JP3808583B2 - インバータ装置 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、巻線に例えば正弦波に応じた振幅レベルを有する出力電圧を与えることによりブラシレスモータを駆動するインバータ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、エアコンなどのファンモータや電気自動車の駆動用モータとしては、広範囲の可変速制御や電力消費量の節約のために、また、洗濯機の洗濯用モータとしては、洗浄能力の向上のためにブラシレスモータが採用されており、これをインバータ装置によって駆動することが行われている。
【0003】
三相巻線を有するブラシレスモータの内部には、通常、位置センサとして構成が簡単で最も安価であるホールICが、例えば電気角120度毎に配置されている。そして、インバータ装置は、これらのホールICによってロータの回転位置に対応した信号を得て、ブラシレスモータの巻線に120度通電方式で矩形波電圧を印加して駆動するようになっている。
【0004】
これに対して、低コスト化や小形化を目的として、位置センサを使用することなくモータを駆動可能としたセンサレス技術が、例えば特開平1−8890号公報に開示されている。これは、モータコイルの端子電圧と基準電圧との比較結果に基づいてロータの回転位置を検出し、矩形波通電の転流タイミングを2個のタイマで決定して通電を行うものである。
【0005】
一方、モータの効率向上や低振動化を図ることを目的として、略正弦波の電圧をモータに供給するインバータ装置が、特願平7−224299号として出願されている。これは、ホールICを用いてロータの位置信号を得て位置信号の変化周期を求め、その変化周期に対応する電気角よりも高い分解能を有する電圧位相を決定し、その電圧位相に応じて正弦波に基づいた電圧波形のデータをメモリから読出して略正弦波の電圧を形成するものである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
モータの効率向上や低振動化を図るためには正弦波電圧駆動方式が望ましいが、例えば、コンプレッサなどの様に密閉構造を有するものや、モータとインバータ装置との距離が長いものの如く位置センサの存在がネックになるものでは、コスト低減及び小形化を図るセンサレス駆動方式が望ましい。従って、従来より、センサレス駆動方式と正弦波駆動方式との両立を図ったインバータ装置の開発が切望されている。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、センサレス駆動方式により低振動且つ高効率でブラシレスモータを駆動することができるインバータ装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1記載のインバータ装置は、電圧指令及び周波数指令に基づき通電信号を形成して出力する通電信号形成手段と、正側直流母線と出力端子との間に接続され並列にダイオードを有する正側スイッチング素子及び負側直流母線と出力端子との間に接続され並列にダイオードを有する負側スイッチング素子から構成され、前記通電信号に基づいてブラシレスモータの複数の巻線に電圧を出力するインバータ主回路とを備えたものにおいて、
前記インバータ主回路の出力電圧に対する前記巻線に流れる巻線電流の位相差を検出する電流位相差検出手段と、
この電流位相差検出手段が検出する電流位相差に基づいて、前記出力電圧に対する前記ブラシレスモータの誘起電圧の位相差を演算する誘起電圧位相差演算手段と、
この誘起電圧位相差演算手段が演算する誘起電圧位相差と前記電流位相差とに基づいて、前記周波数指令を決定する周波数指令決定手段とを具備したことを特徴とする。
【0009】
斯様に構成すれば、インバータ主回路の出力電圧に対するブラシレスモータの巻線電流の位相差が検出され、その電流位相差に基づいて前記出力電圧に対するブラシレスモータの誘起電圧の位相差が演算される。そして、周波数指令決定手段によってこれらの誘起電圧位相差と電流位相差とから周波数指令が決定されると、その周波数指令と電圧指令とに基づき通電信号が形成され、インバータ主回路は、その通電信号に基づいてブラシレスモータの巻線に電圧を出力する。
【0010】
従って、通電信号を形成するためにホールICなどのセンサを用いてロータの位置信号を得ずとも、電流位相差と誘起電圧位相差とから周波数指令が決定されるので、ブラシレスモータの巻線に適切な、例えば正弦波に基づいた振幅の電圧を印加してブラシレスモータを低振動且つ高効率で駆動することが可能となる。
【0011】
この場合、請求項2乃至4に記載したように、前記電流位相差検出手段に、前記巻線電流の極性を検出する電流極性検出手段を備え、
前記巻線電流の極性と前記通電信号とに基づいて前記電流位相差を検出するように構成しても良く(請求項2)、具体的には、前記電流極性検出手段を、正側若しくは負側スイッチング素子のオンタイミングにおいて正側若しくは負側スイッチング素子に流れる電流の有無を検出することにより(請求項3)、また、正側若しくは負側スイッチング素子のオフタイミングにおいて対を成す負側若しくは正側スイッチング素子に並列に接続されたダイオードに流れる電流の有無を検出することにより(請求項4)、電流の極性を検出する構成としても良い。斯様に構成すれば、巻線電流の電流値を直接検出する必要がなく、2値データとして得られる巻線電流の極性と通電信号とから容易に電流位相差を検出することができる。
【0012】
請求項5または6に記載したように、前記誘起電圧位相差演算手段を、前記電流位相差と、前記巻線の両端に印加される電圧に対する前記巻線電流の位相差と、前記電圧指令と、前記周波数指令と、前記ブラシレスモータの定数とに基づいて前記誘起電圧位相差を演算する構成としても良く(請求項5)、具体的には、前記誘起電圧位相差演算手段を、前記電流位相差θiと、前記巻線の両端に印加される電圧に対する前記巻線電流の位相差θvと、前記電圧指令Vと、前記周波数指令fと、前記ブラシレスモータの定数である前記巻線のインダクタンスL,前記巻線の抵抗R及び誘起電圧定数Kとに基づいて、
V/E=sin(θv−θi+θe)/sin(θv−θi)
E=K・f
θv=tan−1(2πfL/R)
の関係式から前記誘起電圧位相差θeを演算するように構成すれば良い(請求項6)。
【0013】
斯様に構成すれば、巻線の両端に印加される電圧に対する巻線電流の位相差θvは、周波数指令fと、ブラシレスモータの定数である巻線のインダクタンスL,抵抗R及び誘起電圧定数Kとから第3式により演算され、誘起電圧位相差θeは、位相差θvが得られることによって第1式から求めることができる。
【0014】
また、この場合、請求項7または8に記載したように、前記誘起電圧位相差演算手段を、前記誘起電圧位相差θeを前記関係式の近似式により演算を行う構成としたり(請求項7)、前記関係式に基づくデータテーブルから得る(請求項8)ように構成しても良い。斯様に構成すれば、誘起電圧位相差θeをより容易に得ることができる。
【0015】
請求項9に記載したように、前記周波数指令決定手段を、前記電流位相差と前記誘起電圧位相差との大小関係の比較結果に応じて、前記周波数指令値を増減させる構成とするのが好適であり、斯様に構成すれば、例えば、電流位相差と誘起電圧位相差とが等しくなる様に通電信号を出力させることが可能となる。
【0016】
請求項10に記載したように、少なくとも前記負側スイッチング素子の駆動手段と、前記電流極性検出手段とを1チップICで構成するのが好ましく、斯様に構成すれば、全体を小形に構成することができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の第1実施例について、図1乃至図9を参照して説明する。図1において、交流電源1の両端子は、一方にリアクトル2を介して全波整流回路3の交流入力端子に接続されている。全波整流回路3の直流出力端子間には、平滑用コンデンサ4が接続されており、以上、リアクトル2,全波整流回路3,平滑用コンデンサ4により直流電源回路5を構成している。そして、直流電源回路5の直流出力端子は、正,負側直流母線6a,6bに接続されている。
【0018】
インバータ主回路7は、正,負側直流母線6a,6b間に3相ブリッジ接続されたトランジスタ(IGBT)T1乃至T6と、各トランジスタT1乃至T6に夫々並列に接続されたフライホイールダイオードD1乃至D6とから構成されている。そのインバータ主回路7の出力端子7u,7v,7wは、3相のブラシレスモータ(以下、単にモータと称す)8のスター結線された各相巻線8u,8v,8wに接続されている。
【0019】
従って、インバータ主回路7において、トランジスタT1乃至T3が正側スイッチング素子に相当し、トランジスタT4乃至T6が負側スイッチング素子に相当する。
【0020】
始動制御部9は、外部よりモータ8の始動指令信号が与えられると、電圧指令Vを通電信号形成部(通電信号形成手段)10及び誘起電圧位相差演算部(誘起電圧位相差演算手段)11に出力すると共に、周波数指令fsを指令選択部12に出力するようになっている。
【0021】
また、始動制御部9は、始動指令信号が与えられてから一定時間の経過後に出力される選択信号Skをも指令選択部12に出力するようになっており、指令選択部12は、選択信号Skの出力に応じて、前記周波数指令fsと周波数指令決定部(周波数指令決定手段)13が出力する周波数指令feとを切換えて、周波数指令fとして出力するようになっている。その周波数指令fは、通電信号形成部10,誘起電圧位相差演算部11及び周波数指令決定部13に与えられる。
【0022】
通電信号形成部10の内部構成について、以下に述べる。クロック発生器10aは、周波数指令fに応じた周波数のクロック信号を出力するものであり、そのクロック信号は、カウンタ10bに与えられるようになっている。カウンタ10bは、そのクロック信号パルスの入力数をアップカウントし、そのカウント値をアドレス信号としてROM10cに出力するようになっている。
【0023】
ROM10cには、正弦波に応じた電圧率の振幅を有する通電信号のレベルデータが記憶されており、カウンタ10bから与えられるアドレス信号に応じた位相のレベルデータが読出され、レベル信号発生器10dに出力されるようになっている。レベル信号発生器10dは、ROM10cから与えられたレベルデータに電圧指令Vを乗じたものをU相の通電信号Duとし、その通電信号Duを120,240度移相したものをV相,W相の通電信号Dv,Dwとして分配し、外部のPWM回路14に夫々出力するようになっている(図4(a)参照)。
【0024】
また、通電信号形成部10は、これらの通電信号Du,Dv,Dwを交流信号とした場合のゼロクロス点を検出し、各通電信号Du,Dv,Dwの何れかがゼロクロス点を通過する毎にハイ,ローレベルの反転を繰返す通電位相信号Spを形成して(図4(b)参照)電流位相差検出部(電流位相差検出手段)15に出力するようになっている。
【0025】
PWM回路14は、具体的には図示しないが、内部の搬送波発生器から出力される搬送波(三角波)のレベルと、与えられた通電信号Du,Dv,Dwのレベルとを夫々比較して、各通電信号のレベルの方が大なる期間においてハイレベルとなるPWM制御による正側の駆動信号Dup,Dvp,Dwpを形成する。また、これらの正側の駆動信号を反転したものを負側の駆動信号Dun,Dvn,Dwnとして形成し、駆動回路16に出力するようになっている。
【0026】
駆動回路16は、フォトカプラなどで構成されており、与えられた正,負側の駆動信号Dup乃至Dwp,Dun乃至Dwnに応じたゲート信号を、トランジスタT1乃至T3,T4乃至T6に出力するようになっている。作用の詳細は後述する。
【0027】
電流極性検出回路(電流極性検出手段)17は、インバータ主回路7において流れるU,V,W各相電流の極性を検出し、電流極性信号Su,Sv,Swを電流位相差検出部15に出力するようになっている。電流位相差検出部15は、これらの電流極性信号Su,Sv,Swと通電信号形成部10から出力される通電位相信号Spとに基づいて、モータ8の巻線8u,8v,8wの両端に夫々印加される電圧に対する前記巻線電流の位相差θiを検出して、その電流位相差θiを誘起電圧位相差演算部11及び周波数指令決定部13に対して出力するようになっている。
【0028】
誘起電圧位相差演算部11は、電圧指令V,周波数指令f及び電流位相差θiから、インバータ主回路7の出力電圧に対するモータの8の巻線8u,8v,8wに誘起される電圧の位相差θeを演算して、その誘起電圧位相差θeを周波数指令決定部13に出力するようになっている。周波数指令決定部13は、周波数指令f,電流位相差θi及び誘起電圧位相差θeから周波数指令feを決定して、前述のように指令選択部12に出力する。
【0029】
図2は、U相に関する電流極性検出回路17uの詳細な電気的構成を示すものである。図2において、駆動回路16unは、駆動信号Dunがハイレベルの場合はトランジスタT1のベース−エミッタ間に図示しない駆動用電源からゲート駆動用の正電圧を印加し、駆動信号Dunがローレベルの場合は、トランジスタT1のベース−エミッタ間にゲート駆動用の負電圧を印加するようにゲート信号Gunを与えるものである。
【0030】
トランジスタT4のエミッタと直流母線6bとの間には、抵抗18uが介挿されている。そして、トランジスタT4のエミッタと抵抗18uとの共通接続点はコンパレータ19uの非反転入力端子に接続され、抵抗18uと直流母線6bとの共通接続点はコンパレータ19uの反転入力端子に接続されている。コンパレータ19uの出力端子は、ラッチ回路20uの入力端子Dに接続されている。また、駆動回路16unの出力端子は、ラッチ回路20uの入力端子ckに接続されており、ゲート信号Gunを与えるようになっている。
【0031】
このラッチ回路20uは、入力端子ckに与えられる信号の立下がりエッジにおいて、入力端子Dに与えられているデータをラッチ(セット)するものである。ラッチ回路20uの負論理の出力端子/Qは、図示しないフォトカプラなどを介して、電流極性信号Suを出力するようになっている。以上、抵抗18u,コンパレータ19u,ラッチ回路20uにより電流極性検出回路17uを構成している。尚、V及びW相についても、電流極性検出回路17v,17wが全く同様に構成されており、夫々電流極性信号Sv及びSwを出力するようになっている。
【0032】
次に、第1実施例の作用について図3乃至図9をも参照して説明する。始動制御部9は、外部よりモータ8の始動指令信号が与えられると、電圧指令V及び周波数指令fsを、図3に示す時間関数に従って夫々出力する。即ち、初期値としては比較的小なる指令値を出力し、その指令値を時間の経過に伴って線形に増加させた後、所定時間が経過すると指令値が一定となるようにする。
【0033】
通電信号形成部10は、その周波数指令fに応じた周波数でアドレスを循環的に増加させながら通電信号のレベルデータを順次読出し、電圧指令Vを乗じて夫々電気角120度の位相差を有する通電信号Du,Dv,Dwを出力する。
【0034】
PWM回路14は、通電信号Du,Dv,Dwが与えられると、正,負側の駆動信号Dup乃至Dwp,Dun乃至Dwnを作成し、駆動回路16は、これらの駆動信号に基づき正,負側のゲート信号Gup乃至Gwp,Gun乃至GwnをトランジスタT1乃至T3,T4乃至T6に出力する。すると、モータ8の各相巻線8u,8v,8wには、略正弦波の相電流iu,iv,iwが通電されて、モータ8が駆動される(図4(c)参照,電流iuのみ図示)。
【0035】
この時の電流極性検出回路17uの作用を以下に説明する。図5(a)及び(b)は、駆動回路16up,16unを介してインバータ主回路7のU相のトランジスタT1及びT4に出力される駆動信号Dup及びDunであり、U相電流iuの極性が負から正に変化して行く場合を示している(図5(c)参照)。
【0036】
U相電流iuの極性が負の場合、トランジスタT4にコレクタ電流が流れ、抵抗18uには、コンパレータ19uの非反転入力端子の電位が反転入力端子の電位よりも高くなる方向に電流iunが流れる(図5(d)参照)。よって、コンパレータ19uの出力信号は、駆動信号Dunがハイレベルとなるのに伴ってハイレベルとなる。
【0037】
また、U相電流iuの極性が正の場合は、図2において点線で示すダイオードD4の順方向電流が、駆動信号Dupのオフタイミング(ローレベル)で流れるので、抵抗18uには、コンパレータ19uの反転入力端子の電位が高くなる方向に流れて(図5(d)参照)、コンパレータ19uの出力信号は常にローレベルとなる(図5(e)参照)。
【0038】
そして、ラッチ回路20uの反転出力端子/Qは、コンパレータ19uから与えられる信号をゲート信号Gunの立下がりでラッチし、レベルを反転して出力するので、電流極性信号Suは、U相電流iuの極性が負の場合はローレベル,正の場合はハイレベルの信号となる(図5(f)参照)。尚、V及びW相についても、電流極性検出回路は全く同様に作用して、電流極性信号Sv,Swが電流極性信号Suと共に、図4(d)に示すように出力される。
【0039】
図4に示すように、電流位相差検出部15は、タイマによって通電信号形成部10から与えられる通電位相信号Spの立上がり−立下がりエッジ間の時間Tp(電気角60度に相当する)を計測する。また、タイマによって通電位相信号Spの立上がりエッジから電流極性信号Suの立上がりエッジまでの時間Tiをも計測し、(1)式によって通電信号Duに対する巻線電流iuの位相差θiを演算して検出する。
θi=60×Ti/Tp …(1)
【0040】
次に、誘起電圧位相差演算部11の作用について、図6乃至図9を参照して説明する。図6は、モータ8の1相分の等価回路を示すものである。即ち、インバータ主回路7の出力電圧(相電圧)V(=V′sin(θ))の電圧源,モータ8の巻線のリアクタンスL及び抵抗R,モータ8の誘起電圧E(=E′sin(θ−θe))の電圧源が直列に接続されている。但し、V′,E′は最大値を示す。誘起電圧Eに対して、インバータ主回路7の出力電圧Vは位相θeだけ進んでいる(図7参照)。
【0041】
この時、リアクタンスL及び抵抗Rの直列回路の両端には、インバータ主回路7の出力電圧Vと誘起電圧Eとの差電圧(V−E)が印加され、リアクタンスL及び抵抗Rの時定数と周波数指令fとから(2)式のように定まる位相θvだけ遅れた電流I(=I′sin(θ−θi))が流れる(図7参照)。但し、I′は最大値を示す。
θv=tan−1(2πfL/R) …(2)
【0042】
図7は、上述したインバータ主回路7の出力電圧V,誘起電圧E及び電流Iの位相関係を示す波形図である。この図7から明らかなように、インバータ主回路7の出力電圧Vと差電圧(V−E)との位相差は、(θv−θi)となる。図7中のA点で示すように、差電圧のゼロクロス点において、インバータ主回路7の出力電圧V及び誘起電圧Eのレベルが等しくなることから(3)式が成立する。
また、モータ8の誘起電圧定数をKとすると誘起電圧Eは(4)式で表される。
E=K・f …(4)
【0043】
これらの式から、誘起電圧位相差θeを以下のように演算する。(2)式は、リアクタンスL及び抵抗Rを定数とした周波数指令fの関数であり、モータ8の巻線の時定数(L/R)を例えば“1/20”とした場合を、図8中破線で示している。モータ8の実際に使用される回転数(周波数)の範囲を考慮すると、図8中破線で示された関数を(5)式のように直線近似することができ、それを実線で表している。
θv=Ka×f+Kb …(5)
この一次関数のデータKa,Kbをメモリなどに保有することにより、簡単な演算によって差電圧(V−E)に対する電流Iの位相差θvを得ることができる。尚、(2)式を直接演算してθvを求めても良いことは言うまでもない。
【0044】
次に、(3)式は、(6)式のように変形することができる。
【0045】
図9は、電気角90度分の正弦波のレベルデータである。この正弦波のデータを同様にメモリに保有することによって、以下の手順で誘起電圧位相差θeを求める。
▲1▼先ず、(1)式,(5)式から求めた位相差θi,θvから(θv−θi)が得られるので、(6)式右辺のsin(θv−θi)=Xを求める。
▲2▼次に、定数(V′/E′)に“X”を乗じたものを(V′/E′)・X=Yとすると、“Y”は(6)式の右辺であるから、
sin−1(Y)=θv−θi+θe …(7)
であり、(θv−θi+θe)を得ることができる。
▲3▼(8)式より、誘起電圧位相差θeを得る。
(θv−θi+θe)−(θv−θi)=θe …(8)
【0046】
以上の誘起電圧位相差演算部11における演算は、電流位相差検出部15においてU,V,W各相毎の電流位相差θiが検出される度に実行され、インバータ主回路7の出力電圧Vに対する誘起電圧Eの位相を得ることができる。誘起電圧Eの位相は、モータ8のロータの回転位置と一定の関係を有するものであるから、誘起電圧Eの位相を得ることはロータの回転位置を検出することに等しい。
【0047】
そして、周波数指令決定部13は、誘起電圧位相差θeが得られる度に、(9)式により周波数指令feを決定して出力する。
fe=Kz(θi−θe)+f …(9)
ここで、Kzは定数である。即ち、θi>θeの場合は周波数指令feを増加させ、モータ8を加速させるように通電を行い、ロータの位相(誘起電圧位相差θe)を相対的に遅れ方向に移行させるように作用する。逆に、θi<θeの場合は周波数指令feを減少させ、ロータの位相を相対的に進み方向に移行させるように作用する。尚、以上は主にU相について説明したが、V及びW相についても同様に作用するものである。
【0048】
以上の処理が繰返されることによって、最終的に、電流位相差θiと誘起電圧位相差θeとが等しくなるように周波数指令fe、即ち周波数指令fが決定される。また、始動制御部9は、モータ8の始動開始から所定時間が経過して、図3に示す電圧指令V及び周波数指令fsが一定値となる時点で選択信号Skを出力し、指令選択部12に、周波数指令をfsからfeに切替えさせる。その時点で(9)式は、
fe=Kz(θi−θe)+fs …(10)
となっており、(10)式を初期値として、以降は、周波数指令f=feで制御が行われる。
【0049】
以上のように本実施例によれば、電流位相差検出部15によってインバータ主回路7の出力電圧Vに対するモータ8の巻線電流iu,iv,iwの位相差θiを検出し、誘起電圧位相差演算部11は、電流位相差θiに基づいて、出力電圧Vに対するモータ8の誘起電圧Eの位相差θeを演算し、周波数指令決定部13は、誘起電圧位相差θeと電流位相差θiとの差に基づいて周波数指令feを決定する。そして、通電信号形成部10は、周波数指令feに基づき正弦波に応じた電圧率の振幅を有する通電信号Du,Dv,Dwを形成し、インバータ主回路7を介してモータ8を駆動するようにした。
【0050】
従って、通電信号を形成するためにホールICなどのセンサを用いてロータの位置信号を得ずとも、電流位相差θiと誘起電圧位相差θeとから周波数指令feが決定されるので、モータ8の巻線に正弦波に基づいた振幅の電圧を印加してモータ8を低振動かつ高効率で駆動することができる。特に、コンプレッサなどの密閉構造を要するものや、モータ−インバータ装置間の距離が長い場合など、センサの存在がネックとなるものには好適である。
【0051】
また、本実施例によれば、電流極性検出回路17uは、トランジスタT4のオンタイミングにおいてそのトランジスタT4に流れる電流の有無からモータ8の巻線電流の極性を検出し、電流位相差検出部15は、その極性と通電信号とに基づいて電流位相差θiを検出するようにした。従って、電流値を直接検出する複雑な構成を要することなく、低コストで、且つ、2値データとして得られる巻線電流の極性から容易に電流位相差θiを検出することができる。特に、モータ8の駆動部(インバータ主回路7,駆動回路16の出力側)と制御部(駆動回路16の入力側)とを絶縁する場合に、安価な絶縁素子を使用することができる。
【0052】
更に、本実施例によれば、誘起電圧位相差演算部11は、電流位相差θiと、巻線の両端に印加される電圧に対する巻線電流の位相差θvと、電圧指令Vと、周波数指令fと、モータ8の定数である巻線のインダクタンスL及び抵抗R並びに誘起電圧定数Kとに基づいて、
V/E=sin(θv−θi+θe)/sin(θv−θi)
E=K・f
θv=tan−1(2πfL/R)
の関係式から誘起電圧位相差θeを演算するようにした。
【0053】
従って、位相差θvは、周波数指令fと、ブラシレスモータの定数である巻線のインダクタンスL,抵抗R及び誘起電圧定数Kとから第3式の近似式(9)式を用いて演算され、誘起電圧位相差θeは、位相差θvが得られることによって第1式から求めることができる。
【0054】
加えて、本実施例によれば、周波数指令決定手部13を、電流位相差θiと誘起電圧位相差θeとの大小関係の比較結果に応じて、周波数指令値feを増減させるようにしたので、電流位相差θiと誘起電圧位相差θeとが等しくなる様に通電信号を出力させて、巻線電流と誘起電圧とを同相とすることによってモータ8を最大効率で駆動することができる。
【0055】
図10は本発明の第2実施例を示すものであり、第1実施例と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、以下異なる部分についてのみ説明する。第2実施例では、インバータ主回路7に代えて、インバータ主回路7の負側のトランジスタT4,T5,T6の代わりに、電流検出機能を有したMOS形でnチャネルのFET(例えば商品名IRC840)21(負側スイッチング素子,図10ではU相のみ示す)によって構成されたインバータ主回路22が配置されている。このFET21の電流検出端子には、自身に流れるソース電流に比例した検出電流が流れるようになっている。
【0056】
FET21の電流検出端子と直流母線6bとの間には、抵抗23が介挿されている。そして、FET21の電流検出端子と抵抗23との共通接続点はコンパレータ19uの非反転入力端子に接続され、抵抗23と直流母線6bとの共通接続点はコンパレータ19uの反転入力端子に接続されている。その他は第1実施例と同様の構成である。以上、抵抗23,コンパレータ19u,ラッチ回路20uにより電流極性検出回路(電流位相差検出手段,電流極性検出手段)24uを構成している。尚、V及びW相についても、電流極性検出回路が全く同様に構成されている。
【0057】
次に、第2実施例の作用について説明する。抵抗23には、U相電流iuの極性が負の場合に、FET21のソース電流Isoに比例した検出電流Ideが流れる。すると、コンパレータ19uの非反転入力端子の電位は反転入力端子の電位よりも高くなり、コンパレータ19uの出力信号は、ゲート信号Gunがハイレベルとなるのに伴ってハイレベルとなる。また、U相電流iuの極性が正の場合、検出電流Ideは流れないので、コンパレータ19uの出力信号は常にローレベルとなる。よって、以降の回路の動作は第2実施例と同様であり、コンパレータ19uの出力信号及び極性検出信号Suのタイミングチャートは、図5(e)及び(f)と同様となる。
【0058】
以上のように第2実施例によれば、電流極性検出回路24uは、FET21の電流検出端子と直流母線6bとの間に介挿した抵抗23及びコンパレータ19uによってFET21に流れるソース電流Isoを検出して相電流iuの極性を判定するようにしたので、第1実施例と同様の効果が得られる。
【0059】
図11及び図12は本発明の第3実施例を示すものであり、第1実施例と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、以下異なる部分のみ説明する。第3実施例では、電流極性検出回路(電流位相差検出手段,電流極性検出手段)25uは、第1実施例における電流極性検出回路17uの代わりにインバータ主回路7のトランジスタT4側に設けられている。
【0060】
抵抗18uの両端に対して、コンパレータ26uの非反転,反転入力端子は第1実施例のコンパレータ19uとは逆に接続されている。また、ネガティブエッジトエリガのラッチ回路20uに代えて、ポジティブエッジトエリガのラッチ回路27uが配置されており、その出力端子Qから極性検出信号Suが出力されるようになっている。その他は第1実施例と同様の構成である。尚、V及びW相についても、電流極性検出回路が全く同様に構成されており、夫々極性検出信号Sv及びSwを出力するようになっている。
【0061】
次に、第3実施例の作用について図12をも参照して説明する。U相電流iuの極性が負の場合、抵抗18uに流れる電流iunは、コンパレータ26uの反転入力端子の電位が非反転入力端子の電位よりも高くなる方向に流れる(図12(d)参照)。よって、コンパレータ26uの出力信号は常にローレベルとなる(図12(g)参照)。
【0062】
また、U相電流iuの極性が正でトランジスタT1がオフの場合、電流iupは、図11に示すように、ダイオードD4の順方向、即ち、コンパレータ26uの非反転入力端子の電位が高くなる方向に流れるので、コンパレータ26uの出力信号は駆動信号Dunがハイレベルとなる(ダイオードD4に順方向電流が流れる)のに伴ってハイレベルとなる。
【0063】
そして、ラッチ回路27uの出力端子Qは、コンパレータ26uから与えられる信号を、ゲート信号Gunの立上りでラッチして出力するので、極性検出信号Suは、U相電流iuの極性が負の場合はローレベル,正の場合はハイレベルの信号となる(図12(h)参照)。尚、V及びW相についても電流極性検出回路は全く同様に作用する。
【0064】
以上のように第3実施例によれば、電流極性検出回路25uは、抵抗18u及びコンパレータ26uによって、トランジスタT1のオフタイミングにおいてダイオードD4に流れる順方向電流を検出することにより相電流iuの極性を判定するようにしたので、第1実施例と同様の効果が得られる。
【0065】
図13は本発明の第4実施例を示すものであり、第3実施例と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、以下異なる部分のみ説明する。U相に関する電流極性検出回路(電流位相差検出手段,電流極性検出手段)28uの電気的構成を示す図13においては、抵抗18uは除かれており、コンパレータ29uの非反転入力端子はトランジスタT4のエミッタに接続され、反転入力端子は抵抗30を介してトランジスタT4のコレクタ(出力端子7u)に接続されている。また、コンパレータ29uの非反転,反転入力端子間には、抵抗31が接続されている。その他は第3実施例と同様の構成である。
【0066】
次に、第4実施例の作用について説明する。U相電流iuの極性が負でトランジスタT4がオンの場合、コンパレータ29uの入力については、出力端子7u,抵抗30,抵抗31,直流母線6bの経路で電流が流れるので、反転入力端子の電位が高く、コンパレータ29uの出力信号はローレベルである。
【0067】
そして、U相電流iuの極性が正でトランジスタT1がオフの場合にダイオードD4に順方向電流が流れる時は、上記の場合とは逆に、直流母線6b,抵抗31,抵抗30,出力端子7uの経路で電流が流れるので、非反転入力端子の電位が高く、コンパレータ29uの出力信号はハイレベルとなる。
【0068】
従って、信号のタイミングチャートは、第3実施例の図12(f)〜(h)と同様となって、トランジスタT1のオフタイミングにおいてダイオードD4に流れる順方向電流を検出することにより相電流iuの極性を検出することになるので、第1実施例と同様の効果が得られる。
【0069】
尚、上記第1乃至第4実施例においては、電流極性検出信号Suは、ゲート信号Gunの立下がり若しくは立上がりに同期して出力されるため、電流の真のゼロクロス点とは最大でPWM信号の周期分だけタイミングにずれが生じるが、PWM信号の周期は各相電流iuの周期に比して十分短いため動作に影響はない。
【0070】
本発明は、上記し且つ図面に記載した実施例にのみ限定されるものではなく、以下のような変形または拡張が可能である。
誘起電圧位相差演算手段は、数式に基づいた演算や近似式による演算で求めるものに限らず、例えば電流位相差θi,電圧指令V,周波数指令fをパラメータとして予め演算した結果をデータテーブルとして記憶させておき、それを読出して得るようにしても良い。
モータ8の定数であるリアクタンスL,抵抗R,誘起電圧定数Kを固定値とせず、周囲温度などに応じて補正するようにするのが好ましい。斯様にすれば、精度をより高めることができる。
【0071】
周波数指令決定手段における周波数指令feの決定は、(7)式によるものに限らず、例えば、周波数指令feの変化量を、直前の周波数指令fや電圧指令Vに応じて変えるようにしても良い。
電流極性検出回路17を三相分設けて、電流位相差検出部15,誘起電圧位相差演算部11,周波数指令決定部13における処理を1電気周期に6回、即ち電気角60度毎に実行させるようにしたが、モータや負荷の慣性に応じて処理回数を減らしても良い。また、周波数の高低に応じて処理回数を変化させても良い。モータ8の始動時において、モータ8に直流励磁を行ってロータの位置決めを行った後、始動制御部9によって電圧指令Vと周波数指令fsとを与えるようにすれば、始動時におけるモータ8の振動を低減させることができる。
【0072】
駆動回路16と電流極性検出回路17とをワンチップICとして構成しても良い。また、更に、インバータ主回路7を加えてワンチップICを構成しても良い。斯様に構成すれば、部品点数を削減できると共にインバータ装置を小形化することができる。
抵抗18uに代えて、図14に示すように、互いに逆並列接続したダイオード33,34を用いても良い。
正側のトランジスタT1乃至T3の側に、電流極性検出手段を設けても良い。第1乃至第4実施例において、ラッチ回路20u若しくはラッチ回路27uのクロック入力端子ckに与える信号は、ゲート信号Gun,Gvn及びGwnに限らず、駆動信号Dun,Dvn及びDwnなどトランジスタT4のオン,オフタイミングを得られる信号であれば何でも良い。
通電信号形成部10のレベルデータは、正弦波に応じた電圧率に限ること無く、モータ8のトルク変動を減少させる波形に応じた電圧率であれば適宜変更して良い。
【0073】
【発明の効果】
本発明は以上説明した通りであるので、以下の効果を奏する。
請求項1記載のインバータ装置によれば、インバータ主回路の出力電圧に対するブラシレスモータの巻線電流の位相差が検出され、その電流位相差に基づいて前記出力電圧に対するブラシレスモータの誘起電圧の位相差が演算される。そして、これらの誘起電圧位相差と電流位相差とから周波数指令が決定されると、その周波数指令と電圧指令とに基づき通電信号が作成され、インバータ主回路は、その通電信号に基づいてブラシレスモータの巻線に電圧を出力する。従って、通電信号を作成するためにホールICなどのセンサを用いてロータの位置信号を得ずとも、電流位相差と誘起電圧位相差とから周波数指令が決定されるので、ブラシレスモータの巻線に適切な、例えば正弦波に基づいた振幅の電圧を印加して駆動することが可能となり、配線数を削減した上で電動機を低振動且つ高効率で駆動することができる。
【0074】
請求項2乃至4記載のインバータ装置によれば、巻線電流の極性と通電信号とに基づいて電流位相差を検出するようにし(請求項2)、具体的には、正側若しくは負側スイッチング素子のオンタイミングにおいて正側若しくは負側スイッチング素子に流れる電流の有無を検出することにより(請求項3)、また、正側若しくは負側スイッチング素子のオフタイミングにおいて対を成す負側若しくは正側スイッチング素子に並列に接続されたダイオードに流れる電流の有無を検出することにより(請求項4)、電流の極性を検出するようにしたので、巻線電流の電流値を直接検出せずとも、巻線電流の極性と通電信号とから容易に電流位相差を検出することができる。
【0075】
請求項5または6記載のインバータ装置によれば、電流位相差と、巻線の両端に印加される電圧に対する巻線電流の位相差と、電圧指令と、周波数指令と、ブラシレスモータの定数とに基づいて誘起電圧位相差を演算するようにし(請求項5)、具体的には、電流位相差θiと、巻線の両端に印加される電圧に対する巻線電流の位相差θvと、電圧指令Vと、周波数指令fと、ブラシレスモータの定数である巻線のインダクタンスL,巻線の抵抗R及び誘起電圧定数Kとに基づいて、
V/E=sin(θv−θi+θe)/sin(θv−θi)
E=K・f
θv=tan−1(2πfL/R)
の関係式から誘起電圧位相差θeを演算するようにしたので(請求項6)、巻線の両端に印加される電圧に対する巻線電流の位相差θvは、周波数指令fと、ブラシレスモータの定数である巻線のインダクタンスL,抵抗R及び誘起電圧定数Kとから第3式により演算され、誘起電圧位相差θeは、位相差θvが得られることによって第1式から求めることができる。
【0076】
請求項7または8記載のインバータ装置によれば、誘起電圧位相差θeを、前記関係式の近似式により演算を行い(請求項7)、また、前記関係式に基づくデータテーブルから得る(請求項8)ようにしたので、誘起電圧位相差θeをより容易に得ることができる。
【0077】
請求項9記載のインバータ装置によれば、電流位相差と誘起電圧位相差との大小関係の比較結果に応じて周波数指令値を増減させるようにしたので、例えば、電流位相差と誘起電圧位相差とが等しくなる様に通電信号を出力させることができ、巻線電流と誘起電圧とを同相とすることによってブラシレスモータを最大効率で駆動することができる。
【0078】
請求項10記載のインバータ装置によれば、少なくとも負側スイッチング素子の駆動手段と、電流極性検出手段とを1チップICで構成したので、全体を小形に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例を示す電気的構成の機能ブロック図
【図2】電流極性検出回路の詳細な電気的構成を示す図
【図3】始動制御部が出力する電圧指令及び周波数指令を時間関数として示す図
【図4】通電信号形成部が出力する信号波形と電流極性信号との位相関係を示す図
【図5】電流極性検出回路のタイミングチャート
【図6】ブラシレスモータ1相分の等価回路を示す図
【図7】インバータ装置−ブラシレスモータ間の電圧及び電流の位相関係を示す図
【図8】誘起電圧位相差演算部が行う演算において用いられる、電圧位相差θvを周波数fの1次関数として近似したものを示す図
【図9】誘起電圧位相差演算部が行う演算において用いられる、電気角90度分の正弦波のレベルデータを示す図
【図10】本発明の第2実施例を示す図2相当図
【図11】本発明の第3実施例を示す図2相当図
【図12】図5相当図
【図13】本発明の第4実施例を示す図2相当図
【図14】電流極性検出回路の構成の変形を示す図
【符号の説明】
T1乃至T3はトランジスタ(正側スイッチング素子)、T4乃至T6は(負側スイッチング素子)、D1乃至D6はダイオード、6a及び6bは正及び負側直流母線、7はインバータ主回路、7u,7v,7wは出力端子、8はブラシレスモータ、10は通電信号形成部(通電信号形成手段)、11は誘起電圧位相差演算部(誘起電圧位相差演算手段)、13は周波数指令決定部(周波数指令決定手段)、15は電流位相差検出部(電流位相差検出手段)、17,24u,25u,28uは電流極性検出回路(電流位相差検出手段,電流極性検出手段)、21はFET(負側スイッチング素子)を示す。
【発明の属する技術分野】
本発明は、巻線に例えば正弦波に応じた振幅レベルを有する出力電圧を与えることによりブラシレスモータを駆動するインバータ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、エアコンなどのファンモータや電気自動車の駆動用モータとしては、広範囲の可変速制御や電力消費量の節約のために、また、洗濯機の洗濯用モータとしては、洗浄能力の向上のためにブラシレスモータが採用されており、これをインバータ装置によって駆動することが行われている。
【0003】
三相巻線を有するブラシレスモータの内部には、通常、位置センサとして構成が簡単で最も安価であるホールICが、例えば電気角120度毎に配置されている。そして、インバータ装置は、これらのホールICによってロータの回転位置に対応した信号を得て、ブラシレスモータの巻線に120度通電方式で矩形波電圧を印加して駆動するようになっている。
【0004】
これに対して、低コスト化や小形化を目的として、位置センサを使用することなくモータを駆動可能としたセンサレス技術が、例えば特開平1−8890号公報に開示されている。これは、モータコイルの端子電圧と基準電圧との比較結果に基づいてロータの回転位置を検出し、矩形波通電の転流タイミングを2個のタイマで決定して通電を行うものである。
【0005】
一方、モータの効率向上や低振動化を図ることを目的として、略正弦波の電圧をモータに供給するインバータ装置が、特願平7−224299号として出願されている。これは、ホールICを用いてロータの位置信号を得て位置信号の変化周期を求め、その変化周期に対応する電気角よりも高い分解能を有する電圧位相を決定し、その電圧位相に応じて正弦波に基づいた電圧波形のデータをメモリから読出して略正弦波の電圧を形成するものである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
モータの効率向上や低振動化を図るためには正弦波電圧駆動方式が望ましいが、例えば、コンプレッサなどの様に密閉構造を有するものや、モータとインバータ装置との距離が長いものの如く位置センサの存在がネックになるものでは、コスト低減及び小形化を図るセンサレス駆動方式が望ましい。従って、従来より、センサレス駆動方式と正弦波駆動方式との両立を図ったインバータ装置の開発が切望されている。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、センサレス駆動方式により低振動且つ高効率でブラシレスモータを駆動することができるインバータ装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1記載のインバータ装置は、電圧指令及び周波数指令に基づき通電信号を形成して出力する通電信号形成手段と、正側直流母線と出力端子との間に接続され並列にダイオードを有する正側スイッチング素子及び負側直流母線と出力端子との間に接続され並列にダイオードを有する負側スイッチング素子から構成され、前記通電信号に基づいてブラシレスモータの複数の巻線に電圧を出力するインバータ主回路とを備えたものにおいて、
前記インバータ主回路の出力電圧に対する前記巻線に流れる巻線電流の位相差を検出する電流位相差検出手段と、
この電流位相差検出手段が検出する電流位相差に基づいて、前記出力電圧に対する前記ブラシレスモータの誘起電圧の位相差を演算する誘起電圧位相差演算手段と、
この誘起電圧位相差演算手段が演算する誘起電圧位相差と前記電流位相差とに基づいて、前記周波数指令を決定する周波数指令決定手段とを具備したことを特徴とする。
【0009】
斯様に構成すれば、インバータ主回路の出力電圧に対するブラシレスモータの巻線電流の位相差が検出され、その電流位相差に基づいて前記出力電圧に対するブラシレスモータの誘起電圧の位相差が演算される。そして、周波数指令決定手段によってこれらの誘起電圧位相差と電流位相差とから周波数指令が決定されると、その周波数指令と電圧指令とに基づき通電信号が形成され、インバータ主回路は、その通電信号に基づいてブラシレスモータの巻線に電圧を出力する。
【0010】
従って、通電信号を形成するためにホールICなどのセンサを用いてロータの位置信号を得ずとも、電流位相差と誘起電圧位相差とから周波数指令が決定されるので、ブラシレスモータの巻線に適切な、例えば正弦波に基づいた振幅の電圧を印加してブラシレスモータを低振動且つ高効率で駆動することが可能となる。
【0011】
この場合、請求項2乃至4に記載したように、前記電流位相差検出手段に、前記巻線電流の極性を検出する電流極性検出手段を備え、
前記巻線電流の極性と前記通電信号とに基づいて前記電流位相差を検出するように構成しても良く(請求項2)、具体的には、前記電流極性検出手段を、正側若しくは負側スイッチング素子のオンタイミングにおいて正側若しくは負側スイッチング素子に流れる電流の有無を検出することにより(請求項3)、また、正側若しくは負側スイッチング素子のオフタイミングにおいて対を成す負側若しくは正側スイッチング素子に並列に接続されたダイオードに流れる電流の有無を検出することにより(請求項4)、電流の極性を検出する構成としても良い。斯様に構成すれば、巻線電流の電流値を直接検出する必要がなく、2値データとして得られる巻線電流の極性と通電信号とから容易に電流位相差を検出することができる。
【0012】
請求項5または6に記載したように、前記誘起電圧位相差演算手段を、前記電流位相差と、前記巻線の両端に印加される電圧に対する前記巻線電流の位相差と、前記電圧指令と、前記周波数指令と、前記ブラシレスモータの定数とに基づいて前記誘起電圧位相差を演算する構成としても良く(請求項5)、具体的には、前記誘起電圧位相差演算手段を、前記電流位相差θiと、前記巻線の両端に印加される電圧に対する前記巻線電流の位相差θvと、前記電圧指令Vと、前記周波数指令fと、前記ブラシレスモータの定数である前記巻線のインダクタンスL,前記巻線の抵抗R及び誘起電圧定数Kとに基づいて、
V/E=sin(θv−θi+θe)/sin(θv−θi)
E=K・f
θv=tan−1(2πfL/R)
の関係式から前記誘起電圧位相差θeを演算するように構成すれば良い(請求項6)。
【0013】
斯様に構成すれば、巻線の両端に印加される電圧に対する巻線電流の位相差θvは、周波数指令fと、ブラシレスモータの定数である巻線のインダクタンスL,抵抗R及び誘起電圧定数Kとから第3式により演算され、誘起電圧位相差θeは、位相差θvが得られることによって第1式から求めることができる。
【0014】
また、この場合、請求項7または8に記載したように、前記誘起電圧位相差演算手段を、前記誘起電圧位相差θeを前記関係式の近似式により演算を行う構成としたり(請求項7)、前記関係式に基づくデータテーブルから得る(請求項8)ように構成しても良い。斯様に構成すれば、誘起電圧位相差θeをより容易に得ることができる。
【0015】
請求項9に記載したように、前記周波数指令決定手段を、前記電流位相差と前記誘起電圧位相差との大小関係の比較結果に応じて、前記周波数指令値を増減させる構成とするのが好適であり、斯様に構成すれば、例えば、電流位相差と誘起電圧位相差とが等しくなる様に通電信号を出力させることが可能となる。
【0016】
請求項10に記載したように、少なくとも前記負側スイッチング素子の駆動手段と、前記電流極性検出手段とを1チップICで構成するのが好ましく、斯様に構成すれば、全体を小形に構成することができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の第1実施例について、図1乃至図9を参照して説明する。図1において、交流電源1の両端子は、一方にリアクトル2を介して全波整流回路3の交流入力端子に接続されている。全波整流回路3の直流出力端子間には、平滑用コンデンサ4が接続されており、以上、リアクトル2,全波整流回路3,平滑用コンデンサ4により直流電源回路5を構成している。そして、直流電源回路5の直流出力端子は、正,負側直流母線6a,6bに接続されている。
【0018】
インバータ主回路7は、正,負側直流母線6a,6b間に3相ブリッジ接続されたトランジスタ(IGBT)T1乃至T6と、各トランジスタT1乃至T6に夫々並列に接続されたフライホイールダイオードD1乃至D6とから構成されている。そのインバータ主回路7の出力端子7u,7v,7wは、3相のブラシレスモータ(以下、単にモータと称す)8のスター結線された各相巻線8u,8v,8wに接続されている。
【0019】
従って、インバータ主回路7において、トランジスタT1乃至T3が正側スイッチング素子に相当し、トランジスタT4乃至T6が負側スイッチング素子に相当する。
【0020】
始動制御部9は、外部よりモータ8の始動指令信号が与えられると、電圧指令Vを通電信号形成部(通電信号形成手段)10及び誘起電圧位相差演算部(誘起電圧位相差演算手段)11に出力すると共に、周波数指令fsを指令選択部12に出力するようになっている。
【0021】
また、始動制御部9は、始動指令信号が与えられてから一定時間の経過後に出力される選択信号Skをも指令選択部12に出力するようになっており、指令選択部12は、選択信号Skの出力に応じて、前記周波数指令fsと周波数指令決定部(周波数指令決定手段)13が出力する周波数指令feとを切換えて、周波数指令fとして出力するようになっている。その周波数指令fは、通電信号形成部10,誘起電圧位相差演算部11及び周波数指令決定部13に与えられる。
【0022】
通電信号形成部10の内部構成について、以下に述べる。クロック発生器10aは、周波数指令fに応じた周波数のクロック信号を出力するものであり、そのクロック信号は、カウンタ10bに与えられるようになっている。カウンタ10bは、そのクロック信号パルスの入力数をアップカウントし、そのカウント値をアドレス信号としてROM10cに出力するようになっている。
【0023】
ROM10cには、正弦波に応じた電圧率の振幅を有する通電信号のレベルデータが記憶されており、カウンタ10bから与えられるアドレス信号に応じた位相のレベルデータが読出され、レベル信号発生器10dに出力されるようになっている。レベル信号発生器10dは、ROM10cから与えられたレベルデータに電圧指令Vを乗じたものをU相の通電信号Duとし、その通電信号Duを120,240度移相したものをV相,W相の通電信号Dv,Dwとして分配し、外部のPWM回路14に夫々出力するようになっている(図4(a)参照)。
【0024】
また、通電信号形成部10は、これらの通電信号Du,Dv,Dwを交流信号とした場合のゼロクロス点を検出し、各通電信号Du,Dv,Dwの何れかがゼロクロス点を通過する毎にハイ,ローレベルの反転を繰返す通電位相信号Spを形成して(図4(b)参照)電流位相差検出部(電流位相差検出手段)15に出力するようになっている。
【0025】
PWM回路14は、具体的には図示しないが、内部の搬送波発生器から出力される搬送波(三角波)のレベルと、与えられた通電信号Du,Dv,Dwのレベルとを夫々比較して、各通電信号のレベルの方が大なる期間においてハイレベルとなるPWM制御による正側の駆動信号Dup,Dvp,Dwpを形成する。また、これらの正側の駆動信号を反転したものを負側の駆動信号Dun,Dvn,Dwnとして形成し、駆動回路16に出力するようになっている。
【0026】
駆動回路16は、フォトカプラなどで構成されており、与えられた正,負側の駆動信号Dup乃至Dwp,Dun乃至Dwnに応じたゲート信号を、トランジスタT1乃至T3,T4乃至T6に出力するようになっている。作用の詳細は後述する。
【0027】
電流極性検出回路(電流極性検出手段)17は、インバータ主回路7において流れるU,V,W各相電流の極性を検出し、電流極性信号Su,Sv,Swを電流位相差検出部15に出力するようになっている。電流位相差検出部15は、これらの電流極性信号Su,Sv,Swと通電信号形成部10から出力される通電位相信号Spとに基づいて、モータ8の巻線8u,8v,8wの両端に夫々印加される電圧に対する前記巻線電流の位相差θiを検出して、その電流位相差θiを誘起電圧位相差演算部11及び周波数指令決定部13に対して出力するようになっている。
【0028】
誘起電圧位相差演算部11は、電圧指令V,周波数指令f及び電流位相差θiから、インバータ主回路7の出力電圧に対するモータの8の巻線8u,8v,8wに誘起される電圧の位相差θeを演算して、その誘起電圧位相差θeを周波数指令決定部13に出力するようになっている。周波数指令決定部13は、周波数指令f,電流位相差θi及び誘起電圧位相差θeから周波数指令feを決定して、前述のように指令選択部12に出力する。
【0029】
図2は、U相に関する電流極性検出回路17uの詳細な電気的構成を示すものである。図2において、駆動回路16unは、駆動信号Dunがハイレベルの場合はトランジスタT1のベース−エミッタ間に図示しない駆動用電源からゲート駆動用の正電圧を印加し、駆動信号Dunがローレベルの場合は、トランジスタT1のベース−エミッタ間にゲート駆動用の負電圧を印加するようにゲート信号Gunを与えるものである。
【0030】
トランジスタT4のエミッタと直流母線6bとの間には、抵抗18uが介挿されている。そして、トランジスタT4のエミッタと抵抗18uとの共通接続点はコンパレータ19uの非反転入力端子に接続され、抵抗18uと直流母線6bとの共通接続点はコンパレータ19uの反転入力端子に接続されている。コンパレータ19uの出力端子は、ラッチ回路20uの入力端子Dに接続されている。また、駆動回路16unの出力端子は、ラッチ回路20uの入力端子ckに接続されており、ゲート信号Gunを与えるようになっている。
【0031】
このラッチ回路20uは、入力端子ckに与えられる信号の立下がりエッジにおいて、入力端子Dに与えられているデータをラッチ(セット)するものである。ラッチ回路20uの負論理の出力端子/Qは、図示しないフォトカプラなどを介して、電流極性信号Suを出力するようになっている。以上、抵抗18u,コンパレータ19u,ラッチ回路20uにより電流極性検出回路17uを構成している。尚、V及びW相についても、電流極性検出回路17v,17wが全く同様に構成されており、夫々電流極性信号Sv及びSwを出力するようになっている。
【0032】
次に、第1実施例の作用について図3乃至図9をも参照して説明する。始動制御部9は、外部よりモータ8の始動指令信号が与えられると、電圧指令V及び周波数指令fsを、図3に示す時間関数に従って夫々出力する。即ち、初期値としては比較的小なる指令値を出力し、その指令値を時間の経過に伴って線形に増加させた後、所定時間が経過すると指令値が一定となるようにする。
【0033】
通電信号形成部10は、その周波数指令fに応じた周波数でアドレスを循環的に増加させながら通電信号のレベルデータを順次読出し、電圧指令Vを乗じて夫々電気角120度の位相差を有する通電信号Du,Dv,Dwを出力する。
【0034】
PWM回路14は、通電信号Du,Dv,Dwが与えられると、正,負側の駆動信号Dup乃至Dwp,Dun乃至Dwnを作成し、駆動回路16は、これらの駆動信号に基づき正,負側のゲート信号Gup乃至Gwp,Gun乃至GwnをトランジスタT1乃至T3,T4乃至T6に出力する。すると、モータ8の各相巻線8u,8v,8wには、略正弦波の相電流iu,iv,iwが通電されて、モータ8が駆動される(図4(c)参照,電流iuのみ図示)。
【0035】
この時の電流極性検出回路17uの作用を以下に説明する。図5(a)及び(b)は、駆動回路16up,16unを介してインバータ主回路7のU相のトランジスタT1及びT4に出力される駆動信号Dup及びDunであり、U相電流iuの極性が負から正に変化して行く場合を示している(図5(c)参照)。
【0036】
U相電流iuの極性が負の場合、トランジスタT4にコレクタ電流が流れ、抵抗18uには、コンパレータ19uの非反転入力端子の電位が反転入力端子の電位よりも高くなる方向に電流iunが流れる(図5(d)参照)。よって、コンパレータ19uの出力信号は、駆動信号Dunがハイレベルとなるのに伴ってハイレベルとなる。
【0037】
また、U相電流iuの極性が正の場合は、図2において点線で示すダイオードD4の順方向電流が、駆動信号Dupのオフタイミング(ローレベル)で流れるので、抵抗18uには、コンパレータ19uの反転入力端子の電位が高くなる方向に流れて(図5(d)参照)、コンパレータ19uの出力信号は常にローレベルとなる(図5(e)参照)。
【0038】
そして、ラッチ回路20uの反転出力端子/Qは、コンパレータ19uから与えられる信号をゲート信号Gunの立下がりでラッチし、レベルを反転して出力するので、電流極性信号Suは、U相電流iuの極性が負の場合はローレベル,正の場合はハイレベルの信号となる(図5(f)参照)。尚、V及びW相についても、電流極性検出回路は全く同様に作用して、電流極性信号Sv,Swが電流極性信号Suと共に、図4(d)に示すように出力される。
【0039】
図4に示すように、電流位相差検出部15は、タイマによって通電信号形成部10から与えられる通電位相信号Spの立上がり−立下がりエッジ間の時間Tp(電気角60度に相当する)を計測する。また、タイマによって通電位相信号Spの立上がりエッジから電流極性信号Suの立上がりエッジまでの時間Tiをも計測し、(1)式によって通電信号Duに対する巻線電流iuの位相差θiを演算して検出する。
θi=60×Ti/Tp …(1)
【0040】
次に、誘起電圧位相差演算部11の作用について、図6乃至図9を参照して説明する。図6は、モータ8の1相分の等価回路を示すものである。即ち、インバータ主回路7の出力電圧(相電圧)V(=V′sin(θ))の電圧源,モータ8の巻線のリアクタンスL及び抵抗R,モータ8の誘起電圧E(=E′sin(θ−θe))の電圧源が直列に接続されている。但し、V′,E′は最大値を示す。誘起電圧Eに対して、インバータ主回路7の出力電圧Vは位相θeだけ進んでいる(図7参照)。
【0041】
この時、リアクタンスL及び抵抗Rの直列回路の両端には、インバータ主回路7の出力電圧Vと誘起電圧Eとの差電圧(V−E)が印加され、リアクタンスL及び抵抗Rの時定数と周波数指令fとから(2)式のように定まる位相θvだけ遅れた電流I(=I′sin(θ−θi))が流れる(図7参照)。但し、I′は最大値を示す。
θv=tan−1(2πfL/R) …(2)
【0042】
図7は、上述したインバータ主回路7の出力電圧V,誘起電圧E及び電流Iの位相関係を示す波形図である。この図7から明らかなように、インバータ主回路7の出力電圧Vと差電圧(V−E)との位相差は、(θv−θi)となる。図7中のA点で示すように、差電圧のゼロクロス点において、インバータ主回路7の出力電圧V及び誘起電圧Eのレベルが等しくなることから(3)式が成立する。
また、モータ8の誘起電圧定数をKとすると誘起電圧Eは(4)式で表される。
E=K・f …(4)
【0043】
これらの式から、誘起電圧位相差θeを以下のように演算する。(2)式は、リアクタンスL及び抵抗Rを定数とした周波数指令fの関数であり、モータ8の巻線の時定数(L/R)を例えば“1/20”とした場合を、図8中破線で示している。モータ8の実際に使用される回転数(周波数)の範囲を考慮すると、図8中破線で示された関数を(5)式のように直線近似することができ、それを実線で表している。
θv=Ka×f+Kb …(5)
この一次関数のデータKa,Kbをメモリなどに保有することにより、簡単な演算によって差電圧(V−E)に対する電流Iの位相差θvを得ることができる。尚、(2)式を直接演算してθvを求めても良いことは言うまでもない。
【0044】
次に、(3)式は、(6)式のように変形することができる。
【0045】
図9は、電気角90度分の正弦波のレベルデータである。この正弦波のデータを同様にメモリに保有することによって、以下の手順で誘起電圧位相差θeを求める。
▲1▼先ず、(1)式,(5)式から求めた位相差θi,θvから(θv−θi)が得られるので、(6)式右辺のsin(θv−θi)=Xを求める。
▲2▼次に、定数(V′/E′)に“X”を乗じたものを(V′/E′)・X=Yとすると、“Y”は(6)式の右辺であるから、
sin−1(Y)=θv−θi+θe …(7)
であり、(θv−θi+θe)を得ることができる。
▲3▼(8)式より、誘起電圧位相差θeを得る。
(θv−θi+θe)−(θv−θi)=θe …(8)
【0046】
以上の誘起電圧位相差演算部11における演算は、電流位相差検出部15においてU,V,W各相毎の電流位相差θiが検出される度に実行され、インバータ主回路7の出力電圧Vに対する誘起電圧Eの位相を得ることができる。誘起電圧Eの位相は、モータ8のロータの回転位置と一定の関係を有するものであるから、誘起電圧Eの位相を得ることはロータの回転位置を検出することに等しい。
【0047】
そして、周波数指令決定部13は、誘起電圧位相差θeが得られる度に、(9)式により周波数指令feを決定して出力する。
fe=Kz(θi−θe)+f …(9)
ここで、Kzは定数である。即ち、θi>θeの場合は周波数指令feを増加させ、モータ8を加速させるように通電を行い、ロータの位相(誘起電圧位相差θe)を相対的に遅れ方向に移行させるように作用する。逆に、θi<θeの場合は周波数指令feを減少させ、ロータの位相を相対的に進み方向に移行させるように作用する。尚、以上は主にU相について説明したが、V及びW相についても同様に作用するものである。
【0048】
以上の処理が繰返されることによって、最終的に、電流位相差θiと誘起電圧位相差θeとが等しくなるように周波数指令fe、即ち周波数指令fが決定される。また、始動制御部9は、モータ8の始動開始から所定時間が経過して、図3に示す電圧指令V及び周波数指令fsが一定値となる時点で選択信号Skを出力し、指令選択部12に、周波数指令をfsからfeに切替えさせる。その時点で(9)式は、
fe=Kz(θi−θe)+fs …(10)
となっており、(10)式を初期値として、以降は、周波数指令f=feで制御が行われる。
【0049】
以上のように本実施例によれば、電流位相差検出部15によってインバータ主回路7の出力電圧Vに対するモータ8の巻線電流iu,iv,iwの位相差θiを検出し、誘起電圧位相差演算部11は、電流位相差θiに基づいて、出力電圧Vに対するモータ8の誘起電圧Eの位相差θeを演算し、周波数指令決定部13は、誘起電圧位相差θeと電流位相差θiとの差に基づいて周波数指令feを決定する。そして、通電信号形成部10は、周波数指令feに基づき正弦波に応じた電圧率の振幅を有する通電信号Du,Dv,Dwを形成し、インバータ主回路7を介してモータ8を駆動するようにした。
【0050】
従って、通電信号を形成するためにホールICなどのセンサを用いてロータの位置信号を得ずとも、電流位相差θiと誘起電圧位相差θeとから周波数指令feが決定されるので、モータ8の巻線に正弦波に基づいた振幅の電圧を印加してモータ8を低振動かつ高効率で駆動することができる。特に、コンプレッサなどの密閉構造を要するものや、モータ−インバータ装置間の距離が長い場合など、センサの存在がネックとなるものには好適である。
【0051】
また、本実施例によれば、電流極性検出回路17uは、トランジスタT4のオンタイミングにおいてそのトランジスタT4に流れる電流の有無からモータ8の巻線電流の極性を検出し、電流位相差検出部15は、その極性と通電信号とに基づいて電流位相差θiを検出するようにした。従って、電流値を直接検出する複雑な構成を要することなく、低コストで、且つ、2値データとして得られる巻線電流の極性から容易に電流位相差θiを検出することができる。特に、モータ8の駆動部(インバータ主回路7,駆動回路16の出力側)と制御部(駆動回路16の入力側)とを絶縁する場合に、安価な絶縁素子を使用することができる。
【0052】
更に、本実施例によれば、誘起電圧位相差演算部11は、電流位相差θiと、巻線の両端に印加される電圧に対する巻線電流の位相差θvと、電圧指令Vと、周波数指令fと、モータ8の定数である巻線のインダクタンスL及び抵抗R並びに誘起電圧定数Kとに基づいて、
V/E=sin(θv−θi+θe)/sin(θv−θi)
E=K・f
θv=tan−1(2πfL/R)
の関係式から誘起電圧位相差θeを演算するようにした。
【0053】
従って、位相差θvは、周波数指令fと、ブラシレスモータの定数である巻線のインダクタンスL,抵抗R及び誘起電圧定数Kとから第3式の近似式(9)式を用いて演算され、誘起電圧位相差θeは、位相差θvが得られることによって第1式から求めることができる。
【0054】
加えて、本実施例によれば、周波数指令決定手部13を、電流位相差θiと誘起電圧位相差θeとの大小関係の比較結果に応じて、周波数指令値feを増減させるようにしたので、電流位相差θiと誘起電圧位相差θeとが等しくなる様に通電信号を出力させて、巻線電流と誘起電圧とを同相とすることによってモータ8を最大効率で駆動することができる。
【0055】
図10は本発明の第2実施例を示すものであり、第1実施例と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、以下異なる部分についてのみ説明する。第2実施例では、インバータ主回路7に代えて、インバータ主回路7の負側のトランジスタT4,T5,T6の代わりに、電流検出機能を有したMOS形でnチャネルのFET(例えば商品名IRC840)21(負側スイッチング素子,図10ではU相のみ示す)によって構成されたインバータ主回路22が配置されている。このFET21の電流検出端子には、自身に流れるソース電流に比例した検出電流が流れるようになっている。
【0056】
FET21の電流検出端子と直流母線6bとの間には、抵抗23が介挿されている。そして、FET21の電流検出端子と抵抗23との共通接続点はコンパレータ19uの非反転入力端子に接続され、抵抗23と直流母線6bとの共通接続点はコンパレータ19uの反転入力端子に接続されている。その他は第1実施例と同様の構成である。以上、抵抗23,コンパレータ19u,ラッチ回路20uにより電流極性検出回路(電流位相差検出手段,電流極性検出手段)24uを構成している。尚、V及びW相についても、電流極性検出回路が全く同様に構成されている。
【0057】
次に、第2実施例の作用について説明する。抵抗23には、U相電流iuの極性が負の場合に、FET21のソース電流Isoに比例した検出電流Ideが流れる。すると、コンパレータ19uの非反転入力端子の電位は反転入力端子の電位よりも高くなり、コンパレータ19uの出力信号は、ゲート信号Gunがハイレベルとなるのに伴ってハイレベルとなる。また、U相電流iuの極性が正の場合、検出電流Ideは流れないので、コンパレータ19uの出力信号は常にローレベルとなる。よって、以降の回路の動作は第2実施例と同様であり、コンパレータ19uの出力信号及び極性検出信号Suのタイミングチャートは、図5(e)及び(f)と同様となる。
【0058】
以上のように第2実施例によれば、電流極性検出回路24uは、FET21の電流検出端子と直流母線6bとの間に介挿した抵抗23及びコンパレータ19uによってFET21に流れるソース電流Isoを検出して相電流iuの極性を判定するようにしたので、第1実施例と同様の効果が得られる。
【0059】
図11及び図12は本発明の第3実施例を示すものであり、第1実施例と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、以下異なる部分のみ説明する。第3実施例では、電流極性検出回路(電流位相差検出手段,電流極性検出手段)25uは、第1実施例における電流極性検出回路17uの代わりにインバータ主回路7のトランジスタT4側に設けられている。
【0060】
抵抗18uの両端に対して、コンパレータ26uの非反転,反転入力端子は第1実施例のコンパレータ19uとは逆に接続されている。また、ネガティブエッジトエリガのラッチ回路20uに代えて、ポジティブエッジトエリガのラッチ回路27uが配置されており、その出力端子Qから極性検出信号Suが出力されるようになっている。その他は第1実施例と同様の構成である。尚、V及びW相についても、電流極性検出回路が全く同様に構成されており、夫々極性検出信号Sv及びSwを出力するようになっている。
【0061】
次に、第3実施例の作用について図12をも参照して説明する。U相電流iuの極性が負の場合、抵抗18uに流れる電流iunは、コンパレータ26uの反転入力端子の電位が非反転入力端子の電位よりも高くなる方向に流れる(図12(d)参照)。よって、コンパレータ26uの出力信号は常にローレベルとなる(図12(g)参照)。
【0062】
また、U相電流iuの極性が正でトランジスタT1がオフの場合、電流iupは、図11に示すように、ダイオードD4の順方向、即ち、コンパレータ26uの非反転入力端子の電位が高くなる方向に流れるので、コンパレータ26uの出力信号は駆動信号Dunがハイレベルとなる(ダイオードD4に順方向電流が流れる)のに伴ってハイレベルとなる。
【0063】
そして、ラッチ回路27uの出力端子Qは、コンパレータ26uから与えられる信号を、ゲート信号Gunの立上りでラッチして出力するので、極性検出信号Suは、U相電流iuの極性が負の場合はローレベル,正の場合はハイレベルの信号となる(図12(h)参照)。尚、V及びW相についても電流極性検出回路は全く同様に作用する。
【0064】
以上のように第3実施例によれば、電流極性検出回路25uは、抵抗18u及びコンパレータ26uによって、トランジスタT1のオフタイミングにおいてダイオードD4に流れる順方向電流を検出することにより相電流iuの極性を判定するようにしたので、第1実施例と同様の効果が得られる。
【0065】
図13は本発明の第4実施例を示すものであり、第3実施例と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、以下異なる部分のみ説明する。U相に関する電流極性検出回路(電流位相差検出手段,電流極性検出手段)28uの電気的構成を示す図13においては、抵抗18uは除かれており、コンパレータ29uの非反転入力端子はトランジスタT4のエミッタに接続され、反転入力端子は抵抗30を介してトランジスタT4のコレクタ(出力端子7u)に接続されている。また、コンパレータ29uの非反転,反転入力端子間には、抵抗31が接続されている。その他は第3実施例と同様の構成である。
【0066】
次に、第4実施例の作用について説明する。U相電流iuの極性が負でトランジスタT4がオンの場合、コンパレータ29uの入力については、出力端子7u,抵抗30,抵抗31,直流母線6bの経路で電流が流れるので、反転入力端子の電位が高く、コンパレータ29uの出力信号はローレベルである。
【0067】
そして、U相電流iuの極性が正でトランジスタT1がオフの場合にダイオードD4に順方向電流が流れる時は、上記の場合とは逆に、直流母線6b,抵抗31,抵抗30,出力端子7uの経路で電流が流れるので、非反転入力端子の電位が高く、コンパレータ29uの出力信号はハイレベルとなる。
【0068】
従って、信号のタイミングチャートは、第3実施例の図12(f)〜(h)と同様となって、トランジスタT1のオフタイミングにおいてダイオードD4に流れる順方向電流を検出することにより相電流iuの極性を検出することになるので、第1実施例と同様の効果が得られる。
【0069】
尚、上記第1乃至第4実施例においては、電流極性検出信号Suは、ゲート信号Gunの立下がり若しくは立上がりに同期して出力されるため、電流の真のゼロクロス点とは最大でPWM信号の周期分だけタイミングにずれが生じるが、PWM信号の周期は各相電流iuの周期に比して十分短いため動作に影響はない。
【0070】
本発明は、上記し且つ図面に記載した実施例にのみ限定されるものではなく、以下のような変形または拡張が可能である。
誘起電圧位相差演算手段は、数式に基づいた演算や近似式による演算で求めるものに限らず、例えば電流位相差θi,電圧指令V,周波数指令fをパラメータとして予め演算した結果をデータテーブルとして記憶させておき、それを読出して得るようにしても良い。
モータ8の定数であるリアクタンスL,抵抗R,誘起電圧定数Kを固定値とせず、周囲温度などに応じて補正するようにするのが好ましい。斯様にすれば、精度をより高めることができる。
【0071】
周波数指令決定手段における周波数指令feの決定は、(7)式によるものに限らず、例えば、周波数指令feの変化量を、直前の周波数指令fや電圧指令Vに応じて変えるようにしても良い。
電流極性検出回路17を三相分設けて、電流位相差検出部15,誘起電圧位相差演算部11,周波数指令決定部13における処理を1電気周期に6回、即ち電気角60度毎に実行させるようにしたが、モータや負荷の慣性に応じて処理回数を減らしても良い。また、周波数の高低に応じて処理回数を変化させても良い。モータ8の始動時において、モータ8に直流励磁を行ってロータの位置決めを行った後、始動制御部9によって電圧指令Vと周波数指令fsとを与えるようにすれば、始動時におけるモータ8の振動を低減させることができる。
【0072】
駆動回路16と電流極性検出回路17とをワンチップICとして構成しても良い。また、更に、インバータ主回路7を加えてワンチップICを構成しても良い。斯様に構成すれば、部品点数を削減できると共にインバータ装置を小形化することができる。
抵抗18uに代えて、図14に示すように、互いに逆並列接続したダイオード33,34を用いても良い。
正側のトランジスタT1乃至T3の側に、電流極性検出手段を設けても良い。第1乃至第4実施例において、ラッチ回路20u若しくはラッチ回路27uのクロック入力端子ckに与える信号は、ゲート信号Gun,Gvn及びGwnに限らず、駆動信号Dun,Dvn及びDwnなどトランジスタT4のオン,オフタイミングを得られる信号であれば何でも良い。
通電信号形成部10のレベルデータは、正弦波に応じた電圧率に限ること無く、モータ8のトルク変動を減少させる波形に応じた電圧率であれば適宜変更して良い。
【0073】
【発明の効果】
本発明は以上説明した通りであるので、以下の効果を奏する。
請求項1記載のインバータ装置によれば、インバータ主回路の出力電圧に対するブラシレスモータの巻線電流の位相差が検出され、その電流位相差に基づいて前記出力電圧に対するブラシレスモータの誘起電圧の位相差が演算される。そして、これらの誘起電圧位相差と電流位相差とから周波数指令が決定されると、その周波数指令と電圧指令とに基づき通電信号が作成され、インバータ主回路は、その通電信号に基づいてブラシレスモータの巻線に電圧を出力する。従って、通電信号を作成するためにホールICなどのセンサを用いてロータの位置信号を得ずとも、電流位相差と誘起電圧位相差とから周波数指令が決定されるので、ブラシレスモータの巻線に適切な、例えば正弦波に基づいた振幅の電圧を印加して駆動することが可能となり、配線数を削減した上で電動機を低振動且つ高効率で駆動することができる。
【0074】
請求項2乃至4記載のインバータ装置によれば、巻線電流の極性と通電信号とに基づいて電流位相差を検出するようにし(請求項2)、具体的には、正側若しくは負側スイッチング素子のオンタイミングにおいて正側若しくは負側スイッチング素子に流れる電流の有無を検出することにより(請求項3)、また、正側若しくは負側スイッチング素子のオフタイミングにおいて対を成す負側若しくは正側スイッチング素子に並列に接続されたダイオードに流れる電流の有無を検出することにより(請求項4)、電流の極性を検出するようにしたので、巻線電流の電流値を直接検出せずとも、巻線電流の極性と通電信号とから容易に電流位相差を検出することができる。
【0075】
請求項5または6記載のインバータ装置によれば、電流位相差と、巻線の両端に印加される電圧に対する巻線電流の位相差と、電圧指令と、周波数指令と、ブラシレスモータの定数とに基づいて誘起電圧位相差を演算するようにし(請求項5)、具体的には、電流位相差θiと、巻線の両端に印加される電圧に対する巻線電流の位相差θvと、電圧指令Vと、周波数指令fと、ブラシレスモータの定数である巻線のインダクタンスL,巻線の抵抗R及び誘起電圧定数Kとに基づいて、
V/E=sin(θv−θi+θe)/sin(θv−θi)
E=K・f
θv=tan−1(2πfL/R)
の関係式から誘起電圧位相差θeを演算するようにしたので(請求項6)、巻線の両端に印加される電圧に対する巻線電流の位相差θvは、周波数指令fと、ブラシレスモータの定数である巻線のインダクタンスL,抵抗R及び誘起電圧定数Kとから第3式により演算され、誘起電圧位相差θeは、位相差θvが得られることによって第1式から求めることができる。
【0076】
請求項7または8記載のインバータ装置によれば、誘起電圧位相差θeを、前記関係式の近似式により演算を行い(請求項7)、また、前記関係式に基づくデータテーブルから得る(請求項8)ようにしたので、誘起電圧位相差θeをより容易に得ることができる。
【0077】
請求項9記載のインバータ装置によれば、電流位相差と誘起電圧位相差との大小関係の比較結果に応じて周波数指令値を増減させるようにしたので、例えば、電流位相差と誘起電圧位相差とが等しくなる様に通電信号を出力させることができ、巻線電流と誘起電圧とを同相とすることによってブラシレスモータを最大効率で駆動することができる。
【0078】
請求項10記載のインバータ装置によれば、少なくとも負側スイッチング素子の駆動手段と、電流極性検出手段とを1チップICで構成したので、全体を小形に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例を示す電気的構成の機能ブロック図
【図2】電流極性検出回路の詳細な電気的構成を示す図
【図3】始動制御部が出力する電圧指令及び周波数指令を時間関数として示す図
【図4】通電信号形成部が出力する信号波形と電流極性信号との位相関係を示す図
【図5】電流極性検出回路のタイミングチャート
【図6】ブラシレスモータ1相分の等価回路を示す図
【図7】インバータ装置−ブラシレスモータ間の電圧及び電流の位相関係を示す図
【図8】誘起電圧位相差演算部が行う演算において用いられる、電圧位相差θvを周波数fの1次関数として近似したものを示す図
【図9】誘起電圧位相差演算部が行う演算において用いられる、電気角90度分の正弦波のレベルデータを示す図
【図10】本発明の第2実施例を示す図2相当図
【図11】本発明の第3実施例を示す図2相当図
【図12】図5相当図
【図13】本発明の第4実施例を示す図2相当図
【図14】電流極性検出回路の構成の変形を示す図
【符号の説明】
T1乃至T3はトランジスタ(正側スイッチング素子)、T4乃至T6は(負側スイッチング素子)、D1乃至D6はダイオード、6a及び6bは正及び負側直流母線、7はインバータ主回路、7u,7v,7wは出力端子、8はブラシレスモータ、10は通電信号形成部(通電信号形成手段)、11は誘起電圧位相差演算部(誘起電圧位相差演算手段)、13は周波数指令決定部(周波数指令決定手段)、15は電流位相差検出部(電流位相差検出手段)、17,24u,25u,28uは電流極性検出回路(電流位相差検出手段,電流極性検出手段)、21はFET(負側スイッチング素子)を示す。
Claims (10)
- 電圧指令及び周波数指令に基づき通電信号を形成して出力する通電信号形成手段と、正側直流母線と出力端子との間に接続され並列にダイオードを有する正側スイッチング素子及び負側直流母線と出力端子との間に接続され並列にダイオードを有する負側スイッチング素子から構成され、前記通電信号に基づいてブラシレスモータの複数の巻線に電圧を出力するインバータ主回路とを備えたインバータ装置において、
前記インバータ主回路の出力電圧に対する前記巻線に流れる巻線電流の位相差を検出する電流位相差検出手段と、
この電流位相差検出手段が検出する電流位相差に基づいて、前記出力電圧に対する前記ブラシレスモータの誘起電圧の位相差を演算する誘起電圧位相差演算手段と、
この誘起電圧位相差演算手段が演算する誘起電圧位相差と前記電流位相差とに基づいて、前記周波数指令を決定する周波数指令決定手段とを具備したことを特徴とするインバータ装置。 - 前記電流位相差検出手段は、前記巻線電流の極性を検出する電流極性検出手段を備え、
前記巻線電流の極性と前記通電信号とに基づいて前記電流位相差を検出することを特徴とする請求項1記載のインバータ装置。 - 前記電流極性検出手段は、正側若しくは負側スイッチング素子のオンタイミングにおいて正側若しくは負側スイッチング素子に流れる電流の有無を検出することにより電流の極性を検出することを特徴とする請求項2記載のインバータ装置。
- 前記電流極性検出手段は、正側若しくは負側スイッチング素子のオフタイミングにおいて対を成す負側若しくは正側スイッチング素子に並列に接続されたダイオードに流れる電流の有無を検出することにより電流の極性を検出することを特徴とする請求項2記載のインバータ装置。
- 前記誘起電圧位相差演算手段は、前記電流位相差と、前記巻線の両端に印加される電圧に対する前記巻線電流の位相差と、前記電圧指令と、前記周波数指令と、前記ブラシレスモータの定数とに基づいて前記誘起電圧位相差を演算することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載のインバータ装置。
- 前記誘起電圧位相差演算手段は、前記電流位相差θiと、前記巻線の両端に印加される電圧に対する前記巻線電流の位相差θvと、前記電圧指令Vと、前記周波数指令fと、前記ブラシレスモータの定数である前記巻線のインダクタンスL,前記巻線の抵抗R及び誘起電圧定数Kとに基づいて、
V/E=sin(θv−θi+θe)/sin(θv−θi)
E=K・f
θv=tan−1(2πfL/R)
の関係式から前記誘起電圧位相差θeを演算することを特徴とする請求項5記載のインバータ装置。 - 前記誘起電圧位相差演算手段は、前記誘起電圧位相差θeを、前記関係式の近似式により演算を行うことを特徴とする請求項6記載のインバータ装置。
- 前記誘起電圧位相差演算手段は、前記誘起電圧位相差θeを、前記関係式に基づくデータテーブルから得ることを特徴とする請求項6記載のインバータ装置。
- 前記周波数指令決定手段は、前記電流位相差と前記誘起電圧位相差との大小関係の比較結果に応じて、前記周波数指令値を増減させることを特徴とする請求項1乃至8の何れかに記載のインバータ装置。
- 少なくとも前記負側スイッチング素子の駆動手段と、前記電流極性検出手段とを1チップICで構成したことを特徴とする請求項1乃至9の何れかに記載のインバータ装置。
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