JP3801771B2 - 流下液膜式蒸発器用伝熱管 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、管外面に冷媒を流下して管外面に液膜を形成し、冷媒を蒸発させることにより管内を通流する流体との間で熱交換を行う流下液膜式蒸発器用伝熱管に関する。
【0002】
【従来の技術】
吸収式冷温水機等の流下液膜式蒸発器では、伝熱管の外周面に冷媒を流下させて管内を通流する例えば水と前記冷媒との間で熱交換させ、管内の水を冷却している。伝熱管に接触した冷媒は、伝熱管表面を濡れ拡がり、低い圧力で蒸発して伝熱管の伝熱面から熱を奪うことにより、伝熱管内部の水を冷却する。
【0003】
このように、流下液膜式伝熱管においては、管外面に冷媒として例えば純水を散布し、管内に冷水を通流させる。そして、管外面に冷媒の液膜を形成し、この冷媒が蒸発することにより、管内を通流する冷水を冷却する。この場合に、伝熱管の表面に濡れ拡がった冷媒が蒸発する際に、伝熱面から気化熱を奪うため、効率的に管内の水を冷却するためには、伝熱管と冷媒との接触面積、即ち、伝熱面(管外面)の面積を可及的に増大させることが必要である。
【0004】
このような流下液膜式伝熱管として、本願出願人は外面にフィンを多数設けた伝熱管を提案した(特開平7−71889号公報)。この従来の伝熱管は、管外面に管軸方向に直交又は傾斜する方向に延びるフィンを設け、フィンの頂部にフィンに沿って溝部を設けたものであり、更にこのフィンの上半部を区切る切欠部を所定のピッチで設けたものである。前記溝部の両側壁間のなす角度は70乃至150°である。
【0005】
この伝熱管は、冷媒の濡れ拡がり性が優れていると共に、伝熱表面積が大きく、伝熱性能が従前よりも優れているという利点を有する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述の従来の伝熱管においては、所期の目的は達成されたものの、以下に示すように、近時ますます高性能が要求される蒸発器用伝熱管として、その伝熱性能が十分なものではなくなってきた。即ち、この従来の伝熱管は、フィンの長手方向に沿って溝部を設けているので、フィンを長手方向に直交する断面でみると、フィンの上半部がY字状に2分割され、しかもこのフィンの分割角度が70乃至150°である。このため、この分割部分が結果的にフィン間に形成される溝を塞ぐので、フィン間の溝への冷媒の濡れ広がり性が悪く、液膜が厚く形成されてしまい、蒸発性能が低下する。
【0007】
更に、フィンがその長手方向に直交する方向に延びる切欠部で分断されている。そして、この切欠部の深さが前記溝部と同様にフィンの高さに比して浅いため、管軸方向への濡れ拡がり性が十分ではない。このため、液膜が厚く形成され、蒸発性能が低下する。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、冷媒の液膜の蒸発性能が高く、蒸発伝熱性能が優れた流下液膜式蒸発器用伝熱管を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る流下液膜式蒸発器用伝熱管は、管外に滴下された液体が形成する液膜と管内を流れる液体との間の熱交換を促す形状を有する流下液膜式伝熱管において、管内面に凸状に形成され適長間隔で螺旋状に延びるリブと、管外面に形成され適長間隔で螺旋状に延びる凹部と、管外面に形成され螺旋状に配列された複数個の独立した突起と、を有し、前記突起は、その上面が前記管内面の前記リブに整合する領域がリブ間の領域に整合する領域よりも低くなるように凹んでおり、前記管外面の凹部と、前記管内面のリブとが夫々相互に整合する位置に形成されていることを特徴とする。
【0010】
この流下液膜式蒸発器用伝熱管において、前記突起は、例えば、高さが0.20乃至0.40mmの四角錐台状をなすものである。更に、前記突起は、上面と底面との面積比(A)が0.25≦A≦0.40であることが好ましい。更にまた、管軸直交断面から見て、独立した前記突起の上面における凹部のピッチ(P)が5.75≦P≦6.75mmであることが好ましい。更にまた、前記リブの管軸方向となす角度θが40°≦θ≦44°であることが好ましい。更にまた、前記突起の管軸方向のピッチPFが0.89≦PF≦1.12mmであることが好ましい。
【0011】
本発明においては、管外面に例えば四角錘台状の独立した突起が螺旋状に配置されており、この突起の上面は管内面のリブに相当する領域が凹み、高さが高い部分と、低い部分とが存在する。このため、冷媒を散布した際に、高さが高い部分の冷媒が低い部分に表面張力により引き込まれ、突起の高さが高い部分の厚さが薄くなり、蒸発伝熱性能が向上する。また、散布された冷媒が螺旋状に配置された突起の間の領域に沿って流れる際に、管外面に形成された凹部に誘導され、結果的に他の部位に存在する冷媒の厚さが薄くなり、このため、蒸発伝熱性能が向上する。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例について添付の図面を参照して具体的に説明する。図1は本発明の実施例に係る流下液膜式蒸発器用伝熱管の一部を切り欠いて示す斜視図である。図1は管軸方向及び管円周方向に一部の領域を示す。この図に示すように、本実施例の伝熱管1は、管内面に、管軸方向に傾斜する方向、即ち螺旋状に延びる凸状のリブ5が相互間に適長間隔をおいて形成されている。また、管外面には、同様に螺旋状に延びる凹部2が形成されており、この管外面の凹部2と管内面のリブ5とは相互に整合する位置に配置されている。また、管内面のリブ5間の領域は、リブ5に挟まれた凹部4となっており、管外面の凹部2間の領域は凹部2に挟まれた凸部3となっている。
【0013】
そして、管外面には、独立した突起6が螺旋状に点在するように配置されている。この突起6が配置される螺旋の管軸方向に対する傾斜角度は、凹部2の螺旋の管軸方向に対する傾斜角度と異なり、突起6の配列方向と、凹部2の延長方向とは相互に交差するものである。そして、突起6のうち、管外面の凹部2にかかる位置にあるものは、その上面が、凹部2に整合する部分で凹んでいる。このため、この突起6は、その凸部3上の部分7が、凹部2上の部分8よりも高く、部分7と部分8との間に段差が生じている。
【0014】
図2は図1の伝熱管1を管軸方向に直交する方向で切断した断面図である。管円周方向について、凹部2は、凹部2自体として現れたり、突起6の上面の凹み(部分8)として現れる。従って、この凹部2の管円周方向のピッチPは図2の矢印にて示される。なお、このピッチPは突起の上面の包絡線におけるものである。
【0015】
図3は図1の伝熱管1を管軸方向で切断した断面図である。この図3に示すように、螺旋状に延びるリブ5の延長方向が管軸方向に対してなす角度をθとする。このθは管内面において、管軸に平行に延びる線と、リブ5とが交差する角度である。突起の管軸方向のピッチ(PF)は突起の底部の中心位置で表したピッチである。
【0016】
次に、このように構成された本実施例の流下液膜式蒸発器用伝熱管の動作について説明する。この伝熱管1の内部に水を通流させ、管外面に冷媒を流下又は散布する。そうすると、冷媒が管外面に付着して液膜が形成され、低い圧力で冷媒が蒸発し、この蒸発時の気化熱により伝熱管内部を通流する水が冷却される。
【0017】
この場合に、管外面に螺旋状に配列された独立した突起6はその一部で上面が段差を有し、高い部分7と低い部分8とを有する。このため、冷媒を散布したときに高さが高い部分7の冷媒が低い部分8に表面張力により引き込まれ、高い部分7の冷媒の膜厚が薄くなる。また、突起6の底部では、突起間の間隙を伝わって冷媒が流れようとするが、この場合に管外面における内面リブ5に相当する部位が凹んでいて凹部2となっているので、冷媒は凹部2に誘導されて凹部2を流れるようになる。その結果、他部位の冷媒の膜厚が薄くなる。このようにして、管外面の冷媒の膜厚が薄くなる結果、伝熱性能が向上し、冷媒が蒸発しやすくなる。
【0018】
而して、突起6は四角錘台状をなし、その高さは0.20乃至0.40mmであることが好ましい。突起6の高さが0.2mmより低くなると、突起の高い部分と突起間の間隙部との段差が小さくなり、表面張力による引き込まれる冷媒量が少なくなり、突起の高い部分の冷媒の膜厚が厚くなり、性能が低下する。一方、突起6の高さが0.4mmより高くなると、突起の高い部分の冷媒が突起間の間隙部に表面張力により引き込まれ、突起の高い部分の冷媒の膜厚が薄くなるものの、突起間の間隙部に冷媒が引き込まれやすくなり、間隙部の冷媒膜厚が厚くなり、性能が低下する。このため、突起6の高さは0.20乃至0.40mmであることが好ましい。
【0019】
突起6の上面の面積(S1)と下端の輪郭により決まる底面積(S2)との比(A)=S1/S2が0.25乃至0.40であることが好ましい。但し、この面積S1,S2はその面に凹凸を有する場合でも、投影面積である。この面積比Aが0.25未満では、フィン先端部の面積が減少し、突起先端部の冷媒が突起間の間隙に流れ込みやすくなり、突起間の冷媒の膜厚が厚くなり、性能が低下する。一方、面積比(A)が0.40を超える場合、突起6の間隙が相対的に狭くなり、冷媒が濡れ広がらなくなる。このため、面積比(A)は0.25乃至0.40とする。
【0020】
凹部2の管円周方向の突起上面におけるピッチ(P)は5.75乃至6.75mmであることが好ましい。この凹部ピッチ(P)が5.75mm未満では表面張力により冷媒の引き込みがなくなるため、冷媒の膜厚が厚くなり、効果がなくなる。ピッチ(A)が6.75mmを超える場合は、表面張力はあるが凹部が少なくなるため、上述の効果が少なくなる。よって、凹部ピッチ(P)は5.75乃至6.75mmであることが好ましい。
【0021】
凹部2が管軸方向に対してなす角度θは40°乃至44°であることが好ましい。θが40°未満では表面張力により引き込みがなくなるため、液膜が厚くなり、効果がなくなる。一方、θが44°を超える場合は、表面張力はあるものの、凹部が少なくなるため、効果が少なくなる。よって、凹部2が管軸方向に対してなす角度θは40乃至44°であることが好ましい。
【0022】
また、管外表面の突起8の管軸方向のピッチ(PF)は、0.89≦PF≦1.12mmであることが好ましい。ピッチPFが0.89mm未満の場合は、突起間の間隙に冷媒が流れにくくなり、管表面での濡れ拡がりが悪くなって、性能が低下する。ピッチPFが1.12mmを超えると、突起間の間隙に冷媒が流れ込みやすくなり、突起間の冷媒の膜厚が厚くなり、性能が低下する。
【0023】
なお、図1に示す形状の伝熱管は以下のようにして製造することができる。例えば、外径が16mm、肉厚が0.7mmのリン脱酸銅管(JISH3300、C1201−1/2H)を使用して管外面に螺旋状のフィンを管軸方向に一定のピッチにて転造加工し、歯車ディスクにて管周方向に一定のピッチにて押込み、図1のように管外面に螺旋状の独立した突起を形成する。また、管内面には、螺旋状に溝が成形されたマンドレルを配置し、管外面に螺旋状のフィン形状を成形するのと同時に管内面に螺旋状のリブを成形する。これにより、図1に示す形状の伝熱管を製造することができる。
【0024】
なお、原管については、リン脱酸銅に限定されるものではなく、銅合金、アルミニウム合金、鋼材等の種々の材質を使用することができる。また、調質についても、1/2Hに限定されるものではなく、例えば、調質がO材でもよい。
【0025】
【実施例】
次に、上述の数値範囲の効果を実証するための実施例について、本発明の特許請求の範囲請求項4乃至8の範囲から外れる比較例と比較して示す。下記表1は管外面及び内面の形状寸法を示す。
【0026】
【表1】
【0027】
図4はこれらの伝熱管の性能評価試験に供した試験装置を示す。チャンバ9内を仕切り9aにより蒸発器及び吸収器の2室に分割し、各室に伝熱管10を水平にして同数配置し、夫々直列に連結する。なお、仕切り9aの上部は蒸気が通流することができる。そして、一方の蒸発器においては、冷水入口11から伝熱管10内に冷水を導入し、上端部の伝熱管10の冷水出口12からこの冷水を排出する。また、これらの伝熱管10の上方には、冷媒を室内に導入する冷媒入口13が設けられており、この冷媒入口13から冷媒を伝熱管10上に流下するようになっている。また、冷媒ポンプ21はチャンバ内に溜まった冷媒を冷媒出口14から冷媒入口13まで汲み上げるものである。他方、吸収器においては、下端部の伝熱管10に冷却水入口17から冷却水を導入し、上端部の伝熱管10から冷却水出口18を介して冷却水を排出する。そして、これらの伝熱管10の上方には、LiBr水溶液を室内に導入するLiBr水溶液入口15が設けられており、この水溶液入口15から水溶液を伝熱管10上に流下するようになっている。また、チャンバ9の底部に溜まったLiBr水溶液はLiBr水溶液出口16からポンプ22により排出される。なお、チャンバ9にはデジタルマノメータ20とチャンバ内のガスを排出するバルブ19が設けられている。
【0028】
蒸発器において、蒸発することにより伝熱管内を通流する冷水を冷却した冷媒は、その一部が液化してチャンバの底部に溜まり、残部は仕切り9aの上部を介して吸収器内に入る。そして、冷媒は吸収器内の伝熱管10上に流下するLiBr水溶液に吸収される。
【0029】
試験条件は以下のとおりである。
蒸発圧力:6.0mmHg
冷媒散布量:1.00kg/m・分
冷水流速:1.50m/秒(管端部の断面積を基準として設定)
冷水出口温度:7.0℃
管配列:1列×4段(段ピッチ24mm)
パス数:4パス
得られた測定値から下記数式に従って総括伝熱係数K0を算出した。
【0030】
【数1】
K0=Q/(ΔT/A0)
Q=G・Cp・(Tin−Tout)
ΔTm=(Tin−Tout)/ln{(Tin−Te)/(Tout−Te)}
A0=π・D0・L・N
但し、Q:蒸発器の冷凍能力(kcal/時)
G:冷水流量(kg/h)
Cp:冷水比熱(kcal/kg・℃)
Tin:冷水入口温度(℃)
Tout:冷水出口温度(℃)
ΔTm:対数平均温度差(℃)
Te:冷媒蒸発温度(℃)
K0:総括伝熱係数(kcal/m2h℃)
A0:原管部基準管外表面積(m2)
D0:原管部外径(m)
L:チューブ有効長(m)
N:チューブ本数(本)
【0031】
図5はこの数式1から求めた総括伝熱係数と、突起ピッチとの関係を示すグラフ図、図6は総括伝熱係数と、面積比Aとの関係を示すグラフ図、図7は総括伝熱係数と、凹部ピッチPとの関係を示すグラフ図、図8は総括伝熱係数とリブリード角θとの関係を示すグラフ図、図9は総括伝熱係数と突起高さFHとの関係を示すグラフ図である。これらの図5乃至9に示すように、1.0kg/m/分の範囲の冷媒散布量において、実施例の総括伝熱係数が比較例1乃至15の総括伝熱係数より高いものであった。
【0032】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、冷媒の濡れ広がり性が向上し、液膜が薄く形成されることにより、蒸発性能が著しく向上するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例に係る流下液膜式蒸発器用伝熱管の一部を示す斜視図である。
【図2】凹部ピッチ(P)を説明する断面図である。
【図3】リブのリード角を説明する断面図である。
【図4】性能評価装置を示す図である。
【図5】総括伝熱係数と、突起ピッチとの関係を示すグラフ図である。
【図6】総括伝熱係数と、面積比Aとの関係を示すグラフ図である。
【図7】総括伝熱係数と、凹部ピッチPとの関係を示すグラフ図である。
【図8】総括伝熱係数とリブリード角θとの関係を示すグラフ図である。
【図9】総括伝熱係数と突起高さFHとの関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
1:伝熱管
2:凹部
3:凸部
4:凹部
5:リブ
6:突起
7、8:部分
Claims (7)
- 管外に滴下された液体が形成する液膜と管内を流れる液体との間の熱交換を促す形状を有する流下液膜式伝熱管において、管内面に凸状に形成され適長間隔で螺旋状に延びるリブと、管外面に形成され適長間隔で螺旋状に延びる凹部と、管外面に形成され螺旋状に配列された複数個の独立した突起と、を有し、前記突起は、その上面が前記管内面の前記リブに整合する領域がリブ間の領域に整合する領域よりも低くなるように凹んでおり、前記管外面の凹部と、前記管内面のリブとが夫々相互に整合する位置に形成されていることを特徴とする流下液膜式蒸発器用伝熱管。
- 前記突起は、四角錐台状をなすことを特徴とする請求項1に記載の流下液膜式蒸発器用伝熱管。
- 前記突起の高さは、0.20乃至0.40mmであることを特徴とする請求項2に記載の流下液膜式蒸発器用伝熱管。
- 前記突起は、上面と底面との面積比(A)が0.25≦A≦0.40であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の流下液膜式蒸発器用伝熱管。
- 管軸直交断面から見て、独立した前記突起の上面における凹部のピッチ(P)が5.75≦P≦6.75mmであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の流下液膜式蒸発器用伝熱管。
- 前記リブの管軸方向となす角度θが40°≦θ≦44°であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の流下液膜式蒸発器用伝熱管。
- 前記突起の管軸方向のピッチPFが0.89≦PF≦1.12mmであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の流下液膜式蒸発器用伝熱管。
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