JP3811563B2 - 新規な遷移金属化合物、α−オレフィン重合用触媒成分およびα−オレフィン重合体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な遷移金属化合物、当該遷移金属化合物から成るα−オレフィン重合用触媒成分およびそれを使用したα−オレフィン重合体の製造方法に関するものである。詳しくは、本発明は、高分子量かつ高融点のα−オレフィン重合体の製造を可能にする高活性な重合触媒成分および重合触媒ならびに当該触媒を使用したα−オレフィン重合体の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
オレフィン重合用均一系触媒として周知の所謂カミンスキー触媒は、重合活性が高く、シャープな分子量分布の重合体を製造することが出来る。
【0003】
カミンスキー触媒によりアイソタクチックポリオレフィンを製造する際に使用する遷移金属化合物としては、エチレンビス(インデニル)ジルコニウムジクロリドやエチレンビス(4,5,6,7−テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジクロリドが知られている(例えば特開昭61−130314号公報)。しかしながら、斯かる触媒による場合は、一般に、得られるポリオレフィンの分子量が小さく、また、分子量を大きくするために低温重合を行った場合は触媒の重合活性が低下するという問題がある。
【0004】
また、高分子量のポリオレフィンの製造を目的として、上記のジルコニウム化合物の代わりにハフニウム化合物を使用する方法が提案されている(Journal of Molecular Catalysis,(1989),237〜247)。しかしながら、この方法による場合は、触媒の重合活性が低いという問題点がある。
【0005】
更に、ジメチルシリレンビス置換シクロペンタジエニルジルコニウムジクロリド等が提案され(特開平1−301704号公報、Polymer Preprints,Japan 39(1990),1614〜1616、特開平3−12406号公報)、ジメチルシリレンビス(インデニル)ジルコニウムジクロリド等が提案されている(特開昭63−295007号公報、特開平1−275609号公報)。そして、これらの化合物の使用により、比較的低温の重合では高立体規則性で高融点のポリマーの製造が可能であるが、経済性の高い高温重合条件下では得られるポリマーの立体規則性や融点および分子量が低い。一方、配位子を架橋する原子上の置換基に対してハロゲン原子を導入した遷移金属化合物および助触媒から成る触媒も提案されている(特開平4−366106号公報)。しかしながら、斯かる触媒は、上記のハロゲン原子を含まない類似の触媒に比し、生成ポリマーの分子量および立体規則性が低いという問題がある。
【0006】
また、配位子の一部であるインデニル基に置換基を付与することにより、ポリプロピレンのアイソタクチシティー及び分子量の向上を図る改良を加えた化合物が知られている(例えば、特開平4−268307号公報、特開平6−157661号公報)。更に、共役五員環の隣接する炭素2原子を含めた副環が6員環以外の員数の環である遷移金属化合物についても公知である(例えば、特開平4−275294号公報、特開平6−239914号公報、特開平8−59724号公報)。
【0007】
しかしながら、上記の化合物は、経済性の高い高温重合条件下での触媒性能が不充分であり、しかも、これらの化合物の触媒系は、反応媒体に可溶であることが多い。従って、得られる重合体は、粒子形状が不定形で且つ嵩密度が小さく、更に、微粉が多いなど粒子性状が極めて悪い。そのため、スラリー重合や気相重合などに適用した場合、連続した安定運転が困難になる等、製造工程上多くの問題点がある。
【0008】
一方、上記の問題点を解消するため、無機酸化物(例えば、シリカ、アルミナ等)若しくは有機物に遷移金属化合物および/または有機アルミニウムを担持させた触媒も提案されている(例えば、特開昭61−108610号公報、同60−135408号公報、同61−296008号公報、特開平3−74412号公報、同3−74415号公報)。しかしながら、これらの触媒によって得られる重合体は、微粉や粗粒を多く含み、しかも、嵩密度も低いなど粒子性状の点においても十分とは言えず、更に、固体成分当たりの重合活性が低かったり、分子量や立体規則性が担持体を使用しない系に比較して低い等の問題がある。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、押出成形や射出成形が可能な高分子量で且つ高融点のオレフィン重合体を高収率で得ることが出来るα−オレフィン重合用触媒成分となり得る新規な遷移金属化合物を提供することにある。本発明の他の目的は、上記の遷移金属化合物から成るα−オレフィン重合用触媒成分を提供することにある。本発明の他の目的は、上記の触媒成分を使用したα−オレフィン重合用触媒およびそれを使用したα−オレフィン重合体の製造方法を提供することにある。本発明の更に他の目的は、プロセス適用性を改良するために担体上に触媒成分を担持して使用するに際し性能低下が小さい新規な触媒成分を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明の第1の要旨は、下記一般式(I)で表される新規な遷移金属化合物に存する。
【0011】
【化2】
【0012】
一般式(I)中、R1、R2、R4、R5は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基、炭素数1〜18のケイ素含有炭化水素基または炭素数1〜18のハロゲン化炭化水素基、R3及びR6は、それぞれ独立して、それが結合する五員環に対して縮合環を形成する炭素数5〜8の飽和または不飽和の2価の炭化水素基を示し、R3 及びR6由来の不飽和結合を有する7〜10員環から成る縮合環を形成する。R7及びR8は、それぞれ独立して、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基、アミノ基、炭素数1〜20の窒素含有炭化水素基または炭素数1〜20の硫黄含有炭化水素基を示す。Qは、ケイ素原子、ゲルマニウム原子またはスズ原子、Aは、それが結合するQと共に環を形成する炭素数3〜12の2価の不飽和炭化水素基、Raは、炭素数1〜10の飽和または不飽和炭化水素基を示す。m及びnは、それぞれ独立して0〜20の整数を示す。ただし、m及びnが同時に0となることはない。m又はnが2以上の場合、それぞれ、R7同士またはR8同士が連結して新たな環構造を形成していてもよい。また、lは0〜22の整数を示す。lが2以上の場合、Ra同士が連結して新たな環構造を形成してもよい。X及びYは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基、アミノ基または炭素数1〜20の窒素含有炭化水素基を示し、Mはチタン、ジルコニウム又はハフニウムを示す。
【0013】
本発明の第2の要旨は、上記の遷移金属化合物から成ることを特徴とするオレフィン重合用触媒成分に存する。
【0014】
本発明の第3の要旨は、次の必須成分(A)及び(B)と任意成分(C)を含むことを特徴とするα−オレフィン重合用触媒に存する。
【0015】
成分(A):上記の遷移金属化合物;
成分(B):アルミニウムオキシ化合物、成分(A)と反応して成分(A)をカチオン
に変換することが可能なイオン性化合物、および、ルイス酸から成る群よ
り選択される1種以上;
成分(C):微粒子担体
【0016】
本発明の第4の要旨は、次の必須成分(A)及び(D)と任意成分(E)を含むことを特徴とするα−オレフィン重合用触媒に存する。
【0017】
成分(A):上記の遷移金属化合物;
成分(D):珪酸塩を除くイオン交換性層状化合物または無機珪酸塩;
成分(E):有機アルミニウム化合物
【0018】
そして、本発明の第5の要旨は、上記の何れかの触媒とα−オレフィンとを接触させて重合または共重合を行うことを特徴とするα−オレフィン重合体の製造方法に存する。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。先ず、本発明の遷移金属化合物について説明する。本発明の遷移金属化合物は、下記一般式(I)で表される。
【0020】
【化3】
【0021】
本発明の遷移金属化合物は、置換基R1、R2及びR3を有する五員環配位子と、置換基R4、R5及びR6を有する五員環配位子とが、基Qを介して相対位置の観点において、M、X及びYを含む平面に関して非対称である化合物(a)及び対称である化合物(b)を含む。
【0022】
ただし、高分子量かつ高融点のα−オレフィン重合体の製造を行うためには、上記の化合物(a)、換言すれば、M、X及びYを含む平面を挟んで対向する二個の五員環配位子が当該平面に関して実体と鏡像の関係にない化合物を使用するのか好ましい。
【0023】
一般式(I)中、R1、R2、R4、R5は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基、炭素数1〜18のケイ素含有炭化水素基または炭素数1〜18のハロゲン化炭化水素基を示す。
【0024】
上記の炭素数1〜10の炭化水素基の具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、メチルシクロヘキシル等のアルキル基、ビニル、プロペニル、シクロヘキセニル等のアルケニル基、ベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピル等のアリールアルキル基、trans−スチリル等のアリールアルケニル基、フェニル、トリル、ジメチルフェニル、エチルフェニル、トリメチルフェニル、1−ナフチル、2−ナフチル等のアリール基が挙げられる。
【0025】
上記の炭素数1〜18のケイ素含有炭化水素基の具体例としては、トリメチルシリル、トリエチルシリル、t−ブチルジメチルシリル等のトリアルキルシリル基、トリフェニルシリル等のトリアリールシリル基、ジメチルフェニルシリル等の(アルキル)(アリール)シリル基、ビス(トリメチルシリル)メチル等のアルキルシリルアルキル基が挙げられる。
【0026】
上記の炭素数1〜18のハロゲン化炭化水素基において、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。そして、上記のハロゲン化炭化水素基は、ハロゲン原子が例えばフッ素原子の場合、フッ素原子が上記の炭化水素基の任意の位置に置換した化合物である。具体的には、フルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、クロロメチル、ジクロロメチル、トリクロロメチル、ブロモメチル、ジブロモメチル、トリブロモメチル、ヨードメチル、2,2,2−トリフルオロエチル、2,2,1,1−テトラフルオロエチル、ペンタフルオロエチル、ペンタクロロエチル、ペンタフルオロプロピル、ノナフルオロブチル、トリフルオロビニル、1,1−ジフルオロベンジル、1,1,2,2−テトラフルオロフェニルエチル、o−、m−、p−フルオロフェニル、o−、m−、p−クロロフェニル、o−、m−、p−ブロモフェニル、2,4−、3,5−、2,6−、2,5−ジフルオロフェニル、2,4−、3,5−、2,6−、2,5−ジクロロフェニル、2,4,6−トリフルオロフェニル、2,4,6−トリクロロフェニル、ペンタフルオロフェニル、ペンタクロロフェニル、4−フルオロナフチル、4−クロロナフチル、2,4−ジフルオロナフチル、ヘプタフルオロ−1−ナフチル、ヘプタクロロ−1−ナフチル、o−、m−、p−トリフルオロメチルフェニル、o−、m−、p−トリクロロメチルフェニル、2,4−、3,5−、2,6−、2,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル、2,4−、3,5−、2,6−、2,5−ビス(トリクロロメチル)フェニル、2,4,6−トリス(トリフルオロメチル)フェニル、4−トリフルオロメチルナフチル、4−トリクロロメチルナフチル、2,4−ビス(トリフルオロメチル)ナフチル基などが挙げられる。
【0027】
これらの中では、R1及びR4としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ベンジル等の炭素数1〜7の炭化水素基が好ましく、R2及びR5としては水素原子が好ましい。
【0028】
一般式(I)中、R3及びR6は、それぞれ独立して、それが結合する五員環に対して縮合環を形成する炭素数5〜8の飽和または不飽和の2価の炭化水素基を示し、R3 及びR6由来の不飽和結合を有する7〜10員環から成る縮合環を形成する。
【0029】
上記のR3及びR6の具体例としては、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、ヘプタメチレン等の2価の飽和炭化水素基、1−ペンテニレン、2−ペンテニレン、1,3−ペンタジエニレン、1,4−ペンタジエニレン、1−ヘキセニレン、2−ヘキセニレン、3−ヘキセニレン、1,3−ヘキサジエニレン、1,4−ヘキサジエニレン、1,5−ヘキサジエニレン、2,4−ヘキサジエニレン、2,5−ヘキサジエニレン、1,3,5−ヘキサトリエニレン等の2価の不飽和炭化水素基が挙げられる。これらの中では、ペンタメチレン基、1,3−ペンタジエニレン基、1,4−ペンタジエニレン基または1,3,5−ヘキサトリエニレン基が好ましく、1,3−ペンタジエニレン基または1,4−ペンタジエニレン基が特に好ましい。
【0030】
一般式(I)中、R7及びR8は、それぞれ独立して、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基、アミノ基、炭素数1〜20の窒素含有炭化水素基または炭素数1〜20の硫黄含有炭化水素基を示す。
【0031】
上記の炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基において、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。そして、上記のハロゲン化炭化水素基は、ハロゲン原子が例えばフッ素原子の場合、フッ素原子が上記の炭化水素基の任意の位置に置換した化合物である。具体的には、フルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、クロロメチル、ジクロロメチル、トリクロロメチル、ブロモメチル、ジブロモメチル、トリブロモメチル、ヨードメチル、2,2,2−トリフルオロエチル、2,2,1,1−テトラフルオロエチル、ペンタフルオロエチル、ペンタクロロエチル、ペンタフルオロプロピル、ノナフルオロブチル、トリフルオロビニル、1,1−ジフルオロベンジル、1,1,2,2−テトラフルオロフェニルエチル、o−、m−、p−フルオロフェニル、o−、m−、p−クロロフェニル、o−、m−、p−ブロモフェニル、2,4−、3,5−、2,6−、2,5−ジフルオロフェニル、2,4−、3,5−、2,6−、2,5−ジクロロフェニル、2,4,6−トリフルオロフェニル、2,4,6−トリクロロフェニル、ペンタフルオロフェニル、ペンタクロロフェニル、4−フルオロナフチル、4−クロロナフチル、2,4−ジフルオロナフチル、ヘプタフルオロ−1−ナフチル、ヘプタクロロ−1−ナフチル、o−、m−、p−トリフルオロメチルフェニル、o−、m−、p−トリクロロメチルフェニル、2,4−、3,5−、2,6−、2,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル、2,4−、3,5−、2,6−、2,5−ビス(トリクロロメチル)フェニル、2,4,6−トリス(トリフルオロメチル)フェニル、4−トリフルオロメチルナフチル、4−トリクロロメチルナフチル、2,4−ビス(トリフルオロメチル)ナフチル基などが挙げられる。
【0032】
上記の炭素数1〜20の炭化水素基の具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、メチルシクロヘキシル等のアルキル基、ビニル、プロペニル、シクロヘキセニル等のアルケニル基、ベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピル等のアリールアルキル基、trans−スチリル等のアリールアルケニル基、フェニル、トリル、ジメチルフェニル、エチルフェニル、トリメチルフェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、アセナフチル、フェナントリル、アントリル等のアリール基が挙げられる。これらの中では、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、シクロプロピル等の炭素数1〜4のアルキル基、フェニル、トリル、ジメチルフェニル、エチルフェニル、トリメチルフェニル、1−ナフチル、2−ナフチル等の炭素数6〜20のアリール基が好ましい。
【0033】
上記の炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基の具体例としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、シクロプロポキシ、ブトキシ等のアルコキシ基、フェノキシ、メチルフェノキシ、ジメチルフェノキシ、ナフトキシ等のアリロキシ基、フェニルメトキシ、ナフチルメトキシ等のアリールアルコキシ基、フリル基などの酸素含有複素環基などが挙げられる。
【0034】
上記の炭素数1〜20の窒素含有炭化水素基の具体例としては、メチルアミノ、ジメチルアミノ、エチルアミノ、ジエチルアミノ等のアルキルアミノ基、フェニルアミノ、ジフェニルアミノ等のアリールアミノ基、(メチル)(フェニル)アミノ等の(アルキル)(アリール)アミノ基、ピラゾリル、インドリル等の窒素含有複素環基などが挙げられる。
【0035】
上記の炭素数1〜20の硫黄含炭化水素基の具体例としては、前記含酸素化合物の酸素が硫黄に置換した置換基などが挙げられる。
【0036】
一般式(I)中、Qは、ケイ素原子、ゲルマニウム原子またはスズ原子を示し、これらの中では、ケイ素原子またはゲルマニウム原子が好ましい。
【0037】
一般式(I)中、Aは、それが結合するQと共に環を形成する炭素数3〜12の2価の不飽和炭化水素基を示す。斯かる不飽和炭化水素基の具体例としては、プロペニレン、ブテニレン、ブタジエニレン、ペンテニレン、ペンタジエニレン、ヘキセニレン、ヘキサジエニレン、ヘキサトリエニレン等の2価の不飽和炭化水素基が挙げられる。これらの中では、プロペニレン、ブテニレン、ブタジエニレン、ペンテニレン、ペンタジエニレン等の炭素数3〜5の2価の炭化水素基が好ましく、ブタジエニレン基が特に好ましい。
【0038】
一般式(I)中、Raは、炭素数1〜10の飽和または不飽和炭化水素基示す。斯かる炭化水素基の具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、シクロプロピル、シクロペンチル等のアルキル基、ビニル、プロペニル、ブテニル、ブタジエニル、ヘキセニル、ヘキサジエニル等のアルケニル基、ベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピル等のアリールアルキル基、trans−スチリル等のアリールアルケニル基、フェニル、トリル、ジメチルフェニル、エチルフェニル、トリメチルフェニル、1−ナフチル、2−ナフチル等のアリール基が挙げられる。これらの中では、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、プロペニル基またはブテニル基が好ましい。
【0039】
一般式(I)中、m及びnは、それぞれ独立して0〜20の整数を示す。m及びnは1〜5が好ましい。m及び/又はnが2〜20の整数の場合は、複数の基R7(R8)は互いに同一でも異なっていても構わない。ただし、m及びnが同時に0となることはない。また、m又はnが2以上の場合、それぞれ、R7同士またはR8同士が連結して新たな環構造を形成していてもよい。R7及びR8のR3又はR6に対する結合位置は、特に制限されないが、それぞれの5員環に隣接する炭素(α位の炭素)であることが好ましい。lは、0〜22の整数を示すが、1〜10が好ましく、1〜4が特に好ましい。lが2〜22の整数の場合は、複数の基Raは互いに同一でも異なっていても構わない。また、lが2以上の場合、Ra同士が連結して新たな環構造を形成してもよい。
【0040】
一般式(I)中、X及びYは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、炭素数1〜20のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基、アミノ基または炭素数1〜20の窒素含有炭化水素基を示す。
【0041】
上記のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、上記の炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基、炭素数1〜20の窒素含有炭化水素基としては、前記のR7及びR8におけるのと同様の基が挙げられる。
【0042】
上記の炭素数1〜20のケイ素含有炭化水素基の具体例としては、トリメチルシリルメチル、トリエチルシリルメチル等のトリアルキルシリルメチル基、ジメチルフェニルシリルメチル、ジエチルフェニルシリルメチル、ジメチルトリルシリルメチル等のジ(アルキル)(アリール)シリルメチル基などが挙げられる。
【0043】
一般式(I)中のX及びYとしては、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20の窒素含有炭化水素基が好ましく、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20の窒素含有炭化水素基が更に好ましく、塩素原子、メチル基、i−ブチル基、フェニル基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基が特に好ましい。
【0044】
一般式(I)中、Mは、周期表4〜6族の遷移金属を示し、好ましくは、チタン、ジルコニウム、ハフニウムの4族の遷移金属、更に好ましくはジルコニウム又はハフニウムである。
【0045】
本発明の遷移金属化合物は、置換基ないし結合の様式に関して合目的的な任意の方法によって合成することが出来る。代表的な合成経路は次の反応式に示す通りである。なお、反応式中のH2Ra及びH2Rbは、それぞれ、次の様な構造を示す。
【0046】
【化4】
【0047】
【化5】
H2Ra+n-C4H9Li→HRaLi+C4H10
H2Rb+n-C4H9Li→HRbLi+C4H10
HRaLi+HRbLi+QCl2→HRa−Q−HRb+2LiCl
HRa−Q−HRb+2n-C4H9Li→LiRa−Q−LiRb+2C4H10
LiRa−Q−LiRb+ZrCl4→(Ra−Q−Rb)ZrCl2+2LiCl
【0048】
なお、上記の反応式のQCl2は、次の様な構造を示す。そして、QCl2の様なジクロロシラン化合物の生成は、例えば、J.Organomet.Chem.,304(1986)93-105又はJ.Organomet.Chem.,499(1995)c7-c9に記載の様な公知の方法によることが出来る。
【0049】
【化6】
【0050】
また、上記のHRaLi及びHRbLiの様なシクロペンタジエニル化合物の金属塩の生成は、例えば、ヨーロッパ特許第697418号公報に記載の様に、アルキル基やアリール基などの付加反応を伴う様な方法で合成しても構わない。具体的には、不活性溶媒中、アルキルリチウム化合物またはアリールリチウム化合物とアズレン化合物とを反応させてジヒドロアズレニル化合物のリチウム塩を生成させる。アルキルリチウム化物としては、メチルリチウム、i−プロピルリチウム、n−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム等が使用され、アリールリチウム化物としては、フェニルリチウム、p−クロロフェニルリチウム、p−フルオロフェニルリチウム、p−トリフルオロメチルフェニルリチウム、ナフチルリチウム等が使用される。また、不活性溶媒としては、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン又はこれらの混合溶媒などが使用される。
【0051】
本発明の遷移金属化合物の具体例としては次の化合物が挙げられる。なお、これらの化合物は単に化学的名称のみで指称されているが、その立体構造は本発明でいう非対称性を持つ化合物と対称性を持つ化合物の双方を意味する。また、最初に以下の化合物の命名法の理解のため、以下の(1)に記載のジルコニウムジクロリドの構造式を以下に示す。このジルコニウムジクロリドは、1,4−ジヒドロアズレン骨格を有する錯化前の化合物に由来して命名すれば、9−シラフルオレン−9,9−ジイルビス{1,1´−(2−メチル−4−フェニル−1,4−ジヒドロアズレニル)}ジルコニウムジクロリド称することも出来る。
【0052】
【化7】
【0053】
(1)9−シラフルオレン−9,9−ジイルビス{1,1´−(2−メチル−4−フェニル−4−ヒドロアズレニル)}ジルコニウムジクロリド、
(2)9−シラフルオレン−9,9−ジイルビス{1,1´−(2−エチル−4−フェニル−4−ヒドロアズレニル)}ジルコニウムジクロリド、
(3)9−シラフルオレン−9,9−ジイルビス{1,1´−(2,8−ジメチル−4−フェニル−4−ヒドロアズレニル)}ジルコニウムジクロリド、
(4)9−シラフルオレン−9,9−ジイルビス[1,1´−{2−メチル−4−(1−ナフチル)−4−ヒドロアズレニル}]ジルコニウムジクロリド、
(5)9−シラフルオレン−9,9−ジイル{1−(2−メチル−4−フェニル−4−ヒドロアズレニル)}{1−(2−メチル−4−フェニル−4,5,6,7,8−ペンタヒドロアズレニル)}ジルコニウムジクロリド
【0054】
(6)1−シラインデン−1,1−ジイルビス{1,1´−(2−メチル−4−フェニル−4−ヒドロアズレニル)}ジルコニウムジクロリド、
(7)1−シラインデン−1,1−ジイルビス{1,1´−(2−エチル−4−フェニル−4−ヒドロアズレニル)}ジルコニウムジクロリド、
(8)1−シラインデン−1,1−ジイルビス{1,1´−(2,8−ジメチル−4−フェニル−4−ヒドロアズレニル)}ジルコニウムジクロリド、
(9)1−シラインデン−1,1−ジイルビス[1,1´−{2−メチル−4−(1−ナフチル)−4−ヒドロアズレニル}]ジルコニウムジクロリド
【0055】
(10)1−シラインデン−1,1−ジイル{1−(2−メチル−4−フェニル−4−ヒドロアズレニル)}{1−(2−メチル−4−フェニル−4,5,6,7,8−ペンタヒドロアズレニル)}ジルコニウムジクロリド、
(11)テトラメチル−1−シラシクロペンタジエン−1,1−ジイルビス{1,1´−(2−メチル−4−フェニル−4−ヒドロアズレニル)}ジルコニウムジクロリド、
(12)テトラメチル−1−シラシクロペンタジエン−1,1−ジイルビス{1,1´−(2−エチル−4−フェニル−4−ヒドロアズレニル)}ジルコニウムジクロリド
【0056】
(13)テトラメチル−1−シラシクロペンタジエン−1,1−ジイルビス{1,1´−(2,8−ジメチル−4−フェニル−4−ヒドロアズレニル)}ジルコニウムジクロリド、
(14)テトラメチル−1−シラシクロペンタジエン−1,1−ジイルビス[1,1´−{2−メチル−4−(2−ナフチル)−4−ヒドロアズレニル}]ジルコニウムジクロリド、
(15)テトラメチル−1−シラシクロペンタジエン−1,1−ジイル{1−(2−メチル−4−フェニル−4−ヒドロアズレニル)}{1−(2−メチル−4−フェニル−4,5,6,7,8−ペンタヒドロアズレニル)}ジルコニウムジクロリド
【0057】
(16)1−シラシクロ−3−ペンテン−1,1−ジイルビス{1,1´−(2−メチル−4−フェニル−4−ヒドロアズレニル)}ジルコニウムジクロリド、
(17)1−シラシクロ−3−ペンテン−1,1−ジイルビス{1,1´−(2−エチル−4−フェニル−4−ヒドロアズレニル)}ジルコニウムジクロリド、
(18)1−シラシクロ−3−ペンテン−1,1−ジイルビス{1,1´−(2,8−ジメチル−4−フェニル−4−ヒドロアズレニル)}ジルコニウムジクロリド、
(19)1−シラシクロ−3−ペンテン−1,1−ジイルビス[1,1´−{2−メチル−4−(1−ナフチル)−4−ヒドロアズレニル}]ジルコニウムジクロリド
【0058】
(20)1−シラシクロ−3−ペンテン−1,1−ジイル{1−(2−メチル−4−フェニル−4−ヒドロアズレニル)}{1−(2−メチル−4−フェニル−4,5,6,7,8−ペンタヒドロアズレニル)}ジルコニウムジクロリド、
(21)9−シラフルオレン−9,9−ジイルビス[1,1´−{2−メチル−4−(4−フルオロフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ジルコニウムジクロリド、
(22)9−シラフルオレン−9,9−ジイルビス[1,1´−{2−メチル−4−(4−トリフルオロメチルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ジルコニウムジクロリド
【0059】
(23)1−シラインデン−1,1−ジイルビス[1,1´−{2−メチル−4−(4−フルオロフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ジルコニウムジクロリド、
(24)1−シラインデン−1,1−ジイルビス[1,1´−{2−メチル−4−(4−トリフルオロメチルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ジルコニウムジクロリド、
(25)テトラメチル−1−シラシクロペンタジエン−1,1−ジイルビス[1,1´−{2−メチル−4−(4−フルオロフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ジルコニウムジクロリド、
(26)テトラメチル−1−シラシクロペンタジエン−1,1−ジイルビス[1,1´−{2−メチル−4−(4−トリフルオロメチルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ジルコニウムジクロリド、
(27)1−シラシクロ−3−ペンテン−1,1−ジイルビス[1,1´−{2−メチル−4−(4−フルオロフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ジルコニウムジクロリド、
(28)1−シラシクロ−3−ペンテン−1,1−ジイルビス[1,1´−{2−メチル−4−(4−トリフルオロメチルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ジルコニウムジクロリド
【0060】
また、上記の様な化合物の、前記一般式(I)におけるX及びY部分をなす塩素原子の一方または両方が、水素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メチル基、フェニル基、フルオロフェニル基、ベンジル基、メトキシ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基などに代わった化合物も例示することが出来る。また、先に例示した化合物の中心金属(M)がジルコニウムの代わりに、チタン又はハフニウムに代わった化合物も例示することが出来る。これらの中では、ジルコニウム又はハフニウムが特に好ましい。
【0061】
次に、本発明のα−オレフィン重合用触媒(1)と(2)について説明する。これらの触媒は、何れも、前述した本発明の遷移金属化合物を必須成分(A)として含む。
【0062】
先ず、本発明のα−オレフィン重合用触媒(1)について説明する。この触媒は、必須成分(B)として、アルミニウムオキシ化合物、成分(A)と反応して成分(A)をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物またはルイス酸を含み、任意成分(C)として微粒子担体を含む。なお、上記のルイス酸のある種のものは、成分(A)と反応して成分(A)をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物として把握することも出来る。従って、上記のルイス酸およびイオン性化合物の両者に属する化合物は、何れか一方に属するものと解することとする。
【0063】
上記のアルミニウムオキシ化合物としては、具体的には次の一般式(II)、(III)又は(IV)で表される化合物が挙げられる。
【0064】
【化8】
【0065】
上記の各一般式中、R9は、水素原子または炭化水素残基、好ましくは炭素数1〜10、特に好ましくは炭素数1〜6の炭化水素残基を示す。また、複数のR9はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。また、pは、0〜40、好ましくは2〜30の整数を示す。
【0066】
一般式(II)及び(III)で表される化合物は、アルモキサンとも呼ばれる化合物であって、一種類のトリアルキルアルミニウム又は二種類以上のトリアルキルアルミニウムと水との反応により得られる。具体的には、(a)一種類のトリアルキルアルミニウムと水から得られる、メチルアルモキサン、エチルアルモキサン、プロピルアルモキサン、ブチルアルモキサン、イソブチルアルモキサン、(b)二種類のトリアルキルアルミニウムと水から得られる、メチルエチルアルモキサン、メチルブチルアルモキサン、メチルイソブチルアルモキサン等が例示される。これらの中では、メチルアルモキサン又はメチルイソブチルアルモキサンが好ましい。
【0067】
上記のアルモキサンは、各群内および各群間で複数種併用することも可能である。そして、上記のアルモキサンは、公知の様々な条件下に調製することが出来る。具体的には以下の様な方法が例示できる。
【0068】
(a)トルエン、ベンゼン、エーテル等の適当な有機溶剤の存在下、トリアルキルアルミニウムを直接水と反応させる方法;
(b)トリアルキルアルミニウムと結晶水を有する塩水和物、例えば、硫酸銅、硫酸アルミニウムの水和物とを反応させる方法;
(c)トリアルキルアルミニウムとシリカゲル等に含浸させた水分とを反応させる方法;
(d)トリメチルアルミニウムとトリイソブチルアルミニウムとを混合した後、トルエン、ベンゼン、エーテル等の適当な有機溶剤の存在下、直接水と反応させる方法;
【0069】
(e)トリメチルアルミニウムとトリイソブチルアルミニウムとの混合物と結晶水を有する塩水和物、例えば、硫酸銅、硫酸アルミニウムとの水和物とを加熱反応させる方法;
(f)シリカゲル等に水分を含浸させ、トリイソブチルアルミニウムで処理した後、トリメチルアルミニウムで追加処理する方法;
(g)メチルアルモキサン及びイソブチルアルモキサンを公知の方法で合成し、これら二成分を所定量混合して加熱反応させる方法;
(h)ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素溶媒中に硫酸銅5水塩などの結晶水を有する塩とトリメチルアルミニウムとを添加して約−40〜40℃の温度条件下に反応させる方法
【0070】
反応に使用する水の量は、トリメチルアルミニウムに対するモル比で通常0.5〜1.5である。上記の方法で得られたメチルアルモキサンは、線状または環状の有機アルミニウムの重合体である。
【0071】
一般式(IV)で表される化合物は、一種類のトリアルキルアルミニウム又は二種類以上のトリアルキルアルミニウムと次の一般式(V)で表されるアルキルボロン酸との10:1〜1:1(モル比)の反応により得ることが出来る。一般式(V)中、R10は、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜6の炭化水素残基またはハロゲン化炭化水素基を示す。
【0072】
【化9】
R10B(OH)2 (V)
【0073】
具体的には以下の様な反応生成物が例示できる。
(a)トリメチルアルミニウムとメチルボロン酸の2:1の反応物、
(b)トリイソブチルアルミニウムとメチルボロン酸の2:1反応物、
(c)トリメチルアルミニウムとトリイソブチルアルミニウムとメチルボロン酸の1:1:1反応物、
(d)トリメチルアルミニウムとエチルボロン酸の2:1反応物、
(e)トリエチルアルミニウムとブチルボロン酸の2:1反応物
【0074】
また、成分(A)と反応して成分(A)をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物としては、一般式(VI)で表される化合物が挙げられる。
【0075】
【化10】
〔K〕e+〔Z〕e- (VI)
【0076】
一般式(VI)中、Kはカチオン成分であって、例えば、カルボニウムカチオン、トロピリウムカチオン、アンモニウムカチオン、オキソニウムカチオン、スルホニウムカチオン、ホスフォニウムカチオン等が挙げられる。また、それ自身が還元され易い金属の陽イオンや有機金属の陽イオン等も挙げられる。
【0077】
上記のカチオンの具体例としては、トリフェニルカルボニウム、ジフェニルカルボニウム、シクロヘプタトリエニウム、インデニウム、トリエチルアンモニウム、トリプロピルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、N,N−ジメチルアニリニウム、ジプロピルアンモニウム、ジシクロヘキシルアンモニウム、トリフェニルホスホニウム、トリメチルホスホニウム、トリス(ジメチルフェニル)ホスホニウム、トリス(メチルフェニル)ホスホニウム、トリフェニルスルホニウム、トリフェニルオキソニウム、トリエチルオキソニウム、ピリリウム、銀イオン、金イオン、白金イオン、銅イオン、パラジウムイオン、水銀イオン、フェロセニウムイオン等が挙げられる。
【0078】
上記の一般式(VI)中、Zは、アニオン成分であり、成分(A)が変換されたカチオン種に対して対アニオンとなる成分(一般には非配位の成分)である。Zとしては、例えば、有機ホウ素化合物アニオン、有機アルミニウム化合物アニオン、有機ガリウム化合物アニオン、有機リン化合物アニオン、有機ヒ素化合物アニオン、有機アンチモン化合物アニオン等が挙げられ、具体的には次のアニオンが挙げられる。
【0079】
(a)テトラフェニルホウ素、テトラキス(3,4,5−トリフルオロフェニル)ホウ素、テトラキス{3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル}ホウ素、テトラキス{3,5−ジ(t−ブチル)フェニル}ホウ素、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素など;
(b)テトラフェニルアルミニウム、テトラキス(3,4,5−トリフルオロフェニル)アルミニウム、テトラキス{3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル}アルミニウム、テトラキス(3,5−ジ(t−ブチル)フェニル)アルミニウム、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)アルミニウム等;
【0080】
(c)テトラフェニルガリウム、テトラキス(3,4,5−トリフルオロフェニル)ガリウム、テトラキス{3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル}ガリウム、テトラキス{3,5−ジ(t−ブチル)フェニル}ガリウム、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ガリウム等;
(d)テトラフェニルリン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)リン等;
(e)テトラフェニルヒ素、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ヒ素など;
(f)テトラフェニルアンチモン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)アンチモン等;
(g)デカボレート、ウンデカボレート、カルバドデカボレート、デカクロロデカボレート等
【0081】
また、ルイス酸、特に成分(A)をカチオンに変換可能なルイス酸としては、種々の有機ホウ素化合物、金属ハロゲン化合物、固体酸などが例示され、その具体的例としては次の化合物が挙げられる。
【0082】
(a)トリフェニルホウ素、トリス(3,5−ジフルオロフェニル)ホウ素、トリス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素等の有機ホウ素化合物;
(b)塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、塩化臭化マグネシウム、塩化ヨウ化マグネシウム、臭化ヨウ化マグネシウム、塩化マグネシウムハイドライド、塩化マグネシウムハイドロオキシド、臭化マグネシウムハイドロオキシド、塩化マグネシウムアルコキシド、臭化マグネシウムアルコキシド等の金属ハロゲン化合物;
(c)アルミナ、シリカ−アルミナ等の固体酸
【0083】
本発明のα−オレフィン重合用触媒(1)において、任意成分(C)としての微粒子担体は、無機または有機の化合物から成り、通常5μから5mm、好ましくは10μから2mmの粒径を有する微粒子状の担体である。
【0084】
上記の無機担体としては、例えば、SiO2、Al2O3、MgO、ZrO、TiO2、B2O3、ZnO等の酸化物、SiO2−MgO、SiO2−Al2O3、SiO2−TiO2、SiO2−Cr2O3、SiO2−Al2O3−MgO等の複合酸化物などが挙げられる。
【0085】
上記の有機担体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等の炭素数2〜14のα−オレフィンの(共)重合体、スチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族不飽和炭化水素の(共)重合体などから成る多孔質ポリマーの微粒子担体が挙げられる。これらの比表面積は、通常20〜1000m2/g、好ましくは50〜700m2/gであり、細孔容積は、通常0.1cm2/g以上、好ましくは0.3cm2/g、更に好ましくは0.8cm2/g以上である。
【0086】
本発明のα−オレフィン重合用触媒(1)は、微粒子担体以外の任意成分として、例えば、H2O、メタノール、エタノール、ブタノール等の活性水素含有化合物、エーテル、エステル、アミン等の電子供与性化合物、ホウ酸フェニル、ジメチルメトキシアルミニウム、亜リン酸フェニル、テトラエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン等のアルコキシ含有化合物を含むことが出来る。
【0087】
また、上記以外の任意成分としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等のトリ低級アルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、ジイソブチルアルミニウムクロリド、メチルアルミニウムセスキクロリド等のハロゲン含有アルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムヒドリド等のアルキルアルミニウムヒドリド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジメチルアルミニウムブトキシド等のアルコキシ含有アルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムフェノキシド等のアリールオキシ含有アルキルアルミニウム等が挙げられる。
【0088】
本発明のα−オレフィン重合用触媒(1)において、アルミニウムオキシ化合物、成分(A)と反応して成分(A)をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物またはルイス酸は、成分(B)として、それぞれ単独使用される他、これらの3成分を適宜組み合わせて使用することが出来る。また、上記の低級アルキルアルミニウム、ハロゲン含有アルキルアルミニウム、アルキルアルミニウムヒドリド、アルコキシ含有アルキルアルミニウム、アリールオキシ含有アルキルアルミニウムの1種または2種以上は、任意成分ではあるが、アルミニウムオキシ化合物、イオン性化合物またはルイス酸と併用してα−オレフィン重合用触媒(1)中に含有させるのが好ましい。
【0089】
本発明のα−オレフィン重合用触媒(1)は、重合槽の内外において、重合させるべきモノマーの存在下または不存在下、上記の成分(A)及び(B)を接触させることにより調製することが出来る。すなわち、成分(A)及び(B)と必要に応じて成分(C)等を重合槽に別々に導入してもよいし、成分(A)及び(B)を予め接触させた後に重合槽に導入してもよい。また、成分(A)及び(B)の混合物を成分(C)に含浸させた後に重合槽へ導入してもよい。
【0090】
上記の各成分の接触は、窒素などの不活性ガス中、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン等の不活性炭化水素溶媒中で行ってもよい。接触温度は、−20℃から溶媒の沸点の範囲の温度、特に、室温から溶媒の沸点の範囲の温度が好ましい。この様にして調製された触媒は、調製後に洗浄せずに使用してもよく、また、洗浄した後に使用してもよい。更には、調製後に必要に応じて新たに成分を組み合わせて使用してもよい。
【0091】
また、成分(A)、(B)及び成分(C)を予め接触させる際、重合させるモノマーを存在させてα−オレフィンの一部を重合する、いわゆる予備重合を行うことも出来る。すなわち、重合の前に、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、ビニルシクロアルカン、スチレン等のオレフィンの予備重合を行い、必要に応じて洗浄した予備重合生成物を触媒として使用することも出来る。この予備重合は、不活性溶媒中で穏和な条件で行うことが好ましく、固体触媒1g当たり、通常0.01〜1000g、好ましくは0.1〜100gの重合体が生成する様に行うのが好ましい。
【0092】
成分(A)及び(B)の使用量は任意である。例えば、溶媒重合の場合、成分(A)の使用量は、遷移金属原子として、通常10-7〜102mmol/L、好ましくは10-4〜1mmol/Lの範囲とされる。アルミニウムオキシ化合物の場合、Al/遷移金属のモル比は、通常10〜105、好ましくは100〜2×104、更に好ましくは100〜104の範囲とされる。一方、成分(B)としてイオン性化合物またはルイス酸を使用した場合、遷移金属に対するこれらのモル比は、通常0.1〜1,000、好ましくは0.5〜100、更に好ましくは1〜50の範囲とされる。
【0093】
次に、本発明のα−オレフィン重合用触媒(2)について説明する。この触媒は、必須成分(D)として、珪酸塩を除くイオン交換性層状化合物または無機珪酸塩を含み、任意成分(E)として有機アルミニウム化合物を含む。
【0094】
上記のイオン交換性層状化合物としては、六方最密パッキング型、アンチモン型、CdCl2型、CdI2型などの層状の結晶構造を有するイオン結晶性化合物が挙げられ、その具体例としては、α−Zr(HAsO4)2・H2O、α−Zr(HPO4)2、α−Zr(KPO4)2・3H2O、α−Ti(HPO4)2、α−Ti(HAsO4)2・H2O、α−Sn(HPO4)2・H2O、γ−Zr(HPO4)2、γ−Ti(HPO4)2、γ−Ti(NH4PO4)2・H2O等の多価金属の結晶性酸性塩が挙げられる。
【0095】
上記のイオン交換性層状化合物は、必要に応じて塩類処理および/または酸処理を行って使用してもよい。塩類処理も酸処理も施されていない状態の、珪酸塩を除くイオン交換性層状化合物は、イオン結合等によって構成される面が互いに弱い結合力で平行に積み重なった結晶構造をとる化合物であり、含有するイオンの交換が可能である。
【0096】
上記の無機珪酸塩としては、粘土、粘土鉱物、ゼオライト、珪藻土などが挙げられる。これらは、合成品を使用してもよいし、天然に産出する鉱物を使用してもよい。粘土および粘土鉱物の具体例としては、アロフェン等のアロフェン族、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、アノーキサイト等のカオリン族、メタハロイサイト、ハロイサイト等のハロイサイト族、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライト等の蛇紋石族、モンモリロナイト、ソーコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト等のスメクタイト、バーミキュライト等のバーミキュライト鉱物、イライト、セリサイト、海緑石などの雲母鉱物、アタパルジャイト、セピオライト、パリゴルスカイト、ベントナイト、木節粘土、ガイロメ粘土、ヒシンゲル石、パイロフィライト、リョクデイ石群などが挙げられる。これらは混合層を形成していてもよい。また、人工合成物としては、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト、合成テニオライト等が挙げられる。
【0097】
上記の無機珪酸塩の中では、カオリン族、ハロサイト族、蛇紋石族、スメクタイト、バーミキュライト鉱物、雲母鉱物、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト又は合成テニオライトが好ましく、スメクタイト、バーミキュライト鉱物、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト又は合成テニオライトが更に好ましい。これらは、特に処理を行うことなくそのまま使用してもよいし、ボールミル、篩い分け等の処理を行った後に使用してもよい。また、単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0098】
上記の無機珪酸塩は、必要に応じ、塩類処理および/または酸処理により、固体の酸強度を変えることが出来る。また、塩類処理においては、イオン複合体、分子複合体、有機誘導体などを形成することにより、表面積や層間距離を変えることが出来る。すなわち、イオン交換性を利用し、層間の交換性イオンを別の大きな嵩高いイオンと置換することにより、層間が拡大した状態の層状物質を得ることが出来る。
【0099】
イオン交換性層状化合物および無機珪酸塩は、未処理のまま使用してもよいが、含有される交換可能な金属陽イオンを次に示す塩類および/または酸より解離した陽イオンとイオン交換することが好ましい。
【0100】
上記のイオン交換に使用する塩類は、1〜14族原子から成る群より選ばれた少なくとも一種の原子を含む陽イオンを含有する化合物であり、好ましくは、1〜14族原子から成る群より選ばれた少なくとも一種の原子を含む陽イオンと、ハロゲン原子、無機酸および有機酸から成る群より選ばれた少なくとも一種の原子または原子団よりより誘導される陰イオンとから成る化合物であり、更に好ましくは、2〜14族原子から成る群より選ばれた少なくとも一種の原子を含む陽イオンと、Cl、Br、I、F、PO4、SO4、NO3、CO3、C2O4、ClO4、OOCCH3、CH3COCHCOCH3、OCl2、O(NO3)2、O(ClO4)2、O(SO4)、OH、O2Cl2、OCl3、OOCH及びOOCCH2CH3から成る群より選ばれた少なくとも一種の陰イオンとから成る化合物である。また、これら塩類は2種以上を同時に使用してもよい。
【0101】
上記のイオン交換に使用する酸は、好ましくは、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、シュウ酸から選択され、これらは、2種以上を同時に使用してもよい。塩類処理と酸処理を組み合わせる方法としては、塩類処理を行った後に酸処理を行う方法、酸処理を行った後に塩類処理を行う方法、塩類処理と酸処理を同時に行う方法、塩類処理を行った後に塩類処理と酸処理を同時に行う方法などがある。なお、酸処理は、イオン交換や表面の不純物を取り除く効果の他、結晶構造のAl、Fe、Mg、Li等の陽イオンの一部を溶出させる効果がある。
【0102】
塩類および酸による処理条件は特に制限されない。しかしながら、通常、塩類および酸濃度は0.1〜30重量%、処理温度は室温から使用溶媒の沸点の範囲の温度、処理時間は5分から24時間の条件を選択し、被処理化合物の少なくとも一部を溶出する条件で行うことが好ましい。また、塩類および酸は一般的には水溶液で使用される。
【0103】
上記の塩類処理および/または酸処理を行う場合、処理前、処理間、処理後に粉砕や造粒などで形状制御を行ってもよい。また、アルカリ処理や有機化合物処理、有機金属処理などの他の化学処理を併用してもよい。この様にして得られる成分(B)としては、水銀圧入法で測定した半径20Å以上の細孔容積が0.1cc/g以上、特には0.3〜5cc/gであることが好ましい。斯かる成分(B)は、水溶液中で処理した場合、吸着水および層間水を含む。ここで、吸着水とは、イオン交換性層状化合物または無機珪酸塩の表面あるいは結晶破面に吸着された水であり、層間水とは、結晶の層間に存在する水である。
【0104】
本発明において、成分(D)は、上記の様な吸着水および層間水を除去してから使用することが好ましい。脱水方法は、特に制限されないが、加熱脱水、気体流通下の加熱脱水、減圧下の加熱脱水および有機溶媒との共沸脱水などの方法が使用される。加熱温度は、吸着水および層間水が残存しない様な温度範囲とされ、通常100℃以上、好ましくは150℃以上とされるが、構造破壊を生じる様な高温条件は好ましくない。加熱時間は、0.5時間以上、好ましくは1時間以上である。その際、脱水乾燥した後の成分(D)の重量減量は、温度200℃、圧力1mmHgの条件下で2時間吸引した場合の値として3重量%以下であることが好ましい。本発明においては、重量減量が3重量%以下に調整された成分(D)を使用する場合、必須成分(A)及び後述の任意成分(E)と接触する際にも、同様の重量減量の状態が保持される様に取り扱うことが好ましい。
【0105】
本発明のα−オレフィン重合用触媒(2)において、任意成分(E)としての有機アルミニウム化合物の一例は、次の一般式(VII)で表される。
【0106】
【化11】
AlRaP3-a (VII)
【0107】
一般式(VII)中、Rは炭素数1〜20の炭化水素基、Pは、水素、ハロゲン、アルコキシ基またはシロキシ基を示し、aは0より大きく3以下の数を示す。一般式(VII)で表される有機アルミニウム化合物の具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムモノクロライド、ジエチルアルミニウムモノメトキシド等のハロゲン又はアルコキシ含有アルキルアルミニウムが挙げられる。これらの中では、トリアルキルアルミニウムが好ましい。本発明のα−オレフィン重合用触媒(2)においては、成分(E)として、一般式(VII)で表される有機アルミニウム化合物以外にメチルアルミノキサン等のアルミノキサン類なども使用できる。また、上記の有機アルミニウム化合物とアルミノキサン類とを併用することも出来る。
【0108】
本発明のα−オレフィン重合用触媒(2)は、α−オレフィン重合用触媒(1)の場合と同様の方法により調製することが出来る。この際、必須成分(A)及び成分(D)と任意成分(E)の接触方法は、特に限定されないが、次の様な方法を例示することが出来る。なお、この接触は、触媒調製時だけでなく、オレフィンによる予備重合時またはオレフィンの重合時に行ってもよい。
【0109】
(1)成分(A)と成分(D)とを接触させる方法;
(2)成分(A)と成分(D)とを接触させた後に成分(E)を添加する方法;
(3)成分(A)と成分(E)とを接触させた後に成分(D)を添加する方法;
(4)成分(D)と成分(E)とを接触させた後に成分(A)を添加する方法;
(5)成分(A)、(D)、(E)を同時に接触させる。
【0110】
上記の各成分の接触の際もしくは接触の後に、ポリエチレン、ポリプロピレン等の重合体、シリカ、アルミナ等の無機酸化物の固体を共存させるか、または、接触させてもよい。
【0111】
また、上記の各成分の接触は、窒素などの不活性ガス中、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン等の不活性炭化水素溶媒中で行ってもよい。接触は、−20℃から溶媒の沸点の間の温度で行い、特に室温から溶媒の沸点の間での温度で行うのが好ましい。
【0112】
上記の各成分の使用量は次の通りである。すなわち、成分(D)1g当たり、成分(A)は、通常10-4〜10mmol、好ましくは10-3〜5mmolであり、成分(E)は、通常0.01〜104mmol、好ましくは0.1〜100mmolである。また、成分(A)中の遷移金属と成分(E)中のアルミニウムの原子比は、通常1:0.01〜106、好ましくは1:0.1〜105である。この様にして調製された触媒は、調製後に洗浄せずに使用してもよく、また、洗浄した後に使用してもよい。また、必要に応じて新たに成分(E)を組み合わせて使用してもよい。すなわち、成分(A)及び/又は(D)と成分(E)とを使用して触媒調製を行った場合は、この触媒調製とは別途に更に成分(E)を反応系に添加してもよい。この際、使用される成分(E)の量は、成分(A)中の遷移金属に対する成分(E)中のアルミニウムの原子比で1:0〜104、好ましくは1:1〜103なる様に選ばれる。
【0113】
次に、本発明に係るα−オレフィン重合体の製造方法について説明する。本発明においては、前述の本発明の触媒とα−オレフィンとを接触させて重合または共重合を行う。本発明のα−オレフィン重合用触媒(1)又は(2)は、溶媒を使用する溶媒重合に適用される他、実質的に溶媒を使用しない液相無溶媒重合、気相重合、溶融重合にも適用される。また、重合方式は、連続重合および回分式重合の何れであってもよい。
【0114】
溶媒重合における溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、ペンタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等の不活性な飽和脂肪族または芳香族炭化水素の単独あるいは混合物が使用される。重合温度は、通常−78〜250℃、好ましくは−20〜100℃とされる。反応系のオレフィン圧は、特に制限されないが、好ましくは常圧から2000kgf/cm2G、更に好ましくは常圧から50kgf/cm2Gの範囲とされる。また、例えば、温度や圧力の選定または水素の導入などの公知の手段により分子量調節を行なうことも出来る。
【0115】
原料のα−オレフィンとしては、炭素数が通常2〜20、好ましくは2〜10のα−オレフィンが使用され、その具体例としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン等が挙げられる。本発明の触媒は、立体規則性重合を目的とする炭素数3〜10のα−オレフィン、特にプロピレンの重合に好適に使用される。
【0116】
また、本発明の触媒は、上記の各α−オレフィン同志またはα−オレフィンとの他の単量体との共重合にも適用可能である。α−オレフィンと共重合可能な他の単量体としては、例えば、ブタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、7−メチル−1,6−オクタジエン、1,8−ノナジエン、1,9−デカジエンの様な共役および非共役ジエン類、シクロプロペン、シクロブテン、シクロペンテン、ノルボルネン、ジシクロペンタジエンの様な環状オレフィンが挙げられる。また、重合に際しては、多段階に条件を変更するいわゆる多段重合、例えば、一段目にプロピレンの重合を行い、二段目にエチレンとプロピレンの共重合を行う所謂ブロック共重合も可能である。
【0117】
本発明の遷移金属化合物をα−オレフィン重合用触媒成分とすることにより、後述の実施例に示す通り、得られるポリマーの融点が高く、分子量が大きくなり、MFRが低下する等の効果が達成される。その理由は、必ずしも明かではないが、一応、次の様に推定することが出来る。
【0118】
すなわち、本発明の遷移金属化合物における置換基R7又はR8は、それらが結合するR3又はR6が7員以上の縮合環を形成するため、5員環部分とR3又はR6とで形成される縮合環平面から、ある程度の角度を持った立体配置を占める。しかも、架橋基Qに環状置換基Aが結合していることにより、立体的に嵩高くなり、適度な立体障害と形状とを形成する。その結果、ポリマー鎖の成長方向およびモノマーの配位方向を規制する作用が高められ、生成するポリマーの立体規則性が向上し、ひいては、融点の高いポリマーが得られると推定される。更に、R3又はR6によって形成される7〜10員環に存在する2重結合と、Aに含まれる2重結合により、置換基R7、R8又はRaの動きが抑制されて配位子構造が堅固となるため、重合温度が高くなっても、立体規則性に優れた高分子量のポリマーが得られると推定される。
【0119】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の諸例において、触媒合成工程および重合工程は、全て精製窒素雰囲気下で行い、溶媒は、MS−4Aで脱水した後に精製窒素でバブリングして脱気して使用した。また、固体触媒成分当たりの活性は触媒活性として(単位:g−ポリマー/g−固体)、錯体成分当たりの活性は錯体活性として(単位:g−ポリマー/g−錯体)表した。
【0120】
(1)MFRの測定:
ポリマー6gに熱安定剤(BHT)のアセトン溶液(0.6重量%)6gを添加した。次いで、上記のポリマーを乾燥した後、メルトインデクサー(230℃)に充填し、2.16Kg荷重の条件下に5分間放置した。その後、ポリマーの押し出し量を測定し、10分間当たりの量に換算し、MFRの値とした。
【0121】
(2)分子量分布の測定:
GPCにより得られた重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn=Q値)により決定した。GPC装置は、Waters社製「150CV型」を使用した。溶媒はオルトジクロルベンゼンを使用し、測定温度は135℃とした。
【0122】
(3)融点の測定:
DSC(デュポン社製「TA2000型」)を使用し、10℃/分で20〜200℃までの昇降温を1回行った後の2回目の昇温時の測定により求めた。
【0123】
実施例1
(1)9−シラフルオレン−9,9−ジイルビス{1,1´−(2−メチル−4−フェニル−4−ヒドロアズレニル)}ジルコニウムジクロリドの合成:
2−メチルアズレン0.8g(5.6mmol)とヘキサン10mlの溶液に−5℃でフェニルリチウムのシクロヘキサン−ジエチルエーテル溶液(1.08M)5.2ml(5.6mmol)を滴下した。得られた溶液を徐々に室温まで戻しながら2時間攪拌した後、反応溶液を0℃に冷却し、テトラヒドロフラン10ml及びジメチルアミノピリジン0.017gを添加し、更に、9,9−ジクロロ−9−シラフルオレン0.7g(2.8mmol)を添加した。反応溶液を室温で1時間攪拌後、希塩酸を添加して反応を停止し、水相をエーテルで抽出処理し、抽出した有機相の全部を硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下に溶媒を留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、暗緑色粉末0.9gを得た。
【0124】
次に、上記反応生成物0.9gをジエチルエーテル6mlに溶解し、これに−78℃でn−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(1.47M)1.98ml(2.9mmol)を滴下した。滴下終了後、反応溶液を徐々に室温まで戻しながら4時間攪拌した。減圧下溶媒を留去した後、トルエンとジエチルエーテルの混合溶媒(40:1)15mlを添加して−78℃に冷却し、これに四塩化ジルコニウム0.35g(1.5mmol)を添加した。その後、直ちに室温まで戻し12時間攪拌した。得られた反応液を減圧下溶媒を留去し、トルエンを添加し生じた懸濁液を窒素気流下セライト上で濾別した。得られた固体をトルエンで洗浄した後、ジクロロメタンで抽出し、抽出液からジクロロメタン溶媒を留去し、9−シラフルオレン−9,9−ジイルビス{1,1´−(2−メチル−4−フェニル−4−ヒドロアズレニル)}ジルコニウムジクロリドのラセミ・メソ混合物0.25g(収率22%)を得た。
【0125】
上記のラセミ・メソ混合物の1H−NMRのケミカルシフトは次の通りであった。300MHz,CDCl3(ppm)2.40(s,メソ体2−Me)、2.44(s,ラセミ体2−Me)、5.01(br s,ラセミ体4−H)、5.03(br s,メソ体4−H)、5.8−6.2(m,−CH=)、7.1−7.7(m,−CH=)、7.9−8.1(m,−CH=)、8.3−8.5(m,−CH=)
【0126】
(2)メチルアルモキサンを助触媒とするプロピレンの重合:
内容積1Lの攪拌式オートクレーブ中にメチルアルモキサン(東ソー・アクゾ社製「MMAO」)2mmol(Al原子換算)を導入した。一方、破裂板付き触媒フィーダーに上記のラセミ・メソ混合物0.1mgをトルエンで希釈して導入した。その後、オートクレーブにプロピレン 700mlを導入し、室温で破裂板をカットし、70℃に昇温して1時間の重合操作を行い、ポリプロピレン20gを得た。錯体活性は20×104 であった。ポリプロピレンのTmは152.8℃、MFRは1.3、Mwは3.4×105、Qは2.6であった。
【0127】
実施例2
<メチルアルモキサンを助触媒とするプロピレンの重合>
内容積1Lの攪拌式オートクレーブ中に、トルエン500mlを導入した後、メチルアルモキサン(東ソー・アクゾ社製「MMAO」)2.1mmol(Al原子換算)と実施例1(1)で得たラセミ・メソ混合物0.3mgをトルエンで希釈して導入した。その後、プロピレン を導入し、70℃に昇温し、プロピレン圧を5Kgf/cm2Gに保ち、1時間の重合操作を行い、ポリプロピレン4gを得た。錯体活性は1.3×104 であった。ポリプロピレンのTmは156.2℃、Mwは2.4×105、Qは2.7であった。
【0128】
実施例3
<粘土鉱物を助触媒とするプロピレンの重合>
(1)粘土鉱物の化学処理および固体触媒成分の調製:
硫酸10gと脱塩水90mlから成る希硫酸に10gのモンモリロナイト(クニミネ工業社製「クニピアF」)を分散させ、沸点まで昇温した後に6時間攪拌処理した。その後、回収したモンモリロナイトを脱塩水で十分洗浄し、予備乾燥した後に200℃で2時間乾燥し、化学処理された粘土鉱物を得た。この化学処理されたモンモリロナイト200mgに、濃度0.5mol/lのトリエチルアルミニウムのトルエン溶液0.8mlを加え、室温で1時間攪拌した。その後、トルエンで洗浄し、33mg/mlのモンモリロナイト−トルエンスラリーを得た。
【0129】
(2)重合:
内容積1Lの攪拌式オートクレーブ中にトリイソブチルアルミニウム(東ソー・アクゾ社製)0.25mmol(Al原子換算)を導入した。一方、破裂板付き触媒フィーダーに、実施例1(1)で得たラセミ・メソ混合物3mgをトルエンで希釈して導入し、更に、上記で得たトリエチルアルミニウム処理したモンモリロナイトを50mg及びトリイソブチルアルミニウム0.15mmol(Al原子換算)を導入した。その後、オートクレーブにプロピレン700mlを導入し、室温で破裂板をカットし、80℃に昇温して1時間の重合操作を行い、ポリプロピレン72gを得た。触媒活性は1.4×103、錯体活性は3.0×104であった。ポリプロピレンのTmは147.9℃、MFRは21.3、Mwは1.7×105、Qは2.3であった。
【0130】
比較例1
(1)ジメチルシリレンビス{1,1´−(2−メチル−4−フェニル−4−ヒドロアズレニル)}ジルコニウムジクロリドの合成:
(a)ラセミ・メソ混合物の合成;
特開昭62−207232号公報に記載の方法に従って合成した2−メチルアズレン2.22gをヘキサン30mlに溶解し、フェニルリチウムのシクロヘキサン−ジエチルエーテル溶液15.6ml(1.0等量)を0℃で少しずつ加えた。この溶液を室温で1時間攪拌した後、−78℃に冷却してテトラヒドロフラン30mlを加えた。この溶液にジメチルジクロロシラン0.95mlを加え、室温まで戻し、更に、50℃で1.5時間加熱した。その後、塩化アンモニウム水溶液を加えて分液した後、有機相を硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下溶媒を留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−ジクロロメタン=5:1)で精製し、ジメチルビス{1,1´−(2−メチル−4−フェニル−1,4−ジヒドロアズレニル)}シラン1.48gを得た。
【0131】
上記で得られたジメチルビス{1,1´−(2−メチル−4−フェニル−1,4−ジヒドロアズレニル)}シラン768mgをジエチルエーテル15mlに溶解し、これに−78℃でn−ブチルリチウムのヘキサン溶液1.98ml(1.64mol/L)を滴下し、徐々に室温まで戻しながら12時間攪拌した。減圧下に溶媒を留去した後、得られた固体をヘキサンで洗浄し減圧乾固した。これにトルエン・ジエチルエーテルの混合溶媒(40:1)20mlを加え、−60℃で四塩化ジルコニウム325mgを加え、徐々に室温まで戻しながら15時間攪拌した。得られた溶液を減圧下に濃縮し、ヘキサンを加えて再沈殿し、ジメチルシリレンビス{1,1´−(2−メチル−4−フェニル−4−ヒドロアズレニル)}ジルコニウムジクロリドのラセミ・メソ混合物(下記のスペクトルデータを示すラセミ・メソ混合物)150mgを得た。
【0132】
(b)ラセミ体の精製;
上記のラセミ・メソ混合物887mgをジクロロメタン30mlに溶解し、100W高圧水銀ランプを有するパイレックスガラス製容器に導入した。そして、溶液を攪拌しながら常圧下に30分間光照射(300nm〜600nm)してラセミ体の比率を高めた後、ジクロロメタンを減圧下留去した。得られた黄色固体にトルエン7mlを加えて攪拌した後、静置させて黄色固体を沈殿させ上澄み液を除去した。更に、同様の洗浄操作をトルエン4ml、2ml、ヘキサン2mlによって3回行った後、得られた固形物を減圧下乾固し、ジメチルシリレンビス{1,1´−(2−メチル−4−フェニル−4−ヒドロアズレニル)}ジルコニウムジクロリドのラセミ体437mgを得た。
【0133】
<ラセミ体の1H−NMRのケミカルシフト>
300MHz,C6 D6(ppm)δ0.51(s,6H,Si(CH3 )2 )、1.92(s,6H,CH3 )、5.30(br d,2H)、5.75−5.95(m,6H)、6.13(s,2H)、6.68(d,J=14Hz,2H)、7.05−7.20(m,2H,arom)、7.56(d,J=7Hz,4H)
【0134】
<メソ体の1H−NMRのケミカルシフト>
300MHz,C6 D6(ppm)δ0.44(s,6H,SiCH3 )、0.59(s,6H,SiCH3 )、1.84(s,6H,CH3 )、5.38(br d,2H)、5.75−6.00(m,6H)、6.13(s,2H)、6.78(d,J=14Hz,2H)、7.00−7.20(m,2H,arom)、7.56(d,J=7Hz,4H)
【0135】
(2)メチルアルモキサンを助触媒とするプロピレンの重合:
内容積2Lの攪拌式オートクレーブ中にメチルアルモキサン(東ソー・アクゾ社製「MMAO」)4mmol(Al原子換算)及び上記(1)で得たラセミ体0.26mg(0.4μmol)を入れ、プロピレン1500mlを導入した。70℃に昇温して1時間重合操作を行い、ポリプロピレン43.5gを得た。錯体活性は16.7×104であった。ポリプロピレンのTmは150.9、MFRは1.3、Mwは3.5×105 、Qは2.7であった。
【0136】
【発明の効果】
以上説明した本発明によれば、新規な遷移金属化合物が提供されるが、斯かる遷移金属化合物を含む本発明の触媒によれば、生成ポリマーの分子量および立体規則性を低下させることなく、押出成形や射出成形が可能な高分子量で且つ高融点のオレフィン重合体を高収率で得ることが出来る。
Claims (8)
- 下記一般式(I)で表される新規な遷移金属化合物。
- Aが炭素数3〜6の2価の不飽和炭化水素基であり、Raのlが0〜10の整数である請求項1に記載の遷移金属化合物。
- Aが不飽和結合を2個含む炭素数4から成る5員環を形成し、Raのlが0〜4の整数である請求項1に記載の遷移金属化合物。
- Qがケイ素またはゲルマニウム原子である請求項1〜3の何れかに記載の遷移金属化合物。
- 請求項1〜4の何れかに記載の遷移金属化合物から成ることを特徴とするオレフィン重合用触媒成分。
- 次の必須成分(A)及び(B)と任意成分(C)を含むことを特徴とするα−オレフィン重合用触媒。
成分(A):請求項1〜4の何れかに記載の遷移金属化合物
成分(B):アルミニウムオキシ化合物、成分(A)と反応して成分(A)をカチオン
に変換することが可能なイオン性化合物、および、ルイス酸から成る群よ
り選択される1種以上
成分(C):微粒子担体 - 次の必須成分(A)及び(D)と任意成分(E)を含むことを特徴とするα−オレフィン重合用触媒。
成分(A):請求項1〜4の何れかに記載の遷移金属化合物
成分(D):珪酸塩を除くイオン交換性層状化合物または無機珪酸塩
成分(E):有機アルミニウム化合物 - 請求項6又は7に記載の触媒とα−オレフィンとを接触させて重合または共重合を行うことを特徴とするα−オレフィン重合体の製造方法。
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