長長方形等と、単に中央部とその周囲とで捉えて対応するだけでも、本発明の基本的な効果は得られる。
なお、位置固定された絵付シートと熱盤との位置関係によっては、絵付シートの中央部が熱盤の加熱面の中央部に正確に対応するとは限らない。しかし、多少ずれる事があっても、相応の効果は得られる。
また、絵付シートの型Bに対する位置固定とは、図1の様に、絵付シートSが型Bに接する様に直接に型Bに固定する方法だけではない。型Bのキャビティが絵付シートによって密閉空間となって、絵付シートと型Bとの相対的位置関係が固定されればいずれの方法でも良い。例えば、クランプ2を絵付シートの表裏に各一つ合計2つ用いて、一対のクランプで絵付シートを表裏から挟持して、他方のクランプを型Bに接触固定する方法などである。また、型Bの側にはクランプを設けずに代わりに熱盤の加熱面の外周に絵付シート側に突出した土手状の枠を設け、この枠で熱盤の接近とともに絵付シートを型Bに位置固定する方法などでも良い。
【0019】
本発明の射出成形同時絵付け装置としては、上述した熱盤を少なくとも備える装置であるが、その装置構成には各種の態様がある。すなわち、射出成形型を絵付シートの予備成形型と兼用し、射出成形機上で絵付シートの真空成形による予備成形と射出成形とを同時に行う形態に於ける、従来からの射出成形同時絵付け装置と同様である。
つまり、一般的に射出成形同時絵付け装置としては、熱盤を主体としたシート加熱装置と、絵付シートを供給するシート送り装置、それに絵付シートを真空成形する為に真空吸引する真空吸引装置等の処理に必要な装置を一体とした構成もあるが、シート加熱装置(シート加熱手段)やシート送り装置(シート供給手段)等は、機械的に分離独立した別個の装置とすることもある。これら単機能的な装置は、射出成形機の大きさ等に応じて組み合わせて、全ての機能を有する射出成形同時絵付け装置を構成する等の使い方をする。ただ、これら単機能的な装置は射出成形同時絵付けに専用の装置であり、機能限定された射出成形同時絵付け装置と言える。但し、本発明の射出成形同時絵付け装置では、少なくとも上述した熱盤を備える装置であるので、単機能的なこれら装置のうちシート送り装置は該当せず、シート加熱装置が該当する。また、本発明の射出成形同時絵付け装置では、前記真空吸引装置は付属装置として備えた構成でも良いし、備えていない構成でも良い。真空吸引装置(真空吸引手段)は、少なくとも真空ポンプからなり、それに通常は真空タンク等を備える。
【0020】
そして、以上の様な各種態様をとり得る本発明の射出成形同時絵付け装置は、上述の熱盤を少なくとも備える装置であれば、その他の構成部分については、従来公知の射出成形同時絵付け装置に於ける各種技術を適用できるものである。
例えば、シート加熱装置の場合は、通常その構成として、上述した熱盤及び温度調整機構の他に、熱盤を両型間と型外部の退避位置とを往復動作させる機構、両型間に熱盤が移動後に更に絵付シートに対して前進後退する機構等を有する。これらの動作機構としては流体圧シリンダ等の従来公知の機構が用いられる。
また、シート送り装置の部分が扱う絵付シートの使用形態は、従来同様に、元々枚葉のシートを使用する形態、連続帯状のシートを1ショット分に切断してから加熱軟化する形態、連続帯状のシートを加熱軟化してから1ショット分に切断する形態、連続帯状のシートを加熱軟化して射出成形した後、連続帯状のシートとして回収する形態(転写の場合)等があるが、任意である。
また、絵付シートの位置固定をするクランプ等のシート固定手段は、熱盤等からなるシート加熱装置側に設けることもある。シート加熱装置の熱盤を、絵付シートに接近させる時に、絵付シートを(予備成形型となる型の)パーティング面等に押圧して固定する形態である。具体的には例えば熱盤の外周の枠を熱盤加熱面よりも突出している枠として、この枠で絵付シートを押圧することで、非接触加熱とする形態である。
【0021】
次に、上述した様な熱盤を少なくとも備えた射出成形同時絵付け装置によって行われ得る射出成形同時絵付け方法について説明する。説明は、絵付シートに連続帯状の物を用いて連続生産する例を、絵付シートの供給から、加熱軟化、予備成形、射出成形の順に、図5〜図8を参照しながら一通り説明する。なお、これらの図では、装置を構成するシート送り装置部分は、シート固定手段としてのクランプ2、シート搬送手段としての搬送チャック7及び受取チャック8等を備える。また、これら図において、斜線は仮想的切断面であり、予備成形型となる型Bの通気孔、真空源等の図示は省略してある。
【0022】
先ず、最初は、絵付シート供給前の状態が図5である。前述した熱盤10は同図では図示していないが、両型外部の退避位置にある。一方、ロールRから巻きだされた連続帯状の絵付シートSの先端は、搬送チャック7で表裏から把持された状態である。そして、この状態から絵付シートを型開き状態にある型A及びBの両型間に供給して、図6の絵付シート供給後の状態にする。すなわち、ACサーボモータや流体圧シリンダ等によって上下往復動作する搬送チャック7が絵付シートSを把持したまま下方に移動して、型Bの型外部下方に位置する受取チャック8が絵付シートの先端を把持できる位置まで、絵付シートを搬送する。エアシリンダ等で駆動される受取チャック8が、絵付シート先端の把持を完了すると、搬送チャック7は絵付シートの把持を解除して、型外部上方に移動して元の位置まで戻り、次のショットの準備として絵付シートを把持する。次いで、型間に常時位置するクランプ2が、エアシリンダ等の駆動機構により型B側に前進移動(図面左側方向)して、絵付シートを型Bのパーティング面に押圧して、固定する。この結果、絵付シートの型間への供給が完了する。なお、シート固定手段であるクランプ2は、例えば図2の様な四角形の枠形状で、具体例としては図9に例示する様な枠形状の枠体24で、型Bのキャビティ3の周囲の四方を囲繞する様に、絵付シートSを型Bのパーティング面に対して押圧する。枠体24の内側は通常は同図の様に略四角形をしている。枠体24の四隅には摺動ロッド25が連結され、摺動ロッドは型Bに摺動自在に嵌挿され、型Bのパーティング面より後方に設けた空気等による流体圧シリンダ等の駆動源(不図示)に連結され駆動される。
そして、熱盤10が、型外部の退避位置から型間に移動し、加熱すべき絵付シートに対向する位置まで移動する。この状態が図6である。なお、図6及び図7では、図1及び図4で図示した加熱面中央部で輻射率が周縁部の輻射率よりも相対的に低い材料から構成される構造は、図示を省略してある。
【0023】
次は図7の如く、絵付シートSの加熱軟化である。熱盤10が前進し(図面左側方向)、クランプ2に当接する位置まで移動する。そして、絵付シートに対して熱盤の加熱面は所定の距離隔てて、絵付シートを非接触で輻射加熱する。この際、図1(C)の如く、熱盤の加熱面の中央部では、輻射率が周縁部の輻射率よりも相対的に低い材料から構成されているので、絵付シートは中央部を周囲よりも低温にして加熱される。従って、型Bのキャビティ3内の空気が熱膨張しても、絵付シートの中央部が最も膨らみ熱盤10の加熱面11に最も接近する傾向が抑制される。絵付シートはより平面的に熱盤側に膨らむ。
なお、熱盤が加熱位置に移動すると同時に、同図では、熱盤上方に張り渡したニクロム線等の加熱線条、或いは刃物からなる切断手段21が絵付シートに接触して、絵付シートを切断し、今回のショットで成形すべき絵付シート部分を次のショット以降の成形に用いるべき上流側から分断する。加熱線条の場合は加熱溶融による切断である。なお、型Bのパーティング面には切断手段の邪魔をしない様に受け溝22を切断手段21と対向する面部分に設けてある。
【0024】
そして、絵付シートの加熱軟化完了後、または加熱軟化開始後ある程度経過した後、真空ポンプ及び真空タンク等からなる真空吸引装置により型Bに設けた通気孔(図示せず。図10を参照)から吸気して、型Bのキャビティ3内の空気を排気して、絵付シートを真空成形して型Bのキャビティ面に沿う様に、絵付シートの予備成形を行う。予備成形後に、熱盤10は両型間から型外部の退避位置に移動・退避させる。その後、両型A、Bを型締めする。図8がこの絵付シートの予備成形、型締後の状態である。なお、図8の如く、型Aのパーティング面には、クランプ2が型締めを邪魔しない様にクランプを収納できる凹部となる受け溝23をクランプと対向する面部分に設けてある。
また、通常は型Aの側に射出ノズルと連通する湯道(ランナー)及び湯口(ゲート)を設け(図示略)、これらを通じて流動状態の樹脂を両型で形成されるキャビティ内に射出する様に構成する。そして、両型で形成されるキャビティに樹脂を射出し充填して固化した後、型開きすれば、成形と同時に絵付シートにより表面が絵付けされた成形品が得られる。なお、転写の場合は転写層と基材とからなる絵付シートの基材のみを、型開きと同時又は型開き後に剥離する。
【0025】
なお、本発明の射出成形同時絵付け装置で使用し得る絵付シートとしては、射出成形同時絵付け技術に於ける従来公知のものが使用でき特に制限されるものではない。また、絵付シートはラミネートシートでも転写シートでも、どちらでも良い。例えば、絵付シートの基材としては成形性の有る樹脂シートが用いられる。該樹脂シートとしては例えば、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、ポアミド樹脂、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、熱可塑性エラストマー等のシートの単層又は2層以上の積層体が用いられる。
また、成形樹脂も射出成形同時絵付け技術に於ける従来公知のものが使用でき特に制限されるものではない。例えば、熱可塑性樹脂であれば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)樹脂、スチレン樹脂、AS(アクリロニトリル−スチレン共重合体)樹脂、ポリカーボネート樹脂等があり、硬化性樹脂であれば、不飽和ポリエステル樹脂、硬化性アクリル樹脂、2液硬化型ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等がある。
【0026】
また、本発明でいう「絵付け」とは、単に絵柄や文字、図形等の目視可能な模様を成形品に付与する以外に、目視不可能な模様、あるいは硬質塗膜、導電性等の機能性層を付与することも包含する。目視可能な模様としては、印刷等により形成したインキ層、真空蒸着等により形成した金属薄膜など公知のものが、また、目視不可能な模様としては、可視光に対しては無色透明で紫外線照射により可視光を発光する蛍光インキで印刷した絵柄等が用いられる。
なお、本発明でいう射出成形とは、通常一般の射出成形で用いる「熱溶融した熱可塑性樹脂」を射出する以外に、「室温で溶融状態にある熱硬化又は2液反応硬化型樹脂の未硬化物」を射出する事も包含する。
【0027】
【実施例】
以下、実施例及び参照例により本発明を更に詳述する。
【0028】
射出する成形品は、図12に示す様な略箱型の形状で、縦600mm、横400mm、高さ40mmの大きさの物で試験した。図12(B)は、図12(A)の斜視図に於けるA−A線での要部断面図である。成形樹脂には耐熱ABS樹脂を用いて、射出樹脂温度240℃、金型温度60℃で射出成形同時絵付けを行った。
また、用いる絵付シートとしては、125μm厚の透明なアクリル系樹脂フィルムからなる基材の内側(成形品側)となる面に、アクリル樹脂と塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体との1:1重量比の混合物系のバインダーに弁柄等を主成分とする着色顔料を添加してなるインキで、木目柄を3色のグラビア印刷で形成した上に、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体の接着剤を4μm厚にグラビア塗工した連続帯状のシートを用意した。
【0029】
(参照例)
先ず、参照例として従来装置による試験を行った結果を説明する。熱盤としては、図13に示す様な、縦800mm、横500mmの大きさの平面の加熱面を一体的に温度調整するセラミックパネルヒータからなる熱盤10を用いた。
そして、上記絵付シートを用いて、図5〜図8で例示した様な装置及び手順で射出成形同時絵付けを行った。先ず、型A及び型Bの一対の型のうちの予備成形型となる型Bのパーティング面上に絵付シートSを搬送チャック7と受取チャック8を用いて供給した。その後、絵付シートを型Bのキャビティ3の周囲四方でクランプ2により固定した(図2、図9参照)。次いで、熱盤10を型外の退避位置から型開き状態の両型間に挿入した。更に熱盤を、絵付シートと所定の距離を隔てた位置まで両型間で型Bの方へ前進させて、非接触の輻射加熱による絵付シートの加熱軟化を開始した(図7)。なお、熱盤温度は350℃であった。真空吸引は加熱軟化開始後3秒後に開始た。そして、真空吸引開始後5秒後(加熱軟化開始後8秒後)に、熱盤を型Bから後退させて両型外に退避させて、両型を型締めした。その後、熔融樹脂を射出し、樹脂が冷却して固化した後に、型開きした。その結果、絵付シートが表面に積層された絵付け成形品を得た。しかし、得られた成形品は、加熱軟化時に絵付シートが中央部で熱盤に接近し加熱され過ぎたため、シートが余計に伸ばされ、成形品中央部で絵付シートに皺が発生し不良品となった。ちなみに、絵付シート加熱軟化時の熱盤加熱面と絵付シートとの間の距離は、加熱軟化開始時は30mmあったが、真空吸引開始直前(加熱軟化開始3秒後)では、絵付シートが熱盤側に膨らんで、その中央部で5mm程度となっていた。
【0030】
(実施例)
熱盤としては、加熱面を一体的に温度調整する参照例と同じ熱盤に対して、図14に示す様に、縦800mm、横500mmの大きさの平面の加熱面の中央に、縦500mm、横300mm、厚さ0.3mmの大きさのステンレス鋼からなる金属板を取り付けた構成の物とした。従って、この金属板が低輻射率材料12の面となり、元のセラミックパネルヒータの加熱面が高輻射率材料13の面となる〔図4(A)参照〕。
そして、熱盤が異なる以外は参照例と同様にして、射出成形同時絵付けを行った。得られた絵付け成形品、表面に積層された絵付シートに皺が無かった。ちなみに、真空吸引開始直前(加熱軟化開始3秒後)にて、絵付シート中央部は、熱盤側に膨らむこと無く、当初の約30mmの距離を保っていた。
【0031】
【発明の効果】
本発明によれば、絵付シートを熱盤で非接触加熱する時に、熱盤の温度を加熱面を分割して温度調整せずに一体的に温度調整しても、絵付シートの中央部を周囲よりも比較的低温に加熱できるので、絵付シートが膨れて、その中央部のみが特に熱盤側に接近するのが抑制される。その結果、絵付シートが熱盤の加熱面に接触して不良となる事が無い。また、絵付シート中央部が熱盤に接近してその周囲よりも高温に加熱される事が抑制されるので、安定的な、意図した通りの加熱温度分布で絵付シートの加熱ができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の射出成形同時絵付け装置にて、熱盤の加熱面の中央部を相対的に低輻射率とする説明図。(A)は熱盤加熱面の正面図、(B)は絵付シート加熱軟化時の断面図、(C)は熱盤加熱面の輻射率の高低と、加熱された絵付シートの温度の高低の説明図。
【図2】加熱される絵付シートを正面から見た正面図。
【図3】絵付シートの加熱方法とキャビティ形状との関係の説明図。
【図4】熱盤加熱面の中央部を相対的に低輻射率とする各種態様を説明する断面図。
【図5】本発明の射出成形同時絵付け装置の一形態による射出成形同時絵付け方法の手順を説明する概念図(その1:絵付シート供給前)。
【図6】同、概念図(その2:絵付シート供給後)。
【図7】同、概念図(その3:絵付シート加熱軟化中)。
【図8】同、概念図(その4:絵付シート予備成形、型締後)。
【図9】クランプの形状例を示す説明図。
【図10】従来の技術により型上で絵付シートが加熱される様子を示す説明図。
【図11】従来の加熱方法にて、絵付シートが膨れる不具合を示す説明図。
【図12】絵付け成形品の形状の一例を示す説明図。
【図13】従来の技術により熱盤の加熱面の温度の高低の設定例を示す正面図。
【図14】本発明による熱盤の加熱面の輻射率の高低の設定例を示す正面図。
【符号の説明】
1 (型Bの)パーティング面
2 クランプ
3 (型Bの)キャビティ
4 通気孔
5 弁
6 真空源
7 搬送チャック
8 受取チャック
10 熱盤
11 加熱面
12 中央部、又は低輻射率材料
13 周縁部、又は高輻射率材料
14 加熱ベース
21 切断手段(加熱線条など)
22 受け溝
23 受け溝
24 枠体
25 摺動ロッド
A 型(雌型)
B 型(雄型)
Ct 絵付シートの中央部
R ロール
S 絵付シート
W 絵付け成形品

Claims (1)

  1. 型Aと、通気孔を有し絵付シートの予備成形型を兼用する型Bとからなる一対の成形型を用い、両型の間に絵付シートを供給して、型Bのキャビティが絵付シートによって密閉空間となる様に、絵付シートを型Bに対して位置固定し、該位置固定された絵付シートを、加熱面を該絵付シートに非接触状態に対向させた熱盤で加熱軟化させ、前記通気孔から吸気して、絵付シートを型Bのキャビティ面に沿う様に成形し、次いで、熱盤を両型の間から外部に退避させた後、両型を型締めし、両型で形成されるキャビティに樹脂を射出し、成形と同時に絵付シートにより成形品表面を絵付けする射出成形同時絵付け方法に用いる射出成形同時絵付け装置において、
    加熱面の中央部の輻射率が周縁部の輻射率よりも相対的に低い材料から構成されている熱盤を少なくとも備え、
    通気孔を有する型Bに対して位置固定された絵付シートを、該熱盤で非接触加熱する事により、位置固定された絵付シートの中央部をその周囲よりも低温に加熱し、前記密閉空間内に存在する空気の熱膨張により、位置固定された絵付シートの中央部が、熱盤側に膨らみ接近する事を抑制しながら加熱する、射出成形同時絵付け装置。
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